一一69一
〈 研 究 ノ ー}〉
「 経 営 権 」に つ い て の 若 干 の 試 論
一 株 式 会 社 法 の 側 面 か ら
別 府 三 郎
序
1問 題 の 提 起 皿 諸 学 説 の 所 在 皿 経営権 の経 済的 側面 IV結 び に か え て
L予}
(1)
周 知 の通 り 「経 営 権 」 とい う概 念 は,そ の 不 明 確 な概 念 に拘 らず,い ろ い う な分 野 の 問 題 とな る。 こ こで の 試 論 は,現 代 株 式 会 社 法 との 関連 に おい て,い か に 理 解 され る か に 興 味 が あ る。 そ れ ゆ え に,ア プ ロ ー チ の 中 心 は
(1)末 川編 「新訂法学 辞典」(P・229)に よれ ば,企 業 は生産手段 と労働力 とか ら組 織 され るが,こ の企 業組織 を管 理 し,運 営 す る権利 と して,「 経営権 」が,現 実 に意識 され てい ることを示す。 石井教 授は 「 経 営権 とい う言葉は 労使 関係に おい て常 識的 に使われ てい るが,そ の内容が なんであ るかは かな り問題 であ る」 とさ れ る。 「しか し,そ れ が財産権 あ るいは所有権 の一機能 を意味す る場 合にお いて は,経 営 者側が 「 企業 目的 に集 約 され た財産権 の機能 」 とい うことで,そ れ に応 じた地位 ない し,機 能 を もってい る ことは疑 いをいれ ないのであ って,こ れを仮 に経営 権 とい って もよいが,法 律的には,財 産 権 ない し所 有権 の機能 の一部面」
と把 え られ るの であ る。教 授は 現在 の法律 の考 えでは所有権 とか 占有権 とか営業 権 とか 人格 権 とか を総 合 した もの を 経 営 権 とい っ て通 俗 的 な 言 葉 で使 われ て い る
よ うであ る。 石井 「 新版 商法(1)」,就 業規則 論 『 私法8号 」p・21「商 法 と労
働問題 」 「商法 におけ る基本 問題』。津 曲教授 は 「経営権 は経営 を 支配 す る権利で
あ り,所 有権 をそ の生産的機能 か らみ た概念」 と把握 され る。 経営権 とは 「所有
権 を生 産的 作用か らみ た権利で あ って,財 産法的 権利 と人格法 的権限 を包摂 した
もの」 と定 義 され る。教授 は経営 を人的,物 的,非 物質的 な三つ の要素 を統一的*
一70一
商 学 討 究 第19巻 第4号
「い か な る もの を 経 営 権 とす るか とい った そ の 内容 に 関す る定 義 の問題 」 よ り も,「 い か な る 認 識 に も とつ い て 『 経 営 権 』 を 理 解 し ょ う とす る か と い う こ と」 に 関 す る問題 に つ い ての 方 向づ け の ため の試 み で あ る。
この試 論 の直接 の 動機 は,実 方 正 雄 博 士i著 「商 法 学 総 論 」 の 中 の 「経 営 と
(z)
労 働 一 経 営権 と労 働 権 」 とい う一項 が き っか け とな った 。 博 士 の経 営権 は
「企 業 を 資本 の機 能 形態 た る生活 体 と 把 握 した場 合 の 観 念 」 と され,通 説 が 経 営 権 の 法 的構 成 に つ い て 試 み が ない の は,「 通 説 の見解 が 資本 所 有 と資本 機能 との法的分析,及 び 民法的所 有権 が 資本制企業におい て 如 何に発展 的
(り
転 化 を 遂 げ て い るか とい う点 へ の反 省 を欠 い た もの で あ る」 と指 摘 され て い
る 。
*作 用 に総合す る支配範 囲 としなが ら
,経 営 は意 思に よって統一 され ないで,構 造 的 な作用 と して統一 を保つ といわれ る。津 曲 「 経営 権 と労働権 」「 民 商法雑誌24
巻4号,25巻1号 』 。 高 田 教 授は 「経営権 は企業資 本 または 財産 の所有権 では な く,一 ・ 般 には,取 締役そ の他の会社執行機 関が,有 機的 か つ 目的追 求のため に,株 主 総会…… に起因 して保 有す る独 自の権利 とみ る」 と述べ られ る。 しか も
「そ れは株主が 保有 していた ものを 移転 した ものでは な く,そ の選 任 に よって原 始 的 に発 生 した もので,そ れは手形 や小切手 の権利 と同 じく,手 形作成者 に,ま
ず発生 し,そ れ を受 領者に移転す るものでは ない と等 しい…… この経営権 は定 款 所 定 の 目的 に沿 って運用 され るいわ ゆ る 「経常的運 営権」 であ って,企 業 自体 の 処分 な どは包含 しない ことは 当然 とすべ きであ る1と 言われ てい る。教授 は経営 権 の原始的発 生説 ともい うべ き説を 展開 され てい るので あ る。 高田源清編著 「 経 営権 の確立 」 一 労働権 との対立 一 一 。 村井教授 は 「経営権 は経営 が その本来 の 使 命 とす るところ,企 業 の 目的 とす るところであ る国民生活 の需要 を充足 す るた めの物 または便 益 の給付 とい う任務 ない し職責 を妨害 され ない とい う保障権 と
して,そ の存在 を肯定 したい」 とされ,「 経営権 は,ま さに企業 につ らな る方向 を異に した利害 の統一的 総合的受託 者 と して,受 託者 の利益 の連 帯的共存 のため の総合的権利 であ り,職 責遂行権 であ る」 と述 べてお られ る。 村井,「商法 におけ る経 営権」 「名城法学 」8巻3号 。 中村一 彦教授は,「 経営権 の法的根 拠」(1‑2)
「北陸 労研 』14,15号 では,専 門経営 者に経営権が あ る と して,通 常 の業務執 行 に関す る限 り,専 門経営 者 と して の取 締役に絶対的 な地 位 を認め る もので,業 務 執 行 の意 思 決定 に つ い て,株 主 総 会 は法 律 に よ る場 合 は 格 別,定 款 を も って も干 渉 す る ことは で きな い もの と解 す る とされ て 「経営権 の法的根拠」 を論ぜ られ て
い る。中 村 「 経営 者 の法的吟 味」「富大経済論 集」11巻3,4号,p・231。
(2)こ の拙論は 実方 博士 の 「商法学 総論⊥ 「 改 訂会社 法学"」 お よび 「 株式会社 の 法理 」「 商 法の基本問 題』,「企業 に於 け る資本所 有の問 題」「私法8号 」な どの所 論 に負 うところが 多い。
(3)実 方 「商法学 総論 」P・115〜P・118。
1経営権 」につ いての若干 の試 論(別 府)
一一71一実 方博士は経営 の意義を 「資本機能(運 動)の 法理的表現 」に求め られ,そ して
「 経 営を静的 機構的にみれ ば,土 地,建 物,機 械,原 料,商 品,無 体財 産 な どの 物 的要 素 と,人 間 の労働力 とい う人的要 素 とを,統 一 的作用,と くに生産的作 用に総 合 し,資 本 の価値増殖運動 を 可能 な ら しめ るが ため の技 術的組織 で あ る。 また,動 的 に見れば,現 実 な る企業 資本を物的,人 的要素 に具体的現 象化 し,そ の諸要 素を 利 潤造 出過程 に機能 化せ しめ,も って資本増殖運動 の循環過程 を実 現せ しめ る諸操 作の技術的 展開過 程 であ る。 企業は この経 営 を媒 介 と して,そ の企業 目的を 実現 す るもので あ り,従 って資本 運動 の経済的 生活体 と して企業を把握 す るか ぎ り,経 営 は まさに企業 の中核を なす もの」 とみ られ,「 この よ うな経営 を維 持 し,企 業 の物 的,人 的要素 を動 員結合 して現 実 の生産 を行 ない,こ の直接 の生産行 程を管理 支配 し,指 揮監督 す る ことに よって,経 営 の統一 一的機能 を保障 す る権能 乃至は権 限が外 な らぬ経営権 なので あ る。 それ は単一 な る権利 として存在 す るのではな く,経 営方 針 の決定権 や生産 手段 の処分権な ど,こ の よ うな 目的 に向け られ た権 能 の総括的 名
(4)
称 で あ る。」 と 述 べ られ る 。
ところで 申す まで もな く,「 経 営 権 問 題 」 は 労 働 法学,憲 法 学,現 代経 営 学 か らの考 察 を 含 ん だ問題 で あ る。 商 法学 で は,伝 統 的表 現 で あ る 「取 締 役 の業 務 執 行 権 」 とい う,む しろ 「経 営 権 」 の 内容 に つ い て の理 解 と して 問題' とな り,そ の 意味 で商 法 学 か らの ア プ ローチ も必 要 で あ ろ う。
本 稿 は 一 つ の試 論 に しか す ぎない が,か りに法 律 的に 保 護 に値 す る独 自の 法 益 が あ る と して,○ ○ 権 と称 して み る と,現 行 法 秩序 体 系 の 中 で,こ の
