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傷害保険における事故の外来性の意義

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■アブストラクト

最判平成25年 月16日の吐物誤嚥窒息死の事案について,その判旨の結論 に沿った事故の外来性の解釈をしようとするときには,今一度,被保険者の 窒息死と相当因果関係で結ばれる事故(直接原因)とは何であるのかを問い 直さなくてはならない。結論的に,その直接原因は吐物の気管内流入充満作 用による気道閉塞事故であり,これは外来の事故であると考える。したがっ て,吐物誤嚥以前の出来事ないし作用の連鎖はすべて間接原因と位置づけら れ疾病免責条項適用の問題として論じることになる。その際,被保険者に限 らず健常人であっても飲酒時に精神薬を同時服用すれば副作用が増強し,も って気道反射の著しい低下という身体の不調がもたらされる,と言える場合 には,疾病免責条項の適用は難しいと思われる。なぜなら,その身体の不調 は被保険者に固有の疾病の影響によるものではなく飲酒時精神薬同時服用と いう外部からの作用によってもたらされたものだからである。

■キーワード

吐物誤嚥,事故の外来性,疾病免責条項

.はじめに

最判平成19年 日民集61巻 号1955頁(以下, 最判平成19年 とい

傷害保険における事故の外来性の意義

外部からの作用による気道閉塞について

横 田 尚 昌

*平成26年10月18日の日本保険学会全国大会報告による。

/ 平成27年10月18日原稿受領。

(2)

う)は, 外来の事故とは,その文言上,被共済者の身体の外部からの作用

(以下,単に 外部からの作用 という。)による事故をいうものであると解 される とし1), 請求者は,外部からの作用による事故と被共済者の傷害 との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,被共済者の傷害 が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張,立証すべ き責任を負うものではない と判示する。したがって,上記判旨によれば傷 害保険契約においても(少なくとも,この事件第一審の被告が用いていた当 該災害補償共済規約と共通する構造をもつ保険約款が用いられている場合に は),被保険者が外来の事故で傷害を被ったと裁判所に認定されるためには,

請求者側は次の二つの因果関係を主張,立証しなくてはならない。その一つ は,外部からの作用と事故の間の因果関係であり2),もう一つは,その事故 と傷害の間の因果関係である。

この最高裁の解釈は学界や実務に肯定的に受け入れられていたが,改めて その事故の外来性の意味が問われることとなったのが,吐物誤嚥をめぐる最 判平成25年 月16日3)の事案である(以下, 最判平成25年 という)。それ は,被保険者が帰宅途中及び自宅での飲酒によって相当量のアルコールを摂 取し,かつ医師から処方されていた向精神薬を服用していたため,両者の相

1) 中村心 最判解説民事篇平成19年度 545頁は 当該外部からの作用が生じ た原因が疾病であってもかまわない とされる。

2) 学説の中には, 外部からの作用 と 事故 とは一体であり,これを区別 することに消極的な見解がある(潘阿憲 吐物誤嚥事故における外来性の要 件 最高裁平成25年 月16日判決を中心に 生保論集187号144頁(2014年)

ほか)。しかし,原因と結果という観点からすると,作用による事故発生とい う身体の外部での出来事と,当該事故による傷害発生といった身体の内部での 出来事を分けて考察する利点もなくはないように思われる。墜落事故は発生し たが被保険者は奇跡的に傷害を負わなかったという場面も考えられるからであ る。このように,事故の外来性を判断するうえで,作用と傷害の間に事故をお いて論ずることは一種の補助線的な役割を果たす面があると思われる。本稿で は最判平成19年 月 日の解釈に沿って,外来の事故とは,被保険者の外部か らの作用による事故であると解することを前提に考察をすすめる。

3) 最高裁判所裁判集民事243号315頁,判時2218号120頁,判タ1400号106頁。

(3)

互作用により中枢神経が抑制され,知覚,運動機能等が低下し,気道反射

(喉頭蓋及び声門の閉鎖並びに咳嗽反射)が著しく低下したため,嘔吐の際,

気管内に吐物を流入させてしまい,かつ自力で吐物を排出できず,もって吐 物の気道閉塞による窒息を起こしたという事案である。

これについて最判平成25年は, 誤嚥は,嚥下した物が食道ではなく気管 に入ることをいうのであり,身体の外部からの作用を当然に伴っているので あって,その作用によるものというべきであるから,本件約款にいう外来の 事故に該当すると解することが相当である。この理は,誤嚥による気道閉塞 を生じさせた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとして も,同様である として事故の外来性を肯定した。なお,最判平成25年の原 審である大阪高判平成23年 月23日(判時2121号134頁)4)は,外来の事故と 被保険者の身体の外部からの作用による事故 と解され,これは,外 部からの作用が直接の原因となって生じた事故をいうのであって,薬物,ア ルコール,ウィルス,細菌等が外部から体内に摂取され,あるいは,これに よって生じた身体の異変や不調によって生じた事故は含まないものと解する のが相当である。なぜなら,後者も含むと解すると,社会通念上 疾病 と 理解されている事例も含まれることとなって, 傷害 に対して保険金を支 払うという傷害保険の趣旨を逸脱する結果になるし, 外来の事故 によっ て,保険金支払の原因となる事故とそうでない事故を明確に区別しようとし た約款の趣旨に合致しないからである と判示し請求者側の主張をしりぞけ ていたことから,これとは正反対ともいうべき最判平成25年の解釈には大き

4) 大阪高判平成23年 月23日(判時2121号134頁)が言い渡された当時の吐物 誤嚥事故の問題をめぐる文献として,白井正和 判批 損害保険研究74巻 号 276‑277頁(2012年)竹濵修 判批 私法判例リマークス45号90頁,𡈽岐孝宏 判批 法セミ684号129頁,井上亨 判批 落合誠 =山下典孝編 保険判例 の分析と展開 (金判増刊1386号)106頁(2012年),山野嘉朗 吐物誤嚥事故 と傷害保険における外来性要件の法的評価 損保研究74巻 号(2012年),潘 阿憲 傷害保険における外来性要件の判断基準 吐物誤嚥事故の場合 損保研 究74巻第 号 頁(2012年)がある。

