東海大学付属図書館・桃園文庫蔵〔古今集略抄〕(
為重注)翻刻
著者
伊倉 史人
雑誌名
鶴見大学紀要. 第1部, 日本語・日本文学編
号
52
ページ
269-291
発行年
2015-03
URL
http://doi.org/10.24791/00000229
Creative Commons : 表示 http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/deed.ja東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵為重注︶翻刻 二六九 ここに、 東海大学付属図書館 ・ 桃園文庫蔵 ︹古今集略抄︺ ︵桃 ・ 二六 ・ 四七︶を翻刻紹介する。 本書は、応安三年︵一三七〇︶の二条為重の奥書を有する ことから、従来は為重による﹃古今和歌集﹄の注釈と見なさ れていた伝本である 。しかしながら 、近時 ﹁兼好注﹂ ︵大阪 青山歴史文学博物館蔵 ﹁古今和歌集﹂ ︵外題︶ ︶、と同内容で あることが判明 、そ の点について稿者が比較検討したところ、 両注は為重乃至兼好の著作ではなく、先行して成立した、お そらくは二条家内部の者︵為重従兄為定が候補者の一人︶に よる注釈書の転写本であろうと推定するに至った。なお、そ の詳細については﹁為重注と兼好注 ― 南北朝期の二つの古 今集注釈書の関係について ― ﹂︵ ﹃和歌文学研究﹄ 第一〇九号 ・ 平成二六年一二月︶を参照されたい 。 ︹書誌︺ 綴葉装 、一帖 。後補茶色地青海波文繍裂表紙 ︵ 二五 ・ 〇 × 一七 ・ 一糎︶ 。外題、内題はともになく、桃園文庫の目録書名 の︹古今集略抄︺は付属する極札︵後掲︶に由来する。見返 し、銀切箔散。遊紙、前一丁、後二丁。料紙、斐紙。毎半葉 一〇行 。字面高さ 、約二二 ・ 六 糎 。 墨付き二六丁 、もとは四 折であったが 、改装時に錯簡が生じ ︵ 1 ∼ 7 ・ 11・8 ∼ 10・ 15・ 17∼ 18・ 16・ 12∼ 14・ 19∼ 26と丁を正すことができる︶ 、 現状は六折になっている。同筆の書入あり。また語句に付さ れた墨の傍訓にところどころ朱濁点が付されているが、後人 によるものと思われる。最終丁に﹁應安三年九月廿九日書写 之 一校了/羽林郎将藤 ︵花押︶ ﹂と奥書する 。その筆跡及 び花押は、現存する為重真筆資料の筆跡 、花押に一致し、疑 いなく為重書写本と言うことができる 。﹁ 羽林郎将﹂は近衛
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺
︵為重注︶
翻刻
伊
倉
史
人
二七〇 中将・少将の唐名、詳しくは前掲拙稿に譲るが、応安三年時 点で為重︵正中二年︿一三二五﹀生︶は四六歳、左近衛権中 将であったことが確認される。 本書には極札が二種が付属し、それぞれ為重の筆跡と極め る 。 一つは古筆二代了栄による極で 、表に ﹁ 二條家為重 古今集略抄 奥御判有 一冊 ︹琴山︺ ︵墨印︶ ﹂、 裏に ﹁古今集略抄 墨付廿六枚 奥ニ御判有 四半本一冊 未 八︹栄 ・墨印︺ ﹂と記す 。もう一つは二代畠山牛 庵によるもので 、﹁古今集略抄 二条家為重 ︹ 牛庵︺ ︵瓢箪 形朱印︶ ﹂と見える ︵裏書なし︶ 。後誂えの桐箱の蓋にも ﹁二 條家為重古今集略抄﹂と記されているが、これは極札を踏 まえたものか。その他、伝来を示す蔵書印等はなく、巻末に ﹁月明荘﹂の朱印を捺す のみである。 ︹凡例︺ 翻刻に際しては、以下の措置を施した。 一 底本の錯簡は、これを正しい順に改めた。 一 漢字、假名ともに通行の字体に改めたが、 ﹁哥﹂ ﹁國﹂等 の若干の異体字は保存した。 一 假名遣い、送り假名は、底本通りとした。 一 読解の便を考え、私に句点を付した。 一 朱の書入は、ゴシック体で示したが、語句に付された傍 訓︵本文同筆︶に差す朱濁点︵別筆︶については書体を 変えることはしなかった︵すなわち傍訓に濁点がある場 合は、底本では朱濁点が差されていることを意味する︶ 。 一 見せ消ちは本文左に傍線を付して表し、訂正は本文右に 傍記した。 一 誤写、誤脱箇所には︵ママ︶もしくは訂正すべき文字を ︹ ︺に入れて 、本文右傍 ︵一部は左傍︶または本行中 に記した。 一 蟲損等による判読不明箇所には、 入るべき文字を推定し、 ︹ ︺内に記した。 一 底本の丁移りは﹂で示し、丁数と表裏を︵ ︶内に略記 した。錯簡箇所については現状の丁数を記した。 一 假名序注には、項目ごとに通し番号を付し、歌注には部 立と﹃新編国歌大観﹄による歌番号を付した。 ︹付記︺ 本書閲覧調査と翻刻掲載を御許可くださった東海大学付属
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵為重注︶翻刻 二七一 図書館には厚く御礼を申し上げる。 ︵注︶ ︵ 1 ︶﹃古今集注釈書伝本書目﹄ ︵慶應義塾大学附属研究所斯 道文庫編 ・ 平成一九年三月 ・ 勉誠出版︶に、転写本三本︵桃 園文庫蔵本 ︵桃 ・二六 ・ 一 九 、本書とは別本︶ ・公益財団法人阪 本龍門文庫蔵本 ︵七五七︶ ・篠山市青山文庫蔵 ︵三五七︶ ︶と ともに﹁為重注﹂として登録される。 ︵ 2 ︶﹁古今和歌集注釈書・伝授書年表︵稿︶ ﹂︵斯道文庫論集 第四十七輯 ・平成二五年三月 ・ 川上新一郎 ・佐々木孝浩 ・ 伊倉史人 ・山本令子 ・ 石神秀美︶の応安三年 ︵一三七〇︶ 九月二九日の ﹁為重注成立﹂の項に 、﹁ *兼好注は為重注 の一本﹂と注記する。 ︵ 3︶拙稿中に本書の引用の誤りがあった 。 22頁﹁ 名 本 そをせ とよむなり﹂は ﹁ 名 本 そをせよ とよむなり﹂ 、 24頁﹁ 居 易 座 右銘﹂は ﹁居易座在銘﹂ ︵傍訓略︶が正しい 。前者につき 、 拙稿では ﹁本ノマゝ ﹂の傍記は為重の無理解によるものと したが 、あってよく 、 稿者の誤り 。但し 、行論自体には問 題ないと考える。 ︵ 4︶筆跡の同定に用いた資料は以下の通り 。冷泉家時雨 亭文庫蔵 ﹃百首愚草 為重詠﹄ ︵文和二年 ︿ 一三五三﹀写 、 奥書に ﹁ 羽林郎将﹂とあるは右少将か ・ 冷泉家時雨亭叢書 ﹃為家詠草集﹄所収︶ 。センチュリー文化財団蔵 ﹁詠三首 和歌﹂ 懐紙 ︵署名 ﹁右少将為重﹂ 。同財団オンラインミュー ジアムにて画像を公開︶ 。熱田神宮蔵 ﹃日本書紀﹄紙背 和歌懐紙 ﹁詠三首和歌﹂二紙 ︵永和元年 ︿一三七五﹀一二 月及び同二年三月の懐紙 。それぞれ ﹁従三位為重﹂と ﹁正 三位為重﹂の署名あり 。 冷泉家時雨亭叢書 ﹃為家詠草集﹄ 解題、 ﹃熱田神宮名宝図録﹄ ︿昭和六三年一月﹀ に図版あり︶ 。 宮内庁書陵部蔵 ﹃明題部類抄﹄ ︵ 五〇九 ・ 七︶ 。花押につ いては 、前掲冷泉家時雨亭文庫蔵 ﹃百首愚草 為重詠﹄所 掲の花押と比較した 。但し 、 冷泉家時雨亭叢書の解題を執 筆された佐藤恒雄氏は ﹁ 花押については 、 依るべき確実な 印形を知らず、 為重のものか否か確言することができない﹂ と慎重な態度を取っておられるが 、 本書の花押と一致した ことから、同花押を為重のものとして良いと考える。 ︵ 5︶﹃弘文荘待賈古書目﹄ 第二〇号 ︵昭和二六年六月︶ に ﹁九八 古今和歌集序注 應安三年古寫 二條爲重手寫 一帖﹂ ︵解説略︶と見える。