「経 営権 」 の存 在 が あ るの だ ろ うか 。 換 言す れ ぽ,法 律 上形 式 的 に 「権 利 と して の経 営権 」が 把 握 可能 か の肯 否 論 に な るだ ろ う。 しか し経 営権 とい うも の が 存 在 す るか ど うか に定説 が ない ば か りか,考 え方 す ら不 明 で あ る とい っ て よい 。 それ ゆ え法 学 上 の 論議 と して可 能 な概 念 か ど うか に つ い て,そ の取
り扱 い お よび断 定 につ いて,特 に慎 重 で なけ れ ば な らな い こ とは い うまで も な い 。
通 説 の考 え方 で は,経 営権 の法 的根 拠 は 財 産 権 ない しは所 有 権 の一 機 能 と して把 えて い る。 こ こで,法 的概 念 と して問 題 が あ る とすれ ば,事 実 問 題 と
(4)実 方,前 掲 「商法学総論」P・114〜P・118。
一72…
商 学 討 究 剃9巻 第4号
して,経 営 権概 念 が 使 わ れ てい る こ とで あ る。 特 に労 働 法学 の側 面 と して, あ るい は経 営学 の 中 枢 と して使 われ て い る こ とは,必 然 的 に 問題 意 識 に お い て,即 ち理 論構 成 の問 題 と して,経 営 権 概 念 が 潜在 して い る こ とは 否 定 で き ない 。 これ が前 掲 実 方 博 士 の指 摘 に あ る よ うに,資 本 所 有 と資本 機能 との法 的 分 離,お よび民 法 的所 有 の歴 史 的発 展 変 化 に つ い て の理 解 が 不 十 分 で あ る か ら法 的 に 問題 が 鮮 明 化 しな い のか ど うか な どに つ い て,商 法学 と して も反 省 を要 す る と ころで あ ろ う。
1問 題 の 提 起
企 業 は 歴 史 的形 態 と しては,個 人企 業 か ら共 同企 業 へ と発 展 したが,そ の 中 で,株 式 会 社 制 度が 代 表 的企 業形 態 で あ る こ とは い うまで もな い。 しか も この企 業 形 態 を規 制 す る株式 会 社 法 は,大 資 本 の調達 お よび無 個 性 的な多 数 人 の 結合 を 予定 してい る法 で あ る。そ こで 現代 に お い て株 式 会 社 法 を 如 何 に 把 え るか は,こ の企 業 の実 情 を如 何 に把 え るか であ り,実 情 の認 識 に つ い て 帰着 す る問題 で あ る こ とは い うまで もない 。
必 然 的 に,企 業 を め ぐる紛争 が,資 本所 有 者,経 営 者,労 働 者,労 働 組 合
等 の各 権 利 義務 を め ぐる問題 と して展 開 され る。特 に,経 営 者 の特権 は一 体
複 雑 な法 律 関 係 の中 で,如 何 な る地 位 を 占め てい るか,あ るいは 労働 組 合 の
権 利(団 体 交 渉権)は,何 処 に 地 位 を 占め るべ きか な ど,権 利 の 帰属 の理 由
如 何 は,紛 争 処理 に 重大 な問 題 を提 起 す る こ と もい うまで もない 。そ の意 味
で,個 人企 業 で も会 社 企 業 で も,使 用 老 と被 使 用 者,資 本 提 供 者 と経 営 者 と
労 働 者,企 業 の利 益 と 消費 者 の利 益 等 の対 立 は 企 業 を 中心 と して 展 開 され
る。 「これ らの利 害 関 係 を 整序 す る統 一 的原 理 が 何 で あ るか,ま た いず れ の
利 益 が優 先 的 で あ るか,と い うこ とは 時代 的 あ るい は イ デ オ ロギ ー的 に 異 な
るの で あ るが,法 規 は この 問 題 に 関 す る立 法 者 の 考 え方 の 表 現 と認 め られ
る。 即 ち法 規 は 各種 の利 益 に 関す るそ れ ぞれ の 時代 の評価 であ り,あ る意 味
では 利 益 の 一応 の調 和 点 で あ る。 従 っ て法規 そ の もの,あ るい は そ の解 釈 が
1経 営権」に ついて の若 干の試 論(別 府)
一73一ル ーズ で あ れ ば,利 益 の調 和 な り均 衡 関 係 が そ れ だ け害 され,一 方 の 不利 益
くの
に お い て他 方 が そ れ だ け利 得す る こ とに あ る」 と思 うの で あ る。
一 般 に 組織 は客 観 的 な存 在 と して ,複 雑 な利 害 関係 の 中心 とな る し,組 織 の 特 色 は,ま さに この利 害 関係 の複 雑 性,多 様 性,重 層 性 を もつ と理 解 され る。組 織 法 と して,株 式 会 社 法 では,組 織 が権 利 義 務 の 集 合 を超 え る統 一 体 で あ るが ゆ えに,法 的地 位 とい う観 念 の果 す 役 割 を 重視 しな けれ ぽ な らな い こ とに な る。 ところが 法 が い か に対 処 して い るか とい う観 点 か らみ る と,使 用 者 と被 使 用 者,資 本提 供 者 と経 営 者,企 業 的 利 益 と消費 者 的 利 益 とい った 各 利 害 関 係 が会 社 法 と労 働 法 あ るい は経 済 法 に お い て,十 分 に 調 整 され て い るか は 必ず し も明 らか で は な い。 た とえば企 業 の 合併 をみ る と,合 併 に おけ る 「包 括 的 当然 承 継 」 とい う法 的 性 質 に つ い て,資 本 の側 面 か らだ け では な く労 働 の側 面 か らの法律 上 の対 処 が問題 で あ る し,さ らに解 散 会 社 の一 切 の ものに つ き何 等 の留 保 を 許す こ とな く承 継 され るはず の 内容 が,合 併期 日ま で に は労 働 関 係 を解 消 す る 旨が締 結 され た りして い る。 この こ とにつ き商 法 理 論か らの ア プ ローチ も問題 が あ る し,合 併 は包 括 承 継 と され,株 主 お よび 会 社 債 権 者 に は 保 護手 続 が決 定 され な が ら労 働 関 係 は 保 護規 定 か ら取 り残 さ
くの
れ て い る とい っ て よ い 。
くア
と こ ろ で 富 山 教 授 の 指 摘 に よ れ ば,巨 大 企 業 の 社 会 性,公 共 性 な どの 一 連 の イ デ オ ロギ ー は 独 占 資 本 の 形 成 と そ の 運 動 の 結 果,い まや 古 典 的 な 私 法 の 原 理 に よ っ て は 解 決 が つ か な い し,さ ま ざ ま な 異 質 の 利 益 の 対 抗 関 係 は 大 企 業 を め ぐ っ て 展 開 され て き た 。 そ して さ ま ざ ま な諸 利 益 を 包 摂 し,か つ これ を 超 え る 「全 体 利 益 」 の 「体 現 者 」 と して 大 企 業 の 社 会 性,公 共 性 が 主 張 さ れ る の は,こ れ ら の 異 質 の 利 益 の 対 抗 を,あ る い は 社 会 性,公 共 性 を 軸 と し (5)服 部 「組織法 お よび組織行為 について」 「 現 代商法学 の諸 問題」p・469〜p・47C}。
⑥ 「 企 業合 同 と労使 関係」(日 本労働法学会 誌29号)。
(7)富 山 「独 占資本 と法 の理論 」「 現 代法 と経済 」(現 代法7)P・72,p・73,p・81註
⑫1)。
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商 学 討 究 第19巻 第4号
てそ の調 整 をは か り,あ るい は社 会 性,公 共 性 の なか に解 消す る ことに な っ た の で あ り,「 経 営 権 」 とい う思 想 の背 景 も 同 じよ うな認 識が あ る こ とを指 摘 され る。 さ らに 歴 史 的 に は 「巨大 資本 の 運 動 が つ く りだ す 矛 盾 は,私 法 の 次 元 に お い て は解 決 で きない 」 とい う段 階 に 置 か れ て い る こ と も認 識 され て
い るo
経 営権概 念が企業の 巨大化 とと もに,経 営者の社会的責任が 叫ばれ る現代
(8)
では,こ の概 念 は 単 な る私 有 財産 権 の下 では 説 明 しえ な い 内容 の もの に な っ てい るのか,即 ち経 営権 の法 的根 拠 を所 有権 の機 能 に求 め る ことで説 明 で き る のか ど うか,私 法 理 論 で は説 明 で きない ほ ど現 代 の次 元 は変 わ って い るの か 。 さ らに営 利 法 人制 度 の基 盤 を なす いわ ゆ る株 主 の所 有 権 的 機 能 は ど うな っ て い る の か,「 所 有 と経 営 の 分 離 」 に よ っ て 表 面 化 した 「経 営 」 と い う概 念 は,経 営 の独 自性 の 主 張 と と もに(経 営 者 支 配),一 方 では 株 主 の み な ら ず 会 社 債 権 者,労 働 者,消 費 者 の各 利 益 を考 え る と,経 営者 の 責任 とか,企 業 の社 会 性 公 共 性 の 問題 に いか に 連 結 してい くべ き もの な の か,企 業 自体 の 思 想 の真 意 は ど うか,現 行 法 上 株 式 会社 法 に おけ る社 員権 の 内容 は いか に 解 す る の か 。 さ らに,い わ ゆ る経 営 監 督 権 な る も の を い か に 理 解 して い くか 。 そ