(4)

な注目が集まり,この解釈に疑問を呈する研究が多く出された5)。そして最 大の問題と思われる点は,同判決がそもそも何故に誤嚥が 身体の外部から の作用を当然に伴っている というのかという根拠を全く示していない点で ある6)。こうした中,今やその根拠についてはブラックボックス化された感 があり,保険実務の関心はもっぱら最判平成25年の判示を前提とした疾病免 責条項の適用に移っている様相である7)。しかしながら,傷害の原因である 事故の外来性判断の基準とその根拠を曖昧にしたままで疾病免責条項を論じ ることは法的不安定をもたらす8)。そこで,本稿では,これまで行ってきた 最判平成25年の議論の枠組みから一旦離れて,端的に誤嚥による窒息死は如 何なる場合も外来の事故による死亡に該当するというためには,どのような 解釈をとればよいのか,またその根拠は何かについて考察を試みるものであ

5) 最判平成25年の解釈をめぐる考察として,𡈽岐孝宏 判批 法学セミナー 704号113頁,植草桂子 傷害保険の外来性要件 飲酒後の吐物誤嚥事故に関す つの裁判例をめぐって 保険学雑誌621号173頁(2014年),山本哲生 外来の事故と吐物誤嚥(平成25年度重要判例解説) ジュリスト1466号116頁

(2014年),洲崎博史 吐物誤嚥事件と傷害保険における外来性 損保研究74巻 号 頁(2014年),潘・前掲注2) 生保論集187号121頁,天野康弘 判批 共 済と保険55巻12号34頁(2013年),拙稿 傷害保険事故の外来性と急激性との 関係 吐物誤嚥事故の裁判例をめぐって 損保研究75巻 号37頁(2013年)。

山野嘉朗 判批(平成25年 月16日) 事例研レポ281号 頁以下(2014年),

木下孝治 判批(平成25年 月16日) 私法判例リマークス(2015年・上)106 頁以下。

6) 潘・前掲注2) 生保論集187号142頁。

7) 中国出張中に宴会で過飲し嘔吐物誤嚥して窒息死した事案につき事故の外来 性を認めかつ疾病免責条項の適用を否定した東京高判平成26年 月10日(判例 集未登載)の裁判例批評である白井正和・損保77巻 号279頁(2015年)及び 清水耕一・事例研レポ290号 頁(2015年)を参照。

8) たとえば,被保険者が窒息死した直接原因たる事故の発生時点は何時なのか。

それは,誤嚥の時か,咳嗽反射にて吐物を排出できないことが確定した時か,

それとも気管内で気道閉塞を起こした時かを明らかにしておかないと,疾病免 責条項等適用の議論はどこの時点を起点に論ずればよいのかが定まらず,極め て不安定な中でバランスをとっていく議論を強いられることになる。

(5)

9)。そこでは,まず最判平成19年が判示する被保険者が負った傷害と相当 因果関係で結ばれる事故とはどのような事故を指すのか,また,その事故の 原因作用である 被保険者の身体の外部からの作用 とは何であるのかを今 一度確認しながら,吐物誤嚥事故と窒息死との関係について検討する。

.傷害と事故の間の相当因果関係

⑴ 最判平成19年の判旨

そこで,まず被保険者の傷害と相当因果関係で結ばれる事故とはどのよう な事故をさすのかについて確認する。

この点について,最判平成19年の調査官解説では,相当因果関係説の内容 につき ①原因と結果との間に条件関係(事実的因果関係)があることを前 提に,②その原因からその結果が発生することが相当と評し得る場合に因果 関係を肯定する説といえよう とするが,この相当因果関係説では, 傷害 の発生に複数の原因が併存することを否定するものではな いとする10)

しかし,このことは決して 外部からの作用 を惹き起した理由(原因の 原因=間接原因)と傷害との間に相当因果関係が認められれば,その間接原 因も外来性判断の際に考慮するという趣旨ではないと思われる。もし,その ような解釈をするならば間接原因が疾病によるときであっても傷害との間に 相当因果関係が認められる限り,これを考慮せざるを得なくなる。これでは,

最判平成19年が 被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたもの ではないことまで主張,立証すべき責任を負うものではない と判示した意 味が見失われてしまう。のみならず,同調査官解説では, 本件においては,

9) この問題については,拙稿・前掲注5) 43頁以下でも考察を行っているが,

そこでは基本的に最判平成25年の解釈に疑問を呈する立場で議論をすすめてい る。これに対して本稿では,最判平成25年の判示内容に沿って吐物誤嚥事例に おける事故の外来性を認めるには,従来の考え方のどこを改めればよいのかを 新たに考察するものである。したがって,本稿の理論構成は前稿のそれとは全 く異なる新規のものである。

10) 中村・前掲注1) 549頁。

(6)

外部からの作用と傷害の発生との間の因果関係の有無は争点となっていなか ったし, もちがのどに詰ったことによる窒息 と被共済者の傷害との間に 相当因果関係があることは,いかなる説を前提にしても肯定されると思われ る としていたことから,被共済者の持病と傷害との間の相当因果関係はそ もそも外来性判断に際しては考慮していなかったといえる11)

したがって,事故と傷害との相当因果関係の問題は,被保険者に傷害(死 亡)をもたらす決め手となった事故は何であったのかを見いだすことである と思われる。

⑵ 被保険者が傷害を負う決め手となる事故

そうすると,被保険者の傷害と相当因果関係で結ばれる事故(直接原因)

とは何かという問題が生じる12)

この点について,いくつかの説例で確認する。

たとえば,崖道を走行中の被保険者運転車両が道路を逸れて谷へ転落し死 亡した場合について考えてみる。この場合の被保険者の死亡原因としてまず 考えられるのは,谷底に車両が激突した衝撃による傷害であろう。しかし,

