血液透析による物質除去
~血流と時間はどちらが重要?~
東京大学医学部附属病院
腎疾患総合医療学講座
長時間透析研究会
COI開示
筆頭発表者名:花房 規男
演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などとして、
①顧問:
なし
②株保有・利益:
なし
③特許使用料:
なし
④講演料:
バイエル株式会社
⑤原稿料:
なし
⑥受託研究・共同研究費:
なし
⑦奨学寄付金:
なし
⑧寄付講座所属:
テルモ株式会社
⑨贈答品などの報酬:
なし
本日の内容
• 血流量の重要性
– 拡散のクリアランス:Q
D, KoA, Q
Bの最も低いものに影響
– 表示(設定)血流量,実血流量,有効血流量の違い
– 穿刺針の径が重要である
– 体重を考慮する必要性
• 透析時間の重要性
– コンパートメント・コンパートメント間の移動速度
– 水・リンなど:血管内外の不均衡→時間をかける.
• 経口摂取が重要(十分な透析の前提・結果)
– 低栄養患者の増加,しっかり食べて,しっかり透析
血流量の重要性
拡散
• 血液透析の溶質除去で最も重要な機序.
• 拡散によるクリアランスは,
– 血流量 (Q
B)
– 透析液流量 (Q
D)
– 総括物質移動面積係数 (KoA)
に依存する.
拡散によるクリアランスの特徴
• 拡散によるクリアランスの理論式
– Z= exp (K
0A/Q
B(1-Q
B/Q
D))
– K=0.894Q
B(Z - 1) / (Z - Q
B/Q
D)
• ポイント:クリアランスは
– 血流量(Q
B)
– 透析液流量(Q
D)
– 総括物質移動面積係数(KoA)
のいずれも超えないという特徴がある.
• クリアランスはQ
B, Q
D, KoAのうち最も小さいものが
規定する.
① 透析液流量の現状
施設血液透析
<400 400- 450- 500-550-血液透析濾過
<400 400- 450- 500- 550-透析液流量は400~500ml/minでほぼ一定である. わが国の慢性透析療法の現況 2008年12月31日現在② ダイアライザの要因
(FBシリーズのKoA)
尿素
に対するKoA
0 300 600 900 1200 1500 1800 0 0.5 1 1.5 2 2.5ビタミンB
12に対するKoA
KoA (ml/min) KoA (ml/min)膜面積(m2) 膜面積(m2) Gシリーズ Uシリーズ Uβシリーズ 膜面積と,KoAとの間には直線的な関連が理論上みられる(Ko×A). 直線の傾きがKo (総括物質移動係数)で,膜の材質,溶質により異なる. 0 300 600 900 1200 1500 1800 0 0.5 1 1.5 2 2.5 Gシリーズ Uシリーズ Uβシリーズ
ダイアライザー膜面積
施設血液透析
<1.0 1.0- 1.2- 1.4- 1.6- 1.8- 2.0- 2.2-2.4-血液透析濾過
<1.0 1.0- 1.2- 1.4- 1.6- 1.8- 2.0- 2.2- 2.4-わが国の慢性透析療法の現況 2008年12月31日現在 HDFよりHDの方が小さな面積のダイアライザーが使用されている. HDにおいても,膜面積は1.1 – 2.1m2がほとんどを占める. (m2) (m2)ダイアライザの尿素に対するKoA
FBシリーズ
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 0 0.5 1 1.5 2 2.5ポリスルホン(APSシリーズ)
KoA (ml/min) KoA (ml/min)膜面積(m2) 膜面積(m2) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 0 0.5 1 1.5 2 2.5 Gシリーズ Uシリーズ Uβシリーズ MDシリーズ SAシリーズ DSシリーズ 尿素に対するKoAは通常使用される膜面積のダイアライザーでは 500~1500ml/minに分布する.特にFB-Uβシリーズは高いKoAを持つ.
物質除去には血流量が重要
• 拡散のクリアランスには血流量が大きく寄与
– 透析液流量 400~500ml/min
– KoA 500~1500ml/min
– 通常の血流量の範囲では,Q
B<Q
D, KoAである.
