NDC 548.3
介護ロボット用全方向移動形抱き上げ機の 設計と試作
大 西 輝 尚t
Designing and Making of a Trial Omni・一directional Holding Device for
a Nursing Robot,
Teruhisa Onishi
The time of a supermaging society is surely coming in the near future, which means nursing of bedridden oid people wi11 be a serious problem. We have to help such people, but they also have to help themselves in orcler to live meaningful lives. For this reason, we have made a trial omni−directional holding device for a nursing robot, which enables them to take care of themselves. ln this paper, the designing and mak−
ing of this trial machine is reported.
1. はじめに
日本が超高齢社会を迎える時期は目前に迫っている。そ の申でも,特に寝たきりの高齢者は介護される人にとって も介護する人にとっても大きな間題である.この間題に対 しては,若いお嫁さんなどが寝たきりの高齢者の面倒を看 た時代を経て,現在では高齢者が寝たきりの高齢者の面倒 を看ている時代だと言われている。しかし将来の高齢者は 動けない自分自身の面倒を看る時代であると予測されてい る。つまり,生活の質の向上という意味ではいかに手厚い 看護であっても,寝たきりでは人間として意義のある人生 とは言えない.自分の意思で行動ができることが大切であ る。また,寝たきりや,虚弱な高齢者が自分自身で自由に 行動できれば介護におけるかなりの問題を解決することが 可能である.
我々は,これまでに動力付きの移動機として飛行機や船 や自動車を使用している.また1人乗りのタイプではヘリ コプターやボートやオートバイがある.最近では低速の三 輪車などを使用する人もいる.しかし身体不自由者や寝た きりなどの人が自分一人で運転できるパーソナルな移動機 はない.そこで,我々はこれらの機能を実現するために全 方向移動型抱き上げ介護ロボットの研究を行っている.
情報工学科
平成9年8月31日受理
今回試作した介護ロボット用全方向移動型抱き上げ機は 鵬可動片,肩可動片,股可動片等を本体プレートに取り付 けて吊り具の機能を持つ1つのレバ・・…H■の操作だけで人体を 抱き上げて介護できる。また,この吊り具はホイスト(吊
り上げ機)に取り付けて操作するもので,ホイスト自体は 全方向に移動可能な車輪機構をもつ。全方向移動形抱き上
げ介護ロボットの二念図を図1に示す。これ,はリモコン装 置で人体の操作を行う場合であるe一般に人間は夫婦で生 活しながら老いを迎える.そしてどちらか一方がまず衰え る。しかし片方は軽度の日常生活ならできる場合が多い.
そこで図のような装置を考えて次の動作を実現できるよう に設計する。介護者が居るときは介護者が操作する。介護 者が居ない場合は自分自身で操作する.自分でも操作が困 難な場合はホイストにカメラを取り付けておき,遠隔操作 を可能とする.つまり,この装置を使えば実時間遠隔操縦 が一軸の力制御のみで可能であり遠隔地の介護を実現する ことができる.
しかし,現状では機械で人間を抱くという行為は受入れ られ難いかも知れない.そこで自然でかっ穏やかな共生が 必要と思われるので,開発のステップはこれに沿ったもの
にする.このような意味で,機構の設計は人力操作型,ス イッチ操作型,遠隔操縦型の3段階に分けて行うことにし た.なを今回は吊り具付き抱き機の部分を新しく設計した が全方向移動機構等は従来のものを使用した.また制御系 の設計等の詳細については今後の課題とする。
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﹁ト㌧図1全方向移動形抱き上げ介護ロボットの概念図 2. 全方向移動形抱き上げ介護装置
図1の概念図の機能を満たすような機構として図2に全 方向移動形抱き上げ装置の外観を示す.この人体介護の方 法では,被介護者がベッドに横臥しているものとする.そ して使用するホイストの形状からベッドの下にはある寸法 の隙間が必要である.被介護者はベッドから吊り下げられ た状態で起こされる.また,介護機器の大きな問題の一つ に,被介護者にとって不必要な機能を供給するために装置 が複雑になったり価格が使用者の要求と一致しない等の問 題点がある.そこで,この間題に対応するために各部分に できるだけ独立の機能をもたせて,使用環境やエネルギー の供給方法が選べるようにする,つまり次の3点に留意し て設計する.これはまた人間と機械の共生を穏やかに進め るという考え方に基づくものである.
