近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№335 2022
-10-
本原稿は令和 3 年 12 月 17 日(金)に開催しました冬季講演会でご講演頂きました北海道大学の 上田幹人先生のご講演要旨と講演レジメを掲載させて頂きました。
20.静電気
冬、空気が乾燥している時期に、車のドアの取手やホテルのドアノブに触れるとき、指先とノ ブの間で放電がおこり火花が出たことや、パチッと音のするのを経験された方が多数おられると 思います。これは着衣どうしなどの摩擦により静電気を生じた為で、この静電気が人体を通して 放電したからです。
自然界においては雲に発生しますが、最も大きな場合その電圧は 10 億ボルトにも達し、流れる 電流は 4 万アンペアになると言われています1)。
では、どのようにして静電気が蓄えられたのでしょうか。衣服には発電するようなものは、当 然ながら存在していません。次に、これを説明するために、過去に述べた原子構造の内容と一部 重複するところがありますが、静電気を説明するのに必要なため、敢えて次項で記述いたします2)。 20.1 自由電子
全ての物質は原子の集合体です。この原子の構造を、アルミニウム原子を例にとり、図44に 示しました。中心に、電子の数と同じ数の陽子〔正(+)の電気を帯びた微粒子、アルミニウム の場合は 13〕と中性子を含む原子核があり、その周囲を一定数の電子〔負(-)の電気を帯び た微粒子〕が入る一定の幅を持った軌道があり、内側よりK殻、L殻、M殻、N殻・・と名付け られています。また、内側の殻から電子が満たされますが、それぞれの殻には電子の入る数が決 まっていて、K殻には 2 個、L殻には 8 個、M殻には 18 個、N殻には 32 個の電子が入ることが 出来ます。最も内側にある K 殻に存在している電子は、陽子(原子核)と最も強く、電気的な 力で引き合っていますが、外の軌道に移るにしたがって陽子との距離が遠くなるため陽子と引き 合う力が弱くなり、各原子の最も外側の電子軌道にある電子は最も弱くなります。通常、各電子 軌道の電子はこれらの軌道から外に出ることが出来ません。しかし最外殻の電子は、原子核から 最も遠くにあるため、外部からの化学的又は物理的なエネルギーが加えられることにより電子軌 道から離れ、他の原子の電子軌道に入ったり、原子間を自由に移動することが出来るようになり ます。即ち、金属などでは、電子軌道から飛び出して原子核に束縛されず自由に金属格子内を移
図44 アルミニウム原子の電子配置
動できる電子があります。このような電子を自由電子と言います。図 44 に示しましたアルミニ ウム原子の場合、最外殻(M 殻)の電子は 3 個あります。これらの電子は原子核に引き寄せら れる力が弱いため、少しの外部エネルギーにより軌道から外れて自由に移動することが可能です。
金、銀、銅など電気を良く通す物質は自由電子が多く存在している為、電気が良く流れるので導 体(電気良導体)と言います。しかし、塩化ビニル、ゴム、ガラス、陶器などは電気を通さない ため不導体と言います。これ等は、構成している原子の最外殻の電子が強く原子核に引き寄せら れ、自由電子が無いためです。
各電子殻には、電子の入る数が決まっていますが、最外殻の電子殻の場合、電子で満たされて いない場合、即ち、1 個又は数個の場合、原子核との引き合う力が弱いため、外部からの僅かな エネルギーでも電子は軌道から外れ自由電子になります。
20.2 摩擦電気
異なった物質を擦り合わせると摩擦電気を生じます。では、この摩擦電気はどこから生じるの でしょうか。既に述べましたように、物質は原子の集合体です。それぞれの原子は、原子核と電 子からなっています。原子核には、正(+)の電荷を持った陽子があり、その周囲を負(-)の 電荷を持った電子が一定の軌道を持って運動しています。陽子の数と電子の数が同じで中和され た状態になっています。
