1
.北部振興事業の経緯沖縄県中部宜野湾市に立地する米軍普天間飛行場は周辺に住宅施設、小中高校大学などの教育施 設が隣接する住民生活の場に立地する世界でも有数の危険な軍事施設として有名である。沖縄県内 に立地する米軍基地については、基地の管理運営に起因する有害物質による環境汚染や軍用機の騒 音から墜落事故、部品の落下事故、さらには米軍人・軍属による凶悪犯罪などは様々な問題の百貨 店の様相を呈している。2004年に起きた沖縄国際大学構内へのヘリ墜落事件についても事故再発防 止や危険性の除去についても目立った進展は見られない。このような普天間飛行場の移設先候補地 として、沖縄本島北部にある名護市辺野古区にあるキャンプ・シュワブ水域内の沿岸区域と決定さ れたのは1999年11月22日である。当時の沖縄県の行政のトップであった稲嶺恵一沖縄県知事は、移 設先の選定にあたって以下の4つの「基本的な考え方」を示していた。
【目 次】
1.北部振興事業の経緯 2.産業連関分析の利用 3.消費内生化モデルの適用 4.消費内生化モデルによる
計測結果
5.経済波及効果のリーケー ジの把握
6.地域シェア法による北部 地域への効果の把握 7.北部振興事業の経済評価
【要 約】
北部振興事業は名護市が普天間代替基地として、辺野古への基地の受入れ表明の後に、2000 年 から 10 年間にかけて毎年 100 億円の事業を実施するという、政治的に決定された事業である。同 事業は名護市、沖縄県、日本政府と事業の推進をめぐって様々な問題があったが、本小論ではその 経済的評価を試みるものである。評価の方法としてここでは消費内生化モデルによる産業連関分析 を用い、地域シェア法による北部地域への効果も試算した。
奥平 均
* OKUHIRA Hitoshi Economic Evaluation on the Promotion Project
in the Northern Part of Okinawa Main Island
沖縄県北部振興事業の経済評価
*沖縄経済環境研究所特別研究員
⑴ 米軍基地の整理・縮小を図るものであること
⑵ 住民の安全が確保され、騒音等の影響が軽減されること
⑶ 建設される空港は、民間航空機が就航できる滑走路を有するもので、将来にわたって地域及 び県民の財産となるものであること
⑷ 県土の均衡ある発展を図る視点から地域の活性化に資するものであること
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設は、これらの「基本的な考え方」の結果、受け入れ先 として、選定されたものであるとされている。とはいうものの宜野湾市の普天飛行場の返還は名護 市にとっては新たな基地負担の発生であり、普天間飛行場の基地機能の新たな移転を意味する。そ のため、当時の名護市の岸本建男市長は、「この新たに生じる負担」を軽減し、受け入れ周辺地域の 経済振興を図ることは、国の責務であり、新たな負担には新たな振興策の立法措置を、という立場 を明確にし、基地の受け入れを容認している。その後、飛行場の建設方法や環境影響評価をめぐっ て移設計画は紆余曲折し、普天間飛行場代替施設の建設エリアや建設工法や鳩山首相による県外移 設発言による混迷を経て、国と県は対立することになるが、いずれにしても、当時の沖縄県の要請 を受けた政府は取り組み方針として跡地利用の円滑化の推進より先に「北部振興」について言及す ることとなる。表向きは、北部地域の振興は県土の均衡ある発展や新全国総合開発計画との関連か らも語れることになるが、実態は、普天間飛行場の移設地域のための振興策ということにつきるだ ろう。この経緯は当時、副知事として政策立案に関った牧野[6]にくわしい。
