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(1)研究の背景

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(1)

Abstract

Creation or development by consumer is eliminated from definition of consumer behavior and never been focused by consumer behavior and marketing scholars. However, creation by consumers who express by themselves is getting significant in marketplace because of growth of the internet. The object of this study proposes a new method of travel product development which include co-creation by enterprises and creative consumers, through the case study of H.I.S.‘Tabijyo’. The research clarifies that ‘Tabijyo’ is user-innovation in unit of community formed by creative consumers, who provide their ideas and pictures without compensation to contribute to development of the community and travel products. This study also showed that there have success factors that the community is formed by not one-sided communication between consumers and enterprises but interaction between consumers.

キーワード:ユーザーイノベーション、創造的消費者、パッケージツアー、タビジョ、HIS

1.はじめに

(1)研究の背景

 昨今、旅行業界において、地殻変動が起きて いる。2012年から2016年までの5年間で、日本 人の海外渡航者数と旅行業登録をしている旅行 業者が企画実施した海外募集型企画旅行(パッ ケージツアー)の取扱人数を比較した場合、

2008年を100とすると、海外渡航者数は2013年 109.3、2014年105.7、2015年101.4、2016年107.1 と微増ながらプラスで推移しているのに対して、

旅行会社が企画実施する募集型企画旅行(パッ ケージツアー)の取扱人数は、2013年89.3、

2014年79.6、2015年73.9、2016年70.2と 年 々 大 幅に減少している。パッケージツアーは、旅行 会社における中核的な旅行商品であるが、旅行 者にとってその必要性が減少していると言って もよい。これは、旅行市場は拡大しているのに、

その恩恵を受ける旅行会社が減っていることを 意味している。

 その背景には、旅行業界におけるインター

人間総合学群 観光文化学類

〔駒沢女子大学 研究紀要 第26号 p. 89 ~ 102 2019〕

創造的消費者との共創による旅行商品開発に関する研究 H.I.S.「タビジョ」を事例に

鮫 島   卓

A study on a method of travel product development with co-creation by creative

consumers: Case study of H.I.S. ‘Tabijyo’

Taku SAMESHIMA*

(2)

ネットによるデジタル化、テクノロジーの進化、

グローバル化の急激な変化が背景にある。

OTA(Online Travel Agent)やメタサーチの 参入により、日本人の旅行者は日本の旅行会社 だけでなく、インターネットを通じて世界中の 旅行会社から最適な航空券や宿泊を選択できる 時代になった。また、航空会社や宿泊施設等サ プライヤーによる直販も進み、旅行会社はコ ミッション低減によりサプライチェーン上の交 渉力が低下している。さらにはシェアリングエ コノミーを基盤とした Airbnb、Uber などの C2C ビジネスの新規参入によって、中抜きに 拍車がかかっている。

 Evans と Wurster(1999)は、インターネッ トという情報技術が新しいマーケティングの武 器として登場することで、従来の事業定義が破 綻し再編成される事態を「デコンストラクショ ン」と呼び、既存の企業や業界にとって破壊的 状況を生み出すとした

。これを旅行業界に当 てはめると、旅行会社が担っていた航空券、宿 泊、送迎などを組み合わせたパッケージツアー が、それぞれのパーツ毎の専業のカテゴリーキ ングの台頭によって旅行者自身が旅行会社に委 ねることなく、それぞれの旅行素材を自ら手配 できるようになったことを意味する。特に旅行 会社の主力商品であるスケルトンツアーはその 影響を最も受けている。著者が行った旅行会社 の従業員へのインタビューで、自身のプライ ベート旅行の際にも自社の商品ではなく OTA

を利用しているということがわかっている

。 このようにデジタル革命のインパクトは、旅行 業界内部にも浸食している。また、このデコン ストラクションは、日本だけでなく世界の旅行 市場に起こっている現象であり、パッケージツ アーを発明した世界最古の旅行業者と言われる イギリスのトーマス・クックの破綻の一因とし て考えられる

 しかし、インターネットが旅行業界にもたら した影響は、それだけではない。大谷(2019)

は、その最も大きな影響とは、それが交流や自 己表現の場となり、人々のコミュニケーション に変化を与えていることであると指摘している

。 情報の受け手であった一般の個人が、SNS 等 を通じて他の人々に共有されることを前提に情 報発信を行うようになった。あらゆる層の人々 が観光を巡る情報発信の主体となっている。そ の情報が共有されることで、観光が誘発される など相互作用が生じている。消費者は企業が発 信する情報を受け取る単に受動的な存在ではな く、自ら発信・拡散する能動的な存在へと変化 している。

 こうしたデジタル社会の特徴をふまえたパッ ケージツアーのマーケティングをどのように行 うべきなのかは、旅行業界にとって解決すべき 重要なテーマである。

(2)パッケージツアーの特性に関する先行研究  パッケージツアーの特性に関する先行研究を レビューすると、これまでも様々な研究がなさ

(2012年を100とした時の比較)

区分 2008 2013 2014 2015 2016

日本人海外渡航者数

100 109.3 105.7 101.4 107.1

募集型企画旅行取扱人数

100 89.3 79.6 73.9 70.2 出所)観光庁統計より算出

表1 海外渡航者数と募集型企画旅行取扱人数の伸び

(3)

れている。例えば Smith(1994)は、観光商品 tourism product と旅行商品 package tour とを 分けて論じてきた観光研究の成果から、「観光 の経験」が、包括的な観光商品として存在する と仮説を立てた。そして理想的で包括的な旅行 商品として、「物理的な設備(場所、自然資源、

