Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
ヒト下顎骨における生体アパタイト結晶の配向性と力学
的性質との関係
Author(s)
松本, 達事; 森岡, 俊行; 古屋, 英敬; 松永, 智; 吉成,
正雄; 井出, 吉信; 矢島, 安朝
Journal
歯科学報, 111(4): 427-427
URL
http://hdl.handle.net/10130/2581
Right
目的:インプラントは顎骨と結合しており,荷重は 直接周囲骨に伝達される。歯根膜による緩衝機構を 有する天然歯とは支持様式が異なることから,常に 力学的要因を考慮する必要がある。近年では歯科イ ンプラントに関する生体力学的研究として三次元有 限要素法(FEM)を用いた解析が行われている。 FEM を用いた研究のほとんどは,海綿骨を一塊の ブロックとして均質化した等価材料モデルを作製 し,力学的物性値を設定している。しかしながら, 顎骨内部は複雑な骨梁ネットワーク構造を呈してお り,下顎管などの構造的な特性を有する。そのた め,インプラント周囲顎骨の高精度シミュレーショ ンを行うためには,骨梁構造を忠実に再現したモデ ルを使用する必要がある。そこで本研究では,皮質 骨厚径の違う精細モデルを用いて,インプラントに 加わる荷重が下顎管へ及ぼす影響について検索し た。 方法:試料は,東京歯科大学解剖学講座所蔵の日本 人乾燥頭蓋骨2体の無歯顎の下顎骨を用いた。これ ら の 試 料 を マ イ ク ロ CT(HMX225Actis4,TES-CO)で撮影した後,得られたスライスデータを用 いて TRI/3D-BON(Ratoc System Engineering)
にて骨形態計測を行った。その後,皮質骨厚径の異 なる2つの三次元有限要素モデルを VOXELCON (Quint)にて作製した。その際に骨,インプラン ト,下顎管にそれぞれ異なる力学的物性値を与え た。オトガイ孔から遠心の2cm を関心領域とし, 中央部分に直径4.1mm のインプラントを仮想埋入 した。インプラント体は下顎管までの距離が2mm となるように設計した。下顎骨の近遠心両断面を完 全拘束した後,インプラント体上面に垂直方向へ 100N の荷重を加えた。そして FEM を用いてイン プラント周囲の海綿骨に発生した応力と,下顎管の ひずみ量について評価した。 成績および考察:有限要素解析の結果,荷重はイン プラント周囲の皮質骨および海綿骨に伝達してお り,下顎管にまで達しているのを確認した。下顎管 のひずみ量を比較すると,皮質骨がより厚いモデル のほうが小さな値を示した。このことから,インプ ラント埋入部位における厚い皮質骨は高い緩衝能力 を有することが示唆された。皮質骨が薄い場合に は,下顎管周囲に負担過重が生じる可能性があり, 術前診査としての骨構造の精査が必要であると考え られる。 目的:インプラント治療における骨強度の評価は, その予後を左右する重要な因子であることが知られ ている。骨強度とは骨密度のみでなく,骨質の評価 が大切であり,この骨質因子の一つに生体アパタイ ト(BAp)結晶の配向性があるといわれている。 BAp 結晶配向性は骨に加わる局所応力に鋭敏に反 応し,骨のリモデリングにより力学的性質を向上さ せていると報告されている。そのため,咀嚼力など の荷重を負担するヒト下顎骨は,微細構造や力学的 性質に特徴がみられると考えられる。私達はこれま で,ヒト下顎骨の BAp 結晶配向性を明らかにして きた。今回は,BAp 結晶配向性と力学特性の関係 を明確にすることを目的として,Nano indentation 試験法を用いてヒト下顎骨の力学的物性値を計測し たので報告する。 方法:東京歯科大学解剖学講座所蔵の日本人実習用 遺体から,咬合支持を有する上下顎臼歯部を選び, 下顎骨臼歯部を採取し試料とした。第一大臼歯部を 関心領域とし,近心部,根分岐部,遠心部で前頭断 した切片標本を作製した。その後,BAp 結晶配向 性測定を行った歯槽部4部位,下顎底部4部位で超 微小押し込み硬さ試験を行った。試験は Nano in-dentation tester(ENT-1100 a,エリオニクス社)を 用い,試験手順は通法に従って行った。試験機本体 をシールドケースで覆い,ケース内部の試験温度を 28.0±0.1℃に 制 御 し,一 定 加 速 度0.1mN/s で50 mN の最大荷重まで負荷し,その後荷重を60秒間保 持し,次いで負荷時と同速で除荷し,硬さおよび弾 性係数の測定を行った。 成績:ヒト下顎骨第一大臼歯部皮質骨の硬さおよび 弾性係数は歯槽部で小さく,下顎底部で大きな値を 示した。これらの結果から,歯槽部で頬舌側共に近 遠心方向の BAp 結晶配向性は低く,下顎底部で近 遠心方向への高い BAp 結晶配向性のデータと相関 関係にあることが明らかとなった。 考察:顎骨の局所的な骨評価において,BAp 結晶 配向性は骨強度と高い相関を示したことから,複雑 な機能圧の影響を受ける顎骨においては,骨密度だ けでなく BAp 結晶配向性をはじめとした骨質評価 が有効であることが明らかとなった。