ELISPOT 法による結核の診断および治療経過の 評価法としての可能性
横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学
村上 修司 岳野 光洋 小林 正芳 工藤 誠 綿貫 祐司 金子 猛 石ヶ坪良明
(平成 20 年 6 月 10 日受付)
(平成 21 年 3 月 2 日受理)
Key words : Mycobacterium Tuberculosis, Tuberculin skin test(TST), Enzyme-linked immunospot(ELISPOT)
要 旨
ELISPOT 法により結核菌特異的 IFN-γ を検出する方法は免疫学的結核診断法として期待されている.わ れわれは ELISPOT 法による結核診断の有用性と,治療奏効症例における抗原特異的反応の経過を検討した.
対象は健康若年者,臨床的に結核感染を診断された患者で,ELISPOT 法により各々刺激抗原 PPD,ESAT-6,
CFP-10 特異的 IFN-γ 産生細胞数を測定した.その結果,① ELISPOT 法により検出された PPD 特異的 IFN- γ 産生細胞数およびツベルクリン反応の結果は有意に相関した.② 94% の結核患者で ESAT-6 もしくは CFP-10 のいずれかが陽性であった.③良好な治療経過を示した結核患者では経過中に ESAT-6 特異的 IFN- γ 産生細胞数は減少した.
以上より,ELISPOT 法は有効な結核感染の免疫学的診断方法であり,抗結核療法の奏功の有無を評価で きる手法としても期待された.
〔感染症誌 83:229〜235,2009〕
序 文
結核は全世界で新規登録患者が年間 880 万人にのぼ り,いまだに世界の人々の健康を脅かす最大の感染症 である
1).2006 年の日本における結核新規登録患者数 は人口 10 万人対 20.6 と減少傾向にあるものの,先進 諸国の中では依然として高い状況にある
2).
標準的な結核の診断は問診や理学所見に続いて胸部 X 線写真および,抗酸菌塗抹,培養,核酸増幅法によ る Mycobacterium tuberculosis(MTB)を検出するこ とによる.結核菌塗抹検査は重要であるが,喀痰塗抹 陽性肺結核罹患率は人口 10 万対 8.2(肺結核患者の 50.3%)と,その感度が低いため診断に苦慮する患者 も多い
2).塗抹陽性率は,喀痰培養陽性肺結核の 40〜
70% であるとの報告もある
3).肺外結核では MTB の 証明はさらに困難である.
補助診断法としてのツベルクリン反応(ツ反)は,
診断感度は優れているものの,その特異度については 議論のあるところである.ツ反で用いられている puri- fied protein derivative(PPD)は,Bacillus Calmette- Gu rin(BCG)や非結核性抗酸菌の抗原と高い類似 性を持ち,BCG もしくは非結核性抗酸菌感染による ツ反の陽性を結核感染と鑑別することが極めて困難な 場合も多い
4).さらにわが国では BCG を接種してお りツ反の陽性が BCG によるものか,結核感染による ものかの判定は困難である.
しかし,近年 BCG もしくは非結核性抗酸菌と交叉 反応を示さない結核菌特異的抗原である early secre- tory antigenic target-6(ESAT-6)と culture filtrate protein-10(CFP-10)を抗原として抗原特異的 T 細胞 から放出される interferon(IFN)― γ を測定する免疫 学的診断法として QuantiFERON TB-2G(Cellesits 社,
以下 QFT と略)と T-SPOT.TB(Oxford Immunotec)
が開発された
5)〜8).2 つの方法は共に肺結核の診断に おいて高い特異度があると報告され,すでに臨床応用 されている.日本でも QFT は保険収載されているが,
原 著
別刷請求先:(〒236―0004)横浜市金沢区福浦 3―9 横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内
科学 石ヶ坪良明
未だカットオフ値については議論の余地がある.最近 の 報 告 で は 免 疫 抑 制 患 者 や 高 齢 者 に お い て は T- SPOT.TB の感度が優れているとされている
6)8)9).本 論文では T-SPOT.TB で使用されている ELISPOT 法 により研究室レベルで T-SPOT.TB を再現し,臨床的 に結核と診断された患者に応用し,その有用性を確認 した.また T-SPOT.TB での推奨されている Cut-off 値の妥当性と日本における至適 Cut-off 値を検討した.