谷底へ転落した際,車は大破したが被保険者は衝突安全ボディーに守られて 無事であった。ところが,その直後に大きな岩が崖から崩れ落ちて来てフロ ントガラスを突き破って被保険者を直撃したことが致命傷になったという場 合も考えられる。また別の状況として,谷底へ転落する直前に被保険者運転 車両はセンターラインをオーバーしてきた対向車と衝突したことによって被

11) 中村・前掲注1) 550頁。ただし,ここの記述では 外部からの作用と傷害の 発生との因果関係の有無 について言及している点(事故の発生と傷害との因 果関係ではないのか),また本来窒息とは事故現象ではなく傷害そのものであ るのに, 窒息 と被共済者の傷害との間に相当因果関係があるという表現を とっている点(窒息ではなく気道閉塞ではあるまいか)の 点に疑問がある。

12) 被保険者の被った傷害が,身体内部の事情に起因するかどうかが問題となる 事案の類型別検討について伊藤雄司 判批(鹿児島地裁知覧支部平成23年12月

日) 事例研レポ280号 頁(2014年)参照。

(7)

保険者は既に瀕死の重傷を負っていたという場合もある。あるいは,被保険 者は走行中に重度の脳動脈瘤破裂を発症して意識が遠のいて操縦が出来なく なり谷底へ転落したのだが,転落前すでに被保険者はその回復不能な病状に あったという場合もある。

このように事故態様は様々に考えられる。そうした中で,被保険者に致命 傷(傷害)をもたらせた決め手となる事故は何であったのかを論じるのが相 当因果関係の問題ではなかろうか。つまり,これは事故発生に至るまでの作 用(出来事)の連鎖についての因果関係ではなく,文字通り事故と傷害との 間の因果関係の問題であり,したがって,何が傷害を被らせる決め手になっ たのか(直接原因であるのか)の問題であると考える13)

なお,最判平成19年以前の下級審裁判例ではあるが,通常人であれば健康 に異常を来さないといえる程度の低温環境下で,心臓病に持病がある被保険 者が作業をしていたところ心臓発作を起こして死亡したという事案において,

心臓発作の原因は,低温環境が被保険者の身体に及ぼした悪影響によるもの ではなく心臓病によるものだとして外来性を否定したが14),これも死亡との 相当因果関係を論じたものといえる。また,最判平成19年以降は,入浴中の 溺死はたとえ疾病の影響がかなり疑われても外来の事故と解してあとは疾病 免責の問題として扱われる場合が殆どであろう15)。しかし,入浴中の被保険 13) 死亡事例であれば,何が被保険者の命を奪ったのかの問題である。したがっ て,被保険者の死亡に疾病の影響があったとしても,その疾病単独で当該死亡 の結果をもたらせた可能性があると言えないならば,ここで問題とすべき疾病 ではない。この点において,伊藤・前掲注12) 頁の類型 にいわゆ る疾病が致命的なものであるのかの確認が必要と思われる。

14) 裁判例として,たとえば大阪地判平成 年12月21日判時1474号143頁では,

被保険者には 冠動脈硬化が見られ,これが同人の死亡に重大な影響を与えて いると考えられることを総合すると,同人の死亡当時の低温の気象は,日常生 活上普通に起き,通常人であればおよそ死亡には結びつかない出来事であった というべきである として事故の外来性を否定する判断をした。なお,山下友 信 保険法 (有斐閣,2005年)449頁注 ,洲崎・前掲注5) 119頁注18。

15) 被保険者の浴槽内での溺死について疾病免責条項を認めた事例について,深 澤泰弘 判批(最決平成25年 月11日,東京高判平成24年 月12日) 損保76

(8)

者が重度の(器質性)心筋梗塞を発症し浴槽に倒れ込み死亡した場合には注 意を要する。というのは,そのような重篤な病状であれば,たとえ倒れ込ん だ場所が浴槽でなく畳の上であっても早晩死亡した可能性がある。このこと が認められる場合には,やはり事故の外来性が問題になると思う。そのよう な場合は,溺水の程度と心筋梗塞の程度の比較において,どちらが被保険者 の死亡の決め手になったのかが請求原因上の問題として争われる。すなわち,

被保険者死亡の直接原因として相当因果関係で結ばれるのは,心筋梗塞か溺 水かが論じられることになる。そして,その相当因果関係で結ばれるのが心 筋梗塞だとしたら,もはや保険金請求の場面で溺水状態による窒息死という 余地はなくなる16)

⑶ 吐物誤嚥事故を窒息死の直接原因とみる場合の問題点

それでは,最判平成25年の事案において,被保険者の死亡(傷害)と相当 因果関係で結ばれる事故(直接原因)は何であろうか。これまで,それは吐 物誤嚥であると考えるのが一般的であったように思われる。確かに,吐物誤 嚥もそれ自体一つの事故である。しかし,次項で述べるとおり(後記 ⑵)

最判平成25年の判示を前提にすると,その直接原因たる事故は誤嚥の後に起 こった気道閉塞であると考えざるを得ない。誤嚥事故そのものは被保険者に 窒息という傷害をもたらせた決め手とはいえないからである。しかも,もし 誤嚥事故が直接原因だとすると最判平成25年の事案の場合には,どうしても その事故の外来性に疑問がでてくる。この点を,まず先に考察しておきたい。

巻 号311頁(2014年)。

16) 西島梅治 外来性要件の再検討 損保70巻 号25頁(2008年)は,保険者は 溺水(窒息死)の間接原因が疾病であったことを主張できる一方で,請求者側 が溺水と窒息死との相当因果関係を主張するのに対する否認として疾病が事故 の主要な原因であることも主張できるとされる。ただ,実務の実際において,

請求者側が被保険者の溺死を具体的に示す証拠の提出できる状況下では,保険 者が被保険者死亡の直接原因は疾病(持病等)であるとの理由つき否認をなす 余地は,ほぼないのが実情のようである。

