イギリス毛織物工業史に関する研究文献の概観(未 定稿)
その他のタイトル The History of the English Woollen Industry : a Survey of Bibliography
著者 矢口 孝次郎
雑誌名 關西大學經済論集
巻 6
号 6
ページ 547‑570
発行年 1956‑10‑01
URL http://hdl.handle.net/10112/15689
イギリス毛織物工業史に関する研究文献の概観(末定稿)
矢口孝次郎
1
まえがき
中世以降のイギリス国民経済の発展において、始めには羊毛
の、続いては毛織物の、生産と輸出とが他の如何なる商品ない
し産業にもまさつて重要な地位を占めていたことは周知のとこ
ろである。しかしその事実がわれわれの研究の対象として特に
重要な意義を有するのは、それらの産業や貿易の発展が、イギ
リスの資本主義一ーしばしば資本主義の
exemplarといわれる
もの一ーの成立や発展と特に密接な関連を有しているからにほ
かならない。とこるでこの問題に関する研究は、既にわが国に
おいては大塚教授の労作によつてその途が拓かれていることも
周知の如くである。教授が上述の意味におけるイギリス毛織物 ートンの名を改めて紹介したことと並んで、わが国の経済史学 の前進に大きな貢献をなしたものといわねばならない。このよ うにして、その後、この領域における研究が、わが国において も著しく進んできていることは、人々の等しく認めるところで あろう。
それならば、われわれの研究が当然に依拠しなければならな
いところのイギリスの学界においては、毛織物工業ー一羊毛産
業全般を含めて一一の発展に関する歴史的研究の傾向は、現在
どのような状態にあるであろうか。或いは少しく遡つて、ここ
30
年ほどの間にはどのような研究が現われたであろうか。それ
らの点を、ここに、文献を示しつつ総括的に考えてみたいと思
う。
4
工業史の重要性を指摘し、その研究の途を拓いたことは、それ
" .,しかし、およそ羊毛産業史ないし毛織物工業史に関する文献
を網羅的にあげるというようなことは殆んど不可能であり、上 までわが国の学界においてはむしろ埋れていたアンウィンやヒ
~:il-=--K\IP釜~H縦-ffi{!,J.
認 ‑¥‑,)‑(l 岩訳似毎 0 誕嚢
(‑ll<.ロ) や
l‑.‑:i.¥‑=> K \Ill藻零H媒~J,!窒t-,}Q$~,j;,{謳Q誕謳(.!J<⇔
述のような目的のためには、当然に何らかの限定をおかざるを
3得ない。まず、広く歴史的研究が根本資料に基礎をおくべきこ
とはいうをまたないが、ここにはそれらの資料、 即ち
"Con‑temporary Informations " or " Contemporary Literatures
"な
どといわれるもの、或いは
ParliamentaryReportsを始めその
他の"
Documents"等は省いて、 いわゆる研究文献の部類に
属すもの、それも特に近年におけるものだけを・考えることとす
る。とはいえ、その場合でもいわゆる資料と研究との限界の明
確に認め兼ねるものがあり、殊に最近においては資料の編纂.
紹介を試みたもので研究上重要な価値を有するもの若千が存す
る。従って以上のように述ぺたとしても、その線を厳格に定め
ることはできない。第二に、近年の文献という場合、その時点
を何れにおくかという困難な問題が存するが、それは観点によ
つて異ならざるを得ない。ここには、・われわれはその時点を大
体
1910年代ないし
20年代におきたいと思うが、それはおよそ次
のような理由からである。
第ーは、イギリス経済史学の発迷からみて、大体この時期が
一つの劃期と考えられている点であるが、いまそれを簡単に述
べるならばこうである。即ちイギリス経済史学は
1880年代以前
の準備的時期の後、
80年代に至って一応の成立をみたといわれ や
11る。従つて
19世紀の
80年代はイギリス経済史学の「成立期」
" Formative Age"
といわれるのであるが、その時期の前後の指
標となるものがカニンガムの
TheGrowth of̲ the EnglishIndustry and Commerce, vol. I, 1882
とアシュリーの
AnIntroduction to English Economic History and Theory, 2
vols. 1892‑3
であり、更にその間に介在する代表的な労作とし
て、シーポームの
TheEnglish Village Community, 1883,トイ
ンビーの
TheIndustrial Revolution of the Eighteenth Centuryin England, 1881‑2,
及びロジャースの
S紅
Centuriesof Workand Wages, 1884
等があげられる。このようにしてイギリス経
済史の対象
OJいわば概説的構成ないしアウトラインができた後
2030
年を経て、第一次大戦前後から
1920年代にかけて、イギリ
ス経済史学は次の前進の時点に達した。そこに「特殊研究の時
期」
"Ageof Monograph"が始まるわけであるが、その時期は
或る意味では現代に至るまで続いているものと考えることもで
きる。勿論この特殊研究の時期以前にも、例えばアンウィンの
一つの代表的労作
IndustrialOrganisation in the S紅
teenthand Seventeenth Centuries, 1904
の如きユニークな労作がな
いわけではないが、現代のイギリス経済史学における多くの重
要な特殊研究は、およそ
1910年代ないし
20年代以降に属するも
