貨幣価値変動と会計責任
その他のタイトル Accountability under Fluctuation in the Value of Money
著者 松尾 聿正
雑誌名 關西大學商學論集
巻 23
号 3‑4
ページ 159‑181
発行年 1978‑10‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00020964
( 1 5 9 ) 1
貨幣価値変動と会計責任
松 尾 車 正
1 .
ま え が き取得原価主義会計は貨幣価値変動下,とりわけ貨幣価値下落状況のもとに おいては,常に厳しい批判の目を向けられてきた。
1970
年代に至って,貨幣 価値下落が世界的にその規模を拡大するに及んで,この風潮はますます強ま(1)
った。これまで貨幣価値変動に対処する会計は,英米では,適用する指数を 別にすればで取得原価主義会計の補足として一般購買力修正会計の利用を主 張するのが主流であった。ところが近年,時価主義会計の支持が,部分的に
(1) GNP
デフレーターによって測定した1 9 7 0
年から1 9 7 6
年までの各国のインフレ状況(暦年基準)
日 本 米 国 イギリス 西ドイツ フランス イタリア
1 9 7 0
年1 0 0 . 1 1 0 0 . 0 1 0 0 . 0 1 0 0 . 0 1 0 0 . 0 1 0 0 . 0 1 9 7 1
年1 0 4 . 5 1 0 5 . 1 1 0 8 . 8 1 0 7 . 9 1 0 5 . 6 1 0 7 . 2 1 9 7 2
年1 0 9 . 6 1 0 9 . 5 1 1 7 . 5 1 1 4 . 3 1 1 2 . 0 1 1 3 . 8 1 9 7 3
年1 2 2 . 2 1 1 5 . 8 1 2 6 . 6 1 2 0 . 9 1 2 0 . 0 1 2 7 . 1 1 9 7 4
年1 4 7 . 5 1 2 7 . 4 1 4 4 . 5 1 2 9 . 3 1 3 4 . 2 1 4 9 . 6 1 9 7 5
年1 5 8 . 4 1 3 9 . 3 1 8 4 . 6 1 3 9 . 7 1 7 5 . 5 1 9 7 6
年1 6 8 . 6 1 4 6 . 4 2 1 2 . 7 1 4 3 . 9 2 0 6 . 7
(日本銀行統計局「国際比較統計」
7 7
頁)しろ全面的にしろ中心をなしてきており,しかもそれが政府機関による支持
(2)
にもとずいている。
そもそも,一般購買力修正会計と時価主義会計は目的を異にする異質のク イプの会計である。前者は貨幣価値変動時にのみ存立し,後者は貨幣価値安 定時にも存立する。それにもかかわらず,一方の支持が高まり,他方の支持 が低下するのは何故か,原因は会計計算の単位として用いられる貨幣に対す る解釈の相違,更にはその背後にある会計目的観の相違に根差しているよう に思われる。
そこで本稿は,会計における貨幣の意味を今一度問直し,会計の基本的目 的に照して,貨幣価値変動時にいかなるクイプの会計が基本となるべきかを 明らかにしようとするものである。
2 . 会計上の貨幣
(1)貨幣の一般的機能
(2) FEP S a n d i l a n d s ( c h a i r m a n ) , I n f l a t i o n A c e 加 血 g , R e p o r t o f t h e I n f l a t i o n A c c o u n t i n g C o m m i t t e e , Cmnd 6225 ( L o n d o n :HMSO, S e p t . 1 9 7 5 ) , p p . 58‑60
厳密に言えば,サンディランズ報告書は「その企業にとっての価値
( v a l u e t o t h e b u s i n e s s )
」を基準とすることを提唱しているのであって,取替原価の ほかに硯在現価や正味実硯可能価額が適当な場合があることを明らかにしてい るが,多くの場合は取替原価である。もっともイギリスでは,全企業に対する全面的な取替原価会計の導入を提唱 したサンディランズ報告書から後退して,近年,かかる会計方式の上場企業に 対する損益計算書のみへの導入の勧告が公表された
(The A c c o u n t i n g S t a n d a r d s Committee o f t h e I n s t i t u t e o f C h a r t e r e d A c c o u n t a n t s i n England and W a l e s , . I n f l a t i o n Accounting‑an i n t e r i m r e c o m m e n d a t i o n , Accou 叫 叩 c y , D e c . 1 9 7 7 , p p . 7 4 ‑ 7 8 ) .
SEC A c c o u n t i n g S e r i e s R e l e a s e N o . 1 9 0 , i n A c c o u
伽g S e r i e s
R e l e a s e s and Sta/ f A c c o u
伽g B u l l e 血 sa s of S e p t e m b e r 1 1 9 7 7 ,
Commerce C l e a r i n g H o u s e , 1 9 7 7 , p p . 3 4 2 4 ‑ ‑ ‑ 3 4 3 0 ; p a r a . 3 1 9 3
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 6 1 ) 3
まず,会計上の貨幣に関する次の2つの説明の検討から始めよう。貸借対照表の機能はその作製日における企業の資本・準備金および負債を貨幣額を もって表示するとともに,これらを表わす全貨幣が数種の資産形態に配分されてい る状態を示すことである。損益計算書においても,…(中略) •••収益と費用は帳簿 に記録されたその貨幣額をもって計上される。この会計の基準がしばしば歴史的原 価基準といわれるものであり,本ステートメントにおいて, 「貨幣的利益」という 言葉はこのように計算された利益を示すのに用いている。…しかしながら歴史的原 価によって作製する報告書はいくつかの制約をうけている。なかんずく,報告書の 作製に用いる貨幣単位が安定した計算単位でないということは決して小さからぬ制 約である。•••それゆえに,貨幣的利益は購買力の意味での正味財産増減を必ずしも 反映しない。
(3)
これに対して,他の説明によれば次の如くである。
貨幣には
2
つの特質がある。その1
