■ 短 報
臨床看護師が体験している倫理的問題の
頻度とその程度
Frequencies and intensities of clinical nurses experiences
of ethical problems: a questionnaire survey
小川 和美
1寺岡征太郎
1寺坂 陽子
1江藤 栄子
1Kazumi OGAWA Seitaro TERAOKA Yoko TERASAKA Eiko ETO
キーワード :臨床看護師、倫理的問題、質問紙調査
Key words :clinical nurses, ethical problems, questionnaire survey
本研究は、臨床看護師が体験している倫理的問題の頻度およびその程度を明らかにし、倫理教育のあり方や支援を 検討するための資料を得ることを目的とする。臨床看護師799名を対象に、無記名自記式質問紙調査を実施した。結 果、倫理的問題の体験頻度の上位には、「患者の安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をすること、或いは鎮静 しないこと」「患者に十分な看護ケアを提供できていない看護師の人員配置に関すること」が示された。倫理的問題の 悩みの程度の上位には、「医療従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を明らかにすること」「医療従事者とし て非倫理的であったり、能力が低かったり、不適切な行動をとる同僚と働くこと」が示された。臨床看護師は専門職 としての役割・責務を果たすことや、患者の権利や尊厳を守ることに高い関心を寄せており、また同僚看護師や他の 医療者との関係に影響を受け、それが強い悩みに繋がっていた。今後は全職員対象の倫理教育や組織的な体制整備が 課題である。
Ⅰ.はじめに
臨床現場において看護実践に携わる看護師(以下、 臨床看護師とする)は、様々な倫理的 藤の場面に直 面し、その度に倫理的判断や決断が求められている。 しかし臨床看護師は、こうした倫理的問題を倫理的問 題であると認識することなく、個人の問題や責任とし て解釈し、解決へ向けた糸口さえも見出せないまま、 個人レベルで問題を抱え込んでいることも多いと推察 される。 先行研究によれば、臨床看護師が直面する倫理的問 題の内容として、患者と家族間でのニーズの相反、不 平等な待遇、ターミナルケア、同僚へ指摘できない、 極端な営利方針、最善でないと感じる医師の指示に従 う、人手不足のための抑制、能力を超える仕事などが 示されている1‒3。このように臨床看護師が直面する 倫理的問題についてはある程度明らかにされてきてい る。そして、臨床看護師が体験している倫理的問題に は、所属施設による特徴や、保健・医療・福祉といっ た我々を取り巻く社会状況が影響を及ぼしていること が分かる。 今回の調査対象とした施設では、2010年度より施 設内の専門看護師や認定看護師が主体となって倫理カ ンファレンスを推進し始め、同時に看護倫理の基盤と なる理論や概念の理解に関する研修会を行ってきた。 2011年には臨床看護師の倫理的感受性を高めること や、倫理的看護実践に取り組めるような倫理教育の充 実化や、臨床における倫理問題への支援などを行うこ とを目的に看護部臨床倫理検討委員会が設立された。 このような経緯の中、各部署においても倫理カンファ レンスの活性化に向けた様々な取り組みがなされてい るところである。 しかし、様々なフィールドで勤務している臨床看護 師がどのような倫理的問題を体験しているのか、さら にはそうした倫理的問題の悩みの程度を明らかにした 調査は少ない。本研究では、臨床看護師が倫理的問題に適切に対応 し、より質の高い看護提供へと繋げるために必要とな る倫理教育のあり方や、支援を検討する際の基礎資料 を得ることを目的に、臨床看護師が体験している倫理 的問題の頻度およびその程度を明らかにする。
Ⅱ.方法
1.研究デザイン 無記名自記式質問紙調査(配票調査)による実態調 査研究 2.対象者 大学病院1施設に勤務する臨床看護師 3.調査期間 2011年7月19日∼7月29日 4.調査方法 研究目的・方法・研究参加による利益と不利益、倫 理的配慮(研究参加の自由意思・個人情報の取り扱 い・研究中や研究後の対応・研究成果の公表)につい て記載した研究協力者用の依頼書、無記名自記式質問 紙、回収用封筒を各部署の所属長を通じて臨床看護師 に配布した。質問紙は、配布日より2週間以内に、回 答者自身が厳封したものを部署の一定場所に設置した 回収袋へ自由投函するよう依頼した。投函された回答 用紙は、研究代表者および研究分担者が直接全ての部 署へ伺い、回収した。 5.調査内容 無記名自記式質問紙では、以下の項目について調査 した。 1) 基本属性 年齢、性別、最終専門学歴、職位、看護師としての 臨床経験年数、所属部署の特徴、看護実践上において 倫理的問題に直面した時の対応について調査した。 2) 看護実践における倫理と人権をめぐる問題の質 問項目Sara T. Fryら4が開発した「ETHICS and HUMAN
