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小学校社会科における工業の学習と地理的な見方・ 考え方

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

小学校社会科における工業の学習と地理的な見方・

考え方

著者 根田 克彦

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 20

ページ 1‑6

発行年 2011‑03‑31

その他のタイトル Learning of Industry and Geographical

Perspectives in the Elementary School

URL http://hdl.handle.net/10105/5936

(2)

根田克彦

(社会科教育講座)

Learning of Industry and Geographical Perspectives in the Elementary School

Katsuhiko NEDA

(Department of Social Studies, Nara University of Education)

要旨:本研究は、小学校社会科の第 5 学年における工業地域の学習において、地理的な見方・考え方のプロセス、す

なわち、資料の収集、整理、分析、解釈、発表という一連のプロセスに即した小学校第 5 学年の工業地域の学習を検 討した。工業統計を利用して、マクロスケールとミクロスケールとの双方から工業地域を地図化する学習が考えられ る。それにより、日本の工業地域がマクロスケールでは太平洋ベルトとして把握でき、さらに都道府県別産業別出荷 額を検討することにより、臨海部の石油化学工業・鉄鋼業と内陸部の加工組立型工業の分布の違いが明瞭になる。ミ クロスケールの分析では、阪神工業地帯の外側の内陸部にも工業地域が形成されていることが理解できる。

キーワード:小学校 Elementary school、社会科 Social studies、工業 Industry、

地理的な見方・考え方 Geographical Perspectives

1

.はじめに

 1998年に改訂された小学校社会科の学習指導要領で は、学習内容の精選と、学び方や調べ方の学習と、作 業的・体験的な学習や問題解決的な学習がいっそう強 調された(文部省、1999)。地理的分野が中心となる 第 5 学年の目標の(3)は、「社会的事象を具体的に調 査し、地図、統計などの各種の基礎資料を効果的に活 用し、調べたことを表現するとともに、社会的事象の 意味について考える力を育てる」ことが目標として掲 げられた。

 2008年の学習指導要領の改訂でも、社会科で、レポ ートの作成や推敲、発表・討論などの活動をつうじて 児童の思考力、判断力、表現力を効果的に育成するこ とが示された(幼稚園、小学校、中学校、高等学校及 び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答 申)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/

chukyo0/toushin/_icsFiles/afieldfile/2009/05/12/

1216828_1.pdf(最終閲覧2010年12月 1 日)。2008年の 小学校学習指導要領の第 5 学年の目標の(3)は1998 年版とそれほど異なるものではなく、「社会的事象を 具体的に調査するとともに、地図や地球儀、統計など の各種の基礎的資料を効果的に活用し、社会的事象 の意味について考える力、調べたことや考えたこと

を表現する力を育てる」ことである(文部科学省、

2008a)。そのために、2008年の小学校学習指導要領解 説社会編では、「第 5 学年の内容全体の指導を通して、

我が国の国土や産業に関する社会的事象について、学 習問題に即して具体的に調査したり、地図帳や地球儀、

統計などの各種の基礎的資料を活用したりして調べる ことができるようにする必要がある。また、調べたこ とや社会的事象の意味について考えたことを、根拠や 解釈を示しながら図や文章などで表現し説明すること ができるようにすることが大切である。」としている

(文部科学省、2008b)。

 学習指導要領で示された第 5 学年の目標の一つであ る、学び方や調べ方の学習、作業的・体験的な学習 は、中学校以上の学習指導要領で示される、地理的な 見方・考え方の基礎となるものであろう。

 地理的な見方・考え方の定義に関する共通理解は あまり得られているとはいえない(戸井田、1999)。

1999年に改訂された高等学校学習指導要領解説地理歴 史では、地理的な見方・考え方を以下の 5 つに整理し ている(文部省、1999a)。

①地理的事象を距離・空間的配置に留意して把握する。

②地理的事象とその分布の変化の要因を追求する。

③地理的事象を他の地域と比較して、地域性を一般的  共通性と地方的特殊性の視点からとらえる。

(3)

