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はじめに弁護士広告に関する苦情や相談が増加している が, それには弁護士業界の伝統と業界の自主規制 による広告表現の制約が少なからず影響している と考えられる。 こうした制約条件下において効果 的な広告コミュニケーション効果を得るためには, 広告の受け手に対して広告表現の効果を測定でき るモデルが必要である。
そこで本稿では, 弁護士広告についての現状を 踏まえた上で, マーケティング・コミュニケーショ ンで依拠されることが多いコードモデルではなく, 推論的コミュニケーション・モデルである関連性 理論を広告コミュニケーション効果の測定に応用 する。 まずプロフェッションにおけるマーケティ ング, マーケティング・コミュニケーション, 関 連性理論に関する先行研究を検討し, マーケティ ングの視点から関連性理論に依拠した独自の広告 コミュニケーション効果測定モデルを提示する。
そして実際に使用されている弁護士広告について, 本モデルを用いて考察を試み, モデルの有効性を 検討する。
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弁護士広告について 2.1 弁護士業界の現状近年, 弁護士に関するトラブルが増えている。
トラブルの内容はさまざまだが, 弁護士を巡るト ラブルが新たな消費者問題, 社会問題になってい るとさえいわれている(1)。 その多くは消費者金融 などに払い過ぎた利息分, いわゆる過払い金の返 還請求を巡るトラブルである(2)。
こうしたトラブルは, 都市部において弁護士間 の競争が激しくなっていることが原因と考えられ るが, その理由として, まず2000年の弁護士広 告の解禁が考えられる。 2点目は司法制度改革に よる法曹人口の増加と2004年の法科大学院 (ロー スクール) の設置, 3点目は2004年の弁護士報 酬の自由化である。 これらの背景には, 1970年 代後半以降の経済のグローバル化や対外貿易摩擦 の激化による市場開放などの国際的要因による
「経済的規制」 緩和の流れがある(3)。 2.2 弁護士広告の現状
次にトラブルの原因の1つとされている弁護士 広告に焦点をあて, その現状を見てみる。 弁護士 広告が禁止されていた背景には, 弁護士にはもと もと 「自分から顧客を求めるものではない」(4)と いう伝統的な考え方が存在していた。 これは, コ モン・ロー, すなわち判例法の国においては, 弁 護士に対する伝統的な価値観, すなわち 「弁護士 という職業はプロフェッションでありビジネスで はなく, 弁護士の使命は社会正義の実現にあるの であって, 教育的, 専門的, 法的エリートである プロフェッションとして商業化に身を任せるべき
論 文
弁護士広告の
広告コミュニケーション効果に関する一考察
関連性理論による分析から
柴 田 仁 夫
でない」(5)という考えに起因している(6)。
こうした考えの下, 日本での弁護士広告は, そ のはじまりから欧米と同じように自主的に規制さ れていた。 しかし, アメリカで伝統的な弁護士観 と新しい弁護士観の相克が見られるようになるに つれ, 日本でも日本弁護士連合会 (以下, 日弁連) が1978年から弁護士広告の規制の見直しを始め, 1987年には条件付きながら広告の一部容認の姿 勢が打ち出された。 その後アメリカとの通商摩擦 から 「企業による法務需要の大幅な拡大が見込ま れること」(7)を背景に, 1999年3月に 「規制緩和 推進3か年計画 (改定)」 が閣議決定され, 弁護 士広告の制限緩和ないし撤廃が要請され, 急遽 2000年10月1日より弁護士広告が解禁されるこ ととなった(8)。
このような経緯から原則自由化された弁護士広 告であるが, 解禁された当初は, 考えられていた ほど活用されることはなかった(9)。 弁護士広告が 活用されはじめたのは, 2004年の弁護士報酬の 自由化, 2006年の過払い金の返還に関する最高 裁判所の判決を経てからである。 これは消費生活 センターに寄せられた弁護士に関する相談のうち,
「表示・広告」 の件数が年々増加していることか らも推測できる(10)。 そして最近では, 2010年6 月に施行された改正貸金業法の改正により, 再び 過払い金返還請求が増加するのではないかという 声もあり, 一部では弁護士広告の再規制を望む声 もあがっている(11)。
2.3 日弁連による広告の自主規制
こうして解禁された弁護士広告であるが, どん な広告でも自由に出稿できるわけではなく, 出稿 できる広告は表現, 媒体共に限られている。 弁護 士広告は原則禁止から原則自由へと変更になった・・・・ ・・・・
のであり, 一般の企業が行うような相当広範囲に 自 由 な 広 告 が 認 め ら れ た わ け で は な い の で あ る(12)。 そもそも広告規制は 「広告活動を適正な ものにし, 広告主と広告の受け手を含む社会全体 との関係を良好化し, 社会・経済が円滑に動くた めの仕組みをつくるためのもの」(13)であり, 原則 自由とはこの厳しすぎた規制を 「市民の利害が害
されるおそれがあるなど規制することに合理的理 由があると認められる場合に例外的に規制する」
と見直したにすぎない(14)。 日弁連の自主規制(15) は, 全13条からなる 「弁護士の業務広告に関す る規程」(16)としてまとめられている。
2.4 弁護士広告の現状を踏まえて
