博 士 ( 医 学 ) 黒 滝 大 翼
学 位 論 文 題 名
凹9 インテグリン陽性脾臓マクロファージサブセットの機能 学位論文内容の要旨
【 背 景 と目 的 】T細 胞 の分 化 と そ の機 能 の 獲 得は 、 抗 原 提示 細 胞 の 活性 化 状 態 およ ぴ 抗 原提 示を 受 け る 際に 存 在 す るサ イ ト カ イン な ど の 微少 環 境 に 依存 し て いる 。強カ な抗原 提示細 胞(Antigen Presenting Cell; APC)として知られている樹状細胞(Dendritic Cell; DC)は,T細胞の活性化を促進または 抑制することで、免疫応答のバランスを制御していることが現在までに良く知られている。しかし、末梢組 織 に 最 も豊 富 に 存 在す るAPCで ある 組 織 常在マ クロフ ァージ(Mcp)によるT細胞反 応調節 機構に 関し ては未だ不明な点が多い。
組 織常 在M9は、その 多くが 骨髄前 駆細胞 から派 生した 末梢血 循環単 球に由来 すると 考えら れてい る 。一旦組 織へと 入った単球は、骨、脳、肺、肝臓、脾臓など、異なる微少環境刺激に応じて多様な形 質を有するM中^と分化する。異なる組織における不均質性(heterogeneity)に加えて,Mcpは同じ組織内 に おいても 高度の 機能的 多様性 を有し ている。最近の研究で、腸管に存在する異なるMcpサブセットに よって、T細胞免疫応答の活性化と寛容が調節されていることが明らかとなってきており、M¢サブセット に よる免疫 反応の 調節機 構を理 解する ことは 、自己 免疫疾 患発症のメカニズムを理解する上で非常に 重 要である と考え られる 。末梢 免疫組 織であ る脾臓 にも解 剖学的に 異なる 部位に 赤脾髄M¢,白脾髄 tingible―body Mcp,辺縁帯M甲など多数のM中サブセットが存在することが知られている。本研究では、
脾 臓に存在 するM中 サブセットによりT細胞免疫応答がどのような制御を受けているのかを解明すること を目的として研究を行った。
【 材 料 と 方 法 】C57BL/6マ ウ ス の 脾 臓 細 胞 か ら 、 代 表 的 なMcpマ ー カ ーで あ るF4/80とMac‑lを 用 い た フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー 解 析(FCM)に よ っ てMQサ ブ セ ッ ト を 同 定 し た 。 同 定 し たMQの 解 剖 学 的な 局 在 の 解析 す る た めに 免 疫 組 織化 学 的 手 法を 用 い て 検討 を 行 っ た。 ま たM¢ の機能 を解 析す るため に、ザ イモザン 貪食能 、サイ トカイ ン産生 能(恒 常的産 生及ぴTol1様受容 体(TLR)刺激)
を 調 査し た 。 抗 原特 異 的T細 胞 反応 を 解 析 する た め に 、ミ エ リ ン オリ ゴ デ ン ドロ サ イ ト糖タ ンパ ク 質(MOG)ペ プ チ ド を 特 異 的 に 認 識 す るT細 胞 受 容 体 を 発 現 す る2D2ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス を 用 い て 、T細 胞 増 殖誘 導 能 、T細 胞分 化 誘 導 能の 解 析 を 行っ た 。M¢ に よ るナ イ ー ブT細 胞か ら 制 御性T細 胞(Treg) ^ の 分 化誘 導 能 を 、Treg機能 に 必 須 の転 写 因 子 であ るFoxp3の 発現 を解析 す る こと に よ り 評価 し た 。 また 末 梢 血 、肺 胞 、 小 腸、 肝 臓 、 腹腔 に 存 在 するM¢ に お けるめ イン テグ リンの 発現を フローサ イトメ トリー により 解析し た。
