博 士 ( 歯 学 ) 鈴 木 江 里 子
学位論文題名
Increased expression of Phospholipid Scramblaselin monocytes from patients with
systemic lupus erythematosus
(全身性エリテマトーデス患者単球における Phospholipid Scramblasel発 現 亢 進 )
学位論文内容の要旨
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は、代表的な自己免疫疾患であり、
多彩な自己抗体の出現を認め様々な臨床症状や免疫系の異常を呈する。血栓症は、SLEの生命、機能予後 に関与する重大な合併症である。早期動脈硬化の進展や、血栓原性自己抗体の存在、そして向凝固細胞で ある単球の活性化などの機序が考えられている。活性化された単球は、組織因子と呼ばれる凝固活性を有 する蛋白を発現する。これは、外因系凝固カスケードのイニシエーターであるため凝固、血栓形成過程に おいて重要である。
ー方、血栓形成に関与する 重要な分子のーっに陰性荷電リン脂質がある。ホスファチジルセリン (Phosphatidylserine:PS)は代表的な陰性荷電リン脂質である。通常PSは細胞内膜に偏在し細胞外膜で の発現はわずかであるが、細胞活性化やァポトーシス時には細胞外膜に表出する。PSが細胞外膜に表出す るとそこに凝固因子が選択的に結合し、局所的に凝固反応が進行する。っまり、陰性荷電リン脂質のPSの 細胞膜表面への発現亢進は凝固亢進、血栓形成に強く関与している。
SLEでは血栓原性自己抗体である抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody:aPL)の出現をしばしぱ 認める。これは、細胞膜表面の陰性荷電リン脂質に結合した血漿蛋白を標的抗原としている。aPLはSLE だけではなく、難治性再発性の血栓症を繰り返す原発性抗リン脂質抗体症候群(primary antiphopholipid syndrome:PAPS)にも認められる、APSにSLEが合併すると二次性抗リン脂質抗体症候群と呼ばれこれらの 疾患では血栓症合併率が高い。病原性自己抗体であるaPLが向凝固細胞である単球に作用すると組織因子 が発現することが報告されており、血栓症合併率が高いSLEではPSなどの陰性荷電リン脂質の過剰発現が 引き起こされている可能性が考えられる。
陰性荷電リン脂質であるPsを細胞外に輸送する膜蛋白質としてPhospholipid scramblasel (PLSCRl) が知られている。PLSCR1はヒト赤血膜で同定され血小板や胸腺、脾臓など様々な組織での発現が報告され ておりPLSCR1によるPSの輸送は細胞活性化や組織の損傷など細胞内Ca2+濃度が上昇したときに起こる。
PLSCR1の機能異常や機能低下により出血傾向を示す疾患の報告がありPLSCR1によるPSの輸送が止血、凝 固反応と何らかの関係があることが考えられるため、SLEにおける血栓形成患者におけるPLSCR1やPS発 現異常が向血栓傾向とどう関与するか検討した。
ー22―
対 象 は 、3ケ 月 以 内 に 血 栓 症 や 妊 娠 合 併 症 を 含 め て 病 勢 の 増 悪 の な いSLE患 者60名 ( 抗 リ ン 脂 質 抗 体 症 候 群 合 併23名 、 以 下APS)、 健 常 人43名 で あ る 。 こ れ ら の 対 象 の 末 梢 血 か らCD14+細 胞 を 分 離 し た 。SLE 疾患 活動性 を示 すSLE Disease Activity Index (SLEDAI)の平 均は2.6であ った 。
得 ら れ たCD14+細 胞 のcDNAを 用 い て 全 長PLSCR1の 発 現 を 確 認 し た と こ ろ3種 類 の 新 規 ス プ ラ イ ス バ リ ア ン ト を 全 て の 対 象 で 同 定 し た 。 こ の ス プ ラ イ ス バ リ ア ン ト の 蛋 白 発 現 は 認 め ら れず 、 全 長 のPLSCR1の み 蛋 白 発 現 を 確 認 し た 。 こ の 結 果 よ り 、 全 長PLSCRlmRNAを 定 量 し た と こ ろ 、 健 常 人 と 比 較 し てSLE患 者 で 有 意 に亢 進して いた (健常 人vsSLE:1.3土O.4vs2.9士1.5、p〈0.0005)。