RIGHTS in NURSING PRACTICE」Part 1∼2を、 岩本ら5が日本語版質問紙に翻訳したものを、一部改 変した上で使用した。質問紙の使用および質問紙を一 部改変した上で使用することに関しては質問紙開発者 であるSara T. Fryと日本語版質問紙の作成者である 岩本らより承諾を得た。 Part 1は35項目の看護実践における倫理または人 権をめぐる問題に関する質問項目(終末期医療に関す る問題・患者ケアに関する問題・患者の権利に関する 問題の3つの構成概念から構成される)に対して、体 験頻度を問う設問である。質問紙で改変した箇所は Part 2である。Part 2は、もともと質問項目に対する 体験回数を問う設問となっていたが、本研究では、ど の程度悩んだか、といった悩みの程度を確認できるよ うに質問紙に修正を加えた。倫理的問題の頻度は、回 答時までの過去1年間に体験した倫理的問題の頻度に ついて「全くなかった」「殆どなかった」「時々あった」 「頻繁にあった」の4段階評価で回答を依頼した。倫 理的問題の程度は、倫理的問題の頻度に関する回答に おいて、「時々あった」「頻繁にあった」と回答した項 目のみ、さらにどの程度悩んだかという質問に続けて 回答してもらった。その際、「全く悩まなかった」「あ まり悩まなかった」「少し悩んだ」「とても悩んだ」の 4段階評価で回答を依頼した。 3) データ分析方法 属性は記述統計による分析を実施した。倫理的問題 の体験頻度や悩みの程度は、臨床看護師がどのような 倫理的問題を多く体験しているのか、またどの倫理的 問題に対して強く悩んでいるのかについて相対的に明 らかにするために、点数化して集計した。倫理的問題 の体験頻度に関する質問項目の点数化の方法は、各回 答に対して、「全くなかった」と答えた回答を0点、 「殆どなかった」と答えた回答を1点、「時々あった」 と答えた回答を2点、「頻繁にあった」と答えた回答を 3点として、集計した。また、倫理的問題の悩みの程 度に関する質問項目の点数化の方法は、各回答に対し て、「全く悩まなかった」と答えた回答を0点、「あま り悩まなかった」と答えた回答を1点、「少し悩んだ」 と答えた回答を2点、「とても悩んだ」と答えた回答を 3点として、集計した。そして項目毎の平均値と標準 偏差(M±SD)を算出し、その得点が高いほど臨床看 護師が頻繁に体験した倫理的問題、より強く悩んだ倫 理的問題とした。 分析は、Microsoft Excel 2010の統計関数を用いた。 6.倫理的配慮 本研究は、長崎大学病院臨床研究倫理委員会の審査 を受け、承認を得たのちに実施した。 研究依頼の際は、研究目的、方法、研究協力による 利益および不利益、研究参加の自由、研究への参加の 拒否は可能であること、研究への参加や拒否によって 看護業務に一切影響を与えず不利益を被らないこと、 プライバシーの保護、匿名性の保障、データの取り扱 い、研究終了後のデータの処分について文書を用いて 説明した。質問紙への回答をもって、同意とみなし た。
Ⅲ.結果
質問紙は799通配布し、605通回収を得た(回収率 75.7%)。有効回答数は535通であった。1.対象者の背景 対象者の属性は、性別は男性33名(6.2%)、女性 502名(93.8%)。 職 位 は ス タ ッ フ ナ ー ス462名 (86.4%)、看護師長および副看護師長73名(13.6%)。 平均臨床経験年数9.9±9.1。最終専門学歴は専門学校 277名(51.8%)、短期大学71名(13.8%)、大学171 名(32.0%)、大学院(修士・博士課程)7名(1.3%)、 その他9名(1.7%)。所属部署の特徴は外科系157名 (29.3%)、内科系70名(13.1%)、外科・内科混合96 名(17.9%)、 精 神 科8名(1.5%)、 産 婦 人 科32名 (6.0%)、小児科50名(9.3%)、クリティカル・救急44 名(8.2%)、外来19名(3.6%)、その他59名(11.0%) であった。看護実践上において倫理的問題に直面した 時の対応(複数回答可)は、多かった対応から順に、 「看護師の同僚(達)と相談」441名(82.4%)、「尊敬 する看護師に相談」241名(45.0%)、「患者の主治医 に相談」221名(41.3%)、「他の専門家に相談」70名 (13.1%)、「患者と相談」67名(12.5%)、「患者の家 族に相談」48名(9.0%)、「家族または友人に相談」39 名(7.3%)、「倫理カンファレンス等で議題提供」28名 (5.2%)、「1人で悩んだ」27名(5.0%)、「文献を読ん だ」18名(3.4%)、「深く考えなかった」17名(3.2%)、 「そのままにした」「誰とも話や相談をせず対応」7名 (1.3%)であった。