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<論文>ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題--日本と韓国の実践から

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(1)人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ●論文. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題 ―日本と韓国の実践から1 近畿大学人権問題研究所准教授 熊 本 理 抄. はじめに 内閣府が 2013 年に報告した『平成 25 年版子ども・若者白書』によると、 子どもの相対的貧困率が 2009 年には 15 . 7 %となり、さらに、大人が1人の 世帯の相対的貧困率は 50 . 8 % と、大人が 2 人以上いる世帯の相対的貧困率 12 . 7 %に比べて 4 倍の高さとなっている。子どもがいる現役世帯のうち大人 が 1 人の世帯の相対的貧困率は OECD 加盟国中最も高くなっている。 厚生労働省が 2013 年に報告した『平成 23 年度全国母子世帯等調査結果報告』 には、日本の母子世帯の厳しい実態が示されている。母子世帯の 80 . 6 %が就 業しているものの、そのうち正規の職員・従業員は 39 . 4 %にとどまっており、 派遣社員・パート・アルバイト等が 52 . 1 %を占める。母子世帯の平均世帯収 入は 291 万円、平均就労収入は 192 万円である。常用雇用者の平均就労収入は 270 万円であるが、臨時・パートの平均就労収入は 125 万円である。「困って いること」は、 「家計」が 45 . 8 %と最も多く、次に、 「仕事」が 19 . 1 %と続く。 ひとり親家族の女性が直面する貧困の背景には、ジェンダーによる就業形態 や賃金構造、結婚出産による仕事中断・再就職型のライフスタイル、女性雇用 の非正規化・不安定化・低賃金化、公私領域における性別分業によって被る社 会的不利益などの問題がある。そこに学歴という属性が交差する。性別分業に 1 本稿は、科学研究費補助金研究分担金(基盤研究(C):課題番号 22530651、代表:桔川純子)の 研究成果の一部に基づいている。. - 61 -.

(2) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 基づく「家族」規範によって後景に追いやられていたり、ジェンダー構造に よって不可視化されてきた女性の貧困は、死別・離婚・非婚によって顕在化し てくる。ひとり親家族の貧困を解決するためには、こうした社会構造の問題に 対する理解と抜本的改善が求められることは言をまたない。 本稿は、筆者を含む共同研究において行った、ひとり親家族の女性を対象と した就労支援に関する日本と韓国でのインタビュー調査2をもとに、ひとり親 家族の女性に「仕事をつくる」といった視点から、日本における今後の課題を 検討していくことを目的とする。 なお、近藤理恵によると、「現在、フランスでは『シングルマザー』という 言葉は差別的であると考えられ、ほとんど使用されて」おらず、一方の親が死 亡している場合にのみ「ひとり親」という表現をし、親が生きている場合には 「別れた親」という表現が用いられているという。 「親が死亡していない限り、 子どもにとって、親は 2 人存在するから」であり、 「別れて暮らす親との関係 調整に力を入れているフランスの家族政策」がこうした表現の背景に存在して いることを紹介している(近藤 2013 : 3)。本稿では、決して最善の表現では ないが、「ひとり親家族の女性」を用い、引用などにおいては、「シングルマ ザー」「母子家庭」 「母子世帯」を用いる。. 1.韓国におけるひとり親家族に対する支援活動 まず、2009 年、2010 年、2012 年に、筆者が共同研究者たちとともに行った インタビュー調査をもとに、韓国のひとり親家族に対する支援活動や当事者団 体による活動内容を紹介する3。 韓国のひとり親家族に対する支援の状況やひとり親家族政策の歴史について 2 インタビュー内容は、インタビュー実施当時のものによる。 3. 韓国の社会的企業の実践ならびに社会的企業育成法については、日本希望製作所の桔川純子さん に、多くの知識や示唆を得た。. - 62 -.

(3) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. は、近藤理恵著『日本、韓国、フランスのひとり親家族の不安定さのリスクと 幸せ―リスク回避の新しい社会システム』(学文社,2013 年)に詳しい。. ソウル市ひとり親家族支援センター ソウル市ひとり親家族支援センターは、ソウル市のひとり親家族の生活の安 定および自立の強化のための総合サービス支援を目的に、ソウル市女性家族財 団がソウル市から委託を受けて、2009 年 6 月から運営している。韓国で唯一、 自治体条例で設置されたセンターで、予算はすべてソウル市から出されてい る。支援内容として、教育、保育、相談、文化プログラム、関連機関ネットワー キングを通した情報提供、多様な支援の連携、認識改善キャンペーンなどが行 われている。また、自尊、福祉、地域社会とのネットワーク、総合的サービス などを主軸にしながら、ひとり親家族の女性たちが「集まる」ための支援も展 開されている。中央政府から委託されてメンタルケアも実施されている。 就業支援としては、相談、情報提供、インターンシップ受け入れなどが行わ れている。また、アサン財団から、就業支援の助成金を得ており、子どもがい て外出が困難なひとり親家族の女性に対しては、インターネットやオンライン を活用した IT 教育も行われている。美容やネイルアートの職業教育も実施さ れている。教育や職業教育のあとの就業経路として、「勇敢なカップケーキ」 という社会的企業との協定も結ばれている。薬剤師会とも協定を結んでおり、 IT を使った経営や薬局での計算業務などを行っている。働いているひとり親 家族の女性たちは「シングルマザーとして堂々と生きていく」という。 高校を中退した 10 代のひとり親家族の女性が勉強を継続できるための学び なおしの教室としての「ドダム学校」もある。ドダムは「しっかりしている」 という意味で、この教室では、通っていた高校から委託を受ければ卒業試験が 受けられたり、政府が負担して高校卒業資格検定試験が受けられたりする。 ソウル市ひとり親家族支援センターは、こうした直接的支援以外に、就業環 - 63 -.

(4) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 境の改善をはかるために、たとえば法定雇用率制度化の働きかけなど政策提言 も行っている。さらには、ひとり親家族の女性が、地域のなかにある多様な形 態の支援施設が提供している支援を受けられるようにするために、施設に対す る支援も行っている。 ひとり親家族に対する偏見や差別をなくすためのとりくみも行われている。 たとえば、人々の認識を改善するキャンペーンとして、家族に対する価値観を 改め、多様な家族のありかたに関する認識を広めていくとりくみや、ひとり親 家族の子どもが幸せに育つ権利があるという人権啓発のとりくみ、「未婚母」 といった価値判断が入っている言葉を変更していくとりくみ、離婚や非婚など を理由とするひとり親家族と死別のひとり親家族との間の階層を解消するため のとりくみなどである。その他にも、ひとり親家族の子どもの教育の権利を保 障するために、オンラインによる寄付集めなどの活動が市民によって行われて いるとのことであった。. 梨花女子大学校ソンサン総合社会福祉館 ソンサン総合社会福祉館は 1991 年 9 月に開館した。梨花女子大学校の理念 の「真善美」を土台に、大学で習得した専門性をもつ多くの社会福祉士たちが、 専門的で効果的な社会福祉プログラムを開発、実践している。大学が運営する 地域社会福祉館としてのリーダー的な役割を果たしており、福祉サービスの提 供、調査研究、政策提言などを行っている。 2011 年、「虹の橋」事業を、社会福祉共同募金会の支援を得て立ち上げ、当 事者たちの活動参加とネットワークを通じた地域社会総合支援体系の構築や、 認識や制度の改善をめざし、多様な事業を展開している。「虹の橋」事業は、 韓国のひとり親家族の女性ネットワークの愛称である。事業のなかには、①ひ とり親家族の女性の総合支援事業(自助グループ、支援者育成、相談、現金現 物支給、教育保育支援、支援資源の発掘・連携、実務者のネットワーク)、② - 64 -.