施設や設備)」、「サービス」、「ホスピタリティ

(サービスが提供されるスタイルや態度)」、「自 由の質(訪問客が旅行商品を消費する際の選択 の自由度)」、「関与(リラックスし何の心配も せず、旅行経験に関わること)」の5つのレイ ヤーを持つモデルを描いた

 Weiermair(2006)は、飽和した市場におい ては、消費者は旅行目的地における特定の商品 よりも、 「経験」を捜し求めており、したがって、

観光における孤立した要素よりも、実りのある 観光の経験を創造するためにイノベーションや 商品開発を活用することの重要性が高まると指 摘している

 また、小林(2010)がパッケージツアーの特 性について「非流通性」「悲完全性」「限界性」

の3つ側面から説明している。マーケティング の視点に立つと、本来、旅行者は旅行目的地で の「観光の経験」を手に入れたいのであって、

パッケージツアーが提供する航空券や宿泊予約 を購入するのはその目的を達成するための手段 であるとした。さらに、旅行商品が提供するも のは、本質的には旅行素材とその組み合わせで あって「観光の経験」そのものではなく、そう した旅行商品の「不完全性」と「限界性」を打 ち破り、旅行商品の価値を「観光の経験」の価 値に昇華させるイノベーションが求められると した。その上で「非流通性」を持った旅行商品 をいかに流通させるかという課題として、「観 光の経験」の価値創出と価値伝達のシステムの 考察が必要となると指摘した

 デジタル社会において、単なる旅行素材の提

供を越えて、旅行者にとっての価値ある「観光 経験」を内包したパッケージツアーとは何であ るか、またその開発やプロモーションの方法に はどんなものがあるかが、本稿の問題意識と なっている。

(3)デジタル社会の観光地形成

 近年、これまで観光地と認識されていなかっ た場所が、創造的消費者による観光資源の発見 と SNS 等のメディアを通じた情報発信より、

新たな旅行者の創造を促すエコシステムが形成 されている。例えば、愛媛県の JR 予讃線下灘 駅には、外国人をふくめ多いときで1日1,000 人もの観光客が訪れ、プラットフォームで写真 撮影をしている

。30名の観光客に訪問理由に ついて聞き取り調査をした結果、JR のポスター に憧れてきた「鉄道ファン」と、インスタグラ ムで『千と千尋の神隠し』を再現する舞台とし てきた「ジブリファン」に大別された。一方、

地元住民にとっては、「単なる無人駅」であり、

観光地しての認識はない。「観光経験」には、

こうした旅行前に得た「観光者のまなざし」に よってイメージを確認するための「疑似イベン ト」性があることは、これまでも多くの研究者 によって指摘されてきた

。しかし、ある消費 者がその場所を「ジブリの聖地」として発見、

図1 JR 予讃線下灘駅

筆者撮影(2019年1月)

(4)

情報発信し、それを見た他の旅行者が観光行動 を起こすような現象は、デジタル社会の特徴と して考えられる。つまり、デジタル社会では、

観光開発の担い手が、地元住民や観光事業者で はなく、消費者である旅行者が担っていること になる。こうした消費者による観光資源の開発 と情報発信は、映画がきっかけとなった京都の 伏見稲荷大社や香川県庵治町の漁港でも起こっ ている

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。また、アニメ『らき☆すた』の聖地 巡礼として観光地化した埼玉県鷲宮町の観光地 形成プロセスを紐解くと、ファンによる発見と 情報発信が起点となって、それを地域の事業者 が活用していったことが明らかになっている

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。  こうした消費者による観光開発は観光事業者 不在のエコシステムの中で形成され、経済効果 という側面では課題も多い。しかしながら、地 域の観光事業者やサプライヤーが観光開発を行 い、それを旅行会社が商品化していた従来の旅 行商品の開発プロセスと比べて、この現象は明 らかに異なるものである。このズレにこそ、 「観 光経験」価値が抜け落ちたパッケージツアー低 迷の要因と課題解決の糸口があるのではないか。

(4)研究の目的

 このような問題意識をふまえ、本稿の目的は、

創造的消費者との共創によってマーケティング 活動が行われている H.I.S. の「タビジョ」の事 例研究を通じて、旅行業におけるユーザーイノ ベーションの有効性とその課題を検討し、創造 的消費者との共創による旅行商品開発の新たな 方法を提示することである。特に、旅行商品の 開発とプロモーションにおける創造的消費者で あるリードユーザーの役割を明らかにし、旅行 会社にとってのユーザーイノベーションの活用 法を提起する。

 リードユーザーとは、一般ユーザーを先取り するニーズを持ち、そのニーズを満たすことで 便益を得ることが期待できる創造的消費者であ

ると定義されている

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。メーカーではなく、ユー ザーがイノベーションの過程で重要な役割を演 じていることが、ユーザーイノベーション研究 で明らかになってきている

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。製品のイノベー ションを行う主体はその製品を開発するメー カーであるとされてきたが、この考え方に疑問 を投げかけたのがユーザーイノベーション研究 である。これまでユーザーイノベーション研究 では、ユーザーがイノベーションを行う要因、

ユーザーイノベーションが産業材だけでなく消 費財を含めて様々な産業で認められる点、そう したイノベーションを行うユーザーは特定の創 造的ユーザーがプレイヤーであること、そして 創造的ユーザーは個人としてだけではなくコ ミュニティにおいて実現すること等が明らかに なっている

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。また、インターネット上のコミュ ニティにおいて、ユーザーが協働し、情報交換 を行い、製品を学ぶ機会を得てイノベーション に貢献する事例も多く挙がっている

