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困窮状態の子どもの育ちを支える関係性の生成過程に関する研究 -認定NPO法人抱樸の学習支援事業を通じて- [ PDF

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Academic year: 2021

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1.論文目次 序章 第1 節:問題意識 第2 節:生活困窮家庭の子どもをめぐる問題の把握 第3 節:重要な他者の役割 第4 節:学習支援事業における他者 第5 節:研究課題と対象 第一章 抱樸の学習支援事業の思想と構造 第1 節:抱樸の支援思想 第2 節:抱樸における学習支援事業 第二章 学習支援事業を通じた子どもの変容プロセス 第1 節:方法と対象 第2 節:事例に見る子どもの変容プロセス 第3 節:スイトレにおける子どもの変容プロセス 第三章 学習支援事業における支援者の役割 第1 節:対象と方法 第2 節:支援の構造と関係性の生成過程 第3 節:緩い関わりと重要な他者 終章 第1 節:本研究のまとめ 第2 節:今後の課題 2.要約 序章 現在、貧困を中心とした困窮状態にある子どもの育ち を支える取り組みが全国各地で実践され、広まってきて いる。その取り組みの代表的なものが、低学歴になりが ちな困窮家庭の子どもの高校進学を支えるために無料で 勉強を教える「学習支援事業」である。多くの取り組み においては、その子どもたちの状態を踏まえた支援を模 索しながら行われている。その模索の中で、子どもたち がどのように育ち、支援者はどのように支えているのだ ろうか。それを明らかにしていくことが、本研究の基本 的な問題意識である。 困窮状態とは、経済的な困窮に由来しながら、それに より広がる社会的孤立を含めた複合的な課題を抱えた状 態である。そして、「貧困の世代間連鎖」という言葉に表 されるように、困窮状態の子どもは、育ちにおいて困難 を抱えやすい。その中で特に困窮状態の子どもは、社会 的孤立の中で自己形成上のモデルや支えとなる他者の不 在が問題として挙げられる(林 2012、大澤 2008) この子どもの育ちと他者の関係について、住田(2014) によると、人間は他者の評価に基づき自己を形成すると される。そして、子どもにとって大きな影響力をもつ他 者を「重要な他者」という。人は、他者に肯定的に評価 されれば安心感をもって自己を形成していけるが、否定 的な評価の中では不安感や拒絶感の中で自己が形成され ていく。そして子どもは、他者の評価を取捨できずに取 り入れることで、歪な形で自己を形成することもある。 以上を踏まえて住田は、特に近年注目されている居場所 は、肯定的に自己を支えてくれる関係性と、その関係性 の中で感じる安心感などの意味感覚が空間性と一体化さ れる場として理解できるとしている。居場所における子 どもの自己形成は、その様な関係性と空間性が一体的に 形成される場によって支えられるのである。 困窮状態の子どもへの支援としては、高校進学を支え る「学習支援事業」がある。これは、2009 年から制度化 され、15 年には生活困窮者自立支援制度の中に位置づけ られ、現在全国で急速に広がりつつある事業である。こ の学習支援事業は、学力が低くなりがちな生活保護世帯 の子どもに対して、学力を保障する動きとして考えられ ているが、一方で、信頼できる他者との出会いの場であ ったことも同時に指摘されてきた(例えば木戸口 2010、 野村・杉村 2004)その関係性は、高校進学という課題 を共に乗り越える過程を通じて形成されるものであるこ とが示唆されてきているが、そのプロセスとそれによる 子どもの育ちについては、明らかにされているとは言い 難い。 そこで本研究では、困窮状態にある子どもたちが、学 習支援事業を通じて、どのような過程を通じて子ども自