ここまで, 弁護士を巡るトラブルの増加とその 原因と考えられる弁護士広告解禁の流れ, 日弁連 による自主規制について述べてきた。 広告が解禁 となったことで, 個々の弁護士は, 近い将来迫り くる顧客獲得競争を乗り切るためには, 自主規制 を踏まえながら広告を活用していく必要があると いうことを十分認識していると考えられよう。 し かし, その一方で広告の対象となる広告の受け手 に, なぜ弁護士広告が解禁され, なぜその広告に 弁護士の提供する具体的なサービスに関する情報 が少ないのか, その理由が認識されているかどう かは甚だ心許ない。 それはこれまで長きに亘って 広告自体必要ないものであると考えてきた日弁連 が, 急な方針転換ではあるものの, 広告の受け手 に対して日弁連の広告に対する考え方と広告解禁 に対する説明を行ってきたとは考えにくく(17),ま た弁護士と広告の受け手の間に存在する法的専門 知識に関する情報の非対称性からも推察が可能で あろう。
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プロフェッションにおけるマーケ ティング3.1 プロフェッションの定義
弁護士のような特定の分野の専門家, いわゆる プロフェッション (=専門職) については主に社 会学の領域で研究され, 中野 (1981) はプロフェッ ションを 「ある超越的基準によって定義しうる実 体ではなく, 社会的, 文化的文脈の中でその真の 意義を確認できる存在」(18), Howard and Schul- man (2005) は 「…社会公共の利益を念頭にお いて判断し行動する代わりに, 一定程度の特権と 自律性が付与された人の群」(19)と定義している。
また, アメリカ学術アカデミー (the American
Academy of Arts and Sciences) の企業責任特 別委員会は2005年にプロフェッションの一般要 件として, ①特定の分野について論理一貫した知 識を修得していること, ②専門職団体 (プロフェッ ションの団体) の認定を経てライセンスを取得し ていること, ③専門職団体が制定した倫理綱領を 遵守していること, また, 倫理綱領の違反者に制 裁措置を講じるために必要な制度が整備されてい ること, ④高度で専門的な知識と技能を社会公共 の利益に供すること, の4つをあげている(20)。 しかし一方で, こうした英米のプロフェッション 概念を日本の専門職にあてはめることは, 「プロ フェッション」 の要件がアングロ・サクソン的な 経験則に偏向している(21)などの理由から, 専門 職とプロフェッションを同義して扱うことは難し いとする考え方もある(22)。
3.2 サービスの定義
弁護士などのプロフェッションが提供するプロ フェッショナル・サービス(23)は, 無形の行為と して人にメンタルな刺激を与えたり, 無形の財産 に向けられたサービスの一種であるが(24),サービ スについては研究者によりさまざまな考え方が ある。 例えばRathmell (1966) はサービスを 物と比較して, 「レンタル製品のサービス, 所有 する製品に対するサービス, 非製品のサービスが そ の 違 い で あ る 」(25) と し , Kotler and Keller (2009) はサービスを 「一方がもう一方に対して 提供することができる, 本質的に無形で, そして 何の所有権ももたらさない行為あるいはパフォー マンス」(26)と定義している。 更に近年は, マーケ ティングとは, 物を中心とした 「交換」 であるとす る考えにとどまらず, Vargo and Lusch (2002) によるServiceDominant Logic (以下, SDロ ジックという), すなわちサービスを中心に据え た 「交換」 であるとするロジックが登場してきて いる(27)。 SDロジックはこれまでの有形財の交 換を前提としたGoodsDominant Logicを包含 し, 有形財は知識や活動が埋め込まれた 「器 (appliance)」(28)であり, 流通のための手段に過 ぎないとする。 つまりマーケティングにより交換
されるのは, 有形財そのものではなくそれに埋め 込まれた知識やスキル等のサービスであるとする。
彼らはサービスの考え方を拡張し, 「他者または 自分自身のための行為 (deeds), プロセス, パ フォーマンスを介して行なわれる特定の能力 (知 識およびスキル) の適用であると規定」 し(29),サー ビスを, 行為・パフォーマンスそのものではなく, それを介してなされる知識・スキルの適用である, としているのである。
3.3 SERVQUAL
このようにサービスの考え方が研究者によりさ まざまであるのは, サービスの種類は多様であり, 物とは異なり形がないという特性が影響している と考えられる。 そのためサービスの品質を測るこ とは難しくさまざまな測定モデルがあるが, その 代 表 的 な も の にParasuraman, Zeithaml and Berry (1988) によって開発されたSERVQUAL
がある。 SERVQUALは, 顧客満足度を顧客の
期待サービスと知覚サービスのギャップ, すなわ ち 「(:Quality (品質), :Per- ceived Service (知覚サービス), :Expected Service (期待サービス))」 で表わし, 「」 が大きいほど顧客の満足度は高くなるという考え 方に基づいたモデルである。 SERVQUALは, 4 つの異なる業種に対する調査から抽出した当初 10次元 (dimension) の構成要素, 「物的安定性 (tangibles)」, 「信頼性 (reliability)」, 「応答性 (responsibility)」, コミュニケーション (com- munication) , 信 憑 性 (credibility) , 安 全 性 (security), 専門能力 (competence), 礼儀正 しさ (courtesy), 顧客理解 (understanding/