0‑
のであるということができる。
さてこのような観点からイギリス毛織物工業史研究の発達を
顧みる時、この新なる時期の研究の出発点を燦然として飾るも
のがヒートンの
The Yorkshire Woollen and WorstedIndustries, 1920
である。この書ほイギリス毛織物工業史に関
する
amonumental workであるといわれているが、更に広く
経済史ないし産業史に関しても指を屈するに足る代表的労作で
あるといい得るであろう。また他の観点からは、およそ地方史
研究とはかくあるべきものであるとして、その典型としてあげ
られてもいる。しかも、この書はヨークシャーを中心とする羊
毛業・毛織物工業の発展の特殊的研究ではあるが、一方常に視
野を全般の毛織物工業の発展の上に注ぎ、或る意味では一つの
綜合的把握をも試みているのであって、その点からも、毛織物
工業史研究の発展において一時点を劃するものといえる。とこ
ろで、綜合的研究といえば、ヒートンの著書と殆んど時を同じ
くして上梓されたリフ゜ソンの
The History of the Woollenand Worsted Industries, 1921
のあることも忘れてはならな
い。この書は、特殊的研究という標準からはむしろ離れるもの
3ではあるが、毛織物工業史そのものについていえば、今もつて
それに代るもののない殆んど唯ーともいえる綜合的著述であっ
""°'11‑"'K ¥IP据;!i;!H
報
‑1!,{J,d.竪ヤ心岩釈似涯0縣軍(‑lK ロ) て、この意味においては、ヒートンの著書とは異つた点で、一 つの研究史上の意義を有している。
およそ以上のような観点から、ここには
1910年ないし
20年を
...一応の時点として把え、それ以後の研究を近年における研究と
みなして、それらを中心として研究の動向を概括的に示したい
と思う
cJf 19
世紀の文献
上に述べたように本稿においては、主として近年における文
献を問題とするわけであるが、順序としてそれ以前の文献につ
いても一言する必要があるであろう。それらの文献は資料的に
重要であるのみでなく、その中には、それぞれの領域において
今なお研究文献として偉れた地位を有するものが多くあり、現
代の研究も当然にそれらに依らざるを得ないのである。もっと
も、この場合も遡れば限りがなく、例えば
18世紀中葉における
著名な
JohnSmith, Chronicon Rusticum‑Commerciale; or,Memoirs of Wool, etc., 2vols., 1st ed. 1747; 2nd rev. and
enlarged ed. 1757‑65
の如きは、羊毛業及び毛織物工業に関す
る過去の^―‑主として
17世紀の一ー諸資料・文献等からの殆ん
ど剰すところのない抜幸であって、一つの重要な研究文献とし
ギ Ill
‑,!¥¥‑=‑‑K¥IP
釜零
H採£,{
1l匡ヤ肉宙娯収毎
Q誕峯
(.!J<ロ)
てあげねばならないものであろう。しかしここには、それに類 o
― .,., するものは「同時代文献」として省略し、主として近代的研究
に属すると考えられるものに限り、それも直接に毛織物工業を
取扱った著述、或いはそれに準ずる重要なものをあげるに止め
たい。この点からみる時は、代表的の文献は殆んど
19世紀に至
つて著わされたものである。ここにはこのような意味で、それ
. . . . . .らを
19世紀の文献と称するのであるが、それ以後のものも附加
してある。 (なお地方史に関するものは後述)
W. J. Ashley, The Early History of the English Woollen Industry, 1887.
E. Baines, "An Account of the Woollen Manufacture of England", in Yorkshire, Past and Present, 1870.
J. Bischoff, Comprehensive History of the Woollen and Worsted Manufacture, 2 vols., 1842.
J. Bonwick, Romance of Wool Trade, 1894.
J. Burnley, History of Wool and Wool‑combing, 1889.
J. H. Clapham・, Woollen and Worsted Industries, 1907.
E. Collinson, History of the Worsted Trade, 1854.
G. Dodd, Textile Manufacture of Great Britain, 1844.
W. Hirst, History of the Woollen Trade during the Last Sixty Years, 1844.
..μ臣
J. James, History of the Worsted Manufacture in England from the Earliest Times, 1857.
W. S. B. McLaren, Spinning Woollen aud Worsted, 1884.
W. Radcliffe, Origin of the New System of Manufacture, commonly called Power Loom Weaving, 1828.
Samuel Bros. Wool and Woollen・Manufactures of Great Britain : a Historical Sketch, 1859.