対象と方法
1.対象
2005 年 4 月から 2007 年 3 月までの間に,横浜市立 大学附属病院および神奈川県立呼吸器病センターに て,細菌学的に結核の診断がなされた 35 例(女性 11 例,男性 24 例,平均年齢 59.1±16.5 歳)の結核感染 症の患者および健康対照群として横浜市立大学の 43 名の健康な学生とを対象とした.また至適 Cut-off 値 の検討においては 52 例の結核の治療歴の無い非結核 中高年齢者(平均年齢 53.8±10.8 歳)を対象とした.
本研究は横浜市立大学附属病院の倫理委員会で承認を 受け,これらの対象者から文書で同意を得た.
2.ツベルクリン反応
ツベルクリン反応は PPD(Purified protein deriva- tive)(日本ビーシージー,東京)液 0.1mL を前腕屈 側部に皮内注射し,注射後 48 時間に局所の反応によ り判定を行った.判定は結核予防法施行規則第 2 条
(2005 年に廃止)に従い,発赤長径が 0〜9mm を陰性
(−),10mm 以上を陽性とし,陽性の中で発赤のみの ものを弱陽性(+),硬結を伴うものを中等度陽性
(++),二重発赤や水疱,潰瘍,出血などを伴うもの を強陽性(+++)とした
10).
3.ELISPOT 法
Mycobacterium tuberculosis(MTB)特異的蛋白であ る ESAT-6,CFP-10 および非特異的蛋白である PPD を抗原とし,対象患者より得られた末梢血単核細胞
(PBMC)中の抗原特異的 T 細胞から産生される IFN-γ を ELISPOT 法により検出した
11)12).以下,方法につ いて略述する.検体はヘパリン管を用いて採血後,6 時間以内にフィコール遠心法による PBMC の分離を 行い保存用チューブに分注した後,測定まで−80℃
にて凍結保存した.当院で入院時の抗酸菌塗沫検査で 陽性で,なおかつ 2 度目の採血の同意が得られた 9 名 の患者については,抗酸菌塗沫陽性時と陰性時にそれ ぞれ採血した.また,1 例の治療抵抗症例において 2 度目の採血を行った.その他の症例では 1 回のみの採 血を行った.凍結保存された検体を解凍後,円底ラウ ンドチューブ内で 10% ウシ胎児血清(FCS)を含む RPMI 1640 培養液で一定細胞数(10
5cell ! well)に調 節し PPD(5µg! mL),ESAT-6(5µg! mL)および CFP-
10(5µg! mL)を添加し 37℃,5% 炭酸ガス加湿下で 2 時 間 培 養.そ の 後 2.5 µ g ! mL の 抗 ヒ ト IFN- γ 抗 体
(MABTECH AB,Sweden)を コ ー テ ィ ン グ し た polyvinylidene fluoride(PVDF)膜等で底を覆った 96 穴培養プレート(Millipore,Bedford,IP)に移し変 え,さらに 37℃,5% 炭酸ガス加湿下で 16 時間培養 する.洗浄により細胞除去した後,0.67 µ g ! mL のビ オチン化 IFN-γ 抗体(MABTECH AB)を添加.さ らに洗浄後,ALP 標識ストレプトアビジン(Vector,
Burlingame,CA)を添加.結核感染者のリンパ球か ら分泌された IFN- γ は分泌細胞周囲の PVDF 膜上の 抗ヒト IFN-γ 抗体と結合し,酵素基質(BCIP! NBT
(Kirkegaard and Perry,Gaithersburg,MD))によ り抗原特異的 T 細胞より産生された IFN-γ を可視化 する.IFN- γ 産生細胞数は ELISPOT リーダー(Carl Zeiss,Aalen-Oberkochen,Germany)お よ び KS ELISPOT ソフトウエアにより解析され,結核感染を 診断した.
