省察を基盤とした教育実習事後指導プログラムの開発†
姫野 完治・渡部 淑子*
秋田大学教育文化学部
本研究では,教育実習経験の省察(リフレクション)を基盤とし,実習生による実習生 自身の授業分析と実習日誌の分析の二っの方法を取り入れた教育実習の事後指導プログラ ムを開発・施行した.その結果,本事後指導プログラムが実習経験の省察に鏡的役割を果 たし,実習生の今後の課題を浮かびあがらせ,また実習生目身が4週間の実習でどのよう に成長してきたのかを実感できることが明らかになった.このことから,実習経験を客観 的に見直し,整理する一っの方法として,本プログラムが有効であることがわかった.そ の一方で,実習生同士が体験を共有する場がないというような課題も残された.
キーワード:教育実習 事前・事後指導 省察(リフレクション) プログラム開発
1. はじめに
1.1教員養成に関わる改革動向
昨今の学校教育をめぐる状況は目まぐるしく変化 している。2002年度から導入された新学習指導要領 では,学習内容が3割削減され,また新たに総合的 な学習の時間が設けられた.しかし,国際的な調査 により子どもの学力低下が指摘されると,ゆとり教 育の維持か学力尊重への転換かが議論された,そし て,翌年の2003年12月には,学習指導要領の一部が 改正され,発展的な学習内容の指導が容認されるな ど,学力尊重への転換が進められた.現在進められ ている中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程 部会(2006)においては,総合的な学習の時間を縮 小し,国語・算数等の授業時間数の確保などが検討 されている.
このような学校教育の改革を検討する際に,必ず 議論になるのが,教育活動を直接担う教員の力量向 上である.教員養成に関する種々の報告や答申が提 言され,改革が進められている.その発端となった
2006年1月23日受理
†Development of the Reflective Method of Post−
Teaching Practice Sessions
*Kanji HIMENo and Yoshiko WATANABE Faculty of Education and Human Studies,AkitεしUniversity,
Akita
のは,2002年11月に「国立の教員養成大学・学部の 在り方に関する懇談会(在り方懇)」が出した報告 書である.「今後の国立の教員養成系大学・学部の 在り方について」と題された報告書では,教員養成 系大学・学部の統廃合をはじめ,今後の教員養成の 在り方を取りまとめ,教員養成に関わる人々の注目 を集めた.さらに,この報告を受け日本教育大学協 会は,2003年8月に「モデル・コア・カリキュラム」
研究プロジェクトを発足した.そこでは,大学の教 員養成水準の確保に責任を負う意味でも,カリキュ
ラムのガイドラインを策定することは重要であると して,これからの教員養成のあるべき姿を議論・検 討した.その検討結果をまとめた報告書「教員養成 の「モデル・コア・カリキュラム』の検討」は,体 験一省察の往還を確保する「教員養成コア科目群」
を基軸にしたカリキュラムを提案し,これらを協働 的に支える教職,教科教育および教科専門各領域の 大学教員相互の連携の必要性を指摘した(日本教育 大学協会「モデル・コア・カリキュラム」研究プロ ジェクト2004),このような教員養成の内容に直接 関わる動向に加え,2004年から国立大学が国立大学 法人へ移行されたことや,教職大学院の創設に関す る論議もあり,現在の教員養成はまさに変革期とい
える.
このような変革途上の教員養成においてキーワー
第28号 2006年 165
ドとなるのが,学生の実践的指導力の向上である.
かつてはr大学で学問さえ学んでおけば,教育の仕 事はなんとでもなる.実習で行うようなことは,教 師になってから目然に身に付くものだ,」という考 えが,大学はもちろん学校現場でもかなり根強く支 配していた(次山1993).そのため,大学では主に 理論的知識を学び,その集大成として教育実習を位 置づけていた.しかし,多様な教育課題に対処し,
子どもの生きる力を育む義務教育を担う教員を学校 現場に送り出すためには,教員養成段階で一定の実 践的指導力を養成する必要があり,教員養成系大学・
学部はそのためのカリキュラム開発などに取り組ん
でいる.