皿・
一般史に関するもの
イギリスにおける羊毛業及び毛織物工業に関する一般史な
いし通史と考えられるものは、専門書としてはさきにあげた
リフ゜ソンの著書以外にはなく、求めるとすれば入門因として
の、
G. M. Morris and L. S. Wood, The Golden Fteece,.an Introduction to the Industrial History of England, 1931.をあげることができる。この書は入門書ではあるが、イギリス
の毛織物工業史を物語風に興味深く述ぺたもので、その概観を
知るためには便利なれ物であるとされている。次にリプソンに
は近著として、
E. Lipson, A Short History of Wool and its Manufacture (mainly in England), 1953.
sc
があるが、この書はイギリス学界における近年の研究成果を無
視している点が多く、その上梓後期待に反したという批評を蒙
つているものである。かくてリプソンについては当然に、前述
の著書の仕かに、次にあげるような彼の代表作によるぺきであ
ろう。さて、このようなわけで、専門書としての一般史を求め
るとすれば、それぞれの時代についてこれを求める低かはない
のであって、その中代表的なもののみをあげれば次の如くであ
る。何れもいまさら列挙する必要のないほど周知のものではあ
るが、念のためにあげておきたい。
W. J. Ashley, An Introduction to English Economic History and Theory, 4th ed., 1909.
(野村兼太郎訳「英国経済史 及び学説」)
(Chap. III, The Woollen Indu・stry)E. Lipson, The Economic History of England, Vol. 1, The Middle Ages, 1st ed. 1915; rev. and en‑Iarged ed., 1937 (Chap. IX, The Woollen Industry)
Vol. II, The Age of Mercantilism, 1st ed., 1931; 3rd enlarged ed., 1943 (Chap. I, Textiles: Wool)
M. Postan and E. E. Rich, The Cambridge Economic History of Europe, vol. II, 1952 (Chap. VI, The Wool‑!en Industry by E. Cams‑Wilson)
L. F. Salzman, English Industries of the Middle Ages, new ed., 1923 (IX, C!othmaking)
's""I‑=‑‑
K \11:l釜$H媒~ls!竪+‑‑
t(l岩択択睡Q縣嚢(‑!I< ロ)
, English Trade in the Middle Ages, 1931 (XV, Export: The Wool Trade; XVI, Export: The Cloth Trade)その他、
W.Cunninghamを始めとするイギリス経済史に関
する通史は、何れも毛織物工業の発展について相当の頁をさい
ている。
わが国においては、イギリス毛織物工業史に関して、それだ
けを対象として通観した著述はまだ著わされていない。しか
しイギリス資本主義の成立に関して、主としてそれを対象と
して研究したものに大塚教授の著書のあることは既述の如く
である。また白杉教授の研究、角山助教授の近著も、同じよ
うな意味で、それを主たる対象としている。筆者もそれに触
れてかつて一書を上梓した。
大塚久雄「近代欧洲経済史序説」上(昭和
19年、改訂版 昭和
267年)
白杉庄一郎「資本主義成立史の原型」(昭和
27年)
角山 栄「資本主義の成立過程」(昭和
31年)
矢口孝次郎「資本主義成立期の研究」(昭和
27年)
さて、さきにも述べたようにイギリスにおける経済史の研究
は今世紀の 10 年代ないし
20年代以降においていわゆる「特殊研
究の時期」に移つたといわれる。これを毛織物]ご業史について
‑‑¥Jμ:j
zcc
T'‑1‑=ヽI
い牡誕零
H挑臥旦匿ヤ肉造椒似涯0 誕嚢
(.!J<ロ)