4.統計処理
有意差検定には Mann-Whitney U 検定および t 検 定を用いた.P 値が 0.05 未満を有意とした.Receiver operating characteristic(ROC)曲線を用い,ESAT-6 および CFP-10 特異的 IFN-γ 陽性細胞数の結核感染の 診断における Cut-off 値,Cut-off 値における感度・特 異度,曲線によって下方に囲まれる面積 area under the curve(AUC)を算出し,ELISPOT 法の有用性 について検討した.
結 果
1.患者背景
対象となった結核患者 35 人中男性が 24 人,女性が 11 人と男性が多かった.平均年齢は 59.1±16.5 歳で あった.入院時の血清 Alb(g! dL)は 3.4±0.7 であっ た.リ ン パ 球 数(! mL)は 1,230±701 で,CD4 陽 性 リンパ球数( ! mL)は 474±380 で低下している者が 多かった.HIV 感染症でフォローアップ中の患者は 2 例であったが,入院時に CD4 陽性リンパ数に低下が 認められた患者に対して HIV 抗体検査施行し,さら に 2 例の HIV 陽性が確認され,合わせた 4 例が HIV 陽性であった(Table 1).対象となった非結核中高年 齢者の平均年齢は 53.8±10.8 歳で,結核患者の平均年 齢と有意な差を認めなかった.
2.健 常 人 お よ び 結 核 患 者 に お け る PPD 特 異 的 IFN- γ 産生細胞数
健常人 43 人に対して行われたツベルクリン反応で,
4 人が陰性,弱陽性が 5 人,中等度陽性が 13 人,強
陽性が 21 人と判定された.一方 ELISPOT 法により
検出された PPD 特異的 IFN- γ 産生細胞数は,ツ反陰
性者,弱陽性者,中等度陽性者,強陽性者でそれぞれ,
Fig. 1 Relationship between tuberculin skin test(TST)resultsand frequency ofpurified protein derivative (PPD) specific interferon- gamma (IFN-γ) secreting cells in peripheral mononuclearcells(PBMC).The frequency of IFN-γ secreting cells in PBMC stimulated with PPD was determined by the enzyme- linked immunospot assay (ELISPOT). The number of antigen-specific IFN-γ secreting cells was calculated by subtracting back- ground counts. Relationship between TST magnitude and numberofPPD-specificIFN- γsecreting cellsin bacillide Calmette-Guérin (BCG)healthy vaccinated individuals(n= 43) and patientswith tuberculosis(TB)(n= 35). Healthy individuals were further classified into 4 categories by the Japan national guideline:negative (- ):< 10 mm oferythema (n= 4),weakly positive (+ ):> 10 mm ofery- thema (n= 5),moderately positive (+ + ):> 10 mm oferythema with iduration (n= 13), strongly positive (+ + + ): > 10 mm of ery- thema with double rednessand bleb (n= 21).
*= p< 0.0001,**= p< 0.001,***= p< 0.01 determined by the Mann-Whitney U test.
Fig. 2 Receiveroperating characteristic(ROC) curves of early secretory antigen target 6 (ESAT-6)and culture filtrate protein 10 (CFP- 10) specific interferon-gamma (IFN-γ) secret- ing cellsdetermined by the ELISPOT forTB detection.
Table 1 Profiles of participants with Tuberculosis
No.(% oftotal) 35 Total
59.1±16.5 Mean age±SD (years)
Gender
(68.6) 24 Male
(31.4) 11 Female
Pre-existing condition
(31.4) 11 Age> 70
(20) 7 Cancer
(20) 7 Diabetes
(11.4) 4 HIV infection
(2.9) 1 Hemodialysis
10
5PBMC 対 2.6±1.8 spot,5.7±1.6 spot,10.4±6.5 spot,15.1±10.7 spot とツ反の判定と一致して増加を 認めた(Fig. 1).さらに,結核患者における PPD 特 異的 IFN-γ 産生細胞数は明らかに,ツ反強陽性健常人 よりも高値であった(平均 45 vs 15 spot ! 10
5PBMC,
p=0.0059).しかし,ツ反による判定と同じく PPD 特異的 IFN-γ 産生細胞数では BCG 接種による反応と 結核感染による反応を明確に区別することは困難で あった.