センサー
×
吊り具付き抱き機
抱き機固定装置
×
キャスター付きホイスト
ホイスト駆動装置
︒
o
)」,1}llllli[Zti,.7一/g,>IL一,一
全方向移動機構
図2全方向移動形抱き上げ介護装置の外観
本
U ・)ク
吊り具
澱可動片
1.わずかな人力で操作できて廉価なもの.
2.モータのみで動き,スイッチ操作で制御できるもの.
3.遠隔操縦ができるもの. 脇可猷片
このような理由から,キャスター付ホイストの台車に脱 着可能な形の全方向移動機構1)を取り付ける.遠隔操縦の ためにはセンサーとコントローラーを取り付けることがで きる.被介護者が装置ごと移動する場合には抱き機固定装 置を使って安定にする.
図3に吊り具付き抱き機の基本機構を示す.これは,本 体に股可動片,脇可動片,肩可動片を連動して動作するよ うに設置し,吊り具をレバーとしてこの可動片の開閉を行 い被介護者を抱いた時点でロックして吊り上げる.さらに 股可動片はクラッチ機構で駆動軸と連結されており用便時 には吊り具の動きと別に駆動できるようにしておく.また 脇可動片には脇座設けて脇座のみで被介護者の全体重を支 えることができるようにする.
股可餉片
図3吊り具付き抱き機
,【.淫1
写真1
11「1ド ー/重 ㌔
=講1,i 薗庭
写真2
1闘L
認
写真3
一24一
介護ロボット用全方向移動形抱き上げ機の設計と試作 大 西
写真ユは抱き機を開いたときのものである.この状態で ベッドに横臥している被警護者を抱いた後に吊り上げる.
写真2は被介護者を抱くときの様子を示すものである.ま た写真3は抱き機を閉じたときである.この状態で床面を 移動できる.
3.マニピュレータの順解法と逆解法
全方向移動形抱き上げ装置は全体を一つのマニピュレー タと見なすことができる.この座標系について説明する.
座標変換には4×4変換行列を使う.3次元直交座標系で 表した位置ベクトルをrとすると,4×4変換行列Aによ って,新しい位置ベクトルr は式(1)で表される.
[1:,[i] ︵ 正︶
つまり,複数個からなるリンクについての位置ベクトルが r )なら全方向移動形抱き上げ装置の基本座標系での座 標r{o}は幾つかの局所座標系の変換行列T重を使って式
(2)で表される.DH法を使うと次のようになる.
r{O):Tir〈i) ︸
一2
回転させる.次に座標系05−x4.Y4 z4は, z軸に対して θ5回転させx軸方向に15移動する.この時間節座標系0 6−x5y5z5はz軸に対してθ6回転する.ただしθ5とθ 6の回転は連動している.最後にx軸方向に1,移動した後
にz軸に対してπ/2だけ回転させ,x軸に対してπ/2 回転させる.この座標変換により抱き機を対象物(x,y,
z,α)の位置及び姿勢に移動させることが出来る.ただ し,αは(θo一θ4)である.
表1.パラメータ表
ユ θ重 d藍 al αi
0 θo O lo 0
1 O 11 O π/2
2 θ2 0 12 0
3 一θ2 0 13 π/2
4 θ4 14 0 0
5 O 0 15 0
6 0 0 16 0
Y2
03
X2 ただし,T、は(3)式で計算する.
Tt:AlA2,,,At
︶3
一
リンクパラメータal, ds,α置, eiを表1のように決 めると,変換行列は式(4)で示すA,となる2}.
朗/l懲饗::11ゆ
3.1順解法
図4に全方向移動形抱き上げ装置の座標系を示す.台車 座標系O。一xyzのz軸をθ。回転させ,1。移動する.
次に,この座標系Orxoyozoを02へ11移動した後に z軸を手前にπ/2回転させる.そしてz軸をθ2回転さ せる.そして,03へ12移動して,z軸をθ3回転させる.
x軸方向に13移動して,さらにx軸をπ/2回させる.
