組織的視点よりみたリエンジニアリング
一ハマーとチャンピーの所論を中心にして一
井 島 宏幸
1 問題意識
2 リエンジニアリングについて 3 リエンジニアリングの組織的構造
1) 組織の構成要素
2) プロジェクト・チームの二層構造 4 リエンジニアリングの組織概念とその限界
1) 組織とプロセス 2) プロセス組織と限界 5 結びにかえて
1 問題意識
長びく不況と外国(日本・韓国・台湾など)からの輸出攻勢にアメリカの企 業は防戦を強いられ長期にわたって苦しい状況におかれてきた。そうした外国 企業の挑戦に対抗してアメリカの企業体質を強化し競争力を回復するために,
ハマーとチャンピー(以降ハマーらと云う)は今までの方法とは根本的に異な るやり方を採用するように提案した。それが『REENGINEERING THE COR一 PORATIONrの中で展開されている主張である。
ハマーらはリエンジニアリングが,企業の窮地を救う有効な手段であるとし
て強く主張するため,アダム・スミスの分業の理論を根本的にくつがえす新理 r
̲としての位置付けをおこなうことで華々しく展開している。
しかし,その理論の中には我々の目からみると,さして目新しいものではな いように感じる側面もある。それは,日本においても顧客満足の程度を高める ために同じような方策があったのであるが,そのなかから,効果のあった改革 にたいして「リエンジニアリング」と命名したものであって,決して新しい内
容の主張と言いきれないものもあるからである。だからといって,そのことに よってリエンジニアリングの理論を全面的に否定されるべきであるとは考えて いない。彼二,の主張の中には有用で納得できる面もあるのではないかと思うか らである。
そこで,問題を含みながらもハマーらの提言が企業の改革に有効に作用する ことがあるならば,その主張の効果的な利用のために問題がどこにあるのかを 明確にすることは大切な作業であると考える。我々はその視点からリエンジニ アリングの内容を整理・分析し,ハマーらの主張の中に潜在する問題点を明ら かにすることを本論の目的とした。
2 リエンジニアリングについて
ハマーらはリエンジニアリングされた結果を次のようにとらえている。
「会社を根本的に再建するため」アメリカのマネジャー一は「会社はどう組織 され,どう運営されるべきか」の「古いコンセプトを捨て」「現在用いている 組織運営の原則と手順をやめて」「それに代わるまったく新しいものを作り出 さなければならない」。そうすれば「新しい組織は,今日ある会社とは違って 見えるだろうし,またこの組織が製品やサービスを買ったり,作ったり,売っ たり,運んだりする方法もまったく異なるだろう押と新システムによる新し い組織的展開を強調している。そこではアダム・スミス以来の分業による組織 形態を否定し,「ビジネス・リエンジニアリング」という新見地より再統合さ れた組織が,再建された企業として大きくはばたくのであると主張する。
そこで,ハマーらの主張する組織にするために,何を,どのようにすること が「リエンジニアリング」というのかを明確にする必要がある。
(新組織について)
今までの組織とこれからあるべき組織とは,そのおかれている背景が異なっ ているという。「今日の環境の下では,市場の成長,顧客の需要,製品のライフ・
サイクル,技術変化の度合,あるいは競争の性格,どれ一つとして予測可能な 定数はない」3,だから「古い仕事のやり方一アダム・スミスが最初に指摘
してからずっと,企業組織の軸になってきた分業 はもはや機能しないのだ という現実を,組織は直視しなければならない」幽のである。
すなわち,古い時代に可能であった幾つかの要件は,今日では顧客(Cus一 tomer),競争(Competition),変化(Change)の3eT と呼んでいる背景に
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 33
よって新しい組織としての対応をせまられているというのである。大量生産,
安定,そして成長を目標としてきた今までのような企業は,固定的で遅い対応 しかできない組織として生き残ることはできなくなってきている。そこで,3 Cに対応できる「柔軟性と機敏な反応」髄が可能なことが新しい組織の基本要 件となるわけである。
そこで,今までの組織の抱えている問題を分析し,柔軟性と機激な反応に対 して,それを阻害ないし妨害している現在のシステムを見直すことを主張する。
そして,その原因をアダム・スミス以来の分業の原則に則った組織展開と,そ の管理に伴う規則等による処理システムに求め,それが現在のさまざまな問題 を作り出して来ているというのである。すなわち,企業は仕事を分業により単 純化し,従業員の行動を厳しく管理することで全体を統…しようとしているこ とからくるものである。細分化された個々の仕事は単純で知能的には高いもの は要求されないが,それなりの(単純な仕事を果たすという)責任はもたされ る。当然,細分化され分断されている全体を統一するため,それぞれに携わる 者全員に命令系統を通じて一貫性を保つように中央で管理する手段として報告 義務を持たせることになる。こうしたことが,「柔軟性と機敏な反応」に欠け
る結果を生み,現在の組織態勢を作りだしてきたというのである。
そこで,3Cに対応できるような新組織体制を作り出すためにリエンジニア リングをすることが不可欠な戦略的組織行動として要請されることになるわけ
である。
(リエンジニアリングの定義)油
次にリエンジニアリングの定義を中心に,対象と条件について考察すること でハマーらの主張の内容分析を進めたい。
ハマーらは「リエンジニアリング」を次のように定義する。「コスト,品質,
サービス,スピードのような,重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改 善するために,ビジネス・プロセスを根本的に考え直し,抜本的にそれをデザ インし直すこと」であるとする。
そこでは定義に伴うキーワードを四つに絞って説明している。「根本的」「抜 本的」「劇的」「プロセス」である。
我々は,このキーワードを二つに分けて考察を進めたい。一つはリエンジニ アリングをする対象領域に関するワードである「プロセス」であり,もう一つ はリエンジニアリングであるためのレベルや性質に関連したワードである「根
