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陸水学雑誌68巻

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Academic year: 2021

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(1)

特集:外来淡水産底生無脊椎動物の現状と課題

短 報〔Note〕

特定外来生物シグナルザリガニ

Pacifastacus leniusculus

)の

分布状況と防除の現状

Usio N

1)

・中田和義

2)

・川井唯史

3)

・北野聡

4)

Distribution and control status of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus) in Japan

N. USIO1), Kazuyoshi NAKATA2), Tadashi KAWAI3) and Satoshi KITANO4)

Abstract

On 1 February 2006, the American signal crayfish Pacifastacus leniusculus together with another American crayfish (Orconectes rusticus), Cherax (native to Australasia) and Astacus (native to Europe) were designated ‘invasive alien species’ (hereafter termed IAS) by the Ministry of the Environment of Japan. Under the IAS Act, raising, importing, transferring, releasing, sowing and planting live IAS (including eggs, seeds and/or organs) are strictly regulated. Mitigation of ecological impacts and control of IAS are also important components of the IAS Act. Here, we report the current distribution and control status of the signal crayfish in Japan for the purpose of future management planning. Signal crayfish were originally imported from the Columbia River basin in northwestern North America between 1926 and 1930. The official records and anecdotal evidence suggest that signal crayfish had been intentionally or unintentionally introduced into streams or lakes in Hokkaido (the northernmost island of Japan) and Honshu (the main island of Japan). Although some founder populations have since disappeared, signal crayfish have been rapidly expanding their distribution ranges in Hokkaido as well as in Honshu over the last few decades. As of July 2007, the signal crayfish is distributed along the northern, eastern and central parts of Hokkaido as well as in three prefectures (Fukushima, Nagano and Shiga Prefectures) in Honshu. Since the enforcement of the IAS Act, crayfish control has been started in Hokkaido (in four lakes from 2006 and in four further lakes or streams from 2007) using baited traps and/or by hand with the aid of SCUBA equipment. On the other hand, the townspeople of Imazu (Shiga Prefecture) are proposing to protect the signal crayfish in Tankai Reservoir because the population has a unique Japanese name due to its introduction history. We discuss some of the problems and possible future directions concerning crayfish control.

Key words: invasive species, Invasive Alien Species Act, signal crayfish, Pacifastacus leniusculus, eradication

1) 独立行政法人国立環境研究所 環境リスク研究センター 〒 305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 Research Center for Environmental Risk,

National Institute for Environmental Studies, Tsukuba 305-8506, Japan(連絡先 西川潮 E-mail: [email protected]

2) 独立行政法人土木研究所 水環境研究グループ河川生態チーム 〒 305-8516 茨城県つくば市南原 1-6 Water Environment Research Group,

Public Works Research Institute, Tsukuba 305-8516, Japan

3) 北海道立稚内水産試験場 〒 097-0001 北海道稚内市末広 4-5-15 Hokkaido Wakkanai Fisheries Experiment Station, Wakkanai 097-0001, Japan 4)

(2)