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。しかし ながら、旅行業を対象としたユーザーイノベー ションの事例研究はない。

 こうした前提に立ち、H.I.S. の事例研究を通 じてデジタル社会におけるパッケージツアーの マーケティングにおいて、創造的消費者を活用 したユーザーイノベーションの有効性とその課 題を検討する。

2.研究の対象と方法

(1)調査対象

 本研究の調査は、旅行会社の H.I.S. が主催す る旅行者同士のコミュニティ「タビジョ」を対 象として行う。「タビジョ」とは、H.I.S. が「旅 する女子のためのコミュニティ」としてインス タグラムで運営しているサイトおよびコミュニ ティの総称である。女性たちが旅先で撮影した

「インスタ映え」する写真に「# タビジョ」のハッ

シュタグをつけて、投稿してもらうというもの

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である。2016 年3 月のアカウント開設以来、

タビジョのフォロワー数は右肩上がりに増加し、

今では H.I.S. の公式インスタグラムアカウント をしのぐ数となり、またハッシュタグ「# タビ ジョ」でのユーザーによる写真投稿は、累計で 180万枚にも及ぶ(2019 年10 月時点)。さらに 同社は、コミュニティとの関わり合いに積極的 なユーザーを、タビジョ公式レポーター(以下、

公式レポーター)に任命して、コミュニティ活 性化のための協力を仰いでいる。公式レポー ターに「# タビジョ」のハッシュタグで積極的 に画像の投稿を促すだけではなく、インスタグ ラムのストーリー機能を使用して動画レポート の投稿を依頼している。

 さらに、タビジョレポーターが商品企画に参 画する取り組みを行い、タビジョがおすすめす る「タビジョツアー」も企画実施され、新たな 商品が誕生している。

(2)調査の方法

 本研究は、創造的消費者が旅行商品化におい てどんな役割で関与しているか、またその有用 性を明らかにして、パッケージツアーの新たな 開発手法を検討することを目的としている。

 調査は、タビジョのコミュニティを運営する

H.I.S. の運営責任者1名、SNS 運営担当者1名、

イベント運営担当者1名へのインフォーマル・

インタビューにより、タビジョ誕生からこれま での系譜とタビジョツアーの商品開発の特徴、

旅行商品化における公式レポーターの役割とに ついて整理を行った。

 また公式レポーター1名へのインタビューと 活動実績のある10名への質問票調査を実施して、

公式レポーターの観光行動の特徴、コミュニ ティや商品開発への関与の動機を明らかにし、

旅行商品化における創造的消費者の役割とその 活用についての体系化を試みた。調査期間は、

2019年4月から2019年10月までの約7ヶ月間で ある。

3.タビジョの系譜

(1)タビジョの誕生

 タビジョの系譜については、タビジョコミュ ニティを運営する担当者に聞き取りを行い、そ の経緯をまとめた。H.I.S. のタビジョは、2016 年4月に本社広告グループの SNS 運用を一手 に担うコーポレートコミュニケーションチーム で発案され、始動した。同チームは早くから SNS を活用しており、2010年に運用を開始し た H.I.S. の公式 Facebook ページのフォロワー 数は36万人以上(2019年10月現在)、企業担当 者の投稿のたびに毎回300 ~ 400のが「いいね」

がつく。しかし、「いいね」の反応が、どのよ うな成果や業績につながっているのか不透明で あることが最大の課題であった。コーポレート コミュニケーションチームのミッションである

「顧客が旅にいきたくなるきっかけをつくる」

ことの成果をわかりやすくするために、企業が 一方的にメッセージを伝えるのではなく、旅好 きという共通項を持った顧客と共に情報発信で きるコミュニティをつくるべく、インスタグラ ムのアカウントとして「タビジョ」が誕生した。

図2 「タビジョ」インスタグラムアカウント

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アカウント名を「タビジョ」とした理由は、イ ンスタグラムのプロフィール欄に訪問歴のある 国の国旗を並べるなど、旅の経験を自己表現の 場としている女性ユーザーがいることを発見し たことがきっかけとなった。企業名やブランド 名を使わずユーザー視点のキーワードを使うこ とを意識して創出された。

 インスタグラムの公式「タビジョ」アカウン ト開設後、インスタグラムユーザーによる「#タ ビジョ」というハッシュタグ投稿を促し、それ をインスタグラムの公式アカウントで紹介して いった。

(2)交流イベントと公式レポーターの活用に よるコミュニティの発展

 アカウント設立当初は、ハッシュタグ投稿が 少なかったため、アカウント運営社員からイン スタグラム上でタビジョの世界観のあるアカウ ントを探して、ダイレクトメッセージを送って 公式アカウントでの投稿の協力を打診していっ た。協力の打診をする対象者は、単にフォロワー が多いユーザーだけではなく、フォロワーが少 なくても積極的に関与してくれるユーザーを優 先してリグラム(再投稿)を選択していった。

タビジョの投稿数とフォロワー数の確実な伸び の背景には、広く不特定多数に投稿やフォロー を促すのではなく、再投稿の反響が大きい影響 力のあるユーザーに的を絞って繰り返し打診し ている点がある。

 そうした地道な作業の結果、ハッシュタグ投 稿数が1万枚を達するまで開設から半年ほどか かったが、1万枚突破記念として実施した写真 撮影や加工の技術を学ぶ講座を織り交ぜた交流 イベント「タビジョ MEET UP」開催以降、