• 血流量自体を考慮する際の
問題点
– 血流量か血漿流量か
– 表示(設定)血流量 vs 実血流量 vs 有効血流量
– 血流量と体格の関連
血漿流量を考慮することの重要性
• 尿素の特殊性
– 細胞膜を非常に速やかに通過できる
– ダイアライザーを通過している間に赤血球内から血漿中に移動.
– このため,尿素クリアランスは全血の流量が規定する.
• 一般的な物質の物性
– 血漿中に主に分布していて,細胞内からの移動は乏しい.
– クリアランスに関与するのは,血流量ではなく,血漿流量(血流量
×(1 – ヘマトクリット))である.
– クリアランスを計算する場合Q
Bでは過大評価.
– 高ヘマトクリットの患者では,クリアランスが低下する可能性.
• 血漿流量を考慮することが重要
である.
表示(設定)血流量 VS 実血流量
表示血流量,実血流量,有効血流量
• 実際のクリアランスに関与するのは,
• 「表示」血流量ではなく,「有効」血流量である.
• 再循環がみられる場合には,実血流量に比較して
有効血流量が低下する.
脱血不良,ポンプ前の陰圧による差 再循環 表示(設定) 血流量 有効血流量 実血流量 クリアランスギャップ (CL-Gap)の血流量に 由来する部分 通常これが見える クリアランスに関与 増加させたい対象物質除去に関わる血流量
(有効血流量)と関連する因子
• 患者側
– アクセスの発達度・アクセス不全
– 再循環の有無
• 治療側
– 穿刺針の太さ・長さ
アクセス不全による血流量低下
脱血側穿刺部位 返血側穿刺部位穿刺部位と狭窄部位との関連で4つのパターンに分けられる.
脱血不良
:①,② →
実血流量
の低下を来す.
再循環
:①,②,④ →
有効血流量
の低下を来す.
静脈圧上昇(静脈高血圧症):④
③に生じた狭窄は症状が出現しづらい.それ以外の狭窄は
CL-Gapで
理論的には検出可能
である
(アクセス精査の契機になる)
.
②
①
③
④
吻合部 静脈 動脈 血流 下流 上流再循環と有効血流量
有効血流量 再循環血流量 実血流 物質除去に 関与する部分 有効血流量が物質除去に関与する部分. 再循環がある場合には,実血流のうち再循環血流量以外の部分しか除去に関与しない. クリアランスギャップのモニタリング:異常がみられる場合→再循環率測定 脱血側穿刺針 返血側穿刺針実血流量測定の実例:
HD-02(超音波流量計)
表示血流と実血流との関連
• 50人,233回(1人あたり中央値 3.5回, 四分位
範囲 2.0 – 7.8回)の治療を対象とした.
• 開始時では,表示流量が高い場合には表示
血流量に対する実血流量の割合は低下する
傾向.特にカテーテルで顕著であった.
• 終了時では,バスキュラーアクセスの種類に
よらず,表示流量が高い場合には低下する
傾向にあった.
穿刺針の影響:
Hagen-Poiseuilleの法則
Gotthilf Heinrich Ludwig Hagen Jean Léonard Marie Poiseuille (1797-1869)
Hagen-Poiseuilleの法則
• Hagen-Poiseuilleの法則(粘性のある流体の流れ
方に関する法則)
Q=
𝜋
8ν𝜌
𝐿
a
4
ΔP
Q:流量,液体の性質(ν: 動粘性係数, ρ: 密度),
管の性質(L: 管の長さ,
a: 管の径), ΔP: 圧力差
• オームの法則
電圧=
抵抗
×電流 → 電流=
1/抵抗
×電圧
• 管の抵抗は,
8ν𝜌
𝐿
𝜋
a
4
で表される.
• 長さに比例,太さの
4乗
に反比例→太さがとても
重要.
一般的な回路の径と圧力損失
• 血液回路:内径 4mm
• 穿刺針の内径:1.5mm (17G)
• 同じ長さであれば,穿刺針が数十倍も圧損失に関与している
– (4/1.5)
4= 50.6
• 一般的な穿刺針の長さ30~38mmは,同じ圧力低下を生じる
血液回路の長さに換算すると,1.5~2mにも相当する.
• 以上のことから,透析回路の流路抵抗を考慮した場合,穿刺
針の径が非常に重要な位置をしめる可能性がある.
実際の測定
• 牛血を用いて,穿刺針の太さ・長さと圧力損失と
の関連を検討した.
