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平成22年 5 月20日
免疫クロマトグラフ法による新しい RSV 迅速診断キットの評価
1)慈恵会中村病院,2)なかた小児科,3)浅村こどもクリニック,4)佐竹小児科,5)原土井病院臨床研究部
武内 可尚
1)中田 修二
2)浅村 信二
3)佐竹 幸重
4)池松 秀之
5)(平成 21 年 6 月 15 日受付)
(平成 22 年 1 月 25 日受理)
Key words : RS virus, rapid diagnosis, immunochromatography
はじめに
RS ウイルス(RSV)は,冬季に流行するポピュラー な呼吸器系ウイルスである.特に低月齢の乳児にとっ ては重い細気管支炎をおこす病原ウイルスとして,小 児科領域では広く知られている.RSV の認知に大き く貢献したのが,特別な技術や設備を必要としない,
簡便な RSV 抗原検出キットの普及である.1980 年代 後半に酵素免疫抗体法(EIA)によるキットが出現し
1), 3 歳未満の入院児に使用する場合,保険点数 200 点が 算定できるようになった.2000 年ごろから,より簡 便・迅速に抗原検出が出来るように工夫された免疫ク ロマトグラフ法が主流となっている
2).この度,標識 抗体に金コロイドを用いた RSV 迅速診断キット・イ ムノエース RSV(タウンズ)が開発され,その臨床 的有用性を 2 シーズンにわたり検討することが出来た ので報告する.
方 法
検体の採取:札幌,東京,高知県四万十市の 4 小児 科外来で評価試験への参加の同意が得られた患者を対 象に,鼻腔拭い液(NS)をキット付属の粘液拭い棒 で採取,キットに添付されている説明書に従って,直 ちに現場で実施した.検体抽出液の残部は福岡市の原 土井病院臨床研究部に患者情報とともに冷蔵輸送し,
RT-PCR に供した.
調査期間と検体数:2006 年 11 月から 2007 年 3 月,
2007 年 12 月から 2008 年 2 月,の 2 シーズンにわた り合計 253 件の NS を解析した.
患者カードの内容:患者イニシャル,各小児科での ID ナンバー,出生体重,生年月日,発症日,NS 採取 日,来院時体温,兄弟内での位置,保育園児か否か,
間接喫煙の有無,などであった.
得られた患者の個人情報は全て非公開とした.
結 果
1)2006! 2007 シーズンは 120 検体について検討で きた.RT-PCR を基準としたばあい,感度 74.3%,特 異度 100%,一致率 85% となった.2007 ! 2008 シーズ ンは,133 検体について検討できた.感度 87.6%,特 異度 100%,一致率 91.7% であった(Table 1).これ ら 2 シーズンの成績を Table 2にまとめた.すなわち,
2 シーズン 253 検体についての感度は,81.8%(130!
159),,特異度 100%(94 ! 94),一致率 88.5%(224 ! 253)となった.
2)検体採取病日と陽性率についてみたのが,Fig.
1である.最も多い受診日は,第 2 から第 6 病日で,こ の間の検出感度は 90% であった.RT-PCR では 15 病 日でも検出された例も認められた.
考 察
RS ウイルス(RSV)は,乳幼児にとって極めて重 要な呼吸器ウイルスである.乳児は,RSV 感染で,無 呼吸や重い細気管支炎に陥る
3).RSV は毎年 12 月,1 月に流行のピークを示し,1 歳までに 70% の乳児が 初感染する(Fig. 2)
4)5).その後も生涯何度でも感染 する極めてポピュラーな風邪ウイルスの一つである.
