有限 Abel 群と Jordan 標準形
黒木玄
2015
年12
月17
日(
木)
1
有限Abel
群1.1
準備読者は巡回群や
Lagrange
の定理や群の準同型定理などの群論に関する基本的な事柄に ついては知っていると仮定する.正の整数
n
に対して, n = p
e11· · · p
eNN かつ, p
i たちが互いに異なる素数であり, e
i たち が0
以上の整数であるとき, n = p
e11· · · p
eNN をn
の素因数分解と呼ぶことにする.
以下の
2
つの補題を証明抜きに利用する.補題
1.1 (
中国式剰余定理). r, s
が互いに素な正の整数であるならば,
群の同型写像Z /rs Z −→
∼Z /r Z × Z /s Z , a mod rs 7→ (a mod r, a mod s)
が得られる
.
ゆえに正の整数n
の素因数分解がn = p
e11· · · p
eNN であるとき,
群の同型写像Z /n Z −→
∼Z /p
e11Z × · · · × Z /p
eNNZ , a mod n 7→ (a mod p
e11, . . . , a mod p
eNN)
が得られる
.
群
G
とその部分群H
1, . . . , H
N について,
写像H
1× · · · × H
N→ G, (h
1, . . . , h
N) 7→ h
1· · · h
Nが群の同型写像になるとき
,
群G
は部分群H
1, · · · , H
N の直積に分解するという.
補題
1.2 (直積).
群G
とその部分群H, K
について以下の二条件は互いに同値である:•
群G
は部分群H, K
の直積に分解する.
• H, K
はG
の正規部分群であり, H ∩ K = { 1 }
かつHK = G.
以上の補題と注意は以下において断り無しに自由に用いられる.
次の補題は後で群
G
の剰余群における直積分解の存在から元の群G
自身の直積分解の 存在を導くために使われる.
補題
1.3. G
は群であるとし, G
′ はその正規部分群であるとする. N
はG
の正規部分群 であるとし, G = G/N
とおき,
自然な射影をπ : G → G, x 7→ xN
と書く. G
′∩ N = { 1 }
でかつ, G
がπ(G
′)
とある部分群H
の直積に分解するならば, G
はG
′ とπ
−1(H)
の直 積に分解する.
証明
. H
はG
の正規部分群であり,
一般に正規部分群の準同型写像による逆像も正規部 分群になるので,H = π
−1(H)
とおくとH
はG
の正規部分群である.あとは
G
′∩ H = { 1 }
かつG
′H = G
となることを示せば十分である.
G
′∩ H = { 1 }
を示そう. x ∈ G
′∩ H
を任意に取る.
このときπ(x) ∈ π(G
′) ∩ H = { 1 }
すなわちπ(x) = 1
なのでx ∈ N
となる. ゆえにx ∈ G
′∩ N = { 1 }
すなわちx = 1
とな る.
これでG
′∩ H = { 1 }
が示された.
G
′H = G
を示そう. x ∈ G
を任意に取る. π(G
′)π(H) = π(G
′)H = G
よりπ(x) ∈ G
はπ(x) = π(x
′)π(h) = π(x
′h), x
′∈ G
′, h ∈ H
と表される. このとき, あるn ∈ N
が存在 してx = x
′hn
となる. N = π
−1(1) ⊂ π
−1(H) = H
なのでn ∈ H
ゆえにhn ∈ H
となる.
これでG
′H = G
が示された.
注意
1.4. G
はAbel
群であるとし, α, β
はその有限位数の元であるとし,
それぞれの位数r, s
は互いに素であるならば, αβ
の位数はrs
になる.
その理由は以下の通り.
x ∈ ⟨ α ⟩ ∩ ⟨ β ⟩
の位数はα
の位数r
とβ
の位数s
の公約数になるので1
になる.
つま りx = 1
となる.
これで⟨ α ⟩ ∩ ⟨ β ⟩ = { 1 }
となることがわかった.
ゆえに
G
の部分群⟨ α, β ⟩ = ⟨ α ⟩⟨ β ⟩
はその部分群⟨ α ⟩ , ⟨ β ⟩
の直積に分解する.