つは交換の媒介(債務支払の媒介)であり,他 は交換可能性の測定尺度あるいは「価値の標準」である。前者の特質は,会計がそ の役割を果たしている経済組織の種類ーすなわち「貨幣経済」ーを特色づけること を除けば, それほどの重要性を有していない。 会計帳簿は, ことさらに「貨幣」(硯金または預金,法貨または代用法貨)が存在しなくても,存在し得るのであり 保持され得るのである。会計にとって決定的なのは第 2の特質である。会計は測定 を伴う。すなわち,測定するためには,測定されるべき目的物全部に共通の単位が 必要である, 「交換経済」においては,交換過程に登場し,あるいは登場しうる目 的物のすべてに共通な唯一の測定尺度は,それらの目的物の交換可能性あるいは,
「交換における価値」である。さらに,かかる測定は,公分母あるいは価値の標準 ーこの場合の「価値」は「交換における価値」を意味する一として機能する貨幣に
よって表示される。•••このことを会計の定義に関係付けると次の如くである。
会計の職能は,(1)特定の実体によって保有されている資源を測定すること,(2)こ
(3) The I n s t i t u t e o f C h a r t e r e d . A c c p u n t a n t s i n E n g l a n d and W a l e s ,
R e c o m m e n d a t i o n s o n A c c o u n t i n g P r i n c i p l e s , 1 5 ; A c c o u n t i n g i n R e l a t i o n
t o Changes i n t h e P u r c h a s i n g Power o f Maney, May 1 9 5 2 , p p . 1 ‑ 2
なお訳は片野一郎著「貨幣価値変動会計第二版」(同文館昭和44年)4 6 8 ‑ 4 7 0
頁によった。れらの特定実体に対する請求権および持分権を反映させること,(
3
)これらの資源,請求権および持分権の変動を測定すること,(
4
)特定の期間にその変動を割り当てる こと,(5
)上記の諸事項を,公分母としての貨幣数値で表現することである。(4)
上記の2つの引用文は会計上の貨幣に関して,同じ会計学の領域で取り上 げるにしても,そこには大きな解釈の相違があることを示している。勿論,
支持する会計の形態の相違から,会計対象として,企業の経済現象の貨幣的 側面を重視するのか,実物的側面を重視するのかの相違が表面に現われてい るのは明らかである。しかしながら,このことはより基本的にいえば,会計 上の貨幣について,いかなる機能を期待するかの相違なのである。最初の引 用文は価値測定尺度としての機能にとどまらず,貨幣それ自体がある種の価 値をもつ
1
つの財貨であることを意識している。それに対して,後者の引用 文は社会経済的には貨幣のもつ実質的側面を認識しながらも,会計における 貨幣の意義は,それが諸財の価値測定の一般的尺度すなわち公分母たるにと どまり,会計の対象は,どこまでも,貨幣の背後にある実物にあることを強 調している。そもそも,何故,会計は企業の経済活動を貨幣数値によって表現するのが
(5)
一般的なのか。その理由は経済活動それ自体に内在している。企業の経済活 動は財貨・用役の実物的側面とそれに対する貨幣的側面から形成されている が,問題はこの貨幣的側面が企業の経済活動にとって,いかなる意味を有し ているかである。企業は通常財貨・用役の提供に際して貨幣を媒介させ,同 時に当該財貨・用役の価値を貨幣量で表示する。企業が貨幣をこのように使 用するのは,貨幣が経済社会全般において交換の一般的手段として用いられ ているからである。勿論,このことはその前提として,当該社会全般におい
(4) Maurice M o o n i t z , The B a s i c P o s t u l a t e s of A c c o u n t i n g , AICPA, ARS N o . 1 , 1 9 6 1 , ~p. 1 7 ' ‑ ‑ ‑ 1 8 . 2 3
佐藤考ー・新井清光共訳「会計公準と会計原 則」(中央経済社昭和3 7
年),5 1 ‑ 5 2
頁,5 8
頁(5) ASOBAT
が会計は貨幣による表硯に拘泥すべきではない,と主張したのは周 知の如くである(AAA; A S t a t e m e n t of B a s i c A c c o n n t i n g T h e o r y , 1 9 6 6 ,
p p . 1 1 ‑ 1 3
飯野利夫訳「基礎的会計理論」(国元書房1 9 6 9
年)1 8 ‑ 2 0
頁)。貨幣価値変動と会計責任(松尾) (
1 6 3 ) 5
て,貨幣が財貨・用役の価値表示単位として機能していることを意味してい る。前掲の引用文に指摘されていたように,企業の経済活動の測定・伝達を 行なう会計に対して,貨幣がこの価値表示単位としての機能,いいかえれば 測定尺度としての機能との関係で係わり合いをもっていることについては異 論がない。問題は何故会計は,一般に,測定尺度として貨幣を選択するのか という点である。その答は,会計を取り巻く経済環境に見出されねばならな い。そこで,再度,経済社会における貨幣の役割を尋ねてみよう。もし貨幣が上記のような機能しか果さないとしたら,それは経済社会に対
(6)
して消極的にしか作用しているにすぎないといわれる。われわれの対象とし ている企業が活動している社会は貨幣経済社会であり,それはまた変動経済 社会ともよばれる。そこでは企業は将来に対する不確実性に伴う危険に備え るために,ある一定の価値量を保蔵しようとする。この価値保蔵の手段とし
(7)
て適しているのが貨幣である。何故,貨幣が価値保蔵手段として適している かは,ケインズの「一般理論」から, 「貨幣と他のすべての(または大部分 の)資産との間の本質的な差異は,貨幣の場合にはその流動性打歩がその持 越費用をはるかに超過するのに,他の資産の場合には,その持越費用がその
(8)
流動性打歩をはるかに凌駕するという点である」を根拠として説明されるの は周知の如くである。この意味において,貨幣は富保有手段として,他の諸 財と対等の資格を有する選択対象となるといわれている。貨幣がこのように
(9)
価値保蔵の手段としての機能を有するが故に, 経済社会全般についてみれ
(6)
佐藤豊三郎著「新しい経済学」(評論社昭和4 3
年)1 6 9 ‑ 1 7 1
頁(7)
安田信一著「貨幣本質論序説」(産業経済社 昭和2 6
年)3 6
頁(8) J . M. K e y n e s , The G e n e r a l Theory of Employm ⑰ t , I n t e r e s t a 叫
Money, 1 9 6 3 , p .
