大都市制度と政令指定都市制度 : 両制度の「乖離
」の拡大と新たな制度構築を中心として (福田雅章 教授退職記念号)
著者名(日) 外川 伸一, 安藤 克美
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 65
ページ 3‑29
発行年 2010‑03‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000371/
論
大
説都 市 制 度 と 政 令 指 定 都 市 制 度
││ 両制 度の
﹁乖 離﹂ の拡 大と 新た な制 度構 築を 中心 とし て│ 外 │
川 伸 一 安 藤 克 美
目 次 はじ めに 第一 節 政令 指定 都市 制度 成立 の経 緯 第二 節 大都 市と して の名 古屋 市 第三 節 国土 縮図 型政 令指 定都 市と して の浜 松市 第四 節 北遠 地域 との 合併 の政 令指 定都 市・ 浜松 への 影響 第五 節 結論 に代 えて おわ りに
はじ めに 平成
二一 年四 月︑ 一八 番目 の政 令指 定都 市と して 新岡 山市 が誕 生し た︒ 人口 は約 七〇 万人 であ る︒ 平成 一三 年に
﹁平 成の 大合 併﹂ を実 現し 行財 政能 力に 劣る 小規 模市 町村 の数 を極 小化 すべ く打 ち出 され た国 の﹁ 市町 村合 併支 援 プラ ン﹂ にお いて 政令 指定 都市 の指 定要 件が 緩和 され ると
︑周 辺の 市町 村を 合併 しな がら 政令 指定 都市 を目 指す 動 きが 全国 で一 挙に 活発 化し た︒ しか し︑ これ らの 政令 指定 都市 は︑ 初期 のい わゆ る﹁ 五大 市﹂ とは 全く 異な った
﹁形 態﹂ を有 して いる
︒ 最近 誕生 した 静岡 市︵ H一 七・ 四・ 一︑ 七〇 万人
︶︑ 浜松 市︵ H一 九・ 四・ 一︑ 八〇 万人
︶︑ 新潟 市︵ H一 九・ 四・ 一︑ 八一 万人
︶に は国 土縮 図型 大都 市︵ 政令 市︶ とし ての 共通 点が ある とさ れる
︵西 村 20 09
:1 2, 14
︶︒ すな わち
︑
①非 常に 広大 な市 域を 有し 人口 密度 が小 さい こと
︑② 農山 村や 過疎 地を 抱え てい るこ とな どの 特徴 があ り︑ 大都 市 とは 違っ てい わば
﹁国 土の 縮図
﹂の よう に様 々な 行政 ニー ズを 抱え てい ると いう こと であ る︒ 周辺 の農 村地 域を 強 引に 編入 し︑ いわ ば﹁ 数あ わせ
﹂に よっ て政 令指 定都 市に なっ た訳 であ るか ら︑ この こと は当 然と 言え よう
︒特 に︑ 浜松 市の 場合
︑合 併に よっ て北 部の 広大 な山 村地 帯︵ 北遠 地域
︶が 編入 され たた め︑ 政令 指定 都市 では 珍し い﹁ み なし 過疎 指定
﹂を 受け てい る︒ 同じ 政令 指定 都市 の中 に過 密地 域と 過疎 地域 が同 居し てい るの であ る︒ この よう に わが 国の 政令 指定 都市 制度 は︑ 近年
︑大 きく 変貌 を遂 げて いる
︒政 令指 定都 市制 度は
︑わ が国 にお ける 大都 市制 度 では なか った のか
︒
そこ で本 稿で は︑ こう した 問題 意識 に沿 って 大都 市制 度を 定義 した 後︑ 大都 市制 度と 呼ぶ には 極め て不 十分 なが ら︑ 当初 は大 都市 が指 定さ れて いた 政令 指定 都市 制度 が︑ 近年
︑そ の﹁ あい まい さ﹂ を増 幅さ せ本 来の 大都 市制 度 から ます ます
﹁乖 離﹂ して いく 現状 を考 察し 将来 の方 向性 につ いて 考え るこ とと する
︒ま ず第 一節 にお いて
︑わ が 国の 大都 市制 度と 目さ れて いる 政令 指定 都市 制度 の成 立の 経緯 につ いて 簡単 に振 り返 った 後に
︑第 二節 にお いて
︑ 政令 指定 都市 の中 でも 典型 的な
﹁大 都市 的特 徴﹂ を有 する 名古 屋市 につ いて 考察 し︑ 第三 節で は名 古屋 市と 比較 し なが ら﹁ 国土 縮図 型﹂ 政令 指定 都市 とも 言え る浜 松市 を取 り上 げる
︒つ いで 第四 節で は浜 松市 が﹁ 国土 縮図 型﹂ と なっ た主 要因 であ る北 遠地 域と の合 併と それ が市 全体 に及 ぼす 影響 につ いて 考察 し︑ 第五 章に おい て今 後の 新た な 大都 市制 度設 計の 方向 性に つい て述 べ︑ 本稿 を閉 じる こと とす る︒ 第一