いえば、イギリス資本主義の成立を推進した最も重要な産業と
しての毛織物工業の史的意義の全貌を描き出すための前提とし
て、各領域の特殊研究ーー後にあげるメンデンホールの言葉に
よれば「前提的探究」
preliminaryexplorationーーが、現在に
至るまで
30年ないしそれ以上に亘つて行われているわけである
が、その中の主要な傾向の一つが地方史研究である。そして、
周知の如く、イギリス毛織物工業は全国的に拡散していたとは
いえ、重点的にはイースト・アングリア、西部地方及びヨーク
シャーの三大工業地域に集中していたのであるから、地方史研
究もおのずからこれらの地域に集中する傾向にあった。しかし
ながら、近年における特殊研究は、必らずしもこのような意味の
地方史に関するもののみとは限らず、その中には地方史とは関
係のない特殊問題の研究であって重視すべきものの多くあるこ
..........とは言をまたない。ここにはそのような地方史関係以外の研究
..をも一応一般史に関するものとして、次にまとめておきたい。
このような研究の中で、まず注目すべきものは中世以降の羊
毛及び毛織物貿易に関する研究である。その中前者についてい
えば、直ちにあげねばならないものは、パワー女史の二つの研
究、 出<
E. Power, The Wool Trade in English Medieval History, The Ford Lecture, 1941.
‑, "The Wool Trade in the Fifteenth Century" in Studies in English Trade in the Fifteenth Century, ed. by E. Power and M. M. Postan, 1933.
である。両書とも既にわが国においては広く知られており、前
者についてはその紹介(田中裕稲「西洋史学」
14号)もある。
本書は
134世紀を中心とする羊毛生産一牧羊経営、その集貨、
羊毛貿易とそれを担当した商人、ステープル制度等を論述した
ものであるが、特に中世において羊毛を取扱った商人及び商業
の歴史的性格が明確に描き出されている。後者の論文において
も、
15世紀における羊毛の集貨、輸出仕向地との関係等が論じ
られているが、やはり興味ある点は財政政策としてのステーフ゜
ル政策(特にカレーに関する)との関連の解明である。
羊毛貿易は中世以降国王ないし国家の財政と密接な関連があ
り、迎んでは毛織物工業発展のための政策とも関連するところ
が深かった。これらの点に関してはアンウィン編纂の論文集の
探か種々の研究があるが、関連ある主要なものをあげれば次の
如くである。 (地方史に関するものは除く)
G. Unwin (ed,) Finance and Trade under Edward UI, 1918.
P. J. Bowden, "Movement in Wool Prices, 1490‑1610."
ccc
Yorks. Bull. Econ. Soc. Research, IV (1952)
A. J. Collins, "The Records of the Merchants of the Staple of England." Brit; Mus. Quart., X, I (1936)
J. C. Davies, "An Assembly of Wool Merchants in 1322." Eng. Hist. Rev., XXXI (1916)
E. B. Fryde, "Edward III's Wool Monopoly of 1337 : A Fourteenth Century Royal Trading Venture." History, XXXVII (1952)
J. G. Oliver, "Churches and Wool: a Study of the Wool Trade in the 15th Century England." History To‑Day, I (1951)
E. Power, "The English Wool Trade in the Reign of Edward IV, its Direction, Volume and Method." Cam. Hist. fourn., II, 1 (1926)
G. 0. Sayles, "The Seizure of Wool at Easter 1297." Eng. Hist. Rev., LXVII (1952)
G. F. Ward, "The Early History of the Merchant Staplers." Eng. Hist. Rev.,
XX:
双II(1918)R. J. Whitewell, "English Monasteries and the Wool Trade in the 13th Century." Vierteljahrsch. f. Sozial‑u. Wirtschaftsgesch., II, 1 (1904)
P. Netti,‑"Some Economic Aspects of Wool Trade." Oxford Econ. Papers, new ser. IV (1952)
この論文は内容を知り得ないが、一応ここに附記しておく。
なお以上の性か、
19世紀における論文及び外国害として特に
ャ冷=K、中謡~H挑臥旦匿1"''叶苓~-Ix涯Q誕蜜(.lJ<ロ)