中国式剰余定理は
Z /r Z × Z /s Z
が(1 mod r, 1 mod s)
から生成される位数rs
の巡回群 になることを意味している.
そのことから⟨ α, β ⟩
がαβ
から生成されることとαβ
の位数 がrs
になることがただちに導かれる.
1.2
有限Abel
群の構造補題
1.5. Abel
群G
の有限位数を持つ元a, b
の位数はそれぞれr, s
であるとし,
それら の最小公倍数をm
と書く. このとき位数m
のG
の元が存在する.証明
. r, s
の素因数分解をr = p
e11· · · p
eNN, s = p
f11· · · p
fNN と書く. 必要があれば番号を付け変えてe
1≧ f
1, . . . , e
n≧ f
n, e
n+1≦ f
n+1, . . . , e
N≦ f
N が成立していると仮定してよい.
正の整数r
′, r
′′, s
′, s
′′ をr
′= p
e11· · · p
enn, r
′′= p
en+1n+1· · · p
eNN, s
′= p
f11· · · p
fnn, s
′′= p
fn+1n+1· · · p
fNN と定める.
このときr = r
′r
′′, s = s
′s
′′, r
′s
′′= m
が成立し, r
′ とs
′′ は互いに素になる.
α = a
r′′, β = b
s′ とおく.
このときα, β
それぞれの位数はr
′= r/r
′′, s
′′= s/s
′ になる.
ゆえに注意1.4
よりαβ
の位数はr
′s
′′= m
になる.
この補題から次の補題がただちに導かれる.
補題
1.6. G
は有限Abel
群であるとし, G
の元の位数の最大値をr
と書く.
このときG
の任意の元の位数はr
の約数になる.
証明.
G
の最大位数r
の元a
を取る.G
の元b
を任意に取ってその位数をs
と書き,r, s
の最小公倍数をm
と書く.
補題1.5
よりG
の中に位数m
の元が存在する.
しかしr
の 最大性からm ≦ r
でなければいけない.
ゆえにs
はr
の約数でなければいけない. (
もし もs
がr
の約数でなければm > r
となってしまう.)次の補題を証明できれば
,
補題1.3
を用いた群の位数に関する帰納法で有限Abel
群が巡 回群の直積になることを容易に証明できる.補題
1.7. G
は有限Abel
群であるとし, a
はその位数最大の元であるとし, G ̸ = ⟨ a ⟩
であ ると仮定する.
このときG
の部分群N ̸ = { 1 }
で⟨ a ⟩ ∩ N = { 1 }
をみたすものが存在する.
証明. G = G/ ⟨ a ⟩
とおき,
自然な射影をπ : G → G, x 7→ π(x) = x ⟨ a ⟩
と書く.
仮定G ̸ = ⟨ a ⟩
より,
あるb ∈ G
でb ̸∈ ⟨ a ⟩
となるものが存在する. a, b
の位数をそれぞれr, s
と書く. 補題1.6
よりs
はr
の約数である.b ̸∈ ⟨ a ⟩
なのでπ(b) ̸ = 1
である. π(b)
の位数t
はs
の約数になり, π(b) ̸ = 1
よりt > 1
となる. π(b
t) = 1
なのでb
t∈ ⟨ a ⟩
となる.
ゆえにある整数k
でb
t= a
k を満たすものが 存在する. このとき1 = b
t= b
t·s/t= a
k·s/tなのである整数
l
が存在してks/t = lr
となる. このときk/t = l · r/s
は整数になる. ゆ えにG
の元c
を次のように定めることができる:
c = a
−k/tb.
N = ⟨ c ⟩
が構成したいG
の部分群であることを示そう.
まず, π(c) = π(b)
の位数はt > 1
なのでc
の位数も1
より大きいのでN = ⟨ c ⟩ ̸ = { 1 }
である.
次に, x ∈ ⟨ a ⟩ ∩ N = ⟨ a ⟩ ∩ ⟨ c ⟩
とすると,x = a
i= c
j, i, j ∈ Z
と書ける. 1 =π(a
i) = π(x) = π(c
j) = π(c)
j より,j
はt
の倍数になる.
