消費者契約法 4条における事実 に関す る誤認
堀 竹 学
1.はじめ に
2 重要事項 の意義
(1)消費者契約法4条4項の規 定
(2)裁半J″J
(3)学説
(4)私見
1)消費者保 護 の必要性 2)拡 張解釈 の方 法
3「不 利益事実 の不告知J固有 の要件1(先行行為)
(1)先行行為 の必要性
(2)裁半1伊J
(3)学説
(4)私見
1)事業者 と消 費者 の情報格差 2)民 法96条 の沈黙 の詐欺 との比較
4「不利益事 実 の不告知」 固有 の要件2(事業者 の故意)
(1)故意 の必要性
(2)裁半」伊!
(3)学説
(4)私見
1)事 業者 の情 報提供努力義務 2)不 実表示 の民法改正 の動 向
5 お わ りに
1.はじめ に
消費者契約法4条に基づ く消費者の取消 しは、①誤認による消費者契約の申込み または その承諾の意思表示 (同条1項お よび2項)に姑す るもの と、② 困惑による消費者契約の 申込みまたはその承諾の意思表示 (同条3頂)に対するものに大別 される。後者の事業者 の困惑惹起行為 は、事業者が消費者の住居等か らの不退去 (同条3項 1号)や事業者が消 費者 を勧誘場所 に監禁 (同条3項 2号)する ものであ り、事業者が消費者 に消費契約の締 結 について勧誘する場所的、精神的環境 に関するものである。 これに対 し、前者の事業者 の誤認惹起行為 は、消費者の消費者契約の内容に関するものであるので、消費者契約 によ
り直接的であるといえる。
誤認による消費者契約の申込み またはその承諾の意思表示 には、①事業者が重要事項に
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ついて事実 と異 なることを消費者 に告げる行為 に基づ くもの (同条1項 1号)、 ②事業者 が消費者契約の 目的 となるものに関 し、将来 における変動が不確実な事項 につ き断定的判 断を提供す る行為 に基づ くもの (同条1頂 2号)、 ③事業者が重要事項 について消費者の 不利益 となる事実 を消費者 に告 げない とい う不作為 に基づ くもの (同条2項)の 3種類が 規定 されている1)。 順 に不実告知 (同条1項 1号)、 断定的判断の提供 (同条1項 2号)、
不利益事実の不告知 (同条2項 )と呼ばれるものである。
これ らの規定は、消費者契約法4条1項が、事業者の作為 に基づ くものであるのに対 し、
同法同条2項は、事業者の不作為 に基づ くものであると分類で きるD。 しか し、事業者の 事実に関す る誤認惹起行為 に基づ くもの (同条1項 1号お よび同条2項 )と事業者の判断 に関す る誤認惹起行為 に基づ くもの (同条1項 2号 )とい うようにも分類 で きる°。 この 分類 を消費者側の立場か ら見れば、事実の関する誤認に基づ くもの と判断に関する誤認に 基づ くものに分類で きるといえる。
ところで、消費者契約法は、そ もそ もの立法趣 旨である消費者 と事業者の格差 を考慮 し て問題解決 を図ろうとす るものである°
。す なわち、消費者契約法の 目的 を示 した同法1 条は、「消費者 と事業者 との間の情報の質及 び量並びに交渉力の格差」 に鑑み、消費者契 約における両当事者の間で意思表示が形式的に合致 していて も、それ らの表示か ら客観的 に推断 される意思の内容が、消費者の真意 とは必ず しも合致せず、消費者契約に トラブル が生 じていることに着 目する。そ して、その格差か ら消費者 に自己責任が問えない場合に、
消費者 を保護 して、その トラブルを解決 しようとするものである。
そこで、本稿では、事業者 に姑 し、契約 について弱者である消費者の 自己責任 を問えな い と考えられるのはどこまでか とい う観点で、消費者の誤認 に関する消費者契約法4条の 要件 について検討 してみたい と思 う。 したがって、消費者側の視点か ら、事実に関する誤 認 と判断に関する誤認 とい う分類 の上 に立つ。すなわち、事業者の事実 に関す る誤認惹起 行為 に基づ くもの (同条1項 1号お よび同条2項 )と事業者の判断に関す る誤認惹起行為 に基づ くもの (同条1項 2号 )とい うように分類 した ものに従 うものである。そ して、本 稿では、 この うち、課題お よび実際の裁判例が多い事実に関す る誤認、具体的には、消費 者契約法4条 4項の重要事項の意義、同法同条2項の事業者の先行行為お よび過失の要件
について、検討す る。
この点、消費者契約法の立法担 当である内閣府国民生活局消費者企画課 は、同法4条の 適用範囲について、条文の文言 にかな り厳格 に解 している°。 これに対 し、学説 はかな り 緩和 して解 しようとしている°。 また、裁判例では学説の考 えに近 く緩和 して考 えるもの が多い。 これ らの議論の状況、裁判例 を踏 まえて検討 してみたい と思 う。
なお、近時盛 んに議論 されている民法改正 において、民法 (債権法)改正検討委員会で は、法律行為 に関す る規定で、民法 に消費者契約法の一般化 と統合が提案 されているの。 そ して、消費者契約法4条の誤認 による意思表示の取消 しについて も民法の中に取 り込む ことが提案 されている°。本稿 で も、同委員会の提案内容 について検討 してみたい と思 う。
2.重要 事項 の意 義
(1津肖費者契約法4条 4頂の規定
消費者契約法4条 1項 1号 (不実告知)および2頂 (不利益事実の不告知)は、消費者
