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話題転換タイプによる話題転換表現の使い分け ―日中両言語の雑談会話の話題開始部において―

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Academic year: 2021

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話題転換タイプによる話題転換表現の使い分け

-日中両言語の雑談会話の話題開始部において-

朱怡潔 (東北大学大学院生)

1.

はじめに

日常会話において,同じ内容をめぐって会話が永遠に続くことはなく,常に話の中身が変化し,「話題転換」が起 こる.これまでは,村上・熊取谷(1995)の「連結タイプ」と「結束性表示行動」,楊(2005b)の「転換タイプ」 と「転換方略」のように,どのような転換表現を用いてどのようなタイプの話題に転換されるかという二つの側面 を中心に話題転換が研究されてきている.しかし,どのような転換表現を使うかは前後話題の内容的関連性により 異なり,どの転換表現が多いかを明らかにしても,話題転換を網羅的に記述することにはならない.本発表は,日 中雑談会話の話題開始表現に焦点を当て,転換タイプによる開始表現の使い分けを考察する.

2.

先行研究

転換タイプについて,話題の内容的関連性と会話参加者の相互行為プロセスという二つの指標で分類されること が多い.相互行為プロセスを今後の課題にし,本発表は内容的関連性の先行研究のみを紹介する. 内容関連に基づく分類では,直前話題と関連があるか否かで2 分類する研究(南 1981;楊 2005a)もあれば,そ れまでの話題を視野に入れて3 分類する研究(村上・熊取谷 1995;楊2009;等)もある.楊(2005a)の「連続型・ 非連続型」と同様,南(1981)の「断絶・継続」も2 分類法ではあるが,断絶をさらに「新出」と「再出」に分け た点では,村上・熊取谷(1995)の「派生型・新出型・再出型」と同様の3 分類だと言える.この3 分類法は後に 多く用いられる(木暮2002;楊 2009 等)ようになった. 転換表現について,まず,どこまでを話題の開始部とするかについて意見が分かれる.村上・熊取谷(1995)は 開始表現を「先導」と「応答」に分けたが,楊(2005a;2009)は「先導」のみを扱った.本発表は後者の立場に従 い,聞き手の言語表現を扱わないことにする.ここではさらに,話題転換部にある全ての表現を対象とするか否か という分類の枠組みの問題が出てくる.村上・熊取谷(1995)は「認識の変化を示すことば・相手に働きかけるこ とば・談話標識やメタ言語による談話展開の示唆・後続トピックのフレームの提示・トピックそのものの提示」の 5 つで,楊(2005a:330-331)はその上に「言いよどみ表現」を加え,「話題となる事柄を際立たせる表現・認識 の変化を示す表現・言いよどみ表現・接続表現・メタ言語表現・呼びかけ表現」の6 つで分類した.本発表は,「言 語表現か話題内容を考えている」ことを示す言いよどみ表現は話題の転換に機能していると考え,楊(2005a)の枠 組みを利用する. しかし,転換タイプによる転換表現の使い分けに関する研究(楊2009)が少なく,その実態が明らかにされてい るとは言いにくい.本発表は日中対照の観点から,3 つの転換タイプごとに開始表現がどう使い分けられるかに焦 点を当て,考察を行う.

3.

研究対象と転換タイプの分類

発表者は2016 年11 月に,日本語8 会話と中国語8 会話を収集した.会話参加者は当時現役の大学(院)生(J15 は博士卒)である.同性2 人に30 分程度の雑談会話の録音を依頼した.参加者でない2 人の母語話者と発表者で話 題区分(日本語一致率:69.77%,中国語一致率:66.87%)し,一致しない部分について協議した結果,日中共に 95% 以上の話題の切れ目について合意が得られた. さらに,各会話の一話題目を除き,日本語252 と中国語219 の話題を対象に,主観性をできるだけ回避するため に転換タイプを2 回に分けて認定した(一致率は日本語が 91.08%,中国語が 94.98%).また,「話題開始者による -93-

(2)

一発話目1に現れる開始表現」を話題開始表現とし、楊(2005a)の枠組み2で認定した. 転換タイプによる表現を考察する前に,本発表での転換タイプの定義を提示しておく. 1)派生型:当該話題の焦点か話題内の発話が直前の話題の焦点か発話と内容上の関連性を持つ場合. 2)新出型:当該話題の焦点か話題内の発話がそれまでの話題か発話と内容上の関連性を持たない場合. 3)再出型:直前話題とは一見新出型の関係に見えるが,それより前の話題と同じか,派生型の関係にある場合. 分類の結果,日本語252 話題に,200(79.37%)の派生型,27(10.71%)の新出型,25(9.92%)の再出型が認定 できた.中国語219 話題に 140(63.93%)の派生型,47(21.46%)の新出型,32(14.61%)の再出型が認定できた.

