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教育をデザインする : 実習を基盤とした年少者教育問題の探求

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(1)論 文. 教育をデザインする-実習を基盤とした年少者教育問題の探究-. 教育学研究科 . 橋 本 ゆかり 1 はじめに-教育デザイン 「教育デザイン」とは何か。三宅(2011)は「教育. になる。 学会は大学院生、研究者を対象としたものであるが、. デザイン」について、「自分の専門性を教育学のジャ. 学会員及び運営委員である筆者が引率することにより. ンルに活用する。そのためには、旧来の専門の枠から. 発表の機会を得た。学会への参加を思いついたのは、. 一歩踏み出す必要はあるだろう」と述べている。私の. 実習授業の一部である反省会を重ねていくうちに実習. 専門は、日本語教育、第二言語習得であるが、細かく. 生の継続的かつ執拗な探究心を感じたからである。. 特定すると、日本語を第二言語とする幼児の言語獲得. 教育デザインの具体像は「学部段階からなだらかに. のプロセスとメカニズムを明らかにすること、である。. 大学院教育へと連続していく」ということであるが、. 横浜国立大学は、教員養成を大学の特徴の一つとして. 学部の授業と、大学院教育とでは何が異なるのであろ. おり、筆者の所属する日本語教育コースでは、保育園. うか。何かを探究するという意味では連続しているも. や幼稚園よりも小学校教育への関心が高い。そこで、. のの、大学院では学生は研究者となるわけで、学生の. 筆者は、現在、専門分野で培った年少者特有の言語習. 自立性が強く求められる。研究の質においても向上が. 得や思考のプロセス、第二言語習得に関する理論の知. 望まれ、先行研究を踏まえた新奇な知見を見出さなけ. 識、さらにフィールドワークの手法を生かし、JSL 児. ればならない。本稿の試みである「学部授業から学会. (1). 童 の問題を追究している。年少者教育関連の授業は、. での研究発表へと進めていく」プロセスは、学部から. 学部向けの「日本語教育概論」と「日本語教授法演習」. 大学院教育への圧縮された連続体であり明らかに時間. を担当している。大学院のゼミにおいても、年少者教. が足りない。そこで先行知見や理論については、授業. 育関連の研究指導を行っている。「日本語教授法演習」. の担当教員である筆者が教授し補うことにした。. は実習授業であるため、フィールドワークの経験が役 立っている。 本稿では、年少者教育に関する学部 4 年生向け実. 本稿では、実習から学会発表に至るまでの道筋を一 つの探究プロセスと捉え、実習生の学びを追跡し明ら かにする。プロセスは、第一段階)実習、第二段階). 習授業(2012 年度)における学生の学びについてま. 学会発表に向けての打ち合わせ-実習で得た知見の整. とめる。教育デザインは大学院における教育、研究指. 理、第三段階)理論の教授 第四段階)学会発表、と. 導に関するものではあるが、「教育デザインという思. 四つの段階を踏んで進んでいく。学びは、内容と質的. 想とその具体像は、大学院の授業としてのみ存在する. 変化という二つの側面に焦点を当てる。一つは学会発. のではなく、学部段階からなだらかに大学院教育へと. 表の内容により示し、もう一つは授業で課した実習最. 連続していく総体として構想されなけれならない」 (府. 終レポート、学会発表後に行ったアンケートを探索的. 川 2011)という指摘がある。本稿で取り挙げる実習. に分析することで明らかにする。. 授業は前期(半期)で終わるものだったが、実習を子. 最初に年少者教育問題を説明した後、各段階の実施. どもへの教育方法を学ぶ場だけではなく、問題の原因. 内容を概説し、学会発表での内容、段階ごとの学びと、. を探り支援策を考えるデータ収集の場として位置付. プロセス全体を俯瞰しての学びをまとめる。構成は、. け、実習で得られた知見を学会(2012 年 12 月)で. 2 章、3 章において年少者教育の問題と横浜国立大学. 発表させた。つまり本来の授業の枠を拡げ、結果とし. との関係を説明し、4 章で実習授業の内容、5 章で学. て探究のプロセスを教育内容に取り入れたということ. 会発表に向けての打ち合わせ、6 章で学会発表で提示 教育デザイン研究 第4号 77.