knowing customers), 利便性 (access) を統計 的に処理し, そのうちコミュニケーション, 信憑 性, 安全性, 専門能力, 礼儀正しさを 「保証性 (assurance)」, 顧客理解, 利便性を 「共感性 (empathy)」 として5つの構成要素にまとめ直 したものである。
5つの各構成要素の具体的な内容は, 「有形性」
は, 設備, 機器, 従業員の外見のこと, 「信頼性」
は, 信頼かつ正確に約束されたサービスを提供す
る能力のこと, 「反応性」 は, 顧客を助け, 迅速 なサービスを提供する意欲のこと, 「保証性」 は, 従業員の知識と礼儀, そして信用と信頼を鼓舞す る能力のこと, 「共感性」 は, 企業が顧客に提供 する思いやりのある個別の気遣いのことを意味し ているとする。
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マーケティング・コミュニケーション4.1 広告とマーケティング・コミュニケー ション
マーケティングにおけるプロモーション・ミッ クスの1つとして位置づけられている広告である が, Kotler and Keller (2009) はこれを 「企業 が自社が販売する製品やブランドについて 直 接または間接的に 消費者に伝え, 説得し, 想 起させる手段」(30)であるマーケティング・コミュ ニケーション・プログラムの中心的要素であると 位置づけている。 また広告を先述したSDロジッ クで捉えると, 広告物 (advertisements) は広 告の送り手により知識やスキルを埋め込まれた
「器」 であり, 広告活動 (advertising) は, 知識・
スキルの適用という意味で, サービスであるとい うことができよう。
本稿では専門家とその広告の受け手であるが, この企業と消費者の関係性を構築するためのマー ケティング・コミュニケーション・プロセスは, ShannonWeaverによるコードモデル(31)に依 拠 し て 説 明 さ れ る こ と が 多 い 。 Kotler and Keller (2009) も, コミュニケーションのマクロ モデルとして, 送り手 (発信者) と受け手 (受信 者) の間のコミュニケーション・プロセスをこの モデルに依拠して説明している。
しかしコードモデルを適用したコミュニケーショ ン・プロセスにはいくつかの疑問が残る。 コード モデルでは, 前提としてメッセージの送り手と受 け手が同じコードを共有し, それにより送り手の 意図したメッセージが受け手に伝わりコミュニケー ションが成立することになる。 ところが, 現実に は送り手と受け手が同じ日本語というコードを共 有していても, これを妨げるノイズの有無にかか
わらずコミュニケーションが成立しないことは頻 繁にある。 また逆に, コードが共有されていると は考えにくい幼い子供と母親の間でもコミュニケー ションは成立している。 こうした点から, 人間の コミュニケーション・プロセスには 「コード」 以 外の何らかの要素(32)が関わっていると推測でき よう。
4.2 広告コミュニケーション効果
適切な広告マネジメントを行うためには, 明確 な広告目標を設定し, その達成度により広告効果 を捉えることが必要となる。 そのため, さまざま な広告効果モデルが考案されてきた。 例えば
DAGMARモデルは受け手の心理変化を 「未知
(Unawareness)」→「認知 (Awareness)」→「理 解 (Comprehension)」→「確信 (Conviction)」→
「行動 (Action)」 の5段階で捉えている。 しか しこうしたモデルはいずれも一方通行のリニアモ デルであり, 消費者の心理変容過程のパターンを 捉えきれていないのではないかともいわれている。
広告によるコミュニケーションの目的は受け手 の態度変容にある。 よって広告コミュニケーショ ン効果は, 受け手に何らかの態度変容を起こすこ とであるといえる。 広告の受け手の態度変容には その送り手の属性が関係し, それには信憑性 (credibility), 名声や権威 (prestige), 影響力 (power), 身体的魅力 (physical attractiveness), 親近感 (familiarity), 好感度 (likability), 類 似性 (similarity) などがある(33)。 これは広告の 送り手, つまり製品やサービスの推奨者 (en-
dorser) の属性が受け手の態度変容を促すという
ことである。 これらの属性のうち信憑性 (credi- bility) に 着 目 し た の はHovland and Weiss (1952) であり, Kelman (1961) は信憑性 (cre- dibility) が最も有効な説明変数であるとした。
また, Homer and Kahle (1990) は広告コミュ ニケーション効果を構成する要因として, 専門性 (expertness) と信頼性 (trustworthiness) を あげ, Atkins and Block (1983) は, 信憑性 (credibility) の代わりに信頼性 (trustworthi- ness) を最上位レベルの属性とし, 多くの研究
で, 信憑性 (credibility) は信頼性 (trustworthi- ness) を構成する下位属性である, と位置づけ ているとしている(34)。
4.3 信頼の概念