SLE患 者 に お け る 単 球 で のPS発 現 量 をFITC標 識 ア ネ キ シ ンVを 用 い た フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー 法 に て 測 定 した ところ 、健 常人と 比較 し有意 な亢進を認めた(17.8土2.9%vs25.7士5.8%、p<0.008)。次に血漿中D―dimer 値 を 検 討 し た 。 結 果 はSLB患 者 で 有 意 にD−dimer値 が 上 昇 し て い た (O.4土O.3g/ulvsl.3土O.7g/皿1、 p O.003)。
本 研 究 よ りSLEの 単 球 に お い てPLScRlTnRNAの 発 現 亢 進 を 認 め た 。 こ の こ と は 細 胞 膜 表 面 に お け るPSの 過 剰 発 現 に 繋 が り 、 疾 患 活 動 性 、 急 性 の 血 栓 形 成 が な く と も ト ロ ン ビ ン ・ プ ラ スミ ン 生 成 が 亢 進 して お り 凝 固 準 備 状 態 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。PLSCRlは 様 々 な 成 長 因子 やINFaで 発 現 が 亢 進 さ れ るこ と が わ か っ て い る 。SLEの 病 態 で 重 要 な サ イ ト カ イ ン で あ るINFaとPLSCRlmRNA発 現 亢 進 の 結 果 は 何 ら か の 形で 関 与 し て い る 可 能 性 が あ る 。 単 球 に お け るPLSCR1発 現 亢 進 、PS過 剰 発 現 はSLEに お け る 血 栓 形 成 の 一 因 と 考え られ、PLSCRl発 現が 血栓形 成に 与える 影響 につい てさ らなる 研究 が必要 であ る。
学位論 文審査の要旨 主査 教授 福島和昭 副査 教授 進藤正信 副査 教授 鈴木邦明 副査 教授 小池隆夫
(医学研究科内科学講座・第二内科)
学位論文題名
Increased expression of Phospholipid Scramblaselin monocytes from patients with
systemic lupus erythematosus
( 全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス 患 者 単 球 に お け る Phospholipid Scramblasel 発 現 亢 進 )
審査 は 、 審査 担 当者 全 員 出席 の 下 、申 請 者の 研 究要 旨の説明 後、本研究 、提出論 文 とそれに 関連した 事項にっ いて口頭 試問の形 式にて行っ た。審査 論文の概 要は以下の 通りであ る。
全身 性エリテ マトーデ ス(systemic lupus erythematosus:SLE)は、代表的栓自己免疫 疾患 であり、 多彩な自 己抗体の出現を認め様々な臨床症状や免疫系の異常を呈する。そ の中で血栓症は、SLEの生命、機能予後に関与する重大な合併症である。機序としては早 期動 脈硬化の 進展や、 血栓原性自己抗体の存在、そして向凝固細胞である単球の活性化 などが考えられている。活性化された単球は、組織因子と呼ばれる凝固活性を有する蛋白 を発現するが、これは外因系凝固カスケードのイニシエーターであり凝固、血栓形成におい て重要である。
一方、血栓形成に関与する重要な分子のーっに陰性荷電リン脂質がある。ホスファチジ ルセリン(Phosphatidylserine:PS)は代表的な陰性荷電リン脂質である。通常PSは細胞内 膜に偏在し細胞外膜での発現は僅かであるが、細胞活性化やアポトーシス時に細胞外膜に 表出 する。PSが 細胞外膜 に表出するとそこに凝固因子が選択的に結合し、凝固反応が進 行す る。っま り、PSの細 胞外膜へ の発現亢 進は凝固 、血栓形成 に強く関 与してい る。