3.ELISPOT 法の感度と特異度
結核患者における ESAT-6 特異的 IFN-γ 産生細胞 数は平均 21.7±35.2 spot! 10
5PBMC で,CFP-10 特異 的 IFN-γ 産生細胞数は平均 32.6±43.0 spot! 10
5PBMC と,ESAT-6 特異的細胞数よりも CFP-10 特異的細胞 数の方が高値であった.非結核中高年齢者の平均陽性 細胞数は ESAT-6,CFP-10 でそれぞれ 1.4,2.4 spot!
10
5PBMC であった.ELISPOT 法による結核感染患
者と非結核高中齢者を鑑別するため,至適 Cut-off 値
を ROC 曲線により解析した.ROC 曲線より得られた
AUC は,ESAT-6,CFP-10 で そ れ ぞ れ 0.888,0.857
であった(Fig. 2).それぞれの Cut-off 値は,ESAT-6
特異的 IFN-γ 産生細胞数が 5 spot! 10
5PBMC とした
時,感度 77.1% で特異度 88.5% となり,CFP-10 特異
的 IFN- γ 産生細胞数が 8 spot ! 10
5PBMC とした時,感
度 71.4% で特異度 92.2% であった.またいずれか一
方の陽性を検査陽性とした場合は,ESAT-6 特異的
IFN-γ 産生細胞数が 5 spot! 10
5PBMC,CFP-10 特異
的 IFN- γ 産生細胞数が 10 spot ! 10
5PBMC が至適 Cut-
off 値となり,感度は 94%(33! 35),特異度は 85%(44!
Fig. 3 Frequency ofESAT-6 and CFP-10-specificinterferon-gamma (IFN-γ)secreting cellsdetermined by ELISPOT in PBMC from students,patientswith active tuberculosislesionsand middle-aged individuals withoutTB.
Fig. 4 Frequency of Mycobacterium tuberculosis-antigen-specific IFN-γ secreting cells before and after treatmentin 9 patientswith TB
52)であった.非結核中高年齢者において 15% で陽 性者が認められた.T-SPOT.TB における推奨 Cut-off 値は ESAT-6,CFP-10 ともに 5 spot ! 2.5×10
5PBMC となっている.この Cut-off 値とした時の陽性 率 は 100%(35! 35)であったが,非結核中高年齢者での陰 性率は 55%(28! 52)と低値であった(Fig. 3).細菌 学的に結核と診断された患者のうち,2 例において偽 陰性の結果であった.1 例目は 92 歳のリウマチ性多 発筋痛症を基礎疾患に持ちステロイド内服薬による治 療を受けていた.CD4 陽性リンパ球数が 196(! mL)
と低下し,血清 Alb は 3.3(g! dL)とやや低下が認め られた.2 例目は 70 歳のシェーグレン症候群を基礎 疾患に持ち,CD4 陽性リンパ球数が 389(! mL)と低 下していたが,血清 Alb は 4.0(g! dL)で低下を認め なかった.一方,健常若年者では ESAT-6,CFP-10 特異的細胞数は 0.4,0.9 spot ! 10
5PBMC でああり,
我々が設定した Cut-off 値において陽性者は認められ
なかった.
4.結核治療と抗原特異的 IFN-γ 産生細胞数の推移 当院に入院した結核患者のうち初回採血時に喀痰検 査で抗酸菌塗沫陽性が確認され,治療奏効後の採血の 同意が得られた 9 例を対象に,治療早期および治療奏 功 後 に 結 核 特 異 抗 原 を 用 い た ELISPOT 法 に よ り IFN- γ 産生細胞数の動向について検討した(Fig. 4).