二七二 ︹翻刻︺ [ 1 ]やまとうたは人の心をたねとしてよろつのことのはとそなれりける 、やまとは日 本国の名 也、 い に し へ 天 地わ かれ泥 湿いまたかはかすして人皆 山にすみける時ゆきかよふあとありけれは、山のあとゝ云を略 して山とゝ云也、う たは心さしをのふることはなり、此国の詞 はいつれもみな哥也、その中に今は長 哥短 哥はかりをうたと云、此序 は先 よろつのやまと 詞 をひろくうたといへるなり、 [ 2 ] 世中にある人ことわさしけき物なれは心におもふことをみるも のきくものにつけていひいたせるなり 、 是 は人のうたよむ 詞 也、 無 二 別 儀 一 、[ 3]はなになくうくひす水にすむか はつのこゑを﹂ ︵ 1オ︶ きけはいきとしいけるものいつれかうたをよまさりける 、これはうくひすかはつをはしめてよ ろつの鳥 獣 いきとしいけるもの皆哥をよむといへる也、其 序 云々、春 の鴬 の花の中に囀 つり燕 雀のうれふるも鸞 鳳 のよろこふも皆 詩 也といへり[ 4 ] ちからをもいれすしてあめつちをうこかし目にみえぬおに神をもあはれとおもは せ男 女のなかをもやはらけたけきものゝふの心をもなくさむるはうたなり、といへり、哥の徳 也、うたにかゝる徳 あ るによりて鬼 神の感 をうこかす事多 し、詩 も又如此、詩 序 曰 天 ┃ 地 動 鬼 神を感 云々、 [ 5 ]このうたあめつちのひら けはしまりける時より﹂ ︵ 1ウ︶ いてきにけり、 今 云 、神 代よりもさきに天地 開 闢 時よりうたはいてきたりと云也、 是はうたのことはり出きたる也 、 哥の詞の出きたるにはあらさるなり 、古 ┃ 注云 、あまのうきはしのしたにてめかみ をかみとなりたまへるうたなりと云々、いさなきのみこと︹と︺は、いさなみのみことみとのまくはひの時の御詞に や 、[ 6 ]しかあれともよにつたはることはひさかたのあめにしてはしたてるひめにはしまり 、 今云 、天地人の哥の おこりを云時天にしてうたよめる事は下照姫 の時にはしまると云事也、古注云、したてるひめとはあめわかみこのめ なり、せうとのかみのかたち、をかたにゝうつりてかゝやくをよめる、えひすうたなるへし、 今 云 、あちすきたか ひこねの﹂ ︵ 2オ︶ かたち二の丘 二の谷 あひにてりかゝやくを 云々、 [ 7 ]あらかねのつちにしてはすさのをのみことよ
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵為重注︶翻刻 二七三 りそおこりける、 今 云 、地にしてうたよむことはすさのをのみことの時よりはしまると云也、出 雲國清 地にてみや つくりし給ふ時、 やくもたついつもやへかき、 このうた、 い つもやへかきのうたは下照姫のうたよりもさきなれとも、 天地の次 第を云に天はさきにいへは、天の哥をさきにかけるなり、哥の前 後にはよらす、只 天地の次 第にかきつらね たり 、[ 8]ちはやふる神代にはうたのもしもさたまらす 、すなほにしてことの心わきかたかりけらし 、今云 、すな ほにしてとは 直 詞 すくなくいへるか、心えかたき歟 、[ 9 ]人の﹂ ︵ 2ウ︶ 世となりてすさのをのみことよりそみ 三十字 そも しあまりひともしはよみける、古注云、すさのをのみことはあまてるおほん神のこのかみ也云々、然者 日 本 記 云 天 照 大 神 、日本記の時 代相 次 月 讀 尊 次 蛭 兒 次 素 盞 嗚 尊 違歟、女とすみたまはんとては、女 奇 稲 田 姫 事 也 とふたり すみ給はんとてなり、今云、人のうたのはしめをいはんとて、人の 世にはすさのをのみことの卅一字のうたを本としてよむといへるなり、すさのをのみことを人の世と云とはおもふへ からす、 あらかねのつちにしてはすさのをのみことよりそおこりけるとて、 このうたのことをいへるに 同 哥 をふたゝ ひいへる事 、 尤 心うへき也 、ちはやふる神世とは 、地神の事也 、真 名序 云 、神の世七代 和哥 未 作 云々 、此七代 は天神也、 ﹂ ︵ 3オ︶ 和 哥いまたおこらさらんには、もしさたまらぬうたもあるへからす、故 にすさのを、下照姫の哥の 出 き て 後 のことな る へ し、 [ 10] か く て そ花を め て と りをうら や み かすみをあは れ ひ 露を か な し ふ 心詞お ほ くさま 〳 〵 になりにける、今云、うたのさま〳〵におほくなりたることを云にや、かすみをあはれひ、つゆをかなしふとはかき たれとも 、あはれみ 、 かなしむと云々 、[ 11]とをき所もいてたつあしもとよりはしまりてとし月をわたりたかき山 もふもとのちりひちよりなりてあま雲たなひくまておひのほれることく此哥もかくのことくなるへし 、 今云 、居 易 座 在銘 云 、 千 里ハ 足 下 始 リ、 高 山ハ微 玄ヨリ 起 云々、 ﹂ ︵ 3ウ︶ 此心か、 [ 12]な 應神天皇御子 には つ の 仁徳天皇 宇治若子御舎弟 同事也 う た はみ か と のおほんはし め な り 、 古 注云、おほさゝきのみこ と、なにはつにてみこときこえける時、東 宮をたかひにゆつりて位につき給はてみ とせになりにけれは、王仁といふ人のいふかり思て云々、東 宮たかひにとは、仁 徳天皇、御舎 弟宇 治若子とあらそひ
二七四 給にや、 いふかりはもし欝 字 歟、 但、 いきとをりとはよめり、 お ほしくなともよめり、 まさしくいふかりといふよみ、 みをよはねとも 、若此字歟 、 推 量 は かり也 、 今 云 、みかとの御はしめとは 、みかとの御位のはしめのことをよめ りと云也 、[ 13]あさか山のことはゝうねめのたはふれよりよみて 、 古注云 、かつらきのおほきみをみちのおくへつ かはしたり﹂ ︵ 4オ︶ けるに、 くにのつかさ事をろそかなりとて云々、 今云、 万 葉集云、 國 司ノ 祗 視 承 緩 怠 異 甚 と云々、 をろそかなりとはをろかなるよしなり、古注云、うねめなりける女のかはらけとりてとは、しやくとりの女のことな り 、前うねへ 、不可然 、[ 14]このふたうたはうたのちゝはゝのやうにてそ手ならふ人のはしめにもしける 、今云 、 いつもやへ雲よりはしめておほくのうたの中にこのふたうたをうたのちゝはゝのやうにといへるは、なにはつのうた は仁 徳天皇の聖 主にて其 徳 すくれたまへる御ことのはしめをよめる哥也、あさか山のうたはかつらきのおほきみのひ かめることをしつめし也 、徳をほむるとひかめるを﹂ ︵ 4ウ︶ とゝむると 、うたの正 意なれはこのふたうたを父 母とい ふ に や、 詩 ノ 正 義 云 、 詩 者 論 シ レ功 ヲ 一 、 頌 一徳之哥 止 レ僻 ヲ 一 防 ク 邪 ヲ 一 之訓云々 、 てならふ人のはしめにとは 、かなの 手本いろはのおくにはなにはつのあさか山のうたをかくことを云也、源 氏の物語のわかむらさきの巻 、なにはつをた にはか〳 〵しうつゝけ侍らされはといへる 、心えあはすへし 、[ 15]そも〳 〵うたのさまむつなり 、かう のうたにも かくそあるへき、今云、からのうたとは詩 也、毛 詩也、 詩 序 曰 、一曰風 、二曰賦 、三曰比 、四曰興 、五曰雅 、六曰 頌 、 [ 16]そのむくさのひとつにはそへうた 、 おほさゝきの御心をそへたてまつれるうた 、 なにはつにさくやこのは な冬こもりいまは春へとさくやこのはな、といへるなるへし、 ﹂ ︵ 5オ︶ 今云、そへうたは風 也、詩 正 義 曰 、 風 の 訓 は 諷 也、 諷 をはそふとよむなり 、 日 本記曰 、 諷哥 、そふと云は 、︹たとへなり 、たとへはかりにて 、その心をあらはさ ぬをは 、 そへうたといふなり 、︺ そへうたといふこと 、 日本記よりをこれるか 、其事をよめりといはさらんにうたの おもてはかりにては其意をしるへからす、是によりて今 六 義の中にそへうたにはおほさゝきの御心をそへたてまつれ