対象者の背景を表1に示す。 2.臨床看護師が体験している倫理的問題の頻度 倫理的問題の頻度は、回答時から過去1年間におけ る倫理的問題の体験頻度において、その平均得点の高 い順に、「患者の安全確保のために身体抑制や薬剤に よる鎮静をすること、或いは鎮静しないこと」1.50± 0.75、「患者に十分な看護ケアを提供できていない看 護師の人員配置に関すること」1.40±0.87、「患者の権 利と尊厳を尊重すること」1.12±1.0であった。臨床看 護師が体験している倫理的問題の頻度を表2に示す。 3.臨床看護師が体験している倫理的問題における 悩みの程度 倫理的問題の悩みの程度は、回答時から過去1年間 において体験した倫理的問題のうち高い順に、「医療 従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を明ら かにすること」2.50±0.52、「医療従事者として非倫 理的であったり、能力が低かったり、不適切な行動を とる同僚と働くこと」2.38±0.52、「患者の生命の質 (QOL)が考慮されていないこと」2.28±0.49、「ケア の質を脅かすような医療制度に従ってケアを実践する こと」2.28±0.54であった。臨床看護師が体験してい る倫理的問題における悩みの程度を表3に示す。
Ⅳ.考察
1.臨床看護師が体験している倫理的問題の頻度 最初に臨床看護師が体験している倫理的問題の頻度 では、高頻度で体験されていた倫理的問題の傾向につ い て 考 察 す る。 そ し て、 本 研 究 で 用 い た 質 問 紙 「ETHICS and HUMAN RIGHTS in NURSINGPRACTICE」と同じ質問紙を用いて調査を行った水 澤1の研究結果と本研究で得られた結果を比較しなが ら、倫理的問題の共通点を中心に考察していく。 本研究の結果において、高頻度で体験されていた倫 表1 対象者の背景 (n=535) 属性 カテゴリー 人数(%) 性別 男性 33 (6.2) 女性 502 (93.8) 職位 スタッフナース 看護師長・副看護師長 462 (86.4) 73 (13.6) 平均臨床経験年数 平均±標準偏差 9.9±9.1 最終専門学歴 専門学校 277 (51.8) 短期大学 71 (13.8) 大学 171 (32.0) 大学院(修士・博士課程) 7 (1.3) その他 9 (1.7) 所属部署の特徴 外科系 157 (29.3) 内科系 70 (13.1) 外科・内科混合 96 (17.9) 精神科 8 (1.5) 産婦人科 32 (6.0) 小児科 50 (9.3) クリティカル・救急 44 (8.2) 外来 19 (3.6) その他 59 (11.0) 看護実践上におい て倫理的問題に直 面した時の対応 (複数回答可) 看護師の同僚(達)と相談 441 (82.4) 尊敬する看護師に相談 241 (45.0) 患者の主治医に相談 221 (41.3) 他の専門家に相談 70 (13.1) 患者と相談 67 (12.5) 患者の家族に相談 48 (9.0) 家族または友人に相談 39 (7.3) 倫理カンファレンス等で 議題提供 28 (5.2) 1人で悩んだ 27 (5.0) 文献を読んだ 18 (3.4) 深く考えなかった 17 (3.2) そのままにした 7 (1.3) 誰とも話や相談をせず対応 7 (1.3)
表2 臨床看護師が体験している倫理的問題の頻度 (n=535) 順位 項目 平均値 SD 体験頻度(%) 全くなし 殆どなし 時々有り 頻繁有り 1 患者の安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をすること、或いは鎮 静しないこと 1.50 0.97 21.1 21.7 43.6 13.6 2 患者に十分な看護ケアを提供できていない看護師の人員配置に関すること 1.40 0.87 16.4 36.4 38.1 9.0 3 患者の権利と尊厳を尊重すること 1.12 1.00 32.5 35.0 20.4 12.1 4 疼痛管理が過剰であること、或いは不十分であること 1.01 0.83 32.1 36.8 29.2 1.9 5 あなたの健康に危険を及ぼす可能性のある患者にケアを提供すること(例: 結核、HIV、暴力) 0.98 0.86 35.1 35.1 26.7 3.0 6 看護師と医師や他の専門家との関係において対立すること 0.93 0.79 33.3 42.6 22.2 1.9 7 