治療開始後から初回採血日までの期間は 0〜21(平均 9.2±6.6)日,初回採血時から 2 度目の採血までの期 間は 20〜138(平均 54.9±31.9)日であっ た.PPD,
ESAT-6 および CFP-10 に対する IFN-γ 産生細胞数を 比較すると,ESAT-6 において初回採血時に比較して 治療後の抗原特異的 IFN-γ 産生細胞数の低下を認めた
(平均 20.1±15.6 vs 7.5±8.5 spot! 10
5PBMC,p=
0.022).PPD および CFP-10 においても統計学的な有
意差は認められなかったが,治療前後の平均値は低下
傾向が認められた(各々平均 42.3 vs 22.5,54.4 vs 20.9
Fig. 5 CRP and circulating lymphocyte countbe fore and aftertreatmentin 9 patientswith TB.
spot! 10
5PBMC)(各々 p=0.068,p=0.072).臨床検 査項目については,CRP やリンパ球数は治療開始時 と治療奏効時では統計学的な差を認めなかった(各々 平均 4.2±5.8 vs 1.38±1.2mg ! dL,844±420 vs 1019±
424 ! µ L)(各 々 p=0.18,p=0.39)(Fig. 5).一 方 で,
非薬剤耐性結核ではあるが 61 日目での抗酸菌塗抹検 査 3+と治療抵抗性症例においては,治療開始時の PPD,ESAT-6,CFP-10 抗 原 特 異 的 IFN-γ 産 生 細 胞 数よりも,61 日目での抗原特異的 IFN- γ 産生細胞数 が全ての抗原において増加した(各々 53 vs 100,4 vs 10,16 vs 78 spot! 10
5PBMC).また,治療開始後 890 日を経過し抗結核治療を継続していた多剤耐性結核患 者(isoniazid ; R,rifampicin ; R,streptomycin ; R,
ethambutol ; R,ethionamide ; R,levofloxacin ; R)に おいては,喀痰検査での抗酸菌塗沫は陰性であったが,
ELISPOT 法では PPD,および CFP-10 特 異 的 IFN-γ 産 生 細 胞 数 は 高 値 で(各 々 41 spot,35 spot! 10
5PBMC),ESAT-6 特異的 IFN- γ 産生細胞数は 6 spot ! 10
5PBMC であった.
考 察
結核の免疫学的診断法としてはツベルクリン反応が 最も一般的だが,日本では BCG 接種が施行されてお り,PPD と BCG の抗原性が類似しているため,ツ反 の特異度には問題がある
4).またツベルクリンの注射 や皮膚反応の測定技術に差があると,結果の差につな がる可能性がある
13).
ツ反と異なり,QFT および T-SPOT.TB は BCG 接 種や非結核性抗酸菌に影響を受けることなく,結核感 染を高い感度で検出できる免疫学的方法として期待さ れている
6)8).なかでも T-SPOT.TB は 抗 原 特 異 的 T 細胞より産生される IFN-γ 量が微量であっても,また IFN- γ 産生細胞が少数であっても検出可能なため,そ の感度は QFT より高いとする報告が多く,細胞性免 疫が低下傾向にあり,QFT で診断困難な状態(免疫 抑制剤使用者や AIDS 患者等)での結核感染診断に期 待されている
6)14)15).この T-SPOT.TB は,英国 Oxford Immunotec により開発され主にヨーロッパ各国で使
用されているが,現在日本では診断試薬として認可さ れていないが,文献的に結核感染の診断に関する感度 は 96%,特異度は 100% と報告されている
8).今回わ れわれは,T-SPOT.TB で用いられている ELISPOT 法により,その有用性及び,推奨されている Cut-off 値の日本における妥当性と至適 Cut-off 値,結核治療 による反応性の変化を検討した.