(5) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 全国ネットワーク事業(実務者および当事者の力量強化事業、社会的認識・制 度改善)などがある。 ソンサン総合社会福祉館は、ひとり親家族の子どもの教育、学童保育、保護 者のケア、保護者の声を代弁しての政策提言、QOL の向上など、ひとり親家 族支援に力を入れている。とりわけ、自助グループに重点を置いており、大学 が空間を提供し、自主的な運営で実施されている。具体的な活動としては、第 一に、ひとり親家族が「集まる」場を創造しており、子どもの育児情報、ケア、 治癒、ヒーリング、家族治療相談士による相談などを提供している。第二に、 自主的なグループやサークルの活動を支援している。そして第三に、住民の中 に入っていき、住民組織や市民活動などの政治的な動きを支援している。地域 に基盤を置いたネットワークづくりや地域とのつながりづくりを支援している ことも注意をひく。 離婚前から、メンタルケア、法的支援、外部機関への紹介、地域のなかの DV シェルターへの紹介なども行われている。また、寄付を集めて、資格や専 門職取得などによる創業支援も行われており、そのために必要な保育の提供も 行っている。 興味深かった支援内容は、住居支援が少ない韓国4で、住宅問題が深刻であ るひとり親家族に対して、低所得者層マンションへの入居支援を行っているこ とであった。. グループホーム 住宅問題については、女性民友会が寄付を集めて家賃を安くする形で運営さ れているひとり親家族のグループホームを訪問した。ひとり親家族の女性たち は日々の生活に追われると、当事者たちのネットワークともつながることがで 4 1989 年に成立した母子福祉法は、2002 年に母父子福祉法へと改正され、さらに 2007 年にひとり親 家族支援法へと改正された。この法律には、「永久賃貸住宅への優先入居」が定められている。. - 65 -.

(6) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. きなくなるため、建物を購入して低家賃で入居できるようにしている。また 1 か月に 1 回、入居者たちが集まることができるようなとりくみが行われていた。 このグループホームを取材した朝日新聞社の中塚久美子は次のような記事を書 いている。. 家賃は相場の 5 分の 1。住めるのは原則 2 年だが、半年の延長が 2 回できる。……一人で子どもを育てようと決めた女性にとって、安定 した住まいは欠かせない。住居が定まらないと転職や転校を繰り返す ことになる。だが、貧困層のための賃貸住宅は希望者が多いうえ、そ の地域に 2 年ほど住んでいることなど入居条件が厳しい。シングル マザー家族の自立を支える住まいが必要だ 。(民友会のグループ ホーム長の)権明愛さんは家を貸す韓国土地住宅公社に協力を求め、 保証金を払うために寄付を募った。こうして 2009 年、開いたグルー プホーム。雨風しのげればいいというものでもない。つながりも大切 だ。……干渉しない。孤立させない。こんなシングルマザー専用のグ ループホームは珍しい(中塚 2013)。. 美しい財団・希望の店 「美しい財団」は、2003 年 6 月、韓国の化粧品会社であるアモーレ・パシ フィックの創業者の遺族が、「女性と子どもが幸せになれるように」と寄付し た遺産 50 億ウォンで「美しい世界基金」をつくった。この基金をもとに、ひ とり親家族の女性に対して、マイクロクレジット形態の創業支援を行ってい る。アモーレ・パシフィックが、 「顧客である女性にその利益を戻していきたい」 と社会貢献の方向性をもっていたことと、ひとり親家族の女性を支援したいと いう美しい財団の方向性が一致して事業が開始された。 創業された店舗を「希望の店」という。「希望の店」第 1 号店の開店は 2004 - 66 -.

(7) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 年で、2012 年 3 月時点で 114 店舗となっている。2007 年を起点に増加傾向に ある。内訳は、2011 年 5 月の段階で、飲食 29 %、美容 25 %、製造・小さな店 18 %、教育 17 %、サービス 11 % となっている。飲食産業は競争が激しいため、 美容やサービスでの展開をはかろうとしている。また、衣類などの流通は、流 行に左右されやすく運転資金が必要となるため、継続的に支援するのは難しい とのことであった。 これまでの貸出金額は 43 億ウォン。廃業した店舗は 17 店舗である。創業者 は、30 代後半から 40 代後半に多いが、育児支援を財団としては行っていない。 「育児を解決できる経済力をつける」ことを重要視している。 ひとり親家族の女性に限定しているというよりは、支援活動のなかでひとり 親家族としての疎外感が見えてくるため、ひとり親家族の女性がチャレンジし ていくことができるような支援を展開しているという。担保や信用がないため に一般の銀行はお金を貸してくれず、ひとり親家族の女性は、銀行の融資など を受けることができない。しかし、母親の貧困が子どもにまで引き継がれてい く悪循環を断つためには、母親の経済的自立が欠かせない。「健康な社会生活 を母子がいかに送れるか。慈善ではなく投資」だとスタッフは語る。 事業の内容を一緒に検討するなど創業準備からの支援、起業や経営に関して 専門家がアドバイスをするコンサルティング、創業したひとり親家族の女性た ちによる情報交換や連帯の支援も行っている。「お金を貸せばシングルマザー が自立するということではない。経営者としての技術訓練などの教育が重要」 とのことであった。創業した女性たちのネットワークは、事業や経営のノウハ ウに関する情報交換のみならず、支え合うための重要な機能を果たしている。 創業資金のための貸出額は 1 人あたり最高 4000 万ウォンで、7 年以内の返 金を条件に貸し出される。営利を目的としていないため、金利は年 2 % となっ ている。「希望の店の特徴の一つは貸し出しを受けた創業資金を 5 年間分割 返還すればよいし、利子は分ち合いを実践する象徴的な意味の 2 % 以内であ - 67 -.

(8) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. り、このお金が分ち合いの先の実践として他のシングルマザー創業支援に使 われている。現在、希望の店の創業後生存率は 80 %であり、2010 年 12 月に は 98 . 8 %の償還率を記録、2010 年平均償還率は 84 %に達する」(鄭 2012 : 253)。 審査は、①民間で支援を行うことが必要なのかどうか、②成功の可能性、③ 道徳的マインド(利益を得ても返済する、約束を守る)などを基準としている。 公募から選抜を経て、支援を得ながら創業した後も、年に 2 回から 6 回の定着 支援を受ける。「自立のためには 7 年から 10 年が必要。それぐらい長い時間を かけた投資だ」とスタッフは語っていた。 創業前の収入が 80 万ウォンだったひとり親家族の女性たちの創業後の収益 は 280 万ウォンへと増加している。収入増に伴っての支出増として最も多いも のが子どもの教育、そして住宅だという。これによって貧困の悪循環を断ちき ることができる、とのことであった。創業によって、子どもが親と接する時間 は少なくなるが、子どもは母親が創業した店に行き、母親の働く姿を見ること で肯定的に受け止め、未来への希望をもつようになっているという。子どもと の関係をよくするために、子どもと一緒のキャンプやコミュニケーションの場 づくりなども行われている。 地域に精通している団体や地域でのネットワークをもっている団体とのパー トナーシップによる創業ならびに定着を支援しており、地域と密着したケアが 提供されている。 インタビューしたスタッフは、「基本的な支援は国がやるべき」と言いなが ら、女性として、母として、企業人として、ひとり親として、創業した女性た ちがもっている教育や育児に対する葛藤とどのように向き合っていくか、そこ が大切だと語った。 地域社会や市民社会を支援する、美しい財団のような中間支援組織の存在は 社会的企業にとって大きなものである。 - 68 -.