1.2 教員養成における教育実践機会の提供 教員養成において実践的指導力の育成を考える場
合,その大きな柱となるのが教育実習である.そし て,この教育実習の位置づけが,近年変化してきて いる.それは,教育理論の総仕上げとしての完成実 習から,教師としての問題発見・課題発見の場への 変化である,すなわち,3年次までに理論的学習内 容を学び,それを教育現場で適用するというのでは なく,教員養成の4年間の中で理論と実践に触れる 機会を並行して提供し,両者の往還運動の中で,教 師としての資質・力量を高めようというのである.
このような趣旨から,教育実習を数回に分け,積み 上げ式で実施する方法も取り入れられてきている.
また最近では,教育実習以外の教育体験にも焦点 があてられ,教育実践機会が多様化してきている。
例えば,琉球大学教育学部では必修科目「教育臨床 1・H」を設け,教職志望の学生が授業参観や教員 の補助として教育現場に入ることで,子ども・教職・
学校理解を深める機会を提供している.福岡教育大 学では,教育現場を訪問し教育活動の多様性を理解 させた上で,少人数によるテーマ学習を進める授業
「子どもと学校理解の体験学1・H」を取り入れて いる.秋田大学においても,1年次を対象とした必 修科目「教職導入ゼミ」と選択科目「教育実践研究 実習」を設け,附属学校へ訪問する機会を提供して
いる.
このような授業科目として教育実践機会を提供す る以外にも,放課後学習チューター事業等のように,
教職志望学生がボランティアとして教育現場に出向 く方法も行われている(姫野2004).秋田県におい
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ても,放課後学習チューター事業が2003年から始ま り,当初は1校のみだった活動が,県内のさまざま な小・中学校へ広がりをみせ,教育現場において学 生が実践的に活動する幅が広がっている.
このように,、教員養成段階で学生が教育実践に触 れる機会は多様化し,また充実してきている.とは いえ,学生自身が実際に授業を行なったり,学級経 営に参画する場に限定すると,教育実習以外ではそ こまでの機会は保障されない.そのため,多様な教 育実践機会を提供するとともに,やはり教育実習で いかに実践的指導力を育成するかが重要といえる.
1.3 事前・事後指導の役割と先行事例
各大学の教育実習の実施形態や時期は一律ではな いが,1989年に教育職員免許法施行規則が改正され
「実習に係る事前及び事後の指導」が義務付けられ たことにより,教育実習の進行過程は「事前指導一 教育実習一事後指導」という段階的順序で実施され ている.さらに,日本教育大学協会「モデル・コア・
カリキュラム」研究プロジェクト(2004)が,体験一 省察の往還を確保する「教員養成コア科目群」を提 唱したのを受け,その往還を担う教育実習の事前・
事後指導が大きな役割を果たすこととなった.
その中でも事後指導は,実習中に学生が抱いた課 題の解決,そして今後さらに学習・研究を深めるた めのきっかけを作る機会として,その役割は非常に 大きい.そのためには,実習の思い出を漠然と振り 返ったり,講義形式で一方的に知識を与えるのでは なく,実習生それぞれの体験に基づいた省察(リフ レクション)をする必要がある,実習中の授業分析 や実習日誌を積極的に用い,具体的な取り組みを通 して,教育の根幹に関わる子ども観,指導観,教師 観,さらには人間観の確立にっながる学びへと発展
させることが求められる.
こういった試みを積極的に導入している先行事例 もある.例えば福井大学では,モデル的授業ビデオ を活用した授業分析,一泊二日の合宿形式で反省会 等を設けた事後指導を実施している(茨山他1983).
また,岡山大学教育学部では,教育実習終了後1週 間以内に,教育実習反省会を大学内で開催している
(羽原1993).そこでは,話し合いがしやすいよう 20名ずっのグループに分け,しかも話し合いの結果 を報告し合うことで,実習での経験や成果を全員で 共有できるようにしている.また,生活指導の場面
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要
想起のために,ロール・プレイングなどの方法を用 いている.熊本大学教育学部では,「教育実習事後 指導」を4コースに分け,そのうちの一つに「グルー プワーク」を導入している(吉田2004).そこでは,
実習校の児童・生徒が「実習生の先生でよかったと 思うこと」「実習生の先生にもっとして欲しかった こと」について目由に回答したカードを使用して,
子どもたちの声を分析する.この声を中心的な課題 として,教育実習の振り返りを行ってい.る.
