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新学習指導要領における教育課程編成に関する研究:自己形成・関係形成を基軸とした教育計画とその実践

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新学習指導要領における教育課程編成に関する研究

自己形成・関係形成を基軸とした教育計画とその実践

Study on the curriculum organization under the new course of study Education plan and practice based of self-formation and relationship formation

反町 京子 Kyouko SORIMACHI キーワード:社会に開かれた教育課程 資質・能力 カリキュラム・マネジメント  自己形成・関係形成 キャリア教育 1. はじめに 人工知能(AI)などの技術革新は時を待た ず進み、Society5.0 の到来により、産業・経 済の構造的な変革が加速度を増している。こ の予測困難な社会において、教育に求められ ていることも様変わりしている。 来年度から小学校においては完全実施とな る新学習指導要領においても、このような時 代の要請を受け『社会に開かれた教育課程』 をキーワードとして大きな枠組みの改革が行 われている。 本研究では、この改革期において、一体何 がどのように変わり、そしてこれからどのよう に学校教育が進むべきなのか、新学習指導要 領の方向性と小学校における教育課程編成を 通した具体的な実践への道を探る。 2. 学習指導要領の変遷 「経験主義」「単元学習」の時代 〈1 次〉 昭和 22 年の試案として示されたものが初め ての学習指導要領とされている。戦後の教育 改革期としての特色は、以下のとおりである。 ・「修身」「歴史」「地理」を廃止し、「社会科「自 由研究(小学校 4 年生以上)」「家庭科(男 女共学)の新設 ・各教科の時数をあらため、1 年間 35 週と した。 〈2 次〉 昭和 26 年の改訂においては ・4 つの経験領域区分①教科の学習の基礎と なる教科(国語、算数)②社会や自然につ いての問題解決を図る教科 ( 社会、理科 ) ③主として創造的な表現活動を行う教科 ( 音楽、図画工作、家庭 ) ④健康の保持増 進を図る教科 ( 体育 ) に分ける。 ・ 「自由研究」を発展的に解消し、小学校に「教 科外活動」、中学、高校に「特別教育活動」 を導入。 * この学習指導要領において、昭和 22 年の学 習指導要領の「教科課程」という用語に代 えて「教育課程」という用語が用いられた。 系統性重視、基礎学力の充実の時代 〈3 次〉 昭和 33 年~ 35 年の改訂においては ・教育課程の基準としての性格付け  「告示」形式となり、法的拘束力が明確化 ・「道徳」の時間を新設 ・基礎学力の充実(国語、算数) ・科学技術教育の向上(算数、数学、理科 の充実)と中学校「技術科」の新設 ・教育課程は「教科」「道徳」「特別教育活 動」「学校行事」の 4 領域に編成 〈4 次〉

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− 96 − 昭和 43 年~ 45 年の改訂においては ・教育の現代化 時代の進展に伴い、児童・生徒の心身の 発達と教育の系統性を考慮した基本的事 項の精選と集約化 ・時代の進展に対応した教育内容の導入‐教 育内容をより充実(算数に「集合」導入) ・クラブ活動の必修化(中学校) ・教育課程は「教科」「特別活動」「道徳」の 3 領域で編成 「ゆとり」学習の時代 〈5 次〉 昭和 52 年~ 53 年の改訂においては ・教育内容の精選、授業時間数の削減(1 割 減)、教育課程の基準の弾力化による、ゆ とりある充実した学校生活の実現 ・「ゆとりの時間(学校裁量時間)」を新設 ・標準授業時間数の削減 ・各教科等の目標・内容を中核的事項に絞る ・基礎・基本重視と個性・能力に応じた教育 (中学‐選択教科、高校‐習熟度別学級編成) ・社会奉仕・勤労体験学習を提案 〈6 次〉 平成元年の改訂においては ・社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間 の育成 ・新 学力観 ‐ 自ら学ぶ意欲、思考力、判 断力、表現力等の育成 ・「生活科」(小学校 1,2 年)を新設 ・中学校‐習熟度別指導を導入 ・高校社会科‐「地理歴史科」と「公民科」 に分割し、「世界史」を必修化 ・高校家庭科の男女必修化 ・式典における国旗・国歌の取り扱いを明 確化 〈7 次〉 平成 10 年~ 11 年の改訂においては ・基礎・基本を確実に身につけさせ、自ら学 び自ら考える力などの「生きる力」の育成 ・授業時間数の縮減(週 2 単位、時数 3 割 程度減)教育内容の厳選しゆとりの中で、 特色ある教育活動を展開 ・「総合的な学習の時間」(小学校 3 年生以 上)の新設 ・「読み・書き・算(計算)」基礎的・基本的 な知識・技能の確実な定着 ◎学校完全週 5 日制 ♦「生きる力」の定義 健やかな体 ‐ たくましく生きるための健 康や体力 豊かな人間性 ‐ 自らを律しつつ、他人と 協調し、他人を思いやる心や感動する心 確かな学力 ‐ 自分で課題を見つけ、自ら 学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、 よりよく問題を解決する能力 学力重視 * 平成 15 年一部改正 ・学習指導要領のねらいの一層の実現、「基 準性」の明確化(学習指導要領は「最低基準」 であり、示していない内容についても指導 できることを明確化、個に応じた指導の例 示に小学校の習熟度別指導や小・中学校 の補充・発展学習を追加) 〈8 次〉 平成 20 年~ 21 年の改訂においては ・「生きる力」の育成、基礎的・基本的な知 識・技能の習得、思考力・表現力の育成の バランス ・「生きる力」の育成のための言語活動の充 実(全教科を通して) ・小学校 5,6 年生に外国語活動が導入 ・理数教育の充実 ・学習内容の増加・新設、確かな学力のため の授業時数の確保(増加) ♦「生きる力」の継承 健やかな体、豊かな人間性は平成 10 年版 継承 確かな学力‐学力の重要な要素として具体 的に示す ①基礎的・基本的な知識・技能の習得 ②知識・技能を活用して課題を解決するた   めに必要な思考力・判断力・表現力等の育 成 ③学習意欲の向上