さらに飛躍的な投稿の伸びを示していく。

 その後、投稿数5万枚になった時点でハッ シュタグ投稿を積極的に行い、反響が大きくま たコミュニティへの関与も大きいユーザー5名 を初の公式インスタグラマーに任命して、コ ミュニティ活性化の協力を仰いだことが、大き なインパクトを与えた。公式インスタグラマー は、プロのタレントやモデルではなく一般消費 者を対象としている。任命された公式インスタ グラマーの中から、旅行中に「# タビジョ」の ハッシュタグをつけて自身のアカウントで画像 を積極的に投稿してもらうだけでなく、インス タグラムのストーリー機能を使用した動画レ ポートの投稿を促した。また、公式インスタグ ラマーの投稿内容の中で、反応が大きかった投 稿内容を H.I.S. が運営する Web マガジンサイ

2016年4月 2016年9月 2016年10月 2017年1月

2017年1月 2017年3月

2017年5月 2017年6月 2017年7月 2017年8月 2017年10月 2017年12月 2018年2月 2018年7月 2018年8月 2018年9月 2018年10月 2018年12月 2019年3月 2019年4月 2019年5月 2019年8月

インスタグラムで「タビジョ」開設 ハッシュタグ投稿数が1万件を超える 初の交流イベント「タビジョMEET UP」

実施、投稿数2万枚到達

投稿数5万枚達成し、タビジョ公式インス タグラマー5名を任命し、取材旅行に初め てレポーターとして台湾に派遣

フォロワー数1万人到達

投稿数10万枚到達、初のタビジョツアー 発売(ハワイ・ラスベガス・バリ・オース トラリア・タイ)

フォロワー数2万人到達

投稿数20万枚到達、半期の人気ランキン グを発表

フォロワー数3万人到達 投稿数30万枚達成

初めてタビジョが関与したタビジョツアー

(ソウル)発売されヒットする

投稿数50万枚達成、初の年間人気ランキ ングを発表し、メディアでも取り上げられ る

フォロワー数5万人到達 フォロワー数6万人到達

投稿数100万枚達成、公式レポーターを22 名任命し、以後各地に派遣

CMでタビジョレポーターの写真が採用 新コミュニティ「タビジョRUN」開設 フォロワー数7万人到達

投稿数150万枚到達

新コミュニティ「ALOHAタビジョ」開設 フォロワー数8万人到達、新コミュニティ

「タビジョMOVIE」開設 投稿数

インタビューにより筆者作成 180万枚到達

表2 タビジョの略史

(7)

ト「Like the World」でも掲出していった。ユー ザーによる投稿が活発化するにつれて、フォロ ワー数とハッシュタグ投稿数が大幅に伸びた。

 当初、タビジョでの投稿は、ユーザー自身の 自発的な旅行において行われるものであったが、

次第に H.I.S. が旅費を負担する形(または海外 の政府観光局から協賛を得て)で海外に取材旅 行に派遣をして、公式レポーターとして取材活 動および写真や記事の提供を依頼するように なった。これまでカナダ・ブリテッシュ・コロ ンビア州観光局、ハワイ州観光局、オーストラ リア政府観光局、グアム政府観光局などからの 依頼によって、公式レポーターはインフルエン サーとしての活動を行うようになった。

 その後、さらにタビジョのコミュニティの拡 大に合わせて、H.I.S. は、取材旅行に派遣する 公式レポーターとして22名を任命した。その際 の選定基準は、①再投稿の反響が大きいこと、

②写真や記事のクオリティが高いこと、③得意 なデスティネーションのバランスを考慮するこ とをもとに総合的に判断して選定された。

 また、公式レポーター中には、オンラインだ けに留まらず、リアルな交流イベントでも自ら の旅の体験や撮影した写真を紹介するなど、無 報酬でコミュニティの象徴的な役割を担ってい る。現在ではハワイ好きが集まる「ALOHA タ ビジョ」、ランニング好きが集まる「タジジョ RUN」、 動 画 づ く り を 楽 し む「 タ ビ ジ ョ MOVIE」など同好会コミュニティが派生的に 誕生する一方で、H.I.S. が主催するイベントだ けでなくユーザー同士が全国各地に自発的に

「タビジョ会」を結成するなどの動きも現れ、

自己増殖的にタビジョでの投稿数やフォロワー 数は飛躍的に伸びていった。

 このようなタビジョの躍進的な投稿数やフォ ロワー数が伸長した要因として、運営担当者へ の聞き取りから、下記のことが分かった。第1

に、企業からユーザーへの一方的な情報発信で はなく、ユーザーにとっての自己表現の機会と してコミュニティを位置づけたこと。第2に、

ブランド名など企業側視点のキーワードではな く、ユーザー視点のキーワードでハッシュタグ を創出したこと。第3に、リアルイベントを定 期的に開催することで、コミュニティの方向性 やユーザー同士の関係性を強化できたこと。第 4に、公式レポーターのようにコミュニティの 象徴的な存在を創出して、コミュニティの内外 に理解を広げていくこと。第5に、投稿数の増 加に応じて、様々な媒体を使ってコミュニティ の広報活動を行うこと。そして第6に、コミュ ニティのユーザーに投稿数の推移を共有して、

さらなる協力を依頼したこと。

 コミュニティへの関与を基準としてキーパー ソンに絞って参加を促すことが効果的であるこ とは、消費者参画型のコ・クリエーション(価 値共創)の研究でも明らかになっている