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が消費者契約の申込み またはその承諾の意思表示 を取 り消す ことがで きるのは、次の場合 と定めている。その場合 とは、不実告知については、事業者が消費者契約の締結に勧誘す るに際 し、消費者 に対 し、重要事項について事実 と異 なることを告げ、それにより消費者 がその告げ られた内容が事実であると誤認 した場合である。 また、不利益事実の不告知に ついては、事業者が消費者契約の締結に勧誘するに際 し、消費者 に射 し、重要事項 または 当該重要事項 に関連する事項 について当該消費者の利益 となる旨を告げ (先行行為)、 かつ、
当該重要事項 について当該当事者の不利益 となる事実 (当該告知 により当該事実が存在 し ない と消費者が通常考 えるべ きものに限る。)を故意に告げず、それにより告げられなかっ た事実が存在 しない と誤認 した場合である。
ここで両規定 に示 されている重要事項は、同条4項にその意義が定め られている。同条 同項 によれば、重要事項 とは、消費者契約 にかかる①物品、権利、役務、その他の当該消 費者契約の 目的 となるものの質、用途その他の内容 (同条同項1号)、 または②物品、権利、
役務、その他 の当該消費者契約の 目的となるものの対価その他の取引条件 (同条同項2号)
に関す る事項であって消費者の当該消費者契約 を締結す るか否かについての判断に通常影 響 を及 ぼすべ きものをい うとしている。 この重要事項の条文の文言上の定義では、消費者 契約の客体の内容や取引条件等、消費者契約の内容に関するものに限定 されることになる。
そ うす ると、消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示 の形成過程である動機が含 ま れないことになる。 しか し、消費者が誤認す る場合 には、動機 に誤認が生 じていることが 多い。 この消費者契約 にかかる意思表示の動機 も含 まれず、消費者は消費者契約法4条に 基づ く取消 しをで きないのか問題 となる。
(2)裁半U'」
重要事項の意義 について、裁判例は、公表 されているものに全部で9件あるが、すべて 条文の文言 に厳格 に解 さず、その適用 を広 げて解釈 している。不実告知に関す る裁判例6 件 と不利益事実の不告知 に関す る裁判例3件とに分けて紹介す る。
まず、不実告知 に関す る裁判例 として、第1に、川越簡判平成13年7月18日消費者法 ニュース60号 66頁は、事業者か らの旅行情報提供サービス会員の入会金の支払請求に対 し、
自社 の割賦払いであるかの ような説明が、不実告知であった ことについて、消費者契約法 4条 1項 1号による取消 しを認めている。 これは、入会金 とい う対価その ものではな く、
その入会金の支払い方法 につ きサラ金か らの借入が条件であるとい う契約締結の動機 に関 わる部分であるのに、取消権 を認めている。
第2に、千葉地判平成15年10月 29日消費者法ニュース65号 32頁は、主債務者が、実質的 借主が誰であ り、主債務者の支払能力 を秘匿 し、かつ融資金の使用 目的お よび代金の支払 い方法 について虚偽の事実 を告げたことについて、契約上の主債務の内容だけでな く、主 債務者ではないこれ らの実質的借主、主債務者の支払い能力、融資金の使用 目的、代金の 支払い方法 なども重要事項 としている。金銭消費貸借契約の内容その ものでな く、その背 景等、契約締結の動機 に関わる部分 も重要事項 に含めている。
第3に、大阪高判平成16年4月22日消費者法ニュース60号156頁は、一般市場価格 は41万 4,000円である と不実告知 を受けて29万円で購入 した消費者 に消費者契約法4条 1頂1号 の取消 しを認めた。 これは、売買契約の代価その ものでない一般市場価格 も重要事項 とし ている。い くら値引 きされたか ということは、契約締結の動機 に関す るもの といえる。
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第4に、神戸簡判平成16年 6月 25日消費者法ニュース64号 55頁は、事業者側が「NTTの
回線がアナ ログか らデジタルに変わ ります。今 までの電話が使 えな くな ります。 この機械 を取 り付 け る とこれまでの電話 を使 うことがで き、 しか も電話代が安 くな ります。」 と虚 偽の事実 を告 げた。今 までの電話が使 えな くなるとい うことは、契約の対象である機械の 内容 と直接 関わるものではないが、 これ も重要事項 にあたるとしている。同様の事例 とし て、大阪簡判平成16年10月 7日 兵庫県弁護士会HPは、事業者側が光 ファイバーを敷設す るためには、今の電話か らデジタル電話 に交換す る必要があるとの不実告知 を受けた。同 様 に消費者契約法4条 1項 1号の取消 しを認めている。 これ らは、現在使用中の電話機器 が使 えないので、契約 を締結 しようとい う動機 に関す るもの といえる。
第5に、新潟地長岡支判平成17年 8月25日消費者法ニュース68号 61頁は、既 に別の事業 者か ら教育役務の提供 を伴 う学習教材 を購入 していた消費者 に対 し、事業者が購入済みの 業者の教材 は古いので 自社の教材 を購入す るように勧 め、 自社 で も教育役務の提供がなさ れてお り、 また、その購入費用は指示通 りにすれば購入済みの業者 と解約 して捻出で きる と虚偽の事実 を告げた。そ して、 この ように教材の売買契約の本来的な内容の教材 に関す ることでな く、教育役務提供 について、お よび購入代金の資金調達方法 について も重要事 項 にあたる としている。教育サービス もあ り、資金調達 も容易であるか ら、契約締結 しよ