(2) 教育をデザインする. した研究成果を述べる。7 章では実習生の学びを段階. について述べたいと思う。. 的に探り、その結果をまとめ、8 章で総括する。 4 実習授業 2 年少者教育問題-問題の背景と JSL 児童の実態を 明らかにする重要性 まずは、JSL 児童の年少者教育問題を確認しておく。 この問題は、主には、1990 年の入管法改正以降、在 日外国人の数が急増し、それに伴い外国につながる児 童の数が増加したことに起因する。在日外国人が母国 より子どもを呼び寄せたり、日本で出産したりした結. 4.1 実習の概要 実習の種類は二種類ある。 1. 横浜市公立小学校 2 校において実習する。 2. 小学校・ボランティア団体が主催する学習教室に 参加する。 実習は 2012 年 5 月~ 8 月の間に計 15 回約 46 時間、 以下の通り行われた。. 果であるが、家庭で母国語が話されているため、日本 で生まれ育った子どもも母語話者並みに日本語を獲得. I. A 小学校における実習. するのが難しい。さらに、近年、教科学習における. 5 月〜 7 月 各月 1 回とし計 3 日. 遅れが深刻な問題となっている。JSL 児童の教科学習. 8 時 20 分から夕方まで. における躓きについては多くの調査や支援の試みが. II. B 小学校における実習. なされている(清田 2007, 齋藤 2009, 朱 2007, 松田. 5 月〜 7 月 各月 1 回とし計 3 日. 2009 等)。また、支援者には当然のように把握され. 10 時 20 分から給食終了まで. ている実情も研究者には届いていないという問題もあ. III. A 小学校の生徒向けの学習教室 . る。学習における躓きの原因は、子どものもつ背景に. C ボランティア団体主催の学習教室 夏休みの . よっても異なる。支援のあり方をさらに具体的に考え. 期間 毎日 2 時間 計 4 日. ていくためには、子ども一人ひとりに寄り添いそれぞ. IV. B 小学校の生徒向けの学習教室 . れの躓きを丁寧に読み解き、詳細な報告を行うことが. B 小学校主催の学習教室 . 必要である。今回の学会発表は、こういったことから. 放課後 2 時間 計 5 日. も意義があると考える。 実習対象の小学校は両校とも横浜市の集住地区にあ 3 横浜国立大学の年少者教育問題への取り組みの重. り JSL 児童数が比較的多い。A 小と B 小の置かれてい. 要性. る環境は異なる。A 小は団地が近くにあり比較的地域. 次に、横浜国立大学と年少者教育問題との関係性に. 定住者が多く、1 学年 1 クラスである。一方、B 小は、. ついて述べる。文部科学省、法務省及び神奈川県の統. 京浜工業地帯に隣接し日系人が多く、入れ替わりが激. 計資料によると、神奈川県の外国人労働者数(平成. しい。1 学年 3 クラスほどある。. 23 年)は東京、大阪、愛知に次いで全国で第四位で. 日本語教育の実習は、通常の実習のように、クラス. あり、外国人登録者数は県民比においては 1.9% にも. 全体に教えるのではなく、授業中 JSL 児童のそばに行. 上る。全国の小中高等学校において日本語指導が必要. き分からないところがあればサポートするという、い. な児童数(平成 22 年度調査)は 28,511 人であるが、. わば支援のトレーニングともいえる。さらに国際教. 神奈川県は、愛知県についで二番目に多い。横浜市に. 室(JSL 児童取り出し授業)でも見学とサポートの両. は、JSL 児童がクラスの 3 分の 1 を占める学校もある。. 方を行う。ボランティア団体主催の学習教室はボラン. JSL 児童の健全な成長と人権確保のためにも、児童の. ティアの方に混じって同様に学習支援を行う。学習教. 置かれている環境を把握し、適切な指導の行える教員. 室では、教材が用意されているが、A 校の生徒向けの. を養成することは、受け入れ側、そしてこういった特. 学習教室においては、教材の一部を実習生にも作成さ. 殊な環境にある横浜国立大学に課された課題であると. せた。. もいえる。学部向けの実習の授業は、このような背景 を踏まえて行われている。それでは、次に、実習内容. 78.