処置や検査の指示が過剰であること、或いは不十分であること 0.91 0.81 35.7 39.4 22.8 2.1 7 治療に関するインフォームド・コンセントが行われているか、行われてい ないかについて悩むこと 0.91 0.80 35.1 40.4 22.6 1.9 9 患者の生命の質(QOL)が考慮されていないこと 0.82 0.76 38.1 43.2 17.2 1.5 9 危険な設備や環境のもとで働くこと 0.82 0.83 41.5 38.7 16.1 3.7 11 延命処置(人工呼吸、栄養や水分補給など生命維持に直結するもの)を継続 すること、或いは中止すること 0.81 0.83 43.7 33.8 20.6 1.9 12 医療従事者として非倫理的であったり、能力が低かったり、不適切な行動 をとる同僚と働くこと 0.78 0.82 44.3 36.3 16.4 3.0 13 単に苦痛を増強させるような不適切な方法で死に逝く過程を引き伸ばすこと 0.67 0.75 48.6 36.3 14.2 0.9 14 患者や家族が、治療、予後、または代替的治療について知らされていない か、または誤った情報を与えられている状況でケアをすること 0.65 0.69 47.7 39.6 12.7 0.0 15 患者の意思を知らずに患者を蘇生すること、或いは蘇生しないこと 0.65 0.81 54.4 29.2 13.8 2.6 16 患者や家族の自律性(autonomy)が無視されていること 0.64 0.65 46.0 44.7 9.2 0.2 17 費用のかかる医療資源(人手、治療法、設備)や不足している医療資源をど の患者にどのように配分するかということ 0.62 0.72 50.3 38.1 10.5 1.1 18 患者の個人的価値や宗教的価値に反して治療やケアをすること 0.60 0.65 49.0 42.4 8.4 0.2 19 患者や家族の意向に反して患者の治療をすること、或いは、患者の治療を しないこと 0.59 0.69 52.3 36.6 10.7 0.4 20 あなたの個人的価値や宗教的価値に反して行動すること 0.57 0.67 52.1 38.9 8.4 0.6 20 ターミナル期にある患者の安楽死に関わること、或いは、関わらないこと 0.57 0.74 57.8 27.9 14.0 0.4 22 重度の心身障害をもつ乳児、小児または成人に対して治療をすること、或 いは、治療しないこと 0.52 0.76 62.6 24.9 10.7 1.9 23 患者の秘密やプライバシー(例:HIVに感染している)が尊重されていない こと 0.50 0.65 58.7 32.9 8.2 0.2 24 患者が研究の対象となる場合に、患者の権利を守ること 0.45 0.75 67.1 23.4 6.5 3.0 25 ケアの質を脅かすような医療制度に従ってケアを実践すること 0.44 0.59 61.3 34.0 4.5 0.2 26 患者を差別して扱うこと 0.39 0.57 65.6 29.9 4.5 0.0 27 終末期のあり方について患者が事前に示していた意思(例:リビングウィ ル、ドナーカード)を尊重すること、或いは尊重しないこと 0.37 0.58 68.2 26.7 4.9 0.2 28「どの時点からが死であると決定するのか」ということを判断すること (例:臓器移植と関連して) 0.36 0.61 69.9 24.3 5.2 0.6 29 患者が必要なケアを受けられなくなるような医療制度のもとで看護すること 0.36 0.55 67.1 30.1 2.4 0.4 30 医療従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を明らかにすること 0.34 0.53 68.4 29.0 2.6 0.0 31 患者が未成年者の場合に、治療に関する本人の意思と親の意思が対立し、 どちらをとるかを決めること 0.33 0.52 69.9 27.7 2.4 0.0 32 臓器移植や組織移植が公平に行われているかについて悩むこと 0.29 0.55 76.1 19.3 4.5 0.2 33 小児・配偶者・高齢者・患者に対する虐待やネグレクト(無視など)に気づ いたとき、何かしらの行動をとること、或いは、何も行動をとらないこと 0.27 0.51 76.4 20.2 3.4 0.0 34 患者の承諾なしに、実験的な治療方法や医療機器を用いること 0.19 0.42 82.4 16.3 1.3 0.0 35 あなたの良心に反して妊娠中絶や不妊治療の介助をすること 0.16 0.44 86.4 10.8 2.8 0.0