信頼は, 先述したSERVQUALや受け手の態 度変容にも影響を与える概念であるが, 未だ定まっ た定義はない。 一例を挙げると受け手の態度変容 の一属性である信頼性 (trustworthiness) や信 憑性 (credibility) について, Luhmann (1973) は, 信頼は最も広い意味で自分が抱く諸々の期待 をあてにすることであり, これは心的なシステム や社会的システムに影響され, どちらか一方だけ の影響を受けているわけではないとし(35), Kram- er (2009) は, 人間は生まれつき人を信じやすく, 信頼は生存のメカニズムであるとし, 信頼できる 人かそうでないかの分類は個人のレベルでみれば 重要な問題であるとしている(36)。
山岸 (1998) は, 信頼を信頼する側の特性であ る 「信頼」 と, 信頼される側の特性である 「信頼 性」 とに区別し, 信頼概念を細かく整理している。
山岸 (1998) によれば 「信頼」 と 「安心」 は区別 され, 信頼は 「相手の内面にある人間性や自分に 対する感情などの判断にもとづいてなされる, 相 手の意図についての期待」 であり, 安心は 「自分 を搾取する行動をとる誘因が相手に存在していな いと判断することから生まれる」 としている(37)。 そして更に信頼を 「人間関係的信頼」 と 「人格的 信頼」 に区分し, 前者を 「他の人間に対してはと もかく, 自分に対しては信頼に値する行動をとる 傾向をもつ人間であるという期待」, 後者を 「相 手が誰に対しても信頼に値する行動をとる傾向を もつ人間であるという期待」 としている。 この山 岸の信頼概念の整理を, 広告コミュニケーション 効果測定モデルを提示する際に活用する。
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関連性理論 5.1 関連性理論の概要関連性理論 (relevance theory) とは言語学 における意味のシステムを扱う分野の 「語用論
(pragmatics)」 の一理論である。 語用論とは,
「発話の解釈において, 言語形式とコンテクスト 的要素がどのように相互作用するのかを研究する 学問」(38)であり, 具体的にいえば 「話し手がある 具体的な場面で, 聞き手に伝えようとしたメッセー ジ の 内 容 が 聞 き 手 に い か に し て 解 釈 さ れ る の か」(39)を扱っている研究領域である。 言い換えれ ば, 語用論では, 発話を解釈する (utterance in- terpretation) ためには, 文の意味 (sentence meaning) と発話のコンテクスト (context)(40) に基づく聞き手の推論が欠かせない, ということ になる。 ただ, Grice (1989) によって提案され た語用論にはいくつか疑問が呈されており, その 疑問への解決の試みからSperber and Wilson (1995) が提唱したのが関連性理論である。
関連性理論は, 「ことばによるコミュニケーショ ンは, 聞き手が言語的意味の解読を証拠とし, そ の解読結果と文脈に基づいて推論を行うことによっ て, 話者の意味を復元する」 ことで成り立つとす る(41)。 先述したコードモデルに代えて彼らが提 唱したこのコミュニケーションの発展的推論モデ ルは, 送り手が意図の証拠を提示し, 受け手がそ の証拠から送り手の意図を推論することによって コミュニケーションが達成されるとする(42)。
送り手の何かを伝達しようとする意図がはっき り示された刺激を 「意図明示的刺激 (ostensive stimulus)」 と呼び, これに基づいて行われるコ ミュニケーションは 「意図明示的コミュニケーショ ン (ostensive communication)」 と呼ばれる(43)。 言い換えれば関連性理論とはこの意図明示的刺激 の解釈メカニズムを解明しようとする理論である といえる。
通常, メッセージの送り手は自分の意図するこ とを理解してもらうのに, 状況の許す限りもっと も効率のよい手がかりを発話し, 自分の意図する・・・・・
ことを受け手がうまく推論してくれるだろうと期 待する。 受け手は, その発話がこの状況でもっと も適切に違いない, という信念に基づいて推論す る。 この 「効率のよい」 ことを関連性理論では,・・・・・
「関連性がある (高い) (relevant)」 という(44)。 そしてこの関連性は, 認知効果 (cognitive ef-
fects) と解釈労力 (processing effort) によっ て決まるとする(45)。
コミュニケーションにおける送り手の意図は受 け手の認知環境 (cognitive environment)(46),す なわち受け手の世界の表示を修正すること, つま りは受け手の態度変容にある。 Sperber and Wil- son (1995) は, 認知環境を修正する方法には, 文脈含意 (contextual implication) を加えるこ と(47), 既存の想定 (assumption) を強めるこ と(48), 既存の想定を削除すること(49), があると する。 こうした考え方の下, 彼らは次の2つの関 連性の原則を提案した。
① 関連性の認知原則 (Cognitive Principle of Relevance)…人間の認知は, 関連性が最 大になるようにできている。
② 関連性のコミュニケーション原則 (Com- municative Principle of Relevance)…すべ ての意図明示的コミュニケーションは, それ 自身の最適の関連性 (optimal relevance) の見込みを伝達する。
関連性の認知原則を第1原則というが, これは 人の認知のメカニズムから, 人はできるだけ小さ な解釈労力でできるだけ大きな効果をあげるよう にできており, 刺激や情報が受け手にとって関連 性が高ければ高いほど, 受け手の解釈労力は少な くて済むため, 解釈労力が少なければコミュニケー ションは円滑となる, とする(50)。
