価格変動会計の動向
その他のタイトル Survey of Inflation Accounting
著者 清水 宗一
雑誌名 關西大學商學論集
巻 11
号 2
ページ 105‑123
発行年 1966‑06‑27
URL http://hdl.handle.net/10112/00021525
105
価 格 変 動 会 計
近代会計は貨幣単位安定の公準の上に成立しており︑損益計算を支配する原則として取得原価主義が確立してい
る根拠の︱つは︑貨幣単位安定の公準にこれを求めることができる︒価格変動が軽微である時期には︑だれも︑固
定資産の取得原価を基礎として減価償却費を計算し︑また︑棚卸資産原価の配分を行なうことになんの疑問もさし
一般物価水準が上昇し︑貨幣価値が低落し続ける時期には︑収益がおおむね現在の貨幣で表示される
のに︑減価償却費は古い貨幣で記録された原価を基礎として計算されるし︑売上原価についてもほぼ同様のことが
いえるので︑収益と費用との同一物価水準的対応が困難となって︑利益が過大表示されることになる︒また︑記録
された固定資産原価および棚卸資産原価そのものが︑現在の貨幣で表示される他の原価とは異質のものになってい
招来される︒そこで︑かような時期には︑貨幣単位安定の公準を放棄せざるをえなくなり︑また︑この公準の上に
立つ取得原価主義を再検討しなければならなくなる︒
価格変動会計の動向︵清水︶ る︒しかも︑経済構造の変化とともに︑
しか
るに
︑
はさまなかった︒
ま し
書
一般物価水準の上昇と個別の価格変動とが不均等に進行するという事態も がき
の 動 向
清
水
一 七
宗
106
価格変動会計の動向︵清水︶
そのさい︑いぜんとして取得原価主義を固守しながら︑取得原価主義を修正し補充する方法と︑取得原価主義か
ら離脱して時価主義をとる方法との二つの進路が考えられる︒ではいったい︑取得原価主義を修正し補充するなら
ば︑取得原価主義のもとで従来行なわれてきた資産原価の配分はどのような変化を来すのか︒また︑時価主義をと
るならば︑資産原価の配分はどのような変化を来すのか︒こうした問題意識のもとに︑この小稿において︑アメリ
力における価格変動会計を少しく史的に回顧し︑あわせて︑諸会計団体の価格変動会計に関する見解をあとづけて
みようと思っ︒
今世紀の初期の時代には︑物価および地価が急激に上昇しつつあったが︑アメリカにおける価格変動会計は第一
( 1 )
次大戦後のインフレーションに刺激されて出現した︒文献的にも︑ペイトンがスチブンソンとの共著において徹底
した時価主義の会計理論を展開したことは周知のところである︒このような時価論の提唱は︑
‑.
八九
三年
に始
まっ
一八九六年から一九一三年にかけて卸売物価が毎年平均約二︒ハーセント
一九一三年には卸売物価指数が一八九七年よりも五
0
パーセント高く︑第一次大戦によってもっと物価騰( 2 )
貴が起り︑その結果一九二二年には卸売物価指数が一九一三年よりもおよそ五
0
︒ハーセントも増加したという経済状況を背景にしている︒こうした物価騰貴は貸借対照表の評価という問題が会計問題として大きく現われるにいた
る一要因として作用したのである︒このことについてリトルトンは物価騰貴によって購入資産の帳簿価額が︑合併︑
再金融等の基礎とするには著しく過小評価となっていたため︑帳簿にもとづく財務諸表が信用目的および財政目的
には不満足なものになっていたことを指摘している︒つまり︑かれは信用目的および財政目的の財務諸表が重視さ 騰
貴し
︑
た不況以来物価がしだいに騰貴しつづけ︑ 一九四
0
年 代 に い た る ま で の 動 向
一八
107
一 九
( 3 )
れたから︑価値がこの時代の中心を占めたということを述べているのである︒こうして︑静態論的傾向が支配的で
あった時期に︑取替原価が重視され︑固定資産の価額引上げが行なわれた事情がうかがわれる︒
しかし︑反面︑
一九
二
0
年から一九三0