【 結 果 】 脾 細 胞 に 存 在 す る マ ク ロ フ ァ ー ジ はFCMを 用 い た 表 面 抗 原発 現 解 析 から 大 き く2つ の サ ブ セ ット に分 類でき ること がわか った。1っは典 型的な脾 臓M¢で あり、F4/801ntMac‐1hlCCR2 陽 性 の 表 現 型 を 示 す (conVentionalM中 ,cMめ 。 一 方 、 今 回 筆 者 が 同 定 し たM¢ サ ブセ ッ ト は F4/80h Mac‐11nt曲イ ンテグ リン陽性 の表現型を示す(めM甲)。a9M甲はcMQよりも強い貪食活性を 有 し 、 主 に脾 臓 の 赤 脾髄 に 存 在 する こ と が わか っ た 。 これ ら 脾 臓M¢ サ ブセ ッ ト の 恒常 的な サイ ト カ イ ン 産生 能 を 解 析し た 結 果 、cMQはIL―6とIL―12p40を発 現し、a9M中はIL‐1a、IL‐12p70そ し てTGF―p産 生 し た 。こ れ ら の サイ ト カ イ ンの 中 で もcM中 のIL‐12p70と 矼9MQのTGF―pの発 現 が 高 値 を 示し た 。 さ らにTI風 刺激 に よ っ て、cMQは よ り強 いIL_6とIL―12p40の 発 現 を示 したの に 対 し 、Q9M中は抑制 性サイ トカイ ンであ るIL―10の 著明な 発現を 認めた 。興味 深いこ とに、 めM¢ に よ るTGF―pの 発 現 はTLR刺 激 に お い て も 変 化 し な か っ た 。 こ の よ う に 、2つ のM¢ が 異 な る ―220―
サ イ トカ イ ン 産 生能 を 示 し たこ と か ら 、次 に 筆 者はMcpによる 抗原特 異的T細 胞反応 を解析 した。
2つ のMQは 同 等 のMHC及 び 補 助 シ グ ナ ル 分 子 の 発 現 を 呈 す る が 、cMcpは 強 い 抗 原 特 異 的T細 胞 増 殖 と ヘ ル パ ーT細 胞 へ の 分 化 を 誘導 し た 。 一方 、a9Mcpは 弱 いT細 胞 反応 し か 示 さず 、 他 の APCに よ っ て 誘 導 さ れ るT細 胞 増 殖 反 応 を 抑 制 し た 。 こ の 抑 制 機 構 の 一 部 に はTGF‑pが 関 与 し て い る こ と が わか っ た 。 さら に 、a9M(pは 、cMcpと は異 な り 、 恒常 的 に 発 現す るTGF‑pに よ ル ナ イ ー ブT細 胞 をFoxp3陽 性Treg^ と 分 化 誘 導 で き る こ と が わ か っ た 。 こ の よ う に 脾 臓a9Mcpが 独 特 な機 能 を 有 する こ と が わか っ た た め、 次 に 筆 者は 、 他 の 組織 に 存 在 するM中サブ セットに お け る め イ ン テ グ リ ン の 発 現 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 末 梢 血単 球 、 肺 胞M中及 び 肝 臓Mや で はめ イ ン テ グ リ ン の 発 現 を 認 め な か っ た が 、 小 腸M中 と 腹 腔MQは 曲 イ ン テ グ リ ン を 発 現 す る こと が わ かっ た 。 `
