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反抗的・挑発的な行動を示すASD児に関する事例研究――情動を含む多面的実態把握と包括的支援――

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原 著 論 文 1.問題意識と目的 近年,教育現場ではユニバーサルデザイン (Universal Design;以下UD)化された教 育が重要視されつつあるが,個別の支援につい て,再度丁寧に見ていく必要がある.そこで, 具体的な事例において,どのような視点を持ち 教育場面で支援プログラムを活用していくべき なのかということを,臨床場面を基に考察して いきたい. 研究の目的は,次の3点である. (1)年間を通して,一人の反抗的・挑発的 な行動を示す自閉症スペクトラム障害(以下 ASD)児の行動をエピソード記録から明らか にするとともに,行動特徴を把握する. (2)心理検査等により,行動の背景にある発 達的意味を把握するとともに認知面における強 みや弱みを含めた特徴的課題を明らかにする. (3)認知面のみでなく,情動面からも支援す ることで,子どもが能動的に活動にできる教育 実践についての手がかりを得る. 2.エピソード記録による実態把握 (1)目的 日常の生活場面から,本児の行動様式を把握 することで,ありのままの特徴が捉えられるも のと考える.そのために,行動の変化を時系列 の中で把握すると共に,問題行動と思われる行 動が出現し,人と関わる経過の中で,その行動 がどのように変化していくのかという経過と要 因について検討する. (2)方法 研究期間は,中学部1年生在籍時の1年間の 取り組みである.時期区分は,学期制に沿って 3期に分けることとした. 分析は,第一に教師に対する行動面.第二に 友だち関係の中で観られる行動.そして,第三 に対教師、対友人関係以外の場面での行動につ いて観ていくことにした. (3)結果と考察 第一期では,視覚支援が全くと言っていいほ ど有効に働かなかった.見通しが持ちやすいよ うに視覚的に提示して理解を促すようにした が,行動の改善は見られず,授業に対して離席 し,教師に反抗的な態度を繰り返すこととなっ た.そこで,このような原因を解明し,支援を 考え直す必要があった.第2期では,教師が熱 心に指導すればするほど,ますますルールが守 れない状態になった.規則を徹底し,行動の改 善を図るが,教師の意図に反して,教師に掴み かかり,掲示物を壊すなどの行動に繋がった. 第三期では,苦手な活動に対して拒否をするな どの発言がしっかりできるようになり,行動に 改善が見られた.しかし,その一方で,活動に 対して否定的な面ばかりを捉えがちになり, 様々な活動で,積極性を失い,拒否的な行動が 目立つようになった.

