博 士 ( 理 学 ) 木 村 宏
学 位 論 文 題 名
Study on mouse MCM proteins ‑ are‑they DNA replication licensing factor ? ‑
(マウスMCM 夕ンパク質に関する研究―MCM は,DNA 複製のライセンス因子か?)
学位論文内容の要旨
細胞が増殖するためには、DNAの複製と細胞分裂とを正確に繰り返さなければな らなぃ。その際、自らの遺伝子を正確に娘細胞に伝えるために、DNAは自己と同じ ものを複製する必要がある。っまり、一度の細胞周期でDNAは通常ただ一度だけし か 複 製せず、 一部のDNAが 過剰に複製 したり、 未複製のDNAが残るよ うなこと は なぃ 。このDNA複 製が細胞 周期のS期にただ一度だけ起こる仕組みを説明するため に、1988年にBlowとLaskeyは、DNAと結合して複製のライセンス化を行うライセン ス因子を考案した。このライセンス因子は、DNA複製の開始に必要な因子であり、
核膜を通過できなぃため、核膜の消失するM期にのみクロマチンと結合することがで きると考えられた。そして、DNA複製が始まると分解あるいは不活性化されてクロ マチ ンと結合 しなくな る。そのため、DNAが再び複製できるようになるにはM期を 通過することが必要だとぃうわけである。このライセンス因子は、全く仮想上のもの であったが、1990年代に入って、出芽酵母Mcm (minichromosome mamtenance)遺伝子の コ ー ドするMCM夕 ンパク質 がその候補 として注 目を集め た。それ は、MCM夕ン パ ク質の細胞周期における細胞内局在の変化が、予想されたライセンス因子の挙動とよ く似 ていたか らである 。つまり 、MCM夕ンパク 質は、細 胞周期のM期の後期からG l期を通じて核に局在するが、S期になると核から消失し細胞質に局在するようにな る 。 また 、mcm変 異 体 では 非 許 容温 度 下でDNA複 製の 開 始が 阻 害さ れること か ら、MCM夕ンパク質は複製の開始に関わることが明らかになっている。しかしなが ら、MCM夕ンパク質が真にライセンス因子として機能するかどうかは不明であり、
また、酵母以外の高等真核生物におぃては、MCM夕ンパク質の性質はほとんど明ら かになっていなかった。
本研 究 で は、 マ ウスMCM関 連遺 伝子 のクロー ニングを 行い、そ のcDNAや特異 抗体を用いて解析し、以下の点について明らかにした。
1. マ ウ スと 酵 母の 対 応 するMCM夕ン パク質問 では、ア ミノ酸配 列のレベ ルで4 0% 以 上 の相 同 性を も つ 。ま た、 マウスCdc21タ ンパク質 のN末端に は、分 裂 酵 母Cdc21と 同 様 にCdkに よ ル リ ン 酸 化 さ れう る 部 位が 密 集し て 存 在 し 、PlMCM3タ ン パ ク質 に は 、DNA依 存 性キ ナ ーゼ で り ン酸 化 され う る 部 位が密集して存在している。
2.3つのマウスMCM遺伝子(PlMCM3、CDC46、Cdc21)は、いず
れも細胞周期のGl後期に発現が上昇し、静止期におぃてはその発現は見られな い 。 こ の 発 現 制 御に 関 連 す る と 思 わ れるE2Fの結 合部 位がPIMCM3遺伝 子 の5 上流域に存在する。
3.マ ウ スPIMCM3の タ ン パ ク 質 の 合 成 は 、 そ の 転 写 と 同 様 にGl後 期 で あ る が、リン酸化はS期に高度におこる。
4.マウスMCM夕ンパク質は、間期の細胞の核に局在するが、Triton X‑100で溶出 される、クロマチン非結合型のタンパク質とTriton X‑100で溶出されなぃクロマ チン 結合 型の タン パク 質がある。PIMCM3夕ンパク質は、クロマチン結合型 に比べて、非結合型は高度にりン酸化されている。