困窮状態の子どもの育ちを支える関係性の生成過程に関する研究

―認定

NPO 法人抱樸の学習支援事業を通じて―

キーワード:子どもの貧困,学習支援,生活困窮者支援,重要な他者,M-GTA 所 属 教育システム専攻 氏 名 勝部 皓 氏 名

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身の自己を支えてくれる他者と関係性を生成していくの か。その点を、課題に共に向き合う過程に着目しながら 明らかにすることを目的とする。その際に、子ども自身 の自己の変容、支援者の意識や支援の構造も合わせて論 じていく。 研究対象としては、福岡県北九州市の NPO 法人抱樸 (以下「抱樸」)が行う学習支援事業に着目する。その理 由は、抱樸が「伴走型支援」という形で関係性の支援を 志向している点、そして子どもの抱える課題を、子ども の育つ環境に広げて捉える支援体制を持っている点とい う2 点からである。 調査方法は、筆者は2014 年 10 月より継続的に本実践 に一人のボランティアとして関わり、参与観察を行った。 そして、支援者の意識に関しては本実践に関わる支援者 である抱樸職員(以下「支援員」)とボランティアにイン タビューを行った。そして、関係性の生成過程の分析に おいては木下(2003)が開発した「修正版グランデット セオリーアプローチ(以下「M-GTA」)」を用いた。 第一章 抱樸の学習支援事業の思想と構造 抱樸は旧称を「北九州ホームレス支援機構」と言い、 ホームレス支援を出発点にした団体である。しかし、ホ ームレスの抱える問題は多岐に渡り、かつ問題が深刻 化・複雑化し、拡大再生産される中で、抱樸の行う事業 も多様化する。その中で、事業がもはや「ホームレス」 の支援だけにはとどまらないことから、2014 年 7 月に 「NPO 法人抱樸」へと改称することとなる。そのなか で、抱樸は困窮状態の子ども若者支援も行うようになっ ていく。 そのような抱樸の支援体制として「伴走型支援」が挙 げられるが、それは、「伴走者」という他者との関係その ものが支援であるという思想に立っている。その役割は、 当事者の自己認識を支え、課題に共に立ち向かう同志的 関係であるとされる。 その様な支援思想を持った抱樸の子ども支援は、支援 をしていく中で見えてきた子どもの背後にある家族の問 題まで視野にいれて支援を行っているのが特徴である。 対象の子どもは、市の保護課や児童相談所、抱樸関係者 のつながりで集まり、年齢は小学1 年生から高校 2 年生 まで幅が広い。また、その多くがひとり親家庭である。 支援体制は、集合型の学習支援事業「スイトレ」と、集 合型に来れない子どもや、家族に対しては訪問型支援と してアウトリーチを行っている。加えて、社会参加支援 として、スイトレ参加者で水族館にいく等のイベントも 行っている。支援に携わるのは、支援員と社会人もしく は大学生のボランティアである。 その中でも、本研究では、集合型学習支援事業である 「スイトレ」を中心的にとりあげる。その理由は以下の 2 点である。1 点目は、子どもと他者との関係生成過程 を着目する上で、多数との関わる場であるためである。 2 点目は、この学習支援事業は、子どもとその背後にあ る問題発見のアンテナでもあると位置づけられているた めである。 第二章 学習支援事業を通じた子どもの変容プロセス 先述の様な支援思想・体制の中で、子どもはどのよう に変わっているのかを明らかにしていく。対象とした事 例は、5 事例で 6 名の子どもである。 1 事例目は引きこもりの CB の事例である。これは、 物理の勉強を共に悩みながら学ぶボランティアと関係性 を生成していっている。それは、CB にとって「すっき りする」ものであった。それによって形成されるCB そ のボランティアと信頼関係を形成過程を通じて、他のボ ランティアと関わったり、苦手な集団行動にも参加して いくようになっていっていた。 2 事例目は、公的扶助を受けていないひとり親家庭の CC の事例である。CC は当初こそ友達に連れられ受験勉 強のために参加していたが、次第に特に理由がなくても 参加するようになっていた。そして、支援員やボランテ ィアと信頼関係が作られていく。そして、スイトレのイ ベントに積極的に参加したり、継続的な参加の中でいろ いろな悩みを吐き出す様になっていく。その中でスイト レが「自分を作らなくてもいい場」になっていた。 3 事例目の CD は、祖母と二人暮らしで不登校状態の 子である。非常に家庭が不安定なため、支援員がアウト リーチ支援として、祖母の支援や、時に生活する場の保 障も行いながら支援を行っていた。その中で、当初は支 援者へ攻撃性を持った関わりを行っていたが、共に課題 に向き合う中で支援員との信頼関係が形成されていく。 そして、CD の意欲の醸成や家庭状況を冷静に捉えるこ とができるようになっていた。 4 事例目は、高校生の CA と小学生の CE の事例であ る。CA は父子家庭で 5 人兄弟の長男、CE はネグレクト を通じて、現在里親家庭で暮らしている。CA は共通の 趣味である野球が好きなボランティアと関係を形成して いき、共に即興でキャッチボールをする関係となってい く。その中で、そのキャッチボールをきっかけにCA と CE の関係が形成されていく。そして、CE は CA のこと を「兄貴」と呼び慕うようになる。そこには、ネグレク トを経験したCE にとって、一種の憧れともとれる「優