うとい う動機 になっているといえる。
次に、不利益事実の不告知 に関する裁判例 としては、第1に、神戸簡判平成14年 3月12 日消費者法 ニュース60号 211頁は、事業者が消費者 に対 し、俳優等養成所の基本 レッス ン 3ヶ 月後 に入 る歌手 コースでは月謝の値上げがあることを告げなかったことについて、消 費者契約法4条 2項の取消 しを認めている。 これは、締結 した当初の基本 レッス ンの契約 の内容ではな く、次の段 階の歌手 コースの契約の対価 のことであるが、重要事項 にあたる としている。本来の 目的である歌手 コースが高 くないので、その前段階である基本 レッス ンに関す る契約 を締結 しようとい う動機 になっているといえる。
第2に、月ヽ林簡判平成18年 3月 22日消費者法ニュース69号 188頁は、高齢者である消費者 が住宅の リフォームエ事が耐震に有効性が ない ことを工事業者 に告げ られていなかったこ とについて、消費者契約法4条 2項の取消 しを認めている。 これは、契約の工事内容、取 引条件 でな く、工事が耐震 に有効であるとい う意思表示の形成過程 (動機)の誤認である が、重要事項 にあたるとしている。
第3に、本し幌高判平成20年 1月 25日判時2017号 85頁は、金の先物取引において、商品取 引貝が金の相場が上昇するとの自己判断を告げ、将来の金相場の暴落の可能性 を告げなかっ たことについて、消費者契約法4条 2頂の取消 しを認めている。 これは、一般の購入者で ある消費者が商品先物取引 を行 う目的は、相場の変動 による差金取得 にあるか ら、金相場 の将来 における価格の上下 は、消費者契約 たる取引の 目的 となるものの質であるので、重 要事項 にあたるとしている。厳密には、先物取引の内容その ものでな く、内容の価値変動
(相場 の変動)の可能性の情報であ り、意思表示の動機づ けであるが、契約内容 を広 く捉 ぇている。
以上のように、不実告知についての6件も、不利益事実の不告知についての3件も、裁 判例は、特 に理論的根拠を示 していないが、明文で示 されている事項以外の消費者の意思 表示の動機づけになるような事項 も重要事項に合めている。
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(3)学説
重要事項 の意義 につ いて、立法担 当であ る内閣府 国民生活局消 費者企画課 は、前記9件
の裁判例 と異 な り、 条文 の文言 に したが い、 厳格 に解 してい るの。 す なわち、消費者 契約 法4条 4項が定める消費者契約にかかる①物品、権利、役務、その他の当該消費者契約の 目的 となるものの質、用途その他 の内容 (同条同項1号)、 または②物品、権利、役務、
その他の当該消費者契約の 目的 となるものの対価その他の取引条件 に関す る事項 (同条同 項2号)に限定 している。
このような限定 された解釈 では、次の ような事例では、同条同項の重要事項 に該当 しな い とす る。 その事例 とは、 自宅 を訪問 して きたセールスマンに、「今使 っている黒電話 は 使 えな くなる。毎月1,000円払 えば よいので新 しい もの と交換す るように」 と言 われて、
新 しい電話機 を契約 したといった ものである。そ して、 この事例が重要事項 に該当 しない のは、「今使 っている黒電話 は使 えな くなるJと告 げることは「事実 と異 なることを告 げ ること」に当たるが、今使 っている黒電話 は「当該消費者契約の 目的 となるもの」ではな く、第4条第4項の要件 に該当 しないので取消 しは認め られない と、条文の文言 に形式的 に当てはめて結論 を導いているD。
この ように、限定的に解す る理由は、同条同頂の規定の趣 旨が、民法の定める規定 (同
法96条)とは別に新たに消費者 に契約の申込み またはその承諾の意思表示の取消権 という 重大 な私法上の権利 を付与す る以上 は、 これ らの行為の対象 となる事項 をそれに相応 しい 適切 な範囲に限定する必要があると考 えるか らである11)。
これに対 し、学説は消費者契約法4条 4項の重要事項 について、前記9件の裁判例 と同 様 に拡張する方向である。その法律構成 として、①消費者契約法4条 4項が定める1号お よび2号は、重要事項 について、限定 して列挙 した ものではな く、単 に例示 したにす ぎな い と解すべ きとするものめ、お よび②消費者契約法4条 4項が定める1号お よび2号に列 挙 されている重要事項の内容 を広 く解す るべ きとるもの°がある。
前者の消費者契約法4条 4項 1号お よび2号を例示列挙 と解す る説は、同規定の基礎 に あるのは、事業者が積極的な行為 によって消費者 を誤認 させた以上、契約 を取 り消 されて もやむをえない とい う考 え方 にあると指摘す る⑤その考えによれば、消費者の判断に通常 影響 をお よばすべ き事項 について誤った事実が告 げ られたと評価 で きるか ぎり、同条同頂 1号お よび2号に限定 されるべ きだ とす る合理的理由がな く、取消 しを認めてよい とする のであるn。 また、仮 に契約内容や取引条件 の意味 を厳格 に解釈す ると、契約締結の動機 に関す る不実の告知 は適用姑象か ら外れることにな り、民法の詐欺取消や錯誤無効の規定 よ りも、不実の告知の要件の方が、適用範 囲が狭 くなって しまう。 この ような解釈 は、民 法の規定では救済が不十分であることか ら消費者契約法を制定す ることとした根本の立法 趣 旨に反すると指摘 している°。