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(4)タビジョツアーの商品化と公式レポーター の関与

 タビジョツアーとは、公式レポーターの意見 を反映したパッケージツアーである。タビジョ ツアーの商品化は、タビジョの利用価値を高め、

旅行商品の販売を通じて目に見える成果として 売上に貢献することを目的に行われた。

 当初タビジョツアーは、H.I.S. の企画担当者 の発案で企画され、ハワイ・ラスベガス・バリ・

オーストラリアなどツアーが発売されたが、販

売は期待通りの成果をあげられなかった。その

後、打開すべく投入された新たなソウルツアー

の商品化において、公式レポーターの関与が始

まった。具体的には任命された2名の公式レ

ポーターがツアー企画会議に参加し、開発段階

から旅行目的地や旅程について公式レポーター

から助言を受けながらツアーの企画担当者と意

見を交わし、公式レポーターがおすすめするツ

(8)

アーを開発していった。公式レポーターの企画 アイデアを反映した旅程案をもとに、韓国観光 公社の協賛の上で、公式レポーターを取材旅行 に派遣した。その後、公式レポーターの取材に よる写真・動画と記事が H.I.S. に無償で提供さ れ、募集書面の作成やプロモーションに活用さ れた。

 2019年10月までに、タビジョツアーは、東京 発で上海、ベトナム、ハワイ、グアム、マレー シア、オーストラリア、スリランカ、オランダ、

チェコ、オーストリア、ポーランド、フィンラ ンド、ノルウェイ、スウェーデン、デンマーク、

タヒチ、ドバイなど海外16 ヶ国、奄美大島、

宮古島など国内を含む18商品が企画販売されて きた。

 タビジョツアー商品化において、公式レポー ターの関与を整理すると、①観光スポットや飲 食店やそれらを効率的にめぐるモデルコース、

過ごし方などの旅程に関するアイデア、②旅行 の目的や旅程に適したホテル選択、③取材によ る写真・動画・記事の提供の3つに大別される。

 取材に関わる旅費は、基本的に H.I.S. が負担 しているが、その多くは政府観光局や航空会社

のマーケティング上のサポートによって成り 立っている。しかし、公式レポーターの取材の 成 果 物 で あ る 写 真・ 動 画・ 記 事 の 提 供 は、

H.I.S. に無償で提供され、ツアー募集のための 広告素材として活用されている。加えて、ある 公式レポーターのケースでは、店舗での顧客の 旅行相談にも関与していることもわかった

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。  このように取材旅費は H.I.S. が負担している ものの、公式レポーターは、取材によって得た 写真・動画や記事と、自分が発見した「観光経 験」に関するアイデアを旅行商品化において H.I.S. に無償で提供している。つまり、公式レ ポーターは、本来企業が投資すべき商品開発投 資の代わりを担うだけではなく、その成果物を 無償で提供していることになる。こうした行動 は、ユーザーイノベーションにおける、一般的 な消費者の先取りをするリードユーザーの特徴

18

と類似していることが推察される。

(5)公式レポーターと企画担当者の共創  今回の調査では、商品毎の集客数・収益につ いての具体的な数値を得られなかったが、運営 責任者に販売実績に対する定性評価をの聞き取 りによって行った。「期待以上」 「期待通り」 「期 待以下」の3段階の定性評価による販売状況と 公式レポーターと企画担当者の共創との関係性 を整理した。

聞き取りをもとに筆者作成

デスティネーションの選定

公式レポーターと企画担当者との企画会議 公式レポーターの取材派遣

公式レポーターから写真・記事提供

募集書面作成・プロモーション 図3 タビジョツアーの商品化フロー

聞き取りをもとに筆者作成 企画担当者 取材派遣 座談会 写真提供 記事提供 寛容さ

モロッコ 〇 〇 〇 〇 〇 期待以上

奄美大島 〇 〇 〇 〇 〇 期待以上

上海 〇 〇 〇 〇 〇 期待以上

ソウル 〇 〇 〇 〇 〇 期待通り

マレーシア 〇 〇 〇 〇 〇 期待以下

フィンランド 〇 〇 〇 〇 〇 期待以下

タヒチ 〇 〇 〇 〇 〇 期待以下

宮古島 〇 〇 〇 〇 × 期待以下

ベトナム 〇 〇 〇 〇 × 期待通り

グアム 〇 〇 〇 〇 × 期待以下

豪州 〇 〇 〇 〇 × 期待以下

オランダ 〇 〇 〇 〇 × 期待以下

タビジョの関与

商品 販売状況

表3 共創関係と販売状況の関係

(9)

 調査の結果、企画担当者が公式レポ―ターの 意見を取り入れる寛容さがない商品は、「期待 以下」、「期待通り」の結果のみで、「期待以上」

の成果は残せていなかった。公式レポ―ターが 商品化に積極的に関与するだけでなく、公式レ ポーターの助言を受け入れる企画担当者の寛容 さが商品の販売状況が影響をしている傾向が見 られた。公式レポーターと企画担当者との共創 があっても、販売状況が「期待以下」の場合も あり、明らかに相関関係があるというまでには 至っていない。しかし、企画担当者が、公式レ ポーターの助言を受け入れずに寛容度が低いと、

どれだけ公式レポーターの関与が大きくても

「期待以上」の成果をあげられていない。企画 担当者が、公式レポ―ターの企画能力をあてに せずに単にカメラマン兼ライターとして位置づ けて関与を低くするよりも、公式レポーターを 新しい商品開発の共創パートナーとして位置づ けて積極的に助言を受け入れて関与を高める方 が、「期待以上」の販売実績をあげていること がわかった。

 また、「期待以上」の販売実績をあげている 商品は、企画担当者が立案したものとは明らか に異なる新奇性のあるものであることがわかっ た。企画担当者が立案する従来の訪問スポット や旅程は、過去の実績において売れ筋をベース にした選択になる一方で、公式レポーターが提 案する商品は、モロッコや奄美大島など売れ筋 ではないデスティネーションでも、「期待以上」