227 塩野谷九十九訳「ケインズ雇傭•利子および貨幣の一般理論」(東洋経済新報社昭和
4 4
年)2 5 4
頁。貨幣が他の諸財に比して,何故 このような特異性を有しているのか,という問題は既に会計学の領域を大きく 越えているので,これ以上立ち入らないことにする。(9)
矢尾次郎著「貨幣的経済理論の基本問題一貨幣経済の構造と貨幣の作用ー」(千 倉書房昭和3 7
年)1 4 3
頁.安田著前掲書4 3
頁ば,貨幣の収入は直ちにその全額が貨幣の支出となることなく,貨幣保有の 動機が働くことによって,そこに貨幣の保蔵が行われ,この保蔵が企業の生 産活動の縮小を導き,この逆がその拡大に導く。このように,貨幣は経済の 実物的側面に対して消極的に作用するだけでなく,積極的に作用する機能も 有しており,むしろ後者の機能を有しているところに,貨幣経済における貨
( 1 0 )
幣の本質があるといわれている。
勿論,貨幣はそれが一般的交換力を有するが故に, 価値貯蔵の対象とな る。いいかえれば,価値貯蔵手段としての機能は一般的交換手段としての機
( 1 1 )
能を前提としている。しかしここで言わんとするのは,貨幣が物と物の交換 の媒介として機能しながら,ただそのことだけにとどまらず,その機能を前 提として,それが価値貯蔵の手段として機能する社会,それが会計の対象で ある企業の経済活動を取り巻く経済環境であるということである。そこでは 企業は財貨・用役の売買に貨幣を使い,そのために財貨・用役の価値量を貨 幣単位で表現しながらも,基本的には価値貯蔵手段としての貨幣を獲得する ことを目的として活動している。
すでにのべたように, 企業の経済活動の測定・伝達を行うのが会計であ る。そうであるなら,少くとも社会経済的曝境を背景とするかぎり,貨幣が 企業の経済活動におよぼす上述のような作用を会計は反映せねばならない。
(2)
貨 幣 の 価 値会計は上記のような貨幣の作用を反映せねばならないとしても,貨幣が及 ぽすそのような作用が会計に対して重大な問題を提起する。 それは, 会計 上,貨幣は測定尺度として使用されるのが一般的ではあるけれども,貨幣そ れ自体としては,一般交換力を有することにもとずく価値貯蔵手段としての 作用を本質的機能としている点,すなわち貨幣それ自体が価値を有している 点である。
貨幣の価値とは「それ一単位と交換で与えられる物一般の数量のこと」で
( 1 0 ) 佐 藤 著 前 掲 書 1 7 2
頁( 1 1 ) 安 田 著 前 掲 書 9 1
頁貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 6 5 ) 7
あり,その限りにおいて,他の諸財の価値が「それ一単位と交換に得られる( 1 2 )
物一束の表現である」ことと類似している。しかしながら,貨幣以外の財は それと他の何等かの財との交換の意味での使用ではなくても,それ自体の使 用によってその所有者に便益を享受せしめる力あるいは有用性を有している のに対し,、貨幣の価値は,どこまでも,それがもつ他の物に対する一般的支
( 1 3 )
配ヵ,すなわち購買力以外にないという点で他の諸財と異なっている。この ような貨幣の特性について,「本来,貨幣の実質的内容は一般的購買力の疑 固物たることに存し,具体的な貨幣はかかる実質的内容たる一般的購買力を
( 1 4 )
荷う形式にほかならない」ともいわれる臼どである。
会計にとって問題になるのは,この購買力が一定ではなく,変動を常とし ているのが現実であることである。すなわち,会計上,貨幣は専ら測定尺度 としての機能が表面化するけれども,それは物量尺度とは異って,それ自体 価値をもち,その価値が絶えず変動するのが常態である。このことはこの変 動に伴って,測定尺度としての規模も変動を常とすることを意味している。
測定尺度の規模の変化は,測定対象が一定であったとしても,測定結果に変 化を生ぜしめる。歴史的原価会計が批判を受けるのはこの点である。それは
( 1 5 )
測定尺度におけるこの規模の変化を考慮に入れていないからである。このこ とは,逆に,測定尺度における規模の変化を考慮すれば,会計上の問題が解
( 1 2 ) D. H
.ロバートソン著 安井琢磨・熊谷尚夫共訳「貨幣」(岩波書店19 5 6 年 )
1 8 , 3 1
頁( 1 3 )
同上書3 1
頁( 1 4 )
矢尾著前掲書8 9
頁( 1 5 )
全然考慮を払ってこなかったわけではない。棚卸方法における後入先出法,減 価償却における加速度償却法等によって,その枠組を越えない範囲で対処して きた。しかしながら,それらは当該個々の資産の取替維持に対処することを基 本的方向としているのであって,貨幣の一般的な価値変動に備えようとするも のではない。更に,歴史的原価の枠内であるとはいえ,一般に是認された会計 原則の名のもとに,このような様々な方法を認めてきたことが,つぎはぎだら けの,その場凌ぎの理論として,論理一貫性の欠如,比較性の阻害等の批判を 受ける原因にもなってきた。決するということを意味しているのではない。問題の解決は,いかなる会計 目的を想定するかによる。この点については後に論じることにしよう。ここ で重要なのは,会計上測定尺度として用いられている貨幣は,その価値の変 化に伴ない,その測定尺度としての規模も絶えず変動するという事実である。
(3)
貨幣価値変動の測定貨幣価値変動を直接測定するには,「時期を異にするそれぞれの貨幣それ 自体を自由に交換するという形で売買できるような市場ないし市場類似の機
( 1 6 )
構が存在しなければならない」が,そのような市場は外国為替市場を除いて存 在しない。しかしながら,貨幣の価値は物に対する支配力にあるから,貨幣 の価値の変動は,それと交換に獲得しうる物の量の変化で測定できる。した がって,国内における貨幣の価値の変動を測定するには, 「『自由資本』と して機能する国内通貨と,これによって取得できるすべての財貨・用役との 間の交換比率」を求め,その変化を測定すればよく,この比率は「特定時点 における国内のすべての財貨・用役の価格の動向を示す指数を採用すること
( 1 7 )
によって得られる」のである。より正確にいえば,かかる指数は直接的には 財貨。用役の交換価格の変化を測定する指数であるから,貨幣価値の変化は
( 1 8 )
その指数の逆数として間接的に求められることになる。たとえば,すべての 財貨・用役の価格の変動を示す指数すなわち一般物価指数が,
100
から150
に 上昇したということは,同じ期間に貨幣の価値すなわち貨幣の一般的購買力 が%に下落したことを意味している。( 1 6 ) The S t a f f o f t h e Accounting R e s e a r c h D i v i s i o n o f AICPA, R e p o r t i n g t h e F i n a n c i a l E f f e c t s of P r i c e Levei C h a n g e s , AICPA, ARS N o . 6 , 1 9 6 3 , p p . 9 , 1 0片野一郎監訳「アメリカ公認会計士協会物価水準変動財務報告」
(同文館昭和
47 年 ) 1 4頁
( 1 7 ) I b i d . , p . 1 0
同上書 1 5
頁
( 1 8 ) C e c i l i a T i e r n e y , The I n d e x Number P r o b l e m , i n R e p o r t i n g t h e F i n a n c i a l
E f f e c t s of P r i c q L e v e l Changes, AICPA, ARS N o . 6 , by t h e S t a f f o f
t h e Accounting R e s e a r c h D i v i s i o n o f ・ AI CPA; 1 9 6 3 , p . 6 3片 野 訳 本 同 上
書8 1 頁
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 6 7 ) 9