しかしc
t= a
−kb
t= 1
なのでx = c
j= c
t·j/t= 1
となる.
これで⟨ a ⟩ ∩ N = ⟨ a ⟩ ∩ ⟨ c ⟩ = { 1 }
となることもわかった.
補題
1.8.
有限Abel
群G
の最大位数の元をa
と書くと, G
は⟨ a ⟩
とある部分群H
の直 積に分解する.
証明.
G
の位数に関する帰納法で証明する.| G | = 1
のときに定理の結論は自明に成立している.
| G | > 1
のとき.
位数が| G |
より小さなAbel
群について定理の結論が成立していると 仮定する.G = ⟨ a ⟩
の場合には定理の結論は自明に成立しているので,G ̸ = ⟨ a ⟩
と仮定し てよい補題1.7
より, G
の部分群N ̸ = { 1 }
で⟨ a ⟩ ∩ N = { 1 }
をみたすものが存在する. G = G/N
とおき,
自然な射影をπ : G → G, x 7→ xN
と書く. N ̸ = { 1 }
よりG
の位数はG
の位数より小さいので,帰納法の仮定より,G
はπ( ⟨ a ⟩ )
とある部分群H
の直積に分解 する.
ゆえに,
補題1.3
より, G
は⟨ a ⟩
とH = π
−1(H)
の直積に分解する.
定理
1.9.
有限Abel
群G
に対して,
単位元以外のa
1, a
2, . . . , a
N∈ G
で以下の条件を満 たすものが存在する(G = { 1 }
の場合にはN = 0
だとみなす):
• G
は巡回部分群⟨ a
1⟩ , . . . , ⟨ a
N⟩
の直積に分解する.
• a
i の位数をr
i と書くと,r
N| · · · | r
2| r
1.
ここで整数
r, s
に対するs | r
はs
がr
を割り切ることを意味する.
証明.G
の位数| G |
に関する帰納法で証明する.| G | = 1
のとき,
定理の結論は自明に成立している.
| G | > 1
のとき.
位数が| G |
より小さなAbel
群について定理の結論が成立していると 仮定する.G
の位数最大の元をa
1 とし, その位数をr
1 と書く. 補題1.8
より,G
は⟨ a
1⟩
とある部分群
H
の直積に分解する. H
の位数はG
の位数より小さいので,
帰納法の仮 定より,単位元以外のあるa
2, . . . , a
N∈ H
が存在して,H
は⟨ a
2⟩ , . . . , ⟨ a
N⟩
の直積に分解 し, a
i の位数をr
i と書くとr
N| · · · | r
3| r
2 が成立する.
ゆえにG
は⟨ a
1⟩ , ⟨ a
2⟩ , . . . , ⟨ a
N⟩
の 直積に分解する.
補題1.6
よりa
i の位数r
i たちはすべてa
1 の位数r
1 の約数になる.
こ れで示すべきことがすべて示された.系
1.10.
有限Abel
群は素数べき位数の巡回部分群たちの直積に分解する.
証明
.
定理1.9
より,
有限Abel
群は巡回部分群たちの直積に分解する.
中国式剰余定理よ り, 巡回群は素数べき位数の巡回部分群の直積に分解する. ゆえに有限Abel
群は素数べき 位数の巡回群たちの直積に分解する.
Abel
群A
と整数k
に対して, A
k= { a
k| a ∈ A }
と定める.
そのときA
k はA
の部分 群になる. Abel
群A
が部分群B, C
の直積に分解しているとき, A
k はB
k, C
k の直積に 分解する. 群G, H
とそれぞれの正規部分群M, N
に対して,M × N
はG × H
の正規部 分群になり,
自然な群の同型(G × H)/(M × N ) ∼ = (G/M) × (H/N )
が成立している.
補題1.11.
位数r
の有限巡回群C
と正の整数k
に対して, r
とk
の最大公約数をg
と 書くと, C
k= ⟨ a
k⟩
は位数r/g
の巡回部分群になる.
ゆえに剰余群C/C
k は位数g
の巡回 群になる.証明
. C
の生成元の1
つをa
と書く.
ある整数l, m
でlr + mk = g
を満たすものが存在す る.