• 治療条件
– ダイアライザー:APS-15SA
– 牛血液:Ht 30, 40%.2Lを恒温槽で37℃で保温.
– 実血流:150, 200, 250, 300, 350ml/分(HD-02で測定)
– 穿刺針:16G 38mm, 16G 24mm, 15G 38mm
• 圧力測定:脱血圧(2カ所),Aチャンバー圧,V
チャンバー圧,静脈側圧を測定
市村ら, 第59回日本透析医学会学術集会, 神戸, 2014.牛血 2L, Ht 40% or Ht 30% 37℃に保温
回路図と圧力測定ポイント
回路内圧損失を測定するため,A側では2カ所 V側においても,Vチャンバーとポートの2カ所で測定する. Aチャンバーも測定し,ダイアライザーによる圧損失を評価する. (なお,A側,V側は図中では高さが合わせられていないが, 実際には静水圧を考慮するため,牛血プールの液面と合わせる) 市村ら, 第59回日本透析医学会学術集会, 神戸, 2014.動脈側針前後の陰圧:穿刺針の影響
• 実血流量と穿刺針による圧力低下との関連
からは,実血流が大きくなるほど陰圧が増加
した.
• 穿刺針における陰圧は,表示(設定)血流量
と実血流量の差の原因
• 穿刺針による圧力損失には,穿刺針の太さ
が大きく関与していた.
市村ら, 第59回日本透析医学会学術集会, 神戸, 2014.高流量の血液透析を行う場合に
望ましい穿刺針・回路とは
• 高流量(250ml/min以上)の条件では
• 穿刺針
– 太く(15G)←絶対条件
– 短い(24mm: 抜針事故には十分注意)
– 透析後半の血液の濃縮によるHt上昇時,あるい
は高Ht患者にも注意
• 血液回路
– 特に動脈回路は太く,短く
Kt/Vは性別により分布が異なる
0 5 10 15 20 25 30 35 <0.8 0.8- 1.0- 1.2- 1.4- 1.6- 1.8- 2.0-男性 女性 女性の方が,男性よりKt/Vが大きい. わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在 男性:1.37±0.26, 女性:1.60±0.32 spKt/V 性別毎全患者に対する割合(%)体重の分布(性別ごと)
0 10 20 30 40 50 <30 30- 40- 50- 60- 70- 80- 90- 100-男性 女性 尿素分布容量と深い関連のある体重は,女性の方が,男性よりも軽い. 尿素分布容量は女性が男性に比較して小さいことが推測される. わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在 男性:58.77±11.56kg 女性:47.57±10.11kg 性別毎全患者に対する割合(%) 体重(kg)わが国の透析患者の血流量分布
男性
<100 100- 120- 140- 160- 180- 200- 220- 240- 260- 280-300-女性
<100 100- 120- 140- 160- 180- 200- 220- 240- 260- 280- 300-尿素クリアランスを規定する血流量は,女性がやや低いがおおよそ180~230ml/minに 男性・女性とも分布する(おおよそ±10%) わが国の慢性透析療法の現況 2008年12月31日現在Kt/Vと体重との分布の比較
0 5 10 15 20 25 30 35 <0.8 0.8- 1.0- 1.2- 1.4- 1.6- 1.8- 2.0-男性 女性 0 10 20 30 40 50 80- 70- 60- 50- 40- 30- <30 男性 女性 Kt/V,体重の逆順の分布は,比較的似た分布をする. 体重(尿素分布容量)が異なるが,ほぼ同一の血流量で治療が行われていることが, 女性が男性よりKt/Vが大きいことの理由の一つかもしれない. わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在 性別毎全患者に対する割合(%) 性別毎全患者に対する割合(%) spKt/V 体重(kg)体重とKt/V
0% 20% 40% 60% 80% 100% <30 30- 40- 50- 60- 70- 80- 90- 100- 2.0- 1.8- 1.6- 1.4- 1.2- 1.0- 0.8-<0.8 体重別のKt/Vの分布を見ると,体重が重い患者では,Kt/Vが小さい 患者が多いことが明らかで,体格によらない比較的均一な血流量が Kt/Vの差を生んでいる可能性が示唆される. 体重(kg) 各体重群ごとの全患者に対する割合(%) spKt/V わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在体重あたり血流量を考慮する
• Q
B
t/10BW(体重あたり血流量×透析時間
÷10)がKt/V
urea
と相関がみられる.
