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医療分野におけるオープンデータ化に向けた医療情報の
二次利用の課題
Challenges of healthcare Data to open data and secondary use in healthcare filed
河﨑泰子
1高坂定
2Yasuko KAWASAKI
1, Sadamu TAKASAKA
,2,
1
旧・早稲田大学商学研究科ビジネス専攻専門職学位過程
MOT コース
2メディック総研
抄 録 医療情報は、診療目的としての利用、医療行為の公的書類作成のための利用(診療報酬請求) という一次利用だけでなく、社会的利用、医療政策立案・検証への利用、医学(疫学)研究への 利用等の二次利用が考えられる。科学的根拠に基づいて安全かつ有効性に基づいた医療が患者 に対して公平にいきわたるように、必要となる情報を収集し、還元すべきものと考えられる。医 療情報は、カルテに記載される専門性の高い情報から、保険請求に関わるレセプト情報、個人で 管理可能な健康診断、服薬情報、個人レベルの健康ライフログに至るまで、多種多様である。医 療機関においても、大学病院といった専門性の高い医療を提供できる医療機関から、個人経営の 診療所に至るまで扱う情報の質は、千差万別である。本来的にはそれらの情報は個人に帰属する ものであるが、個人で管理しえないという特徴をもつ。こうした医療情報の特殊性は、医療提供 体制の社会システムに関わる。 平成27 年 9 月 3 日に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法 律の一部改正)により、医療分野への適用することにより二次利用に向けた大きな期待と、同時 に、医療情報を適切に管理し生かしていく上での課題が浮き彫りになった。課題には、今後の医 療モデルを構築する上での技術的、社会的課題があり、以下に例示する。以下に、例示する。 ・前提としてのデータの標準化と相互運用性の確保。 ・前提としての医療機関間の相互連携のシステム化と医療機関の個人への医療情報開示の促進。 ・匿名化技術の利用等によるプライバシー保護の徹底。 ・受益者にオープンデータ化した医療情報を開示し、多様な視点からの分析を促進するととも に、受益者のコンセンサスに基づく、医療サービスの充実とコストの最適化を追求オープンデータとは
「電子行政オープンデータ戦略[1] 」(平成24 年 7 月 4 日 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部別決 定)は、オープンデータの意義・目的として、以下の3 点を挙げている。 ① 透明性・信頼性の向上: ② 国民参加・官民協働の推進: ③ 経済の活性化・行政の効率化: また、オープンデータである条件として、 ① 機械判読に適したデータ形式 ② 二次利用が可能な利用ルールで公開されたデ ータ である必要があるとしている。 以下は、G8サミットにおける「オープンデータ憲章」 からのオープンデータの原則の抜粋である。 表1 オープンデータの原則[2] [3]1. Open Data by Default(原則としてのオープンデー タ)
データによっては、公表出来ないという合理的 な理由があることを認識しつつ、この憲章で示 されているように、政府のデータすべてが、原 則として公表されるという期待を醸成する。 2. Quality and Quantity(質と量)
時宜を得た、包括的且つ正確な質の高いオープ ンデータを公表する。 データの情報は、多言語に訳される必要はない が、平易且つ明確な言語で記述されることを確 保する。 データが、強みや弱みや分析の限界等、その特 性がわかるように説明されることを確保する。 可能な限り早急に公表する。
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3. Usable by All(すべての人々が利用できる) 幅広い用途のために、誰もが入手可能なオープ
ンな形式でデータを公表する。 可能な限り多くのデータを公表する。 4. Releasing Data for Improved Governance(ガバナン
ス改善のためのデータの公表) オープンデータの恩恵を世界中の誰もが享受 出来るように、技術的専門性や経験を共有す る。 データの収集、基準及び公表プロセスに関して 透明性を確保する。
5. Releasing Data for Innovation(イノベーションのた めのデータを公表) オープンデータ・リテラシ-を高め、オープン データに携わる人々を育成する。 将来世代のデータイノベーターの能力を強化 する。 (出典:G8 サミット「オープンデータ憲章」)