このとき1,と13の腕は平行かつ水平面と垂直である.次 に座標系04−x3 y3z3をz軸に対してθ4回転させ, z 軸方向に1,移動する.次にx軸に対して,手前にπ/2
Yl,
02
1,
z
e2 Z2
o
Z4 Y3
04
Z3 Y4
1,
e,
X3
i4
e.
es
06 1,
05 X4
Y5
・7−/iAt .oT.c.p
e,
Zd Yd
Xd
図4全方向移動形抱き上げ装置の座標系
て目標とする局所座標の原点の順解法を求めると式(5)
となる.
一岬剛(・)
図5に全方向移動車輪の原理を示す.ここで駆動軸は歯 車比N,:N2の傘歯車を介して車輪に接続されている.車 輪は駆動軸とオフセットR,の距離で取り付けられており,半径R2の駆動翰が滑らかな操舵を行うためにN,/N2=
R、/R,の関係が保たれるようにする.
3.2逆解法
また,人体を抱き上げるためにはベッド上で被介護者を 抱かねばならない.この操作を自動的に行うためには逆解 法を用いなければならない.すなわち,全方向移動形抱き 上げ装置の逆解法は順解法におけるθを求めることだから 次の式(6)の方程式を解けばよい,
十「i1 一6︸
操舵軸
× 駆動軸
N2
竃 Nl
t Rl
/車輪
1
1
R2
θ3,θ6は機構の条件から決定するので,式(7),式
(8),式(14)のe2,θ4,θoを求めればよい.
図5全方向移動車輪の原理
e2 =sinMi ((12+V一 22−814 (z ・一 li 14)))/ (4 14)) (7)
e4 =ces−i ((一2 (ai−a4) (a2 一一 a3) +V (4 (a i−a4)2 (a2−a3)2
この全方向移動車輪を2つ使って図6の全方向移動機構と し,ホイストに縞合する.
4 ((ai−a4)2十as2) ((a2−a3)2−as2}))/ (2 ((ai−a4) 2
+as2}))
ai=一2 (ls+16) x
,・・ (8)
a。・(sinθ2。。s日2(一2エバ1,)÷13c。s2e,÷12G。se、+1。)x
a3・(一214sinθ、C。S駐、÷』+工、C。Sθ2÷1。)X
a4 = (ls+16) eos e2 (cos S2 一sine2) x
︸9
一
… (10)
(11)
2)
、
、
︐ l 1 6 \ ロ ターモ用舵操
一
I l 匿 墨
一
:⁝
駆動用モーター
L 一 一 .一 一 一一 .1
︐ ﹁O
一
0 − 1
一
I l I 畢! 暫
!
!
車輪
as:y (ls+16) U3) 図6全方向移動機構
e.=cos−i (x/ (一2U,十1,) eos e. +sin e,cose2 (一2, 1.一13}
+ (i,eos2e. +i,cose. +1 ,) )) ・・ (14)
移動車上の座標系を図7のようにとり,原点0から目標 点D(Xd, Yd)へ姿勢角αで誘導する場合について説明 する.移動車は常に回転運動を基本として移動するものと
一26一
介護ロボット用全方向移動形抱き上げ機の設計と試作
して,移動車の回転申心をC(X。,Y。)とすれば, Dの 座標は(15)式で表される.
id.1,h.1,h.iio,::lle.:,sg ::
Yt xo
T
口龍L
a
C (X., Y.)
] (15)
o (o, o)
D (X,, Y,)
x
図7移動車の誘導原理
全方向移動機構は2輪車で実現するので,移動車の操舵角 は図8のようになり,転倒しないようにキャスターで車体 を支持する.
大 西
f
θ
x
図8移動車の操舵角
(15>式をX。,Y。について展開すると,(16)式と
なる.
吠( sln猛1−eestt)
(16)
1 sina
¥e=¥d+Xd@T( ;1. ;1一;lcose )
また,駆動輪の操舵角(θ,:前輪操舵角,θr:後輪操舵角)
は,(17)式となる.
¥o−L2/2 et=tanmi
X.+Li/2
(17)
Yo+L2/2
θ.=しa「1
Xo 一Li /2
(L、:左右の車輪の聞隔,L2:前後の車輪の問隔)
ここで求めたθfとθ.を用いて,図7のようにCを申心と して回転移動する.その結果回転中心は, (18)式とな
る.