プラスチック製の下敷きを、綿と擦り合わせて物理的なエネルギーを与えると、綿には正電気
(+)を、プラスチックには負電気(-)を生じます。これは、綿とプラスチックとを擦り合わ せるという物理的なエネルギーを外部より加えたことにより、綿を構成している原子の負の電気 を持った自由電子の運動が活発になり、原子核の束縛から逃れ、摩擦中に綿からプラスチックへ 移動したためです。
綿は、もともと各原子の陽子の数と電子の数が同じで中和されていて、正の電気(+)も負の 電気(-)も帯びていませんが、摩擦により、負の電気を持った電子が綿から呼び出してプラス チックに移動した為に、電子と陽子の数の均衡が破れ、綿には正の電気を生じ、プラスチックに は負の電気を持った電子が移動したので負の電気を持つようになったのです。このように、不導 体同士が擦れ合って発生する電気を摩擦電気と言います。
ではどのような物質を擦り合わせると静電気を生じるのでしょうか。次の図453)に示したよ うな物質が静電気を生じる順序になります。
図45 静電気発生の序列
20.3 摩擦電気の性質
以上のように摩擦することにより、摩擦した一方の物質には正の電荷が、他方の物質には負の 電荷(物質が正又は負の電気を帯びたとき、その物質に電荷があると言い、単に電荷と言う言葉 で表します)を生じます。正の電荷を持った物質同士を近付けますと、磁石の S 極同士又は N 極同士のように反発します。然し、正の電荷を持った物質と負の電荷を持った物質を近付けます と、磁石のS極とN極を近付けた場合のように、お互いに引き合います。
21.静電塗装4) 21.1 原理及び装置
この静電塗装方法は、上記で、静電気の性質である、正の電荷を帯びた微粒子と負の電荷を帯 びた微粒子が引き付け合うことを述べましたが、この原理を利用した方法です。正(+)の電荷 を帯びた品物(アルマイト製品)に負(-)の電荷を帯びた塗料の微粒子を、静電気的に品物に 引き寄せて塗装する方法です。即ち、品物(アルマイト処理した製品など)を陽極(+)とし、 塗料の微粒子を噴霧するノズルを負極(-)として、両極間に 5 万ボルト~ 6 万ボルトの直流高 電圧を加え、ノズルから噴出した塗料の微粒子を品物に静電気的に引き寄せ、付着させる方法で す。負極のノズルから出た塗料は、負の電気を帯びた微粒子となって飛散し、被塗物との間に発 生した静電気力線注)に沿って、正電気(+)を帯びた被塗物(品物)に静電気的に引き寄せられ、 塗料の微粒子が被塗物に付着します。
この方法の特徴は、スプレー塗装などに比較して、塗料の被塗物への付着効率が非常に良く、 塗料の損失が少ないことです。装置の模式図を図465)に示します。
図46 静電塗装法の模式図(一例)
注)静電気力線は、磁石のS、N間で生じる磁力線と同じように、正極と負極の最短距離では 直線になりますが、外側ではふくらみ、半円を描くようになります。
21.2 塗料6)
静電塗装用の塗料は、通常のスプレー用塗料とは、本質的に大差はありません。ただ、噴霧に より微粒子になった時に負に帯電しやすくするように、溶剤の配合割合を調節して使用します。 また塗料の性質は、
① 絶縁抵抗の少ないもの。 ② 適度に揮発性のあるもの。 が好ましいとされています。 静電塗装による長所は、
① 通常のスプレー式に比較して、静電気的に品物に塗料が引き付けられて付着するため、塗 料の損失が少ない。
② 特殊な形状は除き、均一な塗膜が得られる。 などで、欠点は、
① 設備費が高価である。 ② 薄い塗膜が出来にくい。 等が挙げられます。