年にかけて行なわれた固定資産の価額引上げの多くは︑貨幣単位の価値変動を︑収益に対応させるその後の減価償却費に反映させようとする努力であり︑これらの価額引上げが信頼しう
る証拠にもとづいていて︑生じてくる貸方項目が損益計算書および利益剰余金計算書から排除される限り︑それに
(4) 対して十分な理論上・実践上の支持が存していたともいわれている︒だが︑資産の再評価によって作り出された資
本剰余金が︑そうでなかったならば損益計算書に計上されただろうような特殊な性格の損失や費用を填補するため
(5) に用いられることもあった︒
一九
三
0
年代はアメリカの経済構造に不況が到来し︑物価の下落があった時期である︒この時期には︑資( 6 )
産の価額を引上げる傾向が阻止されたばかりでなく︑逆に価額引下げがしばしば行なわれるようになり︑一九一︱
1 0
(1) 年から一九三四年にかけての五年間に総計六億九千七百万ドルになる価額引下げが一九七社によって行なわれたと
いわれる︒ペイトンによれば︑このころの状況は次のようであったという︒価額引下げ調整が経営者や会計家に評
判がよくて︑三
0
年代の初期の不況期には︑数百の会社が設備資産の価額引下げをしばしば実体のない直観と推測にもとづいて行なったのである︒しかも︑どんなにその手続がずさんなものであっても︑また︑その金額が問題で
あっても︑設備資産の価額引下げの実践がほとんどあらゆる人によって称賛され︑多くの場合には会計家が率先し
て一斉にこれを称賛したのである︒たとえば︑ある会社の取締役がその会社の設備資産の価額を総括的に五
0
パ ー
セント引下げることを正当と認めたとき︑この行為は一流の財界誌に﹁ぜひ必要な大掃除﹂または﹁建設的な運
動﹂として報道されたのであった︒そして︑価額引下げを正当化しようとする企ては︑愚かにも保守主義の旗じる
価格変動会計の動向︵清水︶
さて
︑
108
(2) (注1) 価格変動会計の動向︵清水︶
しをひるがえすことによって通常行なわれたが︑どんな詭弁を弄する人でも︑三
0
年代の償却資産の価額引下げの本当の理由が︑結果として生ずる減価償却費の減少によって将来の年度の利益をより良く表示しようとする希望で
あったということを知っている︒これは︑信頼できる資料とよき手続にもとづくものであるならば︑本質的に反対
( 8 )
すべきものというわけではなく︑実際の減価償却費は設備資産原価の下落によって減少せしめられる︒
関連を無視して評価替すると︑ かように︑三0年代の物価下落のさいに︑固定資産の価額引下げが実務上行なわれたということは︑見落しては
ならない点である︒このことに関連して︑一九三六年のアメリカ会計学会(AAA)の会社報告諸表会計原則試案
でも︑資産の時価評価の実践が次のように批評されている︒すなわち︑﹁現在の会計手続はそのときの物価水準や事
業の成行きの期待に応じて資産を毎期間上下に評価替することを許しているという点で感心しない︒随時に前後の
一般の財務諸表中に相関性のない価値数字の寄せ集めを生ずる]と°そこで︑試案
は貨幣価値の極端な変動のために原価の記録の効用が減殺されることもあろうが︑毎世代によく経験するような物
価水準の通常の変動に対して︑資産価値を繰り返して評価替するのが正当とみなされうる健全な理由が存するとは
( 9 )
思われない﹂と主張して︑物価水準の通常の変動に対して評価替を行なうことを排撃した︒
こうして︑﹁会計活動は本質的に評価の過程ではなく︑実際の原価および収益の当期および次期以降の諸会計期間
(9) への配分である﹂という配分原理が会計実践から評価替を排除する実践的規範として登場したのである︒そして︑
価格変動が微弱であって︑実際上︑原価と時価との差違を考える必要がなかったという経済状況を地盤として︑原
( 1 0 )
価主義の原則が時価評価を会計実践から排除していったのである︒
P a t o n a nd S t e v e n s o n , P r i n c i p l e s o f A c c o u n t i n g ,
19 18 .