これに射 し、後者の消費者契約法4条4頂が定める1号および2号に列挙 されている重 要事項の内容 を広 く解する説 は、条文の文言 を厳格 に解する不都合性 を認めつつ も、例示 列挙 と捉 えるのは、条文の文言解釈上無理があるので、同規定の文言 を広 く解 しようとす る°
。例 えば、前述の内閣府 国民生活局消費者企画課が解説 として挙 げている以下の事例 がある。 その事例 とは、 自宅 を訪問 して きたセールスマ ンに、「今使 っている黒電話 は使 えな くなる。毎月1,000円払 えばよいので新 しい もの と交換す るようにJと言われて、新
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しい電話機 を契約 した といった ものである。 これについて、 この説では、そのセールスマ ンの説 明は、 この新 しい電話機 は、電話が使 えな くなるとい う事態 を回避す る とい う性
「質」 を有 し、電話の継続使用 を可能 とす る とい う「用途」 の ものであるとい う意味内容 の ものだと理解で き、その ように解す るならば、 まさに当該消費者契約の 目的の告知 とな るとす る。そ して、その新 しい電話機 は、その ような質お よび用途 を有 していない。すな わち、黒電話が使 えな くなるとい う事態その ものが存在 しないのであるか ら、その事態の 回避の質お よび用途 を有 していることはあ りえない とする。 また、特定商取引法6条1項
6号が、顧客が契約締結 を必要 とす る事情 (=動機付け)に関す る事項 を不実告知の対象 範囲 としてお り、同法9条の3によ り、その不実告知で誤認 した場合、契約取消権が申込 者等にあ り、本来業法であるはずの特定商取引法 においてす ら広範 な適用可能性 を有する のであれば、消費者契約法において も適用範囲を拡充すべ きであるとするもの もある⊃
。
(4)私見
1)消費者保護の必要性
まず、立法担当の内閣府国民生活局消費者企画課が、条文の文言 を厳格 に解 し、消費者 契約法4条 4項 1号お よび2号に限定的に解す る論拠 とす るところの同条同頂の規定の趣 旨である民法96条とは別 に消費者 に取消権 とい う重大な私法上の権利 を認めるには、それ に相応 しい適切 な範囲に限定す る必要があるとの考えには賛成で きない。なぜ ならば、消 費者契約の トラブルは、その情報・交渉力格差か ら、消費者契約 における両当事者の間で 意思表示が形式的に合致 していて も、それ らの表示か ら客観的に推断される意思の内容が、
消費者の真意 とは必ず しも合致せず に生 じているものであった。そこで、消費者契約法の 目的は、消費者 と事業者 との間の情報の質及 び量並びに交渉力の格差か ら、消費者 に自己 責任が問えない場合 に、消費者 を無護 して、その トラブルを解決 しようとす る ものであっ た。そ うであるな らば、情報格差か ら消費者 に自己責任が問えない場合、契約締結 にかか る消費者の真意 とは必ず しも合致 しない意思表示である以上、契約内容その ものであるか 否かは問題でな く、消費者 を保護 してその意思表示の取消権 を認めるべ きだか らである。
また、民法96条の取消権 は、詐欺 をす るものには欺同行為 につ き故意が存在 している。
それに対 し、消費者契約法4条の場合、少 な くとも不実告知 については、告知者である事 業者の故意 を要求 していない。そ うであるな らば、事業者が過失 な く消費者契約法4条 4 項各号 に掲げる重要事項以外の事項 について、不実告知をして も消費者 は消費者契約法上
も民法上 も取消 しがで きな くなって しまう。 また、民法95条の錯誤無効の主張 も考 えられ るが、動機の錯誤については、判例法理では、動機の表示が要求 される山。 この ように民 法の規定では消費者録護 に十分でない といえる。
特 に、その不実告知 を受ける消費者か らすれば、事業者が故意 に不実告知 を行お うが、
過失な く不実告知 を行お うが、事業者か ら同 じ情報 を受領することにはかわ りないはずで あ り、消費者の真意 と合致 しない ことは同様である。これに対 し、そ もそ も情報 も交渉力 も優位 にある事業者が消費者 に自ら事実 と異 なる事実を告げて、それによ り消費者 に誤認 を生 じさせて意思形成 させている以上、条文列挙の事項でな くて も、利益衡量上 も消費者 を保護すべ きである。
以上のように、消費者契約法4条 4項の重要事項は限定的に解すべ きではないが、そこ で広 く解する法律構成が問題 となる。
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2)拡張解釈の方法
裁判例 は、同条同項1号および2号の内容 を広 く適用 しようとしていた。学説は、同条 同項1号お よび2号は単 なる例示であると解 しているもの もあるが、例示列挙 と捉 えるの は、条文の文言解釈上無理があるので、裁判例 と同様 に同規定の文言 を広 く解 しようとす るものもあった。