以上
引用文献
1) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p48 (1993) 株式会社西東社 2) 野口駿雄 , 本誌 №322, p1(2020)
3) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p46 (1993) 株式会社西東社
4) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p149 ,p150(2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
5) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p148 (2013) 一般社団法人軽金属製品協会 試験センター
6) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p147,p150 (2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
参考文献
1) 若山芳三郎 , 鈴木清 , やさしいカラー版 電気と電子の理論(1981) 啓学出版株式会社 2) 図祥ガッケン・エリア教科事典 12 物理(1977 年)株式会社学習研究社
− 初級者対象講座 −
※)元近畿大学
野口 駿雄 ※)
物理学の初歩(Ⅷ)
- 初級者対象講座 -
(陽子・中性子)
原子核
K 殻 電子
M 殻 L 殻
最外殻電子
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№335 2022
-11-
本原稿は令和 3 年 12 月 17 日(金)に開催しました冬季講演会でご講演頂きました北海道大学の 上田幹人先生のご講演要旨と講演レジメを掲載させて頂きました。
20.静電気
冬、空気が乾燥している時期に、車のドアの取手やホテルのドアノブに触れるとき、指先とノ ブの間で放電がおこり火花が出たことや、パチッと音のするのを経験された方が多数おられると 思います。これは着衣どうしなどの摩擦により静電気を生じた為で、この静電気が人体を通して 放電したからです。
自然界においては雲に発生しますが、最も大きな場合その電圧は 10 億ボルトにも達し、流れる 電流は 4 万アンペアになると言われています1)。
では、どのようにして静電気が蓄えられたのでしょうか。衣服には発電するようなものは、当 然ながら存在していません。次に、これを説明するために、過去に述べた原子構造の内容と一部 重複するところがありますが、静電気を説明するのに必要なため、敢えて次項で記述いたします2)。 20.1 自由電子
全ての物質は原子の集合体です。この原子の構造を、アルミニウム原子を例にとり、図44に 示しました。中心に、電子の数と同じ数の陽子〔正(+)の電気を帯びた微粒子、アルミニウム の場合は 13〕と中性子を含む原子核があり、その周囲を一定数の電子〔負(-)の電気を帯び た微粒子〕が入る一定の幅を持った軌道があり、内側よりK殻、L殻、M殻、N殻・・と名付け られています。また、内側の殻から電子が満たされますが、それぞれの殻には電子の入る数が決 まっていて、K殻には 2 個、L殻には 8 個、M殻には 18 個、N殻には 32 個の電子が入ることが 出来ます。最も内側にある K 殻に存在している電子は、陽子(原子核)と最も強く、電気的な 力で引き合っていますが、外の軌道に移るにしたがって陽子との距離が遠くなるため陽子と引き 合う力が弱くなり、各原子の最も外側の電子軌道にある電子は最も弱くなります。通常、各電子 軌道の電子はこれらの軌道から外に出ることが出来ません。しかし最外殻の電子は、原子核から 最も遠くにあるため、外部からの化学的又は物理的なエネルギーが加えられることにより電子軌 道から離れ、他の原子の電子軌道に入ったり、原子間を自由に移動することが出来るようになり ます。即ち、金属などでは、電子軌道から飛び出して原子核に束縛されず自由に金属格子内を移