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* 平成 27 年一部改正 学習指導要領の改訂が行われている。以 上、総則 ( 解説 ) 付録に示されていること をまとめた。 3. 新学習指導要領の特徴 今回の改訂は昭和 22 年に「教育課程、教 科内容及びその取扱い」の基準として、初め て学習指導要領が編集、刊行されて以来、全 面改定としては 8 回目となっている。 改訂の状況は、時の情勢に左右されながら も時代の子供たちの状況に応じながら外観的 には振り子のように左右に触れているようにと らえてきた。 それは、「経験」か「系統」か、「ゆとり」か「詰 め込み」か、という学力の二言論的な展開で あった。しかし今回の改訂における改訂内容 の趣旨をとらえていくと、二言論を超え、知識・ 技能を活用し課題解決をするために必要な汎 用的な資質・能力を育てることが明確に示さ れている。改訂の内容が今までのものとは大 きく違うのは、このように学校教育の根幹から の見直しがされたからであり、特に「知識」の 体系から「資質・能力」の体系にシフトしたこ とが大きい。 このことは、今回の改訂の作業が従来と異 なり、教科等別の部会はすぐ立ちあげられず、 はじめは「教育課程企画特別部会」で 10 か 月間、子供たちに「育成すべき資質・能力」 について検討されたことからもわかる。 ここで、「社会に開かれた教育課程」という 基本理念、育成を目指す「資質・能力の三つ の柱」という枠組みが示された。 (1)社会に開かれた教育課程の視点 新学習指導要領の基本理念である「社会に 開かれた教育課程」については、中央教育審 議会答申 ( 平成 28 年 12 月 21日 ) において、 下記のように記されている。 『~今は正に、社会からの学校教育への期 待と学校教育が長年目指してきたものが一致 し、これからの時代を生きていくために必要 な力とは何かを学校と社会とが共有し、共に 育んでいくことが好機にある。これからの教 育課程には社会の変化に目を向け、教育が普 遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化 を柔軟に受けていく「社会に開かれた教育課 程」としての役割が期待されている。このよう な「社会に開かれた教育課程」としては、次 の点が重要になる。 ①社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、 よりよい学校教育を通じてよりよい社会を 創るという目標を持ち、教育課程を介して その目標を社会と共有していくこと。 ②これからの社会を創りだしていく子供た ちが、社会や世界に向き合い関わり合い、 自らの人生を切り拓いていくために求めら れる資質・能力とは何かを、教育課程にお いて明確化し育んでいくこと。 ③教育課程の実施に当たって、地域の人的・ 物的資源を活用したり、放課後や土曜日等 を活用した社会教育との連携を図ったりし、 学校教育を学校内に閉じずにその目指すと ころを社会と共有・連携しながら実現させ ること。』( 第 4 章 1 19 頁 ) さらに小学校学習指導要領前文において は、教育の目的(教育基本法第 1 条)、教育 の目標(教育基本法第 2 条)の記述の後に以 下のように記されている。 『教育課程を通して、これからの時代に求め られる教育を実現していくためには、よりよい 学校教育を通してよりよい社会を創るという理 念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校 において、必要な学習内容をどのように学び、 どのような資質・能力を身に付けられるように するのかを教育課程において明確にしながら、 社会との連携及び協働によりその実現を図っ ていくという、社会に開かれた教育課程の実 現が重要となる。』 「社会に開く」ということは従来から示され てきたことではあるが、子供たちが自分の人生 を切り拓くための資質・能力を明確にし、学 校教育が学校の中だけで閉じないものにする という明確な方向が前文の中で述べられてい ることに注視したい。 このように、社会に開かれた教育課程を通