あげておかねばならないものに、次のものがある。
W. Cunningham, "The Commercial Policy of Edward III." Trans. Royal Hist. Soc., new ser. IV (1889)
F. Lohmann, Die staatliche Regelung der englischen Woolindustrie vom xv bis zum xviii Jahrhundert, 1900.
G. Schanz, Englische HandelsPolitik gegen Ende des Mittelalters, 1881.
わが国における研究としては次の二論文があげられる。
角山栄「エドワード三世時代」(「西洋史学」
13号)
藤原浩「エドワード三世の羊毛政策」(「史学雑誌」
63編9号)
次に初期の毛織物工業についてみるに、この領域において次
々と注目すべき研究を発表しているものに、周知の如く、キア
ラス・ウィルソン教授がある。その研究は種々の面に亘りつつ
も密接な関連をもつて展開されているが、まず生産に関する問
題からみれば、
E. M. Carns‑Wilson, "An Industrial ,Revolution of the Thirteenth Century" Econ. Hist. Rev., XI, 1 (1941)
‑‑, "The English Cloth Industry in the Late Twelfth and Early Thirteenth Centuries" ibid., XN, 1 (1944)
の二論文があげられるが、これらは何れも後にその蒋
Medieval‑‑¥J‑‑¥J
..̲‑:.1‑:..、I
い胆誕零
H鍬似且認ヤ肉追娯似涯Q
縣賑(.IJ<ロ)
Merchant Venturers, 1954
に収録されている。両者ともに主
.::t
:::として技術の面からの考察によつているが、前者は縮絨用水車
(フリング・ミル)の導入による毛織物工業の発展と産業構造
の変動を問題とし、後者は資料の少ない
12・3世紀の交におけ
る毛織物生産の全般の組織の特質を描いたものである。特に問
題を提起したのは前者である。即ち女史によれば、従来イギリ
ス毛織物工業が
13世紀ないし
14世紀初頭において衰退に趣いた
と考えられたのは、専ら、その時期の毛織物工業の中心として
イリュージョ,,
の「都市」のみの資料に即した「幻想」であって、むしろこの
時期の特質はそれが西部の農村
"opencountry"に移動した事
実に存するといわねばならない。その契機となったものが、縮
絨工程に関するフリング・ミルの導入である。このようにして
女史が、フリング・ミルの導入による毛織物生産における技術
的発展を
13世紀における産業革命とみなし、またそれに伴つて
イギリス毛織物工業が都市から西方の淡流地帯の農村に移動し
たことに着目したことは、新たな研究成果として注目されてい
るところである。なおこの問題に関しては、別に次のような研
究がある。
R. A. Pelham'"The Distribution of Early Fulling Mills in England and Wales." Geography, XXIX (1944)
ギ↑こ:
R. V. Lennard, "An Early Fulling Mill." Econ. Hist. Rev., XVII, 2 (1947)
ー一,"EarlyEnglish Fulling Mills : Additional Examples" ibid., 2nd ser. III, 3 (1950)
この問題に関する上述の諸論文の見解を紹介し、或いはそ
れに関説したわが国における研究には次のようなものがある。
角山栄「イギリス農村工業における『ジェントリ』織元の成 立」(和歌山大学「経済理論」
31号)
桂
芳男「フリング・ミルについて」(「六甲台論集」
1巻
2 号)
ー一,「フリング・ミル利用の一般化過程に関する一 考察」(同上、
1巷
4号)
次に毛織物の輸出に関する問題は
14世紀から始まるが、これ
については既に、
H. L. Gray, "The Production and Exportation of English Woollens in the Fourteenth Century." Eng. Hist. Rev., XXXIX (1924)
がある。しかしグレイの研究には資料の利用において若干誤つ
た点があった。この点に関し、基本的な資料、特に毛織物検査
帳簿
AulnageAccountsの資料的価値及びその利用上の限界
についての批判的研究、それに基づく
14世紀の毛織物輸出趨勢
scs
の考察等、毛織物輸出に関する一連の研究が同じくキァラス・
ウィルソン女史によって行われ、上述の問題と関連して、この
方面においても一つの進展が示されている。
E. M. Cams‑Wilson, "The Aulnage Account : A Criticism." Econ. Hist. Rev., II, 1 (1929)
ー一,"Trendsin the Export of English Woollens in the Fourteenth Century." ibid., 2nd ser. III, 2 (1950)
なおこれらの論文も前掲の著書に収録されている。毛織物貿
易に関連した研究には、女史の他の論文をも含めて次のような
多くの研究がある。(一部地方史の分を含む)
E.M.Carus‑Wilson, "The Merchant Adventurers of Bristol in the Early Fifteenth Century." Trans. Royal Hist. Soc., XI (1929) ‑‑‑―, "The Origins and Early Development of the Merchant Adventurers'Organisation in London." Econ. Hist. Rev., IV, 2 (1933)
R. P. Chope, "The Aulnager in Devon." Devon Assoc. for Advancement of Sci., Lit., and Art, XLIV (1912)
F. Edler, "Winchcombe Kerseys in Antwerp (1538‑44)." Econ. Hist. Rev., VII, 1 (1937)
F. J. Fisher, "Commercial Trend and Policy in the Six‑teenth‑Century England." Econ. Hist. Rev., X, (1940)
‑‑, "London Export Trade in the Early Seventeenth
‑s‑'11‑‑=Kll¥:l
釜零
H綜
‑1!,¥J;l竪ヤ心宙椒似据0 誕蓋
(.iKロ)
Century." Econ. Hist. Rev., 2nd ser. III, 2 (1950) J. D. Gould, "The Trade Depression of the Early 1620's." ibid., 2nd ser. VII, 1 (1954)R. A. Pelham, " The Earliest Aulnage Account for
w
orcestershtre." Trans. Worcs. Arch. Soc., XXIX (1952)P. Ramsey, "Overseas Trade in the Reign of Henry VII: The Evidence of Customs Account." Econ. Hist. Rev., 2nd ser. VI, 2 (1953)