④地理的事象をさまざまなスケールの重層性の中でと  らえる。

⑤地域の課題と将来像について考察する。

 しかし、井田(2003)は、学習指導要領の地理的な 見方・考え方の定義に関して、地理学の中心的概念を 含んだ学習内容で構成されており、学習のプロセスを 含んだものではないことを指摘し、地理学習で重視さ れる学習のプロセスが地理的な見方・考え方にも含ま れるべきであると主張した。学習プロセスは、資料 の収集、整理、分析、解釈、発表という一連のプロ セスから構成され、この作業のプロセスは、GIS(地 理的情報システム)を用いると理解しやすい。 井田

(2005)は、地理的な見方・考え方の作業プロセスが、

コンピュータを用いなくてもできるとしており、それ もGISの定義に含めている。

 筆者は高等学校地理Aの学習において、地理的な見 方・考え方の学習プロセスを習得できるプログラムを 提示した(根田他、2007;根田他、2008)。しかし、

小学校の場合、コンピュータを用いたGISの授業を行 うことは困難である。本稿では、小学校の社会科第 5 学年における工業の学習を事例として、井田(2003;

2005)が示した地理的な見方・考え方の学習のプロセ スに即した授業を考えてみたい。

2

.学習指導要領と社会科教科書における工業の扱い

2

1

.学習指導要領における工業の目標と内容  2010年現在使用されている小学校の教科書は、従前 の小学校学習指導要領に基づいている。1998学習指導 要領の第 5 学年の工業に関する学習は、内容(2)に おいて、以下のことが示されている(文部省、1998)。

「我が国の工業生産について、次のことを調査したり 地図や地球儀、資料などを活用したりして調べ、それ らは国民生活を支える重要な役割を果たしていること を考えるようにする。

ア 様々な工業製品が国民生活を支えていること。

イ 我が国の各種の工業生産や工業地域の分布など ウ 工業生産に従事している人々の工夫や努力、工業

生産を支える貿易や運輸なの働き

 上記のア、イ、ウに関して文部省(1999)の学習指 導要領解説によると、それぞれおさえるべき点と指導 の際の留意点が示されている。

 アに関しては、国民が様々な工業製品を利用して生 活していることと、農業や水産業、鉱業などでも工業 製品を利用して生産活動を営んでいることなどを具体 的に調べることが必要である。イに関しては、我が国 で生産されている工業製品の種類や、主な工業地域の 分布などについて、分布図や統計資料などを活用して 調べることがおさえるべき点である。さらに、ウに関 しては、「工業の盛んな地域の具体的事例を通して調

べることとし、金属工業、機械工業、石油化学工業、

食料品工業などの中から一つを取り上げる」こととし ている。

 学習指導要領では、第 5 学年工業の学習において、

学習問題に即して児童自ら資料を探して調べ、それを 図表にして読み取り、発表するという地理的な見方・

考え方を育成することを目指している。

2

2

. 教科書における工業の記述

 本研究で事例としたのは、小学校教科用図書発行出 版社では最大手の一つである東京書籍が刊行した『新 編新しい社会 5 上』である(佐々木毅他、2004)。教 科書において、工業は以下の構成で扱われる。

2 .わたしたちの生活と工業生産 1 .自動車をつくる工業 2 .工業生産と工業地域 3 .工業生産と貿易

 工業地帯と工業地域は、上記の「 2 .工業生産と工 業地域」で扱われる。ここで記述されていることは、

以下のとおりである。

 わが国で工業がさかんなのはどこでしょうか。

海ぞいに広がる工業地域 日本のおもな工業地域や 工業地帯は、海ぞいに広がっています。なかでも関東 地方の南部から九州地方の北部にかけては、工業地域 や工場地帯が帯のようにつながっていて、「太平洋ベ ルト」とよばれています。この太平洋ベルトの工業生 産額は、日本全体の 3 分の 2 以上を占めます。

 教科書では、日本の工場は太平洋ベルト地帯に集中 しており、それが形成された要因は原材料の輸入と製 品の海外輸出にあることを理解させることが意図され ている。さらに、内陸部に発達した工業地域は高速道 路と関係があることも理解させるようになっている。