医療情報と医療情報システムの特徴
医療分野においては、医療情報のオープンデータ 化によるベネフィットへの期待は大きい。ここでは、 医療情報と医療情報システムの特徴を見ておこう。 なお、本稿では、医療情報とは、医療機関が扱う診 療情報に限らず、医療に関する情報を指して広義で 用いている。 まず、医療機関が扱う診療情報の利用には、一次 利用と二次利用がある。 一次利用として、受益者に直接還元する目的とし た診療目的の利用、及び、医療行為の公的書類作成 のための利用(診療報酬請求)がある。 二次利用として、医療機関の経営管理、社会的な 健康・安全・危機管理、医療政策の立案・検証、医 学研究(疫学研究)、医学教育を目的としたもの等が ある。 医療情報は、本来、個人に帰属するものであるが、 現状では、個人で管理しえない情報と個人で管理す ることができる情報がある。 健康管理においても、日常生活の中で、自己責任 で管理する医療情報もあれば、健康診断、特定健康 診断のように事業者による取扱いが定められている 医療情報もある。セルフメディケーションや健康意 識の高まりに応じて、データヘルスビジネスの市場 が形成・拡大していることに見られるように、広義 の医療情報に関する関心は拡大している。 医療情報システムは、「人間の健康の維持、回復、 促進などを目的とした諸活動(医療)について、何 らかの媒体を通じて伝達される一定の意味を持つ実 質的な内容(情報)を、ICT を利用して適切に保存、 管理、流通するための仕組み(システム)」である。 医療情報システムの特徴は、患者の診療情報などプ ライバシー保護が必要な機微な個人情報を取扱い、 かつ、その利用が複雑で多岐にわたっていることに ある。医師、看護師、薬剤師、コメディカル等の多 職種のユーザがいて、それぞれが独自に管理する情 報と共有する情報が混在している。また、複数の部 門系システムで構成されており、組織体の規模や組 織によってもシステム構成が異なる。 各システム間の医療機器、設備等との接続、外部 機関との連携には、効率的かつ安全な情報連携が求 められている。医師法、医療法等の法律を基本とし つつ、各省庁が各種のガイドライン(厚生労働省医 療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第4.2 版〔4〕〔5〕、経済産業省 医療情報を受託管理する 情報処理事業者における安全管理ガイドライン〔6〕、 総務省 ASP・SaaS 事業が医療情報を取り扱う際の 安全管理に関するガイドライン[7])を設定している。 これらの多様な医療情報の流れを以下に示す。 図1.医療情報等の流れの概観[8] (出典:厚生労働省資料もとに、発表者作成・一部改変)医療情報のオープンデータ化と二次利用
ICT の進歩により、大規模な医療情報を収集・解 析する能力は格段に向上している。 近年、クラウドコンピューティングの普及により、 Web 上に巨大なデータ集積されるようになり、 「BigData」として注目されるようになってきた。 情報の解析技術としては、2004 年に Google が論文 として「MapReduce」を発表し、フレームワークの 実装「Hadoop」等の旧来の処理技術を上回る大規 模分散処理技術が台頭してきた。 こうした新しい技術を利用した医療情報の二次利用 は、医学の発展に貢献し、個人の健康にも還元でき、 医療費の適正化でも、大きな可能性がある。一方で、 情報の突合せにより、個人が識別可能となり、プラ3 イバシーが侵される危険性も生まれる。政府機関が 保有するデータの公開と利活用の推進というオープ ンデータの取組みの中で、医療情報の公益利用とプ ライバシーの保護のバランスは喫緊の課題である。 今後の医療モデルを構築する上での技術的、社会 的課題の幾つかを以下に挙げる。 ・前提としてのデータの標準化と相互運用性の確保。 ・前提としての医療機関間の相互連携のシステム化 と医療機関の個人への医療情報開示の促進。 ・匿名化技術の利用等によるプライバシー保護の徹 底。 ・受益者にオープンデータ化した医療情報を開示し、 多様な視点からの分析を促進するとともに、受益者 のコンセンサスに基づく、医療サービスの充実とコ ストの最適化の追求。 技術と制度両面で、機微な個人情報を扱う医療情 報のプライバシーの保護に取り組む必要がある。今 後の法整備の課題を含め、社会運用上のルールの明 確化により課題解決を模索されることが期待される。
前提としての標準化という課題