ゆえにa
g= a
lr+mk= a
mk∈ C
k.
任意の整数i
に対して(a
i)
k= (a
g)
ki/g∈ ⟨ a
g⟩ .
ゆえ にC
k= ⟨ a
g⟩ .
したがってC
k はa
g から生成される位数r/g
の巡回部分群になり, C/C
k はa
の像から生成される位数g
の巡回群になる.
定理
1.12.
定理1.9
のr
1, r
2, . . . , r
N はG
から一意的に決まる. ((r
1, r
2, . . . , r
N)
をG
の 単因子(elementary divisors)
と呼ぶ.)証明
.
この定理を証明するためには正の整数k
に対する| G/G
k|
たちからr
i たちが一意 に決まることを示せばよい. (
以下のように実際には素数べきk = p
e に対する| G/G
k|
た ちからr
i たちが一意に決まることを示せる.)
G
の元の位数の最大値をr
と書くと,
補題1.6
より, G
の元の位数はすべてr
の約数に なる.
定理1.9
の状況を仮定し, r
N+1= 1
とおく.
そのときr
1= r
となる1.
各
r
i の素因数分解をr
i= p
e11(i)· · · p
eNN(i) と書いておく. r
N| · · · | r
2| r
1 より,
各素数p
t ご とにe
t(N ) ≦ · · · ≦ e
t(2) ≦ e
t(1)
が成立している.e
t(i)
たちが| G/G
k|
たちから一意に決 まることを示せばよい.
補題
1.11
より,
位数r
i の巡回群C
i に対して, C
i/C
ipet= p
mint {e,et(i)} となる.
ゆえにe
t(i + 1) ≦ e ≦ e
t(i)
のときG/G
pet= p
ett(N)+···+et(i+2)+et(i+1)+ie.
これより
e
t(1), e
t(2), . . .
が数列G/G
pet(e = 0, 1, 2, . . .)
から一意的に決まってしまうこ とがわかる2.
注意
1.13.
上の証明中の記号のもとで系1.10
の結果はG ∼ = ∏
t,i
( Z /p
ett(i)Z )
と書ける
.
この素数べき位数の巡回群への直積分解もG
から本質的に一意的に決まる.
こ のようにして有限Abel
群の同型類と素数べきの組は一対一に対応している.
1理由を考えよ.
2それはなぜかを自分で考えてみよ.
例
1.14. p
は素数であり, n
は0
以上の整数であるとする.
位数が素数べきp
n の有限Abel
群の同型類全体とn
の分割全体は一対一に対応している.n
の分割とは整数の列e
1≧ e
2≧ · · · ≧ e
N≧ 1
でn
1+ n
2+ · · · + n
N= n
をみたすもののことである. n
の分 割に対してZ /p
n1Z ⊕ · · · ⊕ Z /p
nNZ
の同型類を対応させることによって, n
の分割と位数p
e の有限Abel
群の同型類の一対一対応が定まる.n
の分割全体の個数をp(n)
と書き,n
の分割数(partition number)
と呼ぶ3.
例えばp(0) = 1, p(1) = 1, p(2) = 2, p(3) = 3, p(4) = 5, p(5) = 7
である.
例
1.15.
位数540000 = 2
53
35
4 の有限Abel
群の同型類全体の個数はp(5)p(3)p(4) = 7 · 3 · 5 = 105
個である.
2 Jordan
標準形2.1
有限Abel
群の場合との類似実は前節と全く同様にして
Jordan
標準形の存在と一意性を証明できる.
有限Abel
群とJordan
標準形の理論は主イデアル整域(PID)
上の有限生成加群の一般論に吸収されてしまうのだが, このノートでは一般論に頼らずに有限
Abel
群の場合の証明との類似を追及 することによってJordan
標準形の存在と一意性の証明を見付ける方法を解説する.
ただ し,
可換環上の加群に関する基礎的な事柄は既知であると仮定する.
以下,
K
は任意の代数閉体であると仮定する. (代数閉体の定義を知らない人はK = C
と仮定してよい.)
以下のような類似を考えることになる
.