こに おいて取締役 の経常的業務 執行 権に関す る経営権は,結 局法律上は取 締
役 の 任 免 権 を 株 主 総 会 が 保 持 し て い る こ とか ら,所 有 と経 営 の 分 離 は あ りえ (8)た とえば,ジ ョー ジ ・ゴイダー著,喜 多了裕訳 『 第 三の企業体制 」は大企業 の
社会的 責任 論を展開 し,社 会におけ る会社 の役割や資 本の酵 出者 と労働 の酵 出者 との間 の関係を,根 本的 に再評価 しなけれ ばな らないほ ど,事 業が 変化 してい る 旨を述べ てい る(P・27)。 西原博士 に よれ ば 「株式会 社は,た だ資本家 の利 潤追 求 の場 とい うだけで な く,そ こに国民 の財産 が蓄積 ・管理 され,多 数 の者の職場 と して,所 得 の源 泉 を供 し,少 数資本 家 も入 り,さ らに労務 者 も入 り,そ の うえ 会 社 と取 引す る債 権者や一般 国民大衆 も参加 して国民経 済的 職能 の重要 な分担 者 とな るのであ る。 そ こに株式会社 の社会的 ・公 共的性格が あ る。 従 って資 本の面 におけ る多数 決原理 は,企 業 の この社会性 ・公 共性にそ の限 界が あ るとみ なけれ ば な らない」 とされ る。 西原著 「 商事 法研 究」 第二巻,Pl25〜P・127。 平井泰 太 郎編 「経営学事典 」(P・53)に よれば,い わ ゆ る 「 所 有 と経営 の分離」が行 な われ た段階に おいて,わ れわれが 注 目すべ き現 象は,マ ネ ジメ ン トの プロフェ ッ
シ ・ン化で あ り,マ ネ ジメ ン トの社会 的 責任 といわれ るところで あ る。
「 経営権」 につい ての若 干 の試 論(別 府)
一75一な い のか 。 さ らに 問題 は株 式 会 社 組織 に お い て,取 締 役 の選 任権 を株 主(社 員)の み が もつ特 有 な もの であ る とす る現 行 法 の建 前 が再 検討 され るべ き時 期 な のか ど うか 等 の 問題 が あ る。 この よ うな多 くの経 営権 問題 は,法 理 論 に
重要 な 問題 を提 起 す る もの で あ る と思 わ れ る。
な お こ こで注意 を要 す る こ とは,歴 史 的 に株 式 会 社 法 の構 造 を如 何 に み る
く
か は,実 方 博 士 が適 切 に指 摘 され た よ うに,商 法 は 歴 史 的 性格 と しては 資 本 法 なの で あ る とい う認 識 か らは じめ なけ れ ぽ な らな い と思 うの であ る。 即 ち 近 代 商 法 は,産 業 資本 を中軸 と して発 展 した近 代 資 本主 義 精 神 の端 的 で直 戴 な法 理 的表 現 で あ り,産 業 資 本 の支 配 に 伴 な う新経 済秩 序 に直接 密 着 す る実 用 体 系 で あ る こ とを示 す もので あ り,従 経 済 法則 性,ま た は従 資 本 運 動 法 則 性 とい う近 代 商 法 の歴 史 的 性格 を物 語 っ て い る ことを再 認 識 しなけ れ ば な ら
ない と思 うの で あ る。 即 ち資 本 の所 有 構 造 の歴 史 的発 展 の集 約 的表 現 で あ る 現代 企 業 一株 式 会 社 に つ い て それ を規 整 す る法 は,市 民 の経 済 活 動 を 保 障 す る体 系 と して 「従 経 済 法 則 性 」 また は 「従 資 本 運 動法 則 性 た る歴 史 的 性格 」 を もって い る。 ま さに実 方 博 士 が 会 社 法 を 「資本 の た め の法 」 と して 運命 づ け られ る よ うに,認 識 の対 象 た る企 業 は あ くまで,私 的 所 有 に立 脚 し,資 本 の運 動 法 則 に規 律 され るの で は な いだ ろ うか 。
こ こに 資本 所 有 と資 本機 能(運 動)の 法 的 分 析 が 問題 とされ,経 営権 の 問 題 はそ の 資本 機 能(運 動)の 問題 と して究 明 しよ うとす る方 向が あ るの で あ ろ う。 そ して この よ うな考 え方 は 一 一体近 代 株 式会 社 の高 度 な発 展 の契 機 とな
った 資本 所 有 と資 本 機 能 との 分離 とい う事 実 か ら,資 本 所 有 と資 本機 能(運 動)と の法 的分 析 は い か に な され るか,株 式会 社 の高 度 化 に つ れ,資 本 か ら 独 立 した 「経 営 そ れ 自体 」 とい う概 念 が 析 出 され るのか とい うこ とへ の検 討 に な るで あ ろ う。
(9)実 方,前 掲 「商法学総論』p・11〜p・14。 「経済秩序 の進展 と経済法の生成」「法
学雑誌」第9巻3.4号,合 併号,p・306〜p・307。
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商 ぜきとri寸 究 第19巻 第4f""
周 知 の通 り,商 法 で は労 働 の側 面 を企業 の生 産過 程か ら捨 象 して取 り扱 っ て い るが,企 業 を め ぐって展 開 され る紛争 は,資 本 の側 面 だ け で な く,企 業 に おけ る労 働 の側 面 との関 連 に お い て全 面 的(立 体 的)に 関連 す る。具 体 的 事 実 に 着 目す る と,現 代 商 法 規 範 の大 部分 が特 別 法 であ る経 済 法 を は じめ 労 働 法,「 企 業 を め ぐる法 」(社 会 法 を含 む)を 通 して機 能 して い るの であ る。
株 式 会 社 の 合併,営 業 譲 渡,擬 装 解散 な どはそ の例 証 とな るの で あ って,そ の意 味 で企 業 自体 の理 論,企 業 の社 会性,公 共 性 の理 論 な どは,む しろ資 本
(tO
の 利 益 に従 ってそ の範 囲 内で機 能 して い る と も把 え られ るの で あ る。 経 営 権 の 理 論 も資本 の利 益 の側 面 に則 って み る とそ の性格 を 伺 うこ とが で き る し, 現行 商 法 一企 業 法 は,現 代 の 資本 主 義 的企 業 に つ い て全 面 的 立 体 的 に機 能 し て い る もの では ない ことを知 るの で あ る。
皿 諸 学 説 の 所 在
と ころ で,問 題 の状 況 を 知 る意 味 に お い て 得 る こ とが で きた 資料 か ら,
「経 営権 」 を め ぐる問 題 に つ い て 如何 な る こ とが 試 み られ て い るか を種 々の
(11)
観 点 か ら 考 え て み た い 。 株 式 会 社 法 の 研 究 に お い て 意 識 す る と 否 と に 拘 ら ず,い わ ゆ る 「所 有 と経 営 の 分 離 」 の 問 題 が 展 開 され る 。 株 式 会 社 の 経 営 的 実 態 を 明 確 に 認 識 す る た め に は 「所 有 と経 営 な い し支 配 」 の 意 味 内 容 の 不 明
⑩ 池 島 「現代 商法 におけ る企業 と資 本 の法的構i造」「 法 律時報 』38巻1号,P・64。
(1D坂 口 「 経 営権 の経済 的性格」「 経営 と経 済』54号,p・16〜p・28。 大 河内 「経営 権 と労働 権一 労働者 の経営参加 につい て」「 経 営権 団交 権 を め ぐ る 諸 問 題」
p・16以 下。 馬場克 三 「個別資 本 と経営技術 』P・232以 下。片 岡 「 労働 者権 と経 営 権 』p・107〜p・108。 片 岡教 授は,基 本的には.使 用者 の所有権 ない しは財産 権 と して考 察 すれ ば 足 り,経 営 権=排 他 的 特 権 に よ って,規 律 され る もの で は な い とされ る。村 本福松 「 経営権 論」「 商大 論集」第1号,p・27。 「取締 役会 と経 営 権 」,「新 会社法 と会 社経営」P・138以 下。 山本安 次郎 「 経営権 の経営理 論 序 説」
「彦根論叢 」75号,P・19。 法律的,経 済的,技 術的,政 治的 内容 を有す る経営 者
の権 能 と機能,こ れ に対す る労働組合 の攻勢 に関す る問題 につ いては,N・ チ ェ
ソバ レン著,浜 野末太 郎訳 「経営 に対 す る組合 の挑 戦」 。
「 経 営権」 につい ての若 干の試論(別 府)
一77‑一 一・一(12)
確 さか ら抜 け 出す よ うに努 め なけ れ ば な らな い。 こ こに は,企 業 の経 済 的 実 情 の認 識 が 重 要 で あ る と ともに,経 営的 実 態 に つ い て の 認 識 の 困 難性 もあ る。従 って 「経 営権 」 と 「所 有 と経 営 の分 離 」 の 問題 と して は,そ の結 びつ きを如 何 に解 す るか は諸 説 の一 致 が あ るわ け で は な い。 「所 有 と経 営 の 分離 」 肯定 論,否 定 論 が 展 開 され るの で あ る。一 般 的 問 題 と して は,企 業 に おけ る 所 有 と経 営 の 分離 の 傾 向 を認 めれ ば,法 お よび 法学 の在 り方 もそ れ に従 って