節 政令 指定 都市 制度 成立 の経 緯 大都
市制 度に 関す る普 遍的 な定 義は 必ず しも 存在 しな い︒ そこ で︑ 本稿 では 主題 との 関係 から 次の よう に定 義す るこ とに する
︒す なわ ち大 都市 制度 とは
︑一 般の 都市 には 見ら れな い大 都市 特有 の過 密な 人口 集積 や産 業集 積に 伴 って 生起 する 交通 渋滞
︑環 境問 題︑ ゴミ 処理 問題
︑飲 料水 確保 問題
︑し 尿処 理問 題︑ 都市 型災 害・ 犯罪 対策
︑ホ ー ムレ ス対 策な どを 効果 的・ 効率 的・ 体系 的に 処理 する とと もに
︑集 積に よる 経済 効果 等を 効果 的・ 総合 的に 発揮 さ せる ため の制 度と いう こと にな る︒ わが 国に はこ うし た大 都市 制度 と呼 べる もの が存 在す るで あろ うか
︒と りあ え ず考 えら れる もの は︑ 地方 自治 法第 二五 二条 の一 九に 規定 され る大 都市 の特 例を その 主な 内容 とす る政 令指 定都 市
制度 であ ろう
︒ち なみ に政 令指 定都 市の 法的 要件 は︑
︵一
︶人 口が 五〇 万人 以上 で︵ 二︶ 政令 によ って
﹁指 定﹂ さ れる こと の二 点だ けで ある が︑ この 要件 とは 別に 運用 上の 指定 基準 が定 めら れて きた
︒初 村︵ 20 03
:2 8︶ によ ると
︑ 従来 まで の基 準は
︑概 括的 な指 標と して
﹁指 定都 市の 事務 を適 切か つ効 率的 に処 理す るこ とが でき る能 力﹂ と﹁ 規 模能 力に おい て旧 五大 市に 比べ 遜色 のな いこ と﹂ の二 点で あり
︑主 な判 断基 準と して
①人 口等 の規 模︑
②都 市的 形 態・ 機能
︑③ 行財 政能 力︑
④地 元の 意向 が挙 げら れ︑ 具体 的に は人 口が 概ね 一〇
〇万 人程 度︑ 人口 密度 は二
︑〇
〇
〇人
/㎢
︑第 一次 産業 就業 人口 が全 就業 人口 の一
〇% 以下 など があ ると され てき た︒ しか しな がら
︑政 令指 定都 市 制度 は本 当に 大都 市制 度な ので あろ うか
︒こ のこ とを 検証 する ため に︑ ここ で政 令指 定都 市制 度成 立の 経緯 につ い て簡 単に 振り 返っ てお こう
︒ かね てか ら横 浜市
︑名 古屋 市︑ 京都 市︑ 大阪 市︑ 神戸 市の いわ ゆる
﹁五 大市
﹂と これ らを 包含 する 府県 との 間に はそ の行 政権 限を 巡っ て鋭 い対 立が あっ た︒ 様々 な経 緯を 経て 昭和 二二 年︑ 国は 大都 市を 府県 から 分離
・独 立さ せ︑ 二重 監督
・二 重行 政を 撤廃 し︑ その 自主 的な 地位 を尊 重す る趣 旨の 特別 市制 度を 戦後 初め て制 定さ れた 地方 自治 法 に盛 り込 んだ
︒つ まり
︑新 たに 創設 され た特 別市 制度 は︑ 第一 にそ の区 域を 府県 から 完全 に分 離す るこ とと
︑第 二 にそ の行 政権 限も 府県 と完 全に 同等 にす るこ とを 最大 の特 徴と した
︒こ れに 対し 五大 市が 属す る五 府県 はそ の存 立 が危 ぶま れる こと など から
︑熾 烈な 反対 運動 を展 開し
︑特 別市 の同 意に は関 係府 県の 全選 挙人 によ る投 票を 必要 と する 法解 釈が なさ れた
︒両 者の 対立 は激 化し てい った が︑ 昭和 二八 年に 地方 制度 調査 会が 府県 機能 の一 部移 譲と 知 事の 許認 可権 の整 理を 提案 する と︑ 五大 市側 もこ れに 一定 の評 価を 示し
︑特 別市 制度 の実 施か 否か とい う争 点が
︑ 暫定 的な 措置 とし て︑ 大都 市の 事務
・財 源配 分に 関す る特 例を 設け るこ とで 解決 させ る方 向に 徐々 に移 って いっ た︒
昭和 三一 年に 地方 自治 法が 改正 され
︑特 別市 条項 を削 除す る代 わり に︑ 府県 から 住民 の生 活に 直接 関わ る民 生・ 衛 生部 門を 中心 とし た一 六項 目︵ 現在 では 一九 項目
︶の 事務 移譲 と府 県の 監督 権の 緩和 を柱 とす る﹁ 大都 市に 関す る 特例
﹂が 設け られ た︒ そし て五 大市 を指 定都 市に 指定 する 政令 が公 布さ れ︑ 政令 指定 都市 制度 が誕 生し た︒ この 制 度を 先ほ どの 特別 市制 度の 特徴 との 対比 で見 ると
︑第 一に その 区域 は府 県に 包含 され