(9) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 韓国ひとり親連合 ひとり親運動を行う全国の団体が集まって 2004 年に発足、2010 年に正式に 創立された韓国ひとり親連合は、現在、10 団体が会員団体となっている連合 体である。ひとり親家族に対する差別と偏見をなくす活動を通じて、個人と社 会の認識を変化させ、主体的に自立することができるよう、また、ひとり親に 対する社会的制度・総合的福祉制度を整え、子どもと幸せな生活を送ることが できるよう、法的・制度的変化を引き出すことを目的としている。活動内容は、 相談事業、政策事業、教育事業、当事者組織支援事業、経済的自立支援事業、 認識改善事業などである。 常勤職員はおらず、事務局長も仕事をしながらその任に就いている。会員は ヘルパー職や契約職員など非正規職が多い。 相談事業や政策提言活動、セルフヘルプグループ事業などを行ってきた韓国 ひとり親連合のような当事者団体による社会的企業が創業されていくことは今 後の課題である。. 2.韓国の社会的企業について ① 社会的企業育成法制定の背景にある市民運動の歴史 2007 年 7 月 1 日、韓国で「社会的企業育成法」が施行された。第1条の目 的には、「この法律は、社会的企業の設立・運営を支援し社会的企業を育成し、 我が社会で十分に供給されていない社会サービスを拡充し、新しい雇用を生み 出すことにより、社会統合と国民生活の質の向上に資することを目的とする。」 と謳われている。第2条には定義が記されており、そのなかで「“社会的企業” とは、脆弱階層への社会サービス又は雇用を提供し、地域社会に貢献すること により、地域住民の生活の質を高めるなど、社会的目的を追求しつつ、財貨及 びサービスの生産・販売など営業活動をする企業として第 7 条の規定にした がって認証されたものをいう。」とある。このように、社会的企業の目的とし - 69 -.

(10) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. て、 「社会サービスの提供・拡充」 「脆弱階層への雇用提供」 「地域社会への貢献」 の 3 点が掲げられている。「地域社会への貢献」という 3 つめの目的は 2010 年 5 月の改正で盛り込まれた。 「脆弱階層」についても第2条で定義化5されている。法的には 30 % 以上を 雇用するようになっているが、2012 年のインタビュー時点では 64 %が法律で 定義されている脆弱階層とのことであった。 認証の条件を満たして、社会的企業として認証を受けると、経営支援等(第 10 条)、教育訓練の支援等(第 10 条の 2)、施設費などの支援(第 11 条)、公 共機関の優先購入(第 12 条)、租税減免及び社会保険料の支援(第 13 条)、社 会サービスを提供する社会的企業に対する財政支援(第 14 条)を受けること ができる。初期 3 年間の公的支援として人件費も受けることができる。 社会的企業育成法が生まれてきた背景について、その法制度化と発展にかか わってきた、「ともに働く財団」の前事務局長の李恩愛は、インタビューで次 のように語った。. 社会的企業育成法は、……70 年代・80 年代の民族民衆運動、すな わち政治的民主化という課題を掲げた学生運動や農民運動、都市貧民 運動に発します。……民主化運動勢力の一部のグループが貧困層の生 活問題に取り組むようになります。彼らが住民と一緒になって小さな 変化を、地域社会を基盤に作り上げようと活動を開始すると、学生運 動勢力や、労働運動から撤退した人たちもここに合流するようになり ます。そういうなかから、……コンブパン運動6や貧民女性にかかわ 5 「自身に必要な社会サービスを市場価格で購入することが困難な階層や労働市場の通常的な条件で 就職が特に困難な階層をいい、その具体的な基準は大統領令で定める。」と規定されている。 6. 低所得階層の子どもを保護し、勉強や文化体験などのプログラムを提供する施設で、「地域児童セ ンター」として、2003 年に法制化された。通称コンブパン(韓国語で勉強部屋)と呼ばれ、放課後、 子どもたちの居場所になっている。. - 70 -.

(11) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. る運動が数多く生まれ、さらにこれが分化していく中で、社会的企業 に対するニーズ、政策に対する要求が生まれました。つまり、90 年 代の民主化運動の多様な分化を背景に貧困地域の生活運動が生まれ、 そのような脈略で社会的企業の事業の種類や組織類型の多様性につな がるような基盤が 90 年代・2000 年代に形づくられたといえます。(中 略) 当時の社会運動を整理すると①都市貧民運動、②労働運動、③学生 運動があったといえますが、韓国社会は学生運動が盛んで活動家を排 出する倉庫だったといえます。そうした活動家が生活共同体運動を地 域社会のなかでつくっていく一つの軸になり、さらに生活問題として の環境運動や女性による地域住民運動が展開し、ここで託児所やコン ブパンも取り組まれ、福祉権の拡大といった運動が形成されていきま す。これらがすべて現在では多様な社会的企業として出会うようにな りました。 (中略) ……労働市場から脱落したものを改めて既存労働市場に復帰させる のか、あるいはオルタナティブな労働市場を新たに形成するのか、と いう議論を経て、後者、つまり脆弱階層に適する労働市場として、介 護、保育など社会的サービス需要の増大が見込まれることから、そう いう分野で社会的企業を開発すれば、問題の解決につながると考える ようになりました。(李 2012 : 121 - 4). 韓国における社会的企業育成法制定の背景には、数十年におよぶ多様な形態 の市民運動の歴史とその蓄積がベースにあることは、社会的企業関係者のイン タビューで頻繁に語られた。聖公会大学社会的企業研究センターでは、「闘争 をして民主化をかちとってきた歴史の経験が人々の中に生きている。力を合わ せれば社会を変えられる」と主張された。市民社会の成長や持続可能性を維持 - 71 -.