図44 アルミニウム原子の電子配置
動できる電子があります。このような電子を自由電子と言います。図 44 に示しましたアルミニ ウム原子の場合、最外殻(M 殻)の電子は 3 個あります。これらの電子は原子核に引き寄せら れる力が弱いため、少しの外部エネルギーにより軌道から外れて自由に移動することが可能です。
金、銀、銅など電気を良く通す物質は自由電子が多く存在している為、電気が良く流れるので導 体(電気良導体)と言います。しかし、塩化ビニル、ゴム、ガラス、陶器などは電気を通さない ため不導体と言います。これ等は、構成している原子の最外殻の電子が強く原子核に引き寄せら れ、自由電子が無いためです。
各電子殻には、電子の入る数が決まっていますが、最外殻の電子殻の場合、電子で満たされて いない場合、即ち、1 個又は数個の場合、原子核との引き合う力が弱いため、外部からの僅かな エネルギーでも電子は軌道から外れ自由電子になります。
20.2 摩擦電気
異なった物質を擦り合わせると摩擦電気を生じます。では、この摩擦電気はどこから生じるの でしょうか。既に述べましたように、物質は原子の集合体です。それぞれの原子は、原子核と電 子からなっています。原子核には、正(+)の電荷を持った陽子があり、その周囲を負(-)の 電荷を持った電子が一定の軌道を持って運動しています。陽子の数と電子の数が同じで中和され た状態になっています。
プラスチック製の下敷きを、綿と擦り合わせて物理的なエネルギーを与えると、綿には正電気
(+)を、プラスチックには負電気(-)を生じます。これは、綿とプラスチックとを擦り合わ せるという物理的なエネルギーを外部より加えたことにより、綿を構成している原子の負の電気 を持った自由電子の運動が活発になり、原子核の束縛から逃れ、摩擦中に綿からプラスチックへ 移動したためです。
綿は、もともと各原子の陽子の数と電子の数が同じで中和されていて、正の電気(+)も負の 電気(-)も帯びていませんが、摩擦により、負の電気を持った電子が綿から呼び出してプラス チックに移動した為に、電子と陽子の数の均衡が破れ、綿には正の電気を生じ、プラスチックに は負の電気を持った電子が移動したので負の電気を持つようになったのです。このように、不導 体同士が擦れ合って発生する電気を摩擦電気と言います。
ではどのような物質を擦り合わせると静電気を生じるのでしょうか。次の図453)に示したよ うな物質が静電気を生じる順序になります。
図45 静電気発生の序列
20.3 摩擦電気の性質
以上のように摩擦することにより、摩擦した一方の物質には正の電荷が、他方の物質には負の 電荷(物質が正又は負の電気を帯びたとき、その物質に電荷があると言い、単に電荷と言う言葉 で表します)を生じます。正の電荷を持った物質同士を近付けますと、磁石の S 極同士又は N 極同士のように反発します。然し、正の電荷を持った物質と負の電荷を持った物質を近付けます と、磁石のS極とN極を近付けた場合のように、お互いに引き合います。
21.静電塗装4) 21.1 原理及び装置
この静電塗装方法は、上記で、静電気の性質である、正の電荷を帯びた微粒子と負の電荷を帯 びた微粒子が引き付け合うことを述べましたが、この原理を利用した方法です。正(+)の電荷 を帯びた品物(アルマイト製品)に負(-)の電荷を帯びた塗料の微粒子を、静電気的に品物に 引き寄せて塗装する方法です。即ち、品物(アルマイト処理した製品など)を陽極(+)とし、