Ma y, g i B n e s s In c o m e , h T e A c c o u n t a n t , S e p t
3.
0. 1 95 0
( S e l e c t e d R e a d i n g s i n Ac8unting
n a d A u d i t i n g , e d . by
M•E.
二〇
109
た︒労働統計局の年次平均卸売物価指数の傾向は︑
Mu rp hy ,
19 52 , pp.
33 1‑ 33 2) :
Ma y, i n F a nc i a l Accounting,
19 43 ,
p .
91 .
31 Li tt le to n, a V lu e a nd Pr i c e i n Accounting, A.R.,
S ep t .
19 29 ,
p .
14 8.
④
Ma y, i n F a nc i a l Accou
nt in g p
9.
3.
固
I b i d . , p .
20 6.
⑲
I b i d . , p .
94 .
TMay,
Pr op er ty n a d Ientory nv
Ac co un ti ng as Re la te d t o Pr es en t, Da y P r ic e L e v el s , J .0 .A ., M ay 1 94 8, p .
41 0.
81 Pa to n, s s A e t Accounting,
19 52 ,
p .
35 4.
⑨
A. A. A. , Ac co gt in g a nd Reporting
t S an da rd s f o r Co rp or at e F i na n a l c i S ta te me nt s a dn PState receding
me nt s a nd Su p' p le m e nt s
1,
95 7, p .
61
. (
中島 省吾 訳編
﹃ A . A . A会 計原 則﹄
︵昭 一
1一
九︑ 中央 経済 社刊
︶二 七︑ 二九 ペー ジ︶
皿なお︑
A A
は一九四一年の会社財務諸表会計原則の中でも︑次のような見解を示した︒すなわち︑﹁原価原則を固守するA
ことによって︑そのときそのときの物価水準および一時的な事業傾向に従って毎期間資産を上下に評価替することを認める ような会計実践から生ずる異質的な算出数字が除去される︒原価および原価の償却の実際上の経過の記録は︑財務上の解釈
に絶対必要な出発点を構成する﹂
( I b i d . , p .
54
. (
前掲 書︑ 四七 ペー ジ︶
︶と
︒
一九四
0
年 代 の 動 向
アメリカが一九四一年︱二月に第二次大戦に巻き込まれてから︑租税が高率で賦課され︑とくにいわゆる﹁超過
利得﹂に高率の課税が行なわれた︒そこで︑多くの企業は納税額の軽減を計るために棚卸資産について後入先出法
を採用するにいたった︒そして︑大戦後は予想された景気の後退が起らないで︑むしろ民需産業の取引量の急増や
( 1 )
新発明などによって一般的繁栄が招来され︑インフレーションの気運が著しくなり︑物価がしだいに騰貴していっ
一九二六年を百として、三九年七七•一、四五年一0五・八、
( 2 )
四七年一五ニ・一︑四八年一六五・一︑四九年一五五となっている︒いま︑
価格 変動 会計 の動
︵向 清水
︶
一九四七年をとってみても︑産業利益
110
価格変動会計の動向︵清水︶
のほとんど半分はインフレーション利益であった︒アメリカ商務省の推定によると︑
産業の全報告利益は約一七
00
億ドルであったが︑そのうちの約五三0
億ドルは棚卸評価における増加であり︑また︑固定資産費消の現在原価は︑営業に賦課された原始的貨幣原価を約二
00
億ドル超過しているという︒こうし
て︑これらの数字を総合すると︑一九四七年におけるアメリカ産業の利益は︑本来の利益が九七0億ドル︑インフ
( 3 )
レーション利益が実
i L
七0
億ドルにも達することになる︒三u . S
・スチール︑クライスラー︑デュポン等の会社
( 4 )
が加速償却を実施して時価主義にいくらか接近したのはちょうどこのころであった︒こうした動向を背景にしてア
一九四七年に会計研究公報第三十三号﹁減価償却と高原価﹂を発表した︒それにメリカ会計士協会
(A
IA
) は ︑