の成果をあげていた。

 商品化において公式レポーターの関与の程度 のみならず、企画担当者が公式レポーターの助 言を受け入れる寛容さの程度もイノベーション に影響を与えていることが推察される。

4.創造的消費者の行動分析と役割

(1)公式レポ―ターの調査

 公式レポーターは、商品開発において写真・

動画、記事、旅程アイデアを無償で提供し、ま た交流イベントの企画運営においても無報酬で 参画している。公式レポーターは、なぜ自発的 に商品開発に関与し、無償で情報提供を行うの であろうか。公式レポーターの行動の特徴と要 因を明らかにするために、公式レポーターへ質 問票調査を実施した。実施期間は、2019年10月 である。有効回答数10件、回答属性として全員 女性で、20代5件、30代4件、50代1件であっ た。

(2)調査結果

 公式レポーターの海外旅行経験(表4)は、

30 ヶ国以上が4件、25 ~ 30 ヶ国未満が3件と、

25 ヶ国以上の訪問歴のある人が大多数を占め た。また、海外旅行の手配方法のスタンスの調 査(表5)では、「必要に応じて旅行会社と個 人手配を使い分ける」が5件、「できるだけ旅 行会社を使わず自分で手配する」が3件、「す

(N=10)聞き取りより筆者作成 必要に応じて旅行会社と個人手配を使い分ける

6

できるだけ旅行会社を使わず自分で手配する

3

すべて旅行会社を使わず自分で手配する

1

いつも旅行会社のツアーを使う

0

表5 公式レポーターの旅行手配方法

(N=10)聞き取りより筆者作成 訪問国数 件数

5ヶ国未満 1

5~10ヶ国未満 1

10~15ヶ国未満 0

15~20ヶ国未満 1

20~25ヶ国未満 0

25~30ヶ国未満 3

30ヶ国以上 4

表4 公式レポーターの海外旅行経験

(10)

べて自分で手配する」が1件と、旅行会社に依 存しない手配方法を選択していることがわかっ た。公式レポーターは、海外旅行でも個人旅行 に慣れており、旅行会社の顧客ターゲットとす るには不向きであることが推察される。

 公式レポーターの参画動機についての回答結 果(表6)は、「自分のアイデアが他人の助け になることがうれしい」「自分のアイデアを他 人と共有したい」など、自らのアイデアが他人 の役に立つことを最も重視しており、また「広 く多くの人に認められたい」「自分の好きなこ とを多くの人に知ってもらいたい」と同好のコ ミュニティへの貢献と承認欲求がみられた。ま た、半数の人が「企業が企画したツアーより自 分のアイデアで企画したツアーのほうが楽し い」と考えており、商品開発に関与する高い意 欲と創造性を持っていた。一方で、「自分のア イデアで金銭的報酬や無料旅行機会を得られる よう期待している」「この機会を活かして今後 モデル・タレントとして活躍したい」などは少 なく、インセンティブによる誘因よりは、コミュ

ニティを意識した承認欲求など内的動因によっ て動機が形成されている傾向がみられた。

 一方で、「H.I.S. に認められたい」は少なかっ た。他のリードユーザー研究では運営する企業 に対する承認欲求の高さも報告されていたが、

今回の調査ではその傾向は見られなかった。予 備調査として実施した公式レポーター1名への インタビューでその動機も見られたため質問票 の選択肢に加えたが、実際の公式レポーターへ の質問票調査の方法が、個人情報保護の観点か ら H.I.S. から各レポーターに依頼をしたことが 影響していることが考えられる。

(2)旅行商品におけるリードユーザー法の検討  従来のマーケティングの手法では、ターゲッ トとする平均的回答者から情報を収集して、

ニーズを特定して商品開発を行ってきた。しか し、これまでのユーザーイノベーション研究か ら、ターゲットの外にある極端な条件にあるご く少数しかいない創造的消費者(リードユー ザー)を製品のアイデア創造に協力してもらう ことが有効であることが明らかになっている。

(N=10)聞き取りより筆者作成

動機の内容 件数

自分のアイデアが他人の助けになることがうれしい 10

自分のアイデアを他人と共有したい 9

自分の好きなことを多くの人に知ってもらいたい 6

企業が企画したツアーより自分のアイデアで企画したツアーのほうが楽しい 5

タビジョの中で友人を見つけたい 3

広く多くの人に認められたい 3

以前他のタビジョのアイデアが参考になったので、その恩返しがしたい 2

H.I.S.に認められたい 1

自分のアイデアで金銭的報酬や無料旅行機会を得られるよう期待している 1

タビジョのフォロワーに認められたい 0

他のレポーターに認められたい 0

この機会を活かして今後モデル・タレントとして活躍したい 0

なんとなく 0

表6 公式レポーターのコミュニティの参画動機

(11)

 公式レポ―ターの調査結果(表7)より、ダ ビジョ公式レポーターの観光行動は、平均的な 消費者よりも先取りをするリードユーザー(創 造的消費者)として特徴が見られる。第1に、

公式レポーターは20 ヶ国を越える多くの訪問 歴があり、海外旅行の経験が豊富である。第2 に、公式レポーターの旅行スタイルの調査(表 7)では、「団体旅行より個人旅行を好む」(10 件)、「あまり開発されていない旅行先を好む」