• Kt/V
urea
を分解すると…
– クリアランス(K)×透析時間(t)÷尿素分布容量(V)
• 尿素クリアランスはおおよそ血流量に依存する
• 尿素分布容量は総体液量(0.6×BW [kg])
– Kt/V
urea→ Q
B[ml/min] x t [h] x 60 [min/h] / (0.6 x
1000 [ml/kg] x BW [kg]) =Q
Bx t x 60/(600 x BW)
=
Q
Bt/10BW
(=Q
B/BW x t /10)
Kt/VとQ
B
t/10BWとの関連
対象患者 当院で血液透析を施行した患者(102人) 男性:女性 70:32 年齢 66.6±12.0歳 糖尿病 40 (39.2%) 透析歴 2.9±4.4年 血流量 170.8±29.1 [100 – 250]ml/min 透析時間 3.44±0.46 時間 ダイアライザ膜材質 CTA 72, PS 30 KoA 895±220.3ml/min 実測Kt/V 1.18±0.27 本来QBt/10BWは「処方」Kt/Vの代理. クリアランスギャップなどの影響は 受けることには注意. QBt/10BW = 1.070 Kt/V – 0.081 R2 = 0.773 少なくとも,尿素クリアランス には,体重あたり血流量を 考慮することが重要である 花房ら,透析会誌 38: 1583, 2005血流量に関するわが国の現状
施設血液透析
施設血液透析濾過
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2002 2006 2007 2008 2012 2013 400〜 350〜 300〜 280〜 260〜 240〜 220〜 200〜 180〜 160〜 140〜 120〜 100〜 100未満 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2002 2006 2007 2008 2012 2013 400〜 350〜 300〜 280〜 260〜 240〜 220〜 200〜 180〜 160〜 140〜 120〜 100〜 100未満 高流量の患者が 増加している 高流量の患者が 増加している わが国の慢性透析療法の現況(いずれも透析回数週3回) 近年,HD,HDFとも高血流量を処方される患者の割合が増加.特にHDFで顕著.小括:血流量の重要性
• 拡散による除去は,Q
B,Q
D,KoAが関与,小分子クリアラ
ンスはほぼQ
Bが規定.
• 多くの物質に対するクリアランスは血漿流量(ヘマトク
リット)を考慮する必要がある.
• 血流量には設定値との間に誤差を生む要因がある.
実血流量・有効血流量が重要であり,クリアランスギャッ
プのモニタリングが有用.
• 特に高血流量の場合,十分な径の穿刺針を使用するこ
とが重要.
• 体重による血流量の個別化が重要で,処方時には体重
あたり血流量の概念(Q
Bt/10BW)も有用である.
透析時間の重要性
血液透析における物質除去と
関連する物質側の因子
• 分子量
– 物質自体の分子量
– 蛋白結合率(蛋白結合物質)
• 分布容量
– コンパートメントの有無
– コンパートメント間の拡散速度
• 産生速度
ダイアライザの膜性能 間欠治療の限界 透析時間と関連コンパートメント間の移動
• ①「細胞内」,「血管外」に分布する量,②血漿中への移動速
度により,透析による物質除去に差.
• 血管外・細胞内に少ない物質(分布容量が小さい)
– 透析により効率よく除去される可能性.
• 血管外・細胞内に多い物質(分布容量が大きい)
– 血管内への移動速度速い(尿素):比較的効率よく除去
– 血管内への移動速度遅い(リン,水など):除去に時間がかかる.リバ
ウンドがみられる.
長時間透析が有効
.
分布容量が小さい物質 分布容量が大きい物質 移動速 移動遅移動速度と物質除去
移動遅 移動速度速い 移動速度遅い 平衡状態(透析間) 透析中の除去 移動速 セカンドコンパートメントからの移動が (透析による除去速度よりも)速ければ, 有効に物質が除去される. セカンドコンパートメントからの移動が (透析による除去速度よりも)遅ければ, コンパートメント間に不均衡を生じる. 移動速度がボトルネックとなる. 物質を有効に除去するには,時間が重要. 血漿 血管外容量 血管外容量 血漿 血漿 血管外容量 血管外容量 血漿臨床上移動速度が遅いことが
大きな問題となる物質
• 2コンパートメント以上に分かれている.