よると︑材料費や労務費が価値の低落した貨幣によって表示されているのに︑設備資産の費用が大きな購買力をも
っていた貨幣によって表示されている︒設備資産の将来の取替原価が現在使用中の設備資産の取得原価よりも大き
くなることを経営者が考慮に入れなければならないが︑減価償却の引当計上を行なうさいに時価を認識しようとす
る企ては︑首尾一貫するためには︑すべての資産について評価された現在価値を正式に記録するという重大な措置
を必要とする︒また︑他の会社が原価を固守しているのに︑若干の会社が評価された価値にもとづいて減価償却費
を計上することは公表利益の有用性を増加することにはならない︒それゆえ︑現在収益に賦課される減価償却費を
増加することは満足な解決法ではなく︑貨幣がある水準に安定するまでは︑一般的な利用のための会計報告は原価
にもとづく減価償却の概念を固守することによってその目的に最もよく適う︒しかし︑高物価水準での生産施設の
( 5 )
取替を可能にするための剰余金を年々設定すべきである︒
かように︑当時の
A I
Aは︑原価の償却による配分を行ないつつ︑取替資金を利益処分によって設定するという
考え方をとった︒そして︑
A I
Aの会計手続委員会は同公報の発表と同時に︑経営者︑銀行家︑経済学者および労 一九四七年におけるアメリカ
111 注
(2) (1)
る事実をうかがい知ることができる︒
われわれは︑以上の動静から︑原価主義︑取得原価にもとづく減価償却が︑会計実践の中に深く根をおろしてい P .
B ru n d ag e M, il gt on go n t h e P at h of A c c o u n t i n g H , ar va rd Bu si ng s R e vi e w , Ju ly 1 95 1, p .
78 .
A . A . A . , A cc o u nt i n g an d R ep o r ti n S t g a n d a r d s f o r C o r p o r a t F i e n a n c i a l S t a t e m e n t s an d P r e c e d i n S t g a t e m e n t s a nd
価格変動会計の動向︵清水︶ いう態度を従前以上に強い調子で示している︒ た企業利益研究会がすなわちこれである︒そして︑この研究会の設立を提唱して︑研究顧問として指導的役割を果
( 7 )
︵8
)
したのがメイであり︑研究会の研究成果は数部の報告書として発表されたのである︒
さて
︑ A A
の動向に眼を転ずると︑物価水準がやや著しい上昇を示した一九四八年において︑﹁会社財務諸表会A
計諸概念および諸甚準﹂の中で︑﹁財務諸表の利用者に︑貨幣の購買力の変動の影響を考慮させることは︑その解釈 を助けることとなろう︒物価水準の著しい恒久的な変化は︑資産原価を報告する計算諸表の効用を損ずることもあ ろう︒しかし︑近年の価格変動は原価からの離脱を正当化するものとして十分ではない︒過激なそして恒久的な価 格変動を示すにふさわしい会計諸概念および諸基準は︑そのような変動が起った場合に発展せしめられることを必
( 9 )
要としよう﹂と述べて︑修正に対して消極的立場をとっていた︒ただ︑原価以外の数値を補助的資料として示すと 益概念の批判が行なわれるにいたった︒ 働組合などにこの問題に関する意見の発表を求めたうえで︑
これらの人々がみな現在の会計手続の根本的な変革に
( 6 )
は反対の意見をもっていることを
A I
Aの会員に告げたのである︒
しかし︑報告される企業利益が︑経営活動による利益とインフレーションによる歪曲的な利益との混合であるこ とが︑しだいに認識されるようになると︑会計学者ばかりでなく︑経済学者や法律学者の側からも会計的な企業利
一九
四七
年に
︑
ロックフェラー財団の資金的補助を得て︑
A I
Aが設立し
112 ア
メ リ カ 経 済 の イ ン フ レ ー シ ョ ン 化 の 傾 向 は 一 九 五
0
年ころから目だちはじめ︑( 1 )
勃発とともに物価が急に騰貴しはじめた︒このことは政府の貨幣政策にもある程度まで原因がある︒
四
価格 変動 会計 の動 向︵ 清水
一 ︶
九五
0
年代の動向こうした傾向
一九五
0
年六月末の朝鮮動乱の
Su pp le mg sv 19 57 , p 2 3 . .