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− 98 − して、理念を社会と共有しつつ、学び続ける 子供を育成することが新学習指導要領の重点 としてまず挙げられる。 さらに学習指導要領が「学びの地図」とし て役割が果たせるように、以下六点を改善す べき事項としてまとめている。 ①「何ができるようになるか」(育成を目指 す資質・能力) ②「何を学ぶか」( 教科等を学ぶ意義と、 教科等間・学校段階間のつながりを踏ま えた教育課程の編成 ) ③「どのように学ぶか」(各教科等の指導計 画の作成と実施、学習・指導の改善・充実) ④「子供一人一人の発達をどのように支援す るか」( 子供の発達をふまえた指導 ) ⑤「何が身に付いたか」( 学習評価の充実 ) ⑥「実施するために何が必要か」(学習指 導要領等の理念を実現するために必要 な方策)〈中央教育審議会答申 21 頁、 学習指導要領解説総則編 2 頁〉 先に述べたように、教育の目的、目標から、 *「生きる力」は学校教育が長年その育成を目 指してきたものであることを改めてとらえなお し、現代的な意義を踏まえ、より具体的に教 育課程を通じ育むことが示されている。 その資質・能力はア「何を理解しているか、 何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習 得)」、ィ「理解していること・できることをど う使うか ( 未知の状況にも対応できる「思考力・ 判断力・表現力等」の育成 )」、ウ「どのよう に社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか ( 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに 向かう力・人間性等」の涵養 )」の三つの柱に 整理されている。 これらは、様々な学力論争をこえて、三つ の資質・能力に絞られてきた。どのような経緯 で三つに絞られていったのかについては、教 育課程企画特別部会の論点整理 (2015.8.26) には次のように記されている。 『この点について海外の事例や、カリキュラ ムに関する先行研究等に関する分析 19 によ れば、育成すべき資質・能力の要素が、知識 に関するもの、スキルに関するもの、情意(人 間性など)に関するものの三つに大きく分類 されている。上記の三要素を、学校教育法第 30 条第 2 項が定める学校教育における重視 すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・ 表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」) に照らし合わせると、これらの考え方は大きく 共通するものであることがわかる。(10 頁 ) このような経緯を経て育てるべき資質・能 力が明確にされている。総則の解説 3 頁にも 『~知・徳・体にわたる「生きる力」を子供た ちに育むために「何のために学ぶのか」という 各教科等を学ぶ意義を共有しながら、授業の 創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出し ていくことができるようにするため、全ての教 科等の目標及び内容を「知識及び技能」、「思 考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、 人間性等」の三つの柱で再整理した。』とある。 *「生きる力」は平成 8 年(1996 年)の中 央教育審議会において「確かな学力、豊か な人間性、健康・体力」とされ、さらに平 成 19 年(2007 年)の学校教育法改正(第 30 条第 2 項)において「①基礎的な知識及 び技能②これらを活用して課題を解決する ために必要な思考力、判断力、表現力その 他の能力③主体的に学習に取り組む態度」 と概念規定されている。    (2)育成すべき資質・能力の明確化 新学習指導要領第 1 章総則の第 1 の 3 に おいて育成を目指す資質・能力は次のように 表現されている。 ⑴知識及び技能が習得されるようにするこ と。 ⑵思考力、判断力、表現力等を育成すること。 ⑶学びに向かう力、人間性等涵養すること。 育成すべき資質・能力に対応した教育目標・ 内容については、「資質・能力を踏まえた教育 目標・内容と評価の在り方に関する検討会」 が示した 3 つの視点がある。

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ア教科等を横断する汎用的なスキル ( コン ピテンシー ) 等に関わるもの イ教科の本質に関わるもの ( 教科等ならで はの見方・考え方など ) ウ教科等に固有の知識や個別スキルに関  するもの 同検討会において、学習評価についてもこ れらに対応すべく、評価の基準を「何を知っ ているか」にとどまらず、「何ができるか」へと 改善することが必要であることが述べられてい る。 このように、教科の内容が先にあってその 中で資質・能力をいかに育むかという従来の 論理の導き方が逆になり、まずは、「目の前の 子供たちにどんな力を付けなくてはならない のか」から学校教育全体で育てるべき資質・ 能力を明確にしていく教育活動が求められて いる。 (3)カリキュラム・マネジメントの確立に よる教育活動の質の向上 「カリキュラムユーザーからカリキュラムメー カーに」 この言葉は私自身が平成 11 年から 3 年間 文部省 ( 当時 ) の研究開発校として総合的な 学習の時間の研究を進めた時に、指導者から 教えていただいた言葉である。当時は総合的 な学習の時間が導入される前であったが、こ れからは教師自身が子供たちに付けたい力を 明確にしてカリキュラムを創っていくことが新 しい学びであると共通理解した言葉である。 今回の改訂で一人一人の教師自身が教育課 程編成の主体になること、全ての教職員がカ リキュラム・マネジメントの担い手であること が明確に示されている。私自身の中では時代 を経てこの言葉がよみがえっている。 中央教育審議会答申第 1 部第 4 章 2 学習 指導要領等の改善の方向(2)教育課程を軸 に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す 「カリキュラム・マネジメント」の実現において の項目では、以下三の側面が示されている。 ①各教科等の教育内容を相互の関係で捉 え、学校教育目標を踏まえた教科横断 的な視点で、その目標達成に必要な教 育の内容を組織的に配列していくこと。 ②教育内容の質の向上に向けて、子供たち の姿や地域の現状等に関する調査や各 種のデータ等に基づき、教育課程を編成 し、実施し、評価して改善を図る一連の PDCA サイクルを確立すること。 ③教育内容と、教育活動に必要な人的・物 的資源等を、地域等の外部の資源も含め て活用しながら効果的に組み合わせるこ と。(23 頁 ) このようにして全職員で作り上げた特色あ るカリキュラムをグランドデザインとして PDCA サイクルを確立し、家庭・地域の意識や取り 組みとその方向性を共有していくことが重要で あると記されている。 (4)「主体的・対話的で深い学び」の実現に よる授業改善 中央教育審議会答申第 1 部第 7 章 2 で以 下の説明がある。 『「主体的・対話的で深い学び」の実現とは、 特定の指導方法のことでも、学校教育におけ る教員の意図性を否定することでもない。人 間の生涯にわたって続く「学び」という営みの 本質を捉えながら、教員が教えることにしっか りと関わり、子供たちに求められる資質・能 力を育むために必要な学びの在り方を絶え間 なく考え、授業の工夫・改善を重ねていくこと である。』(49 頁) 補足資料(11 頁)主体的・対話的で深い 学び実現(「アクティブ・ラーニング」の視点か らの授業改善)についての項目においては「主 体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」そ れぞれについて以下のように記されている。 【主体的な学び】 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャ リア形成の方向性と関連付けながら見通しを もって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振 り返って次につなげる「主体的な学び」が実