(3) 4.2 実習の目的 実習は近年問題となっている教科学習における躓 きに焦点を当てて、教育現場で何が起きているのか、 JSL 児童に対し教師が一体何をすべきなのか、何がで. 応、支援の工夫、躓きの原因は何か、といった具合に まとめていった。 以下に示すスライドは、学会発表時に使用したスラ イドの一部である(資料 1 参照)。. きるのかについてより具体的に知識を得ることを目標 とし、次の三つを目的とした。. 資料 1 学会発表で使用したスライド 事例 1). 1.JSL 児童に何が起きているのかを現場で見て、 体験して、実態を把握する。 2.JSL 児童の学習の躓きは何かを探る。 3.2 の問題は、何に起因しているのか、一つひと つの事例ごとに考える。 4.3 実習の振り返り 実習の振り返りとして、実習日、あるいは実習翌週 の授業で反省会を行った。実習レポートは、 実習を行っ た週のうちに提出させた。JSL 児童が躓いた問題や、 その対処方法、そして推察される原因について詳細に 報告してもらった。毎回 A4 用紙 2 枚から 4 枚になった。 5 学会発表に向けての打ち合わせ 発表は、会場で聴衆と意見交換できるポスター発表 を選んだ。 5.1 打ち合わせの内容 学会発表に向けて、実習生と 3 回ほど打ち合わせ(各 回 2 時間以上に及ぶ)を行った。内容は以下の通り である。 1.観察した事例の整理と関連付け、事例から問題 の原因を探る。 2.発表の構成について説明する。. 事例 2). 3.先行研究や理論の説明を行う。 4.理論と実態との関連性を探る。 5.2 研究課題 学会発表の研究課題は、実習の延長線上にあるため、 次のように設定した。 (1)JSL 児童は、教科学習において、どのような 問題に躓くのか? (2)教科学習の躓きは、何に起因するのか? 学会発表に向けて、躓きを見せた問題、子どもの反. 教育デザイン研究 第4号 79.

(4) 教育をデザインする. 5.3 先行知見と理論の教授 事例を出し合い整理した後、理論を教授した。教授 した理論は三つある。その一つは、生活言語能力と学 習言語能力についてであるが、これは別の授業でも説 明しているため、確認の意味で行った。以下に内容を 示す。 【生活言語能力 BICS と学力言語能力 CALP】 (Cummins & Swain 1986) この理論により、友達と日本語でコミュニケーショ. 事例 3). ンすることにおいて何の支障もない児童が、教科学習 では母語話者のレベルについていけない、学習内容が 理解できないという現象を説明することができる。つ まり、言語能力が二種類あるという重要な指摘である。 以下に説明する。 1)伝達言語能力(BICS Basic Interpersonal Communicative Skills). 生活の中で必要な基礎的な言語能力のことで、1 ~ 2 年で獲得できるとされている。. 2)学力言語能力(CALP Cognitive Academic Language Proficiency) 学習する時に必要な言語能力のことで、抽象的な 思考が要求される認知活動に必要な能力とされて いる。CALP は、モノリンガルと比べると同じレ ベルに達するのに、相当期間必要である(保育園 以降では、4 ~ 7 年とされている)。. 事例 4). 図1 BICS と CALP -コンテクスト依存度と認知的負担度 (Cummins & Swain 1986 参照). 80.

(5) 図 1 からは、BICS(図中 A)は場面やコンテクス. 母文化の影響、母語の影響などであった(資料 1 参照)。. トに依存し認知的に負担が少ないが、CALP(図中 D). さらに、「困難を生むメカニズムとその克服のため. は場面に依存せず認知的に負担が大きいことがわか. の歯車式支援のモデル」(図 2 参照)を提示した。躓. る。ゆえに、JSL 児童は、BICS をすぐに獲得できるが、. きの原因である概念の欠如や母文化の影響を克服し学. 教科学習に必要な CALP の獲得が難しいのである。. 力を向上させるために必要な支援の方法を、生活的概 念と科学的概念の理論と最近接発達領域の理論を援用. さらに、実習の反省会において、実習生から JSL 児. しながら提案したものである。以下に説明する。. 童の概念の欠如について指摘があったため、Vygotsky (1934)が提示した二種類の概念を紹介した。以下の 通りである。. 学習能力は、生活的概念と科学的概念の歯車がしっ かりと噛み合うことで向上すると考えられるが、JSL 児童の場合難しく、歯車に見立てた支援者の介入が必. 