SLEで は血 栓原 性自 己抗 体であ る抗 リン 脂質抗体(antiphospholipid antibody:aPL) の出現を認める。これ結、細胞外膜の陰性荷電リン脂質に結合した血漿蛋白を標的抗原と している。aPLはSLEだけではなく、難治性再発性の血栓症を繰り返す原発性抗リン脂質抗 体症候群(primary antiphopholipid syndrome:PAPS)にも認められる、APSにSLEが合併 する と二 次性 抗リン脂質抗体症候群と呼ばれ血栓症合併率が高い。aPLは病原性自己抗 体で向凝固細胞である単球に作用すると組織因子が発現することが報告されて韜り、血栓 症 合 併 率 が 高 いSLEで はPSの 過 剰 発 現 が 引 き 起こ され てい る可 能性 が考え られ る。
PSを細胞外に輸送する膜蛋白質としてPhospholipid scramblasel (PLSCRI)が知られて いる。PLSCR1はヒト赤血球膜で同定され血小板や胸腺、脾臓など様々な組織での発現が報 告されておりPLSCR1によるPSの輸送は細胞活性化や損傷など細胞内Ca2゛濃度の上昇時に 起こる。PLSCR1の機能異常や機能低下により出血傾向を示す疾患の報告がありPLSCR1に よるPSの輸送が止血、凝固反応と何らかの関係があることが考えられる。そこでSLEにおけ る 血 栓 形 成 とPLSCR1やPS発 現 異 常 が 向 血 栓 傾 向 と ど う 関 与 す る か 検 討 し た 。 対象は、3ケ月以内に血栓症や妊娠合併症を含めて病勢増悪のないSLE患者60名(抗リ ン脂 質抗 体症 候群 合併23名 、以 下APS)、 健常人43名である。これら対象の末梢血から CD14+細 胞を 抽出 した 。SLE疾患 活動 性を 示すSLE Disease Activity Index(SLEDAI)の 平均は2.6であった。
得られたCD14+細胞のcDNAを用いてRT―PCRを行った結果、3種類の新規スプライスバリ アントをすべての対象で同定した。しかしいずれのバリアントも蛋白質としての発現は認めら れず全長PLSCR1のみ蛋白発現を確認した。これより健常人とSLE患者群の単球における全 長PLSCRlmRNAの定量、PS発現、Dーdimer値にっいて検討したところいずれに韜いても患者 群で優位に発現が亢進していた。このことは細胞膜表面におけるPSの過剰発現に繋がり、
疾患活動性、急性の血栓形成がなくともトロンビン・プラスミン生成が亢進し凝固準備状態で あることが明らかとなった。また、PLSCR1は様々な成長因子やINFaで発現が亢進されること がわかっている。SLEの病態で重要なサイトカインであるINFocとPLSCRlmRNA発現亢進の結 果は何らかの形で関与している可能性がある。単球におけるPLSCRl、PSの発現亢進はSLE における血栓形成の一因と考えられた。
論文 審査 にあ たり ,論文 申請 者に よる研究要旨説明後、本研究および関連する研究 に っい て口頭試問を行った。主な質問事項は、1)単球、組織因子における血栓の重要 性 、2) 膜蛋白質の種類、3) INF以外にPLSCR1発現を誘導するもの、4)スプライスバ リ アン トの 意義 、4) PLSCR1蛋 白構 造の意義、5)SLE患者に対して全身麻酔をする際 の 注 意 点 、6) 血 管 内 皮 細 胞 で の PLSCR1発 現 に っ い て な ど で あ っ た 。 これらの質問に対して申請者から適切かつ明快な回答,説明が得られた。本研究は、
SLE患者では疾患活動性がなくとも単球が活性化しており、凝固準備状態であること を証明した。
本研究はSLE患者における血栓形成の一因がPLSCR1発現亢進であることを明らか にし、今後、この面における研究発展、進展に寄与する礎となると考えられ、博士(歯 学)の学位に値するものと認められた。