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二七五 るうたとかけるはこの心なり、なにはつにさくやこのはなのうたは、みかとをそへたてまつるといはすはたゝこのは なのうた也、 みかとの御事とはしるへからす、 春 哥 に 、 し かの山こえに女のおほくあへりけるによみてつかはしける、 貫 之、 梓 弓 春の山邊をこえくれは道もさりあへすはなそちりける 、花つみよりかへりける女とも﹂ ︵ 5ウ︶ を見て 、 躬 恒 、とゝむへき物とはなしにはかなくもちるはなことにたくふ心か 、 此 両 首 おもては花のうたなれと 、 実 には女 のことをよめるなり 、か様のうたはみなそへうた也 、[ 17]ふたつにはかそへうた 、 さくはなにおもひつく身のあち きなさみにいたつきのいるもしらすて、といへるなるへし、今云、かそへうたは賦 也、賦 の字 の訓 は 量 也、量の 訓 は 䝖 也 、かそふるははからふなり 、世 中の兒 女 子の 詞 に身のほとをかいかそへてといふは身のほとをはからひたる 義 也、故にかそへうた、はからひうたなり、今のうたは花をはたゝ花に心をそめたるはかりにてこそあるへきを、身 の勞 のいるもしらぬことせんなし﹂ ︵ 6オ︶ とよめるははからふなり 、 古今春哥云々 、素 性法師 、 花の木もいまはほり うへしはるたてはうつろふ色に人ならひけり 、か様のすかたはみなかそへうたなり 、[ 18]みつにはなすらへうた 、 君にけさあしたの霜のおきていなはこひしきことにきえやわたらん、といへるなるへし、 今 云 、 なすらへうたは比 也、 比 の 訓 は 類 なり 、方 也、 校 也、 並 也 、 ならふる心也 、みつしほのなかれひるまを よめるは 、しほのひ 干 ると 日 中のひ 晝 るとなり、をとにのみ菊 のしら露とよめるは、聞 と菊 と也、あつさゆみいそへといへるは弓をいると地 儀の 磯 と也、か様にひとつ 詞 の二にわたりたるをなすらひ 哥と云也、又、しのふ山しのひてかよふあやめ草あやめもし らぬ﹂ ︵ 6ウ︶ なとよめるもなすらへうたなり、いま人のそへよめるといふすかたなり、 [ 19]よつにはたとへうた、我 こひはよむともつきしありそうみのはまのまさこはよみつくすとも、 といへるなるへし、 今云、 たとへうたとは興 也、 取リ レ 譬 ヲ 一 引 ソ 類 ヲ 云々 、たとへにしな〳 〵あり 、花を雲にまかへ 、月を雪といひなとしたるはみなたとへうた也 、 たとへにはかくれあらはれたる二のすかたあり、かくれたるをはそへうたにとりつれは、あらはれたるはかりをたと
二七六 へうたにとれるなり 、戀といひいてゝなにゝもたとへ 、 祝 をあらはれて何にもたとへたるは今のたとへうた也 、 戀 とも 祝 ともいはす 、 只花月とも松 竹ともいはて 、そこに戀 、 祝 をこめたるを﹂ ︵ 7オ︶ そへうたと云也 、 述 懐 、 無 情等 もみなかくのことし 、[ 20]いつゝにたゝことうた 、いつはりのなき世なりせはいかはかり人のことのはうれ しからまし 、といへるなるへし 、今云 、たゝことうたは雅 也、 雅 の訓 は 正 也 、 心におもふことを物にもよせすして ありのまゝに恨 云のふるなり、花 鳥のおもしろきも、戀 恨のかなしきも、思ひのたゝにいひのふるをたゝことうたと 云也 、[ 21]むつにはいはひうた 、このとのはむへもとみけりさき草のみつはよつはにとのつくりせり 、といへるな るへし、今 云 、いはひ哥は頌 也、頌は客 也、讃 也、徳 のあらはれたるかたちをほめ、功 のなれるをいひのふるなり、 今のうたもとのつくりのよきをみて 、この﹂ ︵ 7ウ︶ とのゝとめるはことはり也けりとほめたるなり 、いはひ哥といへ はとてひとへに祝 言、慶 賀のうたとおもふへからさる歟、六 義はみなもと毛 詩より出たれとも文 字の訓 によりて、哥 のすかたを六にたつるほとに、毛詩にはかはりたる事もあり、詩 の定に心えては相 違のことおほかるへし、能 〳〵 々思わ くへき事也、 [ 22]今の世中色につき人の心はなになりにけるよりあたなるうたはかなきことをのみいてくれは、 今 云、 世中おとろへて人の心たゝしからされは 、よろつのことまことなきを云也 、 真 名序云 、其 實皆 ナ 落 チ 其花孤 リ 榮 云々 、 [ 23]色このみの家︹に︺む もれ木の人しれぬことゝなりてまめなる所には花すゝきほにいたすへき﹂ ︵ 11オ︶ ことにも あらすなりにたり 、 今云 、色 このみの家とはまことなき所 、まめなる所とはうるはしき道 也、 [ 24]そのはしめをお もへはかゝるへくなんあらぬ、いにしへの代々の御かと、あるは花をそ \ ふとてたよりなき所にまとひ、あるは月をお もふとてしるへなきやみにたとれる心〳〵をみたまひてさかし、をろかしなりとしろしめしけむ、今云、哥の風 情よ み様によりて人の賢 愚をしろしめすことなり、真 名序云、君 臣之 情 、由 テ レ 斯 一 可 レ見 一 、賢 愚之性 、 於 レ是 相 分 タリ 云々、 [ 25]しかあるのみにあらす、さゝれ石 にたとへ、これよりしもはいにしへのうたのさままことをさきとして、
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二七七 はかなくあたにはよまぬうたともをいたせるなり 、みな古今の中の﹂ ︵ 11ウ︶ うたともなり 、[ 26]いまはふしの山も 煙 たゝすなり、なからのはしもつくるなりときく人はうたにのみそ心をなくさめける、 煙 たゝすはたえぬなり、不 断也、 煙 をたにもたゝしとての心なりと云々、なからのはしをつくると云ふもたえぬよし也、或 説云、冨 士の 煙 も たゝねはおもひにくらへつるけふりもなし、なからのはしはつくりつれは、我身のふりぬるにたとふる橋 もなし、し かれとも冨 士のけふりはたち 、なからのはしはふりぬとよみをきたるうたをみて 煙 をも 、橋 をも身のたくひに思ひ て心をなくさむといふなるへし 、[ 27]いにしへよりかくつたはるうちにもならの御時よりそひろまりにける 、奈 良 の御時はいつれの御 門の御事と﹂ ︵ 8オ︶ 云事人〳〵のあらそひなり、 但 、文 武の天皇の御事にや、彼 御代 に人 丸あり とみえたり、 人丸は元 明天皇の御時石 見國にて身まかれりとみえたれは、 其後の御かとをならの御ときとは申かたし、 文 