(9)

前提として確認しておきたいことは,誤嚥が外来の事故だと言える場合も あり得る点である。たとえば,気道反射に異常がない者が,口を大きく開け て深呼吸をしたとき,空気中に浮遊していた虫や異物を誤って吸気してしま った場合である。あるいは,粘り気の極めて強い大きな餅を水も飲まずに一 挙に飲み込んだため,その餅が喉にへばりついて咽頭喉頭部で気道閉塞を起 こしてしまった。そのために新鮮な空気を求めて無理に大きく呼吸しようと したときに餅が気管に入り込んだというような場合である(最判平成19年の 事案は,この類の状況だったのではなかろうか)。

前者は,単に吸気した空気中の虫や異物が気道反射をすり抜けたことによ る誤嚥であり,後者は,餅の粘度が嚥下運動を阻害したことによる誤嚥だと いえるし,誤嚥前すでに餅という外部からの作用によって気道閉塞を催して いる事例である。このような場合は,事故の外来性を認めやすい。

しかし,最判平成25年の事案において被保険者は,喉頭蓋の閉鎖不全によ り吐物を誤嚥してしまったのである。この閉鎖不全の原因は,飲酒時精神薬 同時服用による副作用増強作用によって気道反射が著しく減弱していたこと による。これは,喉に詰まった餅の粘り気のような外力によるものではない。

また,吐物は正常な気道反射をすり抜けてしまうような物質ではない。被保 険者は気道反射機能それ自体に問題があったから誤嚥したのである。こうし た場合の誤嚥は,やはり内因性の事故と言わざるを得ない。それゆえ,最判 平成25年が,誤嚥は常に外部からの作用によるものだとする点には根本的な 疑問が残る。

.窒息死の直接原因

⑴ これまでの議論

以上を踏まえて,最判平成25年の事案における被保険者の窒息死の直接原 因について検討する。

まず,この事案では被保険者が誤嚥した吐物が多量であったため,誤嚥が 窒息死に直結した。それゆえ,これまでの私見は同人が窒息死した直接原因

(10)

は誤嚥事故であると捉えていた。しかも,その吐物誤嚥それ自体の外来性に は疑問を呈する一方で,なおも事故の外来性を見出そうとする解釈を試みて いた17)。しかし,端的に吐物誤嚥による窒息死の事案は,如何なる場合も外 来の事故による死亡に該当するというためには,やはりこれまでの私見から 発想を転換する必要がある。その際,念頭に置くのは誤嚥と窒息は相即不離 の関係にはないという点である。

⑵ 誤嚥事故と気道閉塞事故

以下,順を追って説明していきたい。

まず,吐物誤嚥事故が窒息死の直接原因にならない点についてである。

一般論として,たとえば被保険者が運転する自動車が道路を逸れて谷へ転 落したら負傷するのが必然なように思われるが,必ずしもそうとはいえない。

谷底へ至るまでの木々の間に挟まれて止まったり衝突安全ボディーに守られ たりして被保険者が偶然に無傷の場合もあり得る。

誤嚥についても,その量が僅かであれば,窒息死には至らない。もちろん,

誤嚥性肺炎に罹患するかもしれない。しかし,誤嚥性肺炎は事故の急激性の 要件を満たさないであろう。また,誤嚥した吐物が僅かであれば,咳嗽反射 にてこれを気管外へ排出することも不可能ではない。仮にある程度の量を誤 嚥しても,ベッドサイドであれば直ちに吸引,気道確保と100%酸素換気に よる救命措置が講じられて寛解するかもしれない。要するに,これは偶然に 左右されることとはいえ吐物誤嚥事故だけで直ちに窒息となるわけではない のである。被保険者は,誤嚥の後,吐物による気道閉塞があって初めて窒息

17) 自省すれば,最判平成19年は, 事故 と 傷害 との間に相当因果関係の あることを求めているが, 外部からの作用 と 事故 との間が相当因果関 係で結ばれるべき旨については全く判示していない。しかるに,拙稿・前掲注 5) 46頁では,事故と相当因果関係で結ばれる作用については事故の直接原因 として考慮すべきとの考え方をとっていた。しかし,吐物誤嚥事故を起点とし て事故原因をみるこの考え方では,事故の直接原因と間接原因の区別が難しく なる点は率直に認めなくてはならない。

(11)

という傷害に至るのである。つまり,被保険者が窒息死に至るのは相当量の 吐物を誤嚥したために気道閉塞を起こした場合のみである。

⑶ 窒息死の直接原因である気道閉塞事故

以上のことから,被保険者が窒息死したのは,気管に流入した吐物が気道 を閉塞する事故が発生したからである。だからこそ,被保険者は窒息という 傷害を被って死に至ったといえる。したがって,最判平成25年の事案におい て被保険者に窒息死をもたらした決め手は気道閉塞事故である。ゆえに,こ れが窒息死の直接原因である18)。すなわち,被保険者の窒息死(傷害)の直 接原因として相当因果関係があると認めるのは,あくまでもその直前の気道 閉塞事故のみと考えざるを得ない。

このような考え方に対しては,被保険者が窒息死に至るまでには様々なプ ロセスを経てきたことを考慮しなくてよいのか。それを一切考慮せずに,気 道閉塞事故のみを傷害の直接原因とみてよいのかという疑問が生ずるかもし れない19)。しかし,最判平成19年によれば,被保険者の傷害と相当因果関係 で結ばれる事故は,その傷害をもたらす決め手となった事故でなくてはなら ない。その傷害をもたらすことに寄与しただけの間接原因たる作用ないし事 故は外来性判断の際に考慮すべきでない。そして,誤嚥も窒息傷害との関係 18) もっとも,飲酒時精神薬同時服用の副作用増強事故にて呼吸筋が麻痺し正常 な呼吸ができなくなった場合には,これが直接原因となって被保険者が窒息死 する可能性はある。しかし,本件でそのような事実は認められていない。なお,