【 考 察 】cMcpはMCP‑1の 重 要 な 受 容 体 で あ るCCR2を 発 現 し て お り 、CCR2を 介 し た 炎 症 性 細 胞 の 動 員 は 病 原 性 微 生 物に 対 す る 防御 に 必 須 であ る と 考 えら れ て い る。cMcpは 、 過 去 の報 告 と 一 致 し て 、 恒 常 的 あ る い はTLR刺 激 に 伴 いIL‑12p40とIL‑6を 分 泌 し 、 さ ら に は 強 い 抗 原 特 異 的CD4陽 性T細 胞 増 殖 と へ ル パ ーT細 胞 へ の 分 化 を 誘 導 し た 。 こ れ ら の 結 果 は 、cMcpが 病 原 性 微 生 物 の 除 去 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る こ と を示 す も の であ る 。 対 照的 に 、a9Mcpは TGF‑pを 産 生 す る こ と で 、T細 胞 反 応 を 抑 制 し 、Tregを 誘 導 す る 。 こ の よ う に 免疫 を 活 性 化あ る い は 抑 制 す る2種 類 のMゆ が 存 在 する こ と に よっ て 、 脾 臓に お け る 免疫 バ ラ ン スを 協 調 的 に制 御しているものと考えられる。
肺や 腸 管 な どの 微 少環境 には外 来抗原 が多く 存在す るため、 過度な 免疫反 応を誘 導しな いため に 種カ の免疫 抑制機 構が働 いている 。しか しなが ら免疫 寛容は 気道や 腸管だけに限らず、他の末梢組織 にお いても 誘導さ れる必 要がある 。例え ば脾臓 におい ては、 老化お よび損傷を受けた多数の赤血球お よび タンパ ク質の 凝集な どによっ て血中 に生じ た微粒 子は、 赤脾髄 に存在するMQにより貪食、除去さ れることは良く知られている。このような自己由来の抗原に対しては免疫寛容が誘導される必要性がある。
加え て、脾 臓にお ける免 疫反応は 通常、 白脾髄 のT細胞 領域で 起こる が、組 織障害 を免れ るために、
その 他の領 域に韜 ける過 度な免疫反応に対しては抑制機構が作用していると考えられる。今回筆者は、
抑 制 性の 機 能 を 有す るa9M(Pが 赤脾髄 に主に 存在し 、T細胞 反応を 抑制し 、末梢 の免疫 寛容に重 要な 役割 のあるTregを誘導 することを見いだした。これらの結果より、脾臓における免疫応答の恒常性維持 に お い て , 赤 脾 髄 に 存 在 す るa9Mcpが 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 腹 腔 常 在M中 や 小 腸 粘 膜 固 有 層 のM中 はT細 胞 反 応 を 抑制 的 に 制 御す る こ と が知 ら れ て いる 。 筆者 は小腸 と腹腔 に常在 するMQに おいて も,a9インテグリンの発現を見出した。a9Mtpを含むこれら抑 制性M¢が共 通して めインテグリンを発現することから、このインテグリンがT細胞反応における抑制効 果に何らかの役割を有している可能性が考えられる。
―221 ‑
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 上 出 利 光 副 査 教 授 西 村 孝 司 副 査 准 教 授 岩 渕 和 也
学 位 論 文 題 名
ぱ9 インテグリン陽性脾臓マクロファージサブセットの機能
抗原提 示細胞に よるT細胞反応の制御は、生体内における免疫の活性化と寛容のバラン スを維持する上で重要である。このバランスの制御機構は樹状細胞において憾詳しく解析 が進められてきたが、末梢組織に最も豊富に存在する抗原提示細胞であるマクロフアージ
(以下Ivkp)に関しては未だ明らかにされていなぃ部分が多い。本学位論文では、末梢免疫組 織のーっである脾臓に常在するM甲に着目し、異なるMやサブセットによって末梢における T細胞免疫反応を制御する機構が存在することを、詳細な免疫学的解析を行うことにより証 明しようと試みた。脾臓M¢サプセットを同定するために、フローサイトメトリーによる解 析を行った結果、脾細胞中iこはM甲マーカーを発現する二種類の細胞集団が存在することが わかった。これら二種類の細胞集団はまめ型の核と細胞質内に多数の小胞を有し、酵母由 来粒子であるザイモザンに対し著明な貪食反応を認めた事から、形態学的及び機能的にM¢ であると同定した。