そのため未熟児,先天性心疾患児には,重症化防止の ためにパリビズマブという,ヒト化 RSV モノクロナー ル抗体を,シーズン中毎月筋注して予防することが保 険で認められている
6).RSV 感染を迅速簡便に検出す る診断キットが 20 年以上前から発売され,入院児の 場合,保険適用されてきたので,入院施設のある小児 科では,院内感染防止対策上欠かすことのできない キットである
7).現在の迅速診断キットの主流はイム ノクロマト法で,感度を高めるあまり偽陽性が多くな る傾向がある
8).今回開発されたイムノエース RSV キットは,06! 07,07! 08 の 2 シーズンにわたる乳幼
短 報別刷請求先:(〒787―0029)四万十市中村小姓町 75 番地
中村病院小児科 武内 可尚
武内 可尚 他 310
感染症学雑誌 第84巻 第 3 号 Fig. 1 RSV-Positive Resultson Sampling Day ofIllness
Table 1 Testresultcorrelation between kitand RT-PCR RT-PCR 2006/2007 season
Nasalswab Positive Negative Total 52 0
52 Positive
Rapid DiagnosisKit
“ImunoAceRSV” Negative 18 50 68 120 50
70 Total
(52/70)
74.3%
Sensitivity
(50/50)
100.0%
Specificity
(102/120)
85.0%
Accuracy
RT-PCR 2007/2008 season
Nasalswab Positive Negative Total 78 0
78 Positive
Rapid DiagnosisKit
“ImunoAceRSV” Negative 11 44 55 133 44
89 Total
(78/89)
87.6%
Sensitivity
(44/44)
100.0%
Specificity
(122/133)
91.7%
Accuracy
Table 2 Testresultcorrelation between kitand RT-PCR RT-PCR 2 seasonsNasalswab
Total Negative
Positive
130 0
130 Positive
Rapid DiagnosisKit
“ImunoAceRSV” Negative 29 94 123 253 94
159 Total
(130/159)
81.8%
Sensitivity
(94/94)
100.0%
Specificity
(224/253)
88.5%
Accuracy
児の鼻腔拭い液 235 検体を RT-PCR による成績と突 き合わせた結果,感度も実際上 90% と申し分なく,特 異度も 100% となった.2 シーズンにわたって検証し た結果,イムノエース RSV の信頼度は,極めて高い ことが示された.
タウンズ社が開発したイムノエース RSV は,金コ ロイド粒子を用いた免疫クロマトグラフ法で,その判 定ラインは明瞭である(Fig. 3).すでに分離されて
いる RSV を用いて,信頼度を調べたのと異なり,様々 な夾雑物が含まれている NS から RSV の成分を抽出 し,精度の高い結果をスピーデイに提供してくれるイ ムノエース RSV の臨床的有用性は極めて高いといえ る.ウイルス量の多い検体では,およそ 3 分で判定可 能である.また,従来市販されているキットでは,抽 出液の分注が必要なものや複数の抽出操作が必要なも のが多かったが,本キットの抽出液は 1 テストずつ小 分け分注されており,抽出操作も簡便である.キット に添付の拭い棒は,先端部にポリアミド繊維を使った 植毛タイプで,検体採取効率の向上と,患者に対する 負担の軽減が図られている.
かつては,3 歳未満児の入院例に限って保険の適応
が認められていたが,平成 20 年の診療報酬改定で,入
院例の年齢制限は撤廃され,保険点数は 150 点となっ
ている.しかし,RSV 感染症の成人領域での認知度
が,わが国では極めて低く,大きな問題である.Hall
や,Falsey らの調査では,成人の RSV 感染症でも医
学的・社会経済的インパクトは,インフルエンザにほ
ぼ匹敵することが示されている
9)10).
新しい RSV 迅速診断キット 311
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Fig. 2 EpidemiologicalRSV pattern in subjectsunder3 yearsold -KawasakiMunicipalHospitalDepartmentofPediatrics-
Fig. 3 ImunoAce RSV testplate
RSV 感染症は,感染症発生動向調査(サーベイラ ンス)の対象疾患である.しかし外来での RSV 診断 キットに保険適応がない現実はサーベイランスを不完 全なものにしている.乳児の保護者が風邪をひき,診 療所に受診しても,RSV 感染とのウイルス学的病原 診断をされないまま,それを家庭に持ち込んで乳児が 重篤な細気管支炎に陥る,というのだけは避けたい.