この点、消費者契約法4条 4項各号の文言 を広 く解 しようとして も、やは り同条同頂各 号の文言 に含 まれない事項が生 じて、例示列挙 と解す るよ りも適用範囲が狭 くなると考え られる。そ もそ も情報 も交渉力 も優位 にある事業者が消費者 に自ら事実 と異なる事実を告 げて、それにより消費者 に誤認 を生 じさせて意思形成 させている以上、消費者 に取消権 を 制限すべ きではない。 また、消費者契約法4条 4頂各号の文言に相当広範 な事項 を含める とすれば、 これは例示列挙 と解するの とかわ りがない ようにも思 える。
さらに、民法 (債権法)改正検討委員会の提言では、 【1.5,151(不実表示)(1)で、
「相手方 に対す る意思表示 について、表意者の意思表示 をす るか否かの判断に通常影響 を 及ぼすべ き事項につ き相手方が事実 と異なることを表示 したために表意者がその事実を誤 っ て認識 し、それによって意思表示 をした場合は、その意思表示 を取 り消す ことがで きる。」
と規定すべ きとしている191。 その提案の趣 旨は、「消費者契約法4条 1頂 1号は、事業者が 消費者契約 について勧誘す るに際 し、重要事項について事実 と異 なることを告げた場合に、
消費者がその告げ られた内容が事実であると誤認 し、それによって当該消費者契約の申込 み または承諾の意思表示 をした ときは、 これを取 り消す ことがで きると定めている。 しか し、事実に関 して取引の相手方が不実の表示 を行 えば、消費者でな くて も、誤認 をして し まう危険性 は高い とい うべ きだろう。 しか も、前提 となる事実が違 っていれば、それを正 確 に理解 して も、その結果行われる決定は不適当なもの とな らざるをえない。 したがって、
事実 に関す る不実表示 については、表意者 を保護すべ き必要性 は一般的に存在 し、かつそ の必要性 は特 に高い と考 え られる。相手方 もみずか ら誤った事実 を表示 した以上、それに よって鉗誤 をした表意者か らその意思表示 を取 り消 されて もやむを得 ないだろう。本提案 は、 この ような考慮か ら、不実告知 による取消 しを一般化 し、民法 に不実表示 に関する一 般的なルールを定めることとしている。J20こ とにある。そ して、消費者契約法4条 4項に 定め られた重要事項の意義の うち、 1号および2号による限定 を外 している。 これは、表 意者の判断に通常影響 を及ぼすべ き事項について相手方が不実表示 をした とされるか ぎり、
取消 しを認めてよいはずであ り、 1号および2号はその例示 にす ぎない との考慮 に基づい ているか。 このように、相手方の不実告知 によ り誤認す る危険は一般的な取引で も懸念 さ れるところである。そ うであるな らば、消費者契約の場合 には、消費者 と事業者 との情報 格差か ら、 なお一層懸念 されるところである。そ して、提案の段 階 とはいえ、消費者契約 法4条 4項 1号お よび2号の重要事項 を例示列挙 とみて、限定 を加 えずに表意者に取消権 を与 えようとする民法改正の流れか らすれば、特別法である消費者契約法の方が表意者 (消 費者)保護 に劣 ることは妥当でない と考えられる。
以上 よ り、消費者契約法4条 4項 1号および2号は例示列挙 とみなし、事業者か ら消費 者の判断に通常影響 をお よばすべ き事項について誤 った事実が告げ られれば、消費者 に取 消 しを認めて よい と考 える。
島根県立大学 『総合政策論叢』第18号 (2010年 2月)
3.「不利益事実の不告知」回有の要件1(先行行為)
(1)先行行為 の必要性
消費者契約法4条 2項は、消費者が消費者契約の申込み またはその承諾の意思表示 を取 り消す ことがで きるのは、消費者に対 し、重要事項 または当該重要事項 に関連する事項 に ついて当該消費者の利益 となる旨を告げ (先行行為)、 かつ、当該重要事項 について当該 当事者の不利益 となる事実 (当該告知によ り当該事実が存在 しない と消費者が通常考 える べ きものに限る。)を故意 に告げず、それによ り告げ られなかった事実が存在 しない と誤 認 した場合 であるとしている。すなわち、消費者の不利益 となる事実 を告げない前提 とし て、消費者 に利益 となる事実 を告げていることが必要になる。
この条文の文理か らすれば、事業者が消費者 に姑 し故意で消費者の不利益 となる事実 を 告げないでいたために、消費者がその事実が存在 しない もの と誤認 して も、事業者が消費 者 に対 し消費者の利益 となる事実を告げていなければ、消費者 は消費者契約法4条 2項に 基づ き契約 を取 り消す ことがで きな くなって しまう。
例 えば、立法担当である内閣府国民生活局消費者企画課は、デジタルCSチューナーセ ッ ト(デジタルCSチューナー、CSアンテナ)を買えばす ぐに某CS放送が見 られると思っ たのに、見 られず、 また、取 り付 け機材が必要なことはカタログにも書かれていない し、
販売店で も説明が なかった とい う事例 を挙げる。 この事例では、消費者の利益 となる旨を 告 げてお らず、消費者契約法4条 2項の要件 に該当 しないので取消 しは認め られないこと
になる場
。 この事例 において、販売員が、CS放送 を見 るのに取 り付 け機材が必要 なこと をわかってお り、かつ消費者が取 り付 け機材 は必要だ とは知 らない場合 にも、CS放送は この機器 を購入すればす ぐに見 られる等の消費者 に利益 となる事実が告げ られていない と して、消費者 に消費者契約法4条 2項の取消 しを認めず、契約の効力 を維持 させ ることが はた して妥当であろうか問題 となる。