本的」「抜本的」「劇的」である。後者の方はリエンジニアリングの条件に関係 しているので,「プロセス」の分析を終えてから考察をすることにする。
(プロセスについて)了τ8
まつプロセスの定義から入りたい。ハマーらは「ビジネス・プロセスを,一 つ以上のことをインプットして,顧客に対して価値のあるアウトプットを生み 出す行動の集合」と定義する。すなわち,プロセスとは顧客との関連において 企業の対応過程を指しているのである。
このプロセスはリエンジニアリングの中で最も重要な概念の一つであるため,
我々はその内容を明確にしておかなくてはならない。そこで,プロセスそのも のを理解するために,少し長いがハマーらのあげた例を見てみよう。「注文の 処理とは,顧客が注文した時から商品が顧客の手元に届くまでを意味する。こ のプロセスは,いくつもの部門の何人もの人々によって行われる十数個のステッ プを含む典型的なものである。顧客サービス部門が注文を受け,それを記録し,
完全で正確なものであるかどうかチェックする。次に注文は財務部門に回され,
そこで別の者が顧客に対するクレジットを電算処理する。次にセールス部門が 請求金額を決定する。注文はさらに在庫管理部門に回され,在庫があるかどう かチェックされる。もしなければ生産計画部門に送られ,バックオーダーが出 される。そして倉庫部門が配送スケジュールを立てる。配送部門が鉄道,トラッ ク,航空,または船など配達方法を決定し,ルートと運送業者を選ぶ。製品出 荷部門が製品を倉庫から運び出し,注文にあっているかどうかを確認し,運び 出したものを集め,荷積みする。配送部門は運送業者に商品を渡す。この業者 が最終的に商品を顧客に渡すことに責任をもつのである。」注9この例に見るよ
うに,注文した商品を顧客が手に入れるまでのプロセスは多くの部門を経過し なくてはならないようになっている。それぞれの部門で職務が明確になってお り,きちっと各自が仕事をこなせば,次々と流れて効果的に注文した品物は顧 客に渡ることになる。各部門では各自がきめられた仕事をしたことを上司に結 果報告すればよく,プロセスとしての流れそのものは決められた道筋のとうり になって,それぞれの部門で遅滞なく進展すれば万事良好ということになる。
こうしたプロセスは分業の原理による組織化によって作られたものである。
すなわち,プロセスとしての仕事の流れは組織の枠組を決定するときに作られ たもので,プロセスは職能的に分断されているのが今までの組織の特徴である というのである。
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しかしながら,ハマーらはこのプロセスによる展開は問題をもっているとい う。一つは「プロセス全体とその結果を監督する人がいないので,それに対し て責任をとる人がいない」というのである。それは,各部門においては監督と それにともなう責任は明確になっているが,注文を受けてから品物が顧客に届 くまでの全プロセスを責任をもって統括する人がいないというわけである。も う一つの問題は,「このプロセスでは時間がかかるし間違いが起こりやすい」
ということである。多くの人の手を経て別々にひとつの注文を取り扱えば,問 違いがあるのは当然である。各部門で注文の処理に携わっている人々が割り当 てられた時間内に完全に行っても,このプロセスには時間がかかって,しかも 間違いが起こりやすいのである。
このような問題を抱えている組織は基本的に「プロセスの分断化による避け 難い結果」おこることで,「今日の3Cの世界では,分業志向の仕事は時代遅 れ」 °と言い切るわけである。
そこで,新組織化に向けてリエンジニアリングをすることになるわけである が,ハマーらは今までの組織概念とは根本的に異なる立場からの改革を提唱す る。すなわち,現行の分業による組織構造を全て破壊するように組成ルールの 無視もしくは否定の立場をとることである『ユ 。それは,仕事を今までは職務を 中心に構戒していたのに対して,プロセスの視点から仕事を再構成することで,
改革をはかることが可能となると主張するのである。
そして,リエンジニアリングこそが改革をはかることのできる方法であると する立場から,次のように主張する。
「企業はビジネス・プロセスだけをリエンジニアリングできる」田2のであり,
組織や制度に対してではない。管理組織はプロセスを統括するためのものであ るし,支払いなどの部門は「特定のプロセス・デザインの組織的な人為的構造 である」ため,「リエンジニアリングすることはできない」が,彼らの「行っ ていることをリエンジニアリングすることはできる」という。繰り返すが,部 門とかの組織はリエンジニアリングの対象ではなく,プロセスだけが対象とな るのである。そして「新しい仕事のプロセスを達成するために彼らをどのよう に組織し直すかは,リエンジニアリングされた新しい組織によって決まる」こ とになる。ハマーらはこの点を特に「決定的な区別」として強調する。「リエ ンジニアリングは,基礎的なビジネス・プロセスをデザインし直すことに焦点 をあてなければならない」のであって「部門や他の組織ユニットに焦点をあて
るのではない」。「ひとたび本当の仕事のプロセスがリエンジニアリングされる と,その仕事を行うのに必要な組織構造の形が明らかになる。おそらくそれは 古い組織とはまったく異なったものになるはずである」 3という。
すなわち,プロセスの改革を通して新組織が形成されることになり,3Cを 背景に生き残りをかけた企業は再活性化されることになる。リエンジニアリン
グはそうした改革をすることを指しているのである。
ところで,我々はリエンジニアリングの内容を明確にする作業をしているの であるが,その立場から「プロセスを改革する」ということの具体的意味内容 を明らかにするため改めて吟味してみたい。
先にあげたハマーらのプロセスの事例から考えてみると,プロセスの中で展 開される仕事内容は一般に我々が「業務」と呼んでいるものであることがわか る。業務とは「毎日継続して行う,職業,事業,商売一ヒの仕事」禰のことを指