日本における工業地帯と工業地域の説明では、日本地 図上に工業地帯と工業地域別にそれぞれの空間的範囲 を示している。また、工業地帯と工業地域別に産業別 製造品出荷額を示しているが、それは都道府県を単位 とする工業統計を用いている。それをふまえて、「各 工業地帯(地域)ではどんな工業がさかんでしょう か。地図帳を使って工業製品のマークさがしをしてみ ましょう。」との問いが示されている。この問いに答 えることにより、地図帳とグラフを読解し、発表する という地理的な見方・考え方を実現することになる。

また、帯グラフの正確な読み取り方を習得することも ここでは重要な課題である。各工業地帯・地域の位置 を地図上で確認して、製造品出荷額の帯グラフを正確 に読み取ることにより、各工業地帯・地域の特徴を区

根田 克彦 小学校社会科における工業の学習と地理的な見方・考え方

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別することが可能となるのである。この単元では、地 図と帯グラフを読み取ることにより、地理的な見方・

考え方の基礎を養うことができる。

3

.工業に関する資料の知識

 上述のように、工業地帯・地域の学習では、地図と グラフを読解することにより、地理的な見方・考え方 の基礎を養うことができる。しかし、地理的な見方・

考え方の学習のプロセスに忠実に従って「社会的事象 を具体的に調査し、地図、統計などの各種の基礎資料 を効果的に活用」するためには、工業に関する統計に どのような種類のものがあるかを知り、それを児童が 収集して、表や地図を作成してそれらを読解すること が必要であろう。もしくは実際に表とグラフを描くま では至らなくても、データの出所を知っておく必要が あろう。

 教科書では2004年工業統計表「産業編」を用いて都 道府県別の産業別製造品出荷額の帯グラフを示してい る。資料が工業統計表であることを、児童は知ってい るのだろうか。これを知るために、奈良教育大学 1 回 生103人にアンケートを行った。

 工業地帯・地域のデータが工業統計であることの認 知と、そのデータが都道府県単位であることを知って いるかどうかを示したのが、表 1 である。なお、この 調査では奈良教育大学 1 回生103人に当時の記憶を訪 ねたものであり、実際に学校現場で上記の内容を学ん だかどうかを客観的に示したものではない。

 表 1 によると、工業地帯・地域のデータが工業統計 であることを知っていたのは、28人(27.2%)のみで あり、そのうち、18人がそのことを学校の教師から教 わったと回答した。また、工業統計の工業生産額が都 道府県単位であることを知っていたのは45人であっ た。この数はデータが工業統計であることを知ってい た28人より多いが、これは後にこのことを知ったとい うものも入っているためであろう。

 なお、小学校時代に工業地帯・地域を授業で調べさ せられたと回答したものは66人(64.1%)である。そ の際に用いた資料に関して尋ねた。普段授業で用いる

教科書・資料集のみであるとの回答が39、上記以外の 資料を教師が配布したとの回答が 8 、図書館・インタ ーネットなどで探すよう指導されたとの回答が22であ った(複数回答であるので、合計は69となる)。すな わち、小学校時代に工業地帯・地域の学習で独自に調 べさせられた学生は多いが、教科書・資料集以外の資 料を使用したと回答したものは半数以下であり、それ らの資料を利用したものでも工業統計の存在をあまり 認知していなかったのである。この結果は学生の記憶 に頼るものであるので、実際に教師が工業地帯・地域 の学習の際に資料の出所を示さなかったかどうかは判 断できない。しかし、少なくとも、児童の脳裏に工業 統計の存在が残ることはあまりなかったといえる。

4

.地理的な見方・考え方と工業地帯・地域の学習

4

1

. 問題の所在

 地理的な見方・考え方の学習のプロセスに従って工 業地帯・地域を取り扱う場合、工業に関する統計を用 いて、それを図表にして読解し、まとめた内容を発表 する必要がある。教科書では工業地帯と工業地域の地 域区分を所与のものとして、それぞれごとのデータを 比較していた。しかし、実際には互いに空間的に接す る工業地帯と工業地域があり、それらの地域区分が妥 当なものかどうか不明である。各工業地帯・地域の位 置を確認して、帯グラフを読解することにより、各工 業地帯・地域の特徴を理解することも重要であろうが、

