• 検索結果がありません。

溶液中の高分子構造解析はみみずの身体測定?

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "溶液中の高分子構造解析はみみずの身体測定?"

Copied!
1
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

654 生物工学 第96巻 第11号(2018) 著者紹介 静岡大学学術院工学領域化学バイオ工学系列(准教授) E-mail: [email protected] 「高分子の構造」と聞くと,タンパク質の結晶解析で 得られるような高次構造を思い浮かべる方も多いかもし れない.しかし,溶液中の高分子は結晶のようにきっち りとした構造ではなく,乱れた形態をとっていて,話は そう簡単ではない.合成高分子だけではなく多糖類など も分子量すら揃っていない(きちんと揃っている方が生 体高分子を含めても例外である).図1aはエチレンの20 量体であり,「高分子」とは言い難いほど短いが,実際 の高分子にはこれより遥かに長く,絡まった糸まりのよ うな複雑な形態をとっている. 高分子化学者は,絡まった糸まりのような高分子を, 硬さを持った「みみず」(一定の硬さを持つ曲線)に例 えて考える.これが「みみず鎖モデル」である(図1b). みみずの硬さを表す「持続長」(何nmまで真っすぐに延 びるか)と,高分子鎖の単位長さ当たりの分子量を示す 「経路長当たりの分子量」を与えると,溶液中の高分子 の広がりを示す「回転半径」(高分子鎖の重心から各モ ノマーの平均距離)や「固有粘度」(単位濃度の高分子 がどれだけ溶液の粘度を上昇させるか示す指標)を計算 できる1). 実際には,高分子の分子量と回転半径などを光散乱測 定などの実験から求め,持続長を求めることで高分子の 硬さを議論することが多い.みみずの身長(回転半径) と体重(分子量)の両方を測れば,みみずの硬さがわか るのである.「みみずの身体測定」は合成高分子だけで なく,生物高分子にも行われている.汎用合成高分子の 多くは柔らかく持続長は数nm程度であるが,セルロー ス誘導体(セルロース自体は溶媒に溶けにくい)は十か ら数十nmであり,分子構造から予想されるように硬い 高分子であることが定量的にわかる.二重らせん構造を 取るDNAの持続長は60 nmで,かなり硬い.しかし, 完全に延び切っているのではなく,有限の値を取り,全 長が60 nmを越えると糸まり構造に近づいて行く.三重 らせん構造を持つ多糖類であるシゾフィラン(抗がん剤 として利用)の持続長は200 nmにも及ぶ. みみずの身体測定が高分子構造解析に決定的な情報を 与えることも多い.食品の増粘剤として使われる多糖類 のキサンタンはX線構造解析から,らせん構造を取る ことがわかっていたが2),単一鎖によるらせんか,二重 らせんかで長年議論が続いてきた.佐藤ら3)は幅広い分 子量でキサンタンの回転半径や固有粘度を測定するこ と で, 持 続 長 を120 nm, 経 路 長 当 た り の 分 子 量 を 1940 nm–1 と決定した.この経路長当たりの分子量はX 線構造解析で決定された二重らせん構造によって計算さ れる値と一致したため,キサンタンが単一鎖によるらせ んではなく,二重らせん構造を取っている決定的な証拠 となった. 従来,持続長と経路長当たりの分子量を求めるには, 分子量の異なる高分子試料を多数用意して,それぞれの 試料に対して分子量,回転半径,固有粘度などを決定す る実験を行う必要があった.高分子をサイズごとに分別 するサイズ排除クロマトグラフィーの検出器として 2000年代以降,多角度光散乱計や粘度計などをオンラ インで接続することが多くなってきた.これにより分子 量分布がある試料を注入するだけで,カラムで分子量分 別し,連続して光散乱測定や粘度測定を行い,分子量, 回転半径,固有粘度を決定できる.1匹ずつ長さの違う みみずを選り分けて身体測定していたのが,自動的にカ ラムで選り分けて身体測定までしてくれるようになった のである.これによって,持続長と経路長当たりの分子 量が大幅に簡便に決定できるようになった. また,分岐構造を持った高分子は,同じモノマーから なり,同じ分子量であっても,分岐のない高分子とは回 転半径や固有粘度が異なる.そのため,分岐構造を持つ 試料と持たない試料を上述の検出器を用いてサイズ排除 クロマトグラフィー測定することで,どのような分岐構 造を有しているかを明らかにすることができる. 「みみずの身体測定」は今後も溶液中の高分子構造解 析で大きな役割を持つと期待される. 1) 村橋俊介ら:高分子化学第5版,共立出版 (2007). 2) Moorhouse, R. et al. (Sandford, P. A. and Laskin, A.

Eds.): Extracellular Microbial Polysaccharides, p. 90, American Chemical Society (1977).

3) Sato, T. et al.: Polym. J., 16, 341 (1984).

溶液中の高分子構造解析はみみずの身体測定?

松田 靖弘

参照

関連したドキュメント

会 員 工修 福井 高専助教授 環境都市工学 科 会員 工博 金沢大学教授 工学部土木建設工学科 会員Ph .D.金 沢大学教授 工学部土木建設 工学科 会員

東京工業大学

東京工業大学

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

静岡大学 静岡キャンパス 静岡大学 浜松キャンパス 静岡県立大学 静岡県立大学短期大学部 東海大学 清水キャンパス

学識経験者 小玉 祐一郎 神戸芸術工科大学 教授 学識経験者 小玉 祐 郎   神戸芸術工科大学  教授. 東京都

講師:首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 准教授 三好 洋美先生 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 助教 中村

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院