(2冴売半J,1
裁判例 は、基本的に先行行為がなければ、不利益事実の不告知の有無 にかかわ らず、消 費者契約法4条 2項の適用がない と判断 しているものが多い。例 えば、福 岡地判平成16年 9月22日最高裁半Utt HP、 東京地判平成17年9月29日判 夕1203号 173頁である。 しか し、小 林簡判平成18年3月22日消費者法ニュース69号 188頁2° は、先行行為 については触れずに、
高齢者である消費者が住宅の リフォームエ事が耐震 に有効性がないことを工事業者 に告げ られていなかった点につ き、不利益事実の不告知 を認めて、消費者契約法4条 2項を適用 している。先行行為 を要求せず、不利益事実の不告知のみで、消費者契約法4条 2項の取 消権 を認めている。
(3)学説
立法担当である内閣府国民生活局消費者企画課は、前記の福 岡地判平成16年 9月22日最 高裁判所HP、 東京地判平成17年 9月29日判 夕1203号 173頁のように、条文の文言 を厳格 に 解 し、先行行為 を必要 としている2つ。
これに対 し、学説では、消費者契約法4条 2頂で規定 されているのは、意図的に消費者 の利益 になる旨のみを告げて、不利益 となる事実は存在 しない と思わせ る行為である。 こ れはまさに、実質的に一つの不実告知 として評価で きるとす る。 よって、不利益事実の不 告知 について も消費者 に取消権 を認めて も良い と考 えられた とまず説明す る。 しか し、立
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法論 としては、事業者 に一般的な情報提供義務 を認めるべ きと考えるなら、先行行為や故 意の存在 にかかわ りな く、不利益事実の不告知があれば取消 しを認めてよい と指摘す るも のがあ る20。 また、特定商取引法6条 2項では、不利益事実の不告知について、事業者の 不利益事実の不告知の前 に、消費者の利益 となる事実 を告げること (先行行為)を要求 し てお らず、本来業法であるはずの特定商取引法 においてす ら広範な適用可能性 を有するの であれ ば、消費者契約法で も改正 を検討すべ きことを提言するものもある20。
笠)私見
1)事 業者 と消費者の情報格差
立法担 当である内閣府国民生活局消費者企画課が挙 げた事例 において、前述のように、
販売員が、CS放送 を見 るのに取 り付 け機材が必要 なことをわかってお り、かつ消費者が 取 り付 け機材 は必要だ とは知 らない場合 にも、販売員が消費者 に利益 となることを告げて いない (先行行為がない)とい うことで、消費者 に消費者契約法4条 2項の取消 しを認め ず、契約 を成立 させ ることがはた して妥当であるか甚だ疑問である。
なぜ な ら、消費者がデジタルCSチューナーセ ッ トを購入す るとい うことは、消費者は
CS放送 を見たいことであると、素人で も認識で きることである。まして、通常CSチュー ナーセ ッ トを販売 している販売貝であれば、尚更その認識はあるといえる。 これに対 し、
消費者 はCS機器について素人であ り、事業者 とは情報の格差があ り、誤認が生 じやすい といえる。 この ように、事業者 と消費者 との間には状況の正確 な認識の差が生 じている。
そ うで あ るな らば、消費者 のエーズの認識があ りなが ら、先行行為 としてデ ジタルCS
チ ューナーセ ッ トを買 えばCS放送が見 ることがで きると告げるようなこと (先行行為)
をしなければ、その後CS視聴のためにほかに何 も必要な機器がなく、CSチューナーセ ッ トの支 出だけで済むと誤認 した消費者 に取消権 を認めないのは、事業者 と消費者の利益衡 量上 も妥 当でないか らである。
2)民 法96条の沈黙の詐欺 との比較
また、民法96条の詐欺取消 は、沈黙の詐欺 も認め られてお り2つ、特 に先行行為 を要求 し ているわけではない。沈黙の詐欺 は、違法性の要件 を欠 く場合 は多いが2D、 消費者契約法
4条 2項の適用がない場合 にも適用 され うる場合があることになる20。 事業者 との情報格 差か ら消費者 を気護することが 目的である特別法たる消費者契約法が民法 よ り適用範囲が 狭 まることは妥当でない。
そ こで、前述の設例では、デジタルCSチューナーセ ッ トの売買契約にかかる事業者の 意思表示 自体 に、消費者の合理的意思であるCSチューナーセ ッ トの購入 によ りCS放送 が視聴 で きるということを、告知 した (先行行為)と認めてよい と考 える。
この ように、特別に消費者の利益 となる事実 を告げる必要はな く、消費者契約締結 にか かる事業者の意思表示 自体が、消費者の合理的意思か ら推測 される消費者 に利益 となる事 実 を、告 げたことになるとして、学説のように立法論 にとどまらず、現行法の解釈論 とし て先行行為 を広 く認めてよい と解す る。
4.「不利益事実の不告知」固有の要件2(事業者の故意)
(1)故意 の必要性
消費者契約法4条 2項は、消費者が消費者契約の申込み またはその承諾の意思表示 を取
島根県立大学『総合政策論叢』第18号 (2010年2月)
