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仲 沙織 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 なか さおり

仲 沙織

学 位 の 種 類

博士(臨床心理学)

報 告 番 号

甲第

1637

学位授与の日付

平成

29

3

21

学位授与の要件

学位規則第

4

条第

1

項該当(課程博士)

学 位 論 文 題 目

精神科アウトリーチにおける臨床心理士の役割と効果的支援に 関する研究―医療における地域援助モデルの構築に向けて―

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

皿田 洋子

(副 査) 福岡大学 教授

林 幹男

福岡大学 教授

徳永 豊

メンタルヘルス 診療所しっぽふぁーれ

院長

伊藤 順一郎

内 容 の 要 旨

近年,我が国の精神科医療は大きく変化しつつある。我が国では,2003 年に千葉県市川 市において,多職種専門家チームが 24 時間 365 日体制で重度精神障害者の地域生活を支 える,ACT(Assertive Community Treatment:以下,ACT と略記)-J が,モデル事業とし て開始されている。多職種のチーム体制の中で,臨床心理士に注目してみると,2010 年 4 月の「こころの健康政策構想会議」の提言及び,2011 年 4 月の「精神障害者アウトリーチ 推進事業」の中で,臨床心理職の配置が明記されている。現状では,まだまだ精神科アウ トリーチに携わる臨床心理士は少ないものの,これらの施策や国家資格化へ向けての動き が,参入を後押しする可能性が高まっている。しかし,長い間,面接室やプレイルーム等 の枠のしっかりした空間を中心に活動してきた臨床心理士が,これまでの活動の場を展開 し,地域へ出た際に,即戦力となり,精神科アウトリーチの発展に貢献することができる のだろうか。そこで,本研究では,他職種や利用者が,臨床心理士に何を求めているのか を探り,精神科アウトリーチにおける臨床心理士の役割と効果的支援を明らかにして,医 療における地域援助モデルを構築することを目的とする。

対象は,研究に同意の得られた ACT に従事するスタッフ及び,利用者とする。臨床心理 士に対する他職種からのニーズを明らかにするために,半構造化面接及び郵送による無記 名の質問紙調査を実施した。半構造化面接で得られたデータは逐語録を起こし,質的帰納 的方法(山浦,2012)を用いて分析した。無記名の質問紙調査の選択式の回答は,項目ご とに集計し,量的に分析した。後半の自由記述は,質的帰納的方法(山浦,2012)を用い て分析した。利用者への選択式質問紙調査は,項目ごとに集計し量的に分析した。次に,

これらの他職種と利用者のニーズを基に,医療における地域援助モデルを提示し,モデル

の効果を検証するために,事例研究を行った。さらに,他職種と臨床心理士の介入の相違

(2)

を明らかにするために,シングルケースデザインを用いた事例研究を行った。

調査の結果,他職種は,臨床心理士がいない状況にもかかわらず,すでに臨床心理士へ の具体的役割や希望を明確に持っており,スタッフ支援や訪問による利用者・家族支援を 求めていることが明らかとなった。また,利用者が最も求めている支援は,「話し相手に なってくれる」ことであった。これらのニーズを踏まえ,臨床心理士が看護補助者として 看護師に同行し,看護師の医療的支援(服薬管理,バイタルチェック等)の後,臨床心理 士が,GAF(機能の全体的評定)尺度に応じた当事者支援や家族支援を行った結果, “聴く こと”を主とした支援が,利用者のポジティブな心理的変化を促進させることが示唆され た。また,シングルケースデザインを用いた事例研究では,看護師に臨床心理士が同行す ることで,「話し相手になってほしい」という対象者自身のニーズが,支援者との信頼関 係の構築とともに,家族との関係性の修復に向けた,家族全体のニーズへと展開していっ た。また,各専門職の特性によって,ニーズの顕在化に違いが見られた。臨床心理士は,

くみ取った利用者や家族のニーズを,他職種へ発信するとともに,支援の方向性や協働の 在り方についても,十分にチームで検討していくことが必要である。

厚生労働省(2011)は, 「訪問看護を必要とする者は増加しており,そのニーズは多様化 している」として, 「効率的な訪問看護」すなわち, 「補助者との同行訪問」を推奨してい る。本調査では,何らかの医療的支援のニーズを求めている利用者は,看護師の助言や判 断によって安心したり,精神症状が安定したりという場面が見られた。また,医療的支援 のニーズを明らかには表出していない利用者についても,短時間看護師が入ることで,や はり,安心感を得られ,その後の臨床心理士との時間に落ち着いて臨むことができていた。

これは,対象者に限ったことではなく, 「看護師の判断」は,臨床心理士にとっても大きな 意味を持ち, 「看護師の判断」を得たことで臨床心理士も安心して十分に支援を提供でき ると考える。臨床心理士による地域援助モデルの実施は,看護補助者として看護師に同行 することで,家族支援も含めて最大限の効果を発揮できると考える。