していることから,組織における仕事としての業務は,日常的なくりかえし発 生する仕事を各担当者がそれぞれの職能に応じて定常的にこなしていくことを 内容とするものである。そしてその仕事は発生から完成まで,仕事全体が組織 内で問題なく達成するように組織的に形成されているルートにのっとって行動 すればよい結果を得られるように作られているのがプロセスなのである。リエ ンジニアリングはこの仕事の流れをある一定の視点もしくは条件により改革す ることを指向するものであるから,リエンジニアリングとは「業務の改革」と 理解する方がより実態を指し示しているし,具体的な対象の明確化を指向する
ように思われる。
現にハマーらも「プロセスがリエンジニアリングされると,仕事は狭い範囲 の業務中心のものから複数の職務にわたるものへと変わる」櫛と表現している し,「意思決定や部署間にまたがる事柄は,従来はマネジャーやさらに上の管 理職のミーティングで扱われていたが,いまやチームの日常の業務の中で行わ れることになる」欄という内容にも業務の変革が明らかに指向されていると考 えられるのである。
以上のことから,我々はハマーらの主張するリエンジニアリングとはプロセ スの改革であるが,その具体的内容は「業務改革」であると考えるのである。
ではリエンジニアリングと業務改革は同じ内容のものと考えてよいのだろう か。リエンジニアリングはその改革の対象をプロセスに焦点をあてたが,プロ セスを改善したからリエンジニアリングをしたとはいっていない。すなわち,
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プロセスを対象にしてもリエンジニアリングといえるのはなんらかの条件が満 たされていることが要求される。その意味において業務改革を単純にリエンジ ニアリングと同一視しては大きな間違いを犯すことになる。リエンジニアリン グは,業務改革のうちのある特定の条件を満たした範囲に限定して使用すると きに初めて同じ内容のものと理解できるのである。
そこで,次にその条件を明確にするためリエンジニアリングの性格をさらに 考察したい。
(条件について)
先にあげたキーワードのうち「根本的」「抜本的」「劇的」について内容を吟
味したい注17。
ハマーらが「プロセスを根本的に考え直す」というのは,現行のやり方を反 省し,そこにある「暗黙のルールと前提」を洗いだして,企業目的を実現する ために「どうあるべきか」の状態を創り出せるように,ゼロ(無前提)から出 発するためのものである。そうしないと現行のプロセスに知らないうちに引き づられて真のリエンジニアリングを達成できなくなるからである。
従って我々はこの言葉のもつ意味はリエンジニアリングを実現するにあたっ ての注意事項に相当するものと考える。
「抜本的にデザインし直す」ことについては次のようにいう。「既存の構造 と手続きをすべて無視して,仕事を達成するまったく新しい方法を発明するこ とである。」それは「ビジネスの『再建』であって,改善や強化,修正ではな い」としている。すなわち,リエンジニアリングは「新しい方法」であって
「改善」や「修正」などとは異なるレベルのものでなくてはならないとするわ けである。
これはキーワードの「劇的」と軌を一にしているもので「業績において小さ な改善や漸進的な改善を行うことではなく,大飛躍を達成すること」なのであ る。そこでは「大爆発が必要なときのみ,リエンジニアリングは用いられるべ きである。一中略一劇的な改善には,古いものを吹き飛ばし,新しいもの に置き換えることが要求される」ことになる。
ハマーらにあってはこれらのキーワードは,単にリエンジニアリングを強調 するために使用されているわけではなく,それが状態として満たされていなけ ればリエンジニアリングではないという条件のレベルにまで至っているのであ る。特に「抜本的」と「劇的」は改善や改良のレベルではリエンジニアリング
ではないという立場を強調しており,リエンジニアリングする前の組織状態と はまったく異なる,いわゆる「改革」という状態の出現をもって始めて,それ をリエンジニアリングしたということになるわけである。
ハマーらは,その意味でリエンジニアリングとそうでないものの区別のため の第一の境界線は「改良ないしは改善」と「革新ないしは改革」との問におい ているわけである。「リエンジニアリングは躍進をめざすのであり,既存のプ ロセスを強化するのではなく,既存のプロセスを捨て,まったく新しいプロセ スに代えるのである。リエンジニアリングにはまた,品質改善プログラムで必 要とされるものとは違う,経営変革のアプローチも含まれている」19というこ とで,改革としてのリエンジニアリングは経営のさまざまな側面に多大な影響 をあたえ組織的転換をすることも含むことになるのである。
ところで,リエンジニアリングと判断するための「改革」はどのように基準 を位置付けるのであろうか。ハマーらは特に基準を明確に提示しているわけで はないが,.我々はその判断の材料はリエンジニアリングの定義の中に示されて いるように考える。
すなわち,「コスト,品質,サービス,スピードのような一中略 パフォー マンス基準」 がそれである。このパフォーマンス基準はなんのために存在す るのかを考えれば関連がみえてくる。ハマーらは先に3Cをあげたが,3Cと の関係をみるときパフォーマンス基準の対象が明らかになる。そして,「改革」
のための具体的判断材料も明らかになると考えられるのである。
(経営の目的,政策,手段について)
ハマーらは企業環境の変化を3C「顧客」「競争」「変化」に集約した。企業 は,集団としての顧客から個人化しつつある顧客へ,最も安い価格と最高の品 質・サービスを競う企業間戦争へ,そして,技術革新を含めさまざまな多様化 と日常的な変化の中で適応していくことが生き残りをかけた唯一の道となって きているという。2°
企業は3Cに対応できる企業組織を構築することが要請されているわけで,
利益を確保しつつ拡大再生産への道を模索し,安定成長を指向することを経営 目的とする。
ハマーらのあげたパフォーマンス基準の対象は2種類に分類できる。「コス ト」のように企業内だけの問題であり外部と関係なく組織内努力で対応できる ものと,「品質,サービス,スピード」のように企業内の問題であると同時に顧
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客との関係が発生し,企業の対応によっては顧客との関係に重大な局面をもた らす内容を含んだものとの2種類である。