表3 臨床看護師が体験している倫理的問題における悩みの程度 順位 項目 平均値 SD 悩みの程度(%) 全く 悩まない あまり 悩まない 少し 悩む とても 悩む 1 医療従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を明らかにすること 2.50 0.52 0.0 0.0 50.0 50.0 2 医療従事者として非倫理的であったり、能力が低かったり、不適切な行動 をとる同僚と働くこと 2.38 0.52 0.0 1.9 58.7 39.4 3 患者の生命の質(QOL)が考慮されていないこと 2.28 0.49 0.0 2.0 68.0 30.0 3 ケアの質を脅かすような医療制度に従ってケアを実践すること 2.28 0.54 0.0 4.0 64.0 32.0 5 患者や家族の意向に反して患者の治療をすること、或いは、患者の治療を しないこと 2.27 0.52 0.0 3.4 66.1 30.5 5 あなたの良心に反して妊娠中絶や不妊治療の介助をすること 2.27 0.70 0.0 13.3 46.7 40.0 7 看護師と医師や他の専門家との関係において対立すること 2.24 0.53 0.0 4.7 66.7 28.7 8 単に苦痛を増強させるような不適切な方法で死に逝く過程を引き伸ばすこと 2.23 0.53 0.0 4.9 66.7 28.4 8 患者が未成年者の場合に、治療に関する本人の意思と親の意思が対立し、 どちらをとるかを決めること 2.23 0.44 0.0 0.0 76.9 23.1 10 疼痛管理が過剰であること、或いは不十分であること 2.18 0.44 0.0 2.4 77.1 20.5 11 患者に十分な看護ケアを提供できていない看護師の人員配置に関すること 2.17 0.59 0.8 7.9 65.1 26.2 11 小児・配偶者・高齢者・患者に対する虐待やネグレクト(無視など)に気づ いたとき、何かしらの行動をとること、或いは何も行動をとらないこと 2.17 0.62 0.0 11.1 61.1 27.8 13 危険な設備や環境のもとで働くこと 2.16 0.54 0.0 7.5 68.9 23.6 13 臓器移植や組織移植が公平に行われているかについて悩むこと 2.16 0.47 0.0 4.0 76.0 20.0 15 あなたの個人的価値や宗教的価値に反して行動すること 2.13 0.44 0.0 4.2 79.2 16.7 16 処置や検査の指示が過剰であること、或いは不十分であること 2.12 0.51 0.0 7.5 72.9 19.5 16 患者や家族の自律性(autonomy)が無視されていること 2.12 0.39 0.0 2.0 84.0 14.0 18 治療に関するインフォームド・コンセントが行われているか、行われてい ないかについて悩むこと 2.11 0.44 0.8 2.3 81.7 15.3 18 患者の個人的価値や宗教的価値に反して治療やケアをすること 2.11 0.53 0.0 8.7 71.7 19.6 20 ターミナル期にある患者の安楽死に関わること、或いは関わらないこと 2.10 0.62 1.3 10.4 64.9 23.4 20 患者や家族が、治療、予後、または代替的治療について知らされていない か、または誤った情報を与えられている状況でケアをすること 2.10 0.63 1.5 10.3 64.7 23.5 20 費用のかかる医療資源(人手、治療法、設備)や不足している医療資源をど の患者にどのように配分するかということ 2.10 0.53 1.6 4.8 75.8 17.7 20「どの時点からが死であると決定するのか」ということを判断すること (例:臓器移植と関連して) 2.10 0.65 0.0 16.1 58.1 25.8 24 重度の心身障害をもつ乳児、小児または成人に対して治療をすること、或 いは治療しないこと 2.09 0.71 3.0 11.9 58.2 26.9 25 患者を差別して扱うこと 2.08 0.58 0.0 12.5 66.7 20.8 26 患者の秘密やプライバシー(例:HIVに感染している)が尊重されていない こと 2.04 0.42 0.0 6.7 82.2 11.1 27 延命処置(人工呼吸、栄養や水分補給など生命維持に直結するもの)を継続 すること、或いは、中止すること 1.97 0.65 2.5 15.0 65.8 16.7 28 患者の意思を知らずに患者を蘇生すること、或いは蘇生しないこと 1.95 0.64 2.3 15.9 65.9 15.9 29 あなたの健康に危険を及ぼす可能性のある患者にケアを提供すること(例: 結核、HIV、暴力) 1.93 0.66 1.9 19.5 62.3 16.4 30 終末期のあり方について患者が事前に示していた意思(例:リビングウィ ル、ドナーカード)を尊重すること、或いは尊重しないこと 