一方のMやは、脾細胞中に含まれる主要なM¢細胞集団であり、過去の 典型的 なMや と一致 してIL‑6やIL‑12p40を恒常的 に産生した(典型的M甲、以下cM)。も う一方 のMや は、接 着分子で あるめインテグリンを発現し(a9インテグリン陽性M甲、以下 a9M(p)、恒常 的ある いはToll様受容体刺激に反応して抑制性のサイトカインであるTGF‑p やIL‑10を 産 生 した 。 両Mや サブセ ットのCD4陽性T細胞 への抗原 提示反 応を検討 した結 果 、両Mや サブ セ ッ トは同 程度の 主要組織 適合性抗 原複合 体(MHC)分 子と補 助シグナ ル 分 子の 発 現 を有 す る ことがわ かった が、c(lがCD4陽 性T細 胞の増殖 とTh1及び1他エフ ェ クタ ーT細胞 へ の 分化 を 強 く誘 導 し たの に 対 し、 めMQはCD4陽性T細胞の 増殖を抑 制 し、恒 常的に発 現するTGF中に よってCI)4陽 性T細 胞をFOXp3陽性抑 制性T細胞へ と分化 誘導できることがわかった。申請者は、このような抑制性機能を持ちめインテグリンを発 現するM中と免疫反応を促進するのに特化したMやが腹腔や腸管を含む様々な組織に存在す ること により、M9サブセ ットが末梢におけるT細胞免疫反応を協調的に制御するというモ デルを提唱した。
以上の発表、に対し、副査の西村教授よりn9M¢と他の臓器に存在する曲インテグリン陽 性Mやとの表 現型の 差異、めM甲が脾臓に存在する意義そして炎症及び感染における曲M¢ の役割についての質問があった。申請者憾、過去の報告を引用し、他の組織に存在するめ インテ グリン陽 性Mやがa9M中と同様 の機能 を有する 可能性、めMQが赤脾髄に存在するこ とによって過剰な炎症や自己抗原に対して寛容を誘導するために脾臓の赤脾髄に存在する 可能性を示し、申請者が行った研究から自己免疫モデルマウスであるMRI一/lprマウスにお いて(汐インテグリンの発現が失われていることが明らかになったことから、このような自 己免疫 が引き起 こされ るマウスにおいて抑制性M中の機能的変質などが現れる可能性をそ の解答 として述 べた。 次いで、副査の岩渕准教授よりめMQのT細胞反応抑制機構、赤脾髄 に船い て曲イン テグリ ンを発現 する意 義、めMQがTGF―DやIL−1aなどのサイトカインを 産生する機構についての質問があった。これらの質問に対し申請者は、自身の研究結果や
‑ 222 ‑
過去の 報告から 、抑制 効果にお けるiNOS及 びIL‑10の役割や 、赤脾髄 に発現するVCAM‑1 とめインテグリンとの相互作用の役割、老化した赤血球の貪食による抑制性サイトカイン 産生の可能性などをその解答として述べた。次いで、主査の上出教授から牌臓に存在する2 つのマクロファージサブセットの分化の相違を与える分子機構に関する質問があった。申 請者は過去の報告を引用し、Spi‑Cという転写因子欠損マウスにおいて脾臓a9Mcpと同一見 られる細胞集団が失われること、この遺伝子がa9Mlrpの機能発現に重要である可能性などを その回答として述べた。
この学位論文は、組織常在性M9サブセットによる免疫反応制御機構を詳細に解析した数 少なぃ研究のーつであり、基礎免疫学の分野で高く評価される。M甲による末梢免疫寛容誘 導への関与を解明することは生体内の免疫恒常性維持の上で意義があり、本論文でその機 構の一端を明らかにしたことiま特筆に値する。今後のM中及ぴ末梢免疫寛容誘導機構研究 などの分野において新たを方向性を示すことが期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ申 請 者が博士 (医学 )の学位 を受け るのに充 分な資格 を有す るものと 判定し た。