武天皇、 藤 原 宮 と申せとも、かの御時ならの 京 と申事ありと續 日本記にみえたれは、人丸同時の御門ならは、か た〳 〵文武天皇と申すへきにや 、 今云 、聖 武天皇の御時也 、道 理證 文 非 レ一、 事 な か け れ は 可 レ 略 也、 [ 28] 正 み つのくらゐかきのもとの人まろなんうたのひしりなりける 、人丸正 三位と云事公 卿補任等 にもみえたることなし 、 真 名序にも只 柿 本 大 夫とかけり 、正三位ならは 尤 其 位 署をのすへきか、おほ﹂ ︵ 8ウ︶ つかなき事也、能々可 レ 決 也、 [ 29]是は君も人も身をあはせたりといふなるへし、今云、君 臣合 躰の儀 也、 [ 30]秋の夕へたつた河になかるゝもみ ちをは御 門の御目 に 錦 とみたまひ、わたらはにしき中やたえなんと申うたなり、 [ 31]春 のあした吉 野の山のさくら は人丸か心には雲かとのみなんおほえける 、 よしのゝ山のさくら雲かとよみたる人まるかうたいまた 勘 へいたさす と云々、 [ 32]小 野小 町はいにしへのそとほりひめのなかれなり、そとほりひめの流 也とはなかれといふにはあらす、 たくひなりと云ふにや 、流 をはたくひなりとよむこと 、内外典におほくみえたり 、[ 33]かゝるにいますへらきのあ めのしたしろしめすことよつの時こゝのかへりになん﹂ ︵ 9オ︶ なりにける 、 今云 、すへらきは天皇也 、 あめのしたし
二七八 ろしめすとは御 宇也 、よつの時とは四 季也 、 九 廻 は 九年也 、真 名序 ニ 陛下 ノ 御宇于今 九 載云々 、 延 喜聖 主御 在位九年 になると云也 、[ 34]あまねきおほんうつくしみのなみやしまのほかまてなかれ 、今云 、やしまは本 朝の名 也、 大 八洲と云也、真名序 ニ 仁 流 二 秋 津洲 外 一 云々、秋 津洲も日本朝の名なれは同事にや、 [ 35]梅をかさすより 略之、 く さ〳〵のうたなんえらはせたまひける、春 夏秋冬より雑 以下にいたるまての部 たて様 を云也、雑 の字 をはくさ〳〵と よむ也と云々、 [ 36]それまくらこ 詞 とは春の花にほひすくなくして、まくら、臣等といふ詞也、真名序に﹂ ︵ 9ウ︶ 臣等 詞少春花之艶云々 、[ 37]いにしへをあふきて今を恋さらめかも 、今云 、古今の二字をおもへるにや 、いにしへの聖 代をもあふき、今の明時をも恋たてまつるへしとなり、春上、 [春上・ 2]袖ひちてむすひし水のこほれるを 、ひち てとはひたして也、 [春上・ 6]春たては花とやみらん、みらんとはみるらんと云也、みえんといふ説在之、不可用、 [春上 ・ 4] 詞云 二条のきさきとは 、贈 太 政 大 臣中 納言 長 良 女 、 言壽高子 、[ 春上 ・ 7]心さしふかくそめてしおりけ れは、 おりけれはとは折 けれは也、 此歌注曰、 或 人の云さきのおほきおほいまうちきみの哥也と云々、 忠 仁公事也[春 上・ 12] 詞云 寛 平 御 時とは 、 御位の時をは 寛 平 、 下 院時は 朱 雀 院 、 御 出 家の時は亭 子院 、[ 春上 ・ 18]かすかのゝ ﹂ ︵ 10オ︶ とふひのゝもりいてゝみよ、 春 日野にとふひのと云事有、 䙴 たてられけるゆへと云也、 此 䙴 たてられけること、 もろこしよりおこれる事にや 、いそくこと 、もしはいくさなとのある時 、人にもしらせんれうのはかりことにや 、 昔 は 筑 前 國 にもたてられけり、 天 智 天皇おはしましける時にや、 [春上 ・ 21]仁 和の御門とは、光 孝 天 皇 也 、[ 春 上 ・ 28]もゝちとりさへつる春はものことに 、 もゝちとりとは 、鴬 ともいふ 、鴬のうたにはなれて 柳 をへたてゝいれた るもおほつかなし 、されと 、もゝちとりと云に 、うくひすはなるへしとはきこえす 、[春上 ・ 29]をちこちのたつき もしらぬ山中に、をちこちとは遠 近也、たつきもしらぬとはたよりなき也、 [春上・ 30]道 行ふりにことやつてまし、 道ゆきふりとは、道 ゆかむついての心也、 [春上・ 34]待 人﹂ ︵ 10ウ︶ のかにあやまたれけり、まつは待人の香に也、一
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二七九 説 、先 人のかと云事有 、 不 レ可 レ用、 [ 春 上・ 36]東 三条 左 大臣 とは 、嵯 峨源 氏、 源 常 也、 左 大臣 、左 大 将 、鴬のかさ にぬふてふ梅花、たゝ花のすかたを笠 ににせて 鴬 や笠 にぬひてきるらんと思ひよせたるにや、催 馬楽に、あをやき をかたいとによりて鴬のぬふてふかさは梅花かさ 、[春上 ・ 39]梅花にほふ春へはくらふ山 、春へとは 、野へ 、河へ なと申様に、たとへは、春の山へなともつゝくるを 略 して春へとも云也、 [ 春上 ・ 41]春の夜のやみはあやなし梅花、 あやなしとは 、たとへは 、 かひなき事をあちきなくなと云様なる詞也 、[春上 ・ 42] 詞云 かくさたかになんやとりはあ るといひゝたして侍けれは 、さたかにはたしかにといへり 、[春上 ・ 50]山たかみ人もすさめぬ﹂ ︵ 15オ︶ 桜 花、 す さ めぬは興 せぬ 詞 也 、もてなさぬ心也 、[春上 ・ 53] 詞 なきさの院とは 、かたのゝ邊 、川 のほり道也 、[ 春上 ・ 52]そ めとのゝきさきとは、清 和母 后明子也、 [ 春上・ 53]世中にたえて桜のなかりせは、絶 て也、 [ 春上・ 58]誰 しかもと めて折 つる 、たれしかもとは 、たれかも也 、誰かとめて折つるといはんする文字のすくなけれは 、 たれし かもと云 、 猶すくなけれは、 しをくして誰 しかもといへる也、 然と云説ひかこと也、 [春上 ・ 25] 哥 わかせことは妻 、 せ なは夫 也、 [春上・ 59]山のかひよりみゆるしら雲、かひは山のいきあひをは 峡 と 云 也、 [春上・ 61]人の心にあかれやはせぬ、 春の久しき年たにも人にあかれよとをしふるなり 、あかれやはすると云 説 不 レ 用 、せぬを可 レ 用 、[春上 ・ 65]折とら はおしけにも有か桜花 、おしむよし也 、[春上 ・ 67]我 やとの花見かてらにくる人は 、かてらは 、花みかたう也 、 又 説 にかてらと云、其事をしかてらなと云、同事歟、花見かちに﹂ ︵ 15ウ︶ くる人と云、春下、 [春下・ 69]うつろはんと や色かはりゆく、 花のうつろふことはちるにはあらす、 さかりなる時にかはりてちりぬへき色のつくを云也と云々、 [春 下・ 70]まてといふにちらてしとまる物ならは 、まてと云にとは 、 しはしまてと云也 、やよひ まてと ︹は︺ 、まてし はしも、同事也、 [ 春下・ 75]名 本 そをせよ とよむなり、承 均法師、そうくほうし、 [ 春下・ 77]いささくら我もちりな むひとさかりとは 、ひとさかり也 、いとさかりと云説不可用 、[春下 ・ 72]ちりのまかひに家ちわすれて 、はなのち