•
有理整数環Z ←→
多項式環K [x]
• Abel
群の元の整数乗←→ K[x]
加群の元の多項式倍•
有限Abel
群←→ K
上有限次元のK[x]
加群• Abel
群の位数←→ K[x]
加群のK
上のベクトル空間としての次元•
巡回群Z/n Z ←→
巡回K[x]
加群K[x]/f (x)K[x]
•
素数べきp
e←→ α ∈ K
に対する(x − α)
e•
素数べき位数の巡回群Z /p
eZ ←→
点α
に台を持つ巡回K[x]
加群K [x]/(x − α)
eK [x]
K[x]
加群の世界における行列の対応物はK[x]
加群へのx
倍の作用である. 有限Abel
群 の世界には行列の類似物は存在しない.
完全な類似が不可能になっているおかげで話が面 白くなっているとも考えられる.
A
はK
の元を成分とするn × n
行列であるとする.A
は行列の積によって列ベクトル の空間K
n に左から作用している.
だからx
の作用を行列A
の作用で定めることによっ て, M = K
n をK[x]
加群とみなせる:
f (x)v := f (A)v (v ∈ M = K
n, f (x) ∈ K [x]).
3分割数の母函数表示∑∞
n=0p(n)qn=∏∞
k=1(1−qk)−1が成立している. q=e2πiτ とおく.
η(q) =q1/24∏∞
k=1(1−qk)はDedekindのeta函数と呼ばれる数論的に特別な函数である.
M = K
n はK[x]
加群でかつK
上のベクトル空間として有限次元である. K
上有限次元 のK[x]
加群を考えることとK
の元を成分に持つn × n
行列を考えることは同じことで ある.
もしも
K
上有限次元なK [x]
加群M
がC
α,e:= K[x]/(x − α)
eK[x]
に同型な
K[x]
加群の直和4になっていることがわかれば, 行列A
のJordan
標準形が存在 することが示されたことになる.
なぜならば
, C
α,e= K[x]/(x − α)
eK[x]
の基底として(x − α)
e−1, (x − α)
e−2, . . . , (x − α)
0 の像を取るとき, x
の作用が定める線形写像の行列表示がちょうどJordan
ブロックの形にな るからである.
そのことは以下のようにして確かめられる.
以下の≡
はすべてmod (x − α)
e の合同関係である:
x(x − α)
e−1= (x − α)
e+ α(x − α)
e−1≡ α(x − α)
e−1, x(x − α)
e−2= (x − α)
e−1+ α(x − α)
e−2,
· · · ·
x(x − α)
0= (x − α)
1+ α(x − α)
0.
すなわち,
[x(x − α)
e−1, x(x − α)
e−1, . . . , x(x − α)
0]
≡ [(x − α)
e−1, (x − α)
e−1, . . . , (x − α)
0]
α 1
α . ..
. .. 1 α
.
ゆえに
x
のC
α,e への作用が定める線形写像の上の基底に関する行列表示はJ
α,e=
α 1
α . ..
. .. 1 α
(e × e
行列)
という
Jordan
ブロックの形になる.
これで, 有限
Abel
群が素数べき位数の巡回群の直積に分解するという結果(系 1.10)
の 類似をK
上有限次元のK [x]
加群について証明できればJordan
標準形の存在を証明でき ることわかった. (C
α,e= K[x]/(x − α)
eK[x]
は素数べき位数の巡回群の類似物になって いる.)モニックな5多項式
f (x) ∈ K[x]
に対して, f(x) = (x − α
1)
e1· · · (x − α
N)
eN かつ, α
i た ちがK
の互いに異なる元であり, e
i たちが0
以上の整数であるとき,
f(x) = (x − α
1)
e1· · · (x − α
N)
eN をf (x)
の素因数分解と呼ぶことにする.4K[x]加群の有限直和と有限直積は同じもの
5最高次の係数が1であるという意味. ある意味でモニックな多項式全体の集合は正の整数全体の集合の 類似物だとみなされる.
多項式環でも中国式剰余定理がそのまま成立しており
,
たとえば素因数分解f (x) = (x − α
1)
e1· · · (x − α
N)
eN について次が成立している:K [x]/f (x)K [x] ∼ = C
α1,e1× · · · × C
αN,eN.