そしてもう1つの原則は第2原則と呼ばれ, 意 図明示的コミュニケーション, すなわち送り手の 情報意図 (informative intention) を意図的に 伝えようとする態度は, それ自体が受け手にとっ て最適な関連性を有していることの保証となって いる, とする(51)。 第2原則は第1原則の人の認 知メカニズムに基づいているため, 意図明示的コ ミュニケーションの受け手は, これを第2原則の 特性を有するものとして受け取ることになる。
この第2原則は, すべての意図明示的刺激に関 して例外のない規則である(52)。 意図明示的刺激, 例えば発話は, 認知効果の点からも解釈に要する 努力の点からも, 常に 「最大の関連性」 を持って いるわけではない。 それは発話には送り手の何ら
かのフィルターがかかっている可能性や, 送り手 の能力に影響を受ける可能性があるからである。
つまり第2原則の 「最適の関連性」 とは, 最大の 関連性 (maximal relevance) ではなく, 通常 は受け手が到達する最初の解釈のことを指してい ることになる(53)。
しかし, 意図明示的コミュニケーションにより, 送り手が伝達意図 (communicative intention) の顕在化に成功しても, もう1つの意図である情 報意図が顕在化するかどうかは, 受け手にかかっ ている。 第1原則のもとでは, 受け手は自分にとっ て十分な関連性があると思われる刺激にのみ関心 を向けることになるため, 送り手は自らの発話が 受け手にとって関連性があるという 「見込み (presumption)」 を伝えることが必要となって くる。 しかし, 関連性の有無の判断は送り手では なく, 発話の受け手に委ねられている。 そのため, 送り手にとっては発話の受け手に対し関連性があ るという 「見込み」 が伝えられるかどうかが重要 となる。 つまり 「最適の関連性」 とは, 受け手が 解釈労力を費やすのに見合い, かつ送り手側の能 力と選択の許容の範囲内で最大の関連性をもって いる 「関連性の見込み」 のことであるといえよ う(54)。
5.2 関連性理論の広告分析への応用
ここまで説明してきたように, 関連性理論はコ ンテクストとコミュニケーションの受け手によっ て変化する言葉の意味を研究の対象としている。
そのため, 発話だけでなく広告の見出し, いわゆ るキャッチフレーズなど短く表現された 「広告の ことば」(55)についても, 関連性理論による分析が 可能である。 キャッチフレーズに何らかの関連性 がある, すなわち, 自らの認知環境に何らかの変 化が感じられたと受け手が感じるということは, キャッチフレーズの説得意図を受け手が受け入れ るということである。 これは説得力があるキャッ チフレーズ, つまり広告のことばは, 受け手にとっ て関連性の高い言葉である, ということを意味し ており, 受け手にこうした言葉を集中的に届けれ ばその説得力が増す, と考えられる(56)。
関連性理論を使った広告分析として, 海外では Forceville (1996) やTanaka (1994), 国内で は, 田中 (1995), 新井 (2006), 新井 (2007), 新井 (2008), 櫻井 (2009), 新井 (2010) がある が, その視点は言語学者としてであり, 実際の広 告の受け手である消費者の視点からではない。 新 井 (2006) は, 第1原則は 「人間の認知の傾向を 表したもの」 であり, 関連性とは認知効果への入 力特性, すなわち認知の経済性を表わす概念であ るため, 解釈労力と認知効果の関係でこれを表現 できるとする (Figure1)。 また新井 (2010) は, 関連性理論の 「関連性」 という概念は広告のこと ばの広告コミュニケーション効果や説得効果を測 る尺度になり得るとしている。
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広告コミュニケーション効果測定 モデル以上の検討を踏まえ, 以下に広告コミュニケー ション効果測定モデルを提示する。
人の情報に対する反応は, その内面的, 心理的 な処理を考えなければ, 未知・既知問わずその情 報を認知し, そして受け入れ, それを個々の内部 で処理し, その結果何らかの行動を起こす (ある いは起こさない) という点で, 外部からは広告効 果階層モデルで示すようなリニアな流れに見える。
人の心理的処理の部分を先述したDAGMARモ デルでは 「認知 (awareness)」 「理解 (compre-
hension)」 「確信 (conviction)」 としているが, このプロセス部分にSperber and Wilson (1995) の関連性理論を当てはめる。 つまり, この 「認知」
「理解」 「確信」 という心理的プロセスにコミュニ ケーションにおける推論モデルを適用する。 具体 的には, 新井 (2006) の関連性, 認知効果, 解釈 労力の関係式でこのプロセスを捉え直す。
個々の情報の受け手が有する認知環境はそれぞ れ異なっている。 そのため, 認知効果を外部から 特定することは困難である。 しかし, 広告の受け 手の認知効果が定数であるとすると, 解釈労力が 測定できれば, 広告の受け手の認知環境, 言い換 えれば受け手の世界の表示, つまり受け手の態度 に影響を及ぼす効果, すなわち広告コミュニケー ション効果を測定することが可能であろう(57)。 そこで受け手の認知効果を得るのに必要な解釈労 力の構成要素として(58),サービス品質の測定モデ
ルであるSERVQUALの5つの要素である信頼