反抗的・挑発的な行動を示すASD児に関する事例研究

――情動を含む多面的実態把握と包括的支援――

西 堀 二 郎

CaseStudyonASDChildShowingOppositionalDefiantBehavior

-ManifoldUnderstandingandComprehensiveSupport

includingEmotionalFunction-

JiroNISHIBORI

†障害児教育専攻 障害児教育専修  指導教員:近藤文里

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3.K-ABC検査による検証 (1)目的 エピソード記録の分析から,指導に対して, 指導が有効に働く場合と,問題行動を拡大化さ せてしまうことがあった.そこには,本児の認 知面で処理過程に何らかの困難さがあるのでは ないかと考えた. そこで,検査を用いることで,認知の特徴を 明らかにすることにした. (2)方法 本児は生活年齢では14歳5か月であり検査 適用範囲外である.しかし,本児には発達遅滞 が見られることから,本児の生活年齢に最も近 い12歳11 ヶ月に基準値を参照することで認知 の偏りを検討する. (3)結果と考察 図1は,総合尺度における得点プロフィール を示したものである.図1から明らかなよう に,全ての尺度において平均から-1SD以上 の有意な低下が認められた.つまり,12歳11 ヶ月の年齢群と比較しても顕著な得点の低さが 認められた.しかし,本児の実際の生活年齢は, それよりも高いことから,学年集団の中で生活 することの困難さについて注意深く見ていく必 要があると考えられる. 継時処理の評価点66は,同時処理63に比べ て高く,継時処理における認知の優位性が認め られた.その差は+3で,有意差ではないが, 継時処理の方が,同時処理よりも得意であるの で,順を追って説明などをするとより分かりや すいと言うことがわかる.通常はASDと診断 されると視覚の支援を中心に配慮しがちである が,本児の場合は,継時処理の方が優位である ことを理解した関わりをしていくことが重要で ある.これまで視覚支援が有効だと信じて支援 をしてきたことが妥当ではなかったことが明ら かとなった.むしろ,本児には順を追って言葉 での説明や,本人に理解しやすい言葉かけをす る方がもっと大切であったことが分かった.習 得度については,同時処理よりも+12,継時 処理よりも+9,認知処理よりも+10と得点 が高い.このことは,学習によって身につけて きた成果が,本人の認知能力以上に大きいこと が分かる.このような結果を導き出した経過と して考えられることは,これまでに塾に通い, 学習面でのフォローを十分に行ってきたことな どが考えられる.しかし,その反面で本人の実 際の力に合わないことを無理強いしてきたとも 考えられる.学習環境として,本人に適した環 境を提供していくことは極めて重要なことであ る.この結果を受け止めて,本人の獲得した力 を最大限生かしながらも,他の尺度での落ち込 みをフォローしていけるような学習環境の配慮 が求められる. 図2は,継次処理尺度における得点プロフィ ールである.いずれの下位検査においても有意 差が認められた.特に,手の動作においては, 平均評価点10に対して,評価点が2というの は-2SD であることから,大きな落ち込みで あることが分かる.このことは,これまでの遊 びへの誘いを拒否する理由として,微細な動き や操作が苦手であることと関係している.この ような原因を背景とした本児の苦手意識は,反 抗的な行動に繋がる要因となったかも知れな い. 図3は,同時処理尺度における得点プロフィ ールを示したものである.いずれの下位検査に おいても,平均評価点10に対して,有意差が 図 1 総合尺度による得点プロフィール 図 2 継次処理尺度における得点プロフィール

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認められる.特に,視覚類推の得点の低さから, 物事の規則性を見つけることが苦手であること が認められた.周囲との関係から,どのような 規則性があるかなど,丁寧な説明が必要と思わ れる.日常では,本児は,教師が何故他の生徒 を指導し,注意しているのか分かっていないこ とがあるが,その様なときには,状況の説明な どが必要であると思われた. 図4は,習得度尺度における得点プロフィー ルを示したものである.12歳の基準値に対し て,「ことばの読み」以外は下位方向への有意 差が確認された.しかし,「ことばの読み」に 関しては,信頼水準を含めて97±4にあり, 平均との有意差がないことが確認できた.これ は,本児が塾に通うなど,ことばでの遅れがな いように家族の支援が行われてきた成果として みることができる.また,このような結果は, 本児がやればできるはずとして,他のことが本 人の努力不足のように解釈されてきたのではな いだろうか.「ことばの読み」での努力を認め, その他の下位項目のフォローをしていくことが 大切である. また,「算数」の相当年齢は6歳9ヶ月とい うことで,「ことばの読み」の12歳0ヶ月に対 して,教科間の開きが顕著であることが認めら れる.学校教育において,教科学習でほぼ同じ くらいの能力を持った子どもたちを一緒にした グループ編成をしたところで,本児にとっては 教科間の開きがあまりにも大きいという矛盾が 認められる.本児にとっては自分の力にマッチ する教科と,マッチしない教科に取り組まざる を得ない状況が起こる.つまり,国語的な視点 からは12歳頃に所属しつつも,算数では大き な困難を抱えたままで学習せざるを得ないとい う事になる.個別の教育カリキュラムを組んで いくことの必要性が示唆された.また,ことば の読みが十分にできるからといって,やり取り ができるとか,理解が伴っていると誤解されて グループが編成されがちなので,教科学習での グループを編成するときに,慎重に検討する必 要があるように思われる. 4.情動知能尺度(EQSC)による検証 (1)目的 ASD児が他者とかかわりながら人間関係を 構築していくうえで重要になってくるものの一 つとして,彼らの情動尺度を把握することは極 めて重要と考える.情動知能については,主と して成人を対象に研究が行われてきた.わが国 においても,内山ら(2001)によって,まず 成人用の情動知能尺度(EQS)が開発された. また,それに基づいて皆川ら(2001)は,児 童用情動知能尺度の開発を行い,子ども版情動 知能尺度(EQSC)と命名した. 本研究では,この尺度を用いることで,本児 の情動面における強みと弱みを捉える. (2)方法 EQSCの尺度は,質問紙法の形態をとってい る.本研究においても担任に依頼をする形式で 質問紙による検査の実施をする.検査は,3件 法によるもので,各質問項目に対して「Aよく あてはまる:4点」「Bあてはまる: 2点」「Cあ てはまらない:0点」で評価してもらった.評 価結果については,対人対応,自己対応,状況 対応の分類で集計することとした. (3)結果と考察 図5は,EQSCにおける3領域の評価得点の 結果を示したものである.いずれの領域でも, 図 4 習得度尺度における得点プロフィール 図 3 同時処理尺度における得点プロフィール