• セカンドコンパートメントからの流入速度が,
透析による除去より遅い.
• リン:細胞外液には1%しか存在しない.
• 水:除水とplasma refilling
• 長時間透析が特に有用である.
2つ以上の分画に分布する物質
リンの例
• (血管外の)透析では直接除去
対象とならない2コンパートメント
目が存在する.
カルニチンの例
• 血管外に移動の速い(rapid)コン
パートメントと,遅い(slow)コン
パートメントが存在する(3コン
パートメント)
CJASN 6: 2854, 2011 Br J Clin Phramacol 64: 335, 2007 血漿 分画 透析ではアクセ スできない分画 血漿 移動の遅いコ ンパートメント 移動の速いコ ンパートメントそれぞれの除去様式
リンの例
• 透析後半で濃度が一定.
カルニチンの例
CJASN 6: 2854, 2011 0.1 1 0 1 2 3 4• 後半の濃度低下が少ない.
クリアスペース率 0.15±0.02 0.19±0.03* 濃度(開始時=1) 時刻(hr) *: p<0.001 (vs 0-2時間), paired Wilcoxon 透析による除去と,2つめのコンパートメントからの流入とがバランスがとれている. 血清リン濃度(mg/dl) 花房ら, 第58回日本透析医学会学術集会, 福岡, 2013. 時刻(hr)長時間透析によるリンの除去
• 週当たりリン除去量
連日短時間 夜間長時間 通常• Setting: London
Daily/Nocturnal Hemodialysis
Study(カナダ)の検討.
• 対象:施設HD患者(40人).
• 介入:
– 連日短時間 10人,1.5-2.5時間×6-7回/週 – 長時間夜間 10人,6-8時間×6-7回/週 – 通常血液透析 20人,3.5-4.5時間×3回/週• アウトカム:
– カルシウムバランス. – リン除去量の推移. JASN 14: 2322, 2003長時間透析によるリンの除去
0 1 2 3 4 5 6 開始時 3ヶ月 6ヶ月 9ヶ月 12ヶ月 CJASN 4: 778, 2009 平均リン濃度(mg/dl) いずれの報告においても,夜間長時間透析が有効にリンを低下させる.• Setting: St. Michael病院
(カナダToronto),施設夜
間血液透析プログラム.
• 対象患者:週3回血液透
析施行患者39人
• 介入:通常のHDから,隔
日夜間(7 – 8hr)に変更.
• アウトカム:変更前後のリ
ン濃度の推移,血圧経
過.
低リン血症についての検討
• 対象患者
– 2007年に当院ICU/CCUに入室し,CRRTを行った患者.
変数 値 CRRT開始時のデータ リン (mg/dl) 4.73±2.10 (1.7–12.0) CRRT治療条件 濾液量 (EFR)** (L/h) 1.13±0.51 (0.50–4.50) 体重あたり濾液量 (ml/kg/hr) 19.7±8.86 (8.53–70.0) **: 透析液流量と限外濾過量の和 変数 値 リン最低値(mg/dl) 2.19±1.24 (0.3–5.4, median = 2.0) CRRT開始からリン最低値までの日数 5.26±7.20 (0–39) CRRTのdoseは低かったが,低リン血症の頻度は高かった. 5日CRRTを継続すると,リンは確実に除去される.2つ以上のコンパートメントに
分布する物質の除去
• 単位時間あたりのクリアランスを増加させると…
– 血管内外の不均衡を生じる
– 体内総量の減少にはつながらない.
• 治療時間の延長が有効である.
– 体内総量を有効に減少させることが可能である.
水の除去における時間の重要性
Plasma refilling rate (PRR)
• 血管外に貯留した水・ナトリウムが血管内へ移
動する速度.
• PRRとDWとの間には関連がみられる.
– 体液過剰の場合(DW低下が必要):PRRは大きい.
– 体液過小の場合(DW増加が必要):PRRは小さい.
– DW設定の指標の一つとして用いられる.
• PRRを大きく超えた除水は血液量の減少から,血
圧低下の原因となる.
透析間の水の移動
経口摂取された水・ナトリウムは血管内から血管外へ移動し,
透析直前には血管内外に均等に分布する.