医療行為が、単一医療機関で完結していた時代と 異なり、地域包括ケア、及び、医療と医療に関わる 周辺分野(健康、介護等)との連携を視野に広げて 利活用する必要性が強くなってきている。標準化の 必要性は、情報公開・共有すべき関係者が多岐にわ たり、医療情報の種類や量が多く、長期間にわたる 情報の利活用が求められるようになったことも背景 にある。 医療情報を電磁的に保存管理する法制度が進むに つれて、データの保存は紙、文書等での保存よりも 簡便化された。 医療情報収集してもデータマイニングできなけれ ば、Big Data の利活用のメリットは生かせない。医 療情報の利活用では、高いデータの信頼性を求めら れており、一般的にBig Data と呼ばれるデータには ジャンクデータも含まれ、量的な側面が強調され る。医療情報の集積データには、質的な担保が必要 とされるため、標準化が課題となっている。 医療情報の標準規格は、「保健医療情報分野の標 準規格(厚生労働省標準規格)について」で指定され ている分野(主に、処方、検体検査、画像等の分 野)については、標準化として進んでいる。[9] 看 護、病理はすでに標準できており、HELICS が認定 すれば厚労標準となる。今後の更なる標準化の進展 が期待される。 現状を以下に示す。 表2.「医療情報標準化指針」一覧(採択されたもの)[10] (出典:医療情報標準化推進用議会(HELICS 協議会資 料より、発表者一部・改変) 医療分野におけるメッセージ交換の標準化規格 「HL7」がある。HL7 協会は 1997 年に設立された非 営利ボランティア団体があり、HL7 協会は米国規格 協会(ANSI)の医療分野における認定標準開発団体 でもある。日本においては、厚生労働省が、さまざ まなインフラから配信される情報を蓄積するととも に標準的な診療情報提供書が編集できる「標準化ス トレージ」という概念に着目し、すべての医療機関 を対象とした医療情報の交換・共有による医療の質 の向上を目的とした「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical
Information eXchange)を開始させた[11] 。 医療情報の相互運用性及び互換性のさらなる. 向 上を目的として、HL7 Ver2.5 をベースとした新たな 規約を策定中である。この規格に基づいた実装規格 として、2015 年 6 月 23 日に SS-MIX2 文書が改訂さ れた[12] 。 医療における標準化では、医学の進展に伴い改訂 がされるため、設計の方法論について深さや広さも 含め、相互運用性の標準が検討課題となっている。。
マイナンバー法と医療等
ID を巡るプ
ライバシー保護の課題
医療情報は個人のものであると同時に、公的性質 をもち得るものとして捉える二重の観点が、医療情 報の性質を理解する上では重要であると筆者は考え ている。医療情報には、個人で管理可能なPHR と医 療機関で管理するEHR とがある。医療情報の利活用 として、個人の健康管理に生かすという方向性と、 医療情報を公益利用し広く社会に還元するという方 向性がある。 現状、医療情報の公益利用については、必ずしも 申請受付番号 提案規格名([ ]内は提出団体名) 状況 申請日 採択日 厚生労働省 医薬品HOTコードマスター 認定 [(一財)医療情報システム開発センター] 2010/3/31 ICD10対応標準病名マスター 認定 [(一財)医療情報システム開発センター] 2010/3/31 患者診療情報提供書及び電子診療データ提供書(患者への情報提供) 認定 [日本HL7協会] 2010/3/31 診療情報提供書(電子紹介状) 認定 [日本HL7協会] 2010/3/31 IHE統合プロファイル「可搬型医用画像」およびその運用指針 認定 [(一社)日本医療情報学会] 2010/3/31 保健医療情報-医療波形フォーマット-第92001部:符号化規則 認定 [日本PACS研究会] 2010/3/31 医療におけるデジタル画像と通信(DICOM) 認定 [(一社)日本画像医療システム工業会] 2010/3/31 JAHIS臨床検査データ交換規約 認定 [(一社)保健医療福祉情報システム工業会] 2010/3/31 標準歯科病名マスター 認定 [(一財)医療情報システム開発センター] 2011/12/21 臨床検査マスター 認定 [(一財)医療情報システム開発センター] 2011/12/21 JAHIS放射線データ交換規約 認定 [(一社)保健医療福祉情報システム工業会] 2011/12/21HIS, RIS, PACS, モダリティ間予約, 会計, 照射録情報連携 指針(JJ1017指針) 認定