前者はコスト削減であり,後者は企業の対応との関係における顧客の満足度 の問題である。これらは経営政策として,ハマーらは新組織が追求すべきもの と捉えている。それは今までの古い組織体質(分業制)によって作られた経営 結果として「非柔軟性,反応の遅さ,顧客を無視していること,結果よりもむ
しろ活動にとらわれていること,官僚制,イノベーションの不足,高い間接 費」注2 という否定的内容に,ハマーらの新組織における経営政策の要求をくみ
とることができるのである。
そして,その経営政策を具体化する手段としてリエンジニアリングの導入を するよう主張することになる。ハマーらは最新の情報技術を高度に利用してプ ロセスを「改革」するよう提言する。そしてプロセスが改革されたとき「リエ ンジニアリング」ということになるのである。その場合改革であるかどうかの 判断は次のような内容をもって考えられることになる。
それは,大別して顧客満足のレベルの高度化であり,コスト削減の効果的実 現である。すなわち,利益の増大に明白な貢献をすることと,顧客の満足度が 高まりそうなもの,たとえば不満発生率の減少とか満足の増大すなわち再購買
の増加=拡大再生産とかの数字的結果に表れるようなものなど満足度に良い結 果をもたらす可能性の高いこと。また,人件費の削減や時間の短縮などコスト の目に見える低減などを判断の材料にすることである。
当然,リエンジニアリングを導入するかどうかの判断をする人達は,改革を 実行するチームだけでなく担当役員を含む経営陣があたることになるが,全体 を納得させられる説得力のある内容を含んでいることが要求されることになる。
その意味において,「改革」であるかどうかの問題だけでなく経営陣の説得の ためにも,販売の増大につながる顧客満足と企業の体質改善につながるコスト 削減の二つの側面の判断材料は重要な意味を持っているのである。
もちろんこれら材料の全てを満たすことを要求されているわけではないが,
この方向で判断されることに成らざるをえない。そして,こうした内容をなん らかの形で満たした「改革」を実現することが,リエンジニアリングとして組 織に導入されることになるのである。
ところで,リエンジニアリングは改革を条件としているように受け取れる理 論展開をしているのは前にみてきたとおりであるが,実はリエンジニアリング
のために改革をするのではないことは当然のことである。企業は存亡をかけた 起死回生策として経営手段の一つのリエンジニアリングを展開するのである。
企業にとって生き残りの手段として,顧客満足やコスト削減を具体化すること は不可欠であり,それを実現できるレベルのリエンジニアリングは「改革」で なくては不可能となっているのである。
そのため,改革をリエンジニアリングの条件とみるよりも,経営政策の二つ の側面(顧客満足とコスト削減)に関してなんらかの形でクリアーすることを リエンジニアリングの真の条件と理解する方が企業にとってより現実的意味が あると考える。
すなわち,リエンジニアリングとしての条件は,改善ではなく改革のレベル によって始めて企業の生き残りの道が開かれることになるという立場から,改 革を位置付けたものと考えられるのである。
(改革の内容)
ここで前にもどってリエンジニアリングと業務改革の関係について考察を進
めたい。
リエンジニアリングが改善ではなく改革のとき始めて成立するという条件を 必要とするならば,業務改革はどの範囲でリエンジニアリングと同一の内容の
ものとなるのであろうか。
業務改革は職能別組織のそれぞれの部門ごとに実行可能である。そこでは各 部門の業務を効率化したり削減したりして,部門内だけの改革か,もしくは隣 接する他の部門への影響があるときだけ部門間で調整しながらより良い状態の 業務へ改革をはかるのである。そのため業務改革が抜本的内容を含んでいると きは影響が広範囲になり全社的規模になって,部分的な改革で納めることはで きない。その意味で「改革」とよべる内容の転換をはかるのは全組織を対象と するものとならざるをえないのはリエンジニアリングと同様である。
しかし,そこである部門が変化をすると他の部門に影響があるという内容は,
実はハマーらのいうプロセスの関連があるからである。ある部門で業務を廃止 しようとしても,他の部門でそれを必要としていれば,勝手に廃止しては混乱 することになる。両者だけでその問題を解決したとしても,さらに次の部門が 関連してくる。このようにプロセスは関連部門の横のつながりを示しているこ
とがわかる。
すなわち,ある業務に関連したプロセスを中心にとりまとめたのが,ハマー
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 41
らの主張するリエンジニアリングが対象とするプロセスなのである。
各部門ごとの立場からみれば,横のつながりのある業務だけを取り出して,
別建ての組織化をされることになる。各部門ではその業務が必要・不必要に関 係なくそっくり無くなることになる。場合によっては部門の全体業務の体系の 一部として存在していても,プロセスの方に強制的に移行させられることもお こりうる。そうすると,部門は独自で存続するためには同じ業務を重複して取 り入れるか,さもなくば解体していくことになるかの選択を迫られることにな る。当然,企業はプロセスを優先させる政策を取っているわけであるから,業 務の重複はありえない。そして同時に他のプロセスに関連しても分離・独立し ていく部所があるわけであるから,部門の業務はあちらこちらと虫喰い状態に なっていくのは避けられないのである。こうして部門おける今までどうりの業 務は存続が不可能になっていくことになる。
ハマーらはその意味で,プロセスを対象としたリエンジニアリングを実行す ることは,組織を全くの根本から変革することにつながるというわけである。
すなわち,リエンジニアリングでいう改革は,部門ごとの業務を横の関連で統 一し集合させたもので,ある仕事のプロセスを分離・独立させてそれを中心に
した業務組織を作りあげることをさしていることになる。セクションごとの縦 割りの業務のうち,横のつながりのある業務を統合し独立的に活動させるもの がリエンジニアリングという業務改革なのである。