ELISPOT 法による陽性結果のみでは活動性結核と 潜在性結核を鑑別できず,理学所見や検査所見と合せ て診断する必要がある.潜在性結核者が多いと予想さ れる日本においては,T-SPOT.TB で推奨されている Cut-off 値では陽性になる非活動性結核高齢者が多く みられる可能性があり,活動性結核患者を鑑別するの が困難でると考えられる.そのため,推奨よりも Cut- off 値を高く設定し,独自の Cut-off 値が必要であると 考えられる.対象とした 35 例の結核患者には HIV 感 染患者 4(例),悪性腫瘍 7(例),糖尿病 7(例),透 析患者 1(例)と免疫抑制状態にある患者も多く含ま れていたが,われわれの行った ELISPOT 法による Cut-off 値での結核の診断の感度は 94% で,報告され ている感度と同等の良好な結果を確認できた.末梢血 CD4 100! µL 未満の 2 例を含む,結核合併 HIV 感染 患者でも 4 例全例で陽性であった.一方,今回の検討 において結核患者 2 例が偽陰性となった.本症例での 結核抗原特異的反応の低下の原因は特定できなかっ た.本アッセイ系では BCG 接種の影響を除外するた め,および非結核性抗酸菌症との交差反応を回避する ために ESTA-6 と CFP-10 ペプチドを用いているの で,被験者の免疫状態だけでなく HLA phenotype の 影響を受けることも報告されている
16).また,我々が 設定した Cut-off 値において,健康若年者の陽性者は 認められず陰性率は 100% であった.T-SPOT.TB で 特異度が 100% と報告されているのと同様の結果で あった
6)8).T-SPOT.TB による特異度は 100% である ことから,非結核中高年者に認められた 15% の陽性 者は潜在性結核の可能性を考慮する必要がある.
健常人における PPD 特異的 IFN-γ 産生細胞数は予 想されたとおり,ツ反の判定結果と相関してその細胞 数の増加を認めた.また,結核患者では PPD 特異的 IFN-γ 産生細胞数は優位に高値であったものの,Cut- off 値を決めることは困難であった.このことはツ反 によって BCG 接種者と結核感染者を明確に区別でき ないことと同様の結果で,PPD による結核の特異的 診断は ELISPOT 法でも困難であった.
また,治療経過の評価法としての有用性を評価する
ため,治療開始 1 カ月未満に初回採血がされ,細菌学
的に結核と診断された 9 人で治療による抗原特異的
IFN-γ 産生細胞数の推移を検討した.培養が陰性で
あった時点における ESAT-6 特異的 IFN-γ 産生細胞 数は,陽性の時の細胞数と比較して明らかに低下が見 られた.PPD,CFP-10 においても,統計学的有意差 は認められなかったが,同様の傾向が認められた.臨 床検査所見ではリンパ球数には有意差は見られなかっ たものの,治療奏効時においてわずかに増加傾向が見 られた.治療経過により IFN- γ 産生細胞数の減少傾向 が認められたことよりリンパ球数の増加は ELISPOT 法に影響をあたえないと考えられる.
Gambia で行われた治療開始時と開始後 1 年後での 結核抗原特異的 IFN- γ を比較した試験においても,多 くの症例において明らかに IFN-γ 産生細胞数が減少し たと報告されている
17).逆に,今回の治療抵抗性を示 す症例においては,抗原特異的 IFN-γ 産生細胞数が治 療開始時よりも増加するという結果が認められた.
これらの報告や自験例の結果から抗原特異的 IFN- γ 産生細胞数が治療効果の指標となる可能性がある.ち なみに,治療後,890 日を経過しても臨床的に改善が 乏しい症例の抗原特異的 IFN-γ 産生細胞数は,高値の まま推移しており,ELISPOT 法の結果は,結核診断 のみならず,治療効果の判定にも有用であると考える.
以上,結核特異抗原を用いた ELISPOT 法の有用性 について報告した.すなわち,結核特異抗原を用いた ELISPOT 法は結核感染の診断においてツ反と比較す ると感度,特異度ともに優る.特に,免疫不全症例で は,QuantiFERONTB-2G よりも感度において優れて いるとの報告もある
6)8).さらに,本法は結核診断のみ ならず,薬剤の治療効果を評価する手段の一つとして 重要で,薬剤耐性菌出現のひとつの指標となる可能性 もある.今後症例数を重ねて検討していく必要性があ ると思われる.日本にも T-SPOT.TB の早期導入が期 待されるところである.
文 献
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