性 (reliability)(59),保証性 (assurance), 反応の よさ (responsibility), 共感 (empathy), 有形 性 (tangibles) をあてはめ, これらの要素を加 算した結果を解釈労力とする(60)。
これらを関係を式で表わすと次のようになるが, いくつか補足しておきたい (Figure2)。
まず, SERVQUALの広告コミュニケーショ
ン効果測定モデルへの適用についてである。 Var- go and Lusch (2004) は, サービスについて,
「われわれの定義は, より狭義の, より伝統的な
広告コミュニケーション効果 認知効果
信頼性 + 安心感 + 反応のよさ + 共感 + 有形性
Figure2 広告コミュニケーション効果測定モデル (関連性)
reliability assurance responsibility empathy tangibles 出所) 筆者作成。
広告コミュニケーション効果 (cognitive effects) 解釈労力
Figure1 関連性, 認知効果, 解釈労力の関係 認知効果
(processing effort) (関連性 (relevance))
出所) 「新井恭子 (2006) 「関連性理論における 広告のことば の分析」 経営論集 (東洋大学), 第68号,11月,82頁。」 から筆者作成。
定義と両立しうる」(61)と述べているが, 彼らの言 ういわば拡大されたサービスの概念に対して, 従 来サービス・マーケティング論で展開されてきた 各種の議論 例えばサービスの無形性, 不可分 性, 変動性, 消滅性という4つの特性 をその まま適用できるかどうかについては, 重大な疑問 が 残 る と こ ろ で あ る 。 し か し , 本 稿 で は
SERVQUALが顧客満足の視点からサービス品
質を測定するという考え方に基づいたモデルであ る こ と か ら , こ の 考 え 方 自 体 は , Vargo and
Lusch流に定義されたサービス, つまり広告コ
ミュニケーション効果に対しても適用が可能なの ではないかと考える。
続いて新井 (2006) の関係式から広告について 改めて考えてみると, 広告の送り手は受け手にとっ て関連性が高いだろうと考えられる広告表現を使っ て受け手の認知効果を高めようとする。 しかし, 関連性はあくまで解釈労力と認知効果の入力特性 にすぎず, また認知環境に何らかの変化をもたら す認知効果は, 個々の受け手の無数にあるコンテ クストに依存する。 そのため, 関連性, 認知効果 の点から広告コミュニケーション効果に影響を与 える要因を一般化することは困難であると想定で きる。 その一方で, 解釈労力は外部から影響を与 えることが可能と考えられる変数であり, 広告の 送り手の最適の関連性の見込みを受け手は最小労 力で解釈するという点から鑑みても, その解釈に 値する構成要素を導き出すことができれば, 広告 コミュニケーション効果の測定に対し関連性理論 の有効性を示すことができると考えられる。
次に, 先述したように広告をSDロジックで 捉えると, 広告はサービスとして捉えることがで きる。 サービスの品質は, サービスの購入後に
「」 で表わされるため, その購入以前 の段階ではこの関係式は成り立たない。 ただサー ビス品質を評価する際は, サービスの購入前後で 期待サービスと知覚サービスの評価内容は異なっ てくると考えられる。 この評価内容の差異を事前 に想定することは困難である。 そこでサービスの 業種横断的な一般化を目指して構築されたSER-
VQUALの, 顧客視点から全体的なサービス品
質を捉える5つの構成要素を用いてサービス品質 を測定する。 これらの構成要素は顧客の主観的知 覚を重視しているため, 期待サービス, 言い換え れば顧客の解釈労力の構成要素としても該当する と考えられる。
最後に英単語の意味と日本語を擦り合わせてお く。 日本語の 「信頼」 は, 英語では主に 「trust- worthiness」 「credibility」 「reliability」 の3語 が該当する。 山岸 (1998) の信頼についての概 念整理図をもとに, 日本語の 「信頼」 と英語の
「trustworthiness」 「credibility」 「reliability」 について次のように整理してみる。 具体的な特定 の相手にではなく他者一般に対する信頼は 「信頼 (一般的):trustworthiness」, 誰に対しても信 頼に値する行動をとる人に対する信頼を 「信頼 (社会関係的)(62):credibility(63)」, 他の人間に対 してはともかく, 自分に対しては信頼に値する行 動をとる人に対する信頼を 「信頼 (人間関係的):
reliability」 とし, 「信頼 (一般的):trustworth- iness」 は 「信頼 (社会関係的):credibility」 を,
「信頼 (社会関係的):credibility」 は 「信頼 (人 間関係的):reliability」 と 「安心感:assurance」 を包含する。 提示した広告コミュニケーション効 果測定モデルで 「信頼 (一般的):trustworthi- ness」 を除いたのは, 広告の送り手が広く他者 一般に対する信頼に関する意図明示的刺激を送る ことは, 広告の送り手にとっても広告の受け手に とってもビジネスとして意味をなさないため, 想 定していないと考えられるからである。 また広告 はその受け手に対して間接的説得力を有しており, 受け手の態度変容は送り手の属性に関係するため, 信憑性 (credibility) はこの送り手の属性に該当 すると考えられる。