(12) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. していくための一つのカギとして、多様でオルタナティブな社会運動である社 会的企業を生みだしてきた。 長期にわたる社会課題としての失業・貧困問題に対して、政府による政策 では限界がある。雇用をつくる支援を始めた政府も、最初は福祉の視点から 社会的企業を見ていたが、2003 年からは、労働部が社会的就労事業を管轄し、 2004 年からは政府の各部署によって社会的就労事業が実施されるようになっ た。失業者の増加、核家族化や家族構成の変化、高齢化、女性の雇用問題など に直面するなかで、社会的サービスをどう提供するかといった問題意識から社 会的企業への関心が生まれ法制度化されたものの、社会的企業の成長は市民社 会の成長を抜きに語ることはできない。 聖公会大学社会的企業研究センターでのインタビューにおいても、「韓国の 場合、都市貧民地域における生産共同体事業、労働者協同組合運動、自活支援 事業などを通じた社会的企業の実績があった。弱者のための雇用創出に向けた 取り組みの歴史があった。市民運動も、平和、統一、民主化など天下国家を論 じる市民運動が多かったが、女性、環境、子どもなど、テーマも多様になった。 さらに 1997 年の IMF 危機が市民間の連帯・一体感を高揚させ、『異議申し立 てでなくオルタナティブ』を主張しながらの、社会的企業育成法の議論が起き てきた。これとともに、政府の政策もまた、2000 年の自活事業制度化、2003 年の社会的職場創出事業、そして、2007 年の社会的企業育成法発効などの過 程を経て、社会的導入のための政策とインフラ整備を行ってきた」と語った。 金銭的援助でなく就労による自立支援、施しでなく自立のための福祉、まさ に韓国における welfare から workfare への流れのなかで誕生してきたのが社 会的企業であった。興味深かったことは、社会的意義を主張するのではなく、 「楽しい」「おもしろい」働く場や、「美しい」「きれいな」品質のものを提供す ることが人の心を動かし共感を得ていったと語られたことだった。. - 72 -.

(13) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ② 「市民社会」「連帯」「共同体」「地域」 韓国で社会的企業について語られる際、繰り返し耳にする表現がある。「市 民社会」「連帯」「共同体」「地域」である。上述したように、市民運動を基底 としながら法制定の議論が起こり、市民が参画・提言しながらの法制度化が進 められてきたのが社会的企業育成法である。社会的企業の成長・持続可能性は、 市民社会の成長・意識変革・持続可能性とセットで語られる。 IMF 危機や貧困をはじめとする社会問題に対する「連帯」という問題意識 にはじまり、NPO、行政、企業、財団、銀行、大学や研究機関の連携、草の 根レベルの一般市民からの寄付などは、多様なアクターによる市民社会の「連 帯」を模索する姿でもある。 また、共同体の回復や復元など共同体志向と合わせて、地域との連携、まち づくり、地域回復、地域貢献、地域活性化、コミュニティ・ビジネス、地域で の雇用創出、地域における資源の構築・連携、地域の基盤づくり、地域の再生、 コミュニティの自立といった表現が多用されるように、「地域」という発想が、 思考や活動のベースになっていることも特徴的である。そこから、空間やデザ インの発想も豊かに生まれてくる。. 外国人女性の多様なバックグラウンドを資源にしながら持続可能で公正な旅 行デザインや観光政策事業にとりくんでいる社会的企業「善良な旅行」の代表 者は、グローバリゼーションに対抗する communitilization の概念を提唱す る。「コミュニティを中心に世界を考えて、コミュニティで人に会い、コミュ ニティから世界を考える。社会的企業は、いかにいいアイディアでも個人的で は長期に続かない。共同体的なアプローチが必要。共同体的な社会サービスで あれば社会にも地域にもプラスで継続的。生活の個人化や職業分離でかつての 共同体が崩壊している。社会的企業はせまい職場だけをつくるのではなく、共 同体を職住一緒につくらなければならない。さもなければ補助が切れると共同 - 73 -.

(14) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 体が崩壊してしまう。地域のなかでの暮らしがあればさまざまなかたちでカ バーできる」と語った。. ひとり親家族の女性や高齢女性、外国人女性などを雇用し、地産地消による 食の安全を柱にした社会的課題解決への寄与、地域のなかでの雇用創出、消費 者の安全・農民の質のいい生活・働く人の幸福をつなげるしくみづくりを行っ ている社会的企業の「All 利」でのインタビューでは、「日本は、十数個の中 間支援組織に数十億円をかけて社会的起業家としてのリーダーを育て、その人 が社会的起業家を育てていくなど、社会的起業家を支援することを強調すると りくみがなされている。しかし韓国では、社会的企業が地域の中でどのような メッセージを発し、地域を変えていくのか、といった、地域社会にある問題・ 課題を解決していく方針・分析・政策が必要。起業家精神も大事だが、地域貢 献・基盤づくりが大切」だと語り、地域回復の重要性を強調していた。「社会 的企業は生活のなかでの必要性を満たしていく。やってきたことを包括的に埋 めていく。生きるために必要なことからやる。経済主体が社会的企業という枠 組みでめぐりあって連携し、社会的経済ということで集まってきている」とも 語った。社会的企業がまちづくりをするのではなく、小さな地域でまちづくり をしてきた蓄積がある。その地域で就労がネックになりまちづくりが崩壊しか けていたときに、このネックになっていた就労をやっていくために社会的企業 に視点がいき、社会的企業を活用してきたとのことだった。社会的企業を一つ の手段にしながら、資源を地域でどう結び付けていくのか、を考えているので ある。. 3.韓国のとりくみから学ぶこと ① ジェンダー構造 長時間労働・無保険などが改善される一方、非正規雇用・有期雇用契約・女 - 74 -.

(15) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 性差別などの課題も残る。李は、インタビューで次のように語っている。. 平均賃金としては低いですが、これらの階層、低所得層、女性、障 がい者が働く同種業種の賃金と比べると、基本給は約 110 %です。そ してこれらの業種は労働基準法をあまり守りません。しかし、社会的 企業はよく守ります。退職金制度や五大保険、有給休暇などのような 制度が少しずつ整備され、労働条件を改善し、その市場を変化させる 役割を果たしています。(中略) ……労働条件の改善効果を生みだす肯定的な側面が現れました。そ の反面、大きな問題として、既存労働市場の悪習が繰り返されていて、 非正規の割合が高くなっていることです。政府から人件費の支給を受 けているため、1 年ごとに雇用契約の手続きをする方式をとっている のでそのような問題があります。そして性差別。女性は同じ労働をし ていても、賃金がより低く、非正規の割合はより高く、リーダーにな る機会もより少ないため、このようなことが繰り返されています。そ れで、既存の労働市場を変える取り組みと意識教育が課題として残さ れています。(李 2012 : 145 - 7). 韓国の社会的企業は、社会福祉や介護の分野が特に多いという。業種別に見 ると、最も多いのがヘルパー事業、次に高齢者サービスや保育などのケアサー ビスが続く。脆弱階層としての雇用ではひとり親家族の女性が多く、社会的企 業の分野として多いのが福祉の分野であるため、ひとり親家族の女性が働ける 形態が多くなっているということである。 福祉サービスの提供主体が増加し、需給がうまくいかなくなるなどの問題も 起きているなか、成功している「Human Care」は、成功の理由として、自活 事業をやっていたために活動基盤があったこと、高齢者との信頼関係があった - 75 -.