1.89 0.64 3.7 14.8 70.4 11.1 31 患者が必要なケアを受けられなくなるような医療制度のもとで看護するこ と 1.87 0.52 0.0 20.0 73.3 6.7 32 患者の承諾なしに、実験的な治療方法や医療機器を用いること 1.86 0.69 0.0 28.6 57.1 14.3 33 患者の安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をすること、或いは鎮 静しないこと 1.75 0.68 2.6 30.7 55.9 10.8 34 患者の権利と尊厳を尊重すること 1.52 0.93 19.0 21.8 47.7 11.5 35 患者が研究の対象となる場合に、患者の権利を守ること 1.08 0.98 33.3 35.3 21.6 9.8
理的問題の傾向をみると、臨床看護師としての役割・ 責務を果たすこと、患者の権利を守ること、医師の治 療方針に関連した問題であることが分かる。また臨床 看護師の人員配置不足や臨床看護師が安心して患者ケ ア提供に繋げていくことが困難な看護体制や、システ ムに関連した問題の存在も伺い知ることができる。以 上より、臨床看護師は医師の治療方針や臨床看護師の 人員不足、看護体制やシステムといったように、病院 全体で解決に向けた取り組みを要する問題を、高頻度 で体験していたと考えられる。 続いて水澤1の研究結果では、病棟看護師が経験す る倫理的問題のうち、高い頻度の項目として、1位 「患者の安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静 をすること、或いは鎮静しないこと」、2位「患者に十 分な看護ケアを提供できていない看護師の人員配置に 関すること」、3位「看護師と医師や他の専門家との関 係において対立すること」、4位「疼痛管理が過剰であ ること、或いは不十分であること」、5位「患者の権利 と尊厳を尊重すること」が挙げられていた。本研究で は、病棟所属の臨床看護師も含め、様々なフィールド で働いている臨床看護師を調査対象としたが、高い頻 度で体験されている倫理的問題は、水澤1による調査 結果とほぼ類似する結果を得ていることが分かる。そ の中でも両者の調査において、共通して高頻度で体験 されていた倫理的問題は、「患者の安全確保のために 身体抑制や薬剤による鎮静をすること、或いは鎮静し ないこと」、「患者に十分な看護ケアを提供できていな い看護師の人員配置に関すること」であった。体験頻 度の高かった倫理的問題に焦点をあててみると、臨床 看護師は手薄な人員配置の中に置かれていても、看護 の対象となる患者の権利と尊厳を尊重し、安全で適切 な看護を提供しようとしていることが伺える。 患者の安全や尊厳を守ることは、臨床看護師の責務 として当然であるが、実際の臨床現場では安全を確保 しながら倫理的対応をとることは難しい状況も多々あ るように思われる。杉谷らによれば、「人手不足など で、そのときには看護管理上やむを得ない対処だった としても、それが常態化してしまうと、患者の尊厳や 安全を脅かすことになる」と述べている(p.69)6。結 果として、一時的に夜間徘徊や落ち着きがない患者を スタッフステーションに誘導し、臨床看護師が看護業 務を行いながら患者を見守ることがあるかもしれない が、それらが漫然に行われ、スタッフステーションに 患者が1人で取り残されるというような状況があった とすれば、むしろ危険であり、患者の安全が守られて いるとは言い難い。その時その場で求められる対応を 十分に検討することなく、“いつもしているから”と いった理由で常態化した対応を繰り返していることは 少なくはないと推察できる。 また高頻度で体験されていた倫理的問題として、 「患者に十分な看護ケアを提供できていない看護師の 人員配置に関すること」が挙げられていたが、これは 臨床看護師数の確保や適正な人員配置が倫理的看護実 践の実現に必要な要素であることを示すものだと考え られる。水澤1は、「看護職員の引き上げにより、患者 に十分なケアを提供できない看護師の問題に手段を講 じることができる。職場環境整備のため、更なる手厚 い配置が今後も課題とされ、必然的に多くの職員の雇 用、病床数のコントロールといったマネジメントが期 待される」と述べている。以上のことから、看護管理 者に期待される役割は大きいと考えられ、特に臨床看 護師の手厚い配置は看護管理者に課せられた重要課題 のひとつと言える。 さらに、両者の調査結果において「患者の権利と尊 厳を守ること」という項目が挙げられていたことにも 着目すべきである。臨床看護師は、専門職としての役 割や責務を果たそうとしているからこそ、「患者の権 利と尊厳を守ること」が高い頻度で体験されていた項 目として挙げられたのではないかと考える。 