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− 100 − 現できているか。 【対話的な学び】 子供同士協働、教職員や地域の人との対話、 先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通 じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」 が実現できているか。 【深い学び】 習得・活用・探究という学びの家庭の中で、 各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を 働かせながら、知識を相互に関連付けてより 深く理解したり、情報を精査して考えを形成し たり、問題を見いだして解決策を考えたり、 思いや考えを基に創造したりすることに向かう 「深い学び」が実現できているか。 (補足資料 11 頁) 同じ内容の記載は答申49頁にもみられる。 「アクティブ・ラーニングを考える」(教育課 程研究編著 2016.8.26)の中では『生徒が変 わる、学校が変わるアクティブ・ラーニング』 というテーマの下記の寄稿がある。 『かつて「教育」といえば、単に「生徒たち に何かを教えること」を意味していた。しかし 今や「教育」といえば、それは、「ますます不 確かで、移ろいやすく、先が見えなくなってい る社会という海で、自分たちが進むべき海路 を見つけるために頼りとなるコンパスや航海術 を生徒たちが確かに磨けるようにすること」を 意味する。(中略)子供たちをスマートフォンよ りも賢くしたいというのであれば、我々は学ん だことを子供たちがそっくり再生できるかどう かという次元を超えて、子供たちが既知のこ とから推測をしたり、経験したことがない状況 で知識を創造的に活用できるかどうかといっ た視点から物事を見ていかなければならない。 情熱と思いやりがあり、思慮深い教師によっ て実践されている「アクティブ・ラーニング」は、 ・学びが中心となって、関係づくりを促し、学 習者が主体的に学ぶのを助けられる ・学びが社会的で協働的なものであることを 確かにする ・生徒の意欲と歓声に非常に会う ・個々の違いや学習者のニーズに対応する ・学校の内外で、実際の活動と教科を横並び に結びつくことが進められる といった学習環境を作り上げる強力なツー ルとなってきている。アクティブ・ラーニング は、知識が行き詰まり、急速にその価値を落 とすような世界から、コミュニケーションや協 働力が高まり、増えていくような世界に、学 校を変える。その手助けをしてくれる可能性が ある。』(OECD 教育・スキル局長アンドレアス・ シュライヒャー氏の寄稿より) 以上、授業改善としてこのアクティブ・ラー ニングの視点を持ち、全職員がカリキュラムを デザインし、教育課程を編成、実践評価する ことで、新学習指導要領の趣旨、新しい時代 の教育の実現を図ることが現場に課せられて いる。 この趣旨は私が学校長として学校経営のグ ランドデザインから育てる力を教職員、子供、 地域と共通理解し、教育内容と方法を具現化 した教育課程編成とその実践に通じると考え る。以下実践を基に述べる。 4. 育てる資質・能力を明確にした教育計画 ⑴自己形成・関係形成を基軸とした学校経営 【平成 25 年度の千葉市立大宮台小学校長在 任中における実践から】 おそらく日本全国どこの学校でも学校教育 目標には「生きる力」の育成を目指す知・徳・ 体の三つの視点が盛り込まれている。教育目 標の根幹にある教育理念は不易共通である。 当時在任校でも、三つの視点を基に 「進ん で学び心身ともに健康な子供の育成」 を学校 教育目標として掲げていた。この目標を達成 するために教育課程を編成した。 当時校長職にあった私は、まず育てるべき 『学力』を明確にし、「生きる力」を能力レベ ルで共通理解しておくことから始めた。 この時、「生きる力」を育む能力は 「問題解 決能力」 「関係形成能力」 「自己管理能力」 の 三つであると、とらえた。これは、前述した知・徳・ 体の三つの視点の中におさまる中心学力でも ある。 そして確かな学力を身に付け 「学力向上」 を課題とするとき、その根幹に子供たちの「学

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習意欲」の喚起と持続が問題となっているこ とを重視した(全国学力・学習状況調査より)。 教育活動の中で一番課題となり取り組まな くてはいけないことは「なぜ学ぶのか」という 「学ぶ意味と価値」を子供自身が知り、学習 意欲が喚起されることである。この考えを教 育計画のスタートとした。この課題解決の糸 口として、キャリア教育の視点を教育活動に 取り入れ具現化を図った。 まずは、学校経営のグランドデザインの中核 に学校教育の目指す方向を「自己形成・関係形 成」とし、言葉はわかりやすく「自分づくり」「か かわりづくり」と言い換え、職員の共通理解を 図った。(図 1 学校経営グランドデザイン参照) 従来の研究により蓄積された「大宮台小の 教育」が冊子としてまとめられ継承されてい る。それを生かし、育てるべき「自己形成」「関 係形成」の視点から見直し、特に体験活動と 言語活動の充実を重点として取り組んだ。 次に、キャリア教育校内研修を行った。当 時、千葉市においては「生き方学習に関する 研究」としてキャリア教育について研究が進 められていた。平成 19 年度にはキャリア教育 の手引書「千葉市キャリア教育ガイドブック」 が作成され市内の全職員に配付されている。 ガイドブックを使い「キャリア教育」の外観を とらえ、みなが同じスタートラインに立てるよ うに共通理解を図った。 さらに、教務主任が中心となって教育課程 の編成を行い全職員でカリキュラム作成に取 り組んだ。 (2)「生きる力」の獲得を目指して  先にも述べたように学校教育の根幹を貫 く理念を「子供たちが学ぶ意味と価値をとらえ ること」とし、たくましく生きるための「自分 づくり、かかわりづくり」を基軸とした教育目 標のもとに、具体的には、自分づくり(自己形 成)とかかわりづくり(関係形成)の二つを 発達課題とし、文部科学省が示した基礎的・ 汎用的能力をふまえ、資質・能力を明確にした。 それは「将来設計能力、情報活用能力、人間 関係形成能力」の三つである。(図 2 教育活動 全体で育てる力 参照)。これら育てる力を各活 動で明確にとらえ、全教育活動を通しての実 践を試みた。 (3)全体を俯瞰しキャリア教育の視点で見 直す ①「全体計画」「年間計画」を俯瞰する 学年、教科すべての全体計画を俯瞰し、キャ リア教育の視点で見直すことから始めた。全 体計画の一覧からキャリア教育としてつながる ものが見えてくる。まず既存の計画の中で関 連があると思われるものに枠囲いしたり、マー クをつけたりすることから始めた。 年間計画も同じように、重点的にキャリア 教育の視点を取り入れて指導できるところを見 つける。特に、「人間関係形成能力」「情報活 用能力」「将来設計能力」を育成することが できるものをマークし、指導するときに意識す ることにした。指導者が指導する際に意識す ることで、子供の学びの質が変わってくること を期待した。 実践を重ねる中で、全体像の縦(学びのつ ながり)、横(学びの広がり)の学びの道筋が 見えてきた。 校内研修「みんなでプログラムを俯瞰する」 ※職員間での共通理解を深めることで、6 年間を 通した指導体制を整えることができる。