塗料の微粒子を噴霧するノズルを負極(-)として、両極間に 5 万ボルト~ 6 万ボルトの直流高 電圧を加え、ノズルから噴出した塗料の微粒子を品物に静電気的に引き寄せ、付着させる方法で す。負極のノズルから出た塗料は、負の電気を帯びた微粒子となって飛散し、被塗物との間に発 生した静電気力線注)に沿って、正電気(+)を帯びた被塗物(品物)に静電気的に引き寄せられ、
塗料の微粒子が被塗物に付着します。
この方法の特徴は、スプレー塗装などに比較して、塗料の被塗物への付着効率が非常に良く、
塗料の損失が少ないことです。装置の模式図を図465)に示します。
図46 静電塗装法の模式図(一例)
注)静電気力線は、磁石のS、N間で生じる磁力線と同じように、正極と負極の最短距離では 直線になりますが、外側ではふくらみ、半円を描くようになります。
21.2 塗料6)
静電塗装用の塗料は、通常のスプレー用塗料とは、本質的に大差はありません。ただ、噴霧に より微粒子になった時に負に帯電しやすくするように、溶剤の配合割合を調節して使用します。 また塗料の性質は、
① 絶縁抵抗の少ないもの。 ② 適度に揮発性のあるもの。 が好ましいとされています。 静電塗装による長所は、
① 通常のスプレー式に比較して、静電気的に品物に塗料が引き付けられて付着するため、塗 料の損失が少ない。
② 特殊な形状は除き、均一な塗膜が得られる。 などで、欠点は、
① 設備費が高価である。 ② 薄い塗膜が出来にくい。 等が挙げられます。
以上
引用文献
1) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p48 (1993) 株式会社西東社 2) 野口駿雄 , 本誌 №322, p1(2020)
3) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p46 (1993) 株式会社西東社
4) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p149 ,p150(2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
5) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p148 (2013) 一般社団法人軽金属製品協会 試験センター
6) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p147,p150 (2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
参考文献
1) 若山芳三郎 , 鈴木清 , やさしいカラー版 電気と電子の理論(1981) 啓学出版株式会社 2) 図祥ガッケン・エリア教科事典 12 物理(1977 年)株式会社学習研究社
− 初級者対象講座 −
正 負
電 電
気 獣 毛 ガ 雲 綿 紙 麻 絹 木 ゴ こ プ 人 金 エ 気
側 皮 ラ 母 材 ム は ラ 体 属 ボ 側
( +) ス く ス ナ ( ー)
チ イ
ッ ト
ク
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№335 2022
-12-
本原稿は令和 3 年 12 月 17 日(金)に開催しました冬季講演会でご講演頂きました北海道大学の 上田幹人先生のご講演要旨と講演レジメを掲載させて頂きました。
20.静電気