これらの先行事例では,複数の実習生が共同で課 題発見・解決しており,たしかに教育実習での経験 を基盤としている.しかし,教育実習中の率直な思 いが記録された実習日誌や,実習生目身の授業を分 析する等は行われていない.教育実習の経験を踏ま えて,学生自らの課題を見付けたり,実習期間中の 自らの成長を振り返るためには,これらの実習日誌 や実習生による授業分析を,事後指導プログラムに 組み込むことこそが,求められるといえるだろう.
そこで本研究では,実習経験の省察を促すべく,実 習生による授業と実習日誌を実習生目身が分析する 教育実習事後指導プログラムを開発・施行し,その 効果を考察することを目的とする.
2.研究の方法
2.1現在の教育実習とその課題
秋田大学教育文化学部の教育実習は,3年次の6 月に主免1期実習(1週間,附属学校),9月に主免
1期実習(3週間,附属学校・公立学校)を位置づ け,分散型の教育実習で行なわれている。これに合 わせ,事前指導も2回に分けて実施している.教育 実習と事前・事後指導の流れを図1に示す.また,
事前指導①(2日間)
主免1期教育実習(附属学校)
事前指導②(2日間)
主免■期教育実習(附属学校・公立学校)
事後指導(3日間)
図1教育実習の流れ
第28号 2006年
表1現在の事前事後指導プログラム
事前指導
①
事前指導
②
事後指導
プログラムの内容
○教育実習の意義,教育実習と児童理解,
授業参観の視点に関する講義
○学級経営に関する講義,および実習校の 授業や学級活動の観察参加
○指導案の作成方法にっいて,
たって講義・演習
二日間にわ
○専門教科ごとの講義
○教科外領域にっいて講義・演習
事前・事後指導の内容を表1に示す.
秋田大学教育文化学部の実習日誌は,平成15年度 に改訂され,時間割に沿った教育活動や活動の振り 返り以外に,浅田(1998)による授業日誌法を援用 した記録フォームを取り入れている(表2に示す).
これには,具体的な状況と子どもの様子,どのよう に関わったか,その関わりを用いた理由,その後の 子どもの様子を区分して記述するものである.実習 生は,このフォームに基づいて,その日の自らの活 動と,教師や実習生の活動の両方にっいて記述する.
表2 実習日誌の記録フォーム
具体的な状況と どもの様子
<活動の詳細:今日の活動のうち1・2つについて詳しく記入>
どのように 関わったか
その関わりを いた理由
その後の子 もの様子
2.2 事後指導プログラムの開発指針
事前・事後指導の役割については先述したが,秋 田大学教育文化学部における現在の事前・事後指導 では,実習中の授業や実習日誌が積極的に活用され ているとは言い難い.そこで本研究では,実習生が 行なった授業を分析したり,実習日誌を実習生目身 が分析する活動を取り入れた教育実習事後指導プロ グラムを開発し,試行的に実施する.このプログラ ムを開発する上で,授業分析と実習日誌の分析を取 り入れる意図を述べる.
子どもの学校生活の中心は,やはり教室であり,
そこでおりなされる授業が,子どもにとって学校生 活の大部分を占めている,ゆえに教師にとって授業
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実践力は重要な力量であるといえ,教育実習におい ても授業実践の経験が最も重視されている.しかし,
ただ授業経験を積めば授業実践力が向上するとは限 らない.澤本(1998)が「教師が自分の教授行動を モニターし,内省評価する営みを介して,教師は教 育実践上重要な感受性と実践的知識を形成し,それ が力量形成を可能にする.」と指摘するように,自 らの授業を省察(リフレクション)し,それをもと に授業を再構築していくことが,教師としての力量 向上にとって重要である.しかし,経験が浅く知識 も乏しい教育実習生にとっては,自らの授業実践を 振り返り,効果的な学びに結び付けていくことは難 しい.また,実習中には,自らの授業を具体的なデー タをもとに振り返ることが困難なため,指導教員に よる指導助言のみに留まる場合も少なくない.実習 生目らが目分の授業を対象化し,その改善案を検討 する機会は,事後指導だからこそ取り入れるべきで
ある.