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半分の50%を超えておらず,弱さが認められ る. また,領域間の比較をしてみると,対人対応 <自己対応=状況対応という結果であった.つ まり,対人関係の低さが,顕著であった. 図6は,対人対応領域における下位因子ごと のプロフィールを示したものである.「対人コ ントロール」因子は,33.3%と,能力としては 決して高い結果ではないが,調整できる素地が 認められた.したがって,この領域へのアプロ ーチとしたい.具体的に,このように行動すべ きなのかをしっかりと示していく必要がある. モデルとなる行動をしっかり提示することで, 行動のコントロールはしやすくなると考えられ る.問題行動に対して「悪い行動」と指摘する よりも,教師が求める行動を具体的に言葉で示 すことが,重要と思われる. 今まで教師は,本児に対して「相手の気持ち を考えて行動するように」という抽象的な言葉 かけで指導することも多かった.しかし,その 指導が却って,どのように行動すべきなのかに ついて本人に理解を促さず,混乱を生み出して いたのではないかと反省される. 「共感性」という点では,相手の気持ちが十 分に理解できていないからこのような行動にな るのではないだろうか.相手がどのように感じ るかを,具体的なソーシャルストーリーなどを 提示することで,本児に理解させることが必要 になってくるであろう.相手の感じ方や,自分 の行動の結果から生まれる問題などを知った上 で,状況に応じた感情に結びつけていくことが 大切である.その結果として,共感できるとと もに,相手のことを配慮した行動ができるよう になってくると思われる. 図7は,状況対応領域における下位因子の結 果を示したものである.「リーダーシップ」の 低さについて,本校の教育では,小集団の中で の生活が中心となっており,リーダーとして意 見をまとめ上げる機会が少なくなりがちであ る.次年度は,3年生ということで最上級生に なることから,リーダーシップを発揮して,活 躍する場面も増えることとなる.そのような学 習の場面を大切に設定して育てていきたい. 一方,「状況洞察力」や「コントロール力」は, 50%の力を獲得していることから,着実に力 が育っていることが認められる. 図8は,自己対応領域における対応因子3群 について示したものである.自己対応領域にお ける因子ごとの比較をする.結果は,自己洞察 >自己コントロール>自己動機づけの順であっ た. この結果から,「自己動機付け」の弱さが明 らかになった.今すべきことが,本当に大切な ことなのだということを示すことが,本児にと って継続して物事に取り組めるのではないだろ うか.エピソード記録では,授業に入る前に, 教室に入ろうとしない行動や,授業中での活動 図 7 状況対応領域における対応因子3群 図 6 対人対応領域下位因子のプロフィール 図 5 EQSC 3領域の評価得点の結果

