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地域女性史とオーラル・ヒストリー その展開と保存の可能性をめぐって

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地域女性史とオーラル・ヒストリー

―その展開と保存の可能性をめぐって―

The

O

ral History of Local Women in Japan

─ How to Preserve the Collected Documents ─

宮 﨑 黎 子

MIYAZAKI Reiko

キーワード:聞き書き資料、史資料保存、公的機関

1.はじめに:女性史資料保存の必要性と現状

女性は、これまでの歴史で政治や経済の中心に関わってこなかった。そのため、女性に関する 資料は極めて少なく、資料を集めるのは至難の業で、営々と地道な努力が積み重ねられてきた。 ようやく手に入った資料を保存し、かつ公開して後世の学習者や研究者に残したいとの思いは関 わった者たちに共通した思いである。 また、少ない文書資料を埋める手段の一つとして、聞き書きが行われてきたので、膨大な音声 資料(テープ)が各地に残されていると思われる。現状では残念ながら、それら資料の保存措置 が講じられず、埋もれ、散逸している。さらに、それら資料の劣化の問題も大きいと思われる。 これまでの動きについて、私自身の体験も含めて振り返ってみたい。

2.『葦笛のうた―足立・女の歴史』

(ドメス出版・1989 年9月刊行)

に関わって

約 30 年前、『葦笛のうた―足立・女の歴史』の出版に際して、区民 20 人による聞き取りと文 書資料調査が行われ、聞き取り対象者・協力者は 340 人を超えた。区市町村レベルでは初めて の試みだったが、調査者・執筆者はほとんど予備知識のない区民で、私もその一人だった。 4年がかりで本になった後、ほとんどのメンバーはそれまでの調査資料、聞き取りのテープな ども処分してしまった。当時は地域の女性史研究グループの人たちの認識もおおかたはこのよう なものだったと思われる。 私自身何年かたってから、資料保存の重要性に気づき、当時の女性センターの情報資料室に交 渉し、資料を保管してもらっている。ただし、行われているのは保管のみで、公開の手だては講 じられていない。

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3.

「史の会」

(代表江刺昭子)

の資料保存に関する活動から

(『地域女性史のアーカイブス設置を求めて』) 1998 年、「第 7 回全国女性史研究交流のつどい in 神奈川」で、資料保存の最初のアピールを 出したことをきっかけに活動を開始した。アーカイブズ設置を求めて、神奈川県立かながわ女性 センター(以下、女性センター)との粘り強い交渉を続けた。そのもとになったのは、「つどい」 の地域女性史分科会で自治体が関わった地域女性史資料が当局によって、廃棄、紛失された事例 が多数報告されたことがきっかけだった。要請を受けた女性センターは、当初資料の受け入れに 応じるとの返事で、その前提として、①県の女性史資料に限る、②センター図書館の整理システ ムに合わせて資料を整理し、目録を作り、パソコンで検索できるようにする、③作業はすべてボ ランティアでやるという三つの条件を出した。 2001 年、それを受け、資料のカード化、ファイル化を約半年かけて作業した。さらに資料引 き渡しに当たって、資料ごとの事情説明、リストと資料の対応を明確にするよう、要望され、対 応し、図書館に引き渡した。 2002 年、県議会で女性センターの移転問題が浮上した結果、県は移転先を探るとともに、事 業を縮小する方向に向かい、10 万冊の蔵書を 3 万冊まで減らす方針が提示された。そのため、 反対運動を起こし、署名を集め、陳情することになった。 2015 年、横浜市西区の県立図書館の新館地下と1階に「女性関連資料室」がオープンした。「女 たちの現い在まを問う会」、「史の会」の資料も保存・公開される約束だったが、「史の会」の資料は 段ボールに入ったまま、地下の閉架書庫に置かれたままである。 2016 年、県立図書館から藤沢市の男女共同参画センターに再移管されたが、行政文書として 保存されるため、5年期限で処分されることが危惧される。移管先では、研究者から要求があれ ば「柔軟に応じる」という限定公開で、一般公開ではない。 (付1)東京都千代田区の場合 2000 年3月、『千代田区女性史』(全3巻)が刊行された。編纂に用いた資料を整理し、目録 化して千代田区男女共同参画センターMIWに保管が決まり、図書室開架棚に収められた。 ところが、2008 年、センターの移転に伴い、引き取り要請があり、資料を受け入れた。 (付2)東京都中央区の場合 2007 年3月、『中央区女性史―いくつもの橋を渡って』(全2巻)が刊行された。同区に文字 資料と聞き書きのテープの保存公開を要請したが、文字資料はダンボールに入ったまま、中央区 女性センターが所蔵している。音声テープは中央区郷土資料館がいったんは引き受けて保存公開 することを検討したが、話者の了解の問題などをクリアするのが難しいということで、棚上げに なっている。