【生活的概念と科学的概念】 学習には二種類の概念が関係するとされている。 1) 生活的概念 個人的な経験の中で、体系性を欠いたまま発達す る。. 要であるとした。 支援方式は以下のとおりである。 第一に、「生活的概念」を想起させる。より具体的 に考えさせる。生活的概念と科学的概念を噛み合わせ る必要がある。学習は、この間の橋渡しを行うことで. 2) 科学的概念. あるが、母語や母文化の影響が阻害要因となっている. 科学的知識の体系を習得することにより発達す. ため、モノリンガルより困難度は増す。. る。体系化された言葉の意味である。. 第二に、対話形式で進める。歯の噛み合わせを確認し. 2)は、単なる言葉の上での理解にとどまる危険性. ながら対話式に進める。一人で行わせると負荷が掛かる。. がある。しかし、生活的概念の「体験主義」と科学的. 第三に、小さなステップで進める。支援の歯車は、. 概念の「言葉主義」が結びつくことで克服できる、と. 小さな歯を多くする。「認知発達のプロセスは文化獲. されている。. 得、社会文化的学習」ともいわれ、教科学習において も文化を教える必要がある。算数においても文化の違. 三つ目の理論として、Vygotsky(1934)の最近接 発達領域を説明した。以下の通りである。. いが学習の阻害要因となっていることがわかった。 第四に、生活的概念と科学的概念の噛み合わせを図 りながら、科学的概念の順序だった思考のプロセスを. 【最近接発達領域の理論】. 自律的に考え進めさせる。. Vygotsky は、「自主的に解答する問題によって決定 される現下の発達水準と非自主的に協働の中で問題を. 支援者との関係で獲得されたスキルは、次第に内化. 解く場合に到達する水準との間の相違」を「最近接. し、子どもの能力を引き出し、最近接発達領域の範囲. 発 達 領 域(Zone of proximal development)」 と 称 し. を縮めていくことになる。. (Vygotsky1934、柴田訳 2001)、その存在を指摘し ている。つまり、単独でできることと、自分より能力 を有する者と協働で成しえることにはレベルの差があ. 単独学習. り、手助けによって子どもの能力が高められるという ことである。 6 学会での発表内容. 支援者の介入. 学会発表では、JSL 児童が躓いた問題、その対処方 法、推察される原因について、事例ごとに示した(橋 本他 2013 予定)。推察される原因は、概念の欠如、. 図 2 困難を生むメカニズムとその克服-歯車式. 教育デザイン研究 第4号 81.

(6) 教育をデザインする. 次に、こういった成果の提示に至るまで、実習生は. いては、経験して体に染み付けていくしかないの. どのような学びを段階的に行ったのか、学びの質的変. だと確信を持ちました。」「指導にあたる際には、. 化をレポートとアンケートに書かれたコメントから探. 自らの頭で考える必要があり、手を動かしながら. る。. 視覚的にも理解していけることを助けるような教 材を作成し使用していこうと決意しました。」. 7 実習生の学びの分析 . →概念教育のための具体的な体験学習の重要性を. 以下に、第一段階-実習、第二段階-学会発表に 向けての打ち合わせ、第三段階-理論の教授、第四段. 認識する 「新しい概念にふれることは、小説を読んでいて. 階-学会発表の順に述べる。. 知らない単語や表現に出会ったときに辞書で調べ るときのわくわく感と表裏一体だという確信があ るからです。」(実習生 T). [ 第一段階 ] 実習における学び ① 子どもの状態や小学校の先生の話などを手がかり. →概念教育の在り方を考察している. に、支援方法を模索している。(実習生のコメン ト 1(以下、C1 ~ C3 参照) C1「実習では、子どものバックグラウンドに、制 約はあるにしてもかなり踏み込んだリサーチがで きる。実際に困難さを来している場面に遭遇して、. [ 第二段階 ] 学会発表に向けての打ち合わせにおける 学び ① 丁寧に事例を読み解く。(C5 参照) C5「例えば、「割り算」における躓きについて考え. 自分なりに即座に支援の手を差し伸べつつ、なん. るとき、実際にどのような躓きが見られたのか丹. らかのアプローチを試すことができるところが実. 念に拾い集めた。そして、一例ずつ、何に躓いて. 習の大きなメリットの一つである。」(実習生 M). いるのかを話し合った。小学校での教育実習の経. →児童のバックグラウンドを考慮しながら、即座に. 験を生かしつつ、「外国につながる子ども」特有. 