それでは地理的な見方・考え方を習得するためには不 十分であり、資料や分析方法の印象が薄いだろう。ま た、工業地帯・地域別の特徴の違いを認識することを 重視すると、それらの違いを暗記することが効率のよ い勉強とされやすい。地理的な見方・考え方を育成す るためには、日本における工業地帯・地域の範囲を実 際に児童が自分で確定するか、画定のプロセスを理解 できるよう示すことが望ましい。

表 1  奈良教育大学学生による工業地帯・地域のデータの認知度

アンケート調査による(2010年 6 月)

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4

2

.工業地帯と工業地域の定義

 帝国書院刊『地理教育用語技能事典』によると、

工業地域は、「多数の工場が集中する空間」と定義さ れ、「こうした工業地域が連続的につながる空間を工 業地帯と呼ぶ」(日本地理教育学会、2006)。一方、二 宮書店刊『地理学辞典改訂版』では、工業地域が「工 業が他の産業より優位を占めており、土地利用で多く の工場の集積している地域」であり、工業地帯は、工 業地域のなかでも広範囲にわたって多くの工場が集 積している地域と定義している(日本地誌研究所、

1889)。他にも、「工業活動がある限られた空間内に集 積して、他とは景観的にも機能的にも区別される空間 を形成した場合、工業地域ないし工業地帯と呼ばれ る。」(浮田、2003)、「工場数、工業労働力、工業生産 額が多く・・・量的かつ質的にほかの地域から区別さ れる地域」(山本他、1997)との定義がある。これら の辞典で工業地域は景観的・質的に他と区別される一 定の空間的範囲と定義されており、工業地帯は工業地 域と区別しないか、その特別な存在とされる。いわば 工業活動を指標として、等質地域に基づく地域区分の 結果、画定された空間的範囲が工業地域である。

 このように、工業地域は一般的に工場が集積する空 間的範囲を指し、工業地帯は用いられないか、工業地 域の特別な存在とみなす定義は地理学において一般的 な解釈といえる。なお、工業地域の空間的範囲は、ア メリカのマニファクチャリングベルト、日本の太平洋 ベルトのように巨視スケールから、ある特定の都市内 で製造業に特化する地区まで、さまざまなスケールに おいて設定できる(小田、2007)。すなわち、工業地 域を設定する際に、日本全体をみわたして太平洋ベル ト地域全体を一つの工業地域として地域区分すること から、一つの都市、例えば、大阪市における工業地域 がどこか、地域区分することも可能である。

 前述の教科書では、それぞれの工業地帯・地域の空 間的範囲を地図上に示している。例えば、阪神工業地 帯の範囲は、兵庫県南部瀬戸内海沿岸の姫路市付近か ら大阪府ほぼ全域である。京都府や滋賀県にも工場の マークはあるが、それらは工業地帯と工業地域に含め られていない。また、京阪工業地帯、京葉工業地域お よび関東内陸工業地域は互いに接しており、さらに、

それらの工業地帯・地域と東海工業地域と中京工業地 帯は連続して分布している。すなわち、マクロスケー ルでみた場合、関東内陸工業地域から中京工業地帯に 至る範囲で、それぞれの工業地帯・地域を空間的に地 域区分することは困難である。

 また、工業地帯・地域の範囲は高度成長期以降拡大 してきた。それにより名称も変化しよう。例えば、

1950年代と1960年代に日本の工業地帯(地域)を分析 した山本(1965)は、京浜工業地帯と千葉県の工業地 帯を東京臨海工業地帯と呼称できることを指摘し、最

終的には上記の地域に埼玉県の一部を加えた範囲を大 東京工業地帯と呼称した。このように、工業地帯・地 域の空間的範囲とその名称は、時代とともに変化する ものである。工業地帯・地域の範囲と名称を定まった ものとして暗記するより、日本の工業構造の変化と工 業地帯・地域の空間的変化との関係を動態的に児童が 把握できることが望ましい。

4

3

.工業地域の画定

以下では、工業統計における製造品出荷額をデータ として、それを地図化することにより、日本の工業地 域の範囲を、マクロスケールとミクロスケールのそれ ぞれから検討する。