L2 十Lid (tanei十ta lt e.) !2 X. :
しanθr.一しan日f
(18)
L2 (ta fi er +tan ef) /2+Li tan ef tan er
Yo=
しaner一しanef
この時,駆動輪と移動車の申心の回転半径は,それぞれ
(19)式となる.
me:rf: if (Xo十Li)2十 (Ye−L2)2
後輪:rr= (Xo−Li>2+(Yo+L2)2 (19}
中心lr= x。2+Y。2
前輪の移動距離arc−aをエンコーダのカウント値より 算出すると,その時の回転角∠1αは,(20)零となる.
そして(20)式より,その時の移動量(∠X,∠Y)は,
(21)式となる.
∠jx=乳一X。Gos(∠の十込sin(∠ゴ巴)
AY=g 一Ye cos (Aa) 十X sin (Zl a)
︸
(20
トの構成図を示す.これはN社の福祉関連の訓練用機器に 搭載されているFA用マルチコントローラを用いる設計で ある.5軸駆動であり,そのうちの1軸はジョイスチック を介したカセンサーによるフィードバックを可能とする.
また,被介護者のいる環境は2台のCCDカメラで観測を することができる.
CCDカメラ信 (2系統}
その結果,移動前の移動車の座標を(X ,y ,α )とす ると,基準座標から見た移動車の座標(Xx,YY,α。)は
(22)式となる.
Xx=AX eos(ca)一A¥ sin(G)+X
Yy=zlX sin(O十AY cos(a)十Y
Ea =zfl e+a
MC
iE V?B IMsPl
〈BP> ⁝穐
〈TERM【NAI.〉
VPDB
ン 響イ
,イ7タ
センサ
(22)
高くsvP>
〈AMP> アーム駆動用(2軸)
協乾用(1紬)
左右キャスタ駆動用 2軸
そして,新しい目標(Xn, Yn,α。)は,
なる.
Xn= (X−AX) eos (Aa)+ (Y−AY) sin (Ag)
Yn=一(X一∠ゴX)si温(Aa)+(Y一∠jY}Gos(∠コ膳)
巴。・α一∠ゴ店
4.抱き上げ動作
(23)式と
(23)
介護者や,被介護者自身がリモコンスイッチを使ってモ ーターで駆動する場合の位置決めは人聞自身が行うのであ まり問題にならないが,自動化して被介護者を抱き上げる ためには,肩,胴,股を抱くのでその姿勢が判っているこ とが条件となる.そこで,2眼カメラ等によりこれらの値 が判っているものとすると,対象物となる被介護者の座標 系(x,y, z)に抱き機の座標系が一致するように装置
を移動させればよい.
全方向移動形抱き上げ装置について図4説明する.まず,
移動車の位置について,θ。の回転と1。の移動を行う.次 に装置の先端座標を12COSθ2の位置に移動させ,12 をθ2だけ傾ける.次にロックを解除しθ6を90度開く.
そうすることにより抱き機は開き,被介護者を抱ける状態 になる.つまり,θ6を90度傾ける動作と抱き機を開く 動作は,一連の動作になっている.次に抱く動作は先程開 いた動作の逆で,θ2を動かしてθ6を90度戻したらロッ クを掛ければよい.後はアームを持ち上げて,被介護者を 吊り上げる.
図9遠隔操縦の場合の構成図 5.終わりに
本研究では,全方向移動形抱き上げロボット用の抱き機 について考察した.具体的には,吊り具付き抱き機を試作 し,全方向移動機構及びホイストと組み合わせて全方向移 動形抱き上げ装置を設計した.そしてこれの関節座標系を 解析した.最近はインターネットの普及によりリモートコ ントロールでかつ,リアルタイムに動くロボティクス3》の 考え方が重要であるということが言われている.この機構 は,人体を抱くための操作が簡単であり,このリアルタイ ムリモートロボティクスに適した方法といえる.
参考文献
1)大西,橋野,申野: 全方向移動車のコンピュータ制御 ,津山高専紀要,第24号,(工986}.
2}有本:ロボットの力学と制御,朝倉書店,pp,64−67,
(1990) .
3)通産省アールキューブ研究会:アールキコ.一ブ,日刊 工業新聞社,pp.40−55,(1996).
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