(13)
変 化 す る か ど うか と い う こ と に な ろ う。
問 題 は 企 業 を め ぐる所 有,経 営,労 働 に つ い て考 察 して い く基 本 的 前提 と して,一 体,「 経 営 権 」 が 構 成 で き る の だ ろ うか 。 商 法 的 に は 「企 業 」 は そ の生 産 過 程 か ら 「労 働 」 の側 面 は捨 象 され て存 在 してい る の であ り,資 本 法 と して の商 法 は 「労 働 」 の 商 品化 を 前提 と して 成 り立 つ もの と 思 うの で あ る。 一 方 「経 営 は そ の現 時 に お い て有 す る歴 史 的実 践 的 意 義 に着 目す る と き は,企 業 との 関連 に お い て,そ の生 命 を全 うして い る実 体 に外 な らず,経 営 概 念 の確 定 は,企 業 概 念 そ の ものの確 定 の た め に は,直 接 前 提 とな る もの で
(14)
は な い」 とい う見 解 もあ る。 こ こに 「経 営 の法 的性 格 」 に つ い て の 問題 の側
(15)
面 が あ る 。
(12)「 現 代 法 と企 業 」(現代 法9)p・60以 下,北 沢 教 授 の 「株 式 会 社 の 所 有 ・経 営 。支 配 」 の 所 論 。 い わ ゆ る 「所 有 者 支 配 」,「少 数 者 支 配 」,「経 営 者 支 配 」,あ る い は
「金 融 者 支 配 」,「金 融 資 本(コ ン ツ ェ ル ン)支 配 」,ま た は 「債 権 者 に よ る 支 配 」,
「従 業 員 に よ る 支 配 」,「 国 家 に よ る 支 配 」 が い わ れ る 。 宮 川 「株 式 会 社 の 法 的 構 造 と 「所 有 と経 営 な い し支 配 の 分 離 」 命 題 」 「法 学 雑 誌 」9巻3,4号,P・392以
下 。福 岡 「い わ ゆ る所 有 と経 営 の 分 離 観 の 検 討 」「青 山 法 学 論 集 」2巻2号,p・133 以 下 。 富 山 「所 有 と経 営 の 論 理 的 矛 盾 と そ の 発 展 」 「立 命 館 法 学 」29,30合 併 号, P・433〜P・434。 渡 辺 洋 三 「近 代 市 民 法 の 変 動 と問 題 」「現 代 法 の 展 開 」(現 代 法1),
p.82〜p.840
㈹ 経 営権問 題 と 「所有 と経 営 の分離」 の 命題の 結 びつ きに つ いては,中 村一彦
「経営権 の法的性格 」「 北 陸 労 研 」14号,15号 。 中村 助教 授は 「所有 と経 営 の分 離 」 の観点 か らの 「経営」 の 独 自性 と 「経営 権」 の 法概念 を 構成 され る。 中村
「社 員権 か らの支 配 的 権 利 の分 離 お よび 社 員 資 格 と機 関 資 格 の分 離 」「現 代 商 法 学 の諸問題 」P・299以 下。
(14)西 原 「 企 業の経 済的意 義∫経済学 雑誌」17巻5,6号,P・34。
㈲ 商業=企 業 法論 が商法典論 にな らないために,経 営 概念につ いて,も っ と関心
を もつべ きであろ う。固定 しやすい法理 に対 して弾力性 を与え る化学 済にな るか
も しれな い。吉永 「企業経営 の法形 態 と経済形 態」「 経 営法学全集,企 業 形 態 』
p・13。村 井 「商法 におけ る経営権 」「 名城法 学」8巻3号,p・10。
一78一
商 学 討 究 第10巻 第4号
と ころで,株 式 会 社 は企 業 の所 有 と経 営 が 原 則 と して分離 し,株 主 が企 業 を所 有 し,取 締 役 が 企 業 を経 営 す る とい う意 味 で,現 代株 式会 社 法 に おけ る
「所 有 と経 営 の分離 」 論 が 展 開 され てい る。 そ して 「所 有 と経 営 の分 離 」 は 株 主 の意 向にか か わ る こ とな く,「 経 営 者 」 の地 位 を恒 久化 し,経 営 者 と株 主 との間 の利 害 は益 々相反 す る もの と理 解 され てい る。 法理 的 に は,善 管 注 意 義 務,忠 実 義 務(商254条3項,254条 の2)と して,取 締 役 の行 為 準 則 規定 の 一 般 的基 準 が 問 題 に され る と こ ろで あ る。 この 義務 は株 主 に対 す る受 託 者 の義 務 か,信 託 受 託 者 の 義 務 か に つ い て多 くの議 論 が あ るが,こ こで は
そ の こ とは さて お き,一 定 の 法 的 関係 に基 づ い て,経 営 者 の地 位 が株 主(所 有 者)か ら与 え られ る こ とを 留意 す れ ぽ よい だ ろ う。 そ れ ゆ え に,株 主 利 益 の優 先 の た めに 行 使 す べ き義 務 が 決定 され てい るの で あ る。 そ して株 主 との 法 的 関 係 に 基づ い て,法 律,定 款 そ の他 に別 段 の留 保 が な い か ぎ り,経 営 者 は所 有権 に伴 な うす べ て の権利,権 能,特 典 を 行 使 す る こ とが で き る もの と 一 般 に理 解 され る。
さ て経 営 者 の存 在 は,株 主 の利 益 以 上 の ものを 代 表 して い るの だ とい う見
く の
解 が あ る。経 営 者 の広 範 な社 会 的責 任 論 の展 開が な され て い るが,こ れ は, 現 代 の 「株 式会 社 観 」 を 如 何 に把 え るか に直接 関 連 す る もの と思わ れ る。 即
ち 「株 式 会 社 は一 度設 立 され る と,そ れ は 自己 価 値 の発 現 と高 揚 の た め遭 進 す る。 そ れ は 内部 に お い て多 数 労 働 者 のた め に賃 金 の場 を提 供 し,外 部 に対 して は製 品 あ るい は サ ー ヴ ィスを与 え,単 な る営 利 目的 を 超 越 した 国民 経 営
くの
発 展 の た め 社 会 的 使 用 」 を 強 調 され た り,「 企 業 は 出 資 者,使 用 人,需 要 会
㈹ 株 式会社 の専 門経営 者を 前提 と して,そ の経営 権の基礎 を資本所有 者か らの信 託 に見,そ こに経営 者責任を説 き,そ の責任遂行 上,労 働 の侵入を許 さず,団 体 交 渉を必要 としない経営者 の排 他的,経 営権 を主張 しよ うとす る見解,そ して経 営者 は一次的 には株 主に対 して責任を もつが,同 時 に彼 は事 業 の従業 員に対 して も,ま た社会 に対 して も,さ らにそ の製 品の消費 者 に対 して も責任 を もつ とい う 見解 。
㈲ 高田 「演習株 式会 社法 」P・14。
「経 営 権 」 に つ い て の 若 干 の 試 論(別 府)‑79一
くゆ
社 な らび に経 営 者 とい う四 つ の当 事 者 の結 合 関係 」 とい われ る もの であ る。
こ うした考 え の も とに 「経 営権 」 の 認識 が な され てい る場 合 が あ る。
さ らに経 営 は 資本 の保 護,雇 用 の安 定 拡 充,消 費 者 へ の責 任,国 そ の 他 の 活 動 資 源 の増 減,企 業 の再 発 展 に対 す る責 任 とい った極 め て大 きな役 割 を も つ 一 種 の パ プ リックオ ーガ ンな の であ って,資 本 所 有及 び労 働 の 双方 か ら独 立 しつ つ,両 者 の 恣意,利 己 的 要 求 を調 整 し,両 者 を協 力 させ る こ とに よっ
く
て 国民 の 生 活 水準 の 向上 に 奉仕 す る地 位 を 認 め られ る と 説 く見 解 もあ る。
「経 営 権 」 を 憲法 上 保 障す べ し とか,公 共 の福 祉 のた め に 「企 業 それ 自体 」 と して保 障 し,保 護 す る とい う 原則 を憲 法 上,加 え ては ど うか の見 解 もあ る。 これ な どは,「 現代 の 日本 の国 家独 占資本 主 義 経 済 下 に お い て は,問 わ
く の
ず 語 らず して 巨大 資本 の育 成,擁 護 へ の傾斜 」 を物 語 る であ ろ う。
経 営学 的 に は 「資本 」 と 「労 働 」 と い うよ り,「 経 営 」 と 「労 働 」 とい う こ と,即 ち 「資本 の責 任 」 とい う言葉 は 「資 本 の 権利 」 と と もに消 滅 した と
考 え て,そ の 代 り 「 経 営 の 責 任 」 「経 営 権 」 と い う こ と を 主 張 す る説 もあ る 。 これ は 「経 営 理 論 」(Managerialtheory)と し て,所 有 と経 営 の 分 離 の 形 式 的 分 離 で は な くて,実 質 的 分 離 の 事 実 つ ま り 「経 営 」 の 成 立 の事 実 を 認 め た 上 で の 「経 営 権 」 を 問 題 に して い る 見 解 で あ ろ う。 伝 統 的 に は,残 余 理 論 (theresidualtheory),信 託 理 論(thetrusteeshiptheory)の 下 で,経 営