物価指数によって貨幣の価値の変動を測定する場合,測定しようとする貨 幣の価値は,貨幣が物一般に対して有する支配力すなわち貨幣の一般購買力 の変化であって,それが個々の財貨・用役に対してもつ購買力の変化ではな いことに注意する必要がある。貨幣が価値を有するのは,既にのべたように それが一般的交換力を有していることを前提としている。もし貨幣の価値の 変動を測定するのに選択しようとする指数が,すべての財貨・用役の価格の 変動を示さず,ある限られた範囲のそれらの変動を示すのであれば,そこか ら得る貨幣の価値の変動は,当該一定の限られた範囲における貨幣の交換力 を反映してはいても,経済社会全般に通用する一般的交換力を反映している とは言いえない。このことは選択する指数によって指示される財貨・用役の 価格の変動が個別化すればするほど,その結果測定される貨幣の価値は一般 的交換力の側面は薄れ,当該特定の財貨・用役に対する個別的な交換力を示( 1 9 )
すことになることを意味しており,遂には貨幣の需給関係を反映した本来的 な貨幣の価値ではなく,そのような貨幣的諸要素とは別の事情によって変動 する実物そのものの価値を,ただ単に貨幣という測定単位で表示しているに すぎなくなるだろう。
確かに,貨幣の所有者個々人あるいは個々の企業にとってみれば,貨幣の 一般的な価値よりも,出来る限り彼等の特定の経済環境に関連した個別的な 貨幣の価値の方が有意義だろう。だが,いかに個別的な価値といえども,厳 密には,所有者個人にとって特有な価値でない限り,有意義な価値はありえ ないだろう。この問題を追求していけば,価値概念の根源にまで至り,結局
( 2 0 )
は価値概念の源は個人の主観にあることが明らかになろう。その結果,いか なる測定尺度といえども,価値を文字通り正確には測定しえないということ に気付くであろう。たとえば,同じ通勤電車の乗客でも,腰掛けている人と
( 1 9 ) G . M. K e y n e s , o p . c i t . , p p . 2 3 0 ‑ 2 3 6 塩 野 谷 訳 本 前 掲 書 2 5 8 ‑ 2 6 5
頁矢 尾 著 前 掲 書 1 7 2 ‑ 1 7 3
頁( 2 0 )
井尻雄士著「会計測定の基礎ー数学的・経済学的・行動学的探究ー」 (東洋経済 新 報 社 昭 和43 年 ) 50 頁参照
立っている人とでは,運賃として支払った貨幣から得る効用は異なるだろう し,また同一人が同じ電車に同一距離を乗車したとしても,ラッシュ時と閑 散時とでは,支払った貨幣から得る効用は異なるだろう。ましてや,そこに その人の健康状態,生活慣習等を加味すれば尚更のことである。このような 場合,社会的に合意を得た運輸サービスの価格すなわち運賃以外,各ケース の価値をいかにして正確に測定し,それを第三者が検証することが可能であ ろうか。いずれのケースにおいても,それぞれの価値は主観的にのみ判断し うるにすぎない。しかしながら,このことは貨幣の価値尺度としての機能を 否定することを意味しないであろう。たとえ貨幣が価値尺度として完全無欠 ではないにしても,既述の如き貨幣のもつ機能の故に,それはわれわれの経 済社会においては,最も信頼するに足る価値尺度として合意されている事実 に変りはない。
さて,以上の論述から貨幣の価値の変動を測定する指数として,一般物価 指数が最も望ましいことが明らかになった。ところで,この指数を会計測定 に適用する場合,数値の比較可能性を強調して,次のような論述を展開しが ちである。すなわち歴史的原価を一般物価指数で修正するのは,貨幣価値変 動時に種々の時点で発生した取引をそれぞれの時点の貨幣単位で測定し,そ の結果を比較してみても,その'ことは,ボンドで測定した重量とキログラム で測定した重量を比較するのが無意味であるのと同様,意味がないからであ
( 2 1 )
るというのがこれである。
この論述はある意味で確かに正しい。測定対象に実質的な変化はなく,変 化があるのは測定尺度である。しかしながら会計測定における特徴は,その 変化が,測定尺度が同一でありながら,時点を異にすることによって,測定 尺度自身の規模に変化がある点にある。もし測定尺度の種類を異にすること に変化の原因があるのであれば,測定尺度を統一することにより,問題は解 決する。しかしながらこの場合解決する問題は,測定尺度の統一による測定
( 2 1 ) The S t a f f o f t h e A c c o u n t i n g R e s e a r c h D i v i s i o n o f AICPA, o p . c i t . . p . 2 5
片 野 訳 本 前 掲 書
3 4 ‑ 3 5 頁
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 6 9 ) 1 1
値間の加法性を回復することによってもたらされる測定結果の比較可能性で ある。前記の論述の趣旨は明らかにこの点にある。しかしながら会計測定に おいて,専ら測定結果の比較可能性の保持を強調する観点からの測定尺度の 妥当性に関する論理は,会計測定における貨幣の意味を形式化し,その実質 的意味を軽視する怖れがある。測定対象に実質的変化がなく,同一測定尺度•同一測定方法を採用しているにもかかわらず,測定結果に変化が生ずるの は,会計上は価値測定の単位としての機能が表面化する貨幣が,貨幣それ自 体の機能についてみれば,ただ単にかかる機能だけにとどまらず,それ自体 がある種の価値を有し,その価値に時間の経過による変化が生ずるが故であ る。したがって,会計上測定単位として機能する貨幣は,この意味において 物量尺度と同一次元で比較するわけにはいかないことを銘記すべきである。
さて,以上の論述から'•会計上測定尺度として用いる貨幣が,いかなる特 質を有しているかが把握しえた。 そこで次に,貨幣価値変動が企業におよぽ す影響を概観しておこう。
2 . 貨幣価値変動の影響
貨幣価値変動が個々の企業におよぽす影響は,変動の程度と当該企業の資
( 2 2 )
産ならぴに負債の構成によって異なる。
•
変動の度合が高ければ高いほど,企業におよぼす影響が大きいのは当然で あるが,たとえ僅かな変動であっても,その変動が相当期間持続することに
( 2 2 ) American I n s t i t u t e o f C e r t i f i e d P u b l i c A c c o u n t a n t s , F i n a n c i a l S t a t e m e n t
R e s t a t e d f o r G e n e r a l P r i c e ‑ L e v e l ・ c h a n g e s , APB S t a t e m e n t N o . 3 , J u n e 1 9 6 9 , i n APB A c c o u n t i n g P r i n c i p l e s , V o l . 2 , AICPA, Commerce C l e a r i n g H o u s e , 1
切0 , p . 9 0 1 0 , p a r a . 1 3 新井清光監訳
「アメリカ公認会 計士協会物価水準変動会計」(同文館昭和46
年)48
頁F i n a n c i a l A c c o u n t i n g ' S t a n d a r d s B o a r d , R e p o r t i n g t h e E f f e c t s of
G e n e r a l P r i c e ‑ l e v e l Changes i n F i n a n c i a l S t a t e m e n t s , FASB D i s c u s s i o n
Memorandum, F e b . 1 5 , 1 9 J 4 , p . 8
よって,影響は累積的に増大し,企業にとってその変動のもつ意味が重大に
( 2 3 )
なることは周知の事実である。たとえばローゼンフィールドは,
1968
年にA ICPA
会計原則審議会の支持を受けて,1966
年から1967
年にわたる米国18
社の財務諸表に対して,一般物価変動修正会計の実地適用テストを実施した が,その結果の報告に関する論文において,1 5
年間にわたって年平均上昇率2%
,最高でも3 . 7
%を越えなかった時期でさえ,テストに参加した大部分 の会社の修正後純利益は,修正前のそれとの間に3 . 7
%以上,多くの会社の( 2 4 )
場合には,数倍の差があることを指摘して,このことを実証している。
この原因の所在が何処にあるかは企業によって異なるが,観察の結果,一
( 2 5 )
般的には次の 3点に要約しうると彼は指摘している。
1. 資本集約型企業ほど受ける影響は大である。これは長期間使用する固 定資産の減価償却費が修正によって受ける影響を意味している。
2 .