4.

転換タイプによる開始表現の使い分け

4.1 平均使用頻度 3 つの転換タイプの話題数の間にかなりの差が存在するため,それぞれの開始表現の数を集計しても比較にはな らない.そこで,開始表現がどれぐらい使われたかを図る指標として,「平均使用頻度」を提示する. た計算になる.これが認識の変化を示す表現が派生型における「平均使用頻度」である. 4.2~4.4 は,6 つの言語表現を調査した結果をもとに,転換タイプごとの日中の共通点と相違点を考察する. 4.2 派生型 の3 点を果たす.話の流れを切らずに,躊躇しながら派生型を導入していく傾向は日中共通に見られたと言える. 様子が伺え,「考えていること」を示す言いよどみ表現を用いることで,発話権を維持しながら話題を展開していく. 1 開始者の発話が相手により割り込まれたりする場合もあるが,開始者の発話が終わるまでを「一発話目」とする. 2 6 つの表現の日本語の例を少しばかり挙げる.「認識の変化を示す表現」:え,あ,あれ,等.「言いよどみ表現」:あの,その,なんか, 等.「メタ言語表現」:言ったっけ,変なあれですけど,てか,等.「呼びかけ表現」:ねー,聞いて,相手の名前,等.「話題となる事柄 を際立たせる表現」:は(提題),って(引用),とか(列挙),倒置,くり返し,等.「接続表現」:だから,でも,なので,等. 例1 では,認識の変化を示す表現(「え」)が1 回出現した.日本語200 回の派生型において認 識の変化を示す表現が29 回出現したため,平均 1 回に 0.15 回の認識の変化を示す表現が出現し (1)共通点:メタ言語表現と呼びかけ表現が少 なく,言いよどみ表現が多い. 派生型は関係のある話を導入するため,堅いイ メージを与えるメタ言語表現と,二人会話に不必 要と思われる呼びかけ表現の使用が控えている. その代わり,言語表現や話題内容を考えているこ とを示す言いよどみの多用により,1)話題導入 に必要な時間的猶予を与える;2)考えている時 のつなぎ言葉;3)「会話の流れを変える際につき まとう強引さを緩和する働き」;(楊2009:48) 例2 は,C9 とC10 がア メリカドラマについて話 し合っている中,C9 は『ウ エストワールド』の設定 からそれと似た『ファイ ナル・デスティネーショ ン』を話題に持ち出した 例である.ドラマの名前 が一時思い出せなかった -94-

(3)

(2)相違点:日本語は話題となる事柄を際立たせる表現が多い. 表現の「絶対」を用い,話題となる事柄を導入する際に伴う躊躇を見せ,相手の反応を見ながら導入していく.中 国語にこのような表現が少なく,その代わりに言いよどみが多用され,自分側の整理に専念する傾向が見られた. 4.3 新出型 (2)相違点:日本語は呼びかけ表現と話題となる事柄を際立たせる表現が多い.中国語は言いよどみ表現が多い. 日本語の呼びかけ表現と話題となる事柄を際立たせる表現は中国語より多いと言える.これは,中国語において 呼びかけるために名前を直接呼ぶことが少ないことと,引用表現や提題表現などが少ないことと関連していると考 えられる.その代わりに言いよどみ表現が多用されるのは,聞き手の会話理解よりも,話題内容をどういう表現で 導入すべきかという話し手側の事情によるものだと考えられる.日中の会話例について,例4 と5 を挙げる. 話題をさらに発展していかず,新しい話題を導入するのは,友人同士でもあまり好ましくないように思われる. それを緩和するために,あたかも今思い出したかように「え」を発話した.そのうえで名前で呼びかけ相手の注意 を引き,話題を導入する.このように,日本語会話には新出話題を導入する際,相手を呼びかけることで話題の導 入を明示し,そのうえで何について話すかを提示するという傾向がある. (1)共通点:認識の変化を示す表現が多く,接 続表現が少ない. 新出型は突然気づいたことを前触れなしに導 入するため,唐突さが伴われる.例えば,「あ、 そういえば」で始まる話題では,認識の変化を 示す表現の使用によりその唐突さが軽減できる と考えられる.また,日中共に接続表現の使用 が少ないのは前後話題につながりがないことと 関係していると考えられる. 例3 でJ2 は,戦争中に名乗る間に殺 される話から,「○○間に殺される」と いう派生関係から,仮面ライダーが変 身中に殺されるのはあり得ないという 話を導入した.接続表現の「だから」 で直前話題との関係を表示したうえ で,「やったら」「さ」「なんて」と倒置 例4 は,J1 が毎朝ラジオ体操をしていること を冗談のように話し,4 秒の沈黙を経て,突然 思い出したかのようにJ2 の実家である H 県の ことを聞き出そうとした例である.【H 県】は これまで一回も出たことがなく,直前の話題と 関係があるとは考えにくい新出話題である. 一方,中国語会話は,例5 のよ うに,直前のスパゲッティと無関 係のドラマの話を導入するのに, 言いよどみが4 回,認識の変化を 示す表現が1回用いられた.他に, 列挙表現の「とか」もあるが,中 国語に話題となる事柄を際立た せる表現がそもそも少なく,まず 自分側の考えを整理し,言語表現 と話題内容を考えながら話題を 導入していく傾向がある. -95-