くゆ
権 の 根 拠 論(所 有権 と経営 権 の関係)が 展 開 され る よ うで あ る 。 そ して 「経 営 そ れ 自体 」 の成 立 が 所 有 権 か ら分 離 され,経 営 自 体 の 存 在 を 出 現 させ た と し て,漸 次 現 代 法 的 な 批 判 と 基 礎 づ け に 耐 え う る も の と な りつ つ あ る とす る
(18)村 井,前 掲論文,p.7。
㈲ 憲法 調査会 におけ る日経 連 の意見 「 憲 法運用 の 実際」『法律時報臨時 増刊号 」 p.174〜p.176。
⑳ 憲法調査会総批判 「憲法改正問題 の 本質』(鈴 木安蔵 教授 還暦祝賀 論文集)
p.50〜p.510
ω 山 本,前 掲 論 文,「 彦 根 論 叢 」75号,p・15。 経 営 学 の 経 済 的 制 と し 度 て の 「経 営 」 に つ い て は 「経 営 法 学 ジ ャ ー ナ ルNo.14」P・39以 下 。
ω 藻 利 重 隆 編 「労 務 管 理 』p・295以 下 。
一80一 商 学 討 究 第19巻 第4号
く
見解 もあ る。
経 営 を技 術 的 組 織 体 と して捉 え,そ の組織 づ け の た め に権 力的 契 機 を 必 要 とす る前提 に立 ちな が ら,労 働 者 の 生存 権 確 保 の要 請 を み た す た め に,こ の 経 営 を組 織 化 す るた め の権 力 を事 実 上 の 関 係 と して放 置 す る こ とな く,積 極 的 に法 律 的 な権 能 と して肯 定 し,こ れ に対 して必 要 な法 的 規 整 を 加 え よ うと
す る見解 もあ る。 これ は,「 一 方 にお い て経 営 の諸 構 成 要 素 の総 合 的調 整 と 統 一 的 組織 化 のた めの 権 力 的契 機 と して 「経 営 権 」 を 理 解 す る 意味 に おい て,所 有 権 の機 能 概念 と して の経 営 権 理 論 に共 通 す る もの を もちな が ら,他 方 に お い て労 働 対 資本 の対 立 とい う基 本 的事 実 を前提 と しつ つ 労働 者 の 生存 権 確保 の要 請 に基 づ く経 営権 の 内在 的制 約 を不 可 避 的 要 請 と して認 め る点 に
くヱの
特 質 が あ る」 と指 摘 され て い る。
さ らに 資本 と労 働 に は,そ れ ぞれ経 営 が 顧 慮 しなけ れ ば な らな い 平均 利 潤 の 保証,労 働 者 の 生活 とそ の 向上 の 保証 が存 在 し,こ の た め に経 営 に対 し所 有権 的 要 求 や 勢 働権 的 行 動 に 出 る ことの権 利 が認 め られ るが,こ の こ とは経 営す る こ と 自体 で は な く,ま た か か る要 求 の調 節 が 経 営 で もな く,そ うした 要 求 を は らむ 生 産要 素 の均 衡 化 せ られ た機 能 の組 織 体 を 通 じて,重 大 な る人 生 目的 を達成 す る と ころ に経 営を 主 体 化 し,経 営権 を所 有権,労 働 権 の上 に 認 め る意 味 が あ るの で あ って,か か る経 営 の独 立 主 体 性 の 確 保 で あ って,所
有権 や 労 働 権 は確 保せ られ る とす る もの で あ り,も し この 経 営 権 の確 立 な き 時 は所 有 権 が労 働 権 に よ り或 は反 対 に労 働 権 が所 有 権 に よ り侵 害 を 受け る こ
く
と な きを 保 し難 い と い う見 解 も あ る 。
と こ ろ で,経 営 を い か に み る か,そ の 性 格 を ど う把 え る べ き か に つ い て は 全 く確 信 は な い が,も し民 法 的 「所 有 権 」 が 分 裂 し て,「 経 営 権 」 と し て 経 営 者 に 信 託 され た と仮 定 して み る と,そ の 「経 営 権 」 が 「物 」 に 及 ぶ こ とは
㈱ 村 本 「 取 締役会 と経営権 」「新会社法 と会 社経営 」p・138以 下 。
⑳飼 片 岡,前 掲書,P・108以 下。
㈱ 村本,前 掲論文。
「 経営 権」に ついて の若干 の試 論(別 府)
一81一問題 ない と して も,「 人 」 に及 ぶか を疑 問 に す る見解 が あ る。 即 ち 「人 事権 」 といわ れ て い る もの(企 業 者 が 労 働 者 を 雇 用 し,労 務 指 揮 をな し,配 置転 換 を なす,あ るいは 解 雇 す る権 利)は,所 有 権(財 産権)の 本 来 的 内容 とは 異
くヨ
な る とい うの であ る。石 井 教 授 に よれ ば,財 産権 本 来 の機 能 か ら来 る使 用 者 の権 限 と,労 働 と所 有権(財 産 権)が 結 合 す る こ とを契 機(合 意)と して使 用者 に認 め られ てい る機 能 を 一・ 括 して 「経 営権 」 とい う言葉 で呼 ぶ こ とは 妥 当 では な い とい うの で あ る。 しか し,企 業 に おけ る経 営 とい うこ とは,「 物 的要 素 」 と 「人 的 要 素 」 とを 結合 して 価 値 の増 殖 を 計 る とい う こ とで あ ろ う。 そ れ ゆ え に,企 業 は経 営 され る こ とに よ っ て利 潤 を生 む の で あ る と理 解 され る。 換 言 す れ ば 、 経 営 は 資 本 運動 の側 面 か ら考 え る と,「 経 営 権 」 は 資 本 運 動 過 程 に おけ る現 象形 態 で あ る とい い うるで あ ろ う。物 的 生産 手 段 や 商 品 に対 す る使 用 処 分 の権 利 や,労 働 市場 で 雇 入 れ た 賃労 働 を指 揮 す る権 限 で あ り,そ れ は企 業 者 な い しは経 営 者 に帰 属 す る とい うことに な るの で は なか ろ うか 。 この意 味 で 「人事 権 」 を経 営権 と呼 ぶ の は 適 当 では な い とい う見 解 は,企 業 に お け る所 有 と経 営 に つ い ての認 識が 不 足 してい るの で は な いか と 思 う。独 自の地 位 が認 め られ た 「経 営権 」 が企 業 収 益 の増 大 を期 待 す る こ と が 一般 的 傾 向 で あ る といわ れ る。 なぜ そ の傾 向が あ るか は,資 本 再 生 産 運 動
と しての 資本 運動 の 自律 性,換 言す れ ば,経 営 の独 立性 が 保 障 され て い るか らで あ る。 つ ま り 「資本 の法 」 と しての株 式 会 社 法 は,私 的所 有 と資本 運動
く
の 法 形 態 と して 存 在 し,経 営 権 の所 在 も,「 資 本 と して の 経 営 権 」 の 性 格 を 有 す るの で は な か ろ うか 。 そ れ ゆ え に 経 営 権 概 念 の 構 成 は 人 と物 を 処 分 す る と い う概 念 と して,し か も民 法 的 「所 有 権 」 と は,側 面 を 異 に して存 在 す る の で は な い だ ろ うか 。
と こ ろ で 実 方 博 士 は 株 式 会 社 法 に 於 け る 「資 本 の 規 整 」 を 三 つ の 角 度 か
⑳ 石井,前 掲論文 「商法の基本問 題」p.194。
㈱ た とえば,馬 場,前 掲書,P・232以 下。
一82一
商 学 討 究 第19巻 第4号
ら,法 的 規整 の対 象 とされ る。 第 一 は株 式 会社 企 業 の物 的 基 礎 とい う角度 が ら企 業 資本 の形 成,調 達,充 実,維 持,計 算 書類 に お け る資本 構 成,企 業 財 産 の評価 の 問題 と して,第 二 は企 業 資本 の再 生 産 運 動 とい う側 面か ら,資 本 機 能 な い し資 本 運動 の 問題 と して,第 三 は資 本所 有 の問題 と して法 的規 整 の
対 象 とされ て い る こ とを 説 かれ る。 そ して,商 法 に お け る 資本 所 有 の問 題 は,民 法 的 所 有 関 係 が企 業 生 活 体 の生成 を媒 介 と して,ど の よ うな変 質 を遂 げ て い るか とい う問題 と して把 握 せ られ るべ きだ と され,株 式 会 社 に お け る 資 本所 有 の特 色 は 「法 人 た る会 社 の 個人 的 所 有 」 と 「株 主 の観 念 的 間接 的所
有 」 に分 裂 してい る こ とに あ る と展 開 され る。企 業 資 本 は会 社 の 個人 的所 有 の対 象 とせ られ る こ とに よっ て,そ の増 殖 運 動 の統 一 的 継続 性 が確 保 せ られ
ロ
てい る と説 かれ るの で あ る。