一方で,教育実習において実習生が経験すること は,授業のみに留まらない.休み時間に子どもと触 れ合うことも,給食指導や清掃指導等の補助を行な うことも,教師としての指導力を培う重要な教育活 動である.そして,授業での対応はもちろん,この ような場面での対応は,教育実習期間内で変化する.
それに伴い,指導教員や他の実習生の教育活動を観 察する視点も変容を遂げる.このような実習生自ら の変化や成長を,実習生自身が気づくことは,実習 後の課題を発見する上で非常に重要となる,とはい え,そのような変化や成長は,実習後に思い返すだ けでは気付かないことも多い.この時,実習日誌は 毎日の実習活動にっいて記述したものであり,しか も本学の場合は,授業日誌法を援用した記録フォー ムを用いており,具体的な状況や子どもの様子,そ して目らの対応行動等の記録が残されている.長期 問に及ぶ教育実習を省察するためには,実習日誌の 分析が必要と考えた,
2.3事後指導プログラムの概要
上記の意図により開発した事後指導プログラムを,
秋田大学教育文化学部において平成17年度に教育実 習を履修した実習生2名(Y君,」さん)に試行 的に実施した.なお,Y君は小学校1年生,」さん は小学校6年生に配属されて1・る.事後指導プログ ラムは,教育実習終了後の以下の日程で実施した.
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【事後指導1:実習生自らの授業分析】
実習生Y 平成17年9月19日(月)
実習生」 平成17年9月20日(火)
授業分析を行なうにあたって,筆者らが実習中に 実習校を訪問し,実習生の授業をビデオ記録に撮り,
その授業プロトコルを準備した.事後指導では,ビ デオ記録とプロトコルを鏡的に利用するとともに,
授業中の教授行動とその意図を質問し,改善方策な どを検討する形で進めた.
【事後指導H:実習日誌の分析】
実習生Y 平成17年10月10日(月)
実習生」 平成17年10月11日(火)
実習日誌の分析は,先述した授業分析の実施後に,
4週間分の実習日誌を分析シートに整理する形で実 施した.なお,実習日誌の分析には時問がかかるた め,ある程度の時間的余裕を見込んで整理してもら い,実習中の教授行動がどのように変容していった のかにっいては,その後に検討した.
事後指導1と且では,実習生による振り返りを基 盤としながらも,筆者らがインタビュアーとして振
り返りを促した.所要時間は各1時間半である.こ れらの効果を分析するため,事後指導の様子をビデ オカメラで撮影し,さらに話し合いの内容を細かく 記録するために,ICレコーダーを用いて録音した.
3.事後指導プログラムについての考察 3.1事後指導1の概要と効果
(1)授業分析による振り返り
授業分析を行なうにあたって,インタビュアーが 事前にポイントとなる授業場面を選び,その場面で の意思決定の根拠や,その教授行動を選択した理由 について,対話を通じて振り返りを行なった,また,
授業者目身がビデオを見て気づいたことや,授業者 自身の反省をもとに,それらをどのように改善でき るか,代替案などにっいても話し合った.ポイント となる授業場面は,主に授業計画と授業実態にズレ が生じている場面などである.具体的な検討場面を 表3に示す.
授業分析を始めた当初は,学生は目らが試行錯誤 しながら授業している様子を改めて見直すことに抵 抗を感じていた.しかし,実際の授業場面を見始め ると,実習生自ら授業中の心境などを語りはじめた.
実習生Yが行なった授業は,小学校1年生の国 語「サラダでげんき」である.この授業を客観的に
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要
表3 授業分析の観点
・黒板の使い方にはどのような意図があったのか,
・授業中に時間をどのくらい意識していたか.
・発問した場面で,その発問で子どもたちからどのよう な考えを引き出したかったのか。
・子どもの反応をどのように感じていたか.
・子どもの反応を見てどのように考えたか.
・子どもの反応や様子を見て,授業の進め方を変更した のか.また,変えた場合,どのような理由でその進め 方を選択したのか.
見直し,表4のような反省と課題に言及していた.