(9件)、 「失敗を厭わず新しい体験を求める」 (9 件)、「以前訪れた場所より新しい場所を探す」

(8件)、「旅行中は、活動的で現地の探検や学 習に時間を使う」(8件)という観光行動の傾 向がみられた。すなわち、公式レポ―ターは、

冒険を好む「アロセントリック型」のパーソナ リティの傾向が見られ、ニーズを先取りする リードユーザーの特質を有していると考えられ る。

 また公式レポーターの多くは、他人からの承 認欲求が参画動機となっており、コミュニティ メンバーや運営企業から共感・尊敬・感謝を得 ることが便益となっている。このように公式レ ポーターは、自発的に写真・動画・旅程アイデ アなどの情報提供やイベント運営の参画を無償 で提供して、新しい商品化やコミュニティの発 展に貢献していることが明らかになった。ユー ザーに外的誘因によるインセンティブを提供す ることによってコミュニティを活発させるので

はなく、内的動因に働きかけ、その承認欲求を ドライブさせることで消費者の参画を活発化し ている。

 このように公式レポーターは、創造的消費者

(リードユーザー)としての特質を有している ため、市場ターゲットではなく新しい潜在市場 を創造する商品開発のパートナーとして位置づ けて価値共創を行い、タビジョのフォロワーを 市場の標的とするのが有効であると考えられる。

 また、タビジョの取組みが優れているのは、

コミュニティを通じてリードユーザーを効率的 に特定する方法を構築していることにある。先 行研究より、リードユーザーは市場ではごく少 数しか存在しないことが明らかになっており、

その特定方法が難しいことが課題である。リー ドユーザーの発見方法には、虱潰しに対象者を 調べていくスクリーニングと、優れたエキス パートを紹介の連鎖によって絞り込んでいくピ ラミッディングという方法がある。タビジョの 取組みにおいて、コミュニティへの関与の度合 いを基準に公式レポーターの選定を行ったこと で、その候補者間の「適度な競争」が生まれ、

互いに刺激し合いながら、コミュニティの象徴 的な存在を育成するピラミッディングが形成さ れていると考えられる。その意味では、タビジョ が企業からの一方的な情報伝達のためのメディ アではなく、ユーザー同士が関わり合うコミュ

N=10

質問票調査より筆者作成

質問項目 件数

海外旅行では団体旅行より個人旅行を好む 10 プライベートで年1回以上海外旅行に行く 9 非日常のあまり開発されていない旅行先を好む 9 旅行では多少の失敗を厭わず、新しい体験を求める 9 旅行中は活動的で、現地の探検や学習に時間を使う 8 以前訪れた場所より、新しい目的地を探す 8

1週間以上の長期の旅行をする 7

本物志向で、現地ならではのものを志向する 6 アウトドア・不便な宿泊施設でも受け入れる 4 現地の文化や習慣に関心があり、観光客向けののものを避ける 3

表7 公式レポーターの旅行スタイル

筆者作成 コミュニティへ

の関与

図4 タビジョのピラミッディング

(12)

ニティとして機能したからこそ、創造的消費者 としての公式レポ―ターの選定を効率的に行う ことができたと言えよう。

5.考察と課題

 H.I.S. のタビジョが、創造的消費者と企業が コミュニティ単位で価値共創によるイノベー ションを起こす取組みであることがわかった。

コミュニティが自走し活発化していくためには、

企業からの一方的な情報提供ではなく、ユー ザー同士のコミュニケーションの活発化が鍵で あり、特に公式レポ―ターのような創造的消費 者の選定と役割が重要であることがわかった。

また、創造的消費者は、コミュニティの構成員 である企業の運営担当者やフォロワーに対して 承認欲求があり、コミュニティを意識した行動 をとっていることが明らかになった。公式レ ポーターは、自発的に旅行をして新しい「観光 経験」を開拓すると同時に、そこで得た写真・

動画やアイデアを商品開発や交流イベントに無 償で提供してコミュニティに貢献していた。こ れは、企業にとっては、開発コストを自らかけ ることなく低費用で商品開発ができることを意 味する。

 また、商品開発において公式レポ―ターの関 与度が大きく、かつ企画担当者が助言を受け入 れる寛容度が大きいほど、期待を上回る販売成 果をあげる傾向が見られた。旅行商品における ユーザーイノベーションの成功要因として、創 造的消費者に積極的な関与を促すことと同時に、

企業の開発担当者が従来の定番商品に固執せず、

市場を先取りする創造的消費者のニーズを取り 入れる新奇性に対する寛容さも重要な要素と なっていると考えられる。

 一方で、公式レポーターの観光行動の特徴は、

旅行会社に依存しない個人旅行を好む傾向があ り、企業にとって市場ターゲットをするには不

向きであることがわかった。

 以上のことを整理すると、企業は、創造的消 費者を市場ターゲットとするのではなく、ニー ズを先取りする開発パートナーとして位置づけ るのが有効であり、実際 H.I.S. では公式レポー ターの意見を反映した「タビジョツアー」の商 品化を試みていた。また、コミュニティ単位で イノベーションを起こすことは、企業側にとっ て絶えずイノベーションの連続性を保てるとい う便益がある。加えて、コミュニティへの貢献 度を基準にしたピラミッディング(リードユー ザーの選定)を行うことで、公式レポーターと いうコミュニティの象徴的な存在を創造的消費 者として特定することを容易にした。

 近年のパッケージツアーの低迷には、消費者 の多様化、消費者選好の急速な変化、OTA と の競争の激化といった環境の中で、旅行会社の 商品開発においてその仕様を見極めることが困 難となっていることが背景にある。一方で、ツ アーのコンテンツである「観光経験」を検討せ ずに済む航空券とホテルだけのスケルトン型の パッケージツアーは、OTA やサプライヤーの 直販との競争でその優位性を失っている。こう した状況の中で、新しいパッケージツアーの開 発手法として、創造的消費者を活用したイノ ベーションの方法論を提起するのが本研究の狙 いであった。