③M.
Ba ck er , Ha nd bo ok of Mo de rn Acc ou nt in g Theory,
1 95 5 , p . 2 55 .
固
Ma y, B us i n es s I nc om e a nd Pr i c e L ev e l s, an Ac co un ti ng St ud y, 1 9 4 9, pp . 4 85 1.
固
A .I . A ., Ac co un ti ng e R se ar ch Bu l l et i n N o. 33 , Depreciation
n a d H ig h C o st s D , ec . 1 94 7 , pp. 26 7 2 68 .
⑲
I ns t i tu t e C om mi He e R e je c t s Ch an ge n I Ba s i s f or Depreciation
Ch an ge s, J. O. .A , No v. 1 9 4 8, p . 3 80 .
m
メイは一九四七年に書いた覚え書の中でおよそ次のようにいっている︒一九四七年の上半期に商務省は企業利益が年額にして一七
0
億ドルと見積った︒商務省の指数によると︑一九四七年の貨幣の購買力は一九二九年のそれの三分の二以下であった︒しかし︑一七
0
億ドルから三分の一だけを減じたところで︑経済的利益の見地から︑二つの年の利益を比較することにはならない︒費用を収益と同一の一九四七年の物価水準に換算するためには︑棚卸資産の評価額の増加を表わす利益五一︱︱
億と設備資産費消分についての修正二
0
億とを一七0
億から差し引くことにより︑一九四七年のドルによる一九四七年の利益九七億ドルを算出する手続きを︑まずとらなければならない︒そして︑この額の購買力を一九二九年の利益の購買力と比
較しようとすれば︑この額から約三分の一だけを減ずる必要がある︒この修正によって一九二九年の貨幣で表示される一九
四七年の利益が六五億となろう︒一九二九年の貨幣での一九二九年の利益は約八七億ドルであった︒この事実について何の
暗示も与えない現在の会社利益報告書形式は︑それが国家的政策の決定において使用されるときに︑適切にしてかつ有意義
な状態を表示したり︑あるいは適当な指針を与えたりするかどうかはおそらく疑問である
(M ay , B us i n es s I nc om e ( Se l e ct ed , Readings
p . 3 35 .
) ) ︒
矧A•H•Dean,
An I
nq ui ry n t i o t he Na tu re f o Bu s i ne s s I nc om e un de r P re s e nt P ri c e L e v el s 1 9 , 4 9: S .S . Alexander,
M.
Br on fe nb re nn er , S . F ab r i ca n t , C. W ar bu rt on , Fi ve M
on og ra ph s o n B u si n e ss In co me , 1 95 0 .
⑲
A. A. A. , o p. c i t . , p . 1 4 .
(中島訳編書︑六八ページ︶
ニ四
113
二五
を反映して
A A
Aの態度は変化を示しはじめた︒そしてその態度は
A I
Aの企業利益研究会の活動に大きな刺激を
一九五一年に
A A
の概念および基準委員会によって︑補足的報告書第二号A
﹁物価水準の変動と財務諸表﹂が公表された︒これは
A A
Aが価格変動に関して最初に世に発表した意見書として
注目すべきものである︒この報告書は︑修正の問題について︑日会計発展の現在の段階では︑本来の財務諸表はい
ぜんとして歴史的原価を表示するように継続すべきであり︑口貨幣価値変動が財政状態および経営成績に及ぽす影
響についての知識は︑その計算および公示に関する実際的かつ統一的な方法が工夫されるならば︑有用な情報たり
うる︑国貨幣価値変動が会計に及ぽす影響は徹底的な調査と実験を必要とする課題とされるべきものである︑とい
( 2 )
う結論を下している︒そして︑報告書がこういう結論を下した原因として︑当時のいくつかの社会経済的事情をあ
げることができる︒すなわち︑第一に︑慣習法︑成文法︑判例︑あるいは︑契約関係︑取引関係ならびに各種規定
のうちには︑現実の会計実務に基礎をおいているものが多く︑第二に︑近時物価の騰貴してきたことから価値測定.