わが国でも,先進的内科医の中では,成人領域での RSV 感染症が最近注目されるようになった
11).インフ ルエンザシーズンと RSV の流行期が重なるだけに,外 来診療の場はもとより,施設内感染でも,ウイルス感 染を考えることが重要である.今回,新しく開発され た RS ウイルス感染症の迅速診断キットを評価する機 会を得たが,本キットの信頼度は高く,簡便な操作性 を有しており,今後の RS ウイルス感染症の迅速診断 に有用である.インフルエンザウイルスやアデノウイ ルスだけでなく,RS ウイルスの迅速診断キットが加 わることで,感染症の病原診断に寄与する範囲が広が
り,抗生剤の適正使用にも繋がるものである.
本稿の要旨は,第 74 回日本小児科学会高知地方会(9!21!
08)並びに第 78 回日本感染症学会西日本地方会(12!5!08)
で発表した.このトライアルのきっかけを与えてくださっ たサイ・リサーチの福田徹三氏に感謝します.
文 献
1)Wren CG, Bate BJ, Masters HB, Lauer BA:De- tection of Respiratory Syncytial Virus Antigen in Nasal Washings by Abbott TestPack En- zyme Immunoassay. J Clin Microbiol 1990;
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2)七種美和子,武内可尚,長 秀男,安倍 隆,宗 村徹也,川上千春:イムノクロマトグラフィー を用いた respiratory syncytial virus 診断キット の検討.感染症誌 2003;77:443―50.
3)由 井 郁 子,渡 辺 幸 恵,安 倍 隆,渡 辺 淳,武 内可尚:未然型乳児突然死症候群(near miss SIDS)を来した RS ウイルス感染症の 3 例.日 児誌 1988;92:1577―82.
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5)武 内 可 尚:RS ウ イ ル ス 肺 炎.小 児 科 臨 床 2002;55:674―81.
6)武内可尚,長 秀男,山下行雄,御宿百合子,中 尾 歩,麻生泰二,他:早産児および慢性肺疾 患児における palivisumab の安全性および薬物動 態の検討.日化療会誌 2002;50:215―22.
7)武内可尚,山口由美,渡辺 淳,服部春木,青 山辰夫,安倍 隆,他:RS ウイルス感染症の院 内感染.臨床とウイルス 1990;18:186―91.
8)新庄正宜:感染症迅速診断キットの進歩と課題 RS ウイルス.小児科臨床 2008;61:189―93.
9)Hall CB, Long CE, Schnabel KC:Respiratory syncytial virus infections in previously healthy
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感染症学雑誌 第84巻 第 3 号 working adult. Clin Infect Dis 2001;33:792―6.
10)Falsey AR, Hennessey PA, Formica MA, Cox C, Walsh EE:Respiratory syncytial virus infection in elderly and high-risk adults. N Eng J Med 2005;352:1749―59.
11)河合直樹,池松秀之,岩城紀男,川島 崇,前 田哲也,廣津伸夫,他:PCR による高齢者を含 めた RS ウイルス検出例の検討―新しい迅速診断 キットの試用経験を含めて―.感染症誌 2008;
82:1―5.
A New Rapid Diagnostic Kit for Respiratory Syncytial Virus Infections Evaluation Yoshinao TAKEUCHI
1), Shuuji NAKATA
2), Shinji ASAMURA
3),
Yukishige SATAKE
4)& Hideyuki IKEMATSU
5)1)Jikeikai Nakamura Hospital,2)Nakata Pediatric Clinic,3)Asamura Childrens Clinic,4)Satake Pediatric Clinic,
5)Clinical Research Laboratory, Haradoi Hospital