被保険者が中国出張中に宴会で過飲し嘔吐物誤嚥して窒息死した事案について の東京高判平成26年 月10日(前掲注 参照)では,控訴した保険者のうちの 一社から被保険者は 吐瀉物を誤嚥して気道閉塞が生じ,窒息したことではな く,急性アルコール中毒による呼吸麻痺によるものであるから,外来性の要件 を満たさない との主張がなされていたが認められなかった。

19) 洲崎・前掲注5) 120頁では, 吐物が気道に入ることのみをもって窒息の直 接原因たる事故とみるのではなく,嘔吐し,気道に流入した吐物を排出できな かったことも同等に直接原因たる事故になるとみるべきであろう との指摘が なされるが,誤嚥事故と気道閉塞事故を一つの事故としてみると,結局,気道 反射減弱による誤嚥が内因性の問題として絡んでくることになる。

(12)

では間接原因と解することは前述したとおりである20)。かくして,被保険者 の窒息死の直接原因は端的に気道閉塞事故だと考える。

.気道閉塞事故の外来性

⑴ 誤嚥と溺水

それでは,その気道閉塞事故に外来性が認められるであろうか。この点に ついては,溺水による窒息死(溺死)の場合と比較すると明確になる。

溺水とは,肺に本来入ってくるはずのない水などの液状の異物が侵入して きて窒息を伴う低酸素症を起こす傷害の一種である21)。さらに,本稿では気 管(支)内に液体が充満した状態のことを 溺水状態 と呼ぶことにする。こ の溺水状態は,新鮮な空気を吸気しようとした際,咽頭喉頭部に滞留した水 を誤嚥して起こる。つまり,誤嚥なくして溺水,溺死はあり得ないのである。

この点,吐物誤嚥の場合も,吐物を体外へ排出しきれずに咽頭喉頭部で滞留 させてしまい息苦しくなって不意に吸気しようとした際に吐物を気管に流入 させてしまう点では溺水状態と共通点がある。そうすると,水泳中に溺れた 場合も吐物誤嚥の場合も,吸気に際しての誤嚥であるという点では同じであ る。しかも,窒息死する直接原因は,これらのいずれの場合も気道閉塞事故 である。

20) ただし,吐物誤嚥事故の場合であっても誤嚥したものが消化管内容物ではな く,たとえば食道静脈瘤破裂にて大出血した吐血であるような場合は事情が異 なってくる。というのは,このような場合,気管内気道閉塞による窒息死かそ れとも食道動脈瘤破裂による失血死なのかが相当因果関係の問題として争われ 得るからである。

21) 溺水 には 湿性溺水(wet drowning) と 乾性溺水(dry drowning)

ある。前者は,誤嚥した液体が気道内に充満し,肺胞内でのガス交換が障害さ れ,低酸素状態から死に至るものである。後者の乾性溺水とは,気道内に液体 が入るためではなく誤嚥した液体の刺激により喉頭痙攣が誘発され窒息から死 に至る場合である( 医学書院 医学大辞典 第 版 (2009年) 溺水 の項)。

(13)

⑵ 事故の外来性の要件

ところで,最判平成19年は,事故の外来性の要件として 被保険者の身体 の外部からの作用による事故 であることを求めている。しかし,かかる作 用と事故との間が相当因果関係で結ばれるべきであるとは一言も判示してい ない。そうだとすると,文字通り事故を起こした直近の原因作用にのみに着 目して事故の外来性を論ずると解釈することも可能であると考える22)

この点を踏まえて気道閉塞事故について考える。まず,水や吐物が気管内 に流入すれば即窒息となるわけではなく,気道閉塞が起こってはじめて窒息 となる。しかも,気管内腔は医学上体外と位置づけられる23)。そして,その 気管内腔で水や吐物という外来の異物が充満するが,これを捉えて外部から の作用ということはできまいか。これができるとすれば,その意味で最判平 成25年にいう 誤嚥は,…身体の外部からの作用を当然に伴っている とい うべく24),これによって発生する気道閉塞事故の外来性を認めることは可能

22) これに対して,白井・前掲注4) 判批(大阪高判平成23年 月23日) 276頁 は, 事故の発生についての原因として考えられる事実が複数存在する場合に,

それらの事実のうち,事故の発生と事実的因果関係および相当因果関係が認め られるものについては,外来性の有無を判断するにあたって考慮すべき事実に 含まれると解してよいように思われる とされる。この説によると, 考慮す べき事実 の範囲全体を一つの事故として捉える形になって,実質的には事故 直近の原因作用のみならず,その作用を惹き起した理由(間接原因)をも一つ の事故の中に取り込むことになってしまう場合があり得る。そうなると,疾病 起因性をも考慮せざるを得なくなる場合が出てくるように思われる。すなわち,

この説によると例えば気道反射が減弱する器質性の疾病に罹患し治療中の被保 険者が,無症状のうちに進行した原発性の脳の器質性疾患によってある日突然 嘔吐中枢が刺激されて嘔吐し吐物誤嚥した場合,他に 考慮すべき事実 がな ければ事故の外来性を認めることは困難となる。それゆえ,誤嚥による窒息死 は如何なる場合も外来の事故による死亡だとはいえなくなってしまう。

23) 天野康弘 判批 事例研レポ260号 頁。

24) これは,誤嚥それ自体が外部からの作用によって発生するという意味ではな く,誤嚥は吐物(異物)の気管内流入作用=外部からの作用を伴っているとい う意味に捉えるものである。

(14)

であると思われる25)

すなわち,気管の外側で生じた出来事(被保険者の自己運動の有無等26) は一切考慮せずに27),吐物が気管内に流入した時以降を局所的に見て事故の 外来性を肯定しようという考え方である28)