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に対して,「そんなんせんでええやろ」という 発言があった.これは,自分の中で,その活動 に対して意味のあるものかどうかの判断が曖昧 になっているのではないだろうか. 図9は,対人コントロールにおける下位因子 の結果を示したものである.その他の対応因子 から,「愛他心」や「共感性」が0という結果 になっていたことからも,「協力」の難しさが ここでも表れている結果に繋がったように思わ れる.しかし,「協力」においては,0.6と弱い ながらも因子が検出されていることから,他者 からの動機づけなどを行うことで,協力関係を 結んでいくことも可能であるように思われる. 今後の,対人コントロールの力を伸ばしていく ためにも,協力できる機会を教育活動の中で, 設定していくことができればと考える.また, 人材活用力>協力という結果であった.このこ とから,日常の指導においては「協力してしな さい」という指導よりも,「あなたはこのこと が得意だから(上手だから),その力を発揮し て(活用)頑張ってみよう」という指導の方が 有効であるということが明らかになった. 図10は,状況洞察における下位因子の結果 を示したものである.図から明らかなことは, 「楽天主義」の方が,「気配り」よりも高い結 果であった.この結果の解釈としては,失敗す ることや周囲のことを案じているよりも,考え るより,まずやってみようと思う意欲的な姿に 反映されているものと思われる.この結果は, 今後の教育活動においてポジティブな要素とし て認識できるのではないだろうか.教師ができ なかったらどうしようと案じてしまうよりも, まず一緒に挑戦し,共に活動する中で見つけら れる喜びを広げていくことが,活動の広がりに 繋がるのではないかと思われる. 図11は,自己コントロール対応因子におけ る下位因子の結果を示したものである. 「目標追求」の方が,「自制心」よりも高い という結果であった.「自制心」が低い分を, フォローする形で目標設定を明確にしていくこ とが重要と考える.目標があれば,その目標の ために行動が自制できるのではないかと仮説を たてることができる.その中で,目標のために 自分の行動を振り返り,調整できる力を育てて いくことが重要と考える. 「いけないことだから,してはいけない」と いうのは,教師の言葉かけとしても頻繁に行わ れている.しかし,「いけないからしない」と 図 9 自己コントロールの下位因子の結果 図 11 対人コントロール下位因子の結果 図 8 自己対応領域における対応因子3群 図 10 状況洞察における下位因子の結果

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いう単純な自制心に頼った指導では,有効に働 かないということである.本人の中に,その行 動の意味をしっかり見いだすからこそ,行動の 抑制に繋がるものだと思われる.「このような 結果につながるから,このような行動に修正し た方がよい」という指導の方が有効である. 具体的なエピソードとして自転車に乗って遊 ぶ昼休みの活動について取り上げる.本児は, 自転車が蛇行運転する様子が見たいからという 理由で,自転車から飛び降りる行動を繰り返し ていたときがあった.蛇行運転して倒れた自転 車は,前かごが変形するほど,衝撃を受けてい た.ペダルや,ハドルは,地面に埋め込まれ, 泥がこびり付いた.そこで,教師は「そのこと は,自転車を傷つけることになるから,可哀想 である」ので,止めるように指導すると,「そ んなんええやろ」「ぼくがしたいからええねん」 と言って行動を改めようとはしなかった.教師 が自転車の気持ちを代弁して「痛い.やめて欲 しい」と泣き真似をしても,効果はなかった. みんなが使うものを汚すと友だちも嫌な気持ち になることを伝えても,その行動の抑制には繋 がらなかった.さらに,乗車を禁止するルール を示しても,教師に対して髪の毛を引っ張り, 壁を蹴るという暴力をふるう結果となった. しかし,「愛他心」や「共感性」や「自己動 機づけ」などの弱い面に迫る指導ではなく,別 の視点からの指導であれば有効に働くことがあ った.自己動機づけが弱いのであれば,「他者 からの動機づけ」という点が支援になる.「蛇 行運転を繰り返すのであれば,自転車自体が壊 れてしまって乗れなくなることになる」という 説明することが動機づけとなり,一瞬は自転車 から降りようとするが,すぐに「(サドルから) お尻を離したらあかんな」と行動抑制が働くこ とがあった.また,どうしてもライトに泥を塗 る行動は止められないが,塗った後に,きれい に水道で洗う行動をつなげることで,きれいに 自転車を使うという意識づけには繋がった.単 に注意や禁止をするのでは指導に効果は見られ なかった.物を乱暴に扱うことが,結果的にど のような事態が起こるのかを明確に示すことで 行動の改善に繋がった. 「いけない事だから,しては駄目」という指 導よりも,「このような結果につながるから, このような行動に修正した方がよい」という指 導の方が有効であった.そのことは,自制心よ りも目標追求の方が高いという結果とも符合す る. これまでの考察から,個人内での情動知能を 詳細に分析することで,本児に必要な支援とい うものが明らかにできたと考える.本児の情動 面の理解を深めることで,本児に有効な支援と いうものを考えることができるようになると思 われた. 5.行動の自己制御機能尺度による検証 (1)目的 これまでの検証で,自己動機づけの弱さが明 らかになったが,行動を制御する力の弱さが原 因にあるのではないかとも考えられる.そこ で,集団の中における本児の行動を制御する力 についてより詳しく見ていくことにする. (2)方法 柏木(1988)による行動の自己制御機能尺度 を活用する.本尺度は,集団を意識し始める発 達の中で3歳1ヶ月から6歳11 ヶ月までの児 童を対象に,作成れたものである.本児の発達 年齢が6歳程度(新版K式発達検査2001)と 出ていることからも,検査に適切な年齢と考え られる. この検査が作成された背景となる理念では, 自己抑制と自己主張・実現の二つを子どもが達 成すべき発達課題として挙げている.自己抑制 とは〈集団場面で自分の欲求や行動を抑制・制 図 12 自己制御機能の領域 2 群の結果

