経気管支肺生検後の血栓による中枢気道閉塞を
気管支ブロッカーにより予防した 1 例
金岡賢輔
1,2;南 誠剛
1,2;岡田英泰
2;西松佳名子
2;
森泉和則
2,3;井原祥一
1;清水智明
4;小牟田清
1 要約 ━━ 背景.気道出血は気管支鏡検査の主な合併症のひとつである.重篤な場合には厳重な気道確保を要する.症 例.52 歳女性に対し,両側肺野のすりガラス影の精査目的に経気管支肺生検を行ったところ,検査後に重度出血をきた し,止血困難であったため,気管挿管のうえ人工呼吸器管理を開始した.一旦は出血を制御し,呼吸状態の安定を得た が,気管支鏡検査の約 12 時間後に血栓による中枢気道閉塞をきたした.気管支鏡下で血栓を吸引除去したものの,さ らなる血栓による中枢気道閉塞を予防するために気管支ブロッカーを留置した.2 日後に止血を確認のうえ,気管支ブ ロッカーを抜去し,8 日後に抜管に至った.経過中,気道閉塞の再発はなかった.すりガラス影の原因はニューモシス チス肺炎と診断し,スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤とプレドニゾロンの投与により改善し,自宅退院し た.結語.気管支鏡検査により重度の出血をきたした場合,血栓による中枢気道閉塞が原因の換気障害をきたす可能性 があり,気管支ブロッカーがその再発予防に有用であった症例を経験した. (気管支学.2021;43:139-144) 索引用語 ━━ 経気管支肺生検,気道出血,中枢気道閉塞,血栓,気管支ブロッカー緒 言
気管支鏡検査の主な合併症のひとつに出血がある.気 管支鏡を使用した手技の中でも経気管支肺生検(Trans-bronchial lung biopsy:TBLB)の出血リスクは高く,中 等度以上の出血が 1.1∼2.8% に生じるとされる1.気管支 鏡検査中の出血の治療としては,気管支鏡の楔入,冷生 食やアドレナリンの気管内散布などが挙げられるが,こ れらで出血が制御できない場合には陽圧換気やデバイス の挿入が必要となる1.気管支ブロッカーは分離肺換気と 同様,出血の拡大を防止するために用いられるデバイス である2.しかし,血栓による中枢気道閉塞の予防のため に気管支ブロッカーを使用した報告はない.今回,TBLB に伴う出血に起因する血栓形成により中枢気道閉塞をき たしたが,その後,気管支ブロッカーの留置により再発 を防止した 1 例を報告する.症 例
患者:52 歳,女性. 主訴:胸部異常陰影. 既往歴:乳癌. 内服薬:アセトアミノフェン,ノルトリプチリン,ト ラマドール,オランザピン,ランソプラゾール,酪酸菌 製剤,ガバペンチン,ロキソプロフェン,ブロチゾラム, 沈降炭酸カルシウムコレカルシフェロール炭酸マグネシ ウム,六君子湯,芍薬甘草湯,桂枝茯苓丸. 現病歴:7 年前に両側乳癌に対する両側乳房部分切除 術を行い,5 年前から骨転移,肝転移再発に対する薬物療 法中であった.約 2 か月前より 10 次治療として,ゲムシ タビンの投与が開始されていた.自覚症状はないものの, 血液検査で CRP の上昇,胸部 CT で両側肺野の異常陰影 を認めたことから紹介となり,精査目的に入院となった. 入院時現症:体温 37.4℃,脈拍 78 回/分,血圧 148/100 mmHg,SpO2:98%(室内気),呼吸音清,ラ音聴取せず, その他の身体所見に異常を認めなかった. 血液検査所見:CRP が 15.26 mg/dl と高値であったほ か, Hb 8.1 g/dl,血小板数が 66000/μl と低値であった. PT,APTT は正常範囲内であった(Table 1). 1医療法人警和会第二大阪警察病院呼吸器内科;2医療法人警和会大阪警察病院呼吸器内科;3地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪は びきの医療センター肺腫瘍内科;4医療法人警和会大阪警察病院麻酔科. 著者連絡先:南 誠剛,医療法人警和会大阪警察病院呼吸器内科,〒543-0035 大阪府大阪市天王寺区北山町 10-31(e-mail: seigominami@ oph.gr.jp). 受付日:2020 年 8 月 24 日,採択日:2020 年 10 月 14 日. ! 2021 The Japan Society for Respiratory EndoscopyTable 1. Laboratory Data on Admission
Hematology Biochemistry Serology
WBC 3800/μl T-Bil 0.5 mg/dl CRP 15.26 mg/dl
Neutro 83.0% AST 26 U/l
Lymph 11.0% ALT 28 U/l Coagulation
Mono 5.0% BUN 9.3 mg/dl PT 12 sec
Eosino 1.0% Cr 0.65 mg/dl APTT 32.2 sec