また 「資本 運 動 」 とは,資 本再 生 産 運動 の側 面 と して把 え られ るが,資 本 の 資 本 た る本 質 は 自己 増 殖 運 動 の中 に あ るの だか ら,個 別 資 本 の 自己増 殖 運 動 は,具 体 的,現 実 的 に これ を 媒 介す る諸 操 作 を 営む 人 格 者 が 必 要 で あ る と
され,商 法 は 資 本 運動 の現 実 的 担 当 者 に即 して,こ の問 題 に接 触 して い る と 説 か れ る。 即 ち,生 産 過 程 に 於 け る指 導 的諸 操 作,流 通 過 程 に於 け る表現 的
諸 操 作,一 般 的 に 言 って,利 潤 追 求 活 動上 の 計 画,決 定,執 行 と言 った よ う な 資本 運 動 の担 当 者,即 ち 「企 業 者 」 ない し 「経 営者 」 が これ に外 な らな い
く ラ
と言 わ れ る。結 局 は,資 本 所 有 と資本 運 動 の 分離 は 「資 本 所 有 の諸 機 能 を媒 介す べ き人 格 者 と して の 『資本 所 有 者 』 と,資 本 運動 の現 実 的 担 当 者 た る企
くゆ
業 者 乃 至 は 経 営 者 と の 制 度 上 の 分 離,及 び後 者 の 自律 性 の 強 化 」 で あ る と 言 わ れ る の で あ る 。 資 本 所 有 者 は 形 式 的 に は 「法 人 た る会 社 」 そ の もの で あ る が,実 質 的 に は 自 己 資 本 特 に 会 社 資 本 に つ い て は 株 主,他 人 資 本 に つ い て は
㈲ 実方 「企 業に於け る資 本所有 の問題」「 私 法8号 」p・42以 下 。
㈲ 実方,前 掲 『私法8号 」論文,p・46以 下 。
⑳ 実方,前 掲 論文 「商 法の基 本問題」(田 中先生還暦 記念)P・255以 下。
㈱ 実方 「商法学総論 』P・84以 下。 なお,中 村,前 掲論 文,1経 営 者 の法的吟味 」。
㈱ 実方 「 改 訂会社法学 皿」P・407。
「経営権」 につ い ての若干 の試 論(別 府)
一83一社 債 権 者 そ の 他 の債 権 者 だ と言 わ れ る。 そ して株 主 総会 お よび社 債 権 者 集 会 は 資本所 有 の法 的機 構 で あ る と説 か れ,資 本 蓮 動 の担 当 者 は経 営権 の帰 属 主 体 と して の企 業 者 と,経 営権 の行 使 と して の経 営 者 とに 分 析せ られ るので あ る。法 の形 式 か らみ れ ぽ,経 営 権 の 帰 属主 体 は 「法 人 た る会社 」 で あ って, 現実 に 経 営権 を 行 使 す る 経 営 者 は 「人 格 者 と して の 業 務 機 関 担 当者 」 で あ
り,業 務 機 関は 計 算 組 織 と と もに,資 本 運 動 の法 的機 構 で あ る と説 かれ るの
く ラ
で あ る。
実 方 博士 の この分 離 論 は,株 式 会 社 が支 配 的企 業 形 態 で あ る段 階 で は 「株 式 資 本 とい う自己 資本 につ い て も現 実 にみ られ る現 象 で あ り,他 人 資 本 の形 態 た る と自己 資本 の形 態 た る とを 問わ ず 社 会 に 存 す る資 本 に つ い て一 般 的 に み とめ られ る明 白な現 象 」 で あ る とい え るで あ ろ う。 さ らに今 日の 資本 主 義 的 特 徴 が 「信用 」 に媒 介せ られ た 機構 で あ り,所 有 が経 営 を 支配 す る とい う
こ とが,い わ ゆ る 「金 融 資本 の 問題 」 と して論 ぜ られ る と こ ろで あ る。金 融 資本 論 段 階に お け る株 式 会 社 は 「信 用 」 に 「媒 介 され た 資 本 集 中 体 」 で あ る とい うこ とに な るが,株 式 会 社 の法 形 式 上 は,「 資本 制 企 業 生 活 体 の 法 的範 疇化 と して,資 本 運 動 の主 体 的統 一 性 と,資 本所 有 の永 続 性 と,企 業 活動 の
く
合 理 性 とを有 機 的 に確 保 し,保 障 す るた め の 資 本法 的技 術 」 で あ る こ とを 示 す もの と認 識 して よい で あ ろ う。
こ こで 重 大 な こ とは,「 所 有 が経 営 を従 属 させ て い る」 とい うこ との実 証
く ラ
性 の 認 識 の 問 題 で あ る。 現 代 の 株 式 会 社 と い う も の が 資 本 所 有 と資 本 機 能 の 分 離 を 現 象 と して い る と い わ れ る が,,そ れ は 資 本 所 有 者 と して の 一 般 株 主 が 企 業 経 営 に 関 与 しな い とい う意 味 で,資 本 所 有 と 資 本 運 動 の 分 離(企 業 所 有 と 企 業 経 営 の 分 離)を 言 う の で あ る 。 資 本 か ら ま っ た く分 離 さ れ た 「経 営
㈱ 実方 『改訂会 社法学 皿」P・407。
㈱ 実方,前 掲会社法学 四,P・408。
㈱ 上林貞治 郎著 「現代企 業におけ る資 本経 営 ・技 術』3頁 以下。藻 利 重 隆,「 資
本 と経営 の分離」「新会社 法 と会 社経営 』p・50以 下。
̲84̲茜 学 討 究 第19巻 第4号
くゆ
そ れ 自体}と い うこ との成 立 の証 明 で は な い ので は なか ろ うか 。
・ 富 山 教 授 の 言わ れ る通 り 「株 式 会社 に おい ては 経 営 は,株 主 一私 的所 有 の
(38)全 体 の意 思 と してあ らわ れ る株主 総会 の決 議 に従 属 す る もの とされ,所 有 が 経 営 を従 属 させ る こ とは結 局,所 有 が究 極 的 に は 生産 を,し た が って労 働 と 労 働 生産 物 を 支配 す る こ とで あ る。経 営 が所 有 に 従 属 す る こ とは,経 営 の 一 般 的 機 能 は 資本 主 義 的経 営 と しての価 値 増 殖 機 能 に 従 属 して い る とい うこ と で あ り,経 営 が所 有 の 分業 者 と して資 本機 能 を に な い,所 有 一経 営 が労 働 に 対 立 す る とい う関 係 には 何 の変 化 もな い」 とい うこ とで あ る。 換 言 す る と,
「株 式会 社 の経 営 は,企 業所 有 か ら分 離 され てい るけれ ど も,資 本 の営 利 的
の ラ
支 配 か ら質 的に 解 放 され ては い な い 」 とい うこ とで あ る。
商 法 は株 主 総 会 の 権 限 を法 また は 定 款 に 定 め る 事 項 に 限定 し,会 社 の経 営 一業 務執 行 は 取 締 役 会 が 決 定 す る とい う制 度 を とっ てい る。 株 主総 会 と取 締 役 会 の権 限 は分 配 され,両 機 関 の構 成 員 資格 は 何 等の 関連 性 もな い の で あ る。 そ して,こ こに 「資 本 増 殖 運 動 と して の経 営 に は 自律 性 が 認 め られ る」
とい え る し,取 締 役 会 が 株主 総 会 か ら経 営 活 動q決 定 権 を 奪 った こ とは,法 制 度 上,「 所 有 と経 営 の 分離 」 が な され た とい え るで あ ろ う。
と ころで,一 ・ 般 に 資本 所 有 の 近 代 的 特 質 は,物 に対 す る民 法 上 の 直接 的 な 物権 的 支 配 を越 え て,企 業 とい う経 済 的 生活 体 に対 す る 「支 配 」 とな り,更 に は企 業 を媒 介 と して経 済 関 係 や 社 会 関係 に対 して も,さ ま ざ まな支 配 関 係
くゆ
を 設 立 して い く とい わ れ る 。 こ の 「さ ま ざ ま な 支 配 関 係 」 を 如 何 に 規 律 す る か は,現 代 の 企 業 が 複 合 企 業 の 状 態 が 普 通 で あ るか ら,現 代 の 重 要 な 課 題 で
㈱ 駕 この こ とにつ いては後 日にゆず るが,こ こでは富山教授 のいわれ るよ うに, 株 式会社 におい ては所 有は 経 営 に対 す る 支配は 失 な っていない とい う 認識に立 つ 。 富 山「株 式 会 社 に お け る社会 化 の意 味 」 「 立 命 館 法 学 」35号,P・8。
㈲ 実方,前 掲論文 「 株 式会社 の 法理」p・26。 それ ゆえ 「所有 と経営 の分離」 を
「資 本 と経 営 の分 離」 と同意 義に解 してはな らない。 経営者 の基本的性格 が,資 本運動 の現 実的担 当者 であ るか ぎ り,経 営は資 本の営 利性か ら解 放 され るもので は なか ろ う。
⑳ 実方,前 掲 「企業 に於け る資 本所 有 の問 題」「 私法8号 」p・45。
1経 営権」 につ いての若 干 の試論(別 府)
一85一あ る。 しか も現実 に は,企 業 の結 合 関 係 は さま ざ まな手 段 に よっ て行 な われ て いる 。株 式所 有,役 員 派遣,融 資 そ の他 を契 機 と して,現 実 の 支 配関 係 が 行 なわ れ,益 々複 雑 化 してい る こ とは い うまで もな いσ この支 配 関 係 を体 系 づ け て,西 ドイ ツ新 株 式 法 は第 三 編 「結 合 企 業 」 と して整序 した こ とは周 知