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弁護士広告の事例の考察 7.1 調査内容と調査結果先に提示した広告コミュニケーション効果測定 モデルの有効性を検討するため, 東京23区内の 交通広告, 特に地下鉄の車内広告を対象に調査を 実施した。 車内広告を調査対象としたのは, 広告
費全体が減少する中で交通広告の広告費は比較的 安定的に推移しており, 中でも車内広告は, テレ ビ, ラジオ, 新聞, 雑誌といったマスコミ4媒体 と比較しても媒体接触率・接触時間ともに安定し ていることから(64),弁護士広告の出稿量が安定し ており, 調査のための一定のサンプルが確保でき ると考えたからである。
調査方法は, 同一日に東京23区内の都営地下 鉄4路線, 東京メトロ9路線の計13路線全ての 地下鉄に乗車し, 全車両内の弁護士広告を目視で 確認後, デジタルカメラでその広告を撮影し, 広 告の数は撮影枚数で, 広告の内容は撮影した画像 データからキャッチフレーズやビジュアルなどを 確認した。
調査は2010年1月9日 (土) の午前5時8分 の東京メトロ丸ノ内線への乗車から始まり, 都営 浅草線の午前8時14分の乗車まで, 3時間6分 で終了した。 その結果, 地下鉄車両内に広告を掲 載している弁護士事務所は11事務所であった。
路線別に見ると, 広告の掲載数は都営三田線が
「6」, 東京メトロ副都心線が 「4」, 東京メトロ半 蔵門線, 東京メトロ南北線が 「3」, 東京メトロ東 西線, 東京メトロ日比谷線, 東京メトロ千代田線, 都営大江戸線, 都営浅草線が 「2」, 都営新宿線が
「1」, 東京メトロ丸ノ内線, 東京メトロ銀座線, 東京メトロ有楽町線が 「0」 であった。 また, 事 務所別に広告数をみると, 最も多いA綜合法律 事務所で 「9路線」, 続くB法律事務所で 「5路 線」, 弁護士法人C法律事務所で 「4路線」, D法 律事務所で 「2路線」, 他の7事務所は 「1路線」
であった。
続いて, 各弁護士広告の記載内容を画像データ から確認, 分析し, 「代表者所属先」 「電話」 「フ リーダイヤル」 「住所」 「Webサイト」 「携帯サイ ト」 「E-mail」 「相談内容」 「料金」 「支払方法」
「相談受付時間等」 「地図」 「写真・絵」 「無料の有 無」 「携帯のマナーモード」 「メディア紹介実績」
の全16項目で整理し, 次のようにまとめた (Ta-
ble1)。 なお代表者の所属弁護士会は日弁連が定
める絶対的記載事項であるため, 全ての広告で記 載が見られたほか, 相談内容についても全ての広
告に記載が見られた。 しかし, この2項目以外に 全ての広告に共通する項目は見られなかった。
またキャッチフレーズについては, 過払い金返 還請求を意識した 「債務」, 「借金」 という各表現 がそれぞれ 「6」, 「3」 あり, 複数の事務所でかな り似通った表現が見られた。
7.2 広告コミュニケーション効果測定モデル による考察
調査結果を, 関連性理論を用いた広告コミュニ ケーション効果測定モデルを使い, 広告の構成要 素と広告表現の2つの観点から考察する。
まず, 先の16項目の構成要素を5つの解釈労 力に分類してみると, 「信頼性:0」 「安心感:5 (代表者所属先, 相談内容, 料金, 支払方法, メ ディア紹介実績)」 「反応のよさ:1 (相談受付時 間等)」 「共感:2 (無料の有無, 携帯のマナーモー ド)」 「有形性:8 (電話, フリーダイヤル, 住所, Webサイト, 携帯サイト, Email, 地図, 写真・
絵)」 となった。 このことから, 実際の弁護士広 告の構成要素だけで信頼性, つまり 「信頼かつ正 確に約束されたサービスを提供する能力を表わす こと」 は難しく, それを安心感, すなわち 「従業 員に知識と礼儀, 信用と信頼を鼓舞する能力があ るため, 自分を搾取する行動をとる誘因が相手に 存在しない」 ことや有形性で信頼性に代替してい ると考えられる。 また, 反応のよさや共感につい ても, 信頼性と同様, 広告の構成要素だけで表わ すことは難しく, 逆に有形性については, 広告の 構成要素で表わしやすいと考えられる。 ただ, 日 弁連の自主規制の結果, こうした構成要素となっ ているのであれば, 有形性や安心感に関する構成 要素では広告の受け手の関連性を高くすることは 難しいと考えられる。 実際の弁護士事務所で反応 のよさや共感に関する構成要素を記載しているの は3事務所のみである。
次に広告表現には複数の解釈労力がかかること を前提に, キャッチフレーズを5つの解釈労力に 分類すると, 「信頼性:0」 「安心感:9」 「反応の よさ:2」 「共感:6」 「有形性:0」 となった。 こ のことから, 広告表現では信頼性や有形性を伝え
相談受付
時 間 等 地 図 写真・絵 無料の 有 無
携帯の マナー
メディア
紹介実績 キャッチフレーズ
1 A綜合法律事務所 ○ × × × ○ × 債務の整理
2 B 法 律 事 務 所 × × 絵
(さくら) ○ ○ × 債務の整理 あなたのお悩み…お手伝い!!
3 弁護士法人C法律事務所 ○ × × ○ ○ × 借金を減らしたい方, 払い過ぎたお金を取り 戻したい方, ベル法律事務所へご相談下さい。
4 D 法 律 事 務 所 ○ × 写真
(女性・空) ○ × × お金の法律相談室 5 E 法 律 事 務 所 ○ × 絵
(似顔絵) × × × あなたの立場で真剣に考えます!!
6 F 法 律 事 務 所 × × × × × × 親身になって…多重債務の整理
7 弁護士法人G法律事務所 ○ ○ 絵
(ノート) × × × 誰にも話せない 借金返済マル秘計画!!
8 弁護士法人H法律事務所 ○ × 写真
(本 人) ○ × ○ 債務整理の相談 何度でも 無料!!