[(公社)日本放射線技術学会] 2012/3/23 JAHIS処方データ交換規約 [(一社)保健医療福祉情報システム工業会] 地域医療連携における情報連携基盤技術仕様V2.0 [(一社)日本IHE協会] HS025 採択 2015/3/25 2015/7/10 未定 HS022 採択 2013/10/9 2014/12/16 未定 HS016 採択 2011/3/8 2011/9/29 HS017 採択 2011/4/19 2011/12/16 HS014 採択 2009/12/18 2011/1/31 HS013 採択 2009/12/18 2010/9/20 HS012 採択 2009/12/7 2010/2/10 HS011 採択 2009/8/6 2010/1/25 HS010 採択 2009/1/26 2009/9/30 HS009 採択 2008/1/7 2008/12/1 HS008 採択 2007/12/26 2008/9/1 HS007 採択 2006/3/28 2007/3/16 HS005 採択 2004/6/16 2004/12/28 HS001 採択 2002/3/4 2003/5/23
4 十分な社会的コンセンサスが得られてはいない。個 人の医療情報の取扱いを誤れば、個人の社会生活を 脅かす危惧があるためである。 医療情報の公益利用と個人情報保護を巡る課題は、 現時点では、マイナンバー法と医療等ID(仮称)を 巡る議論の中に集中的に現れている。ここでは、そ の経過を振り返りたい。 2013 年 5 月に成立した「行政手続における特定の 個人を識別するための番号の利用等に関する法律」 (マイナンバー法)[13] では、住民基本台帳に記載さ れている住民全てに「個人番号」を付番し、社会保 障・税に係る事務に必要な情報の円滑な連携を図る ことを目的としている。番号制度の導入に対しては、 個人のプライバシー等の観点から懸念する意見もあ った。そのため、個人番号に紐づく情報(特定個人 情報)の取り扱いを監視する第三者機関を創設した。 また、プライバシー保護の在り方については規制改 革実施計画 (平成 25 年 6 月 14 日 閣議決定) を受け て、2014 年 9 月より「IT 戦略本部 パーソナルデー タに関する検討会[14]」で検討が開始された。2014 年 12 月、「パーソナルデータの利活用に関する制度見 直し方針」では、個人が特定される可能性を低減し た個人情報の扱いを柔軟化する方針が示された。パ ーソナルデータ利活用に向けた動きとプライバシー 保護、プライバシー影響評価等の導入も盛り込まれ た。 医療分野では、「IT 戦略本部 新戦略推進専門調査 会 マイナンバー等分科会」で、個人番号の利用範囲 として医療分野についてどこまで含めるかについて 検討が進められてきた。厚生労働省「医療等分野に おける番号制度の活用等に関する研究会」では、2014 年12 月 10 日に「中間とりまとめ」が発表された〔15〕。 平成27 年 7 月には、厚生労働省の検討会を引き継 ぐ形で、日本医師会で開催された「医療分野等ID 導 入に関する検討委員会」の「中間とりまとめ」も発 表された[16]。「日本再興戦略 改訂 2015」の中にも、 「マイナンバー制度のインフラを活用した医療等分 野における番号制度の導入」という項目が盛り込ま れた[18] 。平成27 年 9 月 3 日に、「個人情報の保護に 関する法律及び行政手続における特定の個人を識別 するための番号の利用等に関する法律の一部を改正 する法律」が閣議決定し、同月9 日公布され、個人 情報の取扱い、利活用ついて明確化された[19]。 医療分野における二次利用への期待は大きいが、 医療分野における個人情報の取り扱いは、他の分野 と異なり、病歴、服薬履歴、他人には知られなくな い情報等、特別な配慮を要するのは明らかである。 そのため、マイナンバーとは異なる医療等分野専 用の番号を導入することが明らかにされた。ただし、 医療分野のID については、検討されている段階であ る。医療等 ID(仮称)については、医療連携や研究に 利用可能な番号の導入等の法整備を行い、2018 年度 から段階的運用開始し、2020 年の本格運用を目指し ている。
結語
医療分野におけるオープンデータとその二次利用 については、期待が大きい。筆者もそうした方向で の前進を望んでいる。一方で、その目的・方法・適 用範囲等が明らかでなければ、社会的コンセンサス を得ることが難しいのも事実であろう。2020 年の本 格運用までに、十分な議論が行われることを期待し たい。謝辞
本研究は、メディック総研高坂先生のご協力頂きま して、完成致しました。快く資料提供、ご助言等い ただけましたこと、深く御礼申し上げます。参考文献
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