非アルキメデス的力学系理論でのモンテルの定理の 別証明
李正勲 (名古屋大学)
∗2015 年 03 月 03 日
概 要この講演では非アルキメデス的グリーン関数を用いた非アルキメデス的力学 系におけるモンテルの定理の別証明を紹介する。
1. 導入
P. Montel は [Mont16] で複素平面内の領域上に定義された正則関数の族が一様有界で
あれば、正規族であることを示した。この結果は、特に、複素力学系理論でジュリア 集合の性質を調べるとき、非常に大事な役割を果たす。この講演では複素力学系理論 に関して詳しく述べないが、興味のある方々には [Miln06] を参照されたい。
L-C. Hsia は [Hs00] で複素力学系理論でのモンテルの定理の類似として非アルキメデ
ス的力学系理論でのモンテルの定理を証明し、その応用としてジュリア集合の基本的 な性質を調べた。ここで非アルキメデス的力学系理論とは完備かつ非アルキメデス的 ノルム付き代数的閉体上の射影直線とその体上の有理式写像の組を考える力学系理論 である。非アルキメデス的力学系理論の基礎に関しては第 2 章で、非アルキメデス的 力学系理論でのモンテルの定理に関しては第 3 章で詳しく述べる。
この講演の一つの目標は L-C. Hsia が [Hs00] で用いた方法とは別の方法で非アルキメ デス的モンテルの定理の証明することである。そこで重要な道具が S. Kawaguchi と J.
H. Silverman によって導入された非アルキメデス的グリーン関数である。彼らは [KS09]
で複素力学系理論でのグーリン関数の類似として、非アルキメデス的力学系理論での グリーン関数を導入し、ファトーウ集合と緊密な関連があることを示した。非アルキ メデス的グリーン関数の基礎に関しては第 4 章で詳しく述べる。また、この講演では 複素力学系理論でのグリーン関数に関して詳しく述べないので、興味のある方々には [BH83] を参照されたい。
2. 非アルキメデス的力学系理論
この章では、非アルキメデス的力学系理論の基礎知識に関して述べる。さらに興味の ある方々には [Silv07] を参照されたい。
まず、K を完備かつ非アルキメデス的ノルム | · | 付き代数的閉体とし、 (K 上の)射 影直線 P
1Kに以下のように定義された球面距離 ρ を定義する:
ρ(z, w) := | z − w |
max { 1, | z |} · max { 1, | w |} (z, w ∈ K) 位相空間としての性質をまとめると以下のようになる。
2010 Mathematics Subject Classification: 37P40
キーワード:非アルキメデス的力学系理論、非アルキメデス的グリーン関数
∗〒
464-8602
愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学 大学院多元数理科学研究科e-mail: [email protected]
命題
2.1. 射影直線は球面距離に関して完備距離空間であるが、非コンパクトかつ完全 非連結である。
また、射影直線 P
1Kから自分自身への(K 上の)有理式写像 f を考える。このとき、
与えられた初期値 z
0に対する点列 { f
n(z
0) }
n≥0の振る舞いを調べることを非アルキメデ ス的力学系理論の一つの目標にする。また、射影直線 P
1Kと有理式写像 f の組 ( P
1K, f) を非アルキメデス的力学系と呼ぶ。
与えられた非アルキメデス的力学系 ( P
1K, f) のファトーウ集合 F
fを写像の族 { f
n}
n≥0の同程度連続性を満たす最大の開集合と定義し、ジュリア集合 J
fをファトーウ集合の 補集合と定義する。ただし、ここで同程度連続性は射影直線の球面距離に対する同程 度連続性を考える。
非アルキメデス的力学系理論でのファトーウ集合とジュリア集合も以下のような性 質を持つ。
命題
2.2. 写像 f : P
1K→ P
1Kを有理式写像とする。このとき、ファトーウ集合とジュリ ア集合は完全不変である。すなわち、
f ( F
f) = F
fと f ( J
f) = J
fが成り立つ。
命題 2.2 は非アルキメデス的力学系 ( P
1K, f) を二つの力学系 ( F
f, f) と ( J
f, f) に分け られることを意味する。すなわち、与えられた初期値がファトーウ集合に入るかジュ リア集合に入るかによって、その軌道全体がファトーウ集合に入るかジュリア集合に 入るかが決まる。ゆえに、二つの独立した力学系を理解することが全体力学系の理解 に繋がる。
3. 非アルキメデス的力学系理論でのモンテルの定理
この章では、非アルキメデス的力学系理論でのモンテルの定理とその応用としてジュ リア集合の基本的な性質を見る。さらに興味のある方々には [Silv07] または [Hs00] を参 照されたい。
まず、非アルキメデス的力学系理論でのモンテルの定理を紹介する。
定理
3.1. 写像 f : P
1K→ P
1Kを次数 2 以上の有理式写像とする。また、U を射影直線 P
1Kの開集合とする。もし、ある相異なる射影直線の元 α と β が存在して、
∪
∞ n=0f
n(U ) ∩ { α, β } = ∅ .
を満たすならば、有理式写像の反復合成からなる写像の族 { f
n}
n≥0は球面距離に関し て U 上同程度連続である。
注 3.2. L-C. Hsia のモンテルの定理はより緩い条件で成り立つ。興味のある方々には
[Hs00, Theorem 2.2] を参照されたい
非アルキメデス的力学系理論でのモンテルの定理を応用し次のようなジュリア集合 の性質を導くことができる。
系
3.3. 写像 f : P
1K→ P
1Kを次数 2 以上の有理式写像とする。このとき、次の 1 から 4
が成り立つ。
1. ジュリア集合 J
fは内部点を持たない。
2. ジュリア集合 J
fが空集合か非可算集合である。
3. ジュリア集合 J
fは孤立点を持たない。
4. 任意のジュリア集合の元の逆軌道はジュリア集合の内で稠密である。すなわち、
任意の z
0∈ J
fに対して、
J
f= ∪
n≥0
f
−n( { z
0} )
が成り立つ。
注 3.4. 有理式写像のジュリア集合は空集合であることもある。
4. 非アルキメデス的グリーン関数
この章では、非アルキメデス的グリーン関数を紹介し、ファトーウ集合との関係を見 る。さらに、興味のある方々には [Silv07] と [KS09] を参照されたい。
S. Kawaguchi と J. Silverman は [KS09] で非アルキメデス的グリーン関数を以下のよ うに定義した。
定義
4.1. 写像 f : P
1K→ P
1Kを次数 d の有理式写像とし、F : K × K \{ 0 } → K × K \{ 0 } を f の一つのリフトとする。このとき、(非アルキメデス的)グーリン関数 G
Fを
G
F: P
1K→ R [z
1, z
2] 7→ lim
n→∞
1
d
n· log( || F
n(z
1, z
2) || ) − log( || z
1, z
2|| ) と定義する。ただし、ここで || z
1, z
2|| は max {| z
1| , | z
2|} を意味する。
次の定理は非アルキメデス的グリーン関数とファトーウ集合との関連性を示す。
定理