(16) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. こと、地域のネットワークを活かした介護事業を展開していることをあげた。 「ケアサービスについては、安い労働力として消費しているという批判はある が、出資をして自分が当事者になる、賃金が高い低いということよりも主体で あるという意識が高いのでやめることはない」とインタビューでは語られた。 韓国の社会的企業にインタビューを行うなかで筆者が最も懸念していたこと がこの点だった。日本においても、低賃金・不安定・非正規雇用といった働き 方を女性たちはずっとしてきたにもかかわらず、貧困問題は不可視化され問題 視されなかった。しかし、男性たちがこうした働き方をするようになり、貧困 問題が社会化されていくようになる。この貧困問題を解決するために登場して きた社会的企業であるが、実際には、女性たちが無償労働や低賃金労働で担っ てきた介護、保育、福祉などを含むケアサービスを、さらに女性たちが担って いくシステムとして再生産しているのではないか、ジェンダー構造が見直され ない限り、安い労働者として女性の労働力搾取を社会的企業としてくり返すこ とにはならないのか、との問題意識があった。 こうした問題意識は、女性運動団体である韓国女性民友会のインタビューで も語られた。韓国女性民友会は、既存の経済活動の中での低賃金や非正規と いった差別や不平等の問題に対する反対運動や政策提言を中心としており、会 として社会的企業の創業などに取り組んではいない。李明博政権時代には、雇 用の創出という名目でパートタイムが増加した結果、低所得・重労働の問題を 深刻化させたとして、政権批判の運動をしてきた。インタビューでは、「社会 的企業は、社会サービスといっても育児や介護の領域が多く、一般市場のなか で競争力のないものが取り上げられる傾向にある。結果、二重構造の労働を生 みだしている。福祉などは政府が責任をもってやっていくべきだ」と批判し た。社会的企業には、本来政府がやるべきことを民間にさせているとの批判も ある。 この筆者の問題意識から出た質問に対して、李は、次のように答えた。さま - 76 -.

(17) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ざまな運動を展開してきた女性運動が「あらためてまた社会的企業という形」 で出会うことと、「女性運動の理念をもって社会的企業政策をたゆまず批判す る活動が並行してすすんでいる」という説明が興味深い。. 90 年代には学童保育のような福祉、性暴力、家庭内暴力相談所の ようなところで働き、法律を制定したりサービス組織をつくったりし て働いた。そういう組織が、あらためてまた社会的企業という形で出 会ったりもしているわけです。そのように社会的企業に直接参加する 形と、さらに女性運動の理念をもって社会的企業政策をたゆまず批判 する活動が並行してすすんでいると考えていただければと思います。 女性団体連合がこの何年かひきつづき懸案としている主題のひとつ が、介護問題への取り組みです。つまり社会的就労、社会的企業の拡 大が、おっしゃる通り、貧しい女性の労働搾取構造を拡大再生産して いるのではないか、と絶えずいろいろな団体が問題提起をしていま す。それでも現場で多くの研究者が変化している部分もあり、繰り返 しの部分もあるわけですが、それらをどのように変えることができる のか、ということを議論していて、敵対的というよりはそれらの運動 が並行しそれぞれの立場で取り組んでいるという状況です。(中略) ……差別解消から、女性リーダーシップをどのように育てるのか、 といったことまで、発見するようになるわけです。(李 2013 : 157 - 8). ② 主体性と共同性 「女性リーダーシップをどのように育てるのか」を発見するという意義が社 会的企業にはあった、と李が語ったように、ひとり親家族の女性を含む女性の 自立や主体性の重要性については多くの社会的企業がその重要性を主張してい た。 - 77 -.

(18) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 前述した「善良な旅行」の代表者は、「制度的にも、社会的企業をつくるプ ロセスにおいても、個別の事業をつくることにおいても、持続可能性というと ころにおいても、当事者の主体的な参加が大切だ。対象化してしまわないよう に、自分にも当事者意識が必要だ」と語る。. 買春のサバイバーなど、脆弱層である女性に対して、創業・就業支援、教育・ 職業教育支援、住居提供などを行う「W-ing」は、 「福祉と人権を基本とした 精神的な暮らしをベースに、経済的な豊かさを追求し、主体的に自身の人生を つくっていく女性共同体」と、自らの団体を表現する。「保護」や「依存」で はなく、「主体的」であることや「自立」することに徹底してこだわりをもっ ている。そのうえでの共同体を志向する。勉強の時間を確保し、倫理を大切に し、ルールもつくっている。 代表者は、「『集める』というのは限界がある。烙印を押される。そこにいる ことで自分を否定してしまい、そこにいることで自分を否定することをリマイ ンドさせてしまう。相談する人―困っている人の関係性から抜けられない。そ れでは生き方・生・暮らしの転換をすることはできない。『集める』ことは、 その場で献身的に運営する人たちに依存する女性を再生産することになる」と 自らの事業や活動のポリシーを論じた。社会的企業に政府が人件費を提供する ことについても批判的である。主体的ではなくなるとの理由であった。仕事を 出すべきだと主張する。. ③ 運動・政治・経済と福祉・就労をつなぐ さらに頻用された表現は、「運動」「政治」「経済」を語る言葉であった。「善 良な旅行」の代表者は、「社会的企業は政治をぬきには語れない。政権の性格、 政策によって変わる。持続可能性ということを考えること」とインタビューで 話していた。 - 78 -.

(19) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 法制定の背景のみならず、社会的企業を設立・運営している一人ひとりの中 にも、労働運動や民主化運動の経験が生きている。その経験が、強力なネット ワークを生み出している。 国内外の経済問題にも目を向ける。経済危機による連帯と脆弱階層のための 雇用創出に向けた取り組みの歴史は、「社会的経済」へと関心を向けている。 社会的企業といった共助のしくみで市場に参加し、オルタナティブな労働市場 をつくる模索が続いている。. ④ ネットワーク 聖公会大学社会的企業研究センターのインタビューで、「日本ではソーシャ ルベンチャー系と協同組合系に分かれていて、ネットワークが少ない。韓国は 民主化運動、労働運動に携わってきた人が多いので、ネットワークがある」と、 日本の市民運動の縦割りとネットワークの弱さを指摘された。 日本と韓国の社会的企業に精通している桔川純子は、日本が韓国から学べる こととして、制度からの経験だけではなく、「連帯」やネットワークなどの関 係性のつくり方をあげる。 ひとり親家族の就労支援をテーマに、市民団体、民間企業、財団、行政、大 学などが横のつながりを有しながら、労働運動や市民運動の歴史をつむいでい る韓国の実践に学びながら、「連帯」やネットワークを模索していくことは日 本の今後の課題である。. ⑤ 教育・理念・思想・哲学 もう一つ、韓国の社会的企業にインタビューするたびに痛感させられること がある。そのとりくみには思想や哲学が通底していることである。 「W-ing」は、「暮らしを変える、生き方を変える、仕事だけでなく内面の力 を育む」ために、「人文学アカデミー」と名づけた事業で、女性たちは仕事を - 79 -.