そのため,リエンジニアリングを実行するということは必然的に改革を強制 するという意味を持つことになる。リエンジニアリングは改革でなくてはなら ないとする条件が,実は業務改革として縦割り業務を横割り業務として独立さ せる結果,部分的改革はありえないという事実から条件としての意味がなくなっ ていることになる。すなわち,ハマーらは次のようにいう。リエンジニアリン グは「あらゆる種類の変革の引き金となる。職務デザイン,組織構造,マネジ メント・システムなどプロセスに関連するすべてのことが,………(中略)……
…新しくならなければならな凶溜わけである。リエンジニアリングにとって 改革は条件というよりは一体化したものととらえるべきものとなっているので
ある。
ただ注意しなくてはならないのは,ここで改革といっているのは組織原理的 に大転換を計ることからくる変革をさしているのであるが,ハマーらのいう改 革はそれだけではなく,先にあげた経営政策としての二側面(顧客満足とコス
ト削減)で劇的な成果をあげられるような内容を同時に盛り込んだ改革なので あることを忘れてはならない。
この組織的意味の改革と経営政策を実現することを同時に遂行するため,ハ マーらは全く新しい組織を創り出すことが要請されているというわけである。
すなわち,縦割りの業務をただ単に横割りの業務としただけでは政策としての 二側面をクリアーできないことは明らかである。
そこで,現代の情報技術の高度利用を前提に,縦割り業務から横割り業務へ 転換する過程で政策の二側面で成果をあげられるよう,業務のシステム内容を 抜本的に革新することをリエンジニアリングととらえそれを推進することを提 唱するわけである。
3 リエンジニアリングの組織的構造 1)組織の構成要素
リエンジニアリングを実際に行う人々を企業はどのように選択し組織するの かについて,ハマーらは次のようにいう。
組織を今までとは全く異なった方法で改革をはかるためには,それを推進す る中心になる人が非常に重要な意味を持つことになる。現在の組織はうまく機 能していないといっても,過去には大きな成果をあげることができたこともあ るのに,それを根本的に破壊し今までとは異なる新しい組織を創造する訳であ るから,それに対する抵抗や難しさは大変なものがある。しかし,それを乗り 越えて新組織を実現させることが企業の生き残りに重大な意義を持っている訳 であるから,それを実現させる中心人物はなによりも優先的に改革することを 要請されているわけである。それを担当する人がリーダーである。
(リーダーについてア柵
リエンジニアリングが成功するかどうかにあたって最も重要な位置付けがな されているのがリーダーである。
そこで,どのような立場の人がなるのか,リーダーの役割を果たす人につい て次のようにいう。リエンジニアリングは組織を根本的にひっくり返すような 局面もあり,それを実行することのできる人は経営管理者の中でも限られた人 達しかいない。トップ・マネジメントを中心に数人の重役達であろう。ハマー らによればリーダーは「組織をひっくり返し,リエンジニアリングによって起 こる混乱を人々に受け入れさせることができるような影響力をもつシニア・エ グゼクティブ(senior executive)でなければならない」泌という。
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 43
シニア・エグゼクティブは企業組織のどの地位までを範囲とするのかはあま り明確ではないが,企業の会長,社長,副社長,及び重要な意思決定ができる 立場にいる数人の重役達であろうと推定される。
ただこの経営陣の一人がリーダーとなるのは,企業全体に影響をおよぼす可 能性のあるリエンジニアリングのときであるから,企業の一部でのみ行われる ものであるならば,リーダーはもっと低いポジションの人でもよいわけである。
事業部内に限ったリエンジニアリングであれば,事業部長でもかまわないこと になる。要はリーダーとなる人が,そのプロセスを改革するにあたって必要な 権限を行使することができるかどうかということにある。だからプロセスが幾 つもの部署と関係していれば,その全ての部署に影響力をもっている組織上の 地位の高い人がリーダーとしての任にあたらねばならないのである。
その意味で,原理としては,リーダーは必要な権限を行使できる地位の人と いうことになるが,ハマーらの主張は部分的なものにとどまらず,企業を抜本 的に改革することで生き残りをはかるという立場からのものになっているため,
我々はリーダーはシニア・エグゼティブとして企業の経営陣に位置する人達を 中心に考えるべきものとした。
事実上,部分的にリエンジニアリングしようとしても,もしそれが成功して 大きな成果がでれば,他もそれを見習えということになり,他の部署にとって も無関係でありつづけることは不可能となるから,結果的に全社的なリエンジ ニアリングにならざるを得ないのである。
ここでハマーらはリーダーの資質に関連して次のようにいう。
性格としては,リエンジニアリングを実行するリーダーは「野心的で,活動 的で,知的好奇心があること」そして「情熱と熱意」を持って行動できること。
また,リーダーは「ビジョンを発信し,人々にそれに参加したいと思わせ,人々 に自ら,時には熱意をもってリエンジニアリングに伴う苦痛を受け入れさせ る」齢ことのできる人である。
またリーダーの役割については,「第一の役割は,ビジョンを追求する人と して行動し,人々を動機づけることである。目標とする組織の姿を描き,伝え ることによって,リーダーは人々に目的意識と使命感を与える」そして「リー ダーの説得と熱意によって,組織は未知への旅立ちに必要なエネルギーを得る
のである。」
さらに,実際に始めるきっかけはリーダーがおこなう。そしてリエンジニア
リングを実現させるために計画から実施までをとりしきるプロセス・オーナー を任命し,そのオーナーを通じてリエンジニアリング・チームに行動を促すこ と。そして「彼らが行動できるようにサポートすること」などがリーダーの仕 事なのである。
このようにリーダーは,リエンジニアリングの全体を統括するが,実現行動 からは離れていて援助活動及び環境に配慮する,いわばチームのバックアップ 体制の中心的役割をはたす人であるということになる。