普天間基地の代替あるいは移転先としての普天間の決定については、様々な視点から多くの論者に よる論考や評価があるが、代表的な見解は新崎[2]によるものだろう。そこには「稲嶺知事は、移設候 補地を政府に伝え、15年使用期限を要請するとともに、名護市長に移設受け入れを要請した。政府は 早速沖縄政策協議会を開き(12月17日)、北部地域振興、移設先及び周辺地域振興、跡地対策を明らか
図
1
北部振興事業の事業費の累計額H
12(2000年)〜H
23(2011年)(資料出所)沖縄県「北部振興事業【採択】実績」
にし、10年で1000億円の北部振興予算確保を表明した」と、事業のスタート時の様子が描かれている。
2
.産業連関分析の利用北部振興事業は公共事業と非公共事業に区分されるが、公共事業は道路や護岸整備といった土木 関連事業が中心で、非公共事業は調査事業から施設整備事業まで広範なものとなっている。例えば、
2003(平成15)年に実施された「北部地域園芸農業活性化計画策定事業」は北部圏域の花きなどの 園芸農家を中心に、台風対策のための被害防止施設として簡易平張施設を対象となる全農家を対象 に整備し、計画策定後、2006(平成18)年まで継続して事業を実施している。また、国頭村、宜 野座村、恩納村は現在の沖縄スポーツコンベンションの推進に大きく寄与することになる野球場や サッカー場を中心した関連施設の整備も実施している。このように地域振興に寄与する事業を単年 度主義にしばられず継続して行い、地域振興に寄与した事業も多くある一方で、情報通信・金融関 連企業立地実現化計画策定事業など経済社会の現状認識や市場の将来見通しが欠落したために、実 質的に稼動しなかった事業もある。
とはいえこれらの事業において重要なのは、事業によって地域において所得が発生したか否かとい うことである。公共工事のようなハード事業では一時的な地域所得の大きな上昇があった後で、地域 インフラとして住民に所得換算できない効用をもたらしている事業もある。事業実施が継続的に地域 所得の形成に寄与することが望ましいが、沖縄振興計画下において中南部圏域に比べると大きな成果 があったとは言いがたい北部圏域の振興に寄与したのは事実である。このように多種多様な事業効果 の定量的な把握を、ここでは産業連関分析によって実施する。
産業連関表は全国・沖縄共に5年おき作成されており、対象となる期間と使用する産業連関表は 表1の通りである。北部振興事業として2000年から2011を対象とするため、使用する産業連関表は
表
1
計測対象期間と使用する産業連関表2000年表、2005年表、2011年表の3種となる。2000年から2002年は2000年表、2003年から2007年 は2005年表、2008年から2011年は2011年表を使用する。
使用する産業連関表については公表用基本分類をベースに2000年表は行部門517×列部門405を 行部門列部門調整後の398部門表に、2005年表は行部門404×350より344部門に、2011年表は行部 門401×列部門343より337部門に整理統合した表を使用する。ここでは原則として基本表から小分 類を生成しており、その理由として部門統合による誤差の軽減がある。
図2は2011年沖縄県産業連関表において、公表用基本分類(行部門401×列部門343)の行部門列 部門を正方行列に整理した337部門表と、基本表と逆行列表が公表されている14部門表、35部門表 から、観光産業の経済効果として一般的に取上げられる部門について産出乗数と影響力係数を比較 したものである。14部門表、35部門表では「商業」に統合された部門は、基本表では「卸売」と
「小売」であり、その産出乗数は14部門表が1
.
42、35部門表では1.
44となるが、基本表ベースでは「卸売」が1
.
30、「小売」が1.