25) 溺死事例と吐物誤嚥事例に共通性を見出し事故の外来性を認めようとする考 え方は,吐物誤嚥事故に外来性を認める潘教授の旧説においても既に指摘され ていたところである。すなわち,潘阿憲 傷害保険契約における傷害事故の外 来性の要件について 法学会雑誌46巻 号251頁(2006年)では,嘔吐物の気 道閉塞による窒息という点に着目すれば,それは被保険者が入浴中に溺水して 窒息死した場合とパラレルにとらえることができる,としておられた。しかし,

その後ドイツ法との比較法的検討および大阪高判平成23年 月23日(最判平成 25年の原判決)の解釈を踏まえ食物摂取過程における誤嚥事故や溺水事故など とは区別して考える必要があるとして事故の外来性の否定説に改説された(潘 阿憲 傷害保険における外来性要件の判断基準―吐物誤嚥事故の場合 損保研 究74巻 号(2012年)28頁注61)。これに対して,本稿は,気管内腔が体外と 位置づけられることを踏まえて,潘教授の旧説の方向性をさらに一歩進めて気 管外での出来事を一切考慮せずに気管内での事故直近の原因作用のみに着目し て事故の外来性を肯定しようとする立場である。

26) 自己運動の有無について,潘阿憲・前掲注2) 139頁参照。そして本稿は,自 己運動による誤嚥か否かは,吐物気管内流入充満作用を惹き起した理由(間接 原因)の問題であり,事故の外来性判断の際に考慮しないという立場である。

27) ただし,水は体外の物質であるが,吐物は食塊が消化する過程を経た体内物 質である。この吐物が体外に排出されることなく体内に留まっているうちに体 内で気管内に吸入され気道閉塞事故を発生させたという点を強調すると事故の 外来性がゆらぐかもしれない( 29 A. L. R. 4 th 1230, §2[a] , §4[b].)。し かし,我が国の裁判所はそのような観点からの解釈は展開していない。もちろ ん,肺の動脈が破裂して大出血を起こし血液が気管(支)内に充満して気道閉塞 を起こした場合であれば,これは気管の内側からの作用による気道閉塞事故と いうことになり内因性の事故になるといえよう。しかし,気管の内腔はなお体 外として位置づけられているのみならず,そこへ気管外から流入してきた異物 によって気道が閉塞されてしまう事故であるならば,最判平成19年の解釈を前 提にする限り,端的にその外来性を認めてよいように思われる。

28) 気管内腔は,身体の外部であるなどいった医学にしか通用しないような基準 で保険約款を解釈するのは,保険約款の本来的解釈手法(山下・前掲注12) 118頁)に反するとの指摘がある(潘・前掲注2) 143頁以下,山野・前掲注5)

(15)

⑶ 小 括

以上のことから,被保険者の窒息死(傷害)と相当因果関係で結ばれる決 め手となる事故(直接原因)は気道閉塞事故である。もちろん,これに先立 つ吐物誤嚥も一つの事故ではあるが,これは気道を閉塞させた吐物の気管内 流入作用を惹き起した理由(間接原因)の一つにすぎず窒息死の決め手には ならない。そして,気道閉塞事故は,吐物の気管内流入充満作用という外部 からの作用によって発生したと認められることから29),被保険者の窒息死は 外来の事故によるものといえる。

.疾病免責条項の適用

⑴ 疾病と病気

以上の検討により,最判25年の事案では,被保険者に窒息死をもたらした 直接原因は気道閉塞事故であるが,その間接原因と位置づける吐物誤嚥は,

既に述べたとおり内因性の事故と考えざるを得ない。そこで,疾病免責条項 の適用が問題となる。この点について,以下検討する。

疾病免責条項については,東京高判平成26年 月10日(前掲・注 参照)

が,次のように判示する。 本件各保険契約については,……いずれも被保 険者の疾病によって生じた傷害に対しては,保険金を支払わないものと定め られているところ(本件特約条項等),ここで,疾病とは,海外旅行保険約 款において,急激かつ偶然な外来の事故によって被った身体の傷害以外の身 体の傷害をいうものと定められており,他の本件グループ傷害保険契約及び 本件普通傷害保険契約には,これに応じた定義が定められてはいないものの,

契約の性質に共通する面があるため,本件海外旅行保険契約におけるものと

頁)。その一方で,医学的知見を援用する最判平成25年の解釈は,結果的に 保険契約者保護に資するという点も見逃すべきではないともいわれる(山野・

前掲同頁)。

29) この点,腸閉塞は,腸捻転によって腸管そのものが異常を来して発症する。

腸内容物がその病変部位に蠕動によって送られて来ても,このこと自体は何ら 異常でない。異物でもない。それゆえ,これは内因性の閉塞だといえる。

(16)

同義のものと認めることができるのであって,単に 病気 というよりも広 い概念であると解すべきである とする。しかし, 疾病 も 病気 もと もに医学的には 疾患 と同義の用語として説明されるのが一般である30) したがって,同判決にいう病気と疾病の差は,一般人が認識する病気と医師 が診断する疾病との違いといった趣旨であるのかもしれないが判然としない。

⑵ 被保険者の身体の動作

いずれにしても,最判平成25年の事案における被保険者の窒息死の直接原 因である気道閉塞事故は,吐物の気管流入作用によって発生した。その流入 作用を惹き起したのは,誤嚥である。その誤嚥が内因性の事故だとすれば,

そこを起点に疾病免責条項適用の検討が開始される。これがもし,吐物誤嚥 事故に外来性を認めると,誤嚥事故直近の原因作用(嘔吐や気道反射)もま た 外部からの作用 だということになり疾病免責条項適用の根拠事実から 外れてしまう。そうなると,疾病の根拠はそれよりもさらに遠くの過去の事 実に求めざるを得ない。これでは,安定的な解釈が困難となる。これに対し て,本稿では,吐物誤嚥事故が内因性の事故であると解することを前提に以 下議論を進める。