棚卸資産回転率が高く,その結果売上高に比して,棚卸資産平均在高 が低い企業ほど受ける影響は少ない。3 .
財務構成が重要な役割を果す。インフい状況のもとでは,債務者は利 得を得,債権者は損失を蒙るが,一般的には,購買力利得を得ている企業の 方が,損失を蒙っている企業より多い。ローゼンフィールドは,
APB
の調査研究草案に従って,購買力損益を純( 2 6 )
利益計算過程に含めているが,ダウ・ィッドソン=スティックニー=ウェイル は,米国主要100社の
1974
年の財務諸表に一般物価変動修正を施して分析し た際に,この購買力損益を認識する前の修正後利益と認識後の修正後利益を 求めている。その結果,認識前修正後利益はほぼ全企業について修正前利益( 2 3 ) P a u l R o s e n f i e l d , A c c o u n t i n g f o r I n f l a t i o n ‑ A F i e l d T e s t , J o u r n a l of
A c c o u n t a n c y , 1 9 6 9 , p . 4 5
R . J . Chambers, Accounting for I n f l a t i o n ‑ M e t h o d s and P r o b l e m s , D e p a r t m e n t o f A c c o u n t i n g ( H 0 4 ) , The U n i v e r s i t y o f S y d n e y , 1
釘5 , p . 8 ( 2 4 ) R o s e n f i e l d , i b i d . , p p . 4 5 ‑ 4 8
( 2 5 ) I b i d . , p . 4 9
( 2 6 ) I b i d . , p . 4 8
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 7 1 ) 1 3
より低く,多くの企業では大幅に低いのに,認識後のそれは驚くほど高いと( 2 7 )
報告している。もっとも,ローゼンフィールドが調査した時期とは異って,
本稿の冒頭で言及したように,
1970
年代に入ってインフレ傾向が世界的に強 まり,米国もその例外ではなかったが,彼等の対象としている時期はその最( 2 8 )
も激しい時期であった。このことは高インフレ期において購買力利得の増大 を図る政策を推進することが,他方における債権者が蒙る購買力損失を償う ための高利率を負担しても余りある得策であるとして支持されていることを 意味している。
貨幣価値変動が企業におよぽす影響は,概ね以上の諸要因の複合的結果で ある。企業の経営者はかかる結果を最も有利に導出せしめる機会の選択に常 に迫られており,その選択の結果は財務・購買•生産・販売に関する意思決 定に反映される。かかる意思決定から成る企業活動に貨幣価値変動がおよぼ す影響に対して,会計はいかなる方策を講ずぺきか。この問題に関する糸口 を得るには,会計目的を明確にする必要がある。
3 . 会 計 目 的
会計の基本的な目的が会計責任の遂行にあること,ならびに会計責任の意
( 2 7 ) S i d n e y D a v i d s o n , C l y d e P . S t i c k n e y and Roman L . W e i l , , l n f l a t l o n
Accounting‑A Guide f o r A c c o u n t a n t and t h e F i n a n c i a l A n a l y s t , Mc G r a w ‑ H i l l , 1
切6 , p . 1 6 9
( 2 8 )
ちなみに,1 9 5 8
年を1 0 0
としたGNPデフレーターによると,ローゼンフィー
ルドが対象とした期間は前述のように年平掏上昇率が約2
%にとどまっていた のに対して,彼等の対象とした期間はその初年度の19 6 8
年の5
%上昇にはじま って,1 9 7 4
年には15 . 6
彩に達しており,年平均でも9
%という著しい上昇を示 している。なお彼等の対象とした期間のGNP
デフレーターは,前記注1
の日 銀統計局のデータを,1 9 5 8
年を10 0
として計算し直して求めた。( 2 9 )
味については別稿で明らかにしたが,ここでは貨幣価値変動の現実に会計が 対処するに際して,会計目的としての会計責任の理念がいかに作用するのか の鍛点から検討を加えることにしよう。
会計責任とは,基本的には,資源受託者による委託者への資源受託に伴な う活動の報告を意味するが,その意味・内容は委託者が受けることを期待し ている報告内容によって様々に変化する。このことをスケイプンズは「受託 責任」という用語の多様性として取り上げている。彼は一般物価変動修正会 計と時価主義会計,特にサンディランズ報告書とモーペス委員会の
ED18
に 分析的検討を加えた後,財務報告についての選択可能な諸方法を論ずるため の枠組みの明確化が必要であるとして,従来財務報告の目的とされてきた受 託責任概念を取り上げているのである。そこにおいて彼はこの用語は正直に かつ無駄なく行動して,その結果を公表財務諸表に反映させるという意味か ら,個々の株主の投資意思決定を助けるという目的,すなわち特定の期間の 経営者の正直さと能率に関する情報は,株主が将来の正直さと能率に関する 期待を形成するのを助けるはずであり,この期待が投資意思決定に影響をお( 3 0 )
よぼすであろうという意味まで,広範にわたっていると説明している。
スケイプンズは受託責任との用語のもとに説明しているが,それは会計責 任の説明内容とも解しうる。要するに,この用語は伝統的な受託責任の遂行 から,投資意思決定への有用性まで,広範な内容を包摂しているとの趣旨で あるが,広範な内容の包摂性にもかかわらず,われわれの経済社会を前提に すれば,典型的には,資源受託者として株式会社さらにいえばその取締役会 を,委託者として投資家を想定することになり,さらに貨幣価値変動時につ いてみれば, かかる状況のもとでの投資家の要求の識別が問題の焦点にな
( 2 9 )
次の拙稿を参照されたい。 「会計目的の識別」関西大学商学論集創立 90 周年
記念特輯号
「会計責任:その遂行形態と本質」関西大学商学論集
2 2 巻 1 号
「会計責任論の一形態ートウループラッド報告書を中心として一」開西大学商 学論集
2 2 巻 3 • 4 号
( 3 0 ) R e b e r t W. S c a p e n s , A c c o u n t i n g i n an I n f l a t i o n a r y E n v i r o n m e n t ,
M a c m i l l a n 1
切7 , p . 9 7
貨幣価値変動と会計責任(校尾)
( 1 7 3 ) 1 5
る。この点について上記のスケイプンズは,インフレ時の会計と資本維持と の関連で,購買力修正に関して次のように論述している。( 3 1 )
「購買力修正を支持する他の主張は,事業とは幾人かの人々によって所有 されている投資であり,したがって資本価値は彼等の所有主持分の大きさを 表わすとの見解から生ずる。この見解によれば,事業の所有主が得る真の便 益は,彼等の投資の購買力の変動について修正が施される時にはじめて計算 されると主張される。したがって,購買力修正は所有主の購買力の変動を反 映すべきであり,かかる変動は,多分,株主その他事業所有主が通常消費す