はじめに

 淡水棲のザリガニ類は,ザリガニ科Astacidea(AstacusPacifastacus を 含 む 3 属 ), ア メ リ カ ザ リ ガ ニ 科 Cambaridae(Procambarus や Orconectes を含む 12 属)な らびにミナミザリガニ科Parastacidea(Cherax など 14 属) の3 科に分類され,全世界から合計 540 種以上が知られ る(Holdich, 2002)。2005 年 6 月 1 日より環境省の「特定 外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法 律」(外来生物法)(平成16 年法律第 78 号)が施行され, 2006 年 2 月 1 日から特定外来生物の第二次指定種とし て2 属 2 種の外来ザリガニが規制対象となった。特定外 来生物に指定された外来ザリガニは,Cherax(キラック ス属ザリガニ:オーストラリアおよびニューギニア原産, 約40 種),Astacus(アスタカス属ザリガニ:ヨーロッ パ原産,3 種),Pacifastacus leniusculus(シグナルザリガ ニ†:北米原産,3 亜種),そして Orconectes rusticus(ラ スティーザリガニ:米国原産)である。外来生物法によ る規制以前は,外来ザリガニ10 種が植物防疫法の対象 種として指定され,生きたままでの輸入が制限されてい た。しかしながら,2006 年度の植物防疫法の見直しに より,外来ザリガニ類は植物防疫法の規制対象から外さ れることとなったが,ザリガニ類の専門家がパイプ役と なって農林水産省横浜植物防疫所,環境省,財団法人自 然環境研究センター,ならびに特定外来生物等分類群専 門家(委員)が連携を図った結果,これまで植物防疫法 で規制されていた10 種の外来ザリガニ類は,アメリカ ザリガニ(Procambarus clarkii)を除いて,実質上,外来 生物法の規制対象(特定外来生物)に移行される運びと なった。特定外来生物(卵,種子,器官を含む)を生き たまま保管,運搬,飼育,栽培,輸入,播種,もしくは 放逐を行った場合には重い罰則が科せられる。例えば, 特定外来生物を販売目的等で飼育した場合には,3 年以 下の懲役または300 万円以下の罰金(もしくは併科)に 処される。外来生物法の施行以降,現在までの間に,オー ストラリア産のヤビー(Cherax destructor)を販売してい た札幌市のペット・ショップの経営者が逮捕されている (芳賀,2007)。  特定外来生物に指定された外来ザリガニ類のうち,シ グナルザリガニは,唯一国内の天然水域に定着してい る。シグナルザリガニは,カナダ南西部からアメリカ合 州国北西部にかけての地域(ブリティッシュコロンビア 州,カリフォルニア州北部,ユタ州西部を囲む地域)を 原産とする冷水性のザリガニで,全長15cm 程度に達す る大型種である(Lewis, 2002)。本種は,これまでヨー ロッパや日本に移植され,侵入先の湖沼や河川におい 摘 要  2006 年 2 月 1 日,北米原産のシグナルザリガニ Pacifastacus leniusculus(ウチダザリガニ,タンカイザ リガニ)が特定外来生物の第二次指定種に選定された。本報では,特定外来生物の将来的な管理計画を 念頭に置き,シグナルザリガニの国内での分布と防除の現状を報告する。シグナルザリガニは,1926 年 から1930 年にかけて北米のコロンビア川流域から輸入された後,北海道や本州の天然水域に移植され, 近年,急速に北海道はもとより本州でも分布を拡大している。2007 年 7 月現在,シグナルザリガニは, 北海道の東部,北部および中央部の地域,そして本州の3 県(福島県,長野県,滋賀県)に分布している。 外来生物法の施行以降,これまで北海道でのみシグナルザリガニの防除が行われ,2006 年度には 4 湖沼, 2007 年度には河川を含む 4 水域においてカゴ罠や SCUBA 器具を用いた素手による防除が実施されてい る。一方,滋賀県今津町では,個体群独自の標準和名(タンカイザリガニ)を重んじてシグナルザリガ ニを保護しようとする動きがある。最後に,シグナルザリガニ防除の問題点や今後の課題について議論 する。 キーワード:侵入種,外来生物法,ウチダザリガニ,タンカイザリガニ,分布,駆除 (2007 年 8 月 10 日受付;2007 年 9 月 28 日受理) † 北海道の移入個体群はウチダザリガニ,滋賀県淡海湖の移入個体群はタンカイザリガニという標準和名で知られる。ウチダザリガニ とタンカイザリガニは,移入当初,頭部等の形態に基づいて別種(ウチダザリガニ:Pacifastacus trowbridgii;タンカイザリガニ:P. leniusculus)として報告されたが(三宅,1957;1961),現在では,これらは,原産地での分類(Miller,1960)を踏まえて亜種(ウチダ ザリガニ:P. l. trowbridgii;タンカイザリガニ:P. l. leniusculus)として認識されている。しかしながら,ウチダザリガニ,タンカイザリガ ニといった標準和名は在来種と混同しやすいこと,亜種レベルの形態的差異が不明瞭であること,また仮に亜種レベルの差異があった としても亜種を区別して呼ぶ意義は薄いことなどから,本論文では英名signal crayfish にちなんでシグナルザリガニと呼ぶ。

(3)

て多大な生態系被害をもたらしている。シグナルザリガ ニのもたらす数々の生態系被害のうち,もっとも影響力 が高いと思われるものは,IUCN(International Union for the Conservation of Nature and Natural Resources) の 世 界 のワースト100 外来生物にも選定されている卵菌類(ア ファノマイシス菌:Aphanomyces astaci)の媒介で,ヨー ロッパではシグナルザリガニ移入後約100 年の間に,大 陸各地でヨーロッパザリガニの局所絶滅をもたらしてい る(Ackefors, 1999)。アファノマイシス菌は通称「ザリ ガニ・ペスト」として知られ,シグナルザリガニを含む アメリカ産のザリガニはこの菌に対して耐性を持つもの の,ヨーロッパザリガニやニホンザリガニ,オーストラ リアザリガニは耐性を持たないため,感染後数日から数 週間で死滅する(Unestam, 1969)。なお,ヨーロッパに 移植されたシグナルザリガニには保菌個体群と非保菌個 体群が知られているが,たとえ非保菌個体群であっても, 沈水植物の切断ならびに実生更新の阻害,底棲動物や魚 類の捕食,底泥の攪拌などを通じて食物網構造を大きく 改変する(Nyström, 1999 の総説参照)。日本の移入個体 群については,アファノマイシス菌の保菌状況は明らか にされていないが,野外実験や室内実験から,沈水植物 の切断や底棲動物の捕食,落葉の分解,底泥攪拌,栄養 塩の排泄などを通じて食物網構造や生態系機能を改変さ せることが明らかとなっている(西川ほか,2005;Usio et al., 2006)。また,北海道東部では,捕食や競合を通じ て日本唯一の在来ザリガニ種かつ固有種のニホンザリ ガニ(Cambaroides japonicus)が駆逐され,ザリガニ種が 置き換わっている(蛭田,1998;Usio et al, 2001;Nakata and Goshima, 2006)。本報では筆者らの調査結果を踏ま えて,シグナルザリガニの分布と防除の現状について報 告する。  本短報を執筆するに当たり,赤坂宗光氏,加藤康大氏, 熊川真二氏,斎藤和範氏,齋藤純一氏,酒井健司氏,鈴 木祥之氏,高桑浩氏,田上正典氏,伝田郁夫氏,土佐良 範氏,仲島広嗣氏,二宮浩司氏,久松享博氏,蛭田眞一 氏,堀彰一郎氏,松本宏樹氏,ならびに宗原均氏(五十 音順)には,未発表データの使用を快諾していただいた り,情報を提供いただいたり,野外調査や論文執筆の際 に便宜を図っていただいたりした。また,岩崎敬二氏お よび2 名の査読者には論文執筆に際して有意義なコメン トをいただいた。これらの方々に心よりお礼を申し上げ る。