マクロスケールから日本の工業地域を確定するため に、都道府県を単位とする。図 2 は、2008年における 都道府県別の製造品出荷額を示したものである。この 図によると、茨城県から山口県に至る本州の太平洋沿 岸と瀬戸内海沿岸の都道府県と福岡県の製造品出荷額 が高く、それら太平洋ベルト地帯の範囲が日本全体で みると一つの工業地域とみなせる。この中でもっとも 製造品出荷額が低いのは山口県(71,309億円)である。

しかし、山口県以上の製造品出荷額を示す県として他 に、埼玉県、栃木県、群馬県、滋賀県がある。このう ち教科書では埼玉県、栃木県および群馬県は関東内陸 工業地域として設定されていたが、滋賀県は工業地 帯・地域に含まれていない。さらに、教科書に設定さ れていた北陸工業地域を構成する新潟県から福井県に 至る県の製造品出荷額の内、最大の新潟県でも52,442 億円である。

 なお表を示さないが、上で示した山口県以上の製造 品出荷額を示す都道府県の、製造品出荷額上位 3 位の 図 2  都道府県別製造品出荷額の分布(2008年)

工業統計表「産業編」より作成

根田 克彦 小学校社会科における工業の学習と地理的な見方・考え方

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のである。しかし、経済の低成長期になると、第三次 産業化、サービス産業化という産業構造全体の転換の 中で、加工組立型工業と都市型工業の比重が高まり、

工業地域の拡大にともない内陸型工業地域が発展し た。図 2 では石油化学工業・鉄鋼業、加工組立型工業、

都市型工業の区別をしなかったが、他のさまざまな資 料を用いてそのことを児童に理解させることは容易で ある。それにより、児童は、日本における主要工業製 品の変化を工業地域の空間的拡大と関連して理解でき ると考える。

5

.まとめ

 本研究では、小学校社会科の第 5 学年における工業 地域の学習において、地理的な見方・考え方のプロセ ス、すなわち、資料の収集、整理、分析、解釈、発表 という一連のプロセスに即した小学校第 5 学年の工業 地域の学習を検討した。教科書では工業地帯・地域別 を所与のものとして、それぞれの位置を地図上で確認 し、産業別製造品出荷額の帯グラフを読解することに より、各工業地帯・地域の特徴を理解することを重視 していた。しかし、工業地帯・地域別の特徴の違いを 説明することを目標とすると、それらの違いを効率よ く暗記することに児童の努力が置かれる場合がある。

その場合、地理的な見方・考え方を学ぶことが重視さ れなくなろう。また、工業地域の空間的範囲は変化し ており、それに従って名称も変える必要があろう。

 工業地域の学習において、日本で工業が盛んな地域 を検討するために、マクロスケールで都道府県単位の 製造品出荷額の分布を検討すると、工業地帯と工業地 域とを空間的に区別することは困難である。マクロス ケールでみると、茨城県から福岡県までの太平洋ベル ト地帯は、連続した工業地域とみなせる。この点は教 科書でも指摘されたことであるが、実際に地図上で示 されると確認できると思われる。さらに、都道府県別・

産業別製造品出荷額を検討することにより、日本の工 業は全体的に加工組立型工業が主体であるが、臨海部 の石油化学工業・鉄鋼業と内陸部の加工組立型工業の 分布の違いが明瞭になる。

 また、市町村を単位とするよりミクロなスケールで 製造品出荷額の分布を検討すると、臨海型立地の阪神 工業地帯の外側の内陸部にも工業地域が形成されてい ることが理解できると考える。内陸部の工業地域を阪 神工業地帯に含めるかどうかは、定義をどうするかに よるが、それを含めてより広大な工業地域を新たに設 定する場合、阪神工業地帯の名称を変更してもよいだ ろう。

 なお、上記では児童が資料を収集し、分析すること を前提としたが、実際にはGISを利用して、児童が工 業統計を用いて地図化することは困難である。また、

産業を検討すると、全体的に輸送用機械器具製造業が 主体であるが、特に、内陸部でその傾向は強い。一方、

沿岸部は、都市型工業である印刷・同関連業に特化し ている東京都を除くと、一般に化学工業と鉄鋼業の割 合が高い。この表を示すことにより、臨海型立地工業 と内陸型立地工業の違いが明瞭になると思われる。