血管内 血管外 血管内 血管外水・ナトリウム
摂取
血液透析中の水の移動
除水 除水 血液透析は血管内からしか 水を除くことができない. Plasma Refilling 血管外の水はplasma Refillingにより 血管内に移動する必要がある. 血管内 血管外 血管内 血管外ドライウェイトとplasma refilling rate
除水 除水 ドライウェイトの 設定が低い場合 血液は過度に濃縮→血圧低下 血管内 血管外 血管内 血管外 ドライウェイトの 設定が高い場合 血液は希釈実際の測定法:クリットライン
• ヘマトクリット濃度を指標.
モニタ画面
クリットラインによる血液濃縮の評価
-20 -15 -10 -5 0 5 0 1 2 3 4 -20 -15 -10 -5 0 5 0 1 2 3 4⊿
Bloo
d
V
o
lu
m
e(%
)
透析経過(時間)
透析経過(時間)
血液濃縮がみられない.
PRR>UFR(除水速度)
→DW低下可能?
高度の血液濃縮がみられる
PRR<<UFR(除水速度)
→DW上昇が必要?
簡便な方法:Plasma Water Index(PWI)
• 標準値:2~4 (体重変化の2~4倍の濃縮)
PWI<2 → 血液濃縮小 → DW↓可能
PWI>4 → 血液濃縮大 → DW↑必要
PWI =
透析後TP
–
透析前TP
透析後TP
透析前BW
–
透析後BW
透析前BW
クリットラインは専用の機械が必要→全員に行うことは困難
PWIでは,
前後の総蛋白
を測定しさえすれば計算可能.
透析会誌 32:1051,1999体内の水分画
総体液量(体重の60%) 水を通す 等張液 (Na)を通す 細胞内液(2/3) 間質(1/4) Naが規定 蛋白が規定 循環動態(血圧)に関連 血漿(1/12) 細胞外液(1/3) 血漿蛋白は 不通過体重の5%の除水で15%のBV低下とは?
血漿(1/12) (体重の約5%) 血管外容量(11/12) PWI = 3に相当(おおよそ適正と考えられるDW) 体重の5%の除水:体液量は体重の60%→体液量の1/12に相当(=血漿と同じ量) 15%のBV低下:HD開始前のHt 30%とすると,15% ÷ (1 – 0.3)で約21%の血漿の減少に相当. 血漿の約80%に相当する水(体重の約4%)が血管外から移動している →透析中の血圧の維持には,plasma refillingの存在が非常に重要である. 血漿の21% (体重の約1%) plasma refilling 4時間透析を考慮すると,このときのPRRは 1%kgBW/hr 適正なDWであれば,体重の5%の除水で,1時間あたり体重の約1%のPRが生じる. 血漿の79% (体重の約4%)ドライウェイトとPRRとの関連(模式図)
透析後体重 適正なDW 適正なDWより透析後体重が多いと (DWを下げなければならない場合), PRRは大きくなる. 適正なDWより透析後体重が少ないと (DWを上げなければならない場合), PRRは小さくなる. 適正なDWでは,体重の3~5%の除水で 体重の1%/hr程度のPRRがみられる. Plasma refilling rate(%BW/hr)
1.0 2.0
除水速度・PRRと濃縮との関連
(模式図)
透析後体重 Plasma refilling rate
(%BW/hr) 1.0 2.0 ある一定の除水速度 (例:1.25%BW/hr) 適正なDW PRR>除水速度 → 血液希釈 PRR<除水速度 → 血液濃縮 適正なDWより透析後体重が少ないと 適正なDWより透析後体重が多いと クラッシュの可能性がある領域 同じ除水速度でも,目標体重が低くなると,クラッシュの可能性が増加する. 濃縮が過剰になると クラッシュの可能性
(模式図)
透析後体重 Plasma refilling rate
(%BW/hr) 1.0 2.0 4時間で適正なDW クラッシュの可能性がある領域 時間を延長することで,除水速度が低下するため,少ないPRRでも血圧低下しない. DWを低下させることが可能となり,高血圧のコントロールが容易になる. (実際には,その他様々な要因があるが…) 新たなDW 透析時間を2倍に延長すると,除水速度を半減できる. より低い透析後体重でも,PRRとUFRとの差が 小さくなるので,DWの低下が可能となる. 4時間での除水速度 (例:1.25%BW/hr) 8時間での除水速度 (例:0.63%BW/hr)
CharaらのTassinの例
• Lyon郊外 Tassinの人工腎臓センターで透析
を受けている445人
• 観察期間 最長30年
• 低Na食,長時間透析(24時間/週)
• 降圧剤は95%以上不要となっている
Kidney Int 41:1286,1992平均血圧(mmHg) DW(kg) 平均血圧推移 DW推移 Am J Kidney Dis 32:720,1998 導入期ではあるが,長時間透析を行うことで2kg低下できている. 95%以上の患者で,降圧剤が不要となっている. 透析時間の増加により,体液コントロールが容易になった.