M. Sellers, "The Merchant Adventurers of York." Brit. Assoc. Handbook, York, (1906).
‑‑, (ed.), "The York Mercers and Merchant Adventurers." Publ. Surtees Soc. (1918)
G. Unwin, "The Merchant Adventurers'Company in the Reign of Elizabeth." in Studies in Economic History, 1927.
N. J. Williams, "Two Documents concerning the New Draperies." Econ. Hist. Rev., 2nd ser. IV, 3 (1952)
P. Wolff, "English Cloth in Toulouse (1380‑1450)." ibid., 2nd ser. II, 3 (1950)
外に
V「西部地方及びウェールズ」の項にあげる
G.D.Ramsayの諸論文参照。
しかし毛織物輸出の問題に関連して特に注目すべき研究とし
てあげなければならないものに、デンマークの史家アストリド
ギ兵
9?s
マ冷ニヽK¥IP
謡
;&H媒獣足認ヤ沿岸訳似睡Q誕軍
(JKロ)
・フリース女史の著書、
Astrid Friis, Alderman Cockayne's Project and tlze Cloth Trade, tlze Commercial Policy of England in its main Aspects, 1603‑1625, 1927.
のあることを忘れてはならない。この研究は直接にはオールダ
マン・コッケイン計画を中心とする毛織物貿易政策の推移の研
究であるが、その副題の示すように広く
17世紀初頭におけるイ
ギリス貿易政策の全般に関する考察であって、貿易政策をめぐ
る政治的の諸種の立場(国王・下院•Privy Council)
からの
主張と、それに絡みあう経済的立場(マーチャント・アドヴェ
ンチャラーズ及び地方港の商人)等を分析し、コッケイン計画
の性格を明確にしようとしたものである。またそれに関連して
マーチャント・アドヴェンチャラーズの貿易の実態を数字的に
解明した点が従来の研究に優るものとされている。
上述の範囲の諸問題を取扱つたわが国における研究として
は、次のようなものがある。
紀藤信義「冒険商人組合と毛織物生産地帯との一関係」 (広島大学「文学部紀要」 4 号)
白杉庄一郎「テューダ一時代の冒険商人組合」(滋賀大学 「彦根論叢」
28号)
角山 栄「
15世紀におけるマーチャント・アドヴェンチャ
r::::o―ラーズと毛織物工業」(和歌山大学「経済理論」 4 号)
芳賀芳雄「イギリス特権商人の形成」(中央大学「経商論 纂」
55号
56号)
星田輝夫「ロンドン新冒険商人組合の設立」(「史林」
34巻
1・2合併号)
なお資料の紹介に関しては次の一文がある。
鶴見卓三「
17世紀におけるプリ:ストル貿易商人組合関係資 料」(「史学雑誌」
63編
7号) ・
また初期のイギリス毛織物工業の構造の特質については次の
論文がある。
藤原浩「13•
4 紀の英国農村毛織物工業」 (「史淵」
59輯)
吉岡照彦「イギリス農村工業の成立」(福島大学「商学論集」
22巻
4号)
以上のほか、後にあげる三つの地域に関するもの以外で、一
般史に関する著書論文としては次のようなものがあげられる。
P.Boyd, Roll of the Drapers'Company of London, 1934.
F.Consitt, The London Weavers Company, Vol. I, From the 12th Century to the Close of the 16th̲ Century, 1933.
G. L. Fraser, Textiles in Britain, 1948.
A.
H.
Johnson, History of the Worshipful Company of Drapers of London, Vol. I, to 1509; Vol. II, 1509‑1603.... 1914‑15.
A. Plummer, The Whitney Blanket Industry, 1934.
R. B. Westerfield, The Middlemen in English Business, particularly between 1660 and 1760, 1915.
W. H. Chaloner, "The Cartwright Brothers: their Contri‑bution to the Wool Industry." Wool Knowledge, II,l (1953)
M. K.
Dale, "Women in the Textile Industries and Trade of Fifteenth,Century England." (summary of thesis), Bull. Inst. Hist. Research, VI, 17 (1927)G. E. Fussel and C. Goodman, "Eighteenth Century Esti‑mates of British Sheep and Wool Production." Agric. Hist., IV (1931)
G. C. Homans, "The Puritans and the Clothing Industry in England." New Engl. Quart., Sept. (1940)
P.