支援を工夫し試している C2「子どもの立場で、子どもの感情的な部分を十 分に感じつつ支援できる。これは、子どもモチベー. の躓きに少しでも迫りたいとの一心であった。」 (実習生 M) →丁寧に分析することで JSL 児童特有の躓きを探る. ションを上げるためには、不可欠な要素である。」 (実習生 M). ② 協働による分析により成果を得ている。複数の事. →児童の感情、モチベーションを配慮している. 例からの抽出、複眼的な分析を経験する。(C6、. C3「現場で長く外国につながる子に接してきた先. C7 参照). 生方のお話はなによりのテキストだと思う。」(実 習生 M) →小学校の先生から情報を得る. C6「まず初めに、私たちは実習を通して得た気づ きについて、個人やグループでの振り返りから問 題の客観化、共有化を行った。」(実習生 M) →問題の客観的分析と共有化を行う. ② 学習における躓きについては、概念の欠如が大き な問題として浮かび上がった。(C4 参照) C4「学習は日常生活・自身の経験と、想像してい た以上に深いかかわりがあることを学びました。」 (実習生 T)→概念の欠如に気付き、概念を教え. C7「複数の観察者が、複数のサンプルを持ち寄っ て比較するという方法、また、一人の子どもをま さに複眼的に観察し、分析するという方法も大変 有意義であった。」(実習生 M) →事例の比較や複眼的観察と分析を経験する. ることの重要性を次のように表現している。「概 念が理解できていないということを十二分に理解 して指導に臨まなければならないことを身をもっ. 82. ③ 気づき、発見を問題として認識し、さらに問題に 潜む複雑な要因に気付く。(C8、C9 参照). て実感しました。」「実習を経験した今、上述した. C8「これにより、単なる疑問や発見ではなく、気. ような自分の中にない “ 概念 ” に関わる問題につ. づきを「問題」として意識し、考察することがで.

(7) きた。」(実習生 M). ③ 理論から発表内容の構成を考える。(C13 参照). →「問題」の存在に気づく C9「生活環境・人間関係・つながる国・地域や性 格など様々な要素が絡まりあって苦手や躓きは緩. ④ 理論を知り、自分の考えの基盤づくりや修正を行 う。(C14 参照). 和されたり加速したりするわけでありますが、何. C14「既存の理論を知り得て、沢山の考えを巡らせ. 度も話し合う中で、自分が想像しているよりも. るからこそ、自らの考えの基盤形成や指針の修正. 様々な要素が絡まりあって躓きの原因となってい. ができるようになる。」(実習生 T). るということを実感しました。」(実習生 T). →自分の考えの根拠を追求し、修正する. →躓きを生む複雑な要因を読み解く ⑤ 演繹的学びと、帰納的学びが相互作用している。 ④ 知見の総括、発信の仕方を学ぶ。(C10 参照). (C15 参照). C10「学会参加によって、年少者に対する日本語教. C15「豊富な知識を持つことが自らが何かを発見す. 育の実習の総括を行ったうえで、いかに問題を提. る十分条件だと思っています。教えてもらう理論. 起するか、そして問題を発信するにはどのように. / つくりだす理論。学びの質が違う。教えてもら. するのかを学んだ。」(実習生 M). う学びは演繹に近い学び、自らで理論を考える学. →総括、発信の方法を学ぶ. びは帰納に近い学びと捉えております。」(実習生 T). [ 第三段階 ] 理論教授における学び ① 理論と事実、実践結果を照合し、統合することで 答えを見出す。(C11、C12 参照). →教えてもらう理論 / つくりだす理論がプロセスの 途上にあり、演繹的学びと、帰納的学びの相互作 用が生じている. C11「橋本先生には、浮かび上がってきた問題点に ついて、先行研究との関連付けや、理論的な裏付. [ 第四段階 ] 学会発表における学び. けをとる方法を、各事例ごとにご指導いただいた。. ① 他者の意見を聞くことで視野が広がり、多角的な. とりわけヴィゴツキーの「最近接発達領域」の理 論にフォーカスして、事例を解釈し、対応策を練 り上げていった。」(実習生 M) →理論と事実との関連付け、理論による裏付けの方 法を学ぶ. 考察、思考の深化がみられる。(C16、C17 参照) C16「とにかく世界が広がりました。分析する時や 根拠を考察する時には、視野を広げ柔軟な頭で色 んな方向からのアプローチを心がけているつもり ではありますが、学会に向けての話し合いの中. C12「既存の理論を参考にしつつも、自らが支援・. で、また、学会当日に、皆様の意見や見解を聞く. 