50となっており、観光産業における、飲食や土産品販売の効果を、「卸 売」部門と「小売」部門で別々に計上しなければ、誤った結果を導きかねないということが容易に 理解できるだろう。また、ホテルなどの「宿泊」部門と、食事などの「飲食サービス」、観光施設な どを35部門表における「対個人サービス」、14部門表における「サービス」として経済効果を計測 することについては計算結果の意味づけが大きく異なったものとなってしまう。産業連関表におけ る直接効果である需要創出の把握については大きな産業区分でも良いかもしれないが、産業連関表 の最大のアドバンテージである間接効果を推計するためのベースとなる産業間取引については統合 化することのデメリットは極めて深刻なものといえよう。この問題は比較的初期の段階から指摘されているが、特に赤羽[1]はその要因について詳細に議論 表
2
産業連関表毎の事業投入額(資料出所)沖縄県「北部振興事業【採択】実績」
している。
3
.消費内生化モデルの適用経済波及効果は産業連関表より算出されるレオンチェフ逆行列に新規需要ベクトルを乗じること で求められる。一般的には、この段階を間接1次効果と呼び、ここから雇用者所得から生じる家計 消費による効果を間接2次効果として別に計算する方法が、日本においては良くみられる。この方 法では間接2次効果の推計時に、当該年次の平均消費性向から雇用者所得から生じる消費額を求め るが、3年平均であったり、特定の月の平均消費性向を用いるなど明確な基準は無く、分析者の裁 量に任されている。そのため家計消費の効果を大きめにとったり、少なめにとることが可能である。
あまり褒められたことではないがコンサルタントがクライアントの要望に応じて、この手を使うこ ともあるかもしれない。さらに、間接2次効果の考えから、3次、4次と繰り返すことも可能である。
本小論では、このような恣意性を排除する意味から家計消費内生化モデルを使用する。我が国に おいては宮沢[7]による手法が代表的なもので、藤川[8]は
VBA
のソースコードを公開している。産 業連関表による経済効果は製造業を中心とした中間投入部門の高い産業で効果が出やすく、サービ ス業など粗付加価値部門のウェイトの高い産業の効果は出にくい傾向にある。そのため家計消費部 門を内生化することで、通常のレオンチェフ逆行列を拡大した逆行列を得ることができる。消費内生化を伴わない通常の産業連関分析の基本モデルは次の通りである。
X
=x
+F
+( E
−M )
……… ⑴X
=[I
−( I
−M ) A
]−1[( I
−M ) F
+E
]……… ⑵X
+⊿X
=?
[I
−( I
−M ) A
]−1[( I
−M )( F
+⊿F )
+E
]……… ⑶⊿
X
=[I
−( I
−M ) A
]−1[( I
−M )
⊿F
……… ⑷⊿
X
C=[I
−( I
−M ) A
]−1[( I
−M ) ckw
⊿X
……… ⑸ 図2
2011
年表による337
部門、35
部門、14
部門毎の産出乗数の比較⊿
X
T=⊿X
+⊿X
C ………(
6)
ただし、
X
:総産出額ベクトル、x
:中間需要(=中間投入)、F
:域内最終需要ベクトル、E
: 移輸入ベクトル、A
:投入係数行列、M
:移輸入ベクトル、I
:単位行列、[I - ( I - M ) A
]-1:レ オンチェフ逆行列、⊿X
T:総生産誘発額、⊿X
C:間接2次効果(消費による生産誘発)、c
: 民間消費支出ベクトル、k
:消費転換係数、w
:雇用者所得率消費内生化の方法はいくつかのバリアントがあるが、ここで用いるのは藤川[8]による方法である。
基本的な考え方は、⑵式の輸移入部門の内生化を拡張したもので、産業連関表における各産業の所 得が生産に比例すると仮定し、比例定数を付加価値率とする。この所得に平均消費性向を乗じるこ とで消費を求める。
Y
=VX
……… ⑺C
=cY
……… ⑻C
=cVX
……… ⑼ ただし、Y
:所得、V
:付加価値率、C
:平均消費性向ここで、⑼式を⑵式に代入し、最終需要
F
を家計消費を除くFi
に分割する。X=
[I
−( I
−M )
(A
+CV
)]-(1I
−M
)Fi
+E
]……… ⑽⑽式は、移輸入内生化と同じロジックで家計消費の循環効果も内生化したことになり、単純に考 えると移輸入率が投入係数の効果を下げるのに対し、家計消費は押し上げるように投入係数を拡大 し、結果的にレオンチェフ逆行列を拡大したものとなる。中間投入行列に家計消費部門と雇用者所 得部門を追加する方法に比べると作業が軽減される。なお、海外の産業連関表ではあらかじめ家計 消費部門を中間投入部門に追加し、また、日本においても初期の段階ではそうであったが輸入も最 終需要ではなく付加価値部門に計上されているケースがある。
4
.消費内生化モデルによる計測結果計測結果は表3の通りである。公共事業は沖縄県表の「道路関係公共事業」、「河川・下水道・そ の他の公共事業」、「農林関係公共事業」の3部門のうち「道路関係公共事業」を対象とした。各年 の建設部門分析用産業連関表の需要コンバーターで、道路関連の公共事業を配分している。そのた め、ここでは「道路関係公共事業」により経済効果を計測した。
建設土木関産業は12部門あり、移輸入内生化の標準モデルの産出乗数と比較すると倍近い差があ る。影響力係数が1を下回わるのは標準モデルでは「鉄軌道建設」、「電力施設建設」、「電気通信施
設建設」の3部門のみで、他は1を超えている。「住宅建設(木造)」は2
.