しかし,リーダーの仕事は,リエンジニアリングが成功するかどうかにあたっ て最も重要であるというのは,企業全体に決定的なインパクトを与え続けるこ とが要求される立場にあるからである。リエンジニアリングは現在ある組織を 根本から改革することを指向するわけであるから,現状を破壊するため「ルー
ルを破れ,既存の考え方を無視しろ,枠を取り外して考えろ」泌と指示するこ とになる。またリエンジニアリングの行動をおこすことを要請された人々は,
自分達の「キャリアの中で積みhげてきたことを否定するP内容のことを実 施活動の対象とするわけであるから,「非常に理解しにくいコンセプトである」
と同時に「多くの場合,リエンジニアリングの必要性が認識されていない(ま たは認識することが拒否されている)」溜わけで,そのような人達を前向きに 行動させ続ける状況をさまざまな角度からバックアップしなくてはならない。
場合によっては「リエンジニアリングを妨害するマネジャーを外すことPlを したり「社内の『最も優秀で有能な』社員をリエンジニアリング・チームに任 命」榊したりする。そして「変化を受け入れようとしない企業文化や組織」で は組織構造自体を変化させ,「大幅な人員削減を行って」「組織が前に進む以外 選択の余地がなくなる」湘1ような環境整備を行うほど,決定的といえる意思決 定をすることもいとわない行動をとること。
また,各部門の「利益よりも複数の部門にまたがったプロセスの利益を優先 させること」や「評価報酬制度を変更したり,職種評定システムを変えるよう 人事部を説得する」灘ことが,リーダーのやるべき仕事として展開されている 内容である。
しかしながらリーダーがこのような行動をするとき,これから行うリエンジ ニアリングは企業の最優先の課題であるとする全体の強い意思が示されたもの でなくては実行不可能なことである。それゆえ,そのようなことをしてまで実 現をはかるリエンジニアリングにあっては,リーダーが個人の権限・責任のお
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 45
よぶ範囲で活動すれば十分であるといった内容のものではありえないことがわ
かる。
すなわちリエンジニアリングにあっては,リーダーとして行動を起こすには 個人としてのみでは不可能で,発案は個人であっても,実行に移すときには,
少なくとも経営陣の意思の統一がなくては成立しがたいものと考えざるをえな い。少しでも反対の立場の人が経営陣にいれば,実際に活動する下位の人達は 強力なバックアップ体制がえられないことになるため,現状破壊を含めた徹底 的な立場からのリエンジニアリングを計ることは不可能なことになるわけであ
る。
ゆえに,リーダーは個人としてリーダーシップをとることは当然なことなが ら,そこには経営陣の…致団結した強力なバックアップ体制が不可欠なもので あると言わざるをえないのである。
(プロセス・オーナーについて)柵
これはリエンジニアリングを実際に実行に移す直接の責任者として存在する。
ある特定のプロセスをまかされ,その最高責任者として,そのプロセスに関し てリエンジニアリングを起こすことになる。通常,ラインにあってはシニア・
マネジャー融をしている人が,プロセス・オーナーになる。
リーダーとの職務の相違は,リーダーが大きな規模でリエンジニアリングを , Nこすのに対して,プロセス・オーナーは個別のプロセスでリエンジニアリン
グを起こすところにある。
オーナーは担当のプロセスをリーダーによって明らかにされた後に任命され る。「仕事は実際にリエンジニアリングを行うことではなく,リエンジニアリ ングが行われるのを見届けることにある。」そのためにオーナーはリエンジニ アリング・チームを作り,チームが行動しやすいような環境を整えて,チーム の必要とする資源を調達し,他の組織と折衝したり,プロセスに関係する他の 職能組織のマネジャーの協力を得られるように行動する。そして,チームのメ ンバーを動機付け,励まし,助言をあたえる。同時にチームの批評家,広報担 当者,監視者,連絡者としても機能する。外部からの反対や敵対的行動に対処
したりするのもオーナーの仕事である。
そして,プロセス・オーナーはそのプロセスがリエンジニアリングされてチー ムが解散されても,改革なったプロセスのオーナーとしてあり続けるのである。
それは「プロセス志向の企業では,職能や地域でなくプロセスが企業の組織構
造を形成するので,プロセスには引きつづきプロセス・オーナーが必要なので ある」榔というわけである。
(リエンジニアリング・チームについて)鵬
リエンジニアリングを実際におこない事業を再構築するのはリエンジニアリ ング・チームである。アイディアを出し,計画し,実行に移すわけである。企 業内で改革を志向するプロセスが幾つかあれば,それぞれにチームが形成され
ることになる。人数としては,チームとして機能するために5人〜10人の少人 数で形成される。そして,チームの内部構成としては,プロセスに関連して仕 事の内容をくわしく知っているインサイダーの人と,そのプロセスを抜本的に 変革するのに貢献するであろうアウトサイダーの2種類の入間が参加すること になる。インサイダーはそのプロセスに密接に関連した企業内の人達であるが,
アウトサイダーは改革に重点をおいた人選であるためプロセスとは無関係の企 業内の人か,もしくは完全に企業外からの参加者となる。
そうした人達のチームとしての活動は,会社全体の利益のために経営政策の 2側面に貢献するようにプロセスの改革をはかることである。
なんのために,どのような方向でといった大きな目標などの枠組みはリーダー およびオーナーの指示により決められており,チームとしての仕事はオーナー を通じて指定してきたプロジェクトを実現させることである。その意味でリエ ンジニアリング・チームはプロジェクト・チームと同一の性格を有した集団と 理解すべきものである。
リエンジニアリング・チームの仕事の中には,プロセスを全く異質なものに 転換するケースもあるため,新システムを実現させる情報などの専門家の援助 が必要なときもある。そういったシステムの設計や新しいシステムを社内の他 の人々に説明したりする広報などの特定の分野をサポートするスペシャリスト の人達も,一時的にではあるが参加することもあるため,チームの周辺部に配 置されることになる。
(その他の機構)37