冬、空気が乾燥している時期に、車のドアの取手やホテルのドアノブに触れるとき、指先とノ ブの間で放電がおこり火花が出たことや、パチッと音のするのを経験された方が多数おられると 思います。これは着衣どうしなどの摩擦により静電気を生じた為で、この静電気が人体を通して 放電したからです。
自然界においては雲に発生しますが、最も大きな場合その電圧は 10 億ボルトにも達し、流れる 電流は 4 万アンペアになると言われています1)。
では、どのようにして静電気が蓄えられたのでしょうか。衣服には発電するようなものは、当 然ながら存在していません。次に、これを説明するために、過去に述べた原子構造の内容と一部 重複するところがありますが、静電気を説明するのに必要なため、敢えて次項で記述いたします2)。 20.1 自由電子
全ての物質は原子の集合体です。この原子の構造を、アルミニウム原子を例にとり、図44に 示しました。中心に、電子の数と同じ数の陽子〔正(+)の電気を帯びた微粒子、アルミニウム の場合は 13〕と中性子を含む原子核があり、その周囲を一定数の電子〔負(-)の電気を帯び た微粒子〕が入る一定の幅を持った軌道があり、内側よりK殻、L殻、M殻、N殻・・と名付け られています。また、内側の殻から電子が満たされますが、それぞれの殻には電子の入る数が決 まっていて、K殻には 2 個、L殻には 8 個、M殻には 18 個、N殻には 32 個の電子が入ることが 出来ます。最も内側にある K 殻に存在している電子は、陽子(原子核)と最も強く、電気的な 力で引き合っていますが、外の軌道に移るにしたがって陽子との距離が遠くなるため陽子と引き 合う力が弱くなり、各原子の最も外側の電子軌道にある電子は最も弱くなります。通常、各電子 軌道の電子はこれらの軌道から外に出ることが出来ません。しかし最外殻の電子は、原子核から 最も遠くにあるため、外部からの化学的又は物理的なエネルギーが加えられることにより電子軌 道から離れ、他の原子の電子軌道に入ったり、原子間を自由に移動することが出来るようになり ます。即ち、金属などでは、電子軌道から飛び出して原子核に束縛されず自由に金属格子内を移
図44 アルミニウム原子の電子配置
動できる電子があります。このような電子を自由電子と言います。図 44 に示しましたアルミニ ウム原子の場合、最外殻(M 殻)の電子は 3 個あります。これらの電子は原子核に引き寄せら れる力が弱いため、少しの外部エネルギーにより軌道から外れて自由に移動することが可能です。
金、銀、銅など電気を良く通す物質は自由電子が多く存在している為、電気が良く流れるので導 体(電気良導体)と言います。しかし、塩化ビニル、ゴム、ガラス、陶器などは電気を通さない ため不導体と言います。これ等は、構成している原子の最外殻の電子が強く原子核に引き寄せら れ、自由電子が無いためです。
各電子殻には、電子の入る数が決まっていますが、最外殻の電子殻の場合、電子で満たされて いない場合、即ち、1 個又は数個の場合、原子核との引き合う力が弱いため、外部からの僅かな エネルギーでも電子は軌道から外れ自由電子になります。
20.2 摩擦電気
異なった物質を擦り合わせると摩擦電気を生じます。では、この摩擦電気はどこから生じるの でしょうか。既に述べましたように、物質は原子の集合体です。それぞれの原子は、原子核と電 子からなっています。原子核には、正(+)の電荷を持った陽子があり、その周囲を負(-)の 電荷を持った電子が一定の軌道を持って運動しています。陽子の数と電子の数が同じで中和され た状態になっています。
プラスチック製の下敷きを、綿と擦り合わせて物理的なエネルギーを与えると、綿には正電気