移入の歴史

 シグナルザリガニは,1926 年から 1930 年にかけて計 5 回,アメリカ合州国コロンビア川流域から,当時の農 林省水産局によって優良水族移植という名目で輸入され た。輸入個体は合計29 の都道府県(北海道,山形,栃 木,茨城,埼玉,東京,山梨,神奈川,静岡,新潟,長 野,石川,愛知,岐阜,滋賀,福井,京都,和歌山,兵 庫,鳥取,岡山,島根,広島,山口,香川,愛媛,高知, 福岡,熊本)の水産試験場に配布され,天然水域へは滋 賀県で3 箇所(1926 年 10 月 30 日に石寺内湖に 65 個体, 1926 年 11 月 4 日に淡海湖に 30 個体,1927 年 2 月 10 日 に大正池に25 個体),北海道で 1 箇所(1930 年 7 月 28 日に摩周湖に476 個体),福井県で 1 箇所(1933 年猪ヶ 池(放流個体数不明)),ならびに東京府で1 箇所(放流 年月日,場所および個体数不明)放流された記録が残さ れている(川井ほか,2002a)。滋賀県淡海湖(流入河川 を含む)および北海道摩周湖では現在もシグナルザリガ ニが生息していることから,移入当初の個体群が存続し ていると思われる。一方,滋賀県の石寺内湖および大正 池,そして福井県の猪ヶ池では,シグナルザリガニは定 着しなかった,もしくは現在までの間に消失したと考え られる。  また,1926 年~ 1930 年当時,シグナルザリガニの配 布を受けた水産試験場の中には事業報告書を発行してい なかった県(例えば長野県)がある(川井ほか,2002a) ため,天然水域への放流は滋賀県や北海道,福井県,東 京府以外でも行われていた可能性がある。実際,放流の 記録は存在しないものの,長野県にはシグナルザリガニ の現存個体群が認められるし(後述),1928 年には栃木 県日光市の中禅寺湖でシグナルザリガニが採集された記 録が残されている(Yamaguchi, 1933)。しかしながら, これらの水域では,飼育施設から逸出した個体が野外に 定着した可能性もある。  農林省以外では,石川県志賀町館開の篤農家,山岸 善雄氏が1928 年に貿易商(ゼーケー兄弟商会)からシ グナルザリガニを購入して自宅の池で養殖し,1932 年 から1942 年にかけて,北海道から大分にかけての 29 の 都道府県に10 個体から 250 個体のシグナルザリガニを 配布していた記録がある(川井ほか,2002b)。山岸氏 没後,池で養殖されていたシグナルザリガニは1986 年 から1992 年までの間にかけて消失している(川井ほか, 2002b)。

(4)

Table 1. Distribution of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus) in Japan. Gee minnow traps (diameter 15 cm × length 40 cm, mesh 9 mm, openings 4 cm) were placed overnight in selected localities using wet canned cat food as bait. Catch-per unit effort (CPUE) was calculated to represent crayfish abundance in the respective habitat. N/A = not available

表1.特定外来生物シグナルザリガニ(ウチダザリガニ,タンカイザリガニ:Pacifastacus leniusculus)の分布状況.いくつか の水域では缶詰のキャットフードを餌として10 ~ 22 個のカゴ罠(直径 15 cm ×長さ 40 cm,目合 9 mm,開口部径 4 cm) を一晩(12 ~ 15 時間)設置し,生息個体数(CPUE = Catch per unit effort)を求めた。N/A = 出典に情報が記されていなかっ たため不明。

No. Localities 水域名 Year of discovery or introduction

Sources

(*Japanese references) Abundance (CPUE = catch per unit effort)

Hokkaido 北海道

1 Lake Toya 洞爺湖 2005 Hokkaido Shimbun Press (2005)*

2 Lake Shikotsu 支笏湖 2005 Matsuura (2005)*

3 Etanbetsu Stream (Ishikari

River drainage) 石狩川支流江丹別川 2005 Saito and Crayfish Investigation Group (2006)* CPUE = 25.0, 5 September, 2007

4 Teshio River, Otoineppu 天塩川音威子府 1999/2000 H. Munehara (personal communications) CPUE = 16.3, 6 September, 2007 5 Teshio River, Bifuka 天塩川美深 2005 Kasetani (2005)*

6 Penkenai River, Esashi 枝幸町ペンケナイ川 2006 Takeuchi (2006)*

7 Tokachi Pond, Obihiro 帯広市十勝池 1995 Hokkaido Shimbun Press (1995)*

8 Kikankono River, Obihiro 帯広市機関庫の川 2000 Nakata et al. (2001)*

9 Daini Suzuran River, Otofuke 音更町第二鈴蘭川 2005 Nakata et al. (2005)*

10 Nishisatsunai Bosai Reservoir 西札内防災ダム湖 2000 Yamazaki (2006)*

11 Rebunnai River 豊頃町礼文内川 2002 Ohtaka et al. (2005) CPUE = 21.7, 25 August, 2007 12 Lake Shunkushitakara シュンクシタカラ湖 2004 N. Usio (personal observation)