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− 102 −8 図 1 学校経営グランドデザイン 2 学びの意味と価値を実感する教育活動 (略) * 図表はすべて平成25 年度に作成実践したもの 8 図 1 学校経営グランドデザイン 2 学びの意味と価値を実感する教育活動 (略) * 図表はすべて平成25 年度に作成実践したもの

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②教科等を横断するユニットづくり テーマで貫く《学びのつながり》 本校では、キャリア教育のテーマを『ゆめ』 『しごと』とし、1 年生から 6 年生までを通 して自分及び自分を取り巻くすべての社会環 境へのかかわりに関心を持ち、生涯にわたっ てその子なりの夢を持ち続ける基盤づくりを めざすこととした。これが縦の学びのつなが りである。それらは、地域の支援や幼・保・ 小・中の連携を大切にした体系的な実践が できるように工夫している 育てる力を明確にした《学びの広がり》  さらに各学年においては、「各教科」「道徳」 「外国語活動」「総合的な学習の時間」「特別 活動」「日常生活」の全教育活動においてキャ リア教育の視点を踏まえた。 指導計画を立て、子供たちのキャリア発達 を支援できるようにしている。これが横の学 びの広がりである。 なお、育てる力については、子供には、言 葉をかえて日常の様々な機会に確認し、保護 者、地域にもわかりやすく例を挙げ伝えた。 同校においては現在『かがやく生き方力りょく』 として、発達段階に応じて行動レベルで具 体的な姿を示し常掲し、意図的計画的に指 導、子供たち自身が日常的に意識し活用し ている。 (4)異学年、異年齢、地域を往還す体験や 交流活動 教科の学習においては、特に体験活動や交 流活動に留意し、キャリア教育を視点とした プログラムを考えた。 このように、キャリア教育は教科の中で共 通する「学びの価値」としてどの教科学習にお いても実践できた。教科学習としてのねらい を達成するともに、育てるべき力を明確にし、 意図的 ・ 計画的にキャリア教育が教育活動全 体で行われることの意義は実践を通してわか る。大切なことは理念を共有し、目の前にい つ子供たちの実態と教師の願いから、育む力 を共通理解しておけばよい。計画表にちょっと したマークをつけるかつけないかで変わる。 そのように一つ一つの学習がキャリア教育の 視点を持つことで、さらに子供一人一人の未来 につながる豊かな学びとなる。 実践した平成 25 年度は、校外学習や外部 指導者授業を実施するにあたり、教育課程編 成上の位置づけを明確にするとともに 6 年間 を通した指導ができるようにした。活動のひと つひとつについて「自分づくり」「かかわりづく り」につながる資質・能力の育成をとらえ、異 年齢、異学年、地域との学びの往還を意識し たことで子供の意識も高まった。そして、実 際に活動もより充実した。(図 3 校外学習・外部 指導者授業 参照) 図 2 教育活動全体で育てる力 ②教科等を横断するユニットづくり テーマで貫く《学びのつながり》 本校では、キャリア教育のテーマを『ゆめ』 『しごと』とし、1年生から6年生までを通 して自分及び自分を取り巻くすべての社会環 境へのかかわりに関心を持ち、生涯にわたっ てその子なりの夢を持ち続ける基盤づくりを めざすこととした。これが縦のまなびのつな がりである。(図略「学びのつながり」)それ らは、地域の支援や幼・保・小・中の連携を 大切にした体系的な実践ができるように工夫 している 育てる力を明確にした《学びの広がり》 さらに各学年においては、「各教科」「道徳」 「外国語活動」「総合的な学習の時間」「特別 活動」「日常生活」の全教育活動においてキャ リア教育の視点を踏まえた。 指導計画を立て、子供たちのキャリア発達 を支援できるようにしている。これが横の学 びの広がりである。(図略「学びの広がり」) なお、育てる力については、子供には、言 葉をかえて日常の様々な機会に確認し、保護 者、地域にもわかりやすく例を挙げ伝えた。 同校においては現在『かがやく生き方力』 として、発達段階に応じて行動レベルで具体 的な姿を示し常掲し、意図的計画的に指導、 子供たち自身が日常的に意識し活用している。 (4)異学年、異年齢、地域を往還する 体験や交流活動 教科の学習においては、特に体験活動や交 流活動に留意し、キャリア教育を視点とした プログラムを考えた。 このように、キャリア教育は教科の中で共 通する「学びの価値」としてどの教科学習に おいても実践できた。教科学習としてのねら いを達成するともに、育てるべき力を明確に し、意図的・計画的にキャリア教育が教育活動 全体で行われることの意義は実践を通してわ かる。大切なことは理念を共有し、目の前に いつ子供たちの実態と教師の願いから、育む 力を共通理解しておけばよい。計画表にちょ っとしたマークをつけるかつけないかで変わ る。そのように一つ一つの学習がキャリア教 育の視点を持つことで、さらに子供一人一人 の未来につながる豊かな学びとなる。 実践した平成 25 年度は、校外学習や外部指 導者授業を実施するにあたり、教育課程編成 上の位置づけを明確にするとともに6年間を 通した指導ができるようにした。活動のひと つひとつについて「自分づくり」「かかわりづ くり」につながる資質・能力の育成をとらえ、 異年齢、異学年、地域との学びの往還を意識 したことで子供の意識も高まった。そして、 実際に活動もより充実した。(図 3 校外学習・ 外部指導者授業 参照) 《発達課題》 生命尊重意識 情報活用能力 (活用する力) 関係形成 (かかわりづくり) 将来設計能力 (見通す力) 自己理解・自己管理 キャリアプランニング 自己形成 (自分づくり) 人 間 関 係 形 成 能 力 (かかわる力) 課題対応 社会形成 人間関係形成