564となっており、ほとん どの部門で2以上である。乗数の比をみても全ての部門で1.
5倍以上ある。「住宅建設(木造)」にい たっては1.
8倍以上である。表4は「公共事業」、「非公共事業」に分けて経済波及効果を試算した結果である。まず、注目すべ き点は中間投入率と粗付加価値率である。公共事業は中間投入率が2000年の55
.
1%から2011年には 63.
3%と5割を超えるが、非公共事業は逆に粗付加価値率が、2000年の74.
2%から2011年は73.
3%と7割を超えている。施設整備を除く非公共事業については標準モデルで経済波及効果を求めると 家計部門の影響を低く計測する可能性が高い。
表における乗数は直接効果に対する経済波及効果計の比率である。公共事業は2005年表では2
.
22 と高い値を示し、2011年表では1.
77と低下するものの、効果そのものは大きなものである。一方で 非公共事業が2005年表では1.
54だったものが、2011年表では1.
27と低くなっている。対事業所サー ビスなどの県内企業間の連関効果が弱くなっている可能性もある。県外企業の誘致が進む一方で、企 業間取引の恩恵が県内企業にまわっていない可能性も考えられる。つまり、県内企業との取引より、県外にある系列企業との取引に優位性があるとみている可能性もある。産業間における連関関係の ネットワーク強度が経済波及効果の源泉であることから、経済政策の点検と推進を目的とするなら 企業間連結ネットワークの詳細な分析が必要となろう。これは今後の課題である。
表
3
2011
年表における標準モデルと消費内生化モデルの産出乗数表
4
沖縄県産業連関表による消費内生化モデルによる計測結果5
.経済波及効果のリーケージの把握経済波及効果を低くする要因は、産業間の連関関係のネットワーク強度以外に、移輸入率がある。
産業連関表では自給率として定義する。自給率は経済波及効果に影響するため、それを把握するこ とは意義のあることであろう。本小論では非競争輸入型の産業連関表を使用していないため、経済 波及効果の域外への漏れ、すなわちリーケージの把握には工夫が必要である。経済波及効果の域外 へのリーケージを把握する方法として、沖縄県の産業連関表においても指標の一つとして記載され ている競争輸入型産業連関表から計算される移輸入を内生化したレオンチェフ逆行列と外生化した ままのレオンチェフ逆行列の差から求める方法もある。
ここでは県内の経済効果と全国の経済効果の差を計測することで、経済効果の県外流出として リーケージの指標としてみることにする。基本的な考え方を図3に示した。まず北部振興事業の経 済波及効果を全国表により求める。沖縄は全国表の一部を形成するものであると同時に、この方法 では日本経済の海外との取引はあるが、沖縄と沖縄県外の移輸入の流れを考慮する必要が無い。こ こで示された国内における移輸入の影響の無い経済波及効果と、先に求めた沖縄県表による経済波 及効果の差は、沖縄県にとってはリーケージである。よって元の投入額に対する全国と沖縄の経済 効果の差はリーケージの指標といえよう。
沖縄県の経済波及効果を求めたのと同じ消費内生化モデルを全国表に適用して、北部振興事業の 全国版の経済波及効果を求める。なお、全国表については総務省より「平成12
-
17-
23年接続産業 連関表」が提供されており、ここでは生産者価格評価表として整理されている統合中分類表の名目 値表を用いた。本来なら沖縄県表と同じ基本分類を利用したいところであるが、それは別の機会に 検討したい。試算結果を表5に示した。まず公共事業の中間投入率をみると2000年から2011年にかけて 51
.
6%、53.
2%、54.
8%となっており、高くなる傾向にある。一方、非公共事業は粗付加価値率をみ ると2000年から2011年にかけて75.
4%、77.
4%、73.
9%となっている。全体的な傾向か沖縄と同じ であり、公共事業、非公共事業ともに産業間で費用構造、所得構造において大きく異なるところは ないといえよう。むしろ国内企業としての技術構造の等質性を反映したものとなっている。ただし、沖縄県における効果把握 ベースライン
百万円( 倍)
図
3
リーケージの指標として沖縄県と全国の経済波及効果の差全国表は移入による影響が無いことと、全国と沖縄の産業連関効果の違いを反映して乗数値は公共 部門が3前後で2011年は3
.