指導・観察・分析等、試行錯誤を繰り返す中で自. ことによって、自分では考え付くことがなかった. 分なりの “ 答え ” を見つけ、それを公の場で発表. 案を知ることができ、たいへん良い刺激になりま. する...」(実習生 T). した。他者の考えを自分の考えと結び付けること. →理論と支援・観察・分析を照合する. により、以前までの考えが改まったり、更に考え を深めていくと新たな自分なりの答えに辿りつけ. ② 理論によって、支援の方向性を獲得する。(C13 参照). たりと、この経験が自分自身の成長していくきっ かけになったと感じました。」(実習生 T). C13「理論の理解は、今後の子どもへの支援を考え. →他者の意見と結びつけたり、新しいアイデアを獲. る上で、方向性を打ち出し、系統立てた発表を考. 得し、考えを修正したりして思考を深化させるこ. える基礎となった。」(実習生 M). とで、自分の新たな考えを見出す. →支援の方向性を得る →系統立った発表の仕方を学ぶ. C17「新しい見方、例えば、母語による教育の可能 性などについて、他の参加者とともに検討する機 会を得たことも非常に大きな刺激であった。」(実. 教育デザイン研究 第4号 83.

(8) 教育をデザインする. 習生 M) →新しい協働の場が創出される. 第一段階)個人ベースで事実から考え、仮説を立て試 行する。 第二段階)協働による、丁寧かつ多角的な分析による. ② 学会発表が刺激となり成長の原動力となってい る。(C16、C18 参照). 客観化と知見の共有化を行う。思考を深化させ、問 題に潜む複雑な要因を読み解く。. C18「学会に参加させていただいたことが成長して. 第三段階)事実と理論を照合させる。帰納的、演繹的. いかんとする原動力となりました。」(実習生 T). 学び、ボトムアップとトップダウンで知識の相互作. →成長を実感する. 用が生じる。 第四段階)より広い範囲で知識の共有化を行う。新し. ③ 今後の課題を見出す。(C19 参照) C19「予想を越える反応を頂き、質疑応答の中で、. い事実やアイデアも得る。さらに精密な分析へと発 展する。. 論理が曖昧であったり、脆弱な部分について、ご 指摘を受けたりした。」(実習生 M). ફ߾૫ӭ ದॗ ࠜ๝ƶԉપ ॠƟƌհ஝. →未熟な部分を認識する. ȐǞÓȄȋǾǪƶԎ௻ ൟ৖ƶুธҠ. ④ 議論し尽くしたという満足感と、成果を得たとい. ફߡ૫ӭ. ࡑઙư໊ཉưƶओ‫ݜ‬. う手ごたえを感じている。(C20 参照). ȗȃțǝǾȒưȃǾȒǻǡȮ. C20「単なる学力の問題であって、日本人の児童と. ƶԙƻƶ੏۶߁ພ. 同様ではないのか、という大きな問題については、 明らかな解答を見いだせなかったものの、外国に. ફమ૫ӭ. つながる子どもにとって、学習上何が問題となっ. ૯‫ۂ‬ƶ‫؁‬๺Ҡ½‫׏‬հҠ. ているのか、ということについてはできる限り網 羅し、詳細な分析を加えるという一定の成果が得 られたのではないかと思う。」(実習生 M) →可能な限り努力し成果を出している. C21「たくさんの人が耳を傾けて下さって、真剣な 意見をくれる…学部生にしてこんな経験をさせて いただけたことの貴重さを改めて実感している。」 (実習生 T) C22「このような経験は、学部生にとっては大変貴 重であり、(中略)発信の手法を今後に生かして いきたい。」(実習生 M) C23「他者が何かを考える際に自分が考えているこ とを考慮して思考を巡らせてもらえる可能性があ ると思うと大変喜ばしいです。」(実習生 T) →研究及び社会への貢献を実感する まとめると、以下のようになる(図 3 参照)。. 84. ۛൿƶ૖‫ף‬. 図 3 学びの質的変化. ⑤ 多くの聴衆を得て成果の大きさと発信の意義を感 じている。(C19、C21 ~ C23 参照). B. I ફГ૫ӭ. 実習生は、段階を踏みながら、個の学びから、共有 の学びへ、ボトムアップの学びからトップダウンの学 びへ、具体化から抽象化(理論の提示)する学びへと、 さまざまな次元の学びがダイナミックに交差すること で、思考が深化していったといえる。 8 総括 本稿では、6において学習の躓きに焦点を絞り、実 習から打ち合わせを通して得られた成果を提示し、7 では段階ごとの学びの変化を明らかにした。 この一連の探究プロセスが実習生にもたらしたもの は、積極的かつ密接に児童と関わることで問題を解決 する力、客観的に観察し問題の根源を探る力、さらに 原因を踏まえて支援の仕方を模索し考案する力であっ.