生きる力

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− 104 −10 図3 校外学習・外部指導者授業

1 構造図

Ⅱ 体験・交流活動を通して育てる力

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(5)実践を通して ①子供の変容 子供にはキャリア教育に関するアンケート を現在も定期的に実施している。 アンケートの項目は図 4 のように設定し、1 ~ 3 は「関係形成」4 ~ 6 は「自己管理・理解」 7 ~ 9 は「課題対応」10 ~ 12 は「キャリアプ ランニング」に関する項目とした。 図 4 キャリア教育アンケート 図 5 の結果は 5 年生の子供のものである。 24 年度のアンケートは 24 年の 11 月に、25 年度は 25 年の 7 月に実施した。 平成 24 年の時はどの項目において数値が 低く、普段の生活でも何かに対して積極的に 取り組むといった姿勢はなかなか見ることがで きなかった。自分に自信を持つことができず、 失敗や間違えを恐れながら学習や活動に取り 組んでいた。しかし、25 年度の前期に実施し たアンケート結果では、全体的に数値が上がっ ており、特に9 番の課題対応や10・11番のキャ リアプランニングの項目においては、大きく数 値が伸びている。 実際の子供の姿を見ても、普段の目つきや 顔つきが明るくなり、はきはきとした姿が見ら れるようになってきている。 図 5 子供の変容 アンケート結果は学年ごとにグラフに集計 し、学年の傾向をつかむとともに、個人の変 容についても比較検討することで、次の活動 に生かすことができるようにしていった。 子供に不足している力はどの部分なのか、 つけたい力はどこなのかをしっかりと見据えた うえで、活動の計画を立て、実施していくこと ができた。( 実施年度は平成 24、25 年度 ) 5 年生はこのアンケート実施前に「移動教室」 を実施しており、そこでは友達や自然とかか わりながら、自分自身の役割をしっかりと果た し、達成感や満足感を十分に味わうことがで きたと考えられる。 他の学年においても、数値が上がっている 子供が多くみられるが、逆に数値が下がった 学年もあった。6 年生である。これは、6 年 生という最高学年になるとともに、発達段階 的に「アイデンティティの確立」時期に入って きており、それに伴い自己認知能力が向上し たことにより、自己評価を今まで以上に厳しく とらえるようになったとも考えられる。 つまり、子供の変容を見取っていくうえで は、数値が右肩上がりで向上していくことを よしとするのではなく、その子供の発達段階 を十分に考慮したうえで判断していく必要が ある。 したがって、数値の下がった 6 年生におい ても、自分自身を見つめていく「自己管理・理解」 の分野において十分な成果があったととらえて 良いと考える。 何よりも、ただ単に活動をするのではなく、 事前指導をしっかりと行い、自分の課題を十 (5)実践を通して ①子供の変容 子供にはキャリア教育に関するアンケート を現在も定期的に実施している。 アンケートの項目は図4のように設定し、 1~3は「関係形成」4~6は「自己管理・ 理解」7~9は「課題対応」10~12は「キ ャリアプランニング」に関する項目とした。 図4 キャリア教育アンケート 図5の結果は5年生の子供のものである。 24 年度のアンケートは 24 年の 11 月に、24 年度は 25 年の7月に実施した。 平成 24 年の時はどの項目において数値が 低く、普段の生活でも何かに対して積極的に 取り組むといった姿勢はなかなか見ることが できなかった。自分に自信を持つことができ ず、失敗や間違えを恐れながら学習や活動に 取り組んでいた。しかし、25 年度の前期に実 施したアンケート結果では、全体的に数値が 上がっており、特に9番の課題対応や 10・11 番のキャリアプランニングの項目においては、 大きく数値が伸びている。 実際の子供の姿を見ても、普段の目つきや 顔つきが明るくなり、はきはきとした姿が見 られるようになってきている。 図5 子供の変容 アンケート結果は学年ごとにグラフに集計 し、学年の傾向をつかむとともに、個人の変 容についても比較検討することで、次の活動 に生かすことができるようにしていった。 子供に不足している力はどの部分なのか、 つけたい力はどこなのかをしっかりと見据え たうえで、活動の計画を立て、実施していく ことができた。(実施年度は平成 24、25 年度) 5年生はこのアンケート実施前に「移動教 室」を実施しており、そこでは友達や自然と かかわりながら、自分自身の役割をしっかり と果たし、達成感や満足感を十分に味わうこ とができたと考えられる。 他の学年においても、数値が上がっている 子供が多くみられるが、逆に数値が下がった 学年もあった。6年生である。これは、6年 生という最高学年になるとともに、発達段階 的に「アイデンティティの確立」時期に入っ てきており、それに伴い自己認知能力が向上 したことにより、自己評価を今まで以上に厳 しくとらえるようになったとも考えられる。 つまり、子供の変容を見取っていくうえで は、数値が右肩上がりで向上していくことを よしとするのではなく、その子供の発達段階 を十分に考慮したうえで判断していく必要が ある。 したがって、数値の下がった6年生におい ても、自分自身を見つめていく「自己管理・ 理解」の分野において十分な成果があったと とらえて良いと考える。 何よりも、ただ単に活動をするのではなく、 事前指導をしっかりと行い、自分の課題を十 11 (5)実践を通して ①子供の変容 子供にはキャリア教育に関するアンケート を現在も定期的に実施している。 アンケートの項目は図4のように設定し、 1~3は「関係形成」4~6は「自己管理・ 理解」7~9は「課題対応」10~12は「キ ャリアプランニング」に関する項目とした。 図4 キャリア教育アンケート 図5の結果は5年生の子供のものである。 24 年度のアンケートは 24 年の 11 月に、24 年度は 25 年の7月に実施した。 平成 24 年の時はどの項目において数値が 低く、普段の生活でも何かに対して積極的に 取り組むといった姿勢はなかなか見ることが できなかった。自分に自信を持つことができ ず、失敗や間違えを恐れながら学習や活動に 取り組んでいた。しかし、25 年度の前期に実 施したアンケート結果では、全体的に数値が 上がっており、特に9番の課題対応や 10・11 番のキャリアプランニングの項目においては、 大きく数値が伸びている。 実際の子供の姿を見ても、普段の目つきや 顔つきが明るくなり、はきはきとした姿が見 られるようになってきている。 図5 子供の変容 アンケート結果は学年ごとにグラフに集計 し、学年の傾向をつかむとともに、個人の変 容についても比較検討することで、次の活動 に生かすことができるようにしていった。 子供に不足している力はどの部分なのか、 つけたい力はどこなのかをしっかりと見据え たうえで、活動の計画を立て、実施していく ことができた。(実施年度は平成 24、25 年度) 5年生はこのアンケート実施前に「移動教 室」を実施しており、そこでは友達や自然と かかわりながら、自分自身の役割をしっかり と果たし、達成感や満足感を十分に味わうこ とができたと考えられる。 他の学年においても、数値が上がっている 子供が多くみられるが、逆に数値が下がった 学年もあった。6年生である。これは、6年 生という最高学年になるとともに、発達段階 的に「アイデンティティの確立」時期に入っ てきており、それに伴い自己認知能力が向上 したことにより、自己評価を今まで以上に厳 しくとらえるようになったとも考えられる。 つまり、子供の変容を見取っていくうえで は、数値が右肩上がりで向上していくことを よしとするのではなく、その子供の発達段階 を十分に考慮したうえで判断していく必要が ある。 したがって、数値の下がった6年生におい ても、自分自身を見つめていく「自己管理・ 理解」の分野において十分な成果があったと とらえて良いと考える。 何よりも、ただ単に活動をするのではなく、 事前指導をしっかりと行い、自分の課題を十