り消す ことがで きるのは、先行行為があることに加 え、当該重要事項 について当該当事者 の不利益 となる事実 (当該告知 により当該事実が存在 しないと消費者が通常考 えるべ きも の に限る。)を故意に告げず、 それによ り告 げ られなかった事実が存在 しない と誤認 した 場合であるとしている。 ここでは、事業者が消費者 に対 し消費者の不利益 となる事実 を告 げないことに故意 を要求 している。 ここでの故意 とは、当該事実が当該消費者の不利益 と なるものであることを知 ってお り、かつ、当該消費者が当該事実 を認識 していないことを 知 っていなが らあえて とい う意味である30。 この ように消費者契約法4条 2項は、事業者 に二重の故意 を要求 している。
それでは、事業者が、当該事実が当該消費者の不利益 となるものであることを過失によ り知 らずに、 または当該消費者が当該事実 を認識 していないことを過失 により知 らずに、
消費者 に対 し不利益事実 を告知 しなかった場合 にも、消費者は消費者契約法4条 2項に基 づ き取消 しがで きないのであろうか。すなわち、事業者が故意ではな く過失によ り不利益 事 実の不告知 をした場合 には、同法同条同項の取消権 は認め られないのか問題 となる。
(2)裁判例
裁判例 は、前述の先行行為の裁判例で示 した ように、先行行為がなければ、消費者契約 法4条 2項の適用が ない と判断 し、故意の認定 をしていない。他方で、裁判例 は、先行行 為 があ り、不利益事実の不告知があれば、基本的に故意があるとしている。例 えば、神戸 簡判平成14年 3月12日消費者法ニュース60号211頁謝は、月謝値上げを告げ られなければ、
消費者がそのことを知 らない ことは当然であ り、それを事業者 も認識可能であるとして故 意 を認めている。 また、前述の先行行為 については触れずに、不利益事実の不告知のみを 認 めて、消費者契約法4条 2項を適用 している小林簡判平成18年 3月22日消費者法ニュー ス69号 188頁は、事業者側が当該契約内容の住宅 リフォームエ事が住宅の耐震に有効でない
ものだ と当然知っていた と推認で きるとして故意 を認めている。
以上のように、裁判例 は事業者 に不利益事実の不告知があれば、その事業者 は知 ってい た と考 えられるとして故意を広 く認めている。 しか し、神戸簡判平成14年3月12日消費者 法 ニュース60号 211頁は、故意 を認定 している ものの事業者 は認識 し得たはずであるか ら
とい うように過失 も含 めるように示 している。
(3)学説
立法担 当である内閣府国民生活局消費者企画課 は、 ここで も条文の文言 を厳格 に解 し、
前記の3件の裁判例 とは異 な り、先行行為があ り、不利益事実の不告知があれば、基本的 に故意があるとするのではな く、独 自に事業者の故意を必要 としている3か。
これに対 し、学説は、前記3件の裁判例 よ りもさらに進めて、消費者契約法4条 2項に い う故意は、誤認の惹起 に向け られた ものではな く、あ くまで不告知 についての故意であ るか ら、 自らの告知事実Aにより、消費者が別の事実Bが不存在であると通常考 えること の認識で足 りるのはないか とす るものがある30。 なぜ ならば、Aとい う事実 を告知すると い う先行行為が事業者 に存在するとき、当該事業者 には当該告知か らBとい う事実の不存 在 が通常推認 されるとき、その推認 を妨げる義務 を負 っていると考 えることがで き、その 義務 に故意に違反するとは、Bとい う事実の不存在が通常推認 されることを知 りなが ら、
あ えてその推認 を妨げないことと解す ることがで きると考 えられるか らである。つ まり、
当該事業者は、当該消費者が当該事実 を認識 していないことを知っていることは不要であ
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る し、少 な くとも故意の有無の判断の局面では、当該消費者の不利益 となるものであるこ とを知 っていることを要求す るの も必然的ではない と考 えるか らである。
また、先行行為のところで も述べたが、立法論 としては、事業者 に一般的な情報提供義 務 を認めるべ きと考えるなら、先行行為や故意の存在 にかかわ りな く、不利益事実の不告 知があれば取消 しを認めてよい とするものがある30。 さらに、不利益事実の不告知 は、故 意 を要求する以上、沈黙 による詐欺 に該当す る類型であ り、民法96条の詐欺取消 よりも、
告知 した事実 に密接 に関連す る消費者 にとり不利益 な事実 という限定 を付 している点でよ り絞 りがかかっていることになるが、このように民法以上に限定することに疑間を呈する もの もある30。
(4)私見
1)事業者の情報提供努力義務
消費者契約法 3条 には事業者に情報提供努力義務があるが、その義務はあ くまで努力義 務であ り、義務を果たさない場合でも消費者 に取消権を与えるような効果は生 じない30。
そうであるとすれば、消費者はもともと事業者 とは情報格差があるにもかかわらず、消費 者契約の締結にあたり情報を取得することは容易ではない。このような状況にあるならば、
不利益事実の不告知の場合には、できるだけ広 く消費者に取消権を与えるべ きである。
前述 したように学説は、事業者の先行行為 により、消費者に不利益な事実の不存在が通 常推認されるときは、事業者はその推認を妨げる義務を負っていると解 し、また立法論 と して事業者に一般的な情報提供義務があるとして、事業者の義務を観念 してきた。しか し、
消費者契約法3条の義務はあ くまで、努力義務である。あえてこのような義務を新たに観 念 しなくても、先行行為が示 されたならば、通常消費者がその事実は存在 しないであろう