このことから
,
行列A
のJordan
標準形の存在と一意性を証明するためには定理1.9, 1.12
と類似の結果をK
上有限次元のK[x]
加群について証明できればよいことがわかる. 次 の節で有限Abel
群の場合との類似をたどった証明の概略について説明しよう.
2.2 K
上有限次元のK[x]
加群の構造M
はK
上のベクトル空間として有限次元であるようなK[x]
加群であるとする.M
のK
上の基底を取ることによってM
はK
n と同一視できる.
その同一視のもとでx
のM
への作用が定めるM
の一次変換はK
の元を成分とするあるn × n
行列A
と同一視され る.
行列A
を直接扱う代わりに我々はK[x]
加群M
を扱うことになる.
dim
KM = n
なので任意のv ∈ M
に対してn + 1
個の元v, xv, x
2v, . . . , x
nv
はK
上一 次従属になる.
ゆえにあるモニックな多項式f (x) ∈ K [x]
でf (x)v = 0
となるものが存在 する.
そのようなモニックな多項式の中で次数が最小の多項式が一意的に定まることを示 せる6.
そのモニックな多項式をϕ
v(x) ∈ K[x]
と書く.
K[x]
加群の準同型定理によって同型K[x]v ∼ = K[x]/ϕ
v(x)K[x]
が成立していることを 示せる.
この結果は有限Abel
群G
の元a
の位数をr
と書くと⟨ a ⟩ ∼ = Z /r Z
が成立するこ との類似である.
dim
KK[x]v = deg ϕ
v(x) ≦ n
が成立している.v ∈ M
に対するϕ
v(x)
は有限Abel
群G
の元a
の位数r
の類似物であり, deg ϕ
v(x) ≦ dim
KM
はr ≦ | G |
の類似である.
補題
2.1 (
補題1.5
の類似).
任意のu, v ∈ M
に対してϕ
u(x), ϕ
v(x)
の最小公倍多項式をm(x)
と書くと, あるw ∈ M
が存在してϕ
w(x) = m(x)
となる.証明
.
あるモニック多項式f (x), g(x), h(x), k(x)
でϕ
u(x) = f (x)g(x), ϕ
v(x) = h(x)k(x), m(x) = f(x)k(x)
を満たし, f (x)
とk(x)
が互いに素であるものが存在する(
多項式の 素因数分解を使えば存在を示せる).u
′= g(x)u, v
′= h(x)v
とおくと,ϕ
u′(x) = f (x), ϕ
v′(x) = k(x)
となり,
それらは互いに素になる.
z ∈ K[x]u
′∩ K[x]v
′ に対するϕ
z(x)
はf(x)
とk(x)
の共約多項式になるので1
になる.
ゆえにz = 1z = ϕ
z(x)z = 0
となる. これでK[x]u
′∩ K[x]v
′= 0
となることがわかった.ゆえに
K[x]u
′+ K[x]v
′ は直和になる.
K[x]
に関する中国式剰余定理は, (K[x]/f (x)K[x]) × (K[x]/k(x)K[x])
がa = (1 mod f(x), 1 mod k(x))
から生成される巡回
K[x]
加群になり, ϕ
a(x) = f(x)k(x)
となることを意味している(K[x]a ∼ = K[x]/f (x)k(x)K [x]).
そのことから,K [x]u
′+ K[x]v
′ はw = u
′+ v
′ から生成 される巡回K[x]
加群になり, ϕ
w(x) = f (x)k(x) = m(x)
となることがただちに導かれ る.
上の証明は注意
1.4
の内容の焼き直しに過ぎない.
この補題
2.1
を使えば,
補題1.6
の証明とまったく同様にして次の補題が示される.
6示してみよ
補題
2.2 (
補題1.6
の類似). w
はM
の元でdeg ϕ
w(x)
が最大になるものであるとする.
このとき任意のv ∈ M
に対してϕ
v(x) | ϕ
w(x)
となる. ここで多項式f (x), g(x)
に対してf (x) | g(x)
はf(x)
がg(x)
を割り切ることを意味する.
補題
2.3 (補題 1.7
の類似).w
はM
の元でdeg ϕ
w(x)
が最大になるものであるとし,M ̸ = K[x]w
であると仮定する.