4. 東京都杉並区の場合

(2010 年オーラル・ヒストリー総合研究会例会報告「史資 料保存と公開(活用)の現状と可能性」での石崎昇子・事例報告から)

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特 集 2 杉並区女性史編纂の会編『杉並の女性史』(ぎょうせい・2002 年 10 月刊)の刊行後、聞き取 りテープ約 100 本とそのベタ起こし、テープ標題リスト、話者住所録を、湿度・温度など保存 環境を考慮して、オーディオ装置などの整う区立郷土博物館に寄託した。その際にとり決めたこ とは、以下の通りである。  1  話者は、女性史編纂のために話してくれた。事前の許諾なく、公開することに反対があり、 テープを処分したほうがいいという意見もあったが、本人に了解を得ることを前提に聞き たい人が現れた時に公開可とした。  2  聞き取り資料を公的機関に保管すると自分たちが使いづらくなるという懸念があり、復刻 版をつくり、会の利便を図ることにした。  3  編纂会の聞き手の方に資料公開への不安があることが、今後の課題である。また、「テープ」 の資料としての貴重さを編纂委員が確認する必要があり、話者からは、事前に「保存公開 許諾」を得る方法を具体化することなどが課題として挙げられている。

5. 2010 年の「第 11 回全国女性史研究交流のつどい」における分科会「資

料保存・公開・活用など」で報告された実態調査

(2009 年 9 月~ 11 月調査) • アンケート配付数 350 件のうち、回答数 30 件(うち自主グループ 16 件、自治体と関わった グル-プ 14 件)。 ① 聞き取りの録音テープ・テープ起こし原稿:テープ 1553 本(899 人分) ② 保管場所:代表者宅 8、個人宅 9、公的な場所 14、保管せず 1 ③ 録音テープ、テープ起こし原稿の所有権は?    自主的なグループではグル-プが 13、自治体 6、聞き取りをした人 4、   話者・自治体・編纂者が 3 分の 1 ずつ 1、確定せず 2、元代表者 1 ④ 録音テープのリスト、テープ起こし原稿の要約の作成   テープあり 17、 テープなし 12   原稿の要約あり 18、要約なし 11 ⑤ 公開について    非公開 13、公開7、未定 3、当事者の許可を得て刊行3、 当事者から許可を得ていない 1、要望があれば考える 1 ⑥ 自治体と協力して出版した場合、資料保存について自治体の考えは?   自治体と関わっていない 6、自治体が保存 9 アンケート調査の回収率の低さをみても、当事者自身の関心の低さがうかがえ、回答内容も、 同様の現状が浮かび上がっている。

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6. イギリスの歴史資料の保存・公開

(2010 年のオーラル・ヒストリー総合研究 会例会における酒井順子の報告「史資料保存と公開(活用)の現状と可能性」から) ① ナショナルアーカイブ(英国最大の国立公文書館) 中世の土地台帳から今日の政府資料まで約 1100 万の歴史資料を収蔵。文書資料、写真、 ポスター、地図、デッサン、絵画からデジタル資料まで収蔵されており、成人であれば、 誰でも(外国人も)利用できる。 ② ブリティッシュ・ライブラリー 18 世紀のジョージ8世のコレクションから発展し、希覯本や英国内で出版された本を収 蔵。当館のナショナル・ライフ・ストーリー・コレクションには、女性、労働者、移民、 ホロコースト経験者、産業界の人々のライフ・ストーリーが収集され、カタログ化が進め られている。 ③ 地域の公文書館、大学図書館、専門図書館 地域の公文書館、帝国戦争博物館もインタビューによるライフストーリーを収集し、書き 起こしとテープ、CDの保存を進めている。こうした資料を利用する人々は学生、研究者、 作家、ドラマ制作者、俳優などである(俳優は役作りの参考としているという話を聞いた)。 1) これら文書資料、統計資料(19 世紀半ばから実施の国勢調査を含む)などがオ ンライン化され、より多くの人が利用しやすくなっている。 2) 保存を意図しなかった質的研究資料についても、プライバシーを守るための条件 を設定して、保存する作業がUKデータアーカイブなどを中心に進められている。 3) 英国の特徴としては、官僚主導で行われてきたわけではなく、民間主導であるこ とが挙げられる。オーラル・ヒストリー協会のロブ・パークス氏のような、口述 資料も貴重な歴史資料として、後世に伝えていく責任があると考えた人々が個人 的努力によってアーカイブの基礎をつくり、周囲の人を説得して今日にいたって いる。 4) 英国のオーラル・ヒストリー研究者は、自らのインタビューを一定の条件のもと にアーカイブに寄贈し、論文や著書ではそのカタログ番号を記載して、文書資料 と同様に口述資料を引用している。