K.,
Newman, "The Early London Clothing Trades." Oxford Econ. Papers, new ser. IV (1952)以上の如き諸問題の仕か、毛織物工業史に関する重要な問題
領域として、そこにおける労{力関係ないし労{力者の状態に関す
る問題があるが、これについてもそれだけを取扱った研究はま
だ著わされていない。従つて他の観点からの種々の特殊研究、
3例えば「徒弟法」ないし「徒弟制」・「救貧法」ないし「救貧
制度」・「婦人労{力」等に関する歴史的研究の中にこれを求め
"S""!¥1‑‑"'K¥IP
誕壽
H轍‑&(1'匡+‑,
>Q岩娯似睡Q幽謳
(Jl<ロ) る往かはないのであるが、それらの問題に関する研究文献をい まここにあげることは、本稿の目的をいささか離れるために、 別の機会にゆずりたいと思う。
\イースト・アングリア
イギリス毛織物工業の集中的な地域として最も古くから代表
的なのは、イースト・アングリア、即ちノーファク、サファク
及びエセックスを含む地域である。これらの地域は後に、西部
地方やヨークシャーにその繁栄を奪われるに至ったが、それま
ではイギリス毛織物工業特に椀毛工業においては主導的地位を
占めていた。しかし研究としては、•この地域全体に関する綜合
的研究というようなものはなく、各州及び若干の毛織物工業の
中心地ついての個別研究があるのみである。なお関連ある地域
としてケントに関する研究もあげておく。
先ずノーファクの椀毛工業、特にその衰退に関しては、次の
如き論文がある。
J.H.Clapham, "The Transference of the Worsted Industries from Norfolk to the West Riding." Econ. ]ourn., XX, (1920)
R. Flower, "The Dutch and Walloon'Strangers'in Nor・
<1
11"s;
‑.,.. !¥¥‑"'K ¥IP挺零H
緑獣旦匿
1噂岩椒拭毎
0誕蜜
(.!J<ロ)wich." Brit. Mus. Quart., X, 1 (1936)
M. F. L. Prichard, " The Decline of Norwich." Econ. Hist. Rev., 2nd ser. III, 3 (1951)
次いでサファクに関してはアンウィンの周知の論文がある
が、それ以外に次にあげるような著書論文がある。なお隣接す
るエセックスは毛織物工業に関してはサファクと密接に関連す
る地域であるから、それに関する分をも併せてあげておくこと
とする。
B. McCienaghan, The Springs of Lavenham and the Suffolk Cloth Trade in the XV and XVI Centuries, 1924.E. Power, The Paycocks of Coggeshall, 1920.
E. Beeton, "The Stour Valley Woollen Industry." History Teachers'Miscellany, V (1927) --—, "Life in a Seventeenth‑Century Weaving Town." ibid., III (1925)
A. B. Hunter, "History of a Weaving Mill in Braintree." Essex Rev., LXII (1953)
J. E. Pilgrim, "The Cloth Industry in Essex and Suffolk, 1558‑1640." (summary of thesis) Bull. Inst. Hist. Re‑search, XVII, 1 (1940)
G. A. Thornton, A History of Clare, Suffolk. 1928. --—, "A History of Clare, Suffolk, with Special Reference to its Development <1s n Borough during 1
ぐ
lthe Middle Ages and its Importance as a Centre of the Woollen Industry."(summary of thesis)Bull. Inst. Hist, Research, VI (1928)
G. Unwin, "The History of the Cloth Industry in Suffolk." in V.C.H., Suffolk, II, 1927, and Studies in Economic History, 1927.
以上の中、マックリナガンの著書はサファクのラヴェナムの
著名な大織元スプリング家について、またパワーの著書はエセ
ックスのコクサルの同じく大織元ペイコック家について、その
出自と大織元への上昇の過程を辿ったものであるが、それらを
通じてそれぞれの地域における
156世紀の毛織物工業の構造
を知ることができる。なお、ペイコック家については、パワー
女史の
MedievalPeople (Peguine ed. 1924.三好洋子訳「中世
に生きる人々」)の中にも、興味ある一章がある。
マックリナガンの著書については、最近、船山栄一氏によ
つて詳細な紹介が試みられている。 (福島大学「商学論集」
25巻・2
号)
またアンウィンの論文は、まずその中心部分である前半にお
いて、
15世紀以降
17世紀中葉に至るまでのサファク特にイプス
ウィッチを中心とする旧織物
olddraperiesについての生産・
販売等の組織の特質を説明し、次いで後半において、
17世紀中
葉におけるその衰退、及びそれに代つてオランダ移住民によっ
て導入された新織物
newdraperies‑bays, says, perpetua‑nas, etc.
