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第 46 回医科学フォーラム The 46 th Medical Science Forum (MSF)
山 科 章 1 ) 小 西 真 人 2 ) Akira YAMASHINA, Masato KONISHI
オーガナイザー
1)東京医科大学循環器内科学分野
2)東京医科大学細胞生理学分野
1
東医大誌 72(3): 241
-242, 2014
プ ラ ザ
第
46
回医科学フォーラムは、平成26
年3
月11
日(火)午後6
時30
分から東京医科大学病院教育 研究棟(自主自学館)の維持会記念講堂で開催され た。今回は、「iPS
細胞の循環器領域への臨床応用」と題して、慶応義塾大学医学部循環器内科の福田恵 一教授にご講演いただいた。
iPS
細胞は山中教授の ノーベル賞受賞で脚光を浴びただけでなく、最近STAP
細胞の疑惑で皮肉にもさらに注目を集めてい る。福田教授は、iPS細胞から分化させた心筋細胞を 用いて心疾患(心筋梗塞、心不全)の治療法を世界 に先駆けて開発してこられた。講演では、
iPS
細胞 から分化させた心筋細胞を使用する上での多くのス テップで生じた問題点、その解決法、今後の展望について現在の最新の知見をご紹介いただいた。
iPS
細胞は、ES
細胞に比べて免疫拒絶反応がな く倫理的な問題もないなどの利点を持っているが、ウィルスによる遺伝子導入を必要とするため腫瘍化 などの危険性もある。福田教授らは、末梢血
T
細 胞にセンダイウィルス(RNA
ウィルスであるため、宿主のゲノムに組み込まれない)を使って遺伝子導 入する方法を開発した。iPS細胞由来の心筋細胞塊 は、自発拍動し、横紋を有し、また心筋特有の蛋白 質発現を示した。しかし、他の細胞腫が混じってい るため、このままでは使用できない。心筋細胞を純 化・精製するため、福田教授らはメタボローム解析 を用いた。心筋細胞のエネルギー産生には解糖系の 寄与が少ない。また、外部から乳酸を取り込んで
東 京 医 科 大 学 雑 誌
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巻 第3
号( ) TCA
回路〜電子伝達系によりATP
を合成すること ができる。この性質を利用して、グルコース欠乏+高乳酸環境下で生き残る細胞を選別することによ り、高純度の心筋細胞を得ることに成功した。
iPS
細胞由来の心筋細胞を大量に培養し、培養液 を心臓に注入あるいは心筋シートを作成して貼り付 けることにより、移植することが可能である。現在 のところ、移植した細胞は、長期間生存し、収縮性 を保つことが確認されている。また、iPS
細胞由来 の心筋細胞から活動電位などを記録することができ、病態解明につながることが期待できる。さらに 薬物の効果を、患者さん自身の細胞で検証すること で、オーダーメイド医療へ応用が可能となる。
今回は、循環器分野の再生医学研究についてご講 演いただいたが、他の分野にも応用できる貴重な情 報が数多くあり、講演終了後には活発な質疑応答が 行われた。約
70
名の参加があり、盛況な医科学 フォーラムであった。(文責 小西真人、山科 章)
iPS細胞を用いた難治性心筋疾患に対する病態解析・治療法開発
Oct3/4, Sox2 Klf4, c-myc
末梢血T細胞
ヒト心筋細胞
•オーダーメイド多能性幹細胞
•免疫拒絶反応がない
•倫理的問題がない
心筋細胞へ分化
純化・精 製
心筋細胞移植 心不全治療 心移植待機患者
遺伝性心筋疾患
活動電位記録など 採血 センダイウイルス
による4因子導入
TiPS細胞
大量培養
病態解明・創薬