13 Lake Akan 阿寒湖 early 1970s Takayama et al. (2002)* CPUE = 14.9,

15 August 2003 14 Lake Kussharo (headwater of

Kushiro River) 屈斜路湖(釧路川源流) 1995 Kawai et al. (2002) CPUE = 7.6, 17 September 2003 15 Mid Kushiro River (Lake

Toro, Lake Shirarutoro and Lake Takkobu)

釧路川中流域(塘路湖,

シラルトロ湖,達古武湖) mid 1980s Y. Tosa (personal communications) 16 Lower Kushiro River 釧路川下流域 1978/1979 H. Nakajima (personal communications)

17 Lake Mashu 摩周湖 1930 Kawai et al. (2002a)* CPUE = 4.5,

14 October 2003 18 Bekanbeushi River 別寒辺牛川 1992 Ministry of Environment of Japan

(1994)*

19 Pond in Meiji Park, Nemuro 根室市明治公園の池 1999 Ohtaka et al. (2005) CPUE = 8.6, 27 August 2007 20 Shibetsu River 標津川 2002 Ohtaka et al. (2005) CPUE = 9.5,

28 August 2007 21 Midori Pond, Shari River

drainage 斜里川水系緑池 1984 or before Yamanaka and Torao (1994)

*

22 Tomisato Reservoir, Kitami 北見市富里ダム湖 1992 Hokkaido Shimbun Press (1997)* CPUE = 2.6,

29 August 2007 23 Lake Oketo おけと湖 1996 Hokkai Suiko Consultant Inc. (2003)* CPUE = 14.6,

13 October 2003 24 Muri Reservoir, Maruseppu 丸瀬布武利ダム湖 1994 Okura (2004) * CPUE = 0.8,

7 September 2007 25 Lake Shikaribetsu 然別湖 1993 Kawai et al. (2002); Nakata et al.

(2002)*

26 Lake Harutori 春採湖 2004 Hokkaido Shimbun Press (2006) *

27 Oboro River 尾幌川 2004/2005 T. Hisamatsu (personal communications)

Fukushima Prefecture 福島県

28 Lake Hibara 桧原湖 N/A Tada (2002)*, Nakatani and Yokoyama

(2003)*

29 Lake Onogawa 小野川湖 1998 Tada (2002)*; Nakatani and Yokoyama

(2003)*

30 Lake Akimoto 秋元湖 N/A Tada (2002)* CPUE = 4.5,

26 September 2006

Nagano Prefecture 長野県

31 Irrigation stream in Akashina 明科の用排水路 1999 (possibly introduced between 1926-1930)

Ohtaka et al. (2005) CPUE = 0.5, 11 October 2006

Shiga Prefecture 滋賀県

32 Tankai Reservoir (including

an inflow stream) 淡海湖(流入河川を含む) 1926 Kawai et al. (2002a)

* CPUE = 9.8,

(5)

19

3

1

2

19

20

22

4

7

9

5

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16

17

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21

23

24

6

26

10

8

32

28

31

29

30

44ºN

24ºN

124ºE

144ºE

400 km

32ºN

132ºE

27

Imported from the

Columbia River drainage

(northwest North America)

F i g . 1

Fig. 1. Distribution (as of July 2007) of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus) in Japan. Signal crayfish were imported from the Columbia River drainage in northwestern North America between 1926 and 1930 by the Ministry of Agriculture and Forestry of Japan for aquaculture purposes. The numbers correspond to those in Table 1.

図1.2007 年 7 月現在のシグナルザリガニの分布状況.シグナルザリガニは,1926 年から 1930 年にかけて,農林省により優

良水族移植という名目でアメリカ合州国コロンビア川流域(北米北西部)から日本に輸入された。図中の番号はTable 1

の水域番号に対応している。

5

4

(6)