まず,疾病免責条項適用の決め手は,事故直近の原因作用(被保険者の身 体の外部からの作用)を惹き起こした理由(間接原因)が疾病に起因するか どうかである。そして,その間接原因は,一つの作用ではなく事故直近の原 因作用に至るまで急激的に連鎖する幾つかの出来事(作用・事故)の総和で 30) 疾患とは, 患者が自覚する不快感,痛み,脱力感などの症状と,原因,徴 候,経過から客観的に証明される臨床病像からなる。異常な機能的変化あるい は器質的変化をいう。また 個体あるいは身体の一部が,何らかの原因に対し て起こす生体反応の総和 と考えることもできる… と定義づけられている

( 医学書院 医学大辞典第 版 (2009年) 疾患 の項)。この定義からも窺え るように,疾病と病気との違いを議論してもあまり意味がない。結局は,法規 と約款と証拠に基づいた保険者による疾病起因性の主張,立証にかかっている といえる。清水・前掲注7) 8 頁は,疾病保険における保険金支払事由である 疾病概念との関係も考慮しなければならないであろうとする。

(17)

ある。しかも,その間接原因に被保険者の疾病が関わってくる場合は,より 複雑になる。なぜなら,被保険者の身体の不調によって外部からの作用が惹 起されるためには,まずは被保険者自身の動作が必要だからである。そして,

その動作によって外界に何らかの出来事を誘発し,そこから被保険者に及ぶ 事故直近の原因作用へと急激的に連鎖していく。

たとえば,被保険者が自動車運転中に心臓発作を起こして操縦不能となっ て道路から谷へ転落したという場合や,立ってシャワーを浴びているときに 心臓発作を起こして倒れ込んだ際に頭を強打したという場合である。これら の場合,自動車の操縦が出来なくなったり床に倒れ込んだりするという被保 険者の動作があったからこそ,自動車の谷への転落や頭を強打するといった 外部からの作用が惹起されたのである。ベッドで就寝・安静時に心臓発作を 起こしても,それだけでは外部からの作用は惹起されない。したがって,被 保険者の動作から事故直近の原因作用に至るまで急激的に連なる出来事の連 鎖をすべて解明しないと,当該事故直近の原因作用を惹き起こした理由が,

単なる偶然か疾病に起因するものか,それとも被保険者の故意または過失に よるものかが特定できない31)

そこで,この点について最判平成25年の事案に則して検討する。

⑶ 疾病免責条項が適用される場合

まず,事実の経過の重要点は次のとおりである。 番目に被保険者は飲酒 時に精神薬を同時服用した。 番目にその精神薬の副作用が飲酒(アルコー

31) 最判平成19年が出されるまでは,請求者側が,本文で述べた事実関係の解明 をしないと事故の外来性の証明は尽くせなかった。ところが,最判平成19年は,

事故を発生させた 直近の原因作用 のみに着目して,それが 被保険者の身 体の外部からの作用 であると請求者側が証明しさえすれば事故の外来性は認 められることになった。この解釈により,その事故直近の原因作用を惹き起し た理由(間接原因)が疾病であるのか否かの点は事故の外来性判断の際に問わ れない。しかし,疾病免責条項の適用に際しては,まさにその点を明らかにし ないと同条項適用の可否は判断できない。

(18)

ル摂取)のために増強された。 番目にその副作用増強によって中枢神経が 抑制され気道反射の著しい減弱という神経症状が出現した。 番目に被保険 者は飲酒による消化器の不調により嘔吐した。 番目に,気道反射の著しい 減弱のため吐物が咽頭喉頭部を通過する際に喉頭蓋が十分に閉鎖せず誤嚥し た。 番目に,気管へ流入した吐物が多量であったため咳嗽反射にて排出す ることもできず気道閉塞を起こした。 番目にその気道閉塞により窒息・低 酸素症を起した。

こうして被保険者は窒息死したのであるが,そこに至るまでの事実経過の 端緒は飲酒時精神薬同時服用という外部からの作用である。問題は,その端 緒から死に至るまでの推移の中で事実と事実の間が,被保険者の疾病の作用 によって繋った部分はあるのか,という点である。たとえば, 番目の事実 と 番目の事実との間で,通常その程度の飲酒をしていても当該精神薬の副 作用は増強されないが,被保険者は何某かの持病の作用によってその副作用 が増強されてしまった。その影響により 番目の事実と 番目の事実が繋が ったといえる場合。あるいは, 番目の事実と 番目の事実の間について,

健常者であればたとえ精神薬の副作用が増強しても,それによって気道反射 が著しく減弱することはないはずなのに,被保険者は持病のためにその著し い減弱を来していたために 番目から 番目の事実が繋がったといえる場合 などである。もし,そのようにいえる場合には,疾病の作用があったからこ そ先行の事実から後行の事実が発生したといえるのであって,疾病の作用が なければ先行事故が発生しても後行の事実は発生しなかった。そういう疾病 の存在が保険者において主張,立証されるならば疾病免責条項が適用される と考える。

⑷ 疾病免責条項の適用が難しい場合

これに対して, 番目から 番目の間について,たとえ健常者であっても 当然に副作用増強事故は起こり得ると言える場合,あるいは 番目から 番 目の間について,健常者でも,そのような副作用増強があれば気道反射の著

(19)

しい減弱があっても不思議ではないと言える場合には,疾病免責条項の適用 は難しいと考える。というのは,こうした飲酒時精神薬同時服用による副作 用増強や気道反射の著しい減弱といった身体の不調は,健常者が誤って有毒 物質を摂取した結果身体の不調を来して,それが原因で連鎖的急激的に何ら かの外来の事故を起こし負傷した場合の当該身体の不調と同じに捉えてよい と思われるからである32)。すなわち,この場合の被保険者の身体の不調は外 部からの作用によってもたらされたものであって,もともとの疾病(持病 等)の作用によってもたらされたものではないからである。そのような身体 の不調は,疾病免責条項にいう疾病にはあたらないと考えられる。