債務整理の依頼実績は24,000件
9 弁護士法人I綜合法律事務所 ○ ○ × ○ ○ × 多重債務の苦しみから解放されたい方に, 大 丈夫, そのために弁護士がいます。
10 J 法 律 事 務 所 ○ × × ○ ○ × 離婚・借金問題でお困りの方や労働問題等は お任せ下さい。
11 K 法 律 事 務 所 × ○ 絵
(似顔絵) × ○ × 債務, 離婚, 相続のことは弁護士にお任せく ださい。
計 8 3 6 6 6 1
Table1 弁護士広告の記載内容 代表者
所属先 電 話 フ リ ー
ダイヤル 住 所 Web サイト
携 帯
サイト Email 相 談
内 容 料 金 支 払 方 法
1 A綜合法律事務所 ○ ○ ○ × ○ × × ○ × ×
2 B 法 律 事 務 所 ○ ○ × ○ × × × ○ ○ ○
3 弁護士法人C法律事務所 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ×
4 D 法 律 事 務 所 ○ × ○ ○ × × × ○ × ○
5 E 法 律 事 務 所 ○ ○ × ○ ○ × × ○ × ○
6 F 法 律 事 務 所 ○ ○ × ○ × × × ○ × ×
7 弁護士法人G法律事務所 ○ ○ × ○ ○ × ○ ○ × ×
8 弁護士法人H法律事務所 ○ × ○ ○ × × ○ ○ ○ ○
9 弁護士法人I綜合法律事務所 ○ ○ × ○ ○ ○ × ○ × ×
10 J 法 律 事 務 所 ○ ○ ○ ○ × × × ○ × ×
11 K 法 律 事 務 所 ○ ○ × ○ ○ × ○ ○ × ×
計 11 9 5 10 6 2 4 11 2 4
ることは難しく, 受け手に安心感や共感を与える 表現を用いて信頼性や有形性に代替していると考 えられる。 なお, 表現の中に 「債務」 や 「借金」
など同じ用語を使った類似のキャッチフレーズが 複数の事務所で見られたが, 事務所を特定できる ような個性的なキャッチフレーズは見られなかっ た。 ただ, これらの用語は先述したように過払い 金返還請求を意識したものであり, 広告の受け手 に弁護士の業務の範囲とともにターゲットをも推 意させる意図明示的刺激であるということができ よう。 しかしその一方で, 広告の送り手は自主規 制のため, 受け手に誤導・誤認をさせるような曖 昧な表現等を利用することができなくなっている。
曖昧な表現, すなわち受け手に推意を促す表現に 制約があるということは, 受け手の解釈労力は低 くならざるをえず, また認知環境に与える変化は 少ないと想定できるため認知効果も低くなってし まう。 つまり, 現在の弁護士広告で利用されてい るキャッチフレーズは広告の受け手に対する関連 性は低く, 広告コミュニケーション効果も低くなっ ていると考えられよう。
言い換えれば, 現在の弁護士広告は, 標的顧客 は明確化され, 車内広告という高媒体接触率で媒 体接触時間量も多い広告媒体を利用してはいるも のの, 広告表現に対する自主規制のため似たよう な広告表現が氾濫し, 標的顧客が態度変容を起こ せない状態, つまり説得力が低い表現となってい ると考えられる。
これらの考察を踏まえると, 関連性理論を用い た広告コミュニケーション効果測定モデルは, 弁 護士広告に対して, 一定の有効性を有していると いえるだろう。
8
今後の課題本稿では先行研究の知見を基に関連性理論を応 用した広告コミュニケーション効果測定モデルを 提示し, これを自主規制のある弁護士広告に対し て適用することでその有効性の検討を試みた。 し かしいくつかの点について議論の余地が残されて いる。
まず1つめは本稿における本モデルを活用した 考察は, 統計的に処理されたものではないため, アンケート調査等により実際の広告の受け手の反 応について統計的に実証する必要があろう。 その 際には, 受け手の態度変容を促す効果が, キャッ チフレーズなのか, それともこれを含む広告の他 の構成要素なのかを分けて分析する必要があろう。
2つめは, 広告媒体が異なる場合について検証す る必要があろう。 特に今日においては, マスコミ 4媒体や利用者の口コミだけでなく, インターネッ トの検索エンジンを活用してさまざまな調査をす ることが多い。 それ故Webサイトにおいても本 研究の結果と同様の結果が出るかどうか検証する 必要があろう。3つめは本モデルにおいて, SER-
VQUAL以外のサービス品質測定モデルの利用
可 能 性 に つ い て も 検 証 す る 必 要 が あ ろ う 。
SERVQUALを実際に利用する場合は次元や項
目を修正することが多く, 本モデルにその他の次 元や項目が入り込む余地が全くないとはいえない だろう。 4つめは, 解釈労力の5つの構成要素の 具体的な測定方法とその優先度等についても検証 する必要があろう。 本稿では特に議論していない が, 広告の受け手によって優先度が異なる可能性 や何よりも優先される構成要素がある可能性もあ るであろう。 5つめは, 広告の受け手の立場の違 いによって, 本モデルが適用できるか確認する必 要もあろう。 広告の送り手と受け手が同じ職業で あれば, その内容に対する見方が厳しくなること は想定できよう。 そして6つめは, 広告表現に規 制がある弁護士広告以外でも本モデルの有効性を 検証する必要があろう。 広告表現に制約がない場 合, 広告の受け手の解釈労力はどう作用するか, 広告全般に対して本モデルの有効性を示すための 検証は必要であろう。 これらの点については今後 の課題としたい。
付 記
本稿は埼玉大学大学院経済科学研究科の平成22年 度優秀論文に加筆・修正を加えたものである。