分布の現状

 シグナルザリガニは1926 年から 1930 年にかけて,少 なくとも,北海道(摩周湖),滋賀県(石寺内湖,淡海湖, 大正池),福井県(猪ヶ池),東京都,長野県(明科の用 排水路(推定)),および栃木県(中禅寺湖)の各水域に 放流され(もしくは逸出し)(川井ほか,2002a),1970 年代頃から主に北海道を中心として分布を拡大してき た。1970 年代には阿寒湖および釧路川下流域,1980 年 代には釧路川中流域の湖沼および斜里川支流札弦川緑 池,1990 年代には屈斜路湖(釧路川源流)や然別湖な ど,北海道東部を中心として分布を拡大するとともに本 州の3 湖沼(福島県裏磐梯の秋元湖,小野川湖および桧 原湖)でも新たに生息が確認されている(Table 1,Fig. 1)。 2000 年代には天塩川,おけと湖,シュンクシタカラ湖, 支笏湖,洞爺湖,石狩川支流江丹別川など,北海道東部 はもとより北部や中央部でも次々と新たな生息が確認さ れている(Table 1,Fig. 1)。  2007 年 7 月現在のシグナルザリガニの分布域は,北 海道中央部(1 ~ 2),北海道北部(3 ~ 6),北海道東部 (10 ~ 27),福島県(28 ~ 30),長野県(31),および滋 賀県(32)の冷水性の湖沼および河川となっている(Table 1,Fig. 1)。  本論文執筆に先立って,著者らが北海道,福島県,長 野県,滋賀県のいくつかの水域にてカゴ罠(円筒形の本 体両端に漏斗状の開口部が一箇所ずつ空いたタイプ;直 径15 cm ×長さ 40 cm,目合 9 mm,開口部径 4 cm)を 設置し,シグナルザリガニの生息個体数を調べたところ, もっとも生息個体数の多かった水域は江丹別川,天塩川, 礼文内川,阿寒湖,ならびにおけと湖で,これらの水域 ではカゴ罠あたりの捕獲数(CPUE)が 15 ~ 25 個体で あった(Table 1)。摩周湖,根室市明治公園の池,標津川, 秋元湖,淡海湖流入河川,屈斜路湖も生息個体数は多く, カゴ罠当たりの捕獲数は5 ~ 10 個体であった(Table 1)。 滋賀県淡海湖ではブラックバス(Micropterus sp.)の放 流によってシグナルザリガニの個体数が激減している が(京都新聞,2006a, b),淡海湖流入河川で,2006 年 10 月 11 日の夜間に 1 名が素手で採集を行ったところ, 約1 時間の間に 83 個体のシグナルザリガニが捕獲され, ブラックバスの生息しない流入河川ではシグナルザリガ ニの生息個体数が多いことが明らかとなった。一方,長 野県安曇野市明科のシグナルザリガニ生息地は,犀川と 並行して流れる流程約2 km の用排水路で,最上部には ワサビ田,中下流部には養魚施設が隣接する。2006 年 10 月 10 日から 11 日にかけて,用排水路にて,2 名がカ ゴ罠,タモ網(素手での採集を含む),スノーケリング

Table 2. Control status of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus)in Japan during April 2006 and March 2007. The locality numbers correspond to those in Table 1 and Fig. 1. Orbital carapace length (OCL) = the distance between the back of the eye socket and the posterior-median margin of the carapace.

2.2006 年度の国内におけるシグナルザリガニ(Pacifastacus leniusculus)の防除の現状。水域の番号は Table 1 および Fig. 1 の水域番号に対応している。眼窩頭胸甲長(OCL)=眼窩後端から頭胸甲中央部末端までの長さ

Locality Organisation Control

duration Control days Method Number of individuals removed OCL (mean ± 1SD) 1. Lake Toya,

Hokkaido Lake Toya Ranger District 21 June-16 December 39 SCUBA (9 days), 5-40 crab baskets (60 cm × 45 cm × 20 cm, 17 mm mesh; bait: chopped fish) (30 days) 1367 (Male 700, Female 611, Not determined 56) 8-79 mm (34 ± 10 mm), N = 1312 2. Lake Shikotsu, Hokkaido Lake Shikotsu

Ranger District 18 July-30 October 20+ SCUBA (4 days), 3-10 crab baskets (60 cm × 45 cm × 18 cm, 17 mm mesh; bait: chopped Pacific saury) (17 days), Voluntary catch by professional diver (days unknown)

314 (Male 29, Female 38, Not determined 247) 11-30 mm (22 ± 4 mm), N = 67 25. Lake Shikaribetsu, Hokkaido Shikaoi Town Office and Kamishihoro Ranger District 30 May

-26 October 13 Hand (7 days), 40 or 60 crab baskets (60 cm × 45 cm × 21 cm, 30 mm mesh; bait: chopped Pacific saury) (13 days)

2458 (Male 1124, Female

1334) 10-63 mm (34 ± 9 mm), N = 927

26. Lake Harutori, Hokkaido

Kushiro City 9 June

-11 August 15 70 minnow traps (Gee type) (diameter 30 cm × length 60 cm, 10 mm mesh, opening diameter 12 cm; bait: paste bait for fishing)

1447 (Male 895, Female

552) 21-60 mm (40 mm), N = 1447

Note: The original unpublished datasets belong to the following organisations or individuals.  1 Lake Toya Ranger District

 2 Lake Shikotsu Ranger District  25 K. Nakata

(7)

ならびに電気ショッカーを用いてシグナルザリガニの採 集を試みた。その結果,カゴ罠17 個で 9 個体(カゴ罠 当たりの捕獲数0.5),タモ網(+素手)で 8 個体,スノー ケリングで14 個体のシグナルザリガニが捕獲されたが, 電気ショッカーでは捕獲されなかった。明科の生息地で は,シグナルザリガニは石垣護岸で水深がやや深い(約 1 m)数十メートル区間に分布が限られており,それ以 外の場所では生息を確認できなかった。