5.Gl期 に は存 在す るク ロマ チン 結合 型のMCM夕 ンパ ク質 は、S期が 進む にっ れ て減 少し 、ク ロマ チン 非結合型のタンパク質が増加する。特に、PIMCM3タ ン ノ く ク 質 は 、DNA複 製 の 起 こ っ た ク ロ マ チ ン か ら 順 次 遊 離 す る 。 6.PIMCM3夕 ン パ ク 質 は、C末 端 付 近 に 核 移行 シグ ナル を持 ち、間 期の 核に 輸 送さ れる 。ま た、PIMCM3は、核と細胞質を往復するシャトルタイプの核夕 ンパク質である。
7.PIMCM3タ ン パ ク 質 とCDC46タ ン パ ク 質 は 、 そ れ ら の ク ロ マ チ ン と の 結 合 状 態やPIMCM3の りン 酸化 状態 によ らず 、強 固に 結合 してい る。 その た め 、CDC46夕 ン パ ク 質 自 身 で は 核 移 行 シ グ ナ ルを 持 た な ぃ が 、PIMC¥13 とともに核に運ばれる。
8.マ ウ ス 培養 細胞 の核 に抗PIMCM3抗 体を マイ クロ イン ジェ クショ ンす ると 、 DNA合成が阻害される。
こ れら の結 果よ り、 マウ スMCM夕ンパク質は、酵母のタンパク質と同様にDNA 複製に必須であることが明らかになった。また、MCMは互いに結合し、夕ンパク質 複合体を形成していることもわかった。最も重要な点は、細胞周期におけるクロマテ ンと の結 合状 態の 変化 であ った。マウスMCMの細胞内局在は、酵母のMCMの細胞 周期に依存した細胞内局在の変化と異なり、常に核であった。しかしながら、MCM 夕ンパク質は、未複製のクロマチンにのみ結合しており、細胞周期におけるその核内 局在 の変 化は 、MCM夕ン パク 質が 、DNA複 製がS期に 一度 だけ起こるための制御 機構に関与していることを強く示唆した。っまり、MCMが結合したクロマチン|ま複 製できるが、いったん複製するとそのクロマチンはMCMと結合しなくなることで、
全てのクロマチンがただ一度だけ複製するような機構が考えられる。このような MCM夕ン パク 質の挙 動は 、ま さしくDNAに複製の許可を与えるようなライセンス 因子の性質そのものである。しかしながら、仮説として考えられていたライセンス因 子とマウスMCMとは、それらの核への輸送とぃう点では、大きく性質を異にする。
ライセンス因子が核膜を通過できないと考えられていたのに対して、MCM夕ンパク 質は明らかに核膜を通過でき、クロマチンと結合していなくとも核内に存在するから である。むしろ、その細胞内局在は重要ではなく、クロマチンと結合するかどうかが 重要なのである。その結合の調節にはどうやらりン酸化が関与しているらしく、
DNA複製 のラ イセン ス化 は、MCMとそのクロマチンとの結合を調節するような因 子等により行われている可能性が高い。実際、Chongらは、アフリカツメガエルの卵 抽出液より、ライセンス活性を持つ因子をMCM夕ンパク質の複合体とその他の因子 のニつの画分に分離している゛。この結果からも、MCM単独では、ライセンス化を行 えないことが明らかである。これらのことからDNA複製のライセンス化とぃう現象 をもう一度考えてみると、その現象は、結局はCdc2キナーゼを中心とした、リン 酸化、脱リン酸化による細胞周期の制御の中に組み込まれているのかもしれない。
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学 位 論 文 審査 の 要 旨
主査 教授 盛田フミ
副査 教授 菊池九二三.
副査 教授 矢澤道生 学位論文題名
Study on mouse MCIVI proteins ―are they DNA replication licenslngfaCtor ? ー
(マウスMCM 夕ンパ、ク質に関する研究‑MCM は,DNA 複製のライセンス因子か?)