RBC 2.55×106/μl Na 142 mEq/l AT-III 102% Hb 8.1 g/dl K 3.7 mEq/l Fibrinogen 742 mg/dl Ht 25.1% Cl 106 mEq/l FDP 7.4μg/dl PLT 66000/μl D-dimer 2.5μg/dl 胸部 X 線所見:両側肺野にすりガラス影が広がって いた. 胸部 CT:全肺野に淡い粒状影,すりガラス影を認め た(Figure 1A). 入院後経過:胸部異常陰影の原因検索のため,第 2 病 日に気管支鏡検査を行った.左 B4において気管支肺胞洗 浄(BAL)を施行し,BAL 液(BALF)97/150 ml を回収 した.引き続き左 B8において TBLB を施行した.なお, B8への楔入 は 困 難 で あ っ た た め,楔 入 し な い 状 態 で TBLB を行った.生検後に多量の出血を認めた.気管支 鏡による圧迫でも止血が得られず,視野が得られなく なった.さらに口腔内に血があふれ出たことから,止血 困難と判断した.左側臥位への体位変換も考慮したが, 患者の体動が激しかったため行えなかった.経気管支鏡 的に内径 8.0 mm の挿管チューブにより経口気管挿管を 行った上で,人工呼吸器管理を開始した.挿管直後は挿 管チューブ内への血液の逆流を認めたが,15 cm H2O の 呼気終末陽圧(PEEP)を設定することで血液の逆流は認 めなくなった.造影 CT で左 B8に浸潤影,両側肺野に淡 いすりガラス影を認め,生検部位からの出血とその吸い 込み像と考えられた(Figure 1B).その後,二相性陽圧換 気(酸素濃度 0.4,低圧相 10 cm H2O,高圧相 18 cm H2O, プレッシャーサポート 8 cm H2O)の人工呼吸器設定で酸 素飽和度は 90% 台後半を維持した.しかし,検査の約 12 時間後に,徐々に酸素飽和度が 90% へ低下し,気道内圧 も上昇し始めた.最高気道内圧はそれまで概ね 18 cm H2O で推移していたが,最終的に 28 cm H2O にまで上昇 した.X 線では肺野に異常はなく,挿管チューブの位置 も適切であった.吸引チューブによる気管内吸引では, 少量の凝血塊を吸引するのみであった.挿管チューブか ら気管支鏡(OLYMPUS BF TYPE 1T260)で観察したと ころ,気管から左右主気管支にかけて多量の凝血塊を認 め,気管・気管支が高度に狭窄していた.気管支鏡で吸 引しながら,気管支鏡ごと抜去して凝血塊を除去した (Figure 2).これにより速やかに酸素飽和度の上昇,気道 内圧の低下を認めた.再度気管内を観察すると,気管か ら右気管支内には血液の付着は認めなかった.しかしな がら,左主気管支から左下葉支にかけて,さらには左上 葉支に鮮血が付着していたため,再度血栓が形成されて, 中枢気道を閉塞させるおそれがあった.血栓の中枢気道 へ の 侵 入 を 予 防 す る た め,気 管 支 鏡(OLYMPUS BF TYPE 3C40)ガイド下に挿管チューブ内に気管支ブロッ カー(COOPDECH Endobronchial Blocker Tube,外径 3.0 mm/長さ 600 mm,Daiken Iki Corporation,Japan)を 挿入し,左主気管支においてカフをふくらませて留置し た.なお,左上葉支にも鮮血が多量に付着していたこと から,左上葉支からの血栓の侵入も防ぐために,左下葉 支ではなく左主気管支に留置することを選択した.第 3 病日に出血の持続の有無を確認するために再度気管支鏡 で観察した.気管支鏡(OLYMPUS BF-MP290F)を挿管 チューブ内の気管支ブロッカーの脇から挿入し,左主気 管支にバルーンが存在することを確認した後,気管支鏡 により観察をしながらデフレーションした.一旦気管支 ブロッカーを引き内腔を観察したところ,左上葉支内に は鮮血の付着は認めなかったものの,下葉支より持続的 な出血があり中枢側に湧き出てくる様子を認めた.その ため,より選択的にブロックするため,気管支ブロッカー を左下葉支に進めて留置した(Figure 3A,3B).また, 第 3 病日の血小板数は 59000/μl であったが,血小板 10 単位を投与し,第 4 病日には血小板 100000/μl に上昇し た.第 4 病日,気管支鏡(OLYMPUS BF-MP290F)で観 察しながら,左下葉支に留置されている気管支ブロッ カーをデフレーションしたところ,暗赤色の液体貯留を 認めたものの,中枢側に湧き出てくる様子はなかったた め,気管支ブロッカーを抜去した.第 9 病日には少量の 凝血塊を認めるのみであり,止血は得られていると判断 した.さらに酸素化能,換気も良好であったことから, 同日人工呼吸器より離脱の上,抜管した.第 8 病日に, 気管支肺胞洗浄液における Pneumocystis jirovecii の PCR が陽性と判明した.細菌培養は陰性で,細胞診では悪性
Figure 1. Chest computed tomography during the clini-cal course. (A) Diffuse ground glass opacities in the bilat-eral lungs before bronchoscopy. (B) New consolidation and ground glass opacities in the left S8 after
bronchosco-py. (C) Improvement of both opacities caused by
Pneumo-cystis pneumonia and bleeding on the 17th hospital day.