ぱ り
の と ころ で あ る。 詳 細 は後 日の 検 討 に ゆず るが,こ こで 重 要 な こ とは,新 株 式法 が,現 実 の支 配 関 係 が存 し,そ の現 実 の支 配 力 の行 使 が認 め られ る場 合 を 法制 度化 した こ とで あ ろ う。
即 ち 「支 配 契 約 」(新 株 式法308条)を 締 結 す る こ とに よ り,支 配 企 業 が 従 属企 業 の取 締 役 を 指 揮す る権 限 を 認 め て い るの で あ る。 この 支 配企 業 の指 揮 権 は,従 属 会 社 の 営 業行 為 だ け で は な く,従 属 会 社 の取 締 役 の全 権 限 に お よび,従 属 会 社 の取 締 役 を通 して の み行 使 し うる もの と解 され る。 この西 ド イ ツの指 揮 権 の立 法 化 は,支 配企 業 の指 揮 権 が,「 支 配契 約 」 に よ って根 拠 づけ られ るか らで ぽ な く,資 本 参 加 に基 づ く事実 上 の 力 が法 律 上 の もの と認 め られ て い る と ころに意 義 が あ る。 西 ドイ ツで は経 営権 とい う観 念 が存 す る
くれ
か は 疑 問 とされ て い るが,こ こで 重 要 な こ とは,西 ドイ ツ新 株 式 法 が 規制 し た この 「指 揮 権 」 な る もの は,「 経 営 権 」 とい う概 念 が,現 代 法 的 な基 礎 づ け の 下 に 分離 独 立 す る こ とを 示 す もの で は なか ろ うか 。
慰 経営 権 の経 済 的側 面
と こ ろ で,株 式 会 社 の 経 営 者 の 地 位 が 現 実 に 機 能 し て い る こ と を 考 え る と,現 実 に 会 社 の 支 配 的 地 位 に あ る と い う こ と で あ る 。 株 主 総 会 を リ ー ド
(40前 田 「ドイ ツ株 式 法 に お け る コ ン ツ ェ ル ン の 規 整 」 「法 学 協 会 雑 誌 』84巻12 号,p.1696。
(12)デ ッ トレー フ ・F・ ヴ ァ ッ ツ,矢 沢 淳 訳 「現 代 的 な 会 社 の 改 革 」(商 事 法 務 研 究 会)P・13。 も と も と ドイ ツ の 経 営 者 は,工 業 の 内 部 ・外 部 に お い て,伝 統 的 に 権 威 主 義 的 な 背 景 の 中 で 経 営 を 行 な う こ と に な れ て い て,ド イ ツ株 式 法 は,取 締 役 の 経 営 権 を 確 立 し て き た と 思 わ れ る。 西 独 の よ うに 個 別 企 業 内 部 の 問 題 と 団 体 交 渉 と は 別 個 の 経 営 参 加 方 式 を 通 じて,処 理 す る制 度 が 法 律 に よ っ て す す め ち れ る 場 合 は,特 権 と し て の 経 営 権 と い う意 味 で の 経 営 権 概 念 は,実 際 上 必 要 と さ れ な い の で は な い か と い う指 摘 が あ る 。 片 岡,前 掲 「労 働 者 権 と 経 営 権 」p・106。 高 田 編 著 「経 営 権 の 確 立 」p,187以 下 。
一86
商 学 討 究 第18巻 第4号
し,会 社 の経 営 を 担 当す る こ とで あ るが,現 代 の複 雑 な企 業 結 合 の 関係 の 下 では,会 社 の 支 配 的 地位(支 配権)の 獲 得 は 益 々重要 で あ り,こ れ は 資 本所 有 者 の利 益 と一 致 す る傾 向 に あ る。 い わ ゆ る金 融 資本 に よ る担保 を背 景 と し て,株 式会 社 の経 営者 の地 位 につ くこ とは,現 代 会社 の支 配 に直接 結 びつ く こ とに な る。経 済 的 に機 能 してい る点 か らみ る と,経 営権 の所 在 が,金 銭 債 権 の 担 保 に な って い る こ と も考 え られ る。
即 ち,資 本 は 資 本制 再 生産 社 会 の下 で は価 値 増 殖 の 出 資 で あ る以上,企 業 は 資 本 の価 値 増 殖 をや め ない し,経 営者 で あ る取 締 役 が 資本 運 動 の 担 当者 で あ る 以上,資 本 に よ る経 営支 配 が な され る。 「少数 者 支 配」 が な され て い る と して も,経 営 は 資本 の営 利拘 束 か ら解 放 され た こ とでは ない だ ろ う。近 代 株 式 会 社法 の下 で は,企 業 の所 有 と経 営 が分 離 され,さ らに,資 本主 義 の高 度 な発 達 の結 果,「 企 業 の 支 配 」 が,所 有 者 た る株 主 か ら分 離 され て い る現 象 が指 摘 され てい る。 周 知 の通 り,会 社 の 支 配形 態 に つ い て は,各 種 の分 類 が な され て い る が,法 理 的 に は,株 主総 会 の権 限 縮 少,取 締 役会 の権 限 拡 大 とな って い る こ とが,株 式会 社 法 の機 構 に おけ る重 要 問題 とな って い る。 そ して,現 代 で は,頭 数 多 数 決 主 義 を建 前 とす る,「 取 締 役制 度 」 に,「 人 」 を 送 る こ とが企 業 支 配の 上 で,決 定 的 とな って い る こ とは指 摘 され る まで もな
い事 実 であ る。
即 ち,「 人 」 を派 遣 す る基 礎 に は,資 本参 加,ま た は融 資 の よ うな,経 営 上 の つ なが りが存 す る こ とが 多 い し,現 実 に は,出 席 した個 人 の背 後 に あ る 資 本 の 影響 力 が,企 業 支 配 の効 果 に,直 結 す る こ とに な る。
現 在 の 法制 で は,所 有 と経 営 の 分 離 は,資 本 の委 任に 基 づ くの で あ り,資 本 は,株 主 総 会 の発 言(持 株 多 数)を 通 じて,終 局 的 支 配 力 を 失 な わ ない建 前 とな って い る。 「所 有 と経 営 の 分 離 」は 法 制 度 的 に も成 立 す る 旨を述 べ た が,「 所 有 と支 配 の分 離 」が 同 じよ うに い え るか は 問題 の あ る と ころで あ る。
法 制 度上,「 支 配 」 は 「所 有 」 を前提 と して 存在 す る こ とを示 して い るか ら
で あ る。 株 主 の 観 念 的 間接 的 所 有 権 は,実 定 法 上 は 株主 の 「議 決 権 」 お よ び
1経 営 権 」 に つ い て の 若 干 の 試 論(別 府)‑87… 一
ロ お
「経 営 監 督 権 」 の形 で あ らわ れ るの で あ る。 ・
しか し,企 業 の現 実 の 「支 配 」 が,株 式 資本 に のみ よ る もの では な く,銀 行 そ の 他 の金 融資 本 や 社 債 権 者 や,そ の他 の資 本 の 力に よっ て行 な われ 得 る
こ とは 承 認 され る だ ろ う。 擬制 資本 の 出 資者 が 価 値 増 殖 に 参 加 す るの を止 め な い と同 じよ うに,金 融 資本,社 債 権 者,貸 付 資 本 な どの い わ ゆ る他 人 資本 家 は,資 本 利 潤 の 分 配 に参 与 し,「 企 業 支 配 」 は や め な い で あ ろ う。 即 ち, 株 式(議 夫権)を 通 じての経 営支 配 と異 な り,金 融 機 関 等 が そ の融 資先 の会 社 に対 す る経 済 的 勢 力 を利 用 して,「 支 配 権 」 を 掌握 す る 場 合 が あ るの で あ
ロの
る。 そ こで金 融 機 関 が あ る会社 の 支 配権 を 獲得 し,「 債 権 保 全 本 位 」 に,そ の経 営 が な され る 場 合 も考 え られ る。 この場 合 に は,債 権 保 全 の 方 法 と し て,債 権 者 が 経 営 権 の取 得 に よ り債 権 の満 足 を 得 る こ とが 考 え られ るか らで あ る。
そ れ ゆ えに,経 済 的 にみ て経 営 権 に よ る債権 担 保 的 機 能 が 考 え られ る。 こ れ は 債 権 者 が債 務老 の企 業 に おけ る企 業 経 営 の利 潤 を確 保 し,拡 大 させ,そ の利 益 の 処分 権 を掌 握 す るの であ る。 この こ とは 「債 権 担 保 の 目的 と して の 経 営権 の価 値 は,こ れ を 他 の 担 保物 の よ うに,換 価 処 分 して得 られ る利 益 で
るらラ
は な く して,経 営 権 上 の 地 位 に 基 づ くと ころ の救 済手 段 の確 保」 と して の意 義 が あ る とい え る。 経 営権 に よ る債 権 担 保 は経 済 的優 位性 に 基 づ く経 営 内部 へ の 介入 で あ るが,こ の債 権 者 の経 済 的 優 位 性 は 永続 的 な 「企 業 支 配権 」 を 掌 握 す る契 機 とな る と考 え られ る。 まさに 金 融 資本 に よ る企 業 の系 列 化,財