単位としての貨幣が不安定であるとの認識が一般に高まってきてはいるが︑歴史的原価を離れてなんらかの計算基
準によることは︑事業家︑株主︑従業員および一般公衆が現実に望んでいるところではなく︑第三に︑購買力の修
正を行なう方法に関しては︑まだ意見の根本的一致をみるにいたつておらず︑購買力の修正が実際に役にたつこと
がまだ十分に実証されていない︑という事情がこれである︒このことに関連して︑ペイトンの語るところによると︑
そのころ︑補助財務表のような提案さえ︑少数の会社がこわごわこれを実験的にほんのちょっと実施したことがあ
( 3 )
るだけで︑なんら徹底した一般的な発展が見られなかったというのである︒
さて︑報告書は修正の計算方法について次の結論を示した︒すなわち︑﹁物価の変動が財務報告書に及ぽす影響は︑
貨幣の全般的購買力︑すなわち一般物価指数によって測定される一般物価水準の変動によって測定されるべきであ
価格変動会計の動向︵清水︶ 受けたのかもしれない︒こうして︑
114
さて
︑ 価格
変動会計の動向︵清水︶
る︒これがため行なう修正は︑費消された特定の型の資産の時価または取替原価に基礎をおくべきではない︒また︑
その修正は網羅的でなければならない︒影響を受けるすべての財務諸表項目を首尾一貫して修正しなければならな
( 4 )
い﹂と︒そして︑報告書によると︑特定資産の現在の取替原価の使用は財務管理上の要請であり︑歴史的原価を一
般物価指数をもって修正したものは取替原価とは別個のものであり︑修正原価が慣習的取得原価の概念と異なると
ころは︑修正原価が貨幣価値の変動を認め︑かつ︑原価の償却や期間利益の算定にかような変動を反映させるとい
(5) う点にあるというのである︒
次に︑公示の方法については︑報告書は︑本来の財務諸表は取得原価にもとづいて作成し︑貨幣の価値変動が純.
利益および財政状態に及ぼす影響を示すわかりやすい補助財務表を︑本来の財務諸表の延長としてその中に記載す
(5) る方法を提唱したのである︒これを要するに︑報告書は一般物価指数による修正により原価主義を補充しようとす
る考え方に立っているのである︒
一九
五二
年に
は︑
A I
Aの企業利益研究会の報告書﹁企業利益概念の変遷﹂が公表された︒この報告書は︑
さきの
A A
Aの報告書と同様に︑収益と費用とを同一の購買力単位で表示している利益計算を有用であるとし︑
とこ
ろで
︑
一九
五三
年に
︑
般物価指数を用いて︑補助財務表の形式で表示を行なうべきであるとの考え方をとっているが︑
A A
Aの報告書の
( 6 )
ように網羅的修正方式を提唱しないで︑損益計算項目の修正方式を取り扱ったのである︒
A A
Aの前記の委員会によって︑補足的報告書第六号﹁棚卸資産評価と物価水準の変
動﹂が公表された︒この報告書は︑後入先出の流れの仮定が物の実際の流れと一致するという例はまれであり︑物
価水準の変動が著しい時期には人為的な後入先出法が現在原価︵貨幣単位の一般購買力の変動を反映するよう修正
されたドル原価︶を当期の収益と対応させることに接近する手段としてある人々の心に訴えるのであるが︑このよ
二 六
115
査結果からうかがうことができる︒同調査によると︑多数の企業経営者の意見を要約すると︑次のようであった︒
物価水準変動の影響を測定する満足な方法が利用しうるとすれば︑現在ドルによる減価償却費は株主への報告書の
中でなんらかの適当な方法でこれを表示させるべきである︒減価償却費を表示する現行の方法は財務諸表中にその
まま残しておくべきであるが︑現在ドルによる減価償却費の公示は︑正規の財務諸表の脚注として補助的方法でこ
れを行なうことが望ましい︒また︑かような公示に賛成する人々の中の少数は公示の強制に賛成した︒しかし︑か ま,
9