︑第 二に その 行政 権限 は府 県 の権 限の 一部 移譲 であ り府 県と 完全 に同 等と まで には 至っ てい ない こと であ る︒ こう した 政令 指定 都市 制度 は︑ 特別 市制 度を 巡る 五大 市と 五府 県の 激し い対 立お よび 政治 紛争 に一 応の 終止 符を 打つ ため に︑ 都道 府県
・市 町村 とい う二 層制 を維 持し つつ
︑当 面︑ 府県 との 間に おけ る二 重監 督・ 二重 行政 の弊 害 を大 都市 への 事務 配分 の特 例を 設け るこ とに より 解決 を図 ろう とす る﹁ 妥協 の産 物﹂ であ った と言 うこ とが でき る︒
﹁そ れだ けに
︑理 論的 にも 一貫 した もの では なく
︑中 途半 端な 制度 にな って いる
﹂︵ 成田 19 96 35
︶︒ 実際 に政 令
;
指定 都市 に特 例と して 移譲 され た事 務は
︑児 童福 祉︑ 身体
・知 的障 害者 福祉
︑母 子家 庭・ 寡婦 に対 する 福祉
︑老 人 福祉
︑生 活保 護等 の社 会福 祉︑ 母子 保健
︑精 神保 健︑ 食品 衛生
︑結 核予 防等 の保 健衛 生︑ 都市 計画
︑土 地区 画整 理︑ 屋外 広告 物等 の都 市計 画関 連な ど地 方自 治法 第二 五二 条の 一九 に列 挙さ れた 一九 項目
︵現 在︶ のほ か︑ 区域 内の 指 定区 間外 の国 道及 び都 道府 県道 の管 理な ど道 路法 に基 づく 道路 管理
︑指 定区 間に おけ る一 級河 川及 び知 事が 認め た 区間 の二 級河 川の 管理 など 河川 法に 基づ く河 川管 理な ど個 別法 に基 づく ごく 一部 の
( )
事務 に過 ぎず
︑こ れら の特 例に
よる 事務 権限 の移 譲に は人 口集 積・ 産業 集積 から 生起 する 大都 市特 有の 諸問 題を 効果 的・ 効率 的・ 体系 的に 処理 す ると いう 視点 は全 くな く︑ した がっ て︑ 当然 のこ とな がら これ らの 諸問 題の 解決 は望 むべ くも なか った
︒換 言す る と︑ 大都 市行 政を 自主 的か つ総 合的 に推 進し てい くた めに は︑ 特例 とし て移 譲さ れた 事務 のみ では 明ら かに 範囲 が
狭過 ぎる だけ でな く︑ 分野 も極 端に 偏っ てい た︒ また
︑大 都市 固有 の財 政需 要に 対応 する ため の都 市税 源や 特例 と して 移譲 され た事 務に 要す る自 主財 源が 十分 に措 置さ れて いな い制 度で ある こと も露 呈し た︒ 政令 指定 都市 の税 財 政上 の特 例措 置は
︑区 域内 の大 規模 償却 資産 への 課税
︑特 別土 地保 有税 の課 税基 準面 積の 引き 下げ によ る課 税対 象 の拡 大︑ 地方 交付 税の 基準 財政 需要 額算 定に おけ る補 正の 上積 み︑ 宝く じ発 売に よる 収益 金︑ 道路 特定 財源 とし て の譲 与税
・交 付金 の有 利な 配分 など であ るが
︑こ れだ けで は十 分と 言え ない のが 実情 であ った
︒ 以上 見て きた 成立 の経 緯︑ また 特例 とし て移 譲さ れた 体系 性と 包括 性を 欠く 諸権 限︑ 不十 分な 税財 源な どか ら考 えて
︑政 令指 定都 市制 度は 本節 冒頭 で定 義し た大 都市 制度 とは 似て も似 つか ない 制度 であ るこ とが 理解 でき よう
︒ 本来 であ れば
︑こ うし た制 度を 真の 大都 市制 度と すべ く新 たな 制度 構築 が図 られ るべ きで ある
︒し かし なが ら︑ そ うし た方 向性 とは 逆に
︑国 は﹁ 平成 の大 合併
﹂を 企図 し財 政的 に自 立で きな い小 規模 自治 体を 大都 市が 救済 する こ とを 目的 とし て政 令指 定都 市の 要件 を緩 和し た︒ この ため
︑既 に述 べた よう に︑ 近年 指定 され た政 令指 定都 市で は 同一 行政 区域 内に 過密 地域 と過 疎地 域を 同時 に包 含す ると いう 事態 が生 じて いる
︒こ れら の都 市で は過 密政 策と 過 疎政 策を 並行 して 行わ なけ れば なら ない こと から
︑行 政上
・財 政上
︑著 しい 非効 率性 を抱 え込 むこ とに なっ た︒ 結 果と して
︑政 令指 定都 市制 度は 大都 市制 度か らま すま す﹁ 乖離
﹂し 極め て﹁ あい まい な﹂ 制度 にな って しま った と 言え よう
︒