—一の生産機構の特質をその終期に至るまで略述して
いる。これらを通じて知り得ることは、イースト・アングリア
においては、資本家的織元による前貸制が著しく発達し、それ
によって紡糸から縮絨に至るまでの生産工程が組織されていた
ということである。
6CS
最後にケント及びそれと並ぶサセックスに関する論文をあげ
るならば、ペラムが羊毛貿易を対象とする次のような多くの研
究を発表している。
R. A. Pelham. "Some Aspects of the East Kent Wool Trade in the Thirteenth Century." Arch. Cant., XLIV (1933)
ー一,"TheExportation of Wool from Sussex in the late Thirteenth Century." Sussex Arch. Collection, LXXIV, (1933)
ー一,"TheDistribution of Wool Merchants in Sussex in 1296." Sussex Notes and Queries, IV, 6 <1933) . ‑‑‑, "Sussex Wool Port in the Thirteenth Century." ibid.'V, 4 & 5 (1934)
ー一,"TheExportation of Wool from Winchelsea
'<":il-=--K\ll:l癌~H媒~l,l匿+,IQ
宙娯奴謳 0 臨瓢 (‑II< ロ)
and Pavensy in 1288‑9." ibid., V, 7 (1935) --—, "The Wool Trade of Chichester, 1377‑80." ibid., VI, (1938)V
西部地方及びウェールズ
イギリスの産業、特に毛織物工業の地域的分布において「西
部地方」
TheWest Country, The West of Englandといわれ
る地域がどのような範囲を含むかは正確に定まつているわけで
はない。しかし何人にも明確に認められていること・は、グロース
タシャーとウィルトシャーの大部分、及びサマーセットの北東
部分を中心とし、その周辺部を含む地域がいわゆる西部地方の
基幹をなしているということである。問題はデヴォンシ・ヤー及
びサマーセットの一部を含む「西南地方」
TheSouth‑West ofEnglandをそれに含ませるか否かという•ことである。この点に
関して、ラムゼイは「西部地方は西はデヴォンから東はオック
フォドシャーに至るまで少くとも 5 つの州を含む」と考えてい
るが、これに対して西南地方を明確に区分すべきことを主張し
ているものがホスキンスである。即ちホスキンスは「西南地方
と西部地方とは経済史の立場からは明確に区別されねばならな
い」という。というのは、西部地方が広幅物
broadclothの地
<Ill
ヤ斗=--K~蓋壽H蠍-5(1,1匿-\-,IQ岩~-j;,{謳Q縣載(-II<ロ)
域であるのに対して、西南地方はサージの地域
sergeregionで
゜ 〇あるのみならず、 「両地方の間では産業組織と技術とが全く異
なり、また異った市場へ商品を供給している。両者の間には経
済的にも地勢的にも接触は少しもないからである」と。西部地
方の解釈についてはこのような主張のあることをあらかじめ念
. . .頭におきつつ、ここにほ文献総括の便宜上、両地方の諸文献を
まとめてあげておくこととする。また地域的近接の点からウェ
ールズの分をも附記しておきたい。
上述の如く西部地方は広幅毛織物の主要生産地であり、また
それによってイギリス三大毛織物生産地の一つに発展したので
あるが、この地域全体に亘る綜合的研究はまだ著わされていな
い。求めるとすれば、さきにあげたリプリンの諸著の中に、北
部特にヨークシャーの産業構造と対比されて、それが論ぜられ
ていることを見出し得る。即ちその見解を端的にいえば、生産
の組織者としての織元が、日ークシャーにおいては自ら生産労
佑に従うところの
workingclothierであり、かかるものとし
てその労{力者を雇傭しつつあったのに対し、西部地方において
は、織元は雇主であり企業家ではあったが、その関心が主とし
て流通過程の支配に存するとこるの
tradinlJcapitalistであつ
<臣た点に特質が存する、と。このような把握の仕方は
18世紀以降
の西部地方の産業構造に関しては一応認められるにしても、そ
れ以前の段階については、必らずしもあてはまらない。この点
に関して、西部毛織物地帯の中心をなすウィルトシャーについ
て、
167世紀における毛織物工業の発展とその産業構造の特
質とを美事に描いているのが、
G. D. Ramsay, The Wiltshire Woollen Industry in the Sixteenth and Seventeenth Ceturies, 1943.