一方、両者の研究結果において、共に低い頻度で体 験されていた倫理的問題の項目は、「臓器移植や組織 移植が公平に行われているかについて悩むこと」「小 児・配偶者・高齢者・患者に対する虐待やネグレクト (無視など)に気づいたとき、何かしらの行動をとる こと、或いは、何も行動をとらないこと」となってい た。これらの特徴は、様々なフィールドで勤務する臨 床看護師が日常的に直面する問題というよりも、移植 や小児、高齢者といったように、その多くは特定の フィールドに限定された条件のもとで体験される倫理 的問題であると言える。移植や小児・高齢者の問題は 臨床看護師の体験頻度としては少ないものの、部署の 特殊性ゆえに生じる倫理的問題の存在として伺い知る ことができた。 2.臨床看護師が体験している倫理的問題における 悩みの程度 臨床看護師が体験している倫理的問題における悩み の程度では、悩みの程度が高かった倫理的問題に焦点 をあてながら考察していく。 倫理的問題における悩みの程度に関し、上位に挙 がっている項目に着目してみると、ほとんどが、低い 頻度で体験されている倫理的問題であることが読み取 れる。逆に、倫理的問題における悩みの程度において 下位に挙がっている項目に着目してみると、「患者の 安全確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をするこ と、或いは鎮静しないこと」や「患者の権利と尊厳を 尊重すること」といったように高い頻度で体験されて いることが分かる。 そして、臨床看護師が体験している倫理的問題のう ち、高い頻度で悩むと認識されている項目は、「医療
従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為を明ら かにすること」「医療従事者として非倫理的であった り、能力が低かったり、不適切な行動をとる同僚と働 くこと」「ケアの質を脅かすような医療制度に従って ケアを実践すること」であった。臨床看護師が体験し ている倫理的問題における悩みの程度は、専門職とし ての役割・責務を果たすことや患者の権利と尊厳を尊 重することよりも、むしろ同僚看護師や他の医療従事 者との関係や医療制度上の問題に大きく影響を受け、 強い悩みに繋がっているものと考えられた。石井ら8 による調査においても、看護職が業務上悩む場面の中 で最も悩むとされた倫理的問題は、医療従事者との関 係に関するものであったことが明らかにされているよ うに、臨床看護師は業務上において同職種だけでな く、他職種との関わりを要することも多いことから、 強い悩みに繋がる問題として捉えられているのではな いかと考えられる。 さらに、臨床看護師が体験している倫理的問題の頻 度は、臨床看護師主体では解決困難な問題が高い頻度 で体験されていたことが明らかになった。悩みの程度 においても同様に、医療チーム上や医療制度上の問題 が含まれているために臨床看護師主体で解決できない ことが、強い悩みに繋がっていたように考える。 今回の調査において、倫理的問題の体験頻度では上 位に挙がっていた「患者の安全確保のために身体抑制 や薬剤による鎮静をすること、或いは鎮静しないこ と」や「患者の権利と尊厳を尊重すること」の項目は、 高い頻度であるにも関わらず、悩む倫理的問題として 捉えられていなかった。中尾ら2によれば、「看護職の 倫理問題とされている問題の中に、看護職主体で解決 できない問題が含まれる場合、看護職が業務の一環と して割り切って対応していることが推察される」と述 べている。そのため今回の調査で、こうした倫理的問 題を臨床看護師が強く悩まない問題として認識してい る背景には、倫理的問題に直面した際に、業務の一環 として割り切り、臨床看護師による対応を要する倫理 的問題とはみなさないような傾向が、すでに臨床に常 態化しているのではないか、と懸念された。 3.今後の倫理教育や支援のあり方について 本研究の調査結果により、臨床看護師が体験してい る倫理的問題の頻度および、その悩みの程度について 明らかになった。 臨床看護師が高い頻度で体験している倫理的問題 は、医師の治療方針や臨床看護師の人員不足、看護体 制やシステムといったように、臨床看護師主体では解 決困難な問題や部署の特殊性ゆえに生じていることが 分かった。また強い悩みに繋がっている倫理的問題に は、同僚看護師や他の医療従事者との関係や医療制度 上の問題に大きく影響を受けているために臨床看護師 主体で解決できないことが明らかになった。 Chris Gastmansは、「医療における倫理的問題は、 無力感、能率性と費用効率、職場の圧力、(無)能力、 人材・経済的資源の不足などの環境の中で起こる」と 述べている(p.143)9ことからも、臨床看護師だけで なく、全ての職種が倫理的問題への解決へ向けた行動 がとれるようになる必要があると言える。