る財貨・用役の価格から構成されている一般物価指数によって測定されるこ'
( 3 2 )
とになろう。」
貨幣価値変動を測定するための指数選択問題は後述するとして,この引用 から明らかなのは,貨幣価値変動時における投資家の最大の関心事が,彼等 の出資した貨幣の価値を企業が実質的に維持したかどうかにあるという点で ある。し
このことは貨幣価値変動時においては,会計責任は,しばしば主張される ように,その設定から解除にいたる過程を名目的に明らかにすれば十分であ る.というような一義的な意味ではなくて.かかる意味も含めて多面的様相 を帯びてくることを意味している。ところで,投資家の出資した貨幣価値の 実質的維持とはいかなる意味か。この問題の検討は指数の選択と深い係り合 いを有している。そこで次に,指数選択の問題を論じながら,この点を明ら
( 3 3 )
かにしていこう。
( 3 1 )
他の購買力修正会計支持論として,彼は計算尺度統一論をあげ,その際採用される指数として,たとえば GNP デフレーターをあげている (Ibid~
p , 6 3 )
。 しかしながら,単なる尺度統一のみを目的とするのであれば,GNP
デフレー ターというような特定の指数にこだわる必要はない。( 3 2 ) Ibid~ p . 6 3
( 3 3 )
なお,本稿では指数作成上の諸問題の検討については割愛する。詳細はAICPA, ARS N o . 6
に補論A
として掲げられているティアニィの論稿「物 価指数問題」を参照されたい( T i e r n e y , o p . cit~ p p . 58
片野訳本前掲書 7 8
頁以下)。4 . 指 数 の 選 択
代表的な物価指数として,
GNP
デフレーター (正確には,国民総生産陰伏 価格デフレークーG r o s sN a t i o n a l P r o d u c t I m p l i c i t D e f l a t o rという),消費者物価
( 3 4 )
指 数
(ConsumerP r i c e I n d e x )お よ ぴ 卸 売 物 価 指 数 ( W h o l e s a l e p r i c eI n d e x )が
ある。このうち,これまで論述してきたような貨幣の一般購買力の変動を測定す る指数としては,
GNP
デフレーターが最適である。なぜならば, それは「個人消費企業投資およぴ政府購入を含む経済のすべての部門で交換され たすべての財貨・用役の価格について利用できる最も包括的な指数である」
( 3 5 )
からである。
ところが,このような経済界の全交換取引を網羅した
GNP
デフレークー の使用に対して,前節で明らかにしたような株主の出資した貨幣の実質的維 持を目的とするならば,そのような観点からは株主はかかる広範な購買力に 関心を寄せているのではなくて,彼等はより一層限られた狭い範囲の財貨・用役に対する購買力の変動に関心を寄せているのであるから,もっと範囲の 限定的な指数を選択すべきであるとの立場から,反対意見が提示されること
( 3 4 )
ヘンドリクセンの主張する一般投資購買力修正会計( E l d o nS . H e n d r i k s e n , A c c o u n t i n g T h e o r y , I r w i n 1 9 6 5 , p p . 179‑180
水田金ー監訳「ヘンドリク セン会計学(上巻)」(同文館昭和 4 5
年)2 4 9
頁) の場合に使用される投資財 価格指数は,カークマンも指摘するように卸売物価指数の一構成項目と考えら れる( P a t r i c kR
.A . K i r k m a n , A c c o u n t i n g u n d e r 1 n f l a t i n a r y C o n d i t i o n s , G e o r g e A l l e n & Unwin 1 9 7 4 , p . 4 6 ) 。
わが国でも,日銀が発表している卸売物価指数の中に総合指数,品目別指数 とならんで,それらとは別に用途別指数が掲示され,その一構成項目として投 資財価格指数が示されている。
( 3 5 ) F i n a n c i a l A c c o u n t i n g S t a n d a r d s B o a r d , F i n a n c i a l R e p o r t i n g i n U n i t s of
G e n e r a l P u r c h a s i n g P o w e r , P r o p o s e d S t a t e m e n t o f . F i n a n c i a l A c c o u n t i n g
S t a n d a r d s , D e c . 3 1 , 1 9 7 4 , p . 23
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 7 5 ) 1 7
( 3 6 )
がある。この立場は,前節のスケイプンズの所説からの引用文にも現われて いるように, 「企業の資本を個人または消費者としての株主の貨幣」とみる
( 3 7 )
見解である。
この見解はイギリスでしばしば主張される。たとえば,ボンドの購買力の 変動は,個人が彼自身の個人的使用のために購入する財貨・用役に費される
( 3 8 )
貨幣の購買力との関連で考えられる場合が多く,もし個人が考えられるなら ば,彼の貨幣が価値をもつのは,・彼が消費しようと欲する財貨・用役をその
( 3 9 )
貨幣によって獲得する範囲内に限ってである。したがって,株主の究極的行 動は個人としての消費行動にあるから,株主の立場から考えるならば,消費
( 4 0 )
者物価指数が選択されるべきであるというのがこれである。
この論理には,次の
2
点で疑問がある。その1
つは,消費者物価指数作成 の際に想定されている消費者階層であり,他の1
つは投資家は,彼の所得を( 3 6 ) Kirkman o p . cit~ p . 4 4
( 3 7 )
日本会計研究学会ィンフレーション会計特別委員会「インフレーション会計の 諸形態と各国の現状ーインフレーション会計特別委員会中間報告ー」会計10 8 巻 4
号 昭和50
年10
月号1 7 5
頁。同委員会はこの立場の会計を 「消費財価格 指数修正会計」と名付けている。( 3 8 ) A c c o u n t i n g S t a n d a r d s S t e e r i n g C o m m i t t e e , A c c o u n t i n g f o r Changes i n t h e Purchasing Power of Money, P r o v i s i o n a l S t a t e m e n t o f S t a n d a r d A c c o u n t i n g P r a c t i c e N o . 7 , The I n s t i t u t e o f C h a r t e r e d A c c o u n t a n t s i n E n g l a n d a n d W a l e s , May 1 9 7 4 , p . 8 , p a r a 2 4 and p . 1 2 , Appendix 1 p a r a 4 。
厳密には,次の
3
段階に分けている。1 . 1 9 3 8
年末までは,生計費指数2 . 1 9 3 8
年末以後19 6 1
年末までは,消費者支出デフレークー3 .