防除の現状

 2006 年 2 月 1 日からシグナルザリガニが特定外来生 物に指定されて以来,2006 年度(2006 年 4 月から 2007 年3 月迄)には北海道の 4 つの湖沼で防除が開始されて いる(Table 2)。支笏湖ならびに洞爺湖での事業は,環 境省支笏湖自然保護官事務所ならびに洞爺湖自然保護 官事務所による「生息状況調査と効果的な防除方法の検 討」という位置づけの捕獲である。支笏湖と洞爺湖では ボランティアダイバーの協力を含めて,314 個体(支笏 湖)ならびに1367 個体(洞爺湖)のシグナルザリガニ が捕獲されている。また,鹿追町役場と環境省上士幌自 然保護官事務所の合同チームが北海道然別湖にて,釧路 市が春採湖(春採湖ウチダザリガニ生息状況調査)にて, それぞれシグナルザリガニの防除を実施している。然別 湖では,市民参加型の行事とカゴ罠(角型の本体両端に 開口部が大きく斜めに空いたタイプ;通称「カニカゴ」) を用いた防除により合計2648 個体のシグナルザリガニ が捕獲されている。一方,春採湖では円筒型のカゴ罠が 用いられ1447 個体のシグナルザリガニが採捕されてい る。なお,釧路市では捕獲したシグナルザリガニの一部 を釧路市動物園の動物の餌に供している。  2006 年度にシグナルザリガニの防除を行った 4 水域 でのザリガニの体サイズ・データを比較すると,春採 湖では他の3 水域と比べて雄の占める割合が高く(雄/ 雌=1.6),また,ほとんど小型個体が捕獲されていない (Table 2)。春採湖では,6 月から 8 月にかけて毎月上旬 に5 日間ずつ計 3 回の防除が実施されているが,1 回目(6 月)と2 回目(7 月)の防除が大部分の雌の抱卵期と重なっ ていたために雄の捕獲数が多かったのではないかと推察 される。一方,然別湖,支笏湖ならびに洞爺湖では,カ ゴ罠と素手(SCUBA 機材の利用を含む)での捕獲を併 用した結果,捕獲されたシグナルザリガニの性や体サイ ズにあまりバイアスがかかっていないようである。ただ し,この違いは,侵入個体群そのものの齢クラス構成や 性比,生息個体数の違いに起因する可能性も否定できな い。これらの水域では,今後も継続して,シグナルザリ ガニの捕獲数や性比,体サイズのモニタリングを行って いくことが望ましい。  2007 年度も引き続き,北海道の支笏湖,洞爺湖,然 別湖,および春採湖では調査・防除が実施されている。 なお,2007 年度の然別湖でのシグナルザリガニの防除 には,新規に株式会社北海道ネイチャーセンターが参入 している。2007 年度はこれら 4 水域に加えて,北海道 枝幸町の幌別川水系ペンケナイ川(枝幸町),天塩川水 系(ザリガニ探偵団研究室),石狩川支流江丹別川(ザ リガニ探偵団研究室),ならびに西札内防災ダム(中札 内村)において防除が実施もしくは計画されている。い ずれの団体も,カゴ罠(円筒形もしくは角型のカゴ)も しくは素手による防除を予定している。  北海道で防除の計画が進行している中,滋賀県では別 の動きがある。「タンカイザリガニはウチダザリガニと 違うもので,生態系には悪影響を与えていない」,「タ ンカイザリガニは淡海湖にしか生息しない希少な生物 で歴史的価値がある」といった主張のもとに,地元今津 町の自然愛好家らがシグナルザリガニの保護を訴えてい る(京都新聞,2006a)。さらに,今津中学校は,タンカ イザリガニを守るために淡海湖のブラックバスの駆除を 行っている(京都新聞,2006b)。滋賀県は今のところ中 立の立場を保っているが,淡海湖の管理者である今津町 土地改良区は自然愛好家らを支持しており,今後,シグ ナルザリガニの防除を進めるためには地元の更なる理解 と協力が必要であろう。  今のところ,本州の生息地(滋賀県,長野県,福島県) ではシグナルザリガニ防除の動きは出ていない。

今後の課題

 シグナルザリガニの防除はまだ始まったばかりであ り,いずれの地域においても防除法の効果については 検討がなされていない。防除の効果を確かめるために は,単位努力当たりの捕獲個体数(CPUE = catch per unit effort)の減少率や標識採捕などを用いて防除法の有効 性を検討する必要がある。国内では,外来性の魚類(オ オクチバスやコクチバス)の防除事業で防除法の効果が 評価され,その有効性に応じて防除法が見直されている (細谷・高橋,2006)。今後,シグナルザリガニの防除事 業でもこのような順応的管理をおこなっていくことが望 ましい。

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 自然個体群を対象に標識採捕を行うのは非常に労力が かかるため,防除法の効果はCPUE の低下で評価する のが一般的である。しかしながら,より正確に防除法の 有効性を評価するためには,ザリガニに標識を施し,季 節や水温,月の周期に応じて,手法によって捕獲され る体サイズ群や性,捕獲個体数がどの程度ばらつくか事 前に検討するとよいだろう。この目的のためには,大 型の隔離水界や網などで仕切った空間を利用するのが効 率的である。ザリガニ類の標識方法は,目的に応じてさ まざまな手法が開発されている。短期(数日)の標識 であれば,頭胸甲の背面にマジックや修正液などで番号 や印をつける方法がある。また,中期(脱皮2 - 3 回ま で)の標識方法としては,尾節に鋏で切れ込みを入れた り,針で穴を開けたりする方法が用いられている(Guan, 1997)。ザリガニ類の尾節は 5 枚であるが,針穴を開け る方法の場合は,尾節の中央の線を境として左右両側 に穴を開けることができるため(計10 箇所),一度に複 数個所に穴を開けると最低限10,800 通りの組み合わせ が可能となる(Guan, 1997)。針穴法の場合は脱皮 2 - 3 回までは標識が判別可能である(Guan, 1997)。比較的 長期の標識方法としては,蛍光塗料を腹部の筋肉に注 入する方法(イラストマー: Parkyn et al., 2002)や PIT (Passive integrated transponder)タグを用いる方法(Bubb