以上のリーダー,オーナー,チームがリエンジニアリングを実行するのに軸 となる人々であるが,ハマーらはそれを援助・補強するものにステアリング・
コミティーとリエンジニアリング・ッアーの二つの機構を配置することを提案 している。
ステアリング・コミティーは必ずしもなくてはならないものではないとしな
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 47
がらも,大規模なリエンジニアリングを成功させるのに大きな役割を果たすと
、「っ。ステアリング・コミティーはシニア・マネジャーの集まりで,会社全体 のリエンジニアリング戦略を立案することや,相互のリエンジニアリング・プ ロジェクトを調整したり,優先順位をつけるなど,リーダーの指導のもとで,
個・々のプロセスで解決できない問題が起きた場合にここで討議されるのである。
リエンジニアリング・ッアーは,組織全体をまとめるリーダーの仕事をサポー トするスタッフのチーフである。リーダーは全体に対する適切な認識をもって いるであろうが,リエンジニアリングに関して日々管理するには忙しすぎるの で強力なサポートが必要となるわけである。リエンジニアリング・ッアーはリー ダーの意を受け,プロセス・オーナーとリエンジニアリング・チームを直接的 にサポートし,同時にすべての進行中のリエンジニアリング活動を調整するこ とがその機能として求められている。
ただ気をつけなくてはならないのは,リエンジニアリング・ツアーの仕事は リーダーの考えている内容を具体化する時にオーナーやチームの指導をするの であって,あくまでもリーダーのしっかりした考え方を前提にしたリエンジニ アリングであるという事実である。
だから,仕事を始めるにあたってオーナーの何をしたらよいのかの質問に対 する助言とか,チームの人選にあたって人員の推薦や援助をするのがツアーの 仕事で,出すぎないことが求められているのである。他の組織ではスタッフの 仕事は,研究した内容をリーダーに伝え,具体化するときもスタッフの考えた ことを実行に移すといったことは有りうるのであるが,リエンジニアリングに あってはそれとは全く異なる展開であることを理解しなくてはならない。リエ ンジニアリング・ッアーの仕事はあくまでも,リーダーが考えた内容をオーナー やチームが理解できるようにするのと,リエンジニアリングを実行する時の援 助活動なのである。
以上がリエンジニアリングの参加者である。すなわち,新組織を創るのに積 極的に関与することを求められている人達で,リエンジニアリングを実現させ るための主たる構戒員なのである。
2) プロジェクト・チームの2層構造
リエンジニアリングを実現するための実働部隊であるリエンジニアリング・
チームは,実質的にプロジェクト・チームそのものである。しかし、プロジェ クト・チームといわないでリエンジニアリング・チームと特別に呼称している のは理由がある。ハマーらはリエンジニアリング・チームはプロジェクト・チー ムと違うのだというメッセージをそこに込めているとみるべきなのである。す なわち、プロジェクト・チームと同様の展開がリエンジニアリング・チームに あったとしても、プロジェクト・チームには無いものがリエンジニアリングに はあるのだという強い主張がそこにはあると考える。
プロジェクト・チームはプロジェクトが終われば解散するのに対して、リエ ンジニアリングの場合は個々のリエンジニアリング・チームは解散してもリエ ンジニアリングそのものは継続しているという点で大きな相違がある。すなわ ち、チームの成立から解散までは両者は同一の展開をするのであるが、組織の 基本的姿勢としての背景が違うのである。そして、この違いがリエンジニアリ ングの恒久的システムとしての性格を特徴づけている基礎になっているのであ
る。
ところでリエンジニアリングでは、組織は常にリエンジニアリングの方向で 意識的な行動が存在していなくてはならないとする。ハマーらはそうした意識 的な行動を組織の経営陣がしなくてはならないことと主張する。「リエンジニ アリングは会社の一番の課題に挙げなければうまくいかない。経営陣の注意と 熱意がさまざまな試みやプログラムに分散して,リエンジニアリングもその一 つにすぎないのなら,リエンジニアリングを行うのに十分な注意を引き付ける ことはできないであろう。経営陣の絶え間ない関心がなければ,反抗と慣性一 いつも行ってきたことを続けていきたいという人や組織のもつ自然な傾向一一 が,努力を台無しにしてしまう。経営陣がリエンジニアリングに関与し,集中 し,常に強い関心を払っていることがわかってはじめて、人々はリエンジニア リングは避けられないということをしかたなく受け入れるのである。」㈱
また,経営陣のだれでもがリーダーになれるわけではない。「シニア・マネ ジメントのリーダーシップはリエンジニアリングを成功させるには必要不可欠 である」が「プロセス志向のシニア・エクゼクティブだけが,リエンジニアリ ングをリードすることができる」†39とする。しかしながら,リーダーにはなれ なくても,経営陣はリーダーになった人達のバックアップをしなくてはならな いのはいうまでもない。「リエンジニアリングはシニア・マネジャーの直接的 で個人的な参加」注4°によって成立するが,「シニア・マネジメント・チームは,
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会社がとりかかっているすべてのリエンジニアリング・プロジェクトの活動を 指導し,監視する努力を普段から行わなければならない」41とする。
それ以外にも,経営陣のしなくてはならないことに,新しいプロセスを構築 するにあたって必要な新しい価値観や信念を支援すること。そして,それを語 るだけでなく,自らの行動によってそれに対する真剣な取り組みを実践してい かなければならないこと。さらに,長期的な視点に立ってビジョンを拡大する こと。リエンジニアリングを実現するために発生するさまざまな障害を前もっ て予測し,打ち破ることなど,経営陣の責任として行動することを要求してい るのである評2
このように,ハマーらは企業の上層に位置している人達はリエンジニアリン グに対して強い共感を持ち続けることが重要であると主張しているが,それら の人々がチームとして行動すべきであるということを明言しているわけではな