1962年以後は,小売価格指数 (ibid~p . 1 1 , p a r a . ) ( 3 9 ) S c a p e n s , o p . cit~ p . 2 9
( 4 0 )
イギリスで消費者物価指数が選択されるのは,このような理由のほかに,指数 技術上の問題もあるとのことである(Ibid~ p p . 4 , 2 9 . The I n s t i t u t e o f
C h a r t e r e d A c c o u n t a n t s i n E n g l a n d and W a l e s , A c c o u n t i n g f o r
S t e w a r d s h i p i n a P e r i o d of I n f l a t i o n , The R e s e a r c h F o u n d a t i o n o f t h e
I n s t i t u t e o f C h a r t e r e d A c c o u n t a n t s i n E n g l a n d and W a l e s , August 1 9 6 8 ,
短期か長期かの相違はあるにしろ,究極的には消費財・用役の購入にあてる との仮定である。
第
1
の問題については, 消費者物価指数の定義が必要である。「消費者物 価指数とは都市賃金労働者およびサラリーマンの家族が,その生活水準を維 持するために購入する財貨・用役のマーケット・バスケット方式による小売̀
(4 1 )
価格の平均的変動に関する指数」である。カークマンやヘンドリクセンが言 うように,投資家の分布はこのような所得階層に限られるものではないし,
更に彼等の消費慣習は指数作成の際に対象とされている消費者のそれよりも
( 4 2 )
通常裕福であろう。
重要な疑問点はむしろ後者である。人は所得の有無にかかわらず一定の消 費を必要とし,ある一定水準の消費に達するまでは,所得の増加に比例して 消費も増加させる。しかしながら,消費がある一定の水準に達すると,所得
p . 9 , . p a r a . 1 2 ) 。
なお,アメリカでも,スウィーニィやジョンズが消費者物価指数の選択を主 張しているのは周知のとおりである
(Henry W. S w e e n e y , S t a b i l i z e d A c c o u n t i n g , Harper & B r o s . , 1 9 3 6 . p p . 4 ‑ 5 。 R a l p hCoughenour J o n e s , P r i c e L e v e l Changes and F i n a n c i a l S t a t e m e n t s , C a s e S t u d i e s o f Four C o m p a n i e s , AAA 1 9 5 5 , p p . 3 ‑ 4 ) 。
消費者物価指数を選択する場合,その理由の
1
つとして,ジョ9ーンズも指摘 しているように( i b i d . , p . 3 ) , GNP
デフレークーによって測定した物価水 準の変動と消費者物価指数によって測定したそれとの間の高い相関性があげら れることがあるが,指数作成の際における基礎デークたる母集団の範囲の相遮 のために,この関係が永続する保証はない( T i e n e y , o p . c i t . , p . 1 1 2片野訳
本 前掲書1 4 2
頁)。ティアニィやムーニッツは,そのような関係が存在する のは.賃金,給与等の労務費が経済において占める重要性の故によってであろ うと指摘している( T i e r n e y , i b i d . , p , 6 9片野訳本前掲書 8 8
頁。Maurice M o o n i t z , Changing P r i c e s and F i n a n c i a l R e p o r t i n g , S t i p e s 1 9 7 4 , p . 2 1 ) 。
( 4 1 ) T i e r n e y , i b i d . , p p . 7 1 . 1 0 2片 野 訳 本 前 掲 書 9 0 , 1 3 0
頁( 4 2 ) Kirkman, o p . c i t . , p . 4 4 H e n d r i k s e n , o p . c i t . , p . 1 7 9水田訳本,前掲書
2 4 9
頁貨幣価値変動と会計責任(松尾) (
1 7 7 ) 1 9
の増加にもかかわらず, 消費は増加させるが, 所得と同じ割合で増加させ ず,残りは貯蓄に向けられるであろう。そして,この貯蓄の一部が株式の購 入に当てられる。したがって,投資家はその投資から得る報酬の一部又は全 部を消費財・用役の購入に向けることがあったとしても,投資額全額を消費 に向けることはなく,たとえ保有中の株式を売却したとしても,手取額はより一層有利な投資に向けるのが投資行動の常態であろう。このような事情を
( 4 3 )
カークマンは次のようにのべている。「このアプローチ(投資家を消費者とみ る立場…筆者注)の主要な批判は,恐らく,株主ないしは事業所有者は,事業 に投じた貨幣を究極的に消費者財貨・用役のために使用しようとは考えてい ないということだろう。企業は,通常,永続的に活動を続けることを考えて おり,株主はたとえ彼の所有株式を売却したとしても,その手取額を消費財 の購入よりもむしろ再投資に使うことだろう。投資から毎年得る所得は消費 目的のために使われるだろうが,これは,通常,資本投資全体のうちでは相 対的に僅かな部分である。」
かくして,株主は消費者として行動する側面を有してはいるものの,彼の 投資行動を究極的に消費行動に直結する思考は,現代の企業活動への投資を 想定するかぎり,重大なる疑問を挟まざるをえず,消費者物価指数の選択に は賛同し難い。株主個人としての経済行動は消費行動のみに偏しているので はなく,かかる行動と投資行動の両面にわたっており,したがって両行動を 包摂した指数が必要である。
これに対して,ヘンドリクセンは株主の購買力の立場そのものに反対する。
彼は,継続企業の会計公準とは,企業は投下資本の維持のために,その資産 に再投資を続けるであろうとの仮定であるから,この公準によれば,企業の 営業循環は,非貨幣性資産から現金を経て非貨幣性資産に至る経路を辿り,
•
企業は投資財を得ることを目的として,購買力を維持すべきことを意味して( 4 3 ) Kirkman, i b i q . , p . 45
同様の批判はヘンドリクセンにもみられる
( H e n d r i k s e n , i b i d . , p . 1 7 9
水 田 訳 本 同 上 書2 4 9 ‑ ‑ 2 5 0
頁)。( 4 4 )
おり, したがって投資財価格指数を選択すべきことを主張している。その際 彼は他業種への進出の自由の前提のもとに,一般的投資購買力を表わす指数
( 4 5 )
の選択を支持しているが,基本的には「資本を物質的資産の集合とみなし,資
( 4 6 )
本を維持するには,かかる資産の実質価値が維持されるべき」ことを主張す るのがねらいである。それは貨幣の一般的購買力に対立する意味での個別購 買力に通ずる考え方であり,貨幣の最も基本的な特質である価値貯蔵手段と しての機能を無視して,貨幣の機能を物と物の媒介手段としてのみに捉えよ うとする考え方である。すでにのべたように,貨幣価値変動をもたらす要因と 個々の財貨・用役の価格に変動をもたらす要因とは区別されるべきであり,
したがって, それぞれの変動に対処する会計も区別されるべきであって,
( 4 7 )
各々の有用性は各々の目的に照して評価されるべきであろう。
以上,ここに貨幣がもつ一般購買力という貨幣の実質的側面を重視し,そ の行動が消費•投資両面にまたがる株主に対して,出資した貨幣を実質的に 維持するという意味での会計責任の遂行の観点からは,貨幣価値変動を測定 する指数として,
GNP
デフレーターが最適であることが明らかになる。そ れは片野教授の表現を借用すれば,「国民経済的一般的貨幣価値指標」である と同時に,消費行動•投資行動両面にまたがる株主の経済行動にとって,「自( 4 8 )
由選択性資金」としての貨幣資本の維持計算を可能ならしめる指数である。
5 . 一般購買力修正会計と他の会計形態
以上の論述から,貨幣価値変動時において経済活動における貨幣的側面を 重視し,株主の出資した貨幣資本の実質的維持を目的とするという意味での
( 4 4 ) H e n r i k s e n , i b i d . , p p . 1 7 9 ‑ 1 8 0 水 田 訳 本 同 上 書 2 5 0 頁参照 ( 4 5 ) I b i d . , p . 1 8 0 同上書 2 5 0 . , ‑ 2 5 1 頁
( 4 6 ) Kirkman, o p . c i t . , p . 4 5
( 4 7 ) FASB, P r o p o s e d S t a t e m e n t o f F i n a n c i a l Accounting S t a n d a r d s , o p . c i t . , p . i i i
( 4 8 ) 片 野 著 前 掲 書 9 3 6 , 9 5 5 頁
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
( 1 7 9 ) 2 1
会計責任遂行の観点からは,GNP
デフレーターを使用した一般購買力修正 会計が基本的に支持されるべきことが明らかになる。その際,一般購買力修正会計は,
1. 期末時点の貨幣の一般購買力を表わす測定単位で,統一的に,財務諸表 の全項目を表示すること,ならびに
2 .