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止しなければならない時,それを抑制する行 動〉である.また,自己主張・実現とは,〈自 分の欲求や意志を明確にもち,これを他人や集 団の前で表現し主張する,また行動として実現 すること〉と定義されている. 尺度は,質問紙法の形態をとっており,担任 に評価を依頼する形で実施した.各評価項目に ついて,それぞれに「きわめて多い」(5)から「ほ とんどない」(1)を両極とする5件法の尺度 を設けて評価する. (3)結果と考察 図12は,行動の自己制御機能としての領域2 群の結果をグラフで示したものである. 「自己抑制」よりも0.29の差で「自己主張・ 実現」の方に弱さが確認された.この個人内で の領域に関する差は,決して大きな差というほ どのことはないことが分かる. そこで,先行研究から「自己主張・実現」の 各年齢層における男児の結果との比較をした. 本児と先行研究での対象年齢6歳男児における 平均との点数の差は-25.84であった.その時 の差異スコアが13.48であることから,有意差 が-1SDであることが分かる.3歳男児と比 較しても-9.19の落ち込みが認められた.この 結果によって,行動制御としての力の弱さが明 らかになった. また,「自己抑制」の各年齢層における男児 の結果との比較した.対象年齢の6歳男児にお ける平均データとの差は-31.99であった.そ の時の差異スコアが24.97であることから,こ こでも,有意差として-1SDあることが認め られた.この領域においても3歳男児と比較し ても-4.76の落ち込みが確認された.そして, 「自己主張・実現」「自己抑制」のどちらにも, 有意な弱さがあることが確認できた. 次に,「自己主張・実現」の領域における下 位因子の結果を見る.自己主張が弱いといえど も,「拒否・強い自己主張」は6歳平均よりも 高い力が確認された.これまでの関わりから は,嫌なことが嫌と言えないでいるために,反 抗的な行動につながっているのではないかと仮 説を立てることもあった.しかし,この結果か らは,そのような仮説は当てはまらないことが 分かる. エピソードで,運動会に向けての練習が嫌と 言えず,問題行動が出たように思われた.しか し,「今日は、練習しとうないんや」と実際に は言葉で伝えられていた.ところが,理由が明 確に伝えられないため,教師は,頑張ったらで きるかもと判断して練習をさせた.すると,練 習後に本児は,壁を叩いて,掲示物を壊して回 った.原因は,苦手な運動会練習に参加したこ とだという解釈は間違っていなかったにして も,最初の段階で,本児の意志表現を汲み取り, 見学させる配慮があればよかったと思われる. 頑張ったらできるからと解釈していた教師自身 の理解に問題があったのかもしれない. また,「遊びへの参加」の因子が,弱いこと が認められる.確かに,休み時間に友だちと一 緒に楽しむとことが少なかった.そこで,遊び へ参加しにくい原因についてみていく必要があ る.大きな集団に入ることで,予期しない友だ ちの行動もあり,その様な友だちの行動に不安 を感じ,集団参加への抵抗感が強まっているの かもしれない.また,集団が大きくなるほど, ルールを徹底して遊べる力が必要になってく る.周囲の集団が発達的に高くなるにつれて, そのルールが複雑になってくる.複雑なルール の理解が十分にできないという不安が原因にあ ると考えられる. 校外活動では,ザリガニを探しに意欲的で, 友だちとの関わりを強めた.自転車遊びについ ても,スピードを出して遊ぶことと,自分の乗 っている自転車にいたずらをすることに意欲的 に取り組んだ.これらの遊びに共通するのは, 複雑なルールがなく,単純な遊びの中で友だち との関わりを強めることになった.集団の大き さ以上に,ルールの複雑さから遊びへの苦手さ を感じているのだとすると,本児の遊びに対し てはルールを簡素化して,遊べる内容を設定す ることが大切だと思われる.集団の生活年齢が 高まるにつれて,遊びのルールが複雑になる が,本児が遊びに参加しやすいルール作りなど の環境を作り出すことも教師の配慮として必要 であった. 次に,「自己主張・実現」における下位因子 を見る.本児と先行研究での対象年齢6歳男児 における平均との比較した.すると,「制止・