いo
しかし,現場のリエンジニアリング・チームが成功するためには,その方向 性と組織風土を作り続ける経営人が不可欠であって,全社一丸となって行動し て始めて可能となるわけである。それで,トップ・マネジメントに属する人達 の意思統一と不断の実行を確実にかつ長期に保証するためには,事実上の常設 されたチームとしての体制が存在している必要がある。すなわち,経営陣がリ エンジニアリングを成功させるために共通の強い決意を持って意識的に同一基 盤の上で行動するというのは,それ自体チーム化していないと不可能であるか
らである。
我々は,所属している人達の中にチームとしての意識は低くても,その実態 からチームと同等の働きをしているグループはチームとして捉えるべきである ということ。そして,そのチームはリエンジニアリングという明確な追求課題 を持っていることからプロジェクト・チームとしての性格を帯びているという ことを指摘しておきたい。
以上の理由から,ハマーらは,リエンジニアリングの実現のためのバックアッ プ体制を取り続けるために経営陣がチーム化した状態で行動するよう主張して いるものと我々は捉えざるを得ないのである。
その結果,リエンジニアリングを追求する企業には,一定期間もしくは短期 間で目的を実現したら解散するチームと,目的のために常にバックアップ体制 を取り続ける常設のチームの2種類の性格のチームが存在するということにな
る。しかも,それはプロジェクト・チームとして2層化した状態になっている わけである。
(付記)
経営陣のチームに対して「プロジェクト・チームの性格を帯びている」という表現 を使ったが,本文の条件だけでは不十分であると言える。しかし,現実の企業のおか れた状況からここでその表現を使うことになる理由について記しておきたい。
プロジェクト・チームは①何をするのか決まった課題がある,②その課題を実現す るのに必要な小人数の専門家でチームをつくる,③チームはその目的実現のためだけ のチームで他の業務活動はしなくて良い,といった特徴をもっている。
プロジェクト・チーム活動は,目的的行動であるため,1人ひとりの課一題を達成す る意欲とチームへの参加意識は自主的で積極的である。課題実現にむけて達成動機が 高まれば,チームとしてのエネルギーは驚くほど大きなものになる。
ところで,ハマーらの主張を検討してみると,経営陣に対する要求は強く激しいも のがある。経営陣は全員が「全力をリエンジニアリングに傾倒しろ」「経営の総力を 結集しろ1「常にリエンジニアリングである姿勢を回りに示し,環境を作れ」「リエン
ジニアリングを最優先課題にしろ」「本気でリエンジニアリングに立ち向かっている ことを皆に示せ」等々である。
この強力な主張の理由について考えてみたい。
この主張は,リエンジニアリングを実施し成功している企業の経営陣が実際におこ なっていた姿勢であったということを我々にかいま見せるものである。逆にいえば,
それ程,企業は経済的に厳しい状況の中におかれていたことを示しているといえる。
企業の経済環境が劣悪でどうにもならないところまで追い詰められた経営者達がリス トラを行ったのちで,最後の対策で一番困難なリエンジニアリングをせざるを得ない 絶対絶命の立場に立ったわけである。
その時の経営陣がおこなった行動を表現したのが,先の要求の内容となったもので ある。経営陣(トップ・グループ)の全員が,リエンジニアリングを最優先で最重要 な課題と認識し,どんなことをしてもリエンジニアリングを推進し成功させるといっ た意気込みで,絶対にやりとげると思い詰めた行動,経営陣全体に張り詰めた,真剣 な姿勢がそこにはあったに違いない。このような経営陣のエネルギーがあって始めて 成功したものであるといえる。
この時の経営陣のチームとしてのエネルギーを,これからリエンジニアリングを実
井島:組織的視点よりみたリエンジニアリング 51
行しようとする経営陣に再現させるために要求した内容はプロジェクト・チームその ものであると判断した。なぜなら,経営陣は追い詰められてその時点において①リエ ンジニアリングを最優先の課題として②それぞれが専門家の立場からチームを形成し
③他のことは二の次にしてその目的のためだけに全力をあげるという状態が,プロジェ クト・チームの特徴と一致しているのがその理由である。
4 リエンジニアリングの組織概念とその限界 1)組織とプロセス
ハマーらはリエンジニアリングを導入して組織の再活性化をはかることを強 く提唱する。世界の環境の変化に伴い,企業は長い不況と激しい経済競争にま きこまれ,経済的立直りを策してもなかなか思うようにはいかない状況が続い た。その原因の一つとして,3Cと呼ぶ環境の変化に,今までの組織原理によ る企業では対応が不可能となっている現実を企業が気づいていないからである とした。そこで,その組織原理を捨てて新しい方法であるリエンジニアリング をすれば,3Cに対応できる組織が再構築できると主張するのである。
現在の企業はその古い組織原理から自由になることができずにいるため,そ の原理を破壊することから始めることになる。
ハマーらは,古い組織原理とはアダム・スミスの分業論に端を発した職能的 分業化の理論をさしている。熟練労働者による複雑な作業を細分化して単純作 業の連続にし,それぞれが専門化した方が全体の効率が飛躍的に増大するとい
う考え方を基本にした組織体系である。
この理論体系による組織は作れば売れた時代には企業は対応できたが,現在 のように売れない時代には不適当な組織原理であるというわけである。この職 能別組織原理を根本的に捨て去るために新しい方法を導入すべきであるとする。
それがプロセスを軸にした改革である。そこではプロセスを単位とした集合 体を想定した組織が構築されているように理解される。各プロセスにはオーナー がついていて,その責任の下でプロセスが改革され,運営されていくことになっ ている。リエンジニアリングとは,この「プロセスを軸に業務改革すること」
をさしているものと理解した。そして古い組織原理による職能別組織からプロ セスだけをとり出して改革するだけでなく,新組織になったプロセス自体もさ らなる改革の下におかれているのである。リエンジニアリングはどのような状 況下にあっても常に環境に適合した改革をする対象としてプロセスをとらえて