貨幣性資産・負債の所有から生ずる貨幣価値変動損益( g e n e r a lp r i c e ‑ l e v e l
( 4 9 )
g a i n s and l o s s e s )
を報告すること。の2点を除いて,原価主義・実現基準を遮守する点で,従来の歴史的原価主
( 5 0 )
義会計と類似しているが,このことは歴史的原価主義会計以外の他の会計の 形態と相容れないことを意味する屯のではない。時価主義会計との結合も可
( 5 1 )
能である。ただしその場合,一般購買力修正会計は貨幣資本概念を前提とし ているために,結合する時価主義会計もこの概念を前提とするものでなけれ ばならない。この点,保有利得と操業利益との区別を目的として,貨幣資本 概念を前提とする現在原価会計
( C u r r e n tC o s t A c c o u n t i n g )
との結合が可能で( 5 2 )
あるといわれている。
( 4 9 )
貨幣価値変動損益の扱いについては見解が分れている。メースンは次の3
つの 見解に整理している( P e r r y Mason, P r i c e ‑ L e v e l Changes and F i n a n c i a l Statements‑Basic C o n c e p t s and ・Methods‑AAA 1 9 6 7 , p p . 2 3 ‑ 2 4 f
.n . ) 1 .
貨幣価値変動による当期の影響をより完全に表示するために,全額を損益計算書に表示するという意見。
2 .
負債の返済ならびに現金の支出が行われるまでは,かかる損益は未実硯で あるという見解。3 .
短期貨幣項目に生ずる損益は損益計算書に表示されるが,長期貨幣負債に 生ずる損益は長期債権者と株主との間の資本調整項目ー物価が上昇すれば,債権者から株主に持分が移行し,下落すれば,その逆であるーであるという 見解。
( 5 0 ) R o s e n f i e l d , o p . c i t . , p . 4 6
( 5 1 ) D a n i e l L . ‑ M c D o n a l d , C o m p a r a t i v e Accounting T h e o r y , Addison‑Wesley 1 9 7 2 , p . 9 6
( 5 2 )
日本会計研究学会インフレーション会計特別委員会「インフレーション会計の 計算構造」企業会計2 9
巻7 号 1 9 7 7 年 7 月号 1 3 9 ‑ 1 4 0
頁しかしながら,この場合結合に先立って,保有利得と操業利益との厳密な 区別がどの程度可能か,改めて検討してみる必要があろう。なぜならば, ド
レイク=ドバッチがいうように,たとえば,将来棚卸資産価格の上昇が予想 される場合,企業は現在の安い価格で従来より多量の商品を購入して,価格 上昇に備えようとするだろう。もしそうなら,それに応じて,そうでない場 合に比べて購入費が余計に生ずるだけでなく,保管料その他在庫コストを余 分に負担せねばならなくなるであろう。これらの余分なコストは,将来の棚 卸資産価格上昇に備えることを目的とする保有活動に伴う費用であろう。し かしながら,保有利得と操業利益を区別する場合,保有利得を時間の函数と 考えるのが一般的であるから,このような費用は,操業利益計算に合められ ることになろう。その結果,保有活動による成果と操業活動による成果を,
( 5 3 )
真に独立的に把握しえなくなろう。理念的には,保有活動と操業活動の区別 はなしえても,現実の企業の意思決定は, 景気の動向, 取扱品目の需給関 係,自社の生産・販売能力等を総合的に判断した結果であって,保有活動と 操業活動は常に混合しているのが現実であろう。そうであるなら,保有利得 と操業利益の区別は業績評価に大いに貢献するけれども,より一層現実に即 した区別の可能性を厳密に検討してみる必要があるように思える。
6 .
む す ぴ貨幣価値変動期における会計を,会計上の貨幣の意義を問直しつつ,投資 家に対する会計責任の遂行の観点から検討してきた。その結果,
GNP
デフレークーを指数として使用する一般購買力修正会計が基本であるとの結論に 達した。その際,問題は現代の変動経済社会を特徴付ける技術変化にいかに 対処するかである。新製品・良品質の製品の登場により,既成の製品の陣腐 化の危険に常に余儀なくされているのが現代社会における企業である。この
( 5 3 ) D a v i d F . Drake and N i c h o l a s D o p u c h , On t h e C a s e f o r D i c h o t o m i z i n g
I n c o m e , J o u r n a l of A c c o u n t i n g R e s e a r c h , Autumn 1 9 6 5 , p p . . 1 9 6 ‑ 1 9 7
貨幣価値変動と会計責任(松尾)
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事態に対処して,指数適用による物価変動の測定の精度,なかんずく貨幣価 値変動の測定の精度の低下を防ぐには,ある指数を過度に長期的に使用する ことなく,適宣基準年度が改定され,かかる改正された指数を使用すること が肝要であろう。最後に, 本稿の意図は他のいかなる会計の形態をも排斥するものではな く,それらはそれぞれ異なる目的を有しているので,その観点から評価され るべきであることを申し添えておこう。