二八〇 るまきれなり、 [春下 ・ 75]雲 林院とは一条大宮より上なり、 ゆ きそふりつゝきえかてにする、 きえかてとは 難 レ消 也、 [春下・ 81]東 宮雅 院にて、雅 院とは待 賢門之内、壬生東也、花のみかは水にちりて、みかはみつとは大 方は 清 涼 殿 の前 のやり水を﹂ ︵ 17オ︶ 云にや、 但 、 此 詞 にては一 向禁 中之中之水を云と見えたり、 枝 よりもあたにちりにしはなゝ れは 、たゝえたからちるよし歟 、[春下 ・ 82]ことならはさかすやはあらぬさくらはな 、ことならはとは 、かくのこ とくならはと云也 、さかてもあれかしと云にや 、花のことよのつねならはと云も同事也 、[春下 ・ 84]久 方の光のと けき春の日に 、久方の月ともいへは 、日をいはむとて久方の光といへるにや 、[ 春下 ・ 85] 詞云 春 宮 の たちはきのち ん に て、 大 内には其所ありけるにや 、不 二 分 明 一 、 [ 春 下 ・ 89] 朱 雀 院 と は 亭 子院御事也 、[春下 ・ 90]故 郷とな りにしならの都にも 、ならの御門の御うた 、 平 城 天 皇、 大 同天子 、[春下 ・ 94]みわ山をしかもかくすか春かすみ 、 しかもかくすかとは 、然 もかくすか也 、さもかくすかと云也 、[春下 ・ 95]詞云 、雲 林院のみことは 常 康 親 王也 、 仁 明天皇御子 、 くれなは﹂ ︵ 17ウ︶ なけの花のかけかは 、 くれぬともなかるへき花のかけかは 、夜も花にましりてねん とよめる也、 [春下・ 98]花のことよのつねならはすくしてし、花のことくつねならは也、 [春下・ 99]このひともと はよきよといはまし、 の そけといはまし也、 [春下 ・ ]さくはなはちくさなからにあたなれと、 ちくさ、 千 種也、 [春 下 ・ ]詞云、仁 和の中将のみやすん所、中 仁和御子也 将とは 是 貞 親 王 事 歟 、[ 春下 ・ ]たれにおほせてこゝらなくらん、こゝ らはいくらもなり、 [春下・ ]こまなめていさみにゆかむ、こまなメてとは、こまならへて也、 [ 春下・ ]いまも かもさきにほふらんたちはなのこしまのさきの款 冬のはな 、いまもかもとは 、いまもかく也 、たち花のこしま 、其 所 宇 治に有といへとも、 不 分明、 [ 春下 ・ ]山ふきはあやなゝさきそはなみんと、 あやなゝとは、 あやなうなり、 [春 下・ ]そこともしらぬたひねしてしか ︵ 18オ︶ 、おもふともいつくともなく旅 ねせはやとねかひたる也 、[春下 ・ ] いるかことくもおもほゆるかな 、はやく月日のすくる也 、 夏 、 [ 夏 ・ ]あはれてふことをあまたにやらしとや 、花
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二八一 のおもしろきを一度につくさしとて夏にをくれてさくかと云にや 、[ 夏 ・ ]五 月待山 郭 公うちはふき 、うちはふき とは 、鳥のなくをりははねをうちたゝくをはふく と云にや 、[ 夏 ・ ]ぬしさたまらぬ恋せらるはた 、 はたとはまさ に也、 當 とかけり、 [夏・ ]郭公はなかなくさとのあまたあれは、なかなくとは、なれかなくと云也、あまたのさ とをかけてなけは 、おもへともうとましと云也 、[ 夏 ・ ] 唐 紅 のふりいてゝそなく 、 紅 にふりいてと之 云 事有 、 紅そむる布 のきれを紅にそめたる也、但、なにもこゑのしらへあけてきこゆるを、ふりいてといひならへるとそきこ ゆる 、うちいつる﹂ ︵ 18ウ︶ こゑはすゝむしならねと 、ふりいつる様にきこゆる故也 、思いつるときはのやま 、常 葉の 山也、 時は野山と云説、 不用、 [ 夏 ・ ]我 衣 てのひつをからなん、 ひつとは我衣てのぬれたるをかれと云にや、 [ 夏 ・ ]あしひきの山 郭 公 お りはへて、うちはへて也、 [ 夏・ ]やよやまて山郭公ことつてん、やよやまてとは、やし はしまてと云也 、郭公はしての田をさと云鳥なれは 、此世にすみわひぬ 、さそへといふよし也 、[ 夏 ・ ]むかしへ やいまもこひしき 、 昔 へ といふにもしのたらねは 、むかしへと云也 、[ 夏 ・ ]なにかはつゆをたまとあさむく 、 露はまことの玉にてもなきを 、玉とみするはあさける心也 、 嘲 由也 、 [夏 ・ ]詞云 、 はやくすみける所とは 、 ふる くすみたる所を云也、 [ 夏 ・ ]郭公我とはなしにとは、我心からなしに、うき世になくと云也、 [ 夏 ・ ]かたえすゝ しきとは、 邊 涼 也、何方、何邊なと云也、秋上、 [秋上・ ]詞云、かもの河原に﹂ ︵ 16オ︶ かはせうえうとは、川あ そひ也、 [秋上・ ]わたりはてなはかちかくしてよとは、かちかくせよ也、 [秋上・ ]木のまよりもりくる月のか けみれは 、 木 間よりもる也 、おちくると云説 、不用 、おちくる月とは◦ 入 月を云にや 、[秋上 ・ ]いつはとは時はわ かねと、いつはとは、いつとはわかねとゝ云也、 [秋上 ・ ]詞云、かんなりのつほ、雷 鳴のつほは襲 芳舎也、 [秋上 ・ ]さよなかと夜はふけぬらし、 さよなかとは、 さ夜中也、 [ 秋上 ・ ]とふかりのかすさへみゆるとは、 か 数 すさへ也、 かけさへにあらす、 [ 秋上・ ]我かとゆきていさとふらはん、とはんと云也、 [秋上・ ]ちゝにものこそかなしけ
二八二 れ、さま〳〵に也、 [ 秋上 ・ ]草にやつるゝふるさとは、おとろへやつるゝよし也、 [ 秋上 ・ ]たれまつむしのこゝ らなくらん 、いくらもなり 、[秋上 ・ ]我門にいなおほせとりのなくなへに 、 にはたゝきの事にや 、其故は此鳥の なく時、田よりいねをおほせて、家々にはこひをけは申す也、 [秋上・ ]衣かりかね﹂ ︵ 16ウ︶ なくなへに、たゝ夜さ むなるにつけて、衣かりかねとそへたる也、 [ 秋上 ・ ]秋はきにうらひれをれは、物おもひうれへたる心也、 [秋上 ・ ]いねかてとは、いねかぬると云也、 [ 秋上・ ]あきはきをしからみふせて、鹿 の萩 のえたをふみしたきたる也、 [秋上 ・ ]萩 の露玉にぬかんとゝれはけぬよしみん人はえたなからみよ 、とれはけぬとは 、とれはきえぬなり 、 よ しみんは 、様もなくよし みよ也 、[秋上 ・ ]えたもたわゝにをけるしら露 、たわゝ 、とおゝ 、いつれもつゆのおも くをきて、えたのたわみなひくよし也、両 説也、 [秋上・ ]はきかはなちるらむをのゝつゆしもに、露と霜となり、 [秋上 ・ ]もゝ草のはなのひもとく秋のゝに思たはれん人なとかめそ 、色〳 〵しき 、あたなる 、同事 、又花のなか にましらんと云也 、[秋上 ・ ]詞云 、左のおほいまうちきみ 、時平也 、[秋上 ・ ]のらとは 、野也 、[ 秋上 ・ ] 詞云 、 寛 平 、 亭 子、 朱 雀 院 、同御名 也、 ﹂ ︵ 12オ︶ [秋上 ・ ]なくゆふかけの山となてしこ 、山となてしこ 、花のお ほきなるなてしこ也、 [ 秋上 ・ ]月草に衣はすらん、月草とは、露草也、秋下、 [秋下 ・ ]むへ山かせ、むへとは、 世 俗にも、むへ道 理なと云、同事歟、 [秋下 ・ ]秋にはあへす、とは、不 レ ︹ 背 肯︺ とかけり、 [秋下 ・ ]詞云、 貞 観 は清 和也、 [秋下・ ]山の木のはのちくさなるらめ、此ちくさも千 種也、たゝあまたの色につゆのそめたる也、 [秋 下・ ]心あてにとは、こゝろにそれとさして也、 [ 秋下・ ]詞云、もる山のほとりにてとは、江 州の守 山也、 [秋 下・ ]うへしうへは、うへつるうへは也、 [ 秋下・ ]おつるもみち葉也、はにてはなし、 [ 秋下・ ]作 者、すか はらの朝 臣とは、 菅 丞 相 御事也、 [秋下・ ]おく山のいはかきもみち、いはかきもみちとは、いはほかきにしたる 様に、いはのめくりたるを云也、 [ 秋下 ・ ]秋風にあへすちりぬる、あへすとは、不 レ ︹ 背 肯︺ 也、 [秋下 ・ ]わひ人の