このときM
のK[x]
部分加群L ̸ = 0
でK [x]w ∩ L = 0
をみたすものが存在する.
証明
. M = M/K[x]w
とおき,
自然な射影をπ : M → M , v 7→ v + K [x]w
と書く.
仮定M ̸ = K [x]w
より,
あるz ∈ M
でz ̸∈ K [x]w
となるものが存在する.
補題2.2
より, ϕ
z(x)
はϕ
w(x)
を割り切る.z ̸∈ K[x]w
なのでπ(w) ̸ = 0
である. ϕ
π(z)(x)
はϕ
z(x)
を割り切り, π(z) ̸ = 0
よりdeg ϕ
π(z)(x) > 1
となる. π(ϕ
π(z)(x)z) = 0
なのでϕ
π(z)(x)z ∈ K [x]w
となる.
ゆえにある 多項式g(x) ∈ K[x]
でϕ
π(z)(x)z = g(x)w
を満たすものが存在する. このとき0 = ϕ
z(x)z = ϕ
z(x)
ϕ
π(z)(x) ϕ
π(z)(x)z = ϕ
z(x)
ϕ
π(z)(x) g(x)w
なので
,
ある多項式h(x) ∈ K [x]
が存在してϕ
z(x)g (x)/ϕ
π(z)(x) = h(x)ϕ
w(x)
となる.
こ のときg(x)/ϕ
π(z)(x) = h(x) · ϕ
w(x)/ϕ
z(x) ∈ K[x]
となる.
ゆえにM
の元u
を次のよう に定めることができる:
u = z − g(x) ϕ
π(z)(x) w.
L = K[x]u
が構成したいM
のK[x]
部分加群であることを示そう.
まず, π(u) = π(z)
な のでϕ
π(u)(x) = ϕ
π(z)(x)
の次数は1
より大きく,
ゆえにϕ
u(x)
の次数も1
より大きいの で, L = K[x]u ̸ = 0
である.
次に, v ∈ K[x]w ∩ L = K[x]w ∩ K[x]u
とすると, v = p(x)w = q(x)u, p(x), q(x) ∈ K[x]
と書ける. 0 = π(p(x)w) = π(v) = π(q(x)u) = q(x)π(u)
より, q(x)
はϕ
π(u)(x) = ϕ
π(z)(x)
で割り切れる. しかし,ϕ
π(z)(x)u = ϕ
π(z)(x)z − g(x)w = 0
なの でv = q(x)u = (q(x)/ϕ
π(z)(x))ϕ
π(z)(x)u = 0
となる.
これでK[x]w ∩ L = K[x]w ∩ K[x]u = 0
となることもわかった.
上の証明は補題
1.7
の証明の焼き直しに過ぎない.
以上の準備のもとで,以下の結果は有限
Abel
群の場合とまったく同様に証明できる.補題
2.4 (
補題1.8
の類似). w
をM
の元でdeg ϕ
w(x)
が最大になるものとすると, M
は 巡回K [x]
部分加群K[x]w
とあるK[x]
部分加群W
の直和に分解する.定理
2.5 (
定理1.9
の類似). K
上有限次元のK[x]
加群M
に対して, 0
以外のw
1, w
2, . . . , w
N∈ M
で以下の条件を満たすものが存在する(M = 0
の場合にはN = 0
とみなす):• M
は巡回K[x]
部分加群K[x]w
1, . . . , K[x]w
N の直和に分解する.
• d
i(x) = ϕ
wi(x)
とおくと,d
N(x) | · · · | d
2(x) | d
1(x).
定理
2.6 (
定理1.12
の類似).
定理2.5
の多項式d
1(x), d
2(x), . . . , d
N(x)
はM
から一意的 に決まる. (
この(d
1(x), d
2(x), . . . , d
N(x))
をM
の単因子(elementary divisors)
と呼 ぶ.)
注意
2.7.
定理2.5, 2.6
はK
が代数閉体とは限らない任意の体の場合にも成立している.
証明を省略した部分を自力で埋めよ.
このノートの全体を自分好みに書き直してみよ