けの
閥 形 式 の 要 因 が こ こ に あ る と い え るだ ろ う。
さ て遡 っ て み る と,企 業 の 経 営 支 配 の 地 位 は 株 式(議 決 権)を 通 じ て 得 る 以 外 に,債 権 者 が そ の 融 資 先 企 業 に 対 す る経 済 的 勢 力 を 利 用 し て 得 る場 合 が
(4"'実 方,前 掲論 文 「株式会社 の法理 」「 商法 の基 本問題 』所収,P・261以 下。
㈹ 福岡,前 掲論文,「 青山法学論 集」,P・146。 金銭債 権が確 立 した支配的地 位 の 問 題は,我 妻 「 近 代法 におけ る債権 の優越的 地位 」P・305以 下。
㈲ 坂本 「経営権 の担 保性 」『現代私 法 の諸問題 」(下)p・431。
⑯ 坂本,前 掲論文,P・433。
一S8一 商 学 討 究 第19巻 第4号
ぱわ
あ る こ とを述 べ た 。 西 原博 士 に よれ ば,こ の金 融 機 関 の発 言 力 は 工債 権 保 全 の必 要 が そ の正 当 な限 度 で あ る。 事 業 会 社 の 人 事 そ の 他 の基 本 的 事 項 は,そ の会 社 の株 主総 会 が 自主 的 に決 定 す べ き こ とで,株 式 関 係 を離 れ て金 融 的 支 配 を 及 ぼす こ とは,金 融 機 関 の経 済 的 勢 力 の濫 用 とな る」 とい わ れ る。 しか し商 法 的 に は,そ の 経 済 的勢 力 濫 用 に対 す る規 整 は ない の で あ り,独 占禁 止 法 が 銀 行 等の金 融会 社 が事 業 会 社 を 支 配 す る こ とを 防 止す る趣 旨か ら,株 式 保=有に 関 す る制 限規 定 を設 け て い るが(独 禁法10条,11条),融 資に 関 す る
くる ラ
制 限 規定 は な い。
くゆ
と ころ で,一 般 に,「 役 員 派遣 契 約 」 は債 権 者(金 融機 関)が,債 務 会社 に 対 し,あ るい は親 会 社 が,子 会社 に対 して なす 債 権 保 全 のた め に と られ る方 法 で あ る といわ れ る。 この 役員 派 遣 の経 済 的 目的 は,債 務 会 社 の収 益 力 を 担 保 と して,企 業経 営 に 支 配 力 を及 ぼす もの と理 解 され る6即 ち 「企 業 経 営 に 関与 す る こ とが債 権 保全 の手 段 と して最 も確実 な 方法 」 で あ るか らであ る。
銀行 等 が 融 資 す る際 に,銀 行 の指 定 す る者 を取 締 役 とす る こ とを要 求 され る と,債 務 会社 は金 融 を 受 け る必 要 上,そ の 要 求 に従 わ なけ れ ば な らない 。 そ こで債 務 会社 の取 締 役 会 は この役 員 派遣 契 約 に基 づ い て銀 行 の指 定 す る者 を
取 締 役 の 候 補 者 と して 株 主 総 会 に お い て選 任 を 求 め る の で あ る 。
法 的 に は 代 表 取 締 役 の 締 結 す る 「役 員 派 遣 契 約 」 が 会 社 の 権 利 能 力 の 範 囲 内 か ど うか と い う問 題 が あ る 。 しか し会 社 の 権 利 能 力 は 「目的 の 遂 行 上 必 要 な 行 為 」 も含 む の で あ る か ら,経 営 上 や む を え ず 「会 社 の 自衛 手 段 と して 目 的 の 範 囲 内 の 事 項 」 と して,こ の 役 員 派 遣 契 約 は 理 解 され て よい 。 こ こ で の 問 題 と して 取 締 役 の 選 任 が 原 始 定 款 の 規 定 に よ り,そ の選 任 を 取 締 役 会 そ の 他 の 機 関 で は 第 三 者 に 委 任 で き る か とい う問 題 や,選 任 決 議 の 効 力 は 第 三 者
㈹ 西原 「商事法研 究」第二巻P・215。
(48峯 村 ・正 田,「 私的 独 占禁止法」,p・272。 今村 「独 占禁止法 」(法 律学 全集52) P・142以 下。
(49)布 村 「役員派 遣契 約の意義」「紀要」(北 九 州大 学商学部)9号,P・1以 下,
(t60)坂本,前 掲論文,P・431以 下。
1経営 権」 について の若 干の試 論(別 府)
一89一た とえ ぽ親 会 社,労 働 組会 な どの 承 諾に か か ら しめて も有効 か とい う問 題 が
ゆ
あ る。
多 数 説 は 株主 総 会 の最 高 性,お よび専 属的 決定 に反 す る こ とは 無 効 で あ る と して,株 式会 社 に お い て は取 締 役 の選 任 は株 主 総 会 の専 権 事 項 であ り,必 ず 株主 総 会 の 決 議 を必 要 と し,そ の 決議 は 株 主 総 会 の決議 のみ で 効 力が 生
く ラ
じ,そ の効 力 の発 生 を第 三 者 の 意 思 にか か ら しめ得 ない とい われ て い る。 こ の こ とは,株 主 総 会 で選 任 した取 締 役 につ い て,い ちい ち 銀行 等 の債 権 者 の
承 諾 を 条 件 とす る役 員 派遣 契 約 は許 され ない とい うこ とに な る。
一 一方 ,石 井 教 授 に よれ ぽ,「 株 式 会 社 の 内部 構 成 と して 株 主総 会 に お い て,
会 社 の意 思 を決 めた の ちに,株 式 会 社 とい う一 つ の私 的 団体 が 自分 の 意 思 だ け で 動 か な い で,他 の第三 者 の意 思 に よ ら しめ うるか とい うこ とは,会 社 の 私 的 自治 の問題 とは 別 個 の 問題 」 で あ る とされ る。そ して株 式 会 社 とい う一 つ の 団体 が法律 秩序 の 中 で活 動す る場 合 に,自 分 の 自治 を 自己制 約 と して, 他 の第 三 者 の 決定 にか け る こ とが あ って も少 し もか まわ ない ので は な いか と いわ れ る。従 って,法 律 の問 題 と しては,取 締 役 の選 任 に つ き労 働組 合 の 同 意 を要 す る とい うよ うな こ とを原 始 定 款 で書 くな らば,設 立 当初 の定 款 に よ り自分 の 私 的 自治 を制 限 した もの と して出発 して い るの で あ るか ら,別 に そ
くゆ
の効 力 を否 定 す る理 由 は ない と考 え る といわ れ る。
この石 井 教 授 の見解 に よれば,原 始 定 款 に取 締 役 の選 任 に つ き第 三者 の 同 意 を 要 す る 旨の定 め を なす こ とを 妨 げ ない とい うの であ り,こ の 旨が 原 始 定 款 に規 定 して あ る限 り,債 権 者(金 融 機 関)が 債 務 会 社 に対 し,親 会 社 が子 会 社 に 対 してな す 債権 保全 の ため の役 員 派遣 は益 々容 易 に認 め られ るので は な いか と思 う。 しか も株 主 総会 の 現状 は,取 締 役会 の定 めた 議 案 が ブ リーパ
(51)大 隅 『全 訂 会 社 法 論 」 中 巻,p・77以 下 。
(52}大 隅,前 掲 書,p・78。 西 原,大 隅,鈴 木,大 森 『株 主 総 会 」p.209。
〔53)坂 本,前 掲 論 文,P.436。
t54×55)石 井,前 掲 論 文 『商 法 に お け る 基 本 問 題 」p・223〜p・224。
一90‑・ 一一一
商 学 討 究 第19巻 第4号
スす るのが 通 例 で あ り,そ れ ゆ え,銀 行 等 か らの役 員 派 遣 の要 請 に対 して, 債 務 会 社 の代表 取締 役 が取 締 役 会 に は か り,株 主 総 会 の決 議 を経 る こ とは容 易で あ る。 つ ま り 「役 員派 遣 契 約」 は,商 法 上 は是 認 され る ので あ り,役 員 派 遣 に よ る経 済 的 目的 は 十 分に 達 成 され るで あ ろ う。そ れ ゆ え経 営 権 が 債 権
く
g)担 保 的 機 能 を 果 たす こ とが 理 解 され るの で あ る。
W結 び に か え て
か つ て大 河 内教授 は,経 営 権 は らっ き ょ うの皮 が 一 枚 一 枚は が れ るの に似 て い る といわ れ た。 つ ま り経 営 権 の 中 で,経 営 の最 高 方 針 で あ る とか,人 事 で あ る とか,特 に労 働条 件 な どにつ い ては 労 働 組 合 の発 展 と産 業 の進 展 に と もな って,経 営者 の 固有 の権 利 と して の色 彩 や 実 態 は 失 なわ れ,産 業 の発 展 と資 本 主義経 済 の発 展 に伴 な って,そ の程 度 は い よい よ強 くな る。労 働条 件 に つ い て も,人 事 に つ い て も,経 営 の最 高 方 針 に 関 す る制 肘 とい う点 に つ い て も,皮 が 一 枚 一 枚 む か れ る。 そ こか ら,将 来 皮 が むけ て 中 の芯 が 出 て しま
くあアラ