et al., 2002)がある。イラストマーは小型から大型ザリ ガニまでサイズを選ぶことなく標識を施すことが可能で あり,また,コストも安価である。ニュージーランド・ ザリガニ(Paranephrops planifrons)の事例では,野外条 件下で,ザリガニの標識が少なくとも1 年半は保持され ている(Parkyn et al., 2002)。一方,PIT タグは動物個体 の移動分散を推定する目的のために開発されたもので, ザリガニの場合,比較的大型の個体しか標識できない。 Bubb et al.(2002)は全長 12 mm の PIT タグを頭胸甲長 34 mm 以上(眼窩=頭胸甲長約 26 mm 以上)のシグナ ルザリガニに使用し,成長率や死亡率に影響を与えない ことを実験的に証明しているが,予備調査の結果から, 頭胸甲長25 mm 以上(眼窩=頭胸甲長約 19 mm 以上) の個体には使用できないと述べている。また,PIT タグ の受信機(約50 万円)ならびにタグは高価である。  外来ザリガニ類の防除法として,カゴ罠は,簡便で安 価な手法であるという理由から,世界各地でもっとも一 般的に用いられている(Holdich et al., 1999 の総説参照)。 しかしながら,前述のようにカゴ罠は,大型個体(眼窩 =頭胸甲長30 mm 以上)が選択的に捕獲される(Lewis, 1998),雌が抱卵中は雄に捕獲バイアスがかかる(Lewis, 1998),といった問題点が指摘されている。さらに,筆 頭著者は,餌に誘引された魚類や爬虫類などがカゴ罠の 中でザリガニに捕食される場面を2001 年の調査中に目 撃している。シグナルザリガニの在来生息域(オレゴン 州ビリー・チヌーク湖)での研究によると,漏斗型の開 口部が備わったカゴ罠の場合,開口部を狭くすることで 比較的小型の個体を捕獲することも可能であるが,それ でもなお,0 歳や 1 歳個体(眼窩=頭胸甲長 26 mm 以下) はほとんど捕獲されない(Lewis, 1998)。小型個体がカゴ 罠で捕獲されない理由としては,大型個体の存在が考え られるが,その場合,大型個体(特に雄)を除去した後 に小型個体がカゴ罠にかかりやすくなるかどうかは試験 してみる余地がある。  また,晩秋から翌春・夏にかけては雌が抱卵するため, この期間は雌がカゴ罠にかかりづらい。稚ザリガニは, 春先から夏にかけて孵化した後もしばらくは母親の腹肢 に付着し,1 回脱皮した後に独立歩行期を迎える(Lewis, 1998)。ビリー・チヌーク湖での研究によると,雌ザリ ガニが稚ザリガニを離した直後の約1 ヶ月の間は,(雌 が腹を空かせているために)雌が多く捕獲され,その 後,10 月の抱卵前までの期間は,カゴ罠にかかる性比 がほぼ1 対 1 となる(Lewis, 1998)。シグナルザリガニ の抱卵期は水域によって異なるため(例えば,北海道然 別湖では10 月中旬頃から 7 月中旬頃にかけて(Nakata et al., 2004),オレゴン州ビリー・チヌーク湖では 10 月 中旬~下旬から4 月上旬~下旬にかけての期間(Lewis, 1998)),効率的に雌を捕獲するためには,対象とする水 域でのシグナルザリガニの生活史を把握することが大切 である。特に稚ザリガニの孵化時期は水温の影響を大き く受けるため,雌が多く捕獲される期間は,水域によっ て,また同じ水域でも年によって変わるであろう。  カゴ罠には以上のような問題点があるが,ガやゴ キブリなどの駆除に用いられている性フェロモンの利 用 や, 英 国 環 境 水 産 局, 通 称CEFAS(The Centre for Environment, Fisheries and Aquaculture Science)が開発し た魚類の食欲中枢に働きかけるフェロモン系誘引剤(国 内ではマルキュー株式会社がUltrabite- αという商標名 で販売)の応用によって,より効果的にシグナルザリガ ニを捕獲できるようになる可能性がある。実際,ザリガ ニ類のフェロモン・トラップの開発はヨーロッパで進め られている(Stebbing et al., 2003)が,まだ実用化には いたっていない。今後,フェロモン・トラップを含め, 効果的なトラップの開発が望まれる。  タモ網やキックネット,素手(潜水器具を用いた捕獲