 事例として取り上げたタビジョツアーとは、

スケルトンツアーの空白部分である「観光経験」

の価値を高めるために、創造的消費者である公 式レポーターと企業の企画担当者との共創に よって開発された旅行商品である。SNS の誕 生によって消費者は、単なる情報の受け手では なく発信者になった。本研究では、旅行を自己 表現の機会とする創造的消費者の能動性を活用 した新しい商品開発の方法論の体系化を試みた。

 企業にとっての課題は、創造的消費者が提供

(13)

する無償の情報にいかに付加価値をつけて収益 につなげる仕組みをどのようにつくるかである。

今後、リードユーザーが発案したモデルコース をガイド付きツアーとして商品化、公式レポー ター同行ツアーの商品化、コミュニティ自体を 媒体として広告収入機会を創出するなど様々な 付加価値化が考えられる。

 創造的消費者を活用した価値共創による旅行 商品のマーケティングの成果について具体的な 収益分析を行い、その有用性を明らかにするこ とや、商品開発における創造的消費者の助言に 対する企画担当者の寛容さを担保するための組 織デザインの検討が今後の研究課題である。

【引用・注釈】

1. Philip Evans, Thomas S. Wurster Blown to Bits: How the New Economics of Information Transforms Strategy, Harvard Business Review Press 1999

2. 2019年9月に旅行会社5社の従業員計8名 によるインタビューを行った。

3. Kevin May, Thomas Cook's digital strategy - great ideas that came too late, Phocus Wire 2019

4. 大谷新太郎 4.19「観光とインターネット」

白坂蕃・稲垣勉・小沢健市・古賀学・山下 晋司 編(2019)『観光の辞典』朝倉書店 5. Smith, S. L. J. (1994) The Tourism

Product, Annals of Tourism Research, 21, 3, pp.582-595

6. Weiermair, Klaus (2006) Product Improvement Or Innovation: WhatIs The Key To Success In Tourism?, Innovation and Growth in Tourism, OECD, p.57 7. 小林裕和(2010)『旅行業における商品イ

ノベーションを引き起こす旅行商品の特性 について』北海道大学観光学ジャーナル 10, 61-72

《従来の関係性》 《デジタル社会の関係性》

着地側

発地側

市場

筆者作成

オペレーター ランド

ツアーオペレーター 企画旅行会社

消費者 消費者

創造的 消費者 オペレーター ランド

コミュニティ

追随的 消費者

共創 ツアーオペレーター

企画旅行会社

創造的 消費者

追随的 消費者 追随的 消費者

関与

図5 旅行商品開発における関係性の変化

(14)

8. 2019年1月の下灘駅での筆者の観察と旅行 者への聞き取りによる。約3時間の滞在中、

鉄道で訪れた人は10% 程度で、残りの大 部分は車で訪れ、平均滞在時間は15分で あった。

9. John Urry, 加太宏邦訳(2014)『観光のま なざし』法政大学出版局

10. 伏 見 稲 荷 大 社 は 映 画“The Memoirs of Geisha”のロケ地がきっかけとなり、香川 県庵治町の漁港は映画『世界の中心で愛を 叫ぶ』のロケ地として知られている。

11. 岡本健(2018)『アニメ聖地巡礼の観光社 会学 : コンテンツツーリズムのメディア・

コミュニケーション分析』法律文化社 12. 小川進(2013)『ユーザーイノベーション

-消費者から始まるものづくりの未来』東 洋経済新報社

13. Hippel.E, 榊原清則訳(1991) 『イノベーショ ンの源泉』ダイヤモンド社

14. 大沼雅也(2014)『ユーザーイノベーショ ン研究の新たな展開』日本経営学会第34 号 ,pp26-36

15. 一小路 武安(2010) 『ユーザーイノベーショ ン研究の現在:イノベーションを行うユー ザーをいかにマネジメントするか』赤門マ ネジメント・レビュー9巻3号

16. Robert E. Kraut, Paul Resnick(2012)

Building Successful Online Communities:

Evidence-Based Social Design ,The MIT Press

17. タビジョ運営責任者へのインタビューによ ると、公式レポーターが店舗で数日間顧客 1人に付き30分の旅行相談役を担う取り組 みを行ったところ、すべての予約が埋まる ほど盛況だった。

18. Eric von Hippel, Cicom International 訳

(2006) 『民主化するイノベーションの時代』

ファーストプレス

【参考文献】

1. 秋元創太・三富悠紀・井上剛(2017)『リー ドユーザーが生み出す製品コンセプトは本 当に優れているのか ?』赤門マネジメント・

レビュー

2. 阿部慶賀(2010)『創造的アイデア生成過 程における身体と環境の相互作用』日本認 知学会17号

3. 植田一博・鷲田祐一・有田曉生・清水剛

(2010)『イノベーションのためのアイディ ア生成における情報と認知特性の役割』日 本認知学会17号

4. 小川進(2005)『ユーザー起動法とブラン ド・コミュニティ:良品計画の事例』神戸 大学

5. 山川拓也(2016) 『添乗員付き海外団体パッ ケージツアーの構造分析』広島文教女子大 学紀要51号

6. 山本晶(2014)『キーパーソン・マーケティ

ング : なぜ、あの人のクチコミは影響力が

あるのか』東洋経済新報社

参照

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