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しいお兄ちゃん」への欲求が背景にあったと考えられる。 同じく5 事例目の生活保護を受けるひとり親家庭 CF も、スイトレにおいて共に遊ぶ同年代の仲間やお兄ちゃ んと呼べるような関係性を生成していた。それは、不登 校傾向のあるCF にとっては貴重な同年代の仲間の獲得 でもあった。その過程には、ボランティアとの楽しい経 験を基盤としながら、同じ空間を共有する子どもへと関 係性を広げる過程があった。 以上の事例を「重要な他者」の視点から再整理すると、 スイトレ内での関係性は、子どもと支援員もしくはボラ ンティアとの関係性の生成を通じて、子ども同士の異年 齢・同年齢の関係性の生成に発展していた。また、その 関係性は、子どもの抱える自己に支援者が寄り添い、肯 定する関わりであった。それは子ども自身の自己を肯定 的に自己を支える他者としての支援者となっていた。同 時に、子どもや家族の抱える問題に応じて「生活欲求の 充足」も行っていた。この様な関わりの中で、支援者は 「重要な他者」となっていっていたと考えられる。 第三章 学習支援事業における支援者の役割 以上を踏まえつつ、関係性の生成過程を整理していく。 分析においては、M-GTA を用いた。その理由としては、 現場の実情から理論を組み立てていく点と、本研究課題 である関係性の生成において人と人との相互作用とプロ セスを明らかにするという2 点においてすぐれている分 析方法であるためである。また使用データは、フィール ドノーツの記録、支援者へのインタビューを中心に複合 的に用いている。 M-GTA とは、データに密着した分析から独自の説明 概念をつくって、それらによって統合的に構成された説 明力にすぐれた理論とされている。その分析過程は、デ ータ全体を読み、分析テーマに即してデータの関連個所 に着目して概念を検討し、同時に関連のある概念も検討 する。そして、新たな概念が生成されなくなった時点で、 理論的飽和に達したと判断し、概念ごとの関係からプロ セスを表す図を作成する。その関係図から、複数の概念 からなるカテゴリーを生成し、概念図を作成した。この 分析における概念図は、図1 として本項最終頁に示して いる。なお以下で、概念を[]、カテゴリーを〈〉で表し ている。 分析では、〈子どもの抱える課題〉は子ども自身と家族 にまたがる問題として整理している。その様な子どもに 対して、支援員は[アウトリーチ]と[緩い場]の2 つ の支援を通じて子どもの支援を行っていた。また、ボラ ンティアは、子どもに興味をもって関わる、気軽な一人 の人として〈仲間になる〉関わりをしていた。同時に、 それはボランティアにとっても居場所であることがうか がえた。 そのなかで、子どもとボランティアは、スイトレの場 の中で〈肯定的な共同関係〉として勉強をきっかけにし つつも子どもに合わせて過ごし方を柔軟に変化しながら 肯定的に共に過ごす関わりを行っていた。それは、子ど もにとって気軽にいられる場であるように、子どもに合 わせて、常に子どもを肯定する立場に立って関係性を築 いていっていた。このような関係性を通じて、子どもは [楽しかった感覚]を獲得していく。さらに、子どもの 抱える課題に対しては、場合によって支援員がスイトレ の外においてアウトリーチとして、時には[生活の保障] も行いながら支援を行っていた。 このような、共に課題に向き合い、時に課題から距離 を置きながら、楽しいと感じる関わりのなかで子どもは [支援者への信頼感]を形成していく。その信頼感をは じめとした感覚的意味は、「その人が居る空間」に意味転 化される。これが[場への信頼感]につながる。このよ うな〈信頼感の獲得〉を通じて、スイトレでの活動は〈関 係や活動の広がり〉を見せる様になる。これは子ども同 士の関係に広がって形成していくことや、また活動の場 や内容に変化が見られることを意味している。 以上の過程を通じて子どもの[自己の安定化]が行わ れていく。それは、子どもにとって「自分を作らなくて いい場」となることで自己を肯定的に受け入れられる場 となっていると考えられる。もちろんこれには、家庭の 安定化とも関連しあっている。家庭の安定化が子どもの 安定につながるが、一方で、子どもが楽しんで過ごすこ とで、家庭にも好影響があることも同時に伺えている。 このプロセスは、多面的な支援の構造によって形成さ れる、子どもの抱える課題に対して多様な形で共に向か い合う支援者の関わり方に支えられている。この関係性 の生成過程を通じて、子どもにとって支援者が肯定的に 支えてくれる他者となっていくのだと考えられる。そし て子どもは、支援者との関係性の中で感じる感覚的意味 が場に意味転化されることを通じて、場自体が自分を肯 定してくれるものとなる。それは、スイトレの場として 子どもの抱える自己を肯定することを意味する。その中 で、新たな関係や活動の広がりにつながりながら、自己 の安定化につながっていくのである。 以上の過程は、子どもの自己が不安定な状態から、自 己を肯定的に支えてくれる関係性と空間を得ることを通 じて、自己が肯定的に支えられる様になる。それにより、 子どもは安定的に自己を発達させることができるように