 次に、教科書では、 3 大工業地帯に関して、それら の空間的範囲を示していた。これは先の地域区分より 相対的に小さいミクロスケールからみた地域区分とい える。ここでは、一部が中京工業地帯に含まれる三重 県を除く近畿地方を事例として、阪神工業地帯の範囲 をミクロスケールで検討する。近畿地方における市町 村別製造品出荷額の分布を示したのが、図 2 である。

教科書で示されたように、兵庫県姫路市から大阪府の 堺市に至る瀬戸内海沿岸と、大阪市の東側にある大阪 府の市町村の製品販売額は非常に高く、この範囲が阪 神工業地帯と呼称できることは理解できる。一方、滋 賀県の市町村別製造品販売額はそれほど高くないが、

滋賀県全体では山口県より高い製造品出荷額を示す。

滋賀県の琵琶湖沿岸と京都市とその南部の市町村は、

阪神工業地帯に連なる一連の工業地域とみなすことも できる。

 このような工業地域の分布は、日本の工業構造の変 化を反映したものである。日本では日露戦争と第 1 次 世界大戦を経て重化学工業の比重が高まり 4 大工業地 帯が形成された(松橋、1986)。高度成長期には燃料 を国内石炭から輸入石油・石炭に替え、国内資源から 海外資源依存に転換したため、臨海型立地の重要性は 高まり、ますます工場は太平洋ベルト地帯に集積した 図 2  近畿地方における市町村別製造品出荷額の分 布(2008年)(従業者 4 人以上の事業所のみ)

工業統計表「市区町村編」より作成

(7)

史編』実教出版。

文部省(1999b):『小学校学習指導要領解説社会編』

日本文教出版。

山本正雄編(1965):『日本の工業地帯第 2 版』岩波新 書。

市町村単位の工業地域の分析は、小学校では困難かも しれない。しかし、教師が児童の前でGISを用いて作 成した地図を示すことは可能である(秋本、2001)。

それにより、児童が我が国の工業を理解し、それを分 析するための地理的な見方・考え方のプロセスをいっ そう明確に理解する助けとなろう。

 最後に、本研究では工業地帯・地域の分布と変化の 検討に関する地理的な見方・考え方のプロセスを学習 する案を示したが、その実践を行っていない。また、

工業地域の立地条件を分析することまでは言及できな かった。今後の課題としたい。

文 献

秋本弘章(2001):地理教育とGIS(高阪宏行・村山 祐司編『GIS―地理学への貢献』古今書院)352- 366。

井田仁康(2003):地理的な見方・考え方(村山祐司 編『シリーズ<人文地理学>19 21世紀の地理―

新しい地理教育』朝倉書店)、26-51。

井田仁康(2005):『社会科教育と地域―基礎・基本の 理論と実践―』NSK出版。

小田宏信(2007):工業地域構造と地域間分業(上野 和彦・椿真知子・中村康子編著『地理学基礎シリ ーズ 1 地理学概論』)、33-37。

浮田典良編(2003):『最新地理学用語辞典―改定版―』

大明堂。

戸井田克己(1999):地理的見方や考え方の基礎的考 察(井上征造・相澤善雄・戸井田克己編『新しい 地理授業のすすめ方』古今書院)、8-23。

根田克彦・石代吉史・村上富美(2007)、教科書に即 した教育用GISマニュアルの提案、地理情報シス テム学会講演論文集、16、261-266。

根田克彦・石代吉史・村上富美(2008):高等学校地 理A教科書に即したGIS(地理情報システム)授 業実践.奈良教育大学教育実践総合センター紀要、

17、201-206。

日本地誌研究所(1989):『地理学辞典改訂版』二宮書 店。

日本地理教育学会(2006):『地理教育用語技能事典』

帝国書院。

佐々木毅他(2004):『新編新しい社会 5 上』東京書籍。

松橋公治(1986):工業地域構造の形成・変貌(川島 哲郎編『総観地理学講座13経済地理学』朝倉書 店)、90-107。

文部科学省(2008a):『小学校学習指導要領』東京書籍。

文部科学省(2008b):『小学校学習指導要領解説社会 編』東洋館出版社。

文部省(1998):『小学校学習指導要領』大蔵省印刷局。

文部省(1999a):『高等学校学習指導要領解説地理歴

根田 克彦

参照

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