本研究から,精神科アウトリーチにおける臨床心理士の地域援助モデルは,国の施策 に則り,他職種や利用者のニーズに沿った,利用者のポジティブな心理的変化を促進す る効果的なモデルであることが示された。しかし,臨床心理職を対象とした調査では,

他職種との連携・協働の現状について,臨床心理職は,自身の能力・知識の不足や役割

の不明確さ,体制の不備などに困難を抱えていることが報告されている(日本心理臨床

学会特別課題研究班,2012) 。本研究の成果は,この臨床心理士側の困難に一つ回答を示

すものであり,また,他職種へ,臨床心理士ができることを具体的に提案し,臨床心理

士と協働したい,チームに加わってほしいという思いを持ってもらうことができるので

はないかと考える。

(3)

審査の結果の要旨

わが国の精神医療は入院医療中心から地域生活中心へと舵を切って十数年が経過する。

最初の目標数値、入院患者数15万人の減少には程遠い現状であるが、それでも退院促進 に向けて精神科病院は動きだしていることは確かである。諸外国に少しでも近づけるよう にと厚生労働省は地域で暮らす精神障害者の生活、医療を多職種チームによる訪問等で支 えようと「精神障害者アウトリーチ推進事業」を推し進めようとしている。本論文はこの ような精神科医療の転換期に、臨床心理という専門性を多職種による地域援助にどのよう に生かすことができ、精神障害者のリカバリーの一助となり得るかを明らかにすることを 試みたものである。

本論は4部で構成される。第一部では半世紀前から脱施設化に取り組み多職種によるア ウトリーチを実践している米国、英国の研究を概観し、支援の中で臨床心理士がどのよう に専門性を発揮し、チームの中での役割を明らかにした。第二部ではわが国で現在実践し ているチームへの実態調査を行っている。研究に参加してくれたチームは11チームでそ の中で構成員に臨床心理士が含まれているのはわずか1チームであった。調査では支援の 内容、支援で困難を感じること、そして臨床心理士がもしチームにいるとすればどのよう なことを期待するかなどを尋ねた。そこで明らかになったことは、チームのこと、利用者 との関係性の構築や心理検査による査定などで臨床心理士が専門とする領域でのニーズ が求められていることであった。第三部では精神科アウトリーチサービス利用者24名を 対象にニーズ調査を行っている。調査では「現在受けている支援」と「今後受けたい支援」

について質問しており、そこで明らかになったことは、 「服薬管理」 「住居の調整」などの 医療的、福祉的支援より、 「話し相手」つまり心理的支援を一番求めていたことであった。

そのニーズを配慮した支援をどう行うかをこれからのアウトリーチを発展させる大きな 視点とし、そこに臨床心理士の専門性を発揮できることを示している。第四部では支援者 と利用者のニーズ調査を基に精神科アウトリーチにおける臨床心理士の援助モデルの提 示を試みている。このモデルは現行の診療報酬制度に準じて、看護師、保健師に臨床心理 士が同行し複数でかかわり、その専門性を活かして心の内に耳を傾け、今までよりきめ細 かい支援、利用者のいろいろなニーズに応えようとするものである。最後にそのモデルの 実践をシングルケース研究でもって具体的に示し、看護師単独の場合と臨床心理士が加わ った場合とでは利用者から出される話題に違いが認められ、利用者が求める地域援助を提 供するには臨床心理学的視野をも含めた支援の必要性を明確にしている。

この研究のポイントとして2つあると考える。ひとつは、精神科アウトリーチの中で利

用者は何を求めているのかのニーズを明らかにし、それを踏まえて臨床心理士の専門性を

どう発揮できるかを明らかにしたことである。われわれは往々にして支援という立場で行

動しがちで、相手が何を求めているのかをまず理解することからスタートし、それをしっ

かり押さえた上で何ができるかを導き出したことである。もう一つは臨床心理士が多職種

連携というチームの中でいかに専門性を発揮できるかを示したことである。その専門性は

(4)

今まで培ってきた傾聴を基盤に、他の職種とは違うカラーを提示し、支援の幅を広げたこ とである。ほとんどの人は臨床心理士という職種は、面接室の中で患者さんのカウンセリ ングを行うものというイメージしかもっていない。しかし、近年コミュニティ心理学が広 がりをみせ、ミクロの心理学から学校、職場、地域社会をも視野に入れたマクロの世界を も扱われるようになってきている。さらに「公認心理士法」が可決・成立しこれから国家 資格を取得できるようになった今、精神科アウトリーチというあらたな心理職の活動の場 を提示したことは意義深い。

以上、本論文は精神障害者アウトリーチの中に臨床心理士の地域援助モデルを構築し

たものであり、学位を授与するに値すると判定した。なお、公聴会には15名が参加

し、活発な意見や質問が出され、申請者は丁寧に明確に回答していた。

参照

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