13となっており、非公共事業も1.
7以上で、2011年は1.
99である。以上を踏まえ、沖縄県と全国の乗数からリーケージを視覚的に評価するために図4に乗数値とそ の差を示した。公共・非公共ともに全国は2000年に比べて2011の乗数は大きくなっている。一方で、
沖縄では低下している。沖縄県の場合、全国的に景気が上向き、経済活動が活発化すればするほど 移輸入が増加する傾向がある。これはおきぎん経済研究所[5]による沖縄県地域計量経済モデルにお ける分析結果でも同じ結果となっており、結局のところ、県産品の生産拡大による自給率の向上か、
観光部門や移輸出の強化など海外受取の増加による方法が求められるということになる。月並みな 解答かもしれないが、復帰以降続いてきた沖縄振興策の成果について重要な評価である。稲嶺元知 事の時代に、沖縄振興策をして「魚より釣り竿が欲しい」と評し、その後の政策の方向性を示した といわれるが、ここでのリーケージの計測結果は、この事実を如実に示している。生産基盤の強化 は、生産要素の2要素である資本と労働と、これに加えて技術の指標でもある全要素生産性の動き で説明できる。そうであるならばこれらの指標が改善されていないか、あるいは全国と比べて相対 的に悪化した可能性もある。この実態を明らかにすることが過去と今後の振興策のあり方について 何らかの示唆をあたえることになるのではないだろうか。
表
5
全国接続表による消費内生化モデルによる計測結果図
4
沖縄県と全国の経済効果の差によるリーケージの視覚的評価6
.地域シェア法による北部地域への効果の把握北部振興事業が主題であるが、ここまでは沖縄県全体と全国について経済波及効果を試算してい る。北部振興事業は沖縄本島北部12市町村を対象とした事業であるから、北部地域の経済効果も示 すべきであろう。北部圏域の産業連関表を作成するのがベストな解だが、ここでは簡便化の手法と して地域シェア法を適用する。この方法は、大平・吉田・中川[4]で提案された方法で、最近では上 田・國光[3]のように実用化された事例がある。
この手法は市町村民所得統計における経済活動別の市町村別域内総生産を付加価値誘発額のシェ アの指標とみなして、付加価値誘発額を市町村別に配分するというというのが基本的なアイディア である。実は、経済波及効果の計測に産業連関表の基本分類を用いた理由の一つに、この手法を適 用するためというのがある。というのも、通常の産業連関表の中分類・大分類の産業分類と、市町 村民所得統計の経済活動別域内総生産の産業分類は対応していないため、基本表レベルか小分類の 産業連関表を、市町村民所得統計に合わせて集計統合する必要がある。
産業連関表と市町村民所得統計の産業分類さえ対応させておけば、図5に示したように計算は比 較的簡単である。沖縄県内の41市町村の15産業部門よりなる41×15の地域シェアマトリックスを 生成し、これに基本表ベースの産業連関表の産業分類を15部門に対応させた経済波及額ベクトルを 乗ずることで市町村別にウェイト付け集計された生産波及額が出力される。
地域シェア法による市町村別経済波及額の試算結果を図6
-
1、図6-
2に示した。図には2000年表 と2011年表より試算された公共事業と非公共事業の両方を加算した経済波及効果の総合効果の結 果を描画している。産業別ではあるが市町村民所得統計がベースとなっているため経済活動の大き な市部において高い生産額となっている。特に那覇市のウェイトが大きいため、沖縄県における経 済活動の多くの部分が集中していることが分かる。沖縄市やうるま市の経済効果も高いが名護市に おいても一定程度の効果がみられる。また恩納村と本部町でも経済効果が現れている。その一方で、国頭村、東村、大宜味村の北部3村では効果が小さい結果となっている。
この結果より、北部12市町村を抜き出し、表6に経済波及効果の総額と対県比を示した。名護市 の場合、2000年表は約7億2千万円で、対県比6
.