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二八三 わきてたちよる木のもとは、わひ人とは世にすみわひたる人を云なり、 ﹂ ︵ 12ウ︶ たのむかけなしとつゝけたるは、たの むへき人もなきを、木のかけにたとへてよめるにこそ、 [秋下 ・ ] 唐 紅 に 水くゝるとは、紅の木のはのした水くゝ りてなかるゝを云也 、[秋下 ・ ]もみちをぬさとたむくれは 、ぬさとは神に物をたむくるをぬさと云也 、[ 秋下 ・ ]立とまりみてをわたらんもみちはゝ 、みてわたらんといへは 、文 字のたらねは 、をゝそへたる也 、[秋下 ・ ] 北山に 僧 正 遍 昭、たけかりは、まつたけかり也、 [秋下・ ]夕 月夜 をくらの山に鳴 鹿 の、をくらといはんとてをけ る五文字也 、只くらからんをいはむれうか 、長月のつこもりに夕月夜あるましくや 、冬 、[ 冬 ・ ]よしのゝ山にみ ゆきふるらし、 みゆきとは深 雪歟、 日︹本︺記には、 大 太 雪とかきてみゆきとよむ、 其 義 につきて深 雪と申すへくや、 [ 冬 ・ ]雪ふれは冬こもりせる草も木も、冬こもりもとは、草も木も雪いうつもれたる﹂ ︵ 13オ︶ と云也、 [ 冬・ ]つきて ふらなん 、継也 、[冬 ・ ]山のたきつせをとまさる也 、瀧 也 、つはやすめ字也 、[ 冬 ・ ]ゆきけの水 、雪 消水也 、 空 なとの雪けは氣也、 [ 冬・ ]あさほらけとは、あけほのゝ事也、賀、 [賀・ ]詞云、ほり川のおほいまうちきみ とは、昭 宣公也、こむといふなる道まかふかに、かにとは道まかふはかり也、 [ 賀・ ]詞云、さたときの御子とは、 貞 辰也 、清 和第七御子 、[ 賀 ・ ]さたやすのみことは 、貞 康也 、清和第七 一 二 歟 御子 、[ 賀 ・ ]もとやすのみことは 、 本 康也、仁明第七御子、 [賀 ・ ]内 侍のかみとは、満 子、高 藤二女、 [賀 ・ ] 春 宮 むまれたまひける時、春宮とは、 文彦 太子 、保 明親 王事歟 、離 別 、[離別 ・ ]すかるなくとは 、 鹿 の 別 名 也 、[離別 ・ ]身をしわけねは 、身をわ けねはと云也 、[ 離別 ・ ]こしへまかりける 、こしとは北 國を云 、北國とはそともの國とも云 、すへて家 の北 をは そともと云也 、[離別 ・ ]あさなけに﹂ ︵ 13ウ︶ あさなけ 、あさにけ 、同事也 、あさゆふに也 、[離別 ・ ]詞云 、 藤 原ののちかけかからものゝつかひにとは、けんたうし也[離別・ ]◦ 人 やりの道ならなくにおほかたはいきうしと いひいさかへりなん、人やりとは、人のやる道かは、我とこそゆけは、いきうしとて、かへりなんと云にや、 [ 離別 ・
二八四 ]とめんとめしは花のまに〳 〵 、 まに〳 〵 とは 、まゝに也 、[離別 ・ ]詞云 、 雲 林院のみことは 、常 康のみこな り[離別・ ]仁 明の御門みこにおはしましける時にふるのたきこらんしにと云々、ふるのたきは、大 和のふるのた き也、 [離別 ・ ]おもふなみたにそほちぬる、 ぬ れたるよし也、 [ 離別 ・ ]ことはふらなんとは、 ことは如なり、 [離 別・ ]たらちねのおやとは、たらちねは 親 事也、たらちめは 母 也、たらちをは父也、これは両方をいつれとも云 へきにや、 [離別・ ]したの帯 の道はかた〳〵わかるとも、したのおひとは、束 帯には﹂ ︵ 14オ︶ うへしたにおひをす る也 、おひはこしをひきまはして 、まへにゆへは 、かた〳 〵にわくるとも 、ゆきあはんとよめる也 、羇 旅、 [ 羇 旅・ ]作 者云、 すかはらの朝 臣とは、 北 野天神の御事也、 [ 羇旅 ・ ]わたの原やそしまとは、 八 十嶋也、 [羇旅 ・ ]つゝ りの袖もきるへきには、切へき也、物名、 [物名・ ]なくなる聲 の人をとよむる、とよむるは、おとろかすよし也、 [物名・ ]あなうめにとは、目也、 [ 物名・ ]題云、をかたまの木、木名歟、もし◦ たまき歟、狭衣にも、谷ふか くたつをたまきと侍にや 、[物名 ・ ]くたに 、 くたん也 、むをに文字につかひたる也 、草也 、かつらの様にはひち りて侍にや 、[ 物名 ・ ]まとふてふ哉 、蝶 也、 [ 物 名・ ]詞云 、めとにとは 、 耆 蓍 と云草の中にあり 、[物名 ・ ] うひにそみつる、初也、 [物名 ・ ]ものわひしらとは、物わひしく也、 [物名 ・ ]いさゝさめにとは、かりそめ也、 [物名・ ]題曰、からさきとは、あふみのからさき︹に︺はあらす、 ﹂ ︵ 14ウ︶ よとのからさき也、 [物名・ ]月のか つらのみやはなる 、實也 、[ 物名 ・ ]春かすみなかしかよひち 、霞 の中に 、かよひちなかりせはと云也 、[ 物名 ・ ]のちまきとは 、 後 蒔 也 、 恋一 、[恋一 ・ ]あやめもしらぬ 、あやめとは 、人こふるあまりにほれ〳 〵として 、 錦 布物のもんもわかぬを云也、ゆふくれのくらく成はつるを、ものゝあやめわかぬほとになと、ふるき物にもつねに かきたる也、 [恋一・ ]人に心をおきつしらなみ、人に心をかくるよし也、 [ 恋一・ ]詞云、右 近のむまはの日を りの日 、まゆみの真手結に 、とねりともまさしく褐の尻をひきおりてきたるを 、ひをりと云にや 、[恋一 ・ ]たよ
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二八五 りにもあらぬおもひの 、 たよりとは 、便宜と云にや 、[恋一 ・ ]ゆふくれは雲のはたてに 、 はたてとは 、 日の入ぬ る山に、光のすち〳〵に立のほりたる様にみゆるを、はたてにゝたると云にや、 [恋一・ ]かりこもの思みたれて、 かりこもとは、 ﹂ ︵ 19オ︶ こもの 惣 名 也 、かりたるにあらす、又、かりたるをも申説あるにや、両説歟、 [恋一・ ]い はきりとおしゆく水の 、いはきりとおしとは 、岩 にさはりてゆく水を云にや 、[恋一 ・ ]梅のほつえ 、又はつえ 、 いつれも梅の末 の枝 也 、[恋一 ・ ]あはれてふことたになくはなにをかはこひのみたれのつかねをにせん 、あはれ てふとは 、人たにもあはれをかけすは 、何ゝてかおもひみたるゝ心をもしつむへきと云にや 、[ 恋一 ・ ]ゆたのた ゆたに物思比そ 、 舟 のなみにゆられて 、たゆたふ心にや 、[恋一 ・ ]恋をしこひはあはさらめやも 、恋といふ恋の あはてやむへきかなり、 [恋一・ ]こん世にもはやなりなゝん、こん世とは、来 世也、 [恋一・ ]おきへにもよら ぬ玉もの 、山邊 、いそへ 、同事也 、[恋一 ・ ]心かへする物にもか 、 心 替 也 、[恋一 ・ ]あけたてはせみのをり はへ、あけたては、 ﹂ ︵ 19ウ︶ あくるなり、 [ 恋一・ ]秋の田のほにこそ人をこひさらめ、あらはれてこそ恋さらめ也、 [恋一・ ]あは雪のたまれはかてにくたけつゝ、かてとは、たまれはかつ〳〵くたくるよし也、 [恋一・ ]すかの ねしのきふる雪の 、しのきとは凌 也、 恋 二 、[恋二 ・ ]詞云 、しもついつもてらに 、いつも寺は上下にいつも寺有 けるにや 、上をはこりやうと云にや 、下のをは 、あねかこうち西 洞院と云々 、不分明 、[恋二 ・ ]夢 のたゝちは 、 直 道也、 [恋二・ ] 蛍 よりけに、けには勝 也、 [恋二・ ]ふる◦ 白 雪の下きえに、下 消也、 [ 恋二・ ]むねのあた りは色もえなまし 、もえなましとは 、やけなましとなり 、[恋二 ・ ]冬もこほらぬみなわなりけり 、みなわとは 、 水のあは也 、[ 恋二 ・ ]時そともなくよたゝなくらん 、いつともわかぬ◦ 云也 、[恋二 ・ ]山とよむまて鳴 鹿に 、 とよむとは動きて歟、恋三、 [恋三・ ]よるへなみ身をこそとをく、よるへなみとは、無縁に﹂ ︵ 20オ︶ さしはなたれ たるを、よるへなみ と云也、 [ 恋三・ ]いさなはれつゝ、たちやすふ事歟、 [恋三・ ]あしたゆくゝる、あしたゆ
二八六 く也 、よたるくなと云事歟 、[ 恋三 ・ ]ことそともなくあけぬる物を 、 ことそともなくは 、 なかしといへとも 、 や すくあけぬるよし也、 [ 恋三・ ]しのゝめのほから〳〵とは、やうやくあくるよしなり、 [恋三・ ]いやはかなに もなりまさるかな 、 弥 也、 [ 恋 三・ ]夢 にいくらもまさらさりけり 、夢にいくほともまさらぬよし也 、[ 恋三 ・ ] ねすりの衣色にいつなゆめ 、あなかしこ〳 〵 、ゆめ〳 〵なと云事にや 、[恋三 ・ ]しみはつくとも色にいてめや 、 しみつくよし也、 [ 恋三・ ]よをうみへたにみるめすくなし、うみへたにとは、海 邊にみるめのすくなけれは、 湊 にこきいてなんとよめる也、 [ 恋三・ ]事なしふとも、無 為、無 事也、恋四、 [恋四・ ]はなかつみ、こものはな 也 、[恋四 ・ ]磯の神ふるの中道﹂ ︵ 20ウ︶ 中〳 〵に 、布 留中 道也 、大 和布 留也 、或 説、 長 路 、 不 用、 [ 恋 四・ ]さ む し ろ、 小 莚也 、[ 恋四 ・ ]我 面かけにはつる身なれは 、はちたるよし也 、[ 恋四 ・ ]我やゆかんのいさよひに 、 やすらふ也 、[恋四 ・ ]とはにあひみん 、常にあひみんと云也 、[恋四 ・ ]なみにおもはゝ 、人なみ〳 〵 の浪 也、 猶さりに思たる事也、次にと云事也、 [恋四・ ]さくる物かはとは、ひきはなつ様事也、 [恋四・ ]事のしけゝん とは、よからぬ口 舌いてきにけりといふ心歟、 [恋四・ ]とひかたみ、とひかたう也、 [恋四・ ]たゝに ゝにしも ねたる聲する 、 ひと所になくと云也 、[恋四 ・ ]事のみそよき月草のとは 、ことよき人なと云事也 、うへには 、 よ けにてうつろふ心あるを云也 、月草は露草なり 、[恋四 ・ ]うつせみのよのひとことのしけゝれは 、人の物いひさ かなき様なる事也、 [恋四・ ]しのふもちすりとは、もちすり也、みたれたるよし也、 [恋四・ ]たなゝしをふね は、やかたなきふね也、 [恋四・ ]人をみんとやしかもせぬ、然もせぬ也、 [恋四・ ]はらはゝ袖やあはとうきな んとは、 あはてあれたるとこの﹂ ︵ 21オ︶ うへの 涙 をうちはらはゝ、 袖 やあはと成なんといへるにや、 [恋四 ・ ]詞云、 右のおほいまうちきみすます成にけれは 、源能有事歟 、[恋四 ・ ]こまのあしおれまへのたな橋 、足 折也 、たなは しは、かうらんあるはし也、 [ 恋四 ・ ]詞云、ものらいひけると云々、たゝ物いひける也、らはやすめ字也、 [恋四 ・
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二八七 ]形見こそ今はあたなれとは 、あたむ 、あたまれたるなといふ事也 、恋五 、[恋五 ・ ]ほいにはあらて物いひわ たりけるとは 、 本 意にはあらてと云也 、たとへは 、物はいひなから 、まことなきと云也 、[恋五 ・ ]なきたるあさ とは、なきたる 朝 也、 [恋五・ ]花かたみめならふ、目 並也、花かたみとは、こなり、目の様に人のあまたあれは と云也、 [恋五・ ]あひにあひてとは、逢 にあひて也、 [恋五・ ]しほやき衣をさをあらみとは、をさとは布をる に有也、 [恋五・ ]なにゝふかめて、深 めて也、 [恋五・ ]しきのはねかきもゝはかき、しちのはしかき、しきの はねかき、同事也、両説也、 [ 恋五 ・ ]いましはとわひにし物を、今はと思きりて﹂ ︵ 21ウ︶ わひにし物をと云也、 [ 恋 五・ ]かせはやみなり 、風はやみなりとは 、人の心のはけしき也 、[ 恋五 ・ ] 唐 衣 なれは身にこそまつはれめ 、 身にまつはれたるよし也、 [恋五・ ]はやくいひてしとは、昔いひてしことはわすれし也、 [ 恋五・ ]いとなかる らんとは、いとまなかるらん也、 [ 恋五・ ]いねてふともかけなくに、いねによそへたる也、 [恋五・ ]もはらた えぬる、もはらは 専 也、 [恋五・ ]秋かせにあふたのみこそかなしけれ我身むなしく成ぬと思へは、秋の田は風に あひぬれは 、みのいらぬことある也 、それによそへたる也 、哀傷 、[ 哀傷 ・ ]わたり河とは 、 三途 川 也 、 みつまさ りなはかへりくるかにとは 、帰くるはかりに也 、[ 哀傷 ・ ]さきたゝぬくひのやちたひ 、後悔 八 千 度 也、 [ 哀 傷・ ]しつく花の色 、しつくとは 、かくるゝとすれは 、あらはれ 、 しつむとすれは 、しつみもはてぬを云也 、[哀傷 ・ ]うちつけにとは、 やかてなと云事也、 [ 哀傷 ・ ]色もかも昔のこさに、 こ さとは色のこきなと云様のこさ也、 [ 哀 傷・ ]しら雲のたつのと﹂ ︵ 22オ︶ はやく成にし物を、立 野とはあれたるよし也、 [哀傷・ ]式 部卿のみこ閑 院の五 み こ にすみわたりけると は 、 夫 婦になる心 也 、[ 哀 傷 ・ ]詞 云、や ま ひ を して いま 〳 〵 と 成 に け れ は とは、よは〳 〵 しくなと云詞にや 、[ 哀傷 ・ ]藤 原としもとの朝 臣の右 近の中将にてすみけるさうしの 、 身まかりてのち人もすま す成にけれは、さうしみとは、 局 、方〳〵なとを云也、はやくとは、昔 を云心、雑 上、 [雑上・ ]作者、近院右の