その中でも「子どもが読むという状況に想像をあま りめぐらせていなかった」と話しているように,授 業計画段階での子どもたちの実態把握に不十分さを 感じたようだ.小学校1年生の子どもにとって,初 めて目にする文章をスムーズに読むことはかなり難 しいことである.しかし,実習生はそのような子ど もの状況を予測していなかった.そのため,読みに 時間がかかり,授業計画にずれが生じてしまったの で焦りが生じたのである.この結果,授業の後半で 早口になったり余裕がなくなり,子どもたちの反応 が見えなくなってしまったようである,
表4実習生Yによる振り返り
・授業計画段階で子どもたちの実態把握が不十分だった
・授業でやりたいことが多すぎて詰め込みすぎになって しまう
・前に立っと子どもたちの声が聞こえない
・話したいことがうまく話せないので子どもたちに伝わ らない
・指導案を書いて授業をしているので,計画通りに授業 を進めなくてはいけないという焦りがあった
・つまづいている子どもたちがいることに気づいた時点 で授業方法を変えてみればよかった
・授業時間が足りなくなってきて焦りがでた
・焦ったことで余裕がなくなり,子どもたちの反応が見 えにくくなってしまった
・子どもたちがっまづいていることに気づいたときに授 業方法を変える等して対処するべきだった
実習生や初任教師など経験の乏しい教師は,初め のうち子どもを理想化して見る傾向があると言われ ているが(吉崎1998),実習生自身が教材研究の段 階で簡単にできたことが,子どもにとって難しいと いうことはよくある.教育実習の限られた時間内で,
子どもたちの実態を全て把握することは難しいこと
第28号 2006年
ではあるが,Y目身の経験の乏しさからくる授業 計画段階での読みの甘さが,この結果にっながった
といえる.Yは,このことを認めた上で,子ども たちがっまずいていることに気づいた時,アドリブ で読み方を変え,子どもたちが読みやすいように対 処すべきであったと反省している.しかし,指導案 を書いて授業を行っているため,その通りにやらな くてはいけない,計画にない対応を用いることはで きないと考えたようである.
実習生」が行なった授業は,小学校6年生の国 語「りんりりん」という詩の授業である.この授 業を客観的に見直すことにより,表5のような反省
と課題に言及していた。特に,子ども同士の話し合 いを中心に進める授業の難しさを実感したようだ.
詩の情景にっいて子どもたちが話し合いながら考え るこの授業では,教師側が議論の筋道を持っていな ければ,議論が右往左往してねらいに行き着かない 場合が考えられる.この授業では,Jの意図するこ
とが子どもに伝わっておらず,しかも自分の意見を 主張し過ぎる子どもがいたことなどで,話し合いは まとまらなかった.授業を客観的に見直したことで,
子どもたちが自分たちのイメージのみで話し合って いたことに気づき,」は,一度詩を読み直したりす ることが必要だったと述べている.
表5実習生Jによる振り返り
・授業前に教材として用いる詩を子どもに渡していたが,
読む時間を十分にとれなかった.
・」の考えを子どもたちにうまく伝えられなかった.
・授業計画段階で考えていた手順を間違えてしまった.
・」が求める考えを持った子どもがいることは気づいて いたが,その考えを引き出すことができなかった.
・みんなの考えに反対している子を納得させ,同じ考え に導くことができなかった。
・子どもたちの気づきや,活動を生かしてあげることが できなかった.
・」自身も子どもたちと同様,詩の一部分にばかり焦点 をあてて考えてしまっていたので,行き詰った段 階で詩全体に視点を戻すことが必要だった.
・(子どもたちの反応から)解決しておかなければいけ ない疑問に授業中は気づけていなかった,
・授業の流れを改善すれば子どもたちにとってもっと楽 しめる授業になったと思う.
とはいえ,話し合いをまとめるため,」が必要だ と考えている意見を,子どもたちから引き出そうと
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試みてはいる.しかしこの授業では,意見を持って いる子どもを指名しても,なかなか発言してくれな い.もともとの学級の雰囲気も関係しているだろう が,子ども同士の話し合いをいかに進めるか,さら にはこの学級の子どもたちに合わせた筋道の立て方 を検討しておく必要があったことを実感したようだ.
また,」は「気づいている子がいる時点で,その子 どもに自信を持たせてあげられていれば,(意見を)
出したかな」と振り返っている.議論をする時の筋 道となる発言をいかに取り上げるか,またそれを見 逃してしまうと,議論が展開されないということに 気づいたようである.