と考えて しまう実在する不利益な事実を、告げないことは、消費者 よりも情報を豊富に有 する事業者の故意または過失によるものであると推認されると考える。
なお、事業者は、消費者 よりも情報の量、質 とも豊富に有するのであ り、その立場の違 いか ら、同条の故意には過失を含めてもよいと解する。このように解することにより、事 業者の故意によるものであると推認することが困難なような場合でも、過失によるもので あると推認することができ、情報取得能力の劣位する消費者の保護を図ることができる。
2)不実表示の民法改正の動向
また、民法 (債権法)改正検討委員会の提言では、【1.5。 15】 (不実表示)(1)で、「オロ 手方に姑する意思表示について、表意者の意思表示をするか否かの判断に通常影響を及ぼ すべ き事項につき相手方が事実 と異なることを表示 したために表意者がその事実を誤って 認識 し、それによって意思表示 をした場合は、その意思表示を取 り消すことができる。」 と規定すべ きとしているが3つ、その提案要旨には、「消費者契約法4条 2項に定められた不 利益事実の不告知は、消費者にとって利益 となることと不利益事実が表裏一体 をなすにも かかわらず、利益 となる旨のみを告げて、不利益事実は存在 しないと思わせる行為であ り、
それ自体 1つ の不実表示 と評価できるか ら」、不利益事実の不告知 もこの規定に含 まれる としている30。 この提案された規定では、不利益事実の不告知を不実告知と同じに扱 うも のであるか ら、相手方の故意は必要 とされていない。提案の段階とはいえ、このような民 法改正の流れからすれば、い くら明文で事業者の故意を要件 としていても、特別法である 消費者契約法において表意者 (消費者)録護が後退することは妥当でない。
島根県立大学『総合政策論叢』第18号 (2010年 2月)
以上 よ り、事業者 の先行行為 が認 め られ る限 り、事業者の故意 ・過失 は推認 され る もの と解 す る。
5,おわ りに
以上 よ り、本稿では、消費者 と事業者 との間の情報の質及び量並 びに交渉力の格差か ら 生 じる トラブルの妥当な解決 を図るため、消費者 を保護すべ きであること、 また事業者が 自ら行為 をしているのに姑 し、消費者が認識す る事実は、事業者側の事情 によらず変わ ら ないこととの利益衡量か ら、消費者契約法4条における消費者の事実に関す る誤認 につい て以下のように解釈 した。すなわち、①消費者契約法4条 4項 1号お よび2号の重要事項 は例示列挙 にす ぎない、②消費者契約法4条 2項の先行行為 については、消費者契約 にか かる事業者の意思表示 自体が消費者の合理的意思 にかかる事実 を告げた (先行行為)と認 めてよい、③事業者の先行行為が認め られる限 り、事業者の故意・過失は推認 されること である。
しか し、②③ は解釈 によ り条文の文言 を広 げて解 している。民法改正により、消費者契 約法の不実表示お よび不利益事実の不告知が、民法 に一般化 して導入 され、かつ要件 を緩 和 して規定 されることが検討 されている現状 に鑑みて、消費者契約法 も条文で明確 にした 方が よい といえ、 これ らの規定 を改正すべ きであると思われる。
注
1)立法担当である内閣府国民生活局消費者企画課によれば、事業者の行為をこの3つに限定したの は、民法96条の欺同行為という要件を消費者契約の場面に則して具体化・明確化したものであると している。内閣府国民生活局消費者企画課編『逐条解説 消費者契約法』116頁 (商事法務、新版、
2007)。
2)潮見佳男編 『消費者契約法・金融商品販売法 と金融取引』は、不実表示 と断定的判断の提供は、
前者が「自己決定の基礎 となる事実 (情報)の表明」であるのに対 し、後者 は「 自己決定の基礎 と なる評価の表明」である点で異なるものだとされている。 しか し、消費者契約立法の議論 において、
不実表示 と断定的判断の提供 とが同一視 されたのは、不実表示 を詐欺の拡張形態 として捉 え、「消 費者の意思形成過程へ不当な影響 を与 える行為」 として理解 された ものだか ら、 この点において不 実表示 と断定的判断の提供 を同質であると考えられたか らであると指摘 されている。
3)山本敬三 『民法講義 I総 則』257頁 (有斐閣、第2版、2005)。 潮見 ・前掲注 (2)36頁 は、事実 に関する誤認惹起行為 を情報格差 にかかわるものであ り、判断に関する誤認惹起行為 を交渉力格差 にかかわるものであると分析 されている。 また、沖野員巳「「消費者契約法 (仮称)JIこおける「契 約締結過程」の規律J NBL 685号18頁 (2000)は 、不利益事実の不告知 は、 よい ところだけ告げて 悪い ところは意図的に隠 してお くとい う不正確 な情報提供だが、それは一部 を隠 し全体 として誤っ た印象 を与えるものであるか ら、む しろ不実告知の一類型ではないか とされる。
4)内閣府国民生活局消費者企画課・前掲注 (1)60頁 。
5)内閣府国民生活局消費者企画課 。前掲注 (1)93貢 以下。
6)山本・前掲注 (3)259頁以下、宮下修―「消費者契約法四条における契約取消権の意義―その 現状 と課題―」静法11巻1,2・ 3・ 4号71買以下 (2007)。
7)民法 (債権法)改正検討委員会編 『シンポジウム「債権法改正の基本方針」』男Utt NBL 127号26 頁、30頁以下 〔山本敬三〕(商事法務、2009)。
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