生命の最 も基本的 な特性と して、自 己複製能をあげることができる。真核細胞では、
その コ ピ ーを 作 るた め の 指令 と なるDNAは、二重 構造膜に 覆われた 細胞核内 に保持さ れ て い る 。 真 核 細 胞が ニ つの 娘 細 胞に 分 裂す る1回 の 細胞 周 期で 、DNAは正 確 に1回 だけ 複 製 され 、 娘細 胞 に 分配 さ れる 。1988年に、 この厳密 なDNA複製は 、ライセ ンス 因子 に よ って 制 御さ れ て いる と いう 提 案 がな さ れ た。1990年 代初 頭 に、発芽 酵母の MCM (Minichromosome職曲tenance)遺伝子産物が、提案されたライセンス因子としての挙動 を示 す こ と、 ま た、MCMフ ァミ リ ―が 、 真核生物 全般にわ たって、 広く保存 されてい るこ と が 明か と なっ た 。 しか し 、MCMタ ンパク質 が、真に ライセン ス因子と して作用 して い る かど う かも 含 め 、高 等 真核 生 物のMCMタ ンパク質 の性質は 、ほとん ど明らか にされていなかった。
申 請 者 は 、 マ ウスMCM関連 遺 伝 子の ク ロ ーニ ン グを 行 い 、P1(MCM3) ,mCDC46, mCdc21の 構造を 決定した 。その結果 、マウス と酵母の 対応する タンパク 質問で、 アミ ノ酸 配 列 は40%以上 の相同性を もってい ることを 明らかに した。mCdc21タ ンパク質 の N末 端 に は 、 サ イ ク リ ン依 存 性キ ナ ー ゼの 燐 酸化 部 位 、又 、PlMCM3タ ン パク 質 は 、 DNA依 存 性 キナ ー ゼに よ る 燐酸 化 部位 を 持ち、こ れらのタ ンパク質 が燐酸化 ー脱燐酸 化の 制 御 と関連す ることが示 唆された 。発現タ ンパク質 に対する 特異抗体 や、cDNAを 用い た 研 究か ら 、PlMCM,CDC46,Cdc21タン パク質の 発現は、 細胞周期 のG1後期に 上 昇し た が 、静 止 期に お い ては 停 止す る ことが 見いださ れた。マ ウスMCMタン パク質は 間期 の 間 、細 胞 核に 局 在 する が 、T血anX−100で溶出 されない クロマチ ン結合型 と、
溶出 さ れ る非結合 型の存在が 示された 。クロマ チン非結 合型のP1MCM3タ ンパク質 は、
結 合 型 に 比 べ 、 高 度に 燐 酸化 さ れ てい た 。ク ロ マ チン 結 合 型のMCMタン パ ク 質は 、 G1期 に 存在 す るが 、S期 が 進む に っれ て 、減少し 、代わっ て、非結 合型が増 加した。
特 に 、PlMCM3タ ン パ ク質 は 、DNA複 製 が終 わ った ク ロ マチ ン か ら順 次 、遊 離 す るこ
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とが示された。即ち、MCM タンパク質は、未複製のクロマチンにのみ結合しており、
DNA 複製が、S 期に一度だけ起こるための制御機構に関与していることを強く示唆し ている。また、マウス培養細胞の核内に、抗Pl MCM3 抗体をマイクロインジェクショ ンすると、 DNA 合成が阻害された。これらの結果は、マウス MCM タンパク質は、DNA 複製に必須で、且つ、ライセンス因子としての作用を持つことを示している。ただし、
核膜 を通 過して核内へ移行できない酵母のMCM タンパク質と異なり、マウスMCM は 核膜を通過でき、クロマチンと結合していなくとも核内に存在している。PIMCM3 タ ンパク質は、C 末端付近に核移行シグナルを持ち、間期の核に輸送され得ることを示 している。ライセンス因子としては、細胞内での局在よりはむしろ、クロマチンと結 合するかどうかが重要で、その結合の調節にMCM タンパク質の燐酸化の関与が示唆さ れた。
以 上、 申請者は、マウスMCM タンパク質がDNA 複製のライセンス因子として作用 している可能性を明確に示しており、また、MCM タンパク質がクロマチンと結合して いない時にも核内にとどまっていることを新たに見いだした。これらの結果は、DNA 複製に関わる制御機構解明に大きく寄与するものと高く評価される。審査員一同は、
申 請 者 が 、 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 受 け る に 充 分 な 資 格 を 持 っ と 判断 し た 。
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