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ルールへの従順」以外,すべての因子において 点数の低さが確認された.「禁止・ルールへの 従順」が高い点数であることは意外であった. 問題行動が頻出することを考えてみると,禁止 やルールに対して従順にできないかのように思 えたが,結果はその逆であった.禁止された行 動を止められないわけではない.自己の行動を 制御する力はあることが明らかになった.では 何が原因で「自己抑制」の弱さが出ているのか を別の因子を見てみる. 一番落ち込みがある因子は「フラストレーシ ョンに対する耐性」であった.つまり,フラス トレーションに耐えることを無理させることな く,別の解決方法を示唆するなどの配慮が必要 であった.過度のフラストレーションを溜め込 むことによって,問題行動を引き起こしている のであろう.しかも,その溜め込みの容量も少 ないので,教師からするとほんの些細な出来事 であっても,そのことが本児にとっては大きな フラストレーションとなって感じられるのであ ろうことが予想される.6歳児の平均得点と比 較すると,有意な差は認められない.しかし, 中学2年という生活年齢では弱い.教師は,発 達年齢よりも,つい生活年齢で適した行動を見 がちになる.子どもの本質を見て,子どもの理 解をする必要があった. また,「持続的対処・根気」の弱さについて みてみる.このことは,「自己動機づけの弱さ」 に結びついているように思われる.「何が大切 なことなのか」という物事に対する判断の難し さがあった.大切な物事ということが理解でき ることによって,持続して対処できる力も育っ ていくと考えられる.そのためにも,物事の重 要性を比較するための判断材料とその物事を取 捨選択できる力の育成が必要であると思われ る.今すべきことや,本当に大切なことを,周 囲のものが呈示することが,動機づけと結びつ き,継続して物事に取り組めるようになると考 えられる. エピソード記録で,授業に入る前に,教室に 入ろうとしない行動や,授業中での活動に対し て,「そんなんせんでええやろ」という発言が あった.活動に取り組めないことなどは,自分 の中で,その活動に対して意味のあるものかど うかの判断が曖昧になっている部分があると考 えられる.今,本当に必要なものは何で,すべ き行動はどうあるべきかを,より本人に分かり やすい形で周囲からの動機づけを生み出すこと が,活動への切り替えに有効に働く支援と考え られる.そして,動機づけがしっかりしていく ことで,「持続的対処・根気」の克服の一助と なるように考えられる. さらに「遅延可能」も点数が低い結果であ った.6歳児の得点3.87と比較すると,本児の 得点が3.07に対して,差-0.80について-1 SDの有意差が確認された.日常生活で「ちょ っと待っていなさい」で待つことが困難であっ たり,教師に話しかけたい時,他の子が話して いる間待っていられなかったりする.この結果 からも,集団の中で我慢できる力の弱さという ことが確認できた.遊びの中で自分の順番を待 つことや,相手の話を終わりまで聞くという単 純なルールですら守ることが難しい.それなら ば複雑になったゲームの中でそのルールを理解 し,守って活動することがより困難になること が理解できる.教師がサポートして,基本のル ールであるかわりばんこや貸し借りや待つため の力を支えていくことが大切である.そのよう な支援があることで,問題行動という破綻をす る前の支援につながると思われる. 6.社会-情動発達支援プログラム (SCERTSモデル)による実践 (1)目的 これまでの検討から,認知面での遅れととも に,情動面でも弱さが確認された.そこで,包 括的な支援プログラムであるB.M.プリザン トら(2011)によるSCERTSモデルを実践の 糸口とした. この教育プログラムの特徴的なこととして, 情 動 調 整 を 優 先 さ せ る こ と が 挙 げ ら れ る. SCERTSモデルは,画一的な支援を検証する のではなく,個別の課題に応じた支援を考える プログラムである. また,当該のモデルは交流型支援というもの に焦点を当てている.交流型支援とは,学校教 育場面での教師の支援がどうあるべきかについ て具体的な視点が示したものであり,どのよう