DRIP trial:
短時間透析でDWを下げたら?
×
×
×
体重(kg) DWの低下が,血圧コントロールの改善につながる可能性について検討した. 介入群では積極的にDWを下げていった. Hypertension 53: 500, 2009血圧は低下したが副作用も多い
収縮期血圧の推移
低血圧関連副作用も多い
副作用 開始時 6-8週後 下肢つり 10.2 6.0* ふらつき 3.4 6.0** 低血圧 11.6 13.2** 嘔気 1.0 1.3 頭痛 0.9 0.4 下肢挙上 1.1 3.2 除水速度低下 7.1 6.3** 除水停止 14.1 10.2** 生食輸注 6.4 8.4** *: p<0.01, **: p<0.001 vs baseline (週) DWの低下(平均1.0kg)が,高血圧コントロールの改善につながることがしめされた. しかし,透析中に低血圧関連副作用も多かった(短時間透析の限界) Hypertension 53: 500, 2009透析中の血圧低下は予後と関連
• 中之島スタディ(大阪),1244人の透析患者
• 透析中の血圧・血圧変動と,2年予後を検討.
透析中に血圧が低下すると,特に開始前にすでに血圧が低い患者で予後不良.
透析中の血圧低下(mmHg) 透析中の血圧低下(mmHg) 2 年間の死亡率 (% ) 2 年間の死亡率 (% ) 開始前SBP(mmHg) 開始前DBP(mmHg) [KI 66: 1212, 2004]0 20 40 60 80 100 0 5 10 15 20 観察期間(年) Kidney Int 41: 1286, 1992 年齢調整したわが国の 透析患者の生存率 Tassinの生存率 累積生存率(%) Tassinは比較的若年患者が多かった. 透析医学会年末調査との比較(2010年:年齢調整) 年齢調整後も,有意に良好な予後と関連. 血圧のコントロール,「溶質」除去がよいことが重要.
小括:透析時間の重要性
• 時間が重要な状況.
• 2つ以上のコンパートメントに分布する場合
• リン:長時間透析によりコントロールが容易に
なり,補充が必要となることもある.
• 除水:plasma refilling rateに見合った除水速
度にすることで,体液過剰を解消でき,良好
な予後と関連する.
経口摂取と電解質
• 食事摂取量と各種電解質は深い関連.
0% 20% 40% 60% 80% 100% <0.6 0.6- 0.8- 1.0- 1.2- 1.4- 9.0- 8.0- 7.0- 6.0- 5.0- 4.0- 3.0-<3.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% <0.6 0.6- 0.8- 1.0- 1.2- 1.4- 9.0- 8.0- 7.0- 6.0- 5.0- 4.0- 3.0- 2.0-0% 20% 40% 60% 80% 100% <0.6 0.6- 0.8- 1.0- 1.2- 1.4- 6.5- 6.0- 5.5- 5.0- 4.5- 4.0- 3.5- 3.0-nPCR(g/kg/day) nPCR(g/kg/day) nPCR(g/kg/day) リン(mg/dl) 体重増加率(%) カリウム(mEq/L) 経口摂取の指標として蛋白摂取量(nPCR) を設定した. nPCRと,各種電解質(リン,カリウム,Na 摂取量の代理指標としての体重増加) との間には正の関連. nPCRが低い群では,各種電解質が低い 傾向にあった.透析患者の年齢別患者数推移
実数でみると,65歳未満は概ね変化なく,透析患者数の増加は65歳以上の 患者の増加であることが分かる.