84%だったものが、2005年表では約34億9千万円、図
5
地域シェア法による経済波及効果の市町村への配分対県比7
.
05%となり、2011年表では約33億円、対県比7.
07%となっている。名護市に次いで経済効 果が大きいのが本部町で2011年表では7億円、対県比1.
51%となっている。2011年表の段階で1億 円に満たないのは大宜味村、東村、伊江村、伊平屋村、伊是名村の5村で、離島の3村と北部2村と なっている。北部21市町村でみると対県比約11%というのが実情であり、その大半は名護市への効 果となっている。図
6 - 1
地域シェア法による経済波及額の市町村への配分(2000
年表)図
6 - 2
地域シェア法による経済波及額の市町村への配分(2011
年表)7
.北部振興事業の経済評価2000年から2011年までに公共事業が約436億円、非公共事業が約616億円、総額でほぼ1
,
050億円 の予算が投入された。この期間の経済効果は全国に対しては高い効果となり、沖縄県全体でも一定 程度の効果があったが、北部地域への効果については高くないという結果となった。産業連関表に よる経済評価という点で改善の余地はあるが、実態は大きく外してはいないだろう。それでも一時 的ではあれ、主として公共事業や施設整備の伴う非公共事業は北部地域に、所得の増加という効果 をもたらしている。それが事業後、持続的に効果を発揮するか否かは事業の性質にもよるが、工場 や飲食販売施設などの生産関連の施設整備に関してはハコモノと批判されても仕方のないような事 業もある。しかしながら道路整備やスポーツ関連などの施設は、現行の沖縄県の施策とマッチして 効果を発揮しつつある。そういう意味では社会インフラの整備として意味ある事業もあったわけで ある。特に、沖縄県北部のような経済的条件不利地域においては、北部振興事業のような公的事業は経 済効率性という観点からの経済効果といった、本小論における分析とは別に、この事業が無かった らどうなっていたかというシミュレーション的な視点も重要であろう。
とはいえ、地域への定住・雇用促進という地域振興のお題目という観点からみると評価は分かれ ることになる。その評価は人口の推移に示される。復帰以降の北部振興事業を含む期間の人口の推 移をみると、図7は人口の増加傾向のみられた名護市、恩納村、宜野座村と、北部地域及び沖縄県 をプロットしたものである。そして図8は国頭村、大宜味村、東村などの人口の減少・停滞のみられ た地域である。図9は北部12市町村の復帰時と現在の人口シェアをみたものである。現状では、北 部振興事業の成果は人口の増加と集中のみられた地域にとって成果のあった事業であり、他の地域 では効果がないか、わずかだったということになる。
北部振興事業は、あたかも北部地域と全国がとフラクタル構造の様相を呈しているかのように、北 部地域において効果の大小が地域において分かれ、また国内経済という観点からも沖縄よりむしろ、
全国への経済効果の高い事業であったといってよいだろう。
表
6
地域シェア法による北部12
市町村の経済波及効果図
7
人口増加のみられた地域 資料出所:沖縄県「沖縄県統計年鑑」図
8
人口減少・停滞のみられた地域 資料出所:沖縄県「沖縄県統計年鑑」図
9
沖縄県北部12
市町村の人口シェア 資料出所:沖縄県「沖縄県統計年鑑」参考文献
[1]赤羽隆夫(1980)「産業連関分析における部門統合の問題点」『
ESP
』174号[2]新崎盛暉(2005)『沖縄現代史』岩波書店、
pp
194−195[3]上田達己・國光洋二(2018)「都道府県間産業連関分析による農業農村整備事業および小水力発電事 業の波及効果計測のための
WEB
アプリケーション」『農研機構研究報告 農村工学部門』2[4]大平純彦・吉田泰治・中川俊彦(2000)「県表を用いた市町村における経済効果の計測について」『産 業連関』
Vol.
9[5]おきぎん経済研究所(2016)「おきぎん地域計量経済モデルによる平成28年度の沖縄経済の見通し」『お きぎん調査月報』
No.
506[6]牧野浩隆(2010)『バランスある解決を求めて』牧野浩隆著作刊行委員会
[7]宮沢健一(1992)『医療と福祉の産業連関』東洋経済新報社
[8]藤川清史(2005)『産業連関分析入門』日本評論社