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『現代スペインの経済社会』 (勁草書房 2011 年)

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 スペインの有力日刊紙『エル・パイス』(2012 年2月14日付)に興味深い記事が掲載されてい た。首都マドリードで毎年開かれている芸術 祭において、今年出品されたある作品が話題に なっているという内容であった。気鋭の若手芸 術家、エウヘニオ・メリノによって制作された その作品は、冷凍庫の中に独裁者フランシスコ・

フランコ将軍(1939年~ 1975年在位)のミニ チュアが入ったものであった。この衝撃的な作 品の作者は、フランコが「凍った幽霊であり、

決して消え失せないもの」であることを表現し たかったのだという。フランコは36年という政 権期の長さから、独裁終焉以降35年以上が経過 したスペインにおいても、多くのスペイン人に とってまさに「忘れることのできない」存在で ある。

 本書もフランコ独裁の経済の側面に随所で触 れている。第2章では政権初期にスペインから 多数の移民が主にヨーロッパの先進国であるフ ランス、西ドイツ、ベルギーに渡ったことを論 じている。当時スペインは、3年の内戦(1936 年~ 1939年)終結直後で多くの人々が飢餓に 苦しむ一方、フランコ政権は「独裁」という否 定的なイメージから他国からの援助を満足に得 ることができず、自給自足経済体制の構築を迫 られた。無論その期間、スペインの経済は停滞 した。そのような事情から、スペインを出た人々 の大半は、仕事を求めた経済移民だったのであ る(68ページ)。

 一方で著者はスペインが次第に移民を送り出 す国から受け入れる国に変化してきた面も強調 している(第3章)。フランコ政権が1959年に経 済社会を対外開放し、1960年代には観光を主要 政策として推し進めた結果、ドイツ、イギリス、

フランスなどから主に年金生活者がスペインに 移住した。実際、フランコ政権が独裁者の死と ともに終わりを迎える1975年には、気候が温暖 な地中海沿岸地方やカナリア諸島などに約10万

人の人々が移住していたという(91 ~ 92ペー ジ)。これらの移民の多くは、物価の安い国で 老後生活を過ごそうという目的を持っていた。

 さらに本書は、近年スペインへの移民のあり 方が大きく変わってきたことも詳述している。

2002年に通貨ユーロが市場に流通して以来、ス ペインが民主化以降最大の繁栄を経験した結 果、仕事を求めた経済移民が大挙押し寄せるよ うになったのである。著者はそれらの移民の特 徴を、他のヨーロッパ先進国と比べ、EU域外 出身者の比重が高く、中でも歴史的文化的な繋 がりから、ラテンアメリカ出身者が多いと説明 している(97ページ)。

 そして現在、スペインは2008年9月のリーマ ン・ショックの影響以降、未曽有の経済危機の 只中にあるといってよい。失業率は2007年度の 8.3パーセントから2011年度は20.6パーセントま で跳ね上がり、この値は今年度さらに上昇する ことが予想されている(『エル・パイス』、2012 年2月21日付)。先行きが決して明るくない一方 で、著者はスペインに渡る移民はそれほど減少 しておらず、帰国する移民も多くないと述べて いる。その主要な理由は、移民の自国と比べ、

スペインの状況は彼らにとってみればまだ良好 であることと、彼らの大半がスペインで成功し て故国の家族を呼び寄せることを目的としてい るからであるという(108 ~ 110ページ)。

 フランコ政権期において多くのスペイン人が 他のヨーロッパ諸国に見出した道筋を、今度は ラテンアメリカを中心とする移民がスペインを 目指してたどっている。多数の移民を受け入れ る一方で、高い失業率を抱えるスペインは、今 回の苦難を果たしてどのように乗り切るのであ ろうか。「凍った幽霊」も今後のスペインのあ り方を冷凍庫から注視しているに違いない。

やすだ けいし (龍谷大学経済学部専任講師・

スペイン現代史、2000年度イスパニア語学科卒業生)

スペイン語圏を知る本(その 62)

楠 貞義 著

『現代スペインの経済社会』

(勁草書房 2011 年)

評者 安田 圭史 卒業生からの寄稿

参照

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