(20) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. しながら人文学の勉強もしている。また、講師を招待して哲学についても学ん でいる。一緒に考えたり本を読む時間があり、課題も出される。 人間と地域、組織や社会が発展し幸福になり豊かになるための教育が重視さ れ、それは職業教育のみならず、哲学、文学、歴史、倫理、道徳などにまで及ぶ。 社会的企業を担う人たち、社会的企業で働く人たちに、理念、思想、哲学が重 要視をされる。そうして、 「働くこと」をめぐる価値観の転換や、既存の文化・ 価値規範の再構築と新たな文化・価値規範の創造がめざされていることも韓国 における社会的企業の特徴だと言えるであろう。. 4.日本のひとり親家族支援の現状と課題 ① 日本のひとり親家族の就労実態 2002 年 3 月の「母子家庭等自立支援対策大綱」策定、2002 年 11 月の「母子 及び寡婦福祉法」一部改正、2003 年 3 月の「母子家庭及び寡婦の生活の安定 と向上のための措置に関する基本的な方針」策定などを経て、1980 年代から 行われてきた福祉改革は、「福祉から就労へ」の方向性に基づき、ひとり親家 族の女性に対して就労による自立支援を強化する政策へといっそう舵がとられ るようになり、当事者たちには自助努力がさらに求められるようになった7。 さらに 2003 年 7 月の「母子家庭の母の就業の支援に関する特別措置法」によっ て就労支援の流れは強化され、2012 年 9 月には、「母子家庭の母及び父子家庭 の父の就業の支援に関する特別措置法」が出された。しかし就労支援策の効果 は結果としてあらわれず、冒頭で述べたようにひとり親家族の貧困は深刻さを 増している。 湯澤直美が指摘するように、 「日本における母子世帯への社会政策は、年金・ 手当・生活保護・貸付金などを柱とした所得保障、就労促進を柱とした雇用政 策、養育や家庭生活関連の支援を柱とした対人サービスなどに大別され」、そ 7 ひとり親家族政策をめぐる日本の歴史については、(湯澤 2005)に詳しい。. - 80 -.

(21) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. の「政策論議は、おもに所得保障に焦点をあてて展開され」てきたものの、 「所 得保障政策の展開は、ワーキングプアとしての母子家族の貧困・低所得問題の 解消に寄与しなかったばかりか、就労していても貧困から抜け出せない構造を 固定化してきた」(湯澤 2004 : 46 , 湯澤 2005 : 103) 。 湯澤は、雇用政策につい ても、「日本の全般的状況としては、職業訓練・職業紹介・雇用創出策に代表 される積極的雇用政策の支出が OECD 諸国において極端に低いことが報告さ れており、人的資本の開発という点で実効性のある政策が整備されているとは いえない」と批判している(湯澤 2005 : 103)。. ひとり親家族が抱える経済的な問題を解消していくためには、日本のひとり 親家族の母親の就労率がすでに高いことに鑑みれば、学歴や年齢等にかかわら ず非正規雇用から正規雇用への移行・転換を可能とする就労支援(再就職・転 職支援)や、賃金向上などの労働条件整備が必要であることがかねてから指 摘をされてきた。神原文子は、当事者のニーズと合致した就業支援策として、 「賃金アップにつながる仕事に就くことへの支援、正規職に就くことができる 支援、職業訓練期間中の生活費の支援、職業訓練費用の援助など、短期的・長 期的な収入アップへの支援策」が必要だとする(神原 2008 : 79)。そのために は、母親の教育支援、職業訓練、子どもと母親の生活支援、子どもの教育・保 育支援が欠かせない。正社員就業率を高めるために改善すべき問題は、子ども が「小さいうちは非正規雇用を選択するという子どもの保育の問題」と、「正 規雇用に必要な資格・技能の不足」である(労働政策研究・研修機構 2008)。 一方、「男性並みの仕事中心の生活」となっている日本のひとり親家族の女 性に対して、「保育サービスを充実して長時間働けるような支援」を提供する ことは、こうした働き方がより強化されるため、「就労率が高く、労働時間が 長く、貧困率が高いという日本の母子世帯の特徴をふまえる」ならば、「適 度な労働時間である程度の勤労収入を得られる」ような就労支援(日本労働 - 81 -.

(22) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 研究機構 2003 : 185)と、「仕事時間を短縮したことによる減収を補填する所 得保障」による支援が欠かせない、とも指摘されている(田宮・四方 2007 : 227)。阿部彩・大石亜希子は、「児童扶養手当が就労意欲を阻害しているとい う仮説は支持されない」ことから、「母子世帯に対する公的現金給付は、就労 を代替するものではなく、母子世帯の稼働収入の低さを補完し、母子世帯の経 済的困窮を緩和するものと位置づけられるべき」だという(阿部・大石 2005 : 157 - 60)。阿部が指摘するように、「最善の策は、子どものニーズや母親自身 のキャリア形成を十分に考慮したうえで、適宜な時間内の就労で生活をしてい けるような職や所得保障策を用意すること」である(阿部 2008 : 123)。 成育家庭の階層や成育環境との関連も含めて、本人がおかれてきた、あるい はおかれている階層による就学機会や就労機会の制約、ジェンダー構造に基づ く雇用形態や賃金格差、本人の展望などを念頭におきながら、母親に対する教 育支援、職業経験やキャリアを形成・蓄積していくための職業訓練・教育、労 働需要が高い職業の資格取得支援などが課題となる。しかし、安定した収入に 結びつくようにとさまざまな資格取得のための支援などが行われても、ひとり 親家族の女性たちにとっては子どもを育てながら日々の生活を営むことが優先 課題となっている。経済支援は不可欠である。. ② 組織基盤・ネットワーク 日本では、ひとり親家族の女性の就労支援をしている 2 つの株式会社の代表 にインタビューを行った。共通していることは、株式会社の経営とあわせて NPO も運営しており、両者の利点を活用しながらひとり親家族の女性の就労 支援をしていることであった。 自身もひとり親家族であり、ひとり親家族の女性を中心とした人材サービス を行っている株式会社キャリア・リードの代表取締役である佐藤有里子は、ひ とり親家族の子どもたちに対し、無料学習塾の企画運営や職業体験の企画運営 - 82 -.

(23) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. などを行う NPO 法人の代表理事も務めている。佐藤は、「株式会社だからで きること」と「NPO だからできること」を両立させながらの多様な形態の事 業展開を行っている。モデルをつくっていくこと、事業化していくこと、しく みを考えていくこと、多様な地域の多様な団体とつながっていくこと、多様な 業種をつなげていくこと、専門性をもつことによって収益を得られるような事 業化をはかっていくことの重要性を指摘する。 情報の輪サービス株式会社の佐々木妙月は、30 年におよぶ女性の就労支援 の経験を生かして、緊急雇用対策事業を活用した女性の就労支援や起業支援を 行っている。NPO 法人も運営している佐々木は、日本の NPO の経済的基盤 の弱さや、経済や雇用を生みだすトレーニングを受けていない、組織運営に慣 れていない女性運動の弱さを指摘する。支援する―支援される関係性を乗り越 えて、対等な相互支援の関係を構築していく、自分の資源を使って他者や社会 に役に立ちたいという感情を大切にしていく、そのためには、多様な人たち・ 多様な働き方による組織マネジメントが必要である。しかし、そうした取り組 みには長い時間を必要とし持続可能性も求められる。同時に、緊急性のある 「雇用対策」も事業実施には求められている。日本における緊急雇用対策事業 が抱える限界や課題を佐々木のインタビューは指摘している。. 同じタイプの人、同じ環境の人だけだったら組織ってなかなか運営 できないんですよね。いろんな人の働き方であったりとか、得意不得 意があって、だからこそ組織をマネジメントしていかなくてはならな いんです。 ですから、雇用対策事業というのは、本来、スキルだけじゃなくて、 生き方も含めて、助け合う、支え合う、つながり合うということを同 時にやっていかないといけないんだと思います。事業が終わったら終 わりではないと思うし、雇用することや雇用されることだけが目的 - 83 -.