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な教師の支援方略が有効であるのか,明らかに できると思われる. (2)方法 SCERTSモデルが示す3つのコミュニケー ション段階の内,本児は,3段階目の会話パー トナー段階に該当する. SCERTSモデルには,子どもの目標に対し て2つの領域が設定されている.それぞれ対人 コミュニケーション,情動コントロールであ る.対人コミュニケーションでは,59からな る子どものための小目標が用意されている.情 動コントロールでは,61からなる子どものた めの小目標が用意されている.本研究では,こ れらの120の小目標の中から10の小目標を絞り 込み観察をすることとする.絞り込みについて は,SCERTSモデルで抽出された「社会-情 動成長指標のリスト」を参照した. 表1は社会-情動成長指標の資質4と8にお ける具体的な小目標を示したものである. 小 目 標 の 記 号 は, 共 同 注 意(JOINT ATTENTION)をJA,シンボル使用(SYMBOL  USE) をSU, 相 互 調 整(MUTUAL REGULATI0N) をMR, 自 己 調 整(SELF- REGULATION)をSRとして表記したもので ある. 評価については,リストから絞り込まれた 10の小目標に対して0(基準に合わない)から 2(一貫して基準に合う)までの3点数で評価 をし,その合計点数で目標の達成度を検証する. 次の表2は,具体的にキーとなる変数を示し たものである. 授業観察をする際の視点として,10からな る各活動のキーとなる変数を記録し,分析する こととする. (3)結果と考察 学習への定着を図るという視点から,「能動 的学習と体制化」と,友人関係で遊びの広がり を持たせたいという視点と,社会生活を営む上 でのルールを定着させたいという視点から,「社 会的成員性と友人関係」の資質で目標を組み立 てることとした. 結果から,2つの資質で相関関係がないこと が分かる.さらに,どちらかの項目が必ずしも 高い点数でないことが分かる.具体的に見てみ る.1月15日には,「社会的成員性と友人関係」 の方が高い.常に友人関係の得点が高くはな い.1月22日には,「能動的学習」の得点が高 い.次に,得点の違いを変数から分析する.変 数による違いを見てみると,座学であろうと運 動的活動中心の活動であっても,その関係の中 では相関関係は確認できなかった. 次に,言語ベースの活動である,国語,数学, 社会といった活動では,「資質8 社会的成員 性と友人関係」の方が,明らかに高い結果であ った.一方で,美術といった非言語ベースの活 動では,「資質4 能動的学習と体制化」の方 が明らかに高い結果となった.つまり,教科に よって本児の目標に対する行動の結果が大きく 変わってくることが分かる. 性教育は,集団も変わり,教科の特性も従来 の学習と違い,慣れていない.すると,極端に どの目標も点数が低くなった.しかし,同じよ うに慣れない 活動でも,一日入学は非常に落ち着いて楽し んで活動に向かえている.では,この違いはど こにあるのか.性教育という教科特性の違いも あるだろう.他の子どもは,同じ授業を受けて いても大変落ち着いて活動に向かえているのに 対して,本児だけは極端に性教育に対する取り 組み方が消極的になっていた.いくつかの点で 授業の違いを考える必要がある.友だちの構成 メンバーがいつもの授業とは違うという点.指 導する教師メンバーにおいても違いがあるとい 表 1 社会-情動成長指標から具体的な目標