(9) たといえる。このことは学会における発表内容からも. 参考文献. 窺える。多様な背景をもつ JSL 児童に柔軟に対応し成. 神奈川県(2012)「県内外国人登録者数統計」http://. 長し続ける教師としての素地を養うことができたので. www.pref.kanagawa.jp/cnt/f4695/ (2013 年 1. はないかと考える。. 月 9 日取得). 実習生のコメントからは、この拡大された実習授業 への高い満足度が窺える。 「はじめに」で述べたように、. 清田淳子(2007)『母語を活用した内容重視の教科学 習支援方法の構築に向けて 』ひつじ書房. 大学院では研究者としての自立が求められるが、学部. 齋藤ひろみ(2009)「外国人児童の就学時における日. 生であるため、今回は先行研究や理論を教授すること. 本語会話力 - インタビュータスク時の発話資料の. で探究プロセスを補完した。理論の教授、学会発表の 場において先生方や研究者からフィードバックを得た ことは、実習から探り得た答えをより多角的に検討す. 分析を通して」 『日本語教育』142 号 , 156-162. 朱桂栄(2007)『新しい日本語教育の視点―子どもの 母語を考える』鳳書房. るよい機会となった。さらに、実習生は、その発信が. 橋本ゆかり・竹林春華・森あき(2013 予定)「外国. 社会貢献に繋がっていくことを実感し、自分たちの探. につながる子どもたちの学習における躓きとその. 究の意義をあらためて認識したようだった。ただし、. 原因-実習と学習支援教室参加を通して-」『言. コメントにおいて実習生も指摘しているが、理論の教. 語文化と日本語教育』45 号. 授など受動的な部分もあった。より自立した学生の成. 府川源一郎(2011) 「教育デザイン」構築の基盤-「教. 長を促すために短期間にどのような指導を行ったらよ. 育実地指導」の授業を通して考える-」『教育デ. いのかは、今後の課題としたい。. ザイン研究』2 号 , 79-86.. 今回の結果は予想以上の成果を上げることができ た。このような結果からも、学部、大学院の枠を超え て相互に意見交換をするという教育デザインも有益で. 法務省(2011)「都道府県別外国人登録者数の推移」 http://www.moj.go.jp/content/000095036.pdf (2013 年 1 月 9 日取得). はないかと考える。Vygotsky の最近接発達領域の理. 松田文子(2009)「JSL の子どもが在籍学級の学習活. 論からもその可能性が考えられる。個々の学生のもつ. 動に積極的に参加するための工夫 - リライト教材. 知の創出が最大限なされるよう、より柔軟により創造. を用いた「日本語による学ぶ力」の育成」『日本. 的にデザインを試みたい。. 語教育』142 号 ,145-155. 三宅晶子(2011) 「教育デザインへの取り組み- 3 面. 謝辞 本研究は、平成 24 年度教育人間科学部後援会研究 助成金を得て行われた研究である。この場をお借りし て感謝申し上げる。. マルチ画像を活用した能のテキストの魅力」『教 育デザイン研究』2 号 , 43-48. 文 部 科 学 省(2011)「 日 本 語 指 導 が 必 要 な 外 国人児童生徒の受け入れ状況等に関する 調 査 ( 平 成 22 年 度 )」http://www.mext.. 注 (1)日本語を第二言語とする児童のことを意味する。. go.jp/b_menu/houdou/23/08/__icsFiles/ afieldfile/2011/08/16/1309275.pdf (2013 年 1 月 9 日取得) Cummins, J. and Swain , M.(1986)Bilingualism in education. Longman. Vygotsky, L.S.(1934) 『思考と言語』柴田義松訳(2001) 新読書社. 教育デザイン研究 第4号 85.

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