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− 106 − 分に把握させた上で活動に取り組ませ、事後 の振り返りを充実させることで、子供がより真 剣な眼差しで活動に取り組んでいる姿が多く 見られるようになってきたことが最も重要な変 容である。 ②成果と課題 《成果》 成果は大きく分けて二つある。一つは子供 に関するもので、もう一つは学校や職員に関 するものである。 子供に関する成果としては、子供の変容の 項目で触れたように、子供はキャリア教育で 培いたい力の様々な領域において変化が見ら れるようになったことである。 様々な学習や活動に対して、ただ「楽しい」 のではなく、真剣に取り組むことや、課題に立 ち向かっていき、それを解決した時に味わうこ とができる達成感に対して「楽しい」と感じる ことができるようになってきたということが大 きな成果である。 これは子供がこれから長い人生を歩んでい く上でとても重要な能力であると考える。どん な困難に対しても「楽しい」と感じながら立ち 向かっていくことができれば、まさにそれが「生 きる力」となっていくはずである。 次に学校や職員に関する成果である。 学校は地域と密接に連携をしながら子供を 育てていく必要がある。学校だけではできな い学習の素材を地域はたくさん持っている。 刀鍛冶や町のお店などと連携を図っていくこと で、学校全体の体験活動が活性化されていっ たと考えられる。また、職員も地域の人材や 素材に積極的に目を向け、教材開発を行うこ とで、より地域と密接な関係を築いていくこと ができた。 そして、キャリア教育に関する共通理解を 図っていったことで、職員が同じ目標に向かっ て活動の計画を立て、実施し、次につなげ ていくといった一連の流れができてきたこと が子供へ大きな影響を及ぼしてきたと考えら れる。 《課題》 課題は、「中学校との連携」である。小学 校の教育課程でキャリア教育を推進していっ たとしても、その流れが中学校で止まってし まったり、異なる方向になってしまったりして は、子供に対する効果は半減してしまう。 子供の気持ちの中に一貫した流れを作り上 げていくことがより効果を高めていくことにな る。 子供が「小学校は○○だったけど、中学校 でも同じなんだ」と感じることができるように、 小中学校でお互いに情報を交換していく必要 がある。 特にキャリア教育においては、まだまだ理 解や認知に差があり、共通した概念で一貫し た教育活動が行われているとは言えないのが 現状である。 まずは、小中学校でそれぞれの授業や特別 活動を参観したり、行事に参加したりすると いった交流を図りながらお互いの理解を深め ていく必要がある。 そして、お互いの意見を出し合える機会を 設定し、互いの良いところや改善するべきとこ ろなどを意見交換しながら、発達段階に応じ た課題の設定を一貫した形で模索していく必 要がある。 さらに、保護者への啓発や地域との連携を 充実させていく必要もある。子供を小学校・ 中学校・保護者・地域で守り、育てていくた めには、学校が発信源となり、イニシアチブ をとっていく。学校経営説明会や保護者懇談 会、学校評議委員会などにおいて、十分な説 明を行い、学校でのキャリア教育を家庭や地 域へと広げていくことがより効果的なキャリア 教育環境へとつながってくと考える。 以上は、平成 25 年度に千葉市立大宮台小 学校での実践をもとにまとめたものである。