価格変動会計の動向︵清水︶ うな人為的な対応の正確性が結果として生じる現実からの背離を正当化するに足るかどうかは疑問であると主張し︑次の諸点をあげて注意をうながした︒すなわち︑第一に︑当該財の価格変動が一般物価水準の変動と平行的でないときには︑この方法は真の損益を過大表示したり過小表示したりすることがある︒第二に︑貸借対照表上の棚卸資産の評価額が時代遅れのものとなる︒第三に︑棚卸資産保有量を増減する手段によって利益操作がされやすい︒第四に︑保有が一時的に減少した年度の純利益が過去の認識されなかった価格損益によって影響され︑当期業績が乱
( 8 )
され
る︒
かように︑報告書は後入先出法が現在としては有用性をもつことを認めながらも︑
( 9 )
う修正原価主義の思考に立っためか︑当該財貨に適当した個別物価指数をとる後入先出法を排斥し︑一般物価水準
( 1 0 )
の変動を示す技術が一般に受け入れられる時期には︑後入先出法を全く放棄するべきであるとしている︒
さて︑一九五五年に
A I
Aの後援でジョーンズが四つの会社︑すなわち︑ニュー・ヨーク電話会社︑アームスト
( 1 1 )
ロング・コーク会社︑リース会社およびサージェント会社の財務諸表の物価水準修正に関する研究を発表した︒
とこ
ろで
︑
二七
一九
五
0
年代の後半に入ってからのアメリカ会計界の動向はどうであったか︒その一端を︑われわれ一九五七年七月にアメリカ公認会計士協会(AICPA)が行なった﹁減価償却の物価水準修正﹂に関する調 一般物価指数による修正とい
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価 格 変 動 会 計 の 動 向
︵ 清 水
︶ 二 八
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ような公示に賛成する人々の約半分はその金額が税務上容認されることを条件としての賛成であったということで
ある︒また︑こうした経営者の意向とともに︑メイが指摘しているように︑戦時および戦後の試験研究の結果とし
て急激な技術上の進歩が起っており︑それが有形固定資産の陳腐化を促進してきたという客観的な要因もあげてお
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かなければならない︒
こうした動向を背景にして
A A
Aの﹁会社財務諸表に関する会計および報告諸基準・一九五七年改訂版﹂が公表
(14) された︒同基準は︑貨幣的測定の個所で︑貨幣による測定結果の限界をまずもって示唆し︑また︑資産の測定の個
所で︑物価水準変動のための修正は︑基本的な資産金額が客観的に表示されている場合にのみ︑有意義に行なうこ
(15) とのできるものであると述べている︒さらに︑﹁利益の算定﹂の項の費消原価の個所で︑最も重要な費用の範疇は販
売品原価であり︑理想的には︑この費用の測定は次の三つの関連した目的︑すなわち︑日期間中に顧客に引き渡さ
れた製品および用役の原価を時価で報告すること︑口期末に在庫品として示される原価を時価で報告すること︑国
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価格変動から生ずる利得または損失を明らかにすること︑を達成することが必要であるとしている︒
かように︑売上原価および期末棚卸品原価について時価評価主義が説かれたことは︑従来の原価配分論からの方
向転換であるというべきである︒もっとも︑その反面︑原価主義に立って原価配分を行なう後入先出法が右の第一
の目的だけはこれを達成しうることを認め︑先入先出法や平均法が第二の目的をかなり達成しうることを認めたの
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は︑現実の実務をしんしゃくしてのことであったろう︒
さらに︑同基準は︑﹁明瞭表示﹂の項の比較性の個所で︑比較性の障害は価格変動および会計方法の相違から生ず
る歪みであるとし︑﹁価格変動に関する修正について合理的な統一的原則が一般に認められるまでは︑投資者には︑
特定の企業の財務報告書の解釈にあたって︑価格変動のもつ意味を評価するに役だっと思われる補助的資料が提供