7.おわりに:今後の課題と可能性

1998 年から全国女性史研究交流のつどい(以下「つどい」)開催のつど、全国の自治体に資 料の保存・公開要望のアピールがなされてきた。2015 年の岩手の「つどい」まで、6次に及ぶ。 国立女性教育会館(NWEC)にも届けられてきた。NWECこそ、全国の女性史の資料を保存・ 公開するのに最もふさわしいとの考えからである。ところが、NWECからもたらされた回答は、 地域の資料は当該地域で保存・公開するのが最も望ましいというものだった。 2007 年、NWE C にアーカイブセンターが開設された。その内容については、2010 年に東 京で開催された「つどい」でNWEC職員の市村櫻子の報告により知ることができた。センター

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特 集 2 の目的は、男女共同参画社会の形成に顕著な業績を残した女性、全国的な女性団体や女性教育・ 男女共同参画施策等に関する史・資料を収集、整理・保存するとともに広く活用し、関係機関な どとの連携・協力を図り、男女共同参画の推進に関する啓発、学習・研究支援などを行うことに ある。また、受け入れた資料は整理して、劣化が進まないように中性紙の保存箱に入れ、アーカ イブ専用の保存庫に収納し、目録情報をデータベースに入力する。資料はいつでも、どこでも、 誰でもが利用できるよう、インターネットを通じ、女性デジタルアーカイブシステムとして全世 界に発信しているというものだった。 このシステムの有用性はわかるものの、これまで私たちがNWECに要望してきたものとは まったく異なるものとなっている。もっとも大きな違いは、このセンターの収集する資料が「顕 著な業績を残した女性」「全国的な」との枠が設けられたことである。各団体、機関とのネットワー キングも視野に入っていることはうかがえる。ただし、担当職員は5人、アーカイブ専門員がい ない中で、スタッフの努力と奮闘で運営している状況も報告された。 そういう状況を踏まえ、私たちにできることは何かを考える必要がある。それは、第一に、個 人が持っている資料を点検・整理すること、第二に、所属する団体・個人にも呼びかけて再点検 すること、第三に、その資料の保存・公開を念頭に目録をつくること、第四に、それぞれの地域 の自治体の関係機関に保存について打診することである。同時に、公開の可能性を前提に、著作 権やプライバシーの問題について、個別に解決しておくことも欠かせない。この点については、 以前の資料やテープ音声は、とくに事前に承諾を得ていない場合も多かったので、この問題をど うクリアできるか、難しい問題になると思われる。調査対象者のプライバシーに関わること、ま た感情、苦悩、葛藤など吐露されたものは、無条件で公開することはできないのは確かであり、 著作権、プライバシーの問題は、専門的な知識も必要になると思われる。 また、一次資料は少なく、コピーが多いのも重要視されない要因のひとつであると思われる。 しかし資料収集の困難さを思う時、一定のテーマに沿って収集された資料がまとまってあること の意味は大きい。それにもかかわらず、一定の基準が定まっていないのも問題であり、この点に ついても、合意形成に向けて、当事者、関係者は研修する必要があると思う。また紙媒体は劣化 の問題があり、デジタル化が趨勢となっているが、デジタル化にともなう問題については、ほと んどわかっていないのが現状である。 かつて、イギリスの恵まれた歴史的背景と現状を酒井順子報告によって知り、羨ましく思った が、アーカイブは、民間人が私費でつくったのが始まりと聞いて、彼我の差を嘆いている場合で はないと思いなおしている。私たちは公的機関との連携も視野に入れつつ、本来は私たち自身が 自力でアーカイブズを作るというのが基本でもあり、保存・公開への道筋づくりについて連携し て、困難をひとつずつ解決しながら、進めて行くしかないように感じている。 (みやざき れいこ,オーラル・ヒストリー総合研究会代表)

参照

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