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5 さらなる開かれた教育課程を目指して 校長職在任中の実践ではあるが、自己形成、 関係形成を基軸に、異年齢、異学年、地域と 交流を教育課程に位置付け実践したことで、 一見ばらばらに見える教科の学習や様々な活 動がキャリア教育という太い串でつながった。 現場では、教育課程の編成というと、教科 の指導内容や時数の計算に着眼点があり、そ の根幹にどのような資質・能力を育むのかに ついてはあまり議論されてこなかった。 新学習指導要領において「社会に開かれた 教育課程」をキーワードとして、育てるべき資 質・能力を明確に示し、カリキュラム・マネジ メントの重要性を伝えたことは大きなパラダイ ムの変換であるととらえる。 この大きな好機をとらえ、従来から言われ てきた子供たちがたくましく生きるための「生 きる力」を育てる教育活動の実践が期待され ている。 特に学校長の強いリーダーシップが必要で あり、その方向付けが重要な役割を果たすこ とは言うまでもない。それは教育活動の趣旨 が保護者、地域に理解され、交流を通して「生 きる力」を育むため原動力となるからである。 活動とその趣旨が学校と地域を往還すること は、これからの「社会に開かれた教育課程」 の方向と一にしている。 まずは、目の前の子供たちにどんな力をつ けることが必要なのか、保護者、地域の願い は何か、しかり捉えることから新しい教育が 始まる。さらに、喫緊の課題としては、学校 の統廃合の問題やそれに伴う学校間連携に課 題も大きい。 特に、子供たち一人一人が、よりよい生き方 を選択できるようにするために幼・保・小・中・ 高(大)をつなぐ長い期間で全体像を作るこ とが大切である。この学びのつながりを将来、 考えていくことが必要となる。 今、発達課題をとらえ、幼・保・小・中・ 高をその時間と空間をつなぐための方策が進 められている。小学校では自分づくりに関す る様々な記録を整理し、ファイルに綴じ、中 学校へと学びを伝えることが始まっている。 2020 年度より小学校に導入される「キャリア パスポート」( 仮称 ) も話題となっている。 さらに、実践単元の構想が次の課題として 挙げられる。特に今回総則の解説付録 6 に例 示された「現代的な諸課題に関する教科横断 的な教育内容の参考資料」は、新学習指導 要領による教育課程編成において是非取り入 れたい。地域や子供たちの実態に応じて様々 な工夫がされようが、共通して「防災」の総合 ユニットは研究を進めていく必要がある。教 科等横断型の総合ユニットが、教科間のみな らず、学校と地域を往還するようなダイナミッ クな構想が待たれるところである。 【参考・引用文献】 ・幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び 特別支援学校の学習指導要領の改善及び 必要な方策等について(答申)中央教育審 議会  平成 28 年 12 月 21日 文部科学省 ・教育課程企画特別部会 論点整理  平成 27 年 12 月11日 文部科学省 ・小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解 説 総則編  平成 29 年 7 月 文部科学省 ・新しい学習指導要領の考え方 - 中央教育審 議会における議論から改定そして実施へ - 平成 29 年 9 月 28 日 文部科学省 ・カリキュラム・マネジメント入門  平成 29 年 3 月1日 田村学 ・今求められる学力と学びとは  平成 28 年 12 月 石井英真 ・「資質・能力」と学びのメカニズム  平成 29 年 5 月 30 日 奈須正裕 ・教育フォーラム 2002 アート・感性・共生  平成 15 年 3 月 辻村哲夫 ・全連退記念講演「新学習指導要領について」 (会報) 平成 29 年 9 月 30 日 銭谷眞美 ・アクティブ・ラーニングを考える  平成 28 年 8 月 26 日 教育課程研究会 ・小学校キャリア教育の手引き

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− 108 − 平成 23 年 5 月 文部科学省 ・実践 キャリア教育ガイドブック 2008 平成 20 年 3 月 千葉市教育センター ・改訂 キャリア教育ガイドブック 小中 9 年間をつなぐ 2018 平成 30 年 3 月1日 千葉市教育センター ・変わる ! キャリア教育 平成 28 年 8 月 25 日 文部科学省 国立 教育政策研究所 生徒指導・進路指導研 究センター ・Society5.0 に向けた人材育成~社会が変わ る、学びが変わる~ 平成 30 年 6 月 5 日 文部科学省 ・千葉市立大宮台小学校教育計画「大宮台小 の教育」 平成 24、25 年

参照

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