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なっていくのである。 終章 本研究の対象である学習支援事業スイトレは、困窮状 態の子どもの排除の一翼を担う学力の問題をきっかけと しながら、そこから見える多様な子どもの抱える課題に 対して、多面的な支援による課題の向き合い方を通じて、 子どもにとって重要な意味のある他者関係が生成されて いた。それは、子どもの自己を確認し支え、発達させる 関係性と言える。 このような支援が本事例で展開されたのは、具体的に 問題を解決する「アウトリーチ」支援と、課題への緩い 向き合い方を可能にした「緩い場」づくり、そしてそれ による多様な支援者の関わりであった。その関わりを通 じて困窮状態の子どもの支援が、子どもの育ちを支える ものとなるのだろう。 課題としては、子どもと支援者の関係性の生成による 感覚的意味が場に転化される過程の分析と、それによっ て生み出される子どもの主体化の過程の分析が不十分で あることが挙げられる。また、当事者である子ども自身 による意味付けから、学習支援事業や、そこから見える 子どもの育つ環境への問い直しが必要ではないかと考え ている。 3.主要参考文献 ・奥田知志・稲月正・垣田裕介・堤圭史郎著『生活困窮 者への伴走型支援-経済的困窮と社会的孤立に対応する トータルサポート』明石書房、2014 年。 ・木戸口正宏「自他に対する「信頼」の回復を軸に据え た「学習支援」の取組み:釧路市「高校進学希望者学習 支援プロラム」の取り組みを手がかりに」『釧路論集:北 海道教育大学釧路校紀要』第42 号 pp. 61‐69、2010 年。 ・木下康仁『グランデット・セオリー・アプローチの実 践 質的研究への誘い』弘文堂、2003 年。 ・住田正樹『子ども社会学の現在 いじめ・問題行動・ 育児不安の構造』九州大学出版会、2014 年。 ・野村智・杉村宏『生活困難世帯の子どもに対する学習 支援活動の意義と課題』厚生労働科学研究費補助金(政策 科学推進研究事業)総合研究報告書/平成 16 年度総括研 究報告書貧困の世代間再生産の緩和・解消のための支援 に関する基礎的研究、pp. 79-140、2004 年。 ・林明子「生活保護世帯の子どもの生活と進路選択-ラ イフストーリーに着目して-」『教育学研究』第79 巻第 1 号、pp. 13-24、2012 年。 図1:スイトレにおける関係生成過程の概念図

参照

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