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う点.気心が知れていて,発言がしやすいかそ うでないかということが,本児にとっては大き な影響を与えるものと思われる.「自己主張・ 実現」が3歳から6歳頃までとの比較でも低か った.自己主張がうまくできないことで新しい 構成メンバーの中では,意欲の減退につながる のかもしれない.また,「自己動機付け」の低 さも原因として考えられる.特設の性教育は, 従来の学習と切り離され,性教育に対する必要 性や,自分の日常生活と関連付けるなどの動機 付けの弱さから,学習態度の低さにつながった とも考えられる. 一方で,一日入学で示した本児の点数の高さ について考える.この学習においても,特設の 授業である.しかし,性教育とは対照的に,高 い点数を獲得している.では,その2つの活動 における変数で大きな違いは何であろうか.そ れは,活動の内容が,「余暇的な楽しい活動」 である.集団の中でゲームをして,新しい出会 いを意識するものである.ならば,たとえ新し いメンバーで,慣れない活動にもスムーズに取 り組めるようになると考えられる.学校行事の 精選ということが,近年,学校教育場面では流 行のように取り上げられていることもある. しかし,なんでもかんでも,行事をなくして 平常日課の取り組みだけを実施していくので は,ASD児である本児が得点も高く,学習へ の取り組みに効果があるということを見落とし てしまう.改めて,行事の持つ意味だけではな く,学習への効果について考える必要がある. その行事の意味や,設定の仕方によって,子ど もにとって効果や目標に対する得点も高く,活 動にも意欲的に取り組めるようになるというこ とを考えていく必要があろうと思われる. 7.総合考察 研究全体を通して明らかになったことは2点 である.第1は,行動の特徴を考える上で,そ の背景には情動があり,情動こそがお互いの関 係の基盤となるものであること.第2には,適 切な支援を考える上で,教師の視点で関わるだ けではなく,多面的な視点から見つめることが 大切なことである. 1つ目の問題について述べる.行動の裏にあ るは感情=情動があり,この情動こそ大切にし ていくべきである.「行動は心の表現」と認識 してこそ,本来の子どもの理解と,建設的な支 援へと繋がるものと認識する.全ての行動の原 因においてこれが絶対の原因であるとは断定は できない.それまでの生育歴もあれば,環境 も,自身の問題も,トータルで今の姿・行動に 結びついている.原因は,複雑な要因が絡み合 って行動に結びついているのである.だからこ そ,子どもに寄り添う教師は,支援においても 包括的な視点を持つことが非常に大切になって くる.子どもの気持ちが動いて,その結果なん らかの行動を起こしているのであるから,気持 ちを考え,行動を見つめていくことが大切であ る. 次に,2つ目の問題について述べる.多面的 表 3 各目標に対する評価の結果 表 2 キーとなる活動の変数

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に見るということは問題行動と捉えがちな行動 も,一つの表現として捉えることである.行動 の改善ばかりに拘ってしまうのは教師自身では なかったかと反省させられる.その子のため に,指導を熱心にすればするほどうまくいかな い.そのようなときには,全く違った行動への 理解が,その子の理解に繋がる.それが情動で あり,認知であり,より深い理解であると思わ れる.教師がその子を思う気持ちを,子どもに どのようにして伝えるか.教師としての気持ち は同じであるが,伝わらなければ意味がない. 教師の思いばかりで指導をしても何も改善され ることはない. また,正しい指導は一つとは限らない.まず 何よりも,教師がその子自身のことを知ること が重要であることは言うまでもない.教師は, その子のためにと思うからこそ,周囲が問題行 動と捉える行動を改善しようと躍起になって指 導しがちである.しかし,一方で,問題行動を 起こしている子ども自身も,自分の思いを表現 しようとして,結果として問題行動に繋がって いることだってある.うまく実現できないこと へのフラストレーションが問題行動に結びつい ていることだってある. 特別支援教育とは、「その子のために理解し 続ける.」ことだと思われる.単に専門機関に 理解を求めるだけでは本質は見つからない.行 動の意味を考え,理解を深めようとすればする ほど,また深く,新たな発見が生まれる. 文 献 1)B.M.プリザント,E.M.ウェザビー,   E.ルービン,E.C.ローレント,P.J. ライデル 2010,SCERTSモデル-自閉症 スペクトラム障害の子どもたちのための包 括的教育アプローチ1巻,アセスメント2 巻.日本文化科学社 2)別府哲 2010,「自尊心」を大切にした高 機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書 3)柏木恵子 1988,幼児期における「自己」 の発達―行動の自己制御機能を中心に.東 京大学出版会 4)皆川直凡,片瀬力丸,大竹恵子,島 井 哲 志 2010,児童用情動知能尺度の開 発とその信頼性・妥当性の検討.鳴門教育 大学研究紀要,第25巻,31-37 5)島井哲志,大竹恵子 2001,情動知能,そ の概念,評価方法と応用の可能性.神戸 女学院大学論集 第48巻,第1号,159- 173 6)上野一彦 1984,教室のなかの学習障害― 落ちこぼれを生まない教育を.有斐閣新書 7)吉田仰希,中村晋,長崎勤2009,ASD 児の社会・コミュニケーション及び情動調 整のアセスメント方法に関する検討.障害 科学研究 ,33,127-134 8) 吉 田 仰 希, 仲 野 真 史 2011 , 自 閉 症 児 への包括的発達アセスメントと支援―― SCERTSモデルによる.臨床発達心理実 践研究,第6巻,18-25

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参照

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