(2)授業分析による効果
授業分析を終えた後,それによる効果を尋ねた。
両実習生が授業分析を行なう良さとしてあげたのは,
授業をしている時には気付かなかった子どもの反応 に気付くことができたという点である、授業実施中 に,いくら子どもの反応に注意を向けるように意識 したとしても,教育実習生の場合は特に,緊張等の ため見逃すことがある.また,失敗したと思い込み,
授業計画や自分の対応を過小評価してしまうことも 少なくないため,振り返ることから目を背けてしま う場合もある.授業を映像記録や文字記録(プロト コル)として振り返ることで,目分が創りあげたイ メージに捉われることなく,客観的に自らの授業を 振り返ることが可能となる点が,授業分析による効 果と考えられる.
また,授業を客観的に見られるようになると,改 善策なども考案することができる.実習生」は,
授業を見終えた後,「授業の初めの段階で抑えてお くべきだったことがもっとあった.そこを抑えてお けば子どもたちの議論ももっと活発になっていたの かもしれない.」と述べている.このように,自分 の授業を冷静に振り返ることは,次の課題を発見す る上でも役立ったようである.
3.2 事後指導Hの概要と効果
教育実習中の学生は,教材研究や指導案作りなど に追われながら,しかも自らの記述がどのように変 化しているかなどを冷静に振り返ることもなく,毎 日の日誌を書き進めている.この日誌を,実習が終 わってから冷静な視点でまとめることで,実習生目 身が自分の行動の変化や成長に気付くことができる.
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ここでは,実習日誌内の〈自分目身の活動を振り返っ て>とく先生方や他の実習生の様子を振り返って>
の二項目にっいて,!週間ごとに分けるよう要請し た.そして,これをもとに実習生の対応行動や,他 の先生の教育活動を観察する視点の変化について話 し合いを行なった.分析シートならびに4週間の変 化を例示するため,実習生2名のうちYが整理し た分析シートを表6〜表9に示す.
(1)実習日誌の分析による振り返り
実習生Yは,話し合いが始まった段階では,教 育実習中の自らの変化に漠然とは気付いていたが,
具体的に何がどのように変わったのかは気付いてい なかった.しかし,インタビュアーとの話し合いを 通して,子どもを見る眼の変化,指導教員の教授行 動からどのように影響を受けたのかなど,さまざま な変化に気付き始めた.例えば,4週目の分析シー
トに,前週までは見られなかった「教える必要があっ た」という項目がある。Yは特に意識せず記述し たようだが,インタビュアーとの話し合いの中で,
その時の自分の意識の変化を振り返ることとなった.
Yは,3週目までは実習生として子どもたちにどこ まで厳しく接していいのかという迷いがあったとい う・一方で,指導教員が子どもたちに対して,時に は厳しく指導する場面も観察していた.この厳しさ の必要性を感じたのは,子どもが実習生に甘える場 面に出会ったことがきっかけであった.この実習日 誌の分析により,Y目身の教授行動の変化や成長,
そしてその裏側に潜む考え方の変容が明らかになっ
た.
一方実習生」は,実習日誌を分析シートにまと めながら,自分の子どもへの接し方と,指導教員の 接し方を比べたようである.このような比較をした 背景には,教育実習中に」が感じていた目らの至 らなさがあった.指導教員が指示を出すと,子ども たちは自分たちで考え気付きながら活動する,しか し,Jが同じような指示をしても,子どもにはなか なか聞き入れてもらえなかったようだ.6年生の子 どもに対してどのような指示の仕方が良いのかにっ いては,教育実習中にも自分自身で検討したのだが,
解決には至らなかった.分析シートにまとめる段階 では,目分と指導教員の対応を客観的に比較でき,
具体的な違いに気付くことができたようである.