要するに,外部からの作用によって身体の不調を来し,もってその不調に より連鎖的急激的に外来の事故を招いたという事案における疾病免責条項の 適用は,慎重ならざるをえない。

⑸ 飲酒と事故との間の連鎖性急激性

以上のことから,先行する事故が発生した後,連鎖的急激的に後行の事故 が発生したといえる場合,つまり両事故が接着して一体としてみることが出 来る場合には,後行の事故の原因を,先行する事故の発生原因作用に求めて よいはずである。一般例を挙げれば,健常者である被保険者がホームから不 意に線路に転落した精神的ショックで(機能性の)狭心症のような息苦しさ を覚えて身動きがとれなくなった。そこへ列車が入線してきて衝突し轢過事 故が発生したという場合,その衝突を惹き起した理由は,身動きがとれなく 32) もっとも,この点については,洲崎・前掲注5) 121‑122頁が, 有毒物質や 大量のアルコールの摂取が吐物誤嚥の原因となる場合,その影響の仕方は 物 理的 というよりも 化学的 であるかもしれないが, 化学的 ではあって も体外からの作用であることには違いはない と指摘されるのに対して,潘・

前掲注2) 147‑148頁は,これは毒物の皮膚接触による傷害とは違って,むしろ 身体内部からの作用に過ぎないと反論される。しかし,経皮的な毒素吸収でも 身体の不調を来し得ること,消化管腔内も身体の外部であること,及び大量の アルコール摂取は身体に有害であることからすれば,多量の飲酒による身体の 不調も外部からの作用によるものと捉える余地があるように思われる。

(20)

なったという身体の不調ではなく,端的にホームへの転落であるとみるべき であろう(ただし,事故の外来性そのものは,当該衝突の事実のみの主張,

立証で肯定され得るものと解する)。そうだとすると,健常者である被保険 者が,多量に飲酒したために身体不調を来して嘔吐し,吐物誤嚥した場合で も,多量の飲酒(外部からの作用)による身体の不調(傷害)と,その不調 による嘔吐・吐物誤嚥の二つの出来事(事故)が接着し一体的にみることが できるならば,吐物誤嚥事故の原因は多量の飲酒行為という外部からの作用 に求めてよい33)。したがって,この場合疾病免責条項は適用できないと思わ れる(ただし,重度のアルコール依存症や精神障害等による病的飲酒行為の 場合は別である)34)。その一方で,被保険者が泥酔し睡眠した後も二日酔い 酩酊状態のために千鳥足歩行をして転倒し交通事故に遭ったなどという場合 には,飲酒による泥酔と交通事故との間に連鎖性急激性を認めることが難し くなるであろう。そうすると,その事故の原因である千鳥足歩行が疾病によ ることを,保険者が主張,立証することにより疾病免責条項適用の可能性が ある。いずれにしても,疾病免責条項の適用があるのは,もともとの疾病

(持病等)の作用が身体の不調を来す原因となって事故を起した場合である と考えるものである。

33) なお,最判平成25年のごとき事案においては,仮に吐物の気管内流入充満作 用の外来性が否定されたとしても傷害の概念を広く解することによって事故の 外来性の認められる余地があると思う。それは,飲酒時精神薬同時服用による 副作用増強を一つの外来の事故と捉えて,かつ,その事故によって被保険者が 被った中枢神経の抑制,気道反射の減弱,嘔吐及び誤嚥といった身体の不調す べてを傷害の範疇に含めてよいと解せる場合である。このような場合には,外 来事故先行形の事例(伊藤・前掲注12) 頁 参照)となって,事故の外来性 が認められ得るように思われる。

34) 最判平成25年の事案に対する疾病免責条項適用の可否は,裁判所が認定した 事実関係だけでは判断が難しい。というのは,その差戻審において疾病免責条 項の適用が議論されたようであるが,比較的低額(訴額の1/4)で和解したと のことだからである(山野・前掲注5) 頁の指摘参照)。

(21)

.おわりに

以上を要するに,最判平成19年は,被保険者が被った傷害と当該事故との 間に相当因果関係のあることを求めている。しかし,同判例のいう外来の事 故とは 被保険者の身体の外部からの作用による事故 と定義するのみであ る。つまり,事故と相当因果関係のある原因作用のすべてを外来性判断の際 に考慮せよ,などとは一言も言っていない。この判旨を詰めていくと,外来 性判断の対象となる作用は,傷害の決め手となった事故直近の原因作用のみ と解することになる(上記 ⑴以下)。そして,その原因作用を惹き起した 理由(間接原因)の疾病起因性は,外来性判断の際には一切考慮せず,疾病 免責条項の適用の問題として検討する,という解釈も成り立つ。この解釈を 最判平成25年の事案にあてはまめると,被保険者窒息死の決め手となったの は気道閉塞事故である(上記 ⑶以下)。この事故直近の原因作用は,吐物 の気管内流入充満作用である(その外来性につき上記 )。もちろん,吐物 誤嚥も一つの事故といえるが,これは気道閉塞事故を惹き起した理由(間接 原因)にすぎず,事故の外来性判断の対象にはならないということになる。

疾病免責条項は,被保険者の疾病により事故直近の原因作用が惹き起こさ れたこと,又はある作用が,被保険者固有の疾病(持病等)の影響によって 急激的に別の作用を惹起したという連鎖が生じ,もって事故の発生に繋がっ たことを保険者が主張,立証した場合に適用できると考える(上記 ⑶)。

いずれにしても,外来性の判断基準となる 外部からの作用 の対象は,

事故直近の原因作用のみに限局する。これ以外の原因事実すなわち事故と相 当因果関係のある事実は,すべて疾病免責条項の適用判断に追い遣ってそこ で検討するものする。そこまで外来性の要件を形式的なものとする方向に解 釈を徹底しないと,端的に吐物誤嚥による窒息死は如何なる場合も外来の事 故に該当すると解することはできないと考える。

(筆者は東北学院大学法学部准教授)

参照

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