(4)

4.4 再出型 (2)相違点:日本語は認識の変化を示す表現と接続表現が多い. 表示するのに「で」が用いられたと考えられる.図3 から分かるように,日本語会話の,1 回の再出型に接続表現 が0.60 回も使用されることから,この「関係性」の表示が必要のように思われ,前述の「記憶の呼び戻し」とも関 連している.一方,中国語会話に現場にある事柄から発展した再出型が多かった.言語外文脈を考慮に入れると, 直前話題と無関係でも,参加者の二人は,現場にある事柄だから特に多くの言語処理を行わずに済むため,関係性・ 無関係性を表示する必要もなくなるのではないかと考えられる.

5.

まとめと今後の課題

本発表を以下のようにまとめる.派生型はよく言いよどみが使用され,話の流れを切らずに躊躇しながら導入す る傾向がある.新出型は話題導入に伴う唐突さを軽減するために,よく認識の変化を示す表現が使用される.再出 型は呼びかけ表現の使用が少ないことに日中が共通している.これらは,転換タイプ本来の特徴ゆえにこういう使 用傾向があると考えられる.相違点について,日本人は話題となる事柄を際立たせる表現を愛用することから,何 について話すかを先に相手に提示し,相手の会話理解を助けることに重きを置いている.それに対し,中国人は言 いよどみ表現を愛用することから,自分側の整理に専念し,会話相手の理解に重きを置いていないように思える. しかし,同じ開始表現でも,メタ言語表現と呼びかけ表現とは違い,言いよどみ表現や接続表現などは話題開始 部以外のところでも現れるため,話題転換への貢献・効果に関しては同じではないと考えられる.今後,話題転換 への貢献・効果の視点から開始表現を見直し,更なる考察と検討が必要だと考えられる. 参考文献 木暮律子(2002).日本語母語話者と日本語学習者の話題転換表現の使用について 第二言語としての日本語の習得 研究,5,pp.5-23.凡人社 南不二男(1981).日常会話の話題の推移―松江テクストを資料として― 藤原与一先生古稀記念論集方言学論叢Ⅰ ―方言研究の推進―,pp.87-112.三省堂 村上恵・熊取谷哲夫(1995).談話トピックの結束性と展開構造 表現研究,62,pp.101-111.表現学会 楊虹(2005a).日本語母語場面の会話に見られる話題開始表現 人間文化論叢,8,pp.327-336.お茶の水女子大学 楊虹(2005b).話題転換研究の概観―タイプと方略を中心に 言語文化と日本語教育.増刊特集号,第二言語習得・教 育の研究最前線,2005,pp.159-189 日本言語文化学研究会 楊虹(2009).中日接触場面における話題転換の研究 お茶の水女子大学博士論文,pp.1-167. (1)共通点:呼びかけ表現が少ない. 再出型は前に出た話を再導入するので,前話題 との関係に言及したり,言いよどみ表現で時間を 稼いだりすることは想像できるが,相手の注意を 引きつける必要はなく,むしろ話題内容に関する 記憶を呼び戻すことのほうが重要だと考えられ る. 99-1 からの【宿泊代】は前の【J4 のY〈地名〉 の旅】の延長なので,「再出型」とした.ここ で,メタ言語表現の「さっき話した」以外に, 認識の変化を示す表現「あ」,「そうだ」と接続 表現「で」が用いられている.直前話題との「無 関係性」を表示するのに「あ、そうだ」が用い られ,さらに「旅行」の話題との「関係性」を -96-

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