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要
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2006年 171 第28号
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秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 172
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2006年 173 第28号
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秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 174
(2)授業日誌の分析による効果
実習日誌の分析後に,振り返りによる効果を尋ね た.そうしたところ,二つの点において実習生に有 効に働いたことがわかった.一つは,日誌を記述し ているだけでは意識されなかった目分の変化に気づ くことができたことである,実習生自らの教授行動 の変化や成長には,必ずその裏側に潜む考え方の変 容などがある.実習日誌には,その時その時の実習 生の思いが少なからず反映されており,4週間分の 実習日誌を分析シートに整理することで,自分の教 授行動の変化や,指導教員の行動を観察する視点の 変化に気付くことができた。二っは,整理した分析 シートを客観的に見ることで,実習生が目分に足り ない力や今後の課題を発見できたことである.自分 の行動を客観的に見ることができれば,実習生自身 が思い描く理想の教師像や指導教員と比較すること が可能となる.教職経験がない実習生は,子どもと の接し方などあらゆる面で力量不足は否めない.実 習日誌を分析し,目分の行動を客観的に理解したこ とで,実習生は自分に足りない点や今後の課題に気 付くことができたといえるだろう.
4. おわりに
本研究では,教育実習生による実習経験の省察を 促すべく,授業と実習日誌を実習生目身が分析する 教育実習事後指導プログラムを開発し,施行的に実 施した.この事後指導により,実習中は見えなかっ た自分の教育活動や成長を客観的に捉えることが可 能となり,さらに実習生目身が目らの今後の課題を 発見できたという効果が見られた.教育実習中の実 習生は,毎日の教育活動に追われ,自らの授業や成 長を振り返ることは難しい.実習後に,授業VTR や実習日誌という具体的なデータを用い,しかもそ れを客観的に振り返ることで,このような効果が得
られたと考えられる.
とはいえ,この事後指導プログラムにも問題も残 されている.大学が行なった事後指導後に,本プロ グラムとの効果の違いにっいて,実習生ヘインタビュー を行なった.そうしたところ,上記の効果を指摘す る一方で,一っの問題点を提起した。それは,実習 生同士の共有の場の確保である.今回は,筆者ら2 人がメンター的な役割で事後指導に参画したが,実 習の経験をより多くの実習生で共有したり,様々な 対応行動を検討するためには,実習生同士の話し合
第28号 2006年
いは意義深いものと考えられる.今後はそういった 実習生同士の話し合いの場を提供していくことも考
えたい.
本学では,平成18年度入学者から教育実習の位置 付けを大幅に変更する.従来のように3年次だけで の実習だけではなく,2年次に3週間附属学校,そ
して3年次に2週問公立学校での教育実習を位置づ ける。しかも,1年次には2日間にわたり学校訪問 を行なう教職導入ゼミ,4年次には副免教育実習を 設ける.すなわち,教員養成の4年間にわたって教 育実践機会を提供することになるのである.この時 に重要となるのが,実践経験から学び,自らの次な る課題を発見していくサイクルを作り出すことであ る.本研究で行った,実習生自身の振り返りと課題 発見を促す事後指導プログラムを発展させ,4年間
にわたって実践経験をもとに課題を発見する支援プ ログラムを開発することが今後必要と考える.
引用・参考文献
浅田匡・生田孝至・藤岡完治編著(1998) 成長す る教師,金子書房
藤枝静正(1983) 教師養成にかかわる問題,日本 教育学会教師教育に関する研究委員会編 教師教 育の課題,明治図書,pp.21−37
羽原貞夫(1993) 岸光城・羽原貞夫編著,事前・
事後指導の事例(1),教育実習 教職専門シリー ズ⑨,pp26−41
姫野完治(2002) 協同学習を基盤とした教師教育 の課題と展望,大阪大学教育学年報,Vol.7:47−
60
姫野完治(2003) 教育実習の実態に関する基礎的 研究,秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要,
Vol.25:89_100
茨山良夫・高橋哲郎・野嶋栄一郎(1983) 教育実 習の事中・事後指導の開発に関する研究(1),福井 大学教育学部附属教育実践研究指導センター紀要,
7:1−10
生田孝至(1987) 学生の教授スキルに関する学年 間の比較,日本教育工学雑誌,Vo1.11:71−87 岸本幸次朗・久高善行(1986) 教師の力量形成,
ぎょうせい
小金井正巳・井上光洋・児島邦宏・稲葉京子・葛西 英昭・原健爾・野田一郎(1980) マイクロティー チングによる教育実習プログラム,日本教育工学
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