Figure 2. The blood clots that were removed from the trachea and main bronchi, which ob-structed the patient s airway.
腫瘍を認めず,TBLB では肺胞への軽度の炎症細胞浸潤 と線維化を認めるのみであった.ニューモシスチス肺炎 と診断の上,スルファメトキサゾール/トリメトプリム (ST)合剤(トリメトプリムとして 960 mg/日)とプレド ニゾロン(PSL)(80 mg/日を 5 日間,40 mg/日を 5 日間, 20 mg/日を 11 日間)の投与を開始した.その後,CRP は徐々に低下した.第 17 病日に撮影した CT では,元々 認めていたすりガラス影,出血による consolidation のい ずれも改善していた(Figure 1C).第 19 病日に ST 合剤, PSL の投与を終了し,第 20 病日に自宅退院となった.経 過中,喀血や呼吸困難を認めることはなかった.退院後, 乳癌に対する化学療法は終了する方針となり,ホスピス に入所し,退院の約 9 か月後に死亡した.
考 察
本症例から,気管支鏡検査に伴う大量気道出血をきた した場合には,血栓による中枢気道閉塞を防止する目的 で,気管支ブロッカーが有用であることが示される. 気管支鏡検査時の出血リスクを上昇させる因子とし て,肺移植後,肺癌,肺高血圧,抗血栓薬服用といった ものが知られている1が,本症例では該当する項目はな かった.BAL は血小板数が 20000/μl 以上であれば合併 症の頻度は上がらないという報告があり3,British Tho-racic Society のガイドラインでも 20000/μl 以上であれ ば施行可能であるとしている4.一方で,TBLB 施行時の 血小板数の基準は定まっていない.血小板減少の複数の 患者に経気管支生検を施行した報告はあるものの5,血小 板減少時の TBLB のデータは乏しい.本症例において は,気管支鏡検査前日の血小板数が 66000/μl と減少して おり,これが重度出血の一因となった可能性はある. 気管切開後の気道出血による血栓形成で気道閉塞をき たした報告は多数あり,遅発性のものとしては,気管切 開の 10 日後の血栓形成の報告がある6.一方で,気管支鏡 検査に伴う出血により,後に血栓を形成し中枢気道の閉 塞に至ったという症例は,我々の検索した限りは報告さ れていない.気道出血をきたした症例の中で,その後に 血栓形成による中枢気道閉塞に至るリスクファクターはFigure 3. (A) A bronchial blocker was placed in the left inferior lobe bronchus on the third day of hospitalization. (B) A chest radiograph shows the bronchial blocker (black arrow) in the left inferior lobe bronchus on the hospital day 3.