(24) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. じゃなくて、1 年の雇用で、まずは仕事や生活を安定させながら、彼 女たちがこれから行きたい、行こうと思っている方向性につなげてい くために、実績やキャリアや資格をとって、長期的な自分のライフプ ランを立てるというところまでできることが、雇用対策事業の本当の 姿でしょうね。. 佐藤もまた、継続性とアフターケアや「見守り」の必要性を主張する。それ は行政の枠を超えており、だからこそ企業や NPO ができることだという。佐 藤はさらに、地域・企業・行政の理解を得ること、連携すること、中小企業・ 地域企業であることの強みを生かし、中小企業・地域企業への就職を強いもの にすること、NPO に対する民間企業の信頼度を高めること、結果を出すこと を積み重ね、積み重ねのなかでの信用を得ることの重要性についても言葉を重 ねた。 ひとり親家族の就労支援をする NPO や社会的企業、中小企業の組織基盤を 持続可能にするためには、多業種の連携をつくりだしていくこと、中間支援 組織やインキュベーションセンターと NPO や社会的企業との連携を深めるこ と、ひとり親家族団体や女性団体との連携を発展させることは今後の課題であ る。社会運動にたけていても事業展開していくことが少ない日本の NPO は、 就業関連の情報ネットワークや就労支援の専門性が弱いという弱点もある。就 労支援や就職準備支援を専門的に行なっている NPO や社会的企業も多くな い。ひとり親家族支援の現場においても、「母子福祉」の視点に立った福祉系 のスタッフか、「就労による自立支援」の視点からハローワークなどで就労支 援のキャリアのある人が担っている現状がある。. ③ 主体性・当事者性 持続可能な組織やネットワーク、それを支える関係性をつくっていくために - 84 -.

(25) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. は、当事者としての主体性が求められる。キャリア・リードの事業では、支援 を受けて仕事に就いたひとり親家族の女性たちが、今度は他のひとり親家族の 女性たちの話を聴いたり力になって助けるようになるなど、「就業支援は“お 互いさま”でまわっている。決して他人事ではない」という。佐藤は、「自主 性」という表現をくり返す。自分で考えて動くことを研修でもテーマにしてい る。佐藤自身がひとり親として苦労した体験が母親たちにとっての力にもなっ ており、当事者性と主体性、主体性にもとづく共同性や共助のしくみづくりの 重要性を示唆している。 佐藤は、ひとり親家族の母親と子どもへのロールモデルの提示や、出会いや 情報交換、経験を深める機会や場づくりを意識的に行なっている。自主的かつ 主体的に考えること、多様なロールモデルに出会うこと、仕事のイメージを多 様につくりだし経験を豊かにすること、近い距離や関係性で自己の体験を語り 他者の体験を聴く機会や場を多様につくりだすこと。そのなかで、ひとり親家 族の女性たちがモチベーションを高め、それが循環していき、ひとり親家族の 子どもたちが母親への尊敬を高めるようになるという。母親たちの行動・習慣・ 生活への変化ももたらしている。 離婚等によってひとり親家族の女性が転職や就職をすることは、ライフスタ イルなど家族内に大きな変化をもたらすが、子どもの情緒に対してはどちらか というと良い影響を与えていることはこれまでの調査で明らかにされている。 経済の客観的な条件(離婚後収入、養育費があるかどうか)よりは、 「楽になっ た」という親の認識が子どもの情緒、あるいは子どもの友人関係の改善を母親 に認識させているという(日本労働研究機構 2003 : 226 - 7)。 しかし、こうした主体性や当事者性をもつためには、経済的安定が必要不可 欠だと佐々木は語っている。. ひとり親の支援をひとり親の当事者がするというのは、痛みが共感 - 85 -.

(26) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. できたり、つらさや悩みを分かり合えるので大きなことだと思いま す。家事労働の延長であるハウスクリーニングや介護や福祉は皆当事 者として経験していますから、当事者としての経験を労働に変えて対 価を得ることを当事者がやるのが一番いいだろうと思います。でも、 ひとり親の当事者は自分が生きていくのに精いっぱいで生活に余裕が ないんです。子どもの問題で断念したり、面接の段階からひとり親家 族であるというだけで、企業は聞いてもくれません。ダブルワーク、 トリプルワークで経済を支えていたら、自分のライフプランなんて考 える時間もなければ、自分に投資するような時間もお金もないですよ ね。パソコンももってないし、パソコンを習いに行くような時間もな いんです。 だからここでの 1 年間は経済の安定と、社会に出ていくにあたって 必要なことをしっかり伝えて実践すること、これから自分がやりたい ことのスキルアップをしっかりしていくこと、当事者や同じ環境の人 たちが集まることで仲間として出会って情報が入ってくることを経験 したことはよかったことだと思います。それは強みになりますよね。 女性は経済力を持たなければ誰かに依存しなければいけないわけだ から、なんとか経済力を身につけながら、かつ自尊心をもって、自分 というのをみすえてほしい。そのうえでどう生きていきたいのかとい うことを、ゆっくり就労支援をしていくなかで組み立てていけます。 アルバイトをしながら仕事がいつまで続くか分からない、派遣で働 きながらいつ派遣切りにあうか分からない、3 カ月ごとに更新をしな ければいけない、では不安定で次のライフプランなんて考えられませ んよね。たとえ 1 年間でも収入の安定をはかって、その間、自分が進 みたい方向でのスキルアップをはかり、自尊心を高める研修を受け て、もう一度社会とつながるための活動をしていければいいなと思っ - 86 -.

(27) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ています。 自分たちの雇用のことで精いっぱいで、雇用を生み出していくって ところにはたどりつけていないですよね。雇用を生み出すってこと は、まず自分が安定して、そして自分を含めて仲間たちの雇用をどう やってつくっていけるかってことですからね。お互いにお互いを支え 合いながら励まし合いながらの互助というのは、精神的にも安定して いなきゃ、人どころじゃないんですよ。精神的安定を得ようと思った ら、やっぱり経済的安定です。経済が不安定だったら心も不安定です よ。. 株式会社キャリア・リードの事業でも、支援を受けて仕事に就いたひとり親 家族の女性たちが、今度は他のひとり親家族の女性たちの話を聴いたり力に なって助けるようになる、と佐藤が語っていたように、経済的安定と関連した 居場所づくりは情報の輪サービス株式会社の事業においても必要とされてい る。佐々木は次のように語る。. 生活を立て直そうよ、ということを説教ではなくて、寄り添いなが ら関係をつくって伝えていくことが大事だと思います。本当にたいへ んな人は、本当に出会ってほしい人は、すでに明日のお金がないから 一日中働いているんです。ハローワークに行く暇もない。情報がある ことも知らない。もっともっと厳しいひとり親家族の女性たちに情報 を届けるようなしくみをつくっていきたいです。相談業務だけでは社 会的意義があっても利益は生まれないので、“来る”というしかけを つくるためには雇用、保育所、居場所などが必要です。そこで相談も できるし、その人のプランも考えられます。. - 87 -.