今後は組織 的な体制や、全職員を対象とした倫理教育の実施が求 められる。 また、「患者の安全確保のために身体抑制や薬剤に よる鎮静をすること、或いは鎮静しないこと」や「患 者の権利と尊厳を尊重すること」といった倫理的問題 は、臨床看護師が高い頻度で体験しているにも関わら ず、強い悩みとして認識されていなかったことから、 日々の看護業務内に常態化してしまっていることが懸 念された。そのため、個々の臨床看護師の倫理的感受 性を高めるための支援や継続的な倫理教育の実施が重 要となってくる。 さらに部署の特殊性ゆえに生じやすい倫理的問題が あることが示されたため、そうした倫理的問題の解決 へ向けた具体的な支援も必要とされている。 そして、看護実践上において倫理的問題に直面した 時の対応(複数回答可)では、「看護師の同僚(達)と 相談」が最も多く、中には、「1人で悩んだ」「文献を 読んだ」「深く考えなかった」「そのままにした」「誰 とも話や相談をせず対応した」といったインフォーマ ルな形式で試みられていた。 水澤1は、「倫理的問題を検討する機会や場が設けら れていると回答した看護師は倫理的問題の解決割合が 高い」と言っていることからも、問題解決へ向けた組 織的取り組みを実施していく必要がある。
Ⅴ.結語
本研究は、臨床看護師が体験している倫理的問題の 頻度およびその悩みの程度を明らかにし、倫理教育の あり方や支援を検討するための基礎資料を得ることを 目的とした。 その結果、以下3点について明らかになった。 1. 倫理的問題の体験頻度の上位には、「患者の安全 確保のために身体抑制や薬剤による鎮静をするこ と、或いは鎮静しないこと」「患者に十分な看護 ケアを提供できていない看護師の人員配置に関す ること」が示された。 2. 倫理的問題における悩みの程度の上位には、「医 療従事者や医療施設の非倫理的または違法な行為 を明らかにすること」「医療従事者として非倫理 的であったり、能力が低かったり、不適切な行動 をとる同僚と働くこと」が示された。 3. 臨床看護師だけでなく、全ての職種が倫理的問題 への解決へ向けた行動がとれるように、組織的な体制の整備や、全職員を対象とした倫理教育の実 施・継続が必要である。また部署の特殊性ゆえに 生じやすい倫理的問題があることから、問題解決 へ向けた具体的な支援を行うことも課題である。
Ⅵ.本研究の限界と今後の課題
臨床看護師が体験している倫理的問題の体験頻度や その悩みの程度について明らかになったが、研究対象 とした施設が1施設であることや質問紙を一部改変し て使用したことから、研究結果の信頼性や一般化につ いては限界があると考えられる。今後の課題は、倫理 的問題の体験頻度やその悩みの程度と、臨床経験年数 や倫理に関する学習経験の有無といった臨床看護師 個々の特性との関連についても検討することである。 また、現在実施している倫理教育による評価を行うこ とも課題である。 文 献 1. 水澤久恵.病棟看護師が経験する倫理的問題の特 徴と経験や対処の実態及びそれらに関連する要 因.生命倫理.2009;19(1):87‒97. 2. 中尾久子,森田秀子,中村仁志他.倫理問題に対 する看護職の認識に関する研究.山口県立大学看 護学部紀要.2004;8:5‒11. 3. 岡谷恵子,日本看護協会看護倫理検討委員会.看 護業務上の倫理問題に対する看護職者の認識:日 本看護協会(日常業務上ぶつかる悩み)調査より. 看護.1999;51(2):26‒31.4. Fry ST, Duffy ME. The development and psychometric evaluation of the ethical issues scale.Journal of Nursing Scholarship. 2001; 33: 273‒277. 5. 岩本幹子,溝部佳代,高波澄子.大学病院におい て看護師長が体験する倫理的問題.看護総合科学 研究会誌.2005;8(3):3‒14. 6. 杉谷藤子,川合政恵.ケアを深める看護倫理の事 例検討.第1版.東京:日本看護協会出版会; 2011. 7. 日本看護協会監修.新版 看護者の基本的責務 定義・概念/基本法/倫理.第1版.東京:日本 看護協会出版会;2011. 8. 石井泰枝,岩澤とみ子,間々田美穂他.看護職の 倫理的感性を具現する看護部倫理委員会の活動内 容の検討.日本看護倫理学会誌.2011;3(1): 52‒57. 9. Gastmans C.第12章 医療倫理におけるケア の視点.In: Davis AJ, Tschundin V, de Raeve L eds. 2006/ 小西恵美子監訳.看護倫理を教え る・学ぶ:倫理教育の視点と方法.東京:日本看 護協会出版会;2009.