明らかではない.しかし,中枢気道からの出血,もしく は末梢気道からの出血であっても,中枢気道まで血液を 認めるような大量の出血時には注意が必要である.本症 例は末梢の出血であったものの,出血量が多く,挿管時 点で中枢気道にまで血液があふれ出ていた.これにより 血栓形成による気道閉塞を引き起こしたと考えられる. 気管内血栓による閉塞のサインとしては,吸気圧の上昇, 換気量の低下がある.胸部 X 線では異常を認めないこと が多いとされ,吸引では少量の血栓しか回収できないこ ともよくある7.よって,診断には気管支鏡による観察が 必要となる.本症例でも X 線では異常はなく,盲目的な 吸引ではほとんど血栓を回収できず,気管支鏡による観 察を行って初めて血栓の存在を確認できた.血栓による 気道閉塞に対する治療としては,生食での洗浄,吸引, 鉗子での除去などが挙げられる.摘出が困難な場合には 硬性鏡の適応となる7.手技自体による出血のリスクを考 慮し,洗浄か吸引をまず行うべきとされる7.本症例では まず吸引を行ったところ,中枢の血栓をすべて除去でき た.気管支鏡検査により重度の出血をきたした場合,一 度止血が得られ呼吸状態が安定したとしても,その後に 血栓による中枢気道の閉塞により換気障害をきたす可能 性があり注意が必要である. 本症例では,出血直後は陽圧換気のみにより出血を抑 制することに成功し,呼吸状態の安定を得たため,分離 肺換気や気管支ブロッカーによる気道確保を行わなかっ た.しかし,血栓による中枢気道閉塞をきたし,血栓を 除去した後に気管支鏡で観察したところ左下葉の出血部 位は完全に止血されているとは言い難く,再度同様の事 態が生じるおそれがあると考えられたため,この時点で 気管支ブロッカーを留置した.気道出血時に出血部位の 隔離のために使用されるデバイスとしては,気管支ブ ロッカーとダブルルーメンチューブがある8.気管支ブ ロ ッ カ ー は ダ ブ ル ル ー メ ン チ ュ ー ブ と 比 較 し,挿 管 チューブを挿入し直す必要がない,下葉を選択的にブ ロックできるという利点があり9,本症例でも気管支ブ ロッカーを選択した.気管支ブロッカーの合併症として は,長期留置により生じる虚血性粘膜障害や閉塞性肺炎 が挙げられる8.26 人の気道出血患者に気管支ブロッ カーを留置した報告では,留置の期間は 15 分から 7 日間 であり,5 日間留置した症例で閉塞性肺炎を生じたが,そ の他の症例では合併症を認めなかった.この報告では 1 日 3 回デフレーションを行うことで,出血の持続の有無 の確認をし,さらに粘膜障害を防止していた2.気管支ブ ロッカーを留置した際には,副作用の発生を予防するた めに,気管支鏡検査により密に観察を行い,止血が得ら れたと思われたタイミングで数日以内に速やかに抜去す ることが肝要である.本症例のように,出血源を完全に コントロールできていない気道出血に対し,気管支ブ ロッカーを留置することで,血栓による致死的な中枢気 道閉塞を予防できる可能性があることが示された.
結 語
TBLB に伴う出血後,一旦呼吸状態の安定が得られる も,血栓により中枢気道閉塞をきたしたため,気管支鏡 下に血栓除去を行い,気管支ブロッカーの留置により再 発を防止した症例を報告した.気管支鏡検査により重度 の出血をきたした場合,血栓による中枢気道閉塞が原因 の換気障害をきたす可能性があり,気管支ブロッカーは その予防に有用であった. 本論文に関連する開示すべき利益相反関係にある企業等はない.
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Prophylactic Bronchial Blocker Use for Central Airway Obstruction
Caused by Massive Bleeding and Blood Clots
After Transbronchial Lung Biopsy:
a Case Report
Kensuke Kanaoka
1,2; Seigo Minami
1,2; Hideyasu Okada
2; Kanako Nishimatsu
2;
Kazunori Moriizumi
2,3; Shoichi Ihara
1; Tomoaki Shimizu
4; Kiyoshi Komuta
1ABSTRACT━━ Background. Bleeding is one of the major complications of bronchoscopy, and sometimes requires
intensive airway protection. Case. A 52-year-old woman underwent a transbronchial lung biopsy for bilateral ground glass opacities. The biopsy induced severe bleeding, and hemostasis could not be achieved by bronchoscopy. We therefore performed intubation and initiated mechanical ventilation. Although we temporarily succeeded in control-ling the bleeding and stabilizing the patient s respiratory condition, blood clots suddenly obstructed the airway twelve hours after bronchoscopy. We extracted the blood clots by bronchoscopic suctioning. We then placed a bron-chial blocker to prevent repeated incidences. Two days later, we confirmed hemostasis and removed the bronbron-chial blocker. The patient was extubated eight days later. The patient did not experience recurrence of airway obstruc-tion by blood clots thereafter. We considered the ground glass opacities had been caused by Pneumocystis pneumonia. Her condition improved on treatment with sulfamethoxazole/trimethoprim and prednisolone, and she was subse-quently discharged. Conclusion. When severe bleeding occurs during bronchoscopy, the patient should be carefully examined for blood clots and central airway obstruction. A bronchial blocker may be useful for preventing recur-rence in such cases.
(JJSRE. 2021;43:139-144)
KEY WORDS━━ Transbronchial lung biopsy, Airway bleeding, Central airway obstruction, Blood clot, Bronchial
blocker
1Department of Respiratory Medicine, Daini Osaka Police Hospital, Japan;2Department of Respiratory Medicine, Osaka Police Hospital,
Japan;3Department of Thoracic Oncology, Osaka Prefectural Hospital Organization, Osaka Habikino Medical Center, Japan;4Department
of Anesthesiology, Osaka Police Hospital, Japan.
Correspondence: Seigo Minami, Department of Respiratory Medicine, Osaka Police Hospital, 10-31 Kitayama-cho, Tennoji-ku, Osaka-city, Osaka 543-0035, Japan (e-mail: [email protected]).