(28) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ④ エンパワーメントの視点からの教育の重要性 主体性や当事者性に基づいた支援、つながりづくりや居場所づくりは、人・ 組織・地域・社会にとってのエンパワーメントでもある。生活支援とともに、 当事者たちの自立や起業を支援していく就労支援には、女性たちに対する労働 教育や職業教育が重要となる。 日本と韓国、フランスのひとり親家族の生活実態や支援策を比較調査してい る近藤理恵は、韓国では、正社員・職員のひとり親の女性の比率は日本よりも 低い一方、自営業を営んでいる人の比率が日本よりも高いことを調査結果から 紹介している。「日本では、正社員・職員志向が強いのに対し、韓国では、自 営業志向が強く、自営業志向と正社員志向とが同じ比率であった点が特徴的 である」という。また、「転職した場合、就きたい仕事に関して、韓国の方が 日本より専門的な仕事に就きたい傾向が強い一方、日本では韓国よりも、事務 的な仕事に就きたい傾向が強いこと」、「韓国では、ほとんどの人が、キャリア アップなどをして、もっと豊かな生活をしたいと考えていたのに対し、日本で は、そのように考える人の比率は韓国ほど高くないこと」が明らかになったと いう(近藤 2013 : 16 , 19 , 24 - 6)。「韓国の就労支援の特徴は、起業支援に力 を入れている」ことであり、「就労支援をしていくうえで重視されていること はエンパワメント」だと近藤は指摘する(近藤 2013 : 94)。 ひとり親家族の女性等が、就労や子どもの就学などで資金が必要になったと きに貸付を受けられる制度として、日本には母子福祉資金貸付金制度があり、 種類は 13 種類に及ぶ。 返済時の負担軽減のため、貸付利率については、無利 子となっていたり、償還期限については、資金の種類により、3 年間から 20 年間までとなっている。しかし、その内訳をみると 8 割以上が「修学資金」や 「就学支度資金」など、子どもの教育関連に集中しており、事業開始資金や事 業継続資金など、就業関連資金の利用は少ない(藤原 2011 : 21, 下夷 1994 : 37, 中村 1986 : 54)。貸付や事業開始資金の利用が少ない理由として、金川め - 88 -.

(29) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. ぐみは、「もともと母子家庭の母が自分で起業をしてという傾向が薄いこと、 自治体という公的な機関が貸し出す資金であるから、事業に関しては確実性が あるという点が重視され審査が他の資金より厳しいこと」や、「その事業を実 施して資金増の見込みがある場合にしか貸付できないので、利用が難しい」こ と等が考えられるとしている(金川 2007 : 47, 金川 2010 : 735)。 独立行政法人労働政策研究・研修機構が 2008 年に発行している『母子家庭 の母への就業支援に関する研究』には、各地方自治体によるひとり親家族の女 性に対する就業支援の実践が紹介されているが、起業支援の実践についてはふ れられていない。浜松市に関しては、当事者であるひとり親家族の女性を相談 員として多く起用し、当事者の立場に立ったきめ細かい相談に応じていること が紹介されている。NPO 法人を活用した就業支援の内容が紹介されているの は釧路市のみである。「今後の就業支援策への示唆」として職業訓練や資格取 得支援の必要性については各所において述べられているが、今後の取り組みと して起業支援について述べているのは横浜市のみである。 職業訓練・教育による人的資本の向上や、女性の自立やエンパワーメントと いう視点からの、「働くこと」「働く場をつくること」をめぐる労働教育や職業 教育は課題である。韓国の実践のように、ひとり親家族の女性の就業支援・創 業支援においては、自助グループなど当事者が「集まる」場づくりや地域との つながりによる多種多様な教育などが行われる必要がある。. ⑤ 法制度化 社会的企業の視察のための韓国訪問や、韓国からの視察受け入れを行ってい る佐々木は、緊急雇用対策事業としてひとり親家族等生活困難者の就労支援を 実施している日本と、社会的企業育成法として法制度化している韓国の違いを 次のように語った。. - 89 -.

(30) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 韓国には社会的企業育成法があるというのが大きいですよね。人件 費が 3 年間助成される。3 年間である程度しくみができるんじゃない かと思うけど、日本の制度にはそれがないから、緊急雇用対策事業 の委託を受けて、1 年で雇用を生み出すというのは本当に難しいこと です。1 年で新たな企業を生みだして安定させるというのはなかなか 難しい。若者や女性に雇用を与えるということは大きなチャンスだけ ど、事業のその後を検証してわたしたちもそこから学ばないといけな いと思います。日本の場合は雇用を生み出すということで動いてきた けれど、韓国は、国が社会的企業を育てていくという意気込みを感じ るところが大きく違いますよね。. こうした日本の現状では、事業を委託する自治体の姿勢や力量が問われると いう。. 地域にとって必要なサービスを提供する雇用や、地域が活性化する ような雇用であれば企業にとっても市町村にとってもいいですよね。 それでいくと、どんな雇用を生み出すのか、ということを打ち出して いくにあたっての市町村の姿勢が出てきます。韓国では、法律の名前 にあるように、国が社会的企業を育成しながら雇用を生み出そうとい う考えだけど、日本では、国は社会的企業を設立したり養成しなさい と言っているんじゃなくて、雇用を生み出しなさいと言っているんだ から、社会的な意義がある企業や雇用を生み出していく、という企画 力や伝える力、プレゼン力が市町村には問われますよね。. 日本には、1998 年に成立した特定非営利活動促進法による NPO 対策しかな い。もしくは中小企業対策しかない。非営利活動と営利活動を社会サービスの - 90 -.

(31) 人権問題研究所紀要. ひとり親家族の女性を対象とした就労支援の課題―日本と韓国の実践から. 提供や地域社会への貢献といった社会的意義でつなぐ社会的企業の存在とそれ を財政的ならびに人的に支援する法制度化が今後求められる。また、法定雇用 率のようなひとり親家族の女性の優先雇用や、ひとり親家族の女性のための雇 用創出が政策として展開される必要がある。. ⑥ 思想・理念 しかし、法制度化による財政的・人的支援のみならず、社会的企業を持続可 能なものにしていくためには、韓国のように、それを支える思想や理念は欠か せない。企業の限界を佐々木は次のように語る。. 企業は利益を出してそれを株主に対して還元していくことを使命と しています。また、お客様のニーズに応えることで利益が出ますが、 それによって雇用も生まれます。今までの企業は経済至上主義を追求 してきましたが、そこには限界がありました。この地域に必要なこと を、この地域の人たちや、同じように考えている人たちと連帯してい きながらどうやって経済を生み出し継続していくか、労働者・社会・ 地域・住民に必要なものを生み出していきながらいかに利益を生み出 し、その利益で労働者・社会・地域・住民に返していくか、という視 点です。 もちろん企業ですから利益を追求しますが、そのことと、今の社会 や地域にとって必要なものを追求していくこととはどちらが上でもな く両輪です。利益だけを追求してもそこには限界がありますし賛同が 得にくいと思います。福祉、就労困難な人たちへの支援、高齢者に対 するサービス、教育など、今の社会に対する企業の役割があります。 利益を追求することに価値を見いだすのではなく、生きがい、やりが い、社会や地域に必要なもの、新たな産業や新たなつながりなど、そ - 91 -.

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