二八八 おほいまうちきみとは、 能有源氏事也、 [雑上 ・ ]詞云、 いそのかみのなんまつか は、 人の名也、 いそのかみは性 姓 也、 なんまつは名也 、やふしわかねは 、やふなり 、[雑上 ・と ]たまたれのこかめやいつら 、玉 垂のみすとのみよみぬ れは 、先人かめのたまたるゝ事にくし 、たゝたまたれの鈎といはんとて 、こかめとよめるにてありぬへし 、[ 雑上 ・ ]詞云、田むらの御時とは、文 徳天皇御事也、 ﹂ ︵ 22ウ︶ [雑上・ ]もとくたちゆく、くたつとは、雪のおもけれは、 本のかたふきたる也 、[ 雑上 ・ ]おほあらきのもりの下草おいぬれは 、おほあらきは 、 名 所と言説 有 、但 、大 木の かけを云にや 、さくらあさのと云本も有 、さくらあさとは 、あさをのあさ也 、[雑上 ・ ]をしてるやなにはの水に やくしほの、 を してるとは、 し ほうみによみたれとも、 なにはとつゝけならへるにや、 にほてるは水海によむにや、 [雑 上・ ]さらぬ別も有といへは 、 不去別也 、[ 雑上 ・ ]なとか我身をせめきけん 、責 来けん也 、[雑上 ・ ]詞云 、 法皇にし河にとは、かつら河也、 [ 雑上 ・ ]からことゝ云所にてよめるとは、所名也、不分明[雑上 ・ ]山わけ衣、 たゝ山わけ衣は、山わくるよし也、 [雑上・ ]詞云、龍 門にまうてゝ、れう門とは大 和国に有、七大寺 詣 の七大寺 中也 、[雑上 ・ ]ふん月とは 、七月也 、[雑上 ・ ]よをへておつる水にそ有ける 、代をへてなり 、[雑上 ・ ]女 はうの 侍 とは、たいはん所也、雑 下、 [雑下・ ]詞云、あかたみとは、ゐ中也、外官春の﹂ ︵ 23オ︶ 除目をあかため しといふ、此故也、 [雑下・ ]あはれてふことのはことに、あはれといふことのはことに也、 [ 雑下・ ]浪のさは きに風そしくめる 、世中のしつかならぬよし也 、風そ吹しく 、露しく 、同事にや 、[雑下 ・ ]あなうのはなとは 、 卯花也、 [雑下・ ]山のまに〳〵とは、只山のまゝに也、 [雑下・ ]つくはねの木のもとことに立そよる、つくは ねとは、 常 陸 名 所 也、或は都、峯を云也、此哥は大方の峯を云にや、 [雑下・ ]うけくにあきぬ、あきぬとはうき にあきぬなり、 [ 雑下・ ]詞云、山のほうしとは、山僧事也、 [ 雑下・ ]はしにわか身は成ぬへら也とは、はいた に物のなるよし也 、[ 雑下 ・ ]ひなのわかれにおとろへてあまのなはたきいさりせんとは 、ひなとはゐ中也 、 あま
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二八九 のなはたきとは 、あまのもなとをかきあつむるよし也 、[雑下 ・ ]わくらはにとは 、まれに也 、[雑下 ・ ]詞云 、 みこの宮たちはきの てとけてとは 、解 官なり 、[ 雑下 ・ ]詞云 、時なりける人とは 、ときにあふ人の事也 、[雑下 ・ ]やへむくらしての門させりてへとは 、さといへなり 、 つけよ也 、[ 雑下 ・ ]宮この﹂ ︵ 23ウ︶ たつみしかそすむ 、 たつみは方 巽 也 也、しかは然 也、 [雑下・ ]みるなへにとは、則歟、若はみるほとに歟、 [雑下・ ]ふるさとは見しこ ともあらすおのゝえの、 おのゝえとは、 木をこるよきなり、 仙 人、 こをうちけるに、 木こりよきをゝきてこをみる所、 千年をへてよきのえのくちたる故也、 [雑下・ ]たかみそきゆふつけとりか 唐 衣 た つたの山にをりはへてなく、に はとりにしてをつけて、たつたの関 にはなつ故也、 [雑下・ ]身をはやなから見るよしも哉、昔なからなり、短 哥、 [短歌 ・ ]かくなわにとは 、からくた物に有 、わら〳 〵としてあふら物と云 、えふの身なれはとは 、閻 浮の身なれ は也、 [短歌・ ]貫 之か哥、庭もはたれとは、またらなり、やちくさ、八 千種也、 [短歌・ ]忠峯哥、いかほのぬ ま 、名所也 、のはへまし 、のはへまし 、 のへまし也 、ことのふるなと云事也 、 雲にほえけんとは 、 准 ﹂ ︵ 24オ︶ 南 王、 仙 薬を服 して、にはとり、犬 まても仙 に成 て、雲にのほるを云也、ちかきまもり、左の番長の事を云にや、とのへも る身とは、 右 衛門府生にうつされたるを云にや、 をさ〳〵しくとは、 番長の長はをさといふ、 思いてゝよめるにや、 ゝ よけれはとは 、 弥 過 也 、 旋 頭哥 、[ 旋頭歌 ・ ]花まひなしに 、花もいひなしに 、 たゝなのるへき花のなゝらねは 、 やすらかにいかゝなのるへきと云にや 、 誹諧 、[ 誹諧 ・ ]いくはくの田をつくれはかほとゝきすしてのたをさをあ さな〳 〵とふ 、郭公はしての田をさと云鳥なれは 、わか名をよはふと云也 、[誹諧 ・ ]またく心をはきにあけて 、 またくとは待心也、 [誹諧・ ]むつことも、 無也、 [誹諧・ ]山田のそほつ、おとろかし也、 [誹諧・ ]ならぬお もひ 、不成也 、[誹諧 ・ ]ほしはかすなく有なから人に月なみまとひこそすれ 、 ほしはかすなくとは 、﹂ ︵ 24ウ︶ 数し らすおほけれと也 、人に月なみとは 、その人にたよりなきなり 、[誹諧 ・ ]月のなきにはとは 、是も人にあはんた
二九〇 よりなきと也、 [誹諧 ・ ]ねぬなはとは、池なとにもあり、かつらの様なる物也、 [誹諧 ・ ]たまたすきなるとは、 人に心をかけたるよしなり 、人に心をゝきつ白 浪といへる同事也 、[誹諧 ・ ]はなもひぬかなとは 、人のうへを云 には其人鼻 をひると云事あるにや 、[誹諧 ・ ]さかしらに夏は人まね 、さかしらは 、人のさかしら也 、いたく不 二 心 得 一 歟 、不分明 、[ 誹諧 ・ ]もろこしのよしのゝ山にこもるとも 、もろこしによしのゝ山のあるにはあらす 、た とへはもろこしにもよしのゝ山有とも云にや 、[誹諧 ・ ]まめなれとゝは 、しほうなれとにや 、よけくとは 、もし なひくよし歟 、 不 二 分 明 一 、 [ 誹 諧 ・ ]そへにとてとすれはかゝりかくすれは 、そへにとては 、 たゝ物をさそとう けひくよし也、 [ 誹諧・ ]心をたにも﹂ ︵ 25オ︶ はうらさし、はうらつせし、 [ 誹諧・ ]大哥所御哥、 [大歌・ ]ふ るきやまとまひのうた、神 楽事歟、しもとゆふかつらき山、しもとゆふかつらき山とつゝけたる事は、木をねちてか つらの様 にして木 をゆふをそへて云にや、 [ 大歌・ ]詞云、あふみふり、ふりは其國のふう也、其國のふり也、 [大 歌 ・ ]ねてのあさけの霜のふりはも、しものふりもなり、は文字はやすめ字也、 [ 大歌 ・ ]詞云、神あそひのうた、 これらはみな神 楽事也、 [大歌 ・ ]霜やたひとは、 かすおほく也、 物 のかすおほきをは、 或八雲なともいヘる同事也、 [大歌・ ]まきもくのあなしの山、あなしは大 和國名 所也、 [ 大歌・ ]まかねふくきひの中山おひにける、くろか ねをこの山にて 調 すると云也 、 東 歌 アツマ 或ハヒンカシ 、[東歌 ・ ]あふくまにきりたちくもりあけぬとも君をはやらしま てはすへなし、あふくまとはあふくま河を云にや、すへなし﹂ ︵ 25ウ︶ はせんかたなしなり、 [東歌・ ]めさしとはめ をさしきりてとかめのわらはへとも云 、又は海草とる入 籠とも云 、両 説也 、[東歌 ・ ]けゝれなくは 、心なく也 、 よこほりとは、山のよこほりたるを云、貫 之日記に河尻よりほのほる也、かくてさしのほるに山よこほれるあり、人 にとへは八 幡の宮 なりと云 、[東歌 ・ ]ねこし山こし 、みねこし 、山こし也 、吹風の人ならはことつてゝましと云 にや、 [東歌・ ]詞云、あめのをみかとゝは、天 智天皇 御事也、 [東歌・ ]水 尾、清 和天皇御事也、
東海大学付属図書館・桃園文庫蔵︹古今集略抄︺ ︵ 為重注︶翻刻 二九一 應安三年九月廿九日書写之 一校了 羽林郎将藤︵花押︶ ﹂ ︵ 26オ︶ ﹂ ︵ 26ウ︶