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を含む)などによる能動的手法は多大な労力がかかるも のの,捕獲できるザリガニの体サイズにバイアスがかか らない(海洋探査,2006;Usio et al., 2006)。そのため, カゴ罠とこれらの防除法を併用すると効果的に防除が進 むと考えられる。異なる手法は異なる利点と欠点を併せ 持つため,複数の手法を組み合わせて防除を実施するこ とが望ましい。  また,使用できる水域は限られるが,網とカゴ罠の中 間系も存在する。アリゾナ州北東部のホワイト・マウン テン地方では,国内移入種のザリガニOrconectes virilis が河川生態系を攪乱しているが,この地域には希少な両 生類・爬虫類・魚類が多数生息するため,カゴ罠を用い るとこれらの希少動物を殺傷することになりかねない。 そのため,地元の森林局(United States Forestry Service) レンジャー達はアンブレラ・ネット(Umbrella net)(1 辺0.5m-1m の正方形)を利用している。これは文字通 り傘をひっくり返したような構造をしており,網の四隅 から伸び中央で融合している支柱に鈎針を引っ掛けて網 を回収する仕組みとなっている。アンブレラ・ネットの 中央部には餌を設置し,食べつくされないよう工夫をす る。アンブレラ・ネットの場合,閉鎖空間はできないの で,ヘビやカメなどの爬虫類が溺死することもないし, ザリガニに捕食される危険性も少ない。ザリガニ捕獲の 際,特定の体サイズに捕獲バイアスがかかることもない ようであるが,底面が比較的平らな小河川以外での使用 は難しいと思われる。  国内外を問わず,外来ザリガニを完全駆除できた事 例はほとんどない。おそらく唯一の成功事例として, オーストラリアからニュージーランドに移入されたマ ロ ンCherax tenuimanus の 駆 除 が あ る(Biosecurity New Zealand, 2005)。 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド で は,1980 年 代 に いったんは養殖目的でのマロンの輸入が条件付きで許 可されたものの,1993 年に施行された法律 Biosecurity Act 1993 をきっかけとして外来生物が生態系に与える 影響が懸念され,国内のマロンはすべて破棄されるこ とになった。マロンが飼育されていた場所周辺で国や 市 の 行 政 機 関(Biosecurity New Zealand,Department of Conservation,Auckland Regional Council,Ministry of Fisheries,AgriQuality New Zealand Limited)が連携を図っ てカゴ罠を用いて徹底調査を行った結果,池に定着して いるマロンが発見された。発見直後,池の水は抜かれ, すべてのマロンは外来性のコイ科魚類ガジョン (Gobio gobio) とともに池から除去された。池自体もまた,感染 症を防ぐ目的で消毒されている。その後の,周辺水域を 含む再調査からマロンは確認されていないことから,マ ロンは完全駆除されたと考えられている。ニュージーラ ンドでは外来生物の輸入が非常に厳しく制限されている 上に,発見直後の徹底した対応により外来ザリガニ駆除 作業が功を奏したと考えられる。また,完全駆除はでき ていないものの,2001 年度から実施されている(現在 も継続中),アメリカ合州国ウィスコンシン州のスパー クリング・レイクでのザリガニ防除は良好に進んでいる ようである。スパークリング・レイクでは,釣り人が持 ち帰ることのできるゲームフィッシュのサイズや量に制 限を設けることで,小型ザリガニに対する魚類の捕食圧 を高め,また,大型ザリガニはカゴ罠で定期的に間引か れることで,ここ5 年間のザリガニ生息個体数(CPUE) が大きく減少している(Hein et al., 2007)。しかしなが ら,日本には在来の肉食魚がほとんどいないため,アメ リカで実施されている防除法をそのまま適用すること, 特に捕食魚を利用することは現実的ではない。国内では イトウ(Hucho perryi)やナマズ(Silurus asotus),ウナギ

Anguilla spp.)などがザリガニの天敵候補として挙げら れるが,北海道に分布するイトウは絶滅危惧種(IB 類; 環境省,2003)のため,通常,一水域では防除に十分な 数が揃わないし,他水域から新たに個体を持ち込むと, 異なる遺伝子型を持つ魚類が他の地域から移入されるこ とによって,その水域の魚類の遺伝的固有性が損なわれ る可能性がある(遺伝子浸透)。また,もともと肉食魚 が生息しなかった水域にこれらの肉食魚を放流すること は,新たな国内移入を進めてしまうことになる。肉食魚 導入などの生物学的防除を行う際は,これらの点に留意 し,対象水域の生物相への二次的被害についても慎重に 検討する必要がある。  また,外来生物の効果的な防除のためには何らかの 根拠に基づいて事前に防除の範囲を決める必要がある。 サウス・ジョージア島やフランスの島嶼のドブネズミ (Rattus norvegicus)の防除事業では,マイクロサテライ トDNA に基づく集団解析から繁殖集団の大きさを明ら かにし,再移住率が少ない集団を管理・駆除ユニットに 定 め て い る(Robertson and Gemmell, 2004; Abdelkrim et al., 2005)。例えば,シグナルザリガニが湖およびその流 出入河川に定着している場面を考えてみると,集団解析 から,湖とその流出入河川の集団間で相互に個体の移住 率が高い(遺伝的交流が頻繁にある)とみなされた場合, 管理ユニットは湖だけでなく,湖およびその流出入河川 を含めた範囲となる。このような分子遺伝マーカーに基 づく事前診断は,これまで外来ネズミでしか報告例がな

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いが,シグナルザリガニのように侵入個体群の遺伝的多 様性が高く,また自力拡散能力が限られている生物(16S rRNA に基づく;Usio ほか,未発表)では,効果的な防 除範囲の策定に集団解析が利用できる可能性がある。さ らに,マイクロサテライトDNA に基づく集団解析は, 起源不詳の個体群の由来をベイジアン法に基づいて推定 する方法として適しており(Pritchard et al., 2000),現在, 筆頭著者は,これらの利用目的を念頭に置いて,共同研 究者とともにシグナルザリガニのマイクロサテライト・ マーカーの開発を進めている。

文 献

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Table 1. Distribution of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus) in Japan
Fig. 1. Distribution (as of July 2007) of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus) in Japan
Table 2. Control status of the invasive signal crayfish (Pacifastacus leniusculus)in Japan during April 2006 and March 2007

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