(+)を、プラスチックには負電気(-)を生じます。これは、綿とプラスチックとを擦り合わ せるという物理的なエネルギーを外部より加えたことにより、綿を構成している原子の負の電気 を持った自由電子の運動が活発になり、原子核の束縛から逃れ、摩擦中に綿からプラスチックへ 移動したためです。
綿は、もともと各原子の陽子の数と電子の数が同じで中和されていて、正の電気(+)も負の 電気(-)も帯びていませんが、摩擦により、負の電気を持った電子が綿から呼び出してプラス チックに移動した為に、電子と陽子の数の均衡が破れ、綿には正の電気を生じ、プラスチックに は負の電気を持った電子が移動したので負の電気を持つようになったのです。このように、不導 体同士が擦れ合って発生する電気を摩擦電気と言います。
ではどのような物質を擦り合わせると静電気を生じるのでしょうか。次の図453)に示したよ うな物質が静電気を生じる順序になります。
図45 静電気発生の序列
20.3 摩擦電気の性質
以上のように摩擦することにより、摩擦した一方の物質には正の電荷が、他方の物質には負の 電荷(物質が正又は負の電気を帯びたとき、その物質に電荷があると言い、単に電荷と言う言葉 で表します)を生じます。正の電荷を持った物質同士を近付けますと、磁石の S 極同士又は N 極同士のように反発します。然し、正の電荷を持った物質と負の電荷を持った物質を近付けます と、磁石のS極とN極を近付けた場合のように、お互いに引き合います。
21.静電塗装4)
21.1 原理及び装置
この静電塗装方法は、上記で、静電気の性質である、正の電荷を帯びた微粒子と負の電荷を帯 びた微粒子が引き付け合うことを述べましたが、この原理を利用した方法です。正(+)の電荷 を帯びた品物(アルマイト製品)に負(-)の電荷を帯びた塗料の微粒子を、静電気的に品物に 引き寄せて塗装する方法です。即ち、品物(アルマイト処理した製品など)を陽極(+)とし、
塗料の微粒子を噴霧するノズルを負極(-)として、両極間に 5 万ボルト~ 6 万ボルトの直流高 電圧を加え、ノズルから噴出した塗料の微粒子を品物に静電気的に引き寄せ、付着させる方法で す。負極のノズルから出た塗料は、負の電気を帯びた微粒子となって飛散し、被塗物との間に発 生した静電気力線注)に沿って、正電気(+)を帯びた被塗物(品物)に静電気的に引き寄せられ、
塗料の微粒子が被塗物に付着します。
この方法の特徴は、スプレー塗装などに比較して、塗料の被塗物への付着効率が非常に良く、
塗料の損失が少ないことです。装置の模式図を図465)に示します。
図46 静電塗装法の模式図(一例)
注)静電気力線は、磁石のS、N間で生じる磁力線と同じように、正極と負極の最短距離では 直線になりますが、外側ではふくらみ、半円を描くようになります。
21.2 塗料6)
静電塗装用の塗料は、通常のスプレー用塗料とは、本質的に大差はありません。ただ、噴霧に より微粒子になった時に負に帯電しやすくするように、溶剤の配合割合を調節して使用します。
また塗料の性質は、
① 絶縁抵抗の少ないもの。
② 適度に揮発性のあるもの。
が好ましいとされています。
静電塗装による長所は、
① 通常のスプレー式に比較して、静電気的に品物に塗料が引き付けられて付着するため、塗 料の損失が少ない。
② 特殊な形状は除き、均一な塗膜が得られる。
などで、欠点は、
① 設備費が高価である。
② 薄い塗膜が出来にくい。
等が挙げられます。
以上
引用文献
1) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p48 (1993) 株式会社西東社 2) 野口駿雄 , 本誌 №322, p1(2020)
3) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p46 (1993) 株式会社西東社
4) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p149 ,p150(2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
5) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p148 (2013) 一般社団法人軽金属製品協会 試験センター
6) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p147,p150 (2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
参考文献
1) 若山芳三郎 , 鈴木清 , やさしいカラー版 電気と電子の理論(1981) 啓学出版株式会社 2) 図祥ガッケン・エリア教科事典 12 物理(1977 年)株式会社学習研究社
− 初級者対象講座 −
コンベア
ァ l ス
≡
( ━)
物
アース 静電気力線
品
( +)
負の電荷(ー)を持った塗料の微粒子 塗料噴射孔(ノズル)
高圧電源
࣑ࣝࢽ࣒࢘ࣀ࣮ࢻ㓟⓶⭷ࡢࢼࣀᵓ㐀ࡑࡢไᚚ㸦➨୕ᅇ㸧
ᕤᏛ㝔Ꮫ ᑠ㔝ᖾᏊ
ᮏ✏ࡣ㸪㏆␥࣑ࣝࢽ࣒࢘⾲㠃ฎ⌮◊✲ㄅࡢ 2022 ᖺ᪂ᖺྕྕᥖ㍕ࡉࢀࡓゎㄝㄽᩥࡢ⥆
✏࡛㸪୕ᅇࡢ࠺ࡕࡢ᭱⤊✏࡛࠶ࡿࠋ
7. ࣀ࣮ࢻ㓟⓶⭷ࡢ㠀ᐃᆺ⣽Ꮝᵓ㐀
7.1. ⣽Ꮝࡢᨺᑕ≧ࢼࣀศᒱ
ࡇࡇ࡛ࡣ㸪᭱᪂ࡢほᐹᡭἲࢆ⏝࠸࡚㸪㝧ᴟ㓟࣑ࣝࢼከᏍ㉁⭷ࡢᮏ᮶ࡢ㠀⌮ⓗ࡞ᵓ㐀ᐇ 㝿ࡢᡂ㛗㐣⛬ࢆ᫂ࡽࡍࡿࡇࢆ┠ᣦࡋࡓࠋᚑ᮶㸪㝧ᴟ㓟⭷ࡢ࣏ࡣ㸪㟁ሙຍ㏿⁐ゎ[6,44]
ࡸ㟁ሙຍ㏿ࣇ࣮ࣟᶵᵓ[79,82,83]ࡢࡶ࡛┤⟶≧ᡂ㛗ࡋ㸪つ๎ᵓ㐀ࡣᒁᡤ㟁ὶᐦᗘ㸦⤯⦕◚ቯ
࡞㸧[12,80]㸪㠀┤ὶᡂศ [84]㸪ᇶᯈ୰ࡢ⣧≀࡞ࡢ␗ᖖ㸦㠀ᐃᖖⓗ㸧࡞≧ែࡼࡗ࡚ࡢࡳᘬ
ࡁ㉳ࡇࡉࢀࡿ⪃࠼ࡽࢀ࡚ࡁࡓࠋࡋࡋ㸪ᮏᙜࡑ࠺࡛࠶ࢁ࠺ࠋࡑࡇ࡛㸪ᮏ◊✲࡛ࡣ㸪⣽Ꮝᡂ 㛗ࡢᮏ㉁ࡑࡢ⤖ᯝࡋ࡚ࡢᙧែࡀ㟁ሙᙉᗘ౫Ꮡࡍࡿ࠸࠺ཎ⌮ᇶ࡙࠸࡚㸪ࢇࡢ㝧ᴟ 㓟㟁ゎ㉁࠾ࡅࡿ⣽Ꮝᡂ㛗ࡢᬑ㐢ⓗ࡞࣓࢝ࢽࢬ࣒ࢆᥦࡍࡿࡇࢆ┠ᣦࡋࡓ[16]ࠋලయⓗࡣ㸪
ࡲࡎ㸪ᵝࠎ࡞㠀ᐃᆺᵓ㐀ࡀ⭷୰㢖⦾⌧ࢀࡿࢡ࣒ࣟ㓟㟁ゎᾮࢆ⏝࠸ࡓሙྜ㸪⣽Ꮝࡢศᒱࡸࢧ
ࢻ࣮࣍ࣝ࡞ࡢ࠸ࢃࡺࡿ㠀ᐃᆺᵓ㐀[16,70,80]ࡀⓎ⏕ࡍࡿᵝᏊࡑࡢཎᅉࢆゎ᫂ࡋࡓᚋ㸪ࡢ㟁 ゎᾮࡢሙྜࢆ᳨ウࡋࡓࠋ
ヲ⣽࡞ࢼࣀᵓ㐀ࢆ᫂ࡽࡍࡿࡓࡵ㸪0.3mol-dm-3ࡢࢡ࣒ࣟ㓟ࢆ⏝࠸࡚80V࡛ᙧᡂࡋࡓ⭷ࡢ㸪
࢜ࣥࢫࣛࢧ࣮ࡼࡿᆶ┤᩿㠃㸦Fig.15a㸧 FIB ࡼࡿỈᖹ᩿㠃㸦Fig.15c-d㸧ࡢ TEMീࢆほᐹ ࡋࡓࠋࡉࡽ EDXศᯒ㸪㟁Ꮚᅇᢡ࡛ゎᯒࡋࡓ㸦Fig.15㸦a㸪c㸪d㸧㸧ࠋFig.15a ࡛ࡣ㸪᭱ึⓎ⏕
ࡋࡓᑠࡉ࡞Ꮝࡀ 100 nm ⛬ᗘࡢ㛗ࡉᡂ㛗ࡋࡓᚋ㸪ከࡃࡢᏍࡣᡂ㛗ࢆṆࡋ㸪ࢭࣝᚄࡣ⏕ᡂ㟁ᅽ 80Vᑐᛂࡋࡓ200 nm⛬ᗘ㸦Fig.7c㸧ኚࡋࡓࠋࡇࡢ㸪Ꮝࡢᙧែࡣ┤⟶≧࡛ࡣ࡞ࡃ㸪ᑠࡉ࡞
Ꮝࡀᨺᑕ≧ศᒱࡋ࡚࠸ࡿࡇࡀศࡿࠋࡇࡢࢼࣀࢧࢬࡢᏍࡢศᒱࡢ≧ែࡣ㸪ᅗ 15bࡢ◚᩿㠃 SEMീ࡛ࡼࡾ᫂☜ほᐹࡉࢀࡿࠋᨺᑕ≧ࡢࢼࣀศᒱᏍࡣ࠶ࡓࡶᏍቨ⏕ࡌࡓ↓ᩘࡢ✺㉳ࡢᵝ
ぢ࠼ࡿࠋࡇࡢSEMീ୰▮༳࡛♧ࡋࡓࡢࡣ㸪ࢭࣝ3㔜Ⅼࡢ⌫ᙧ࣎ࢻ࡛࠶ࡿࠋ
ᅗ15cࡣ㸪ศᒱࡋࡓ⣽Ꮝࡢᙧែࢆ♧ࡍỈᖹ᩿㠃ࡢTEMീ㸪⓶⭷ࡢྛ㒊ศࡢEDXศᯒ⤖ᯝࢆ
♧ࡍᅗ࡛࠶ࡿࠋ⓶⭷ᮏయࡣ Crࡣ᳨ฟࡉࢀࡎ㸪⣽Ꮝቨ㏆ഐᚤ㔞ࡢ Crࡀ᳨ฟࡉࢀࡓࡢࡳ࡛࠶ࡗ ࡓࠋࢡ࣒ࣟ㓟⓶⭷ࡣ㸪ࡼࡃ▱ࡽࢀ࡚࠸ࡿࡼ࠺㸪Cr ởᰁࡉࢀ࡚࠸࡞࠸ࡇࡀࢃࡗ࡚࠸ࡿ
[31,35,85,86]ࠋᅗ 15d ࡣ㸪୕㔜᥋ྜ㒊ෆໟࡉࢀࡓ⌫≧ࡢ࣎ࢻᬯⰍࡢᑐ↷ⓗ࡞⢏Ꮚࡀ▮༳
࡛♧ࡉࢀ࡚࠾ࡾ㸪 EDX ࠾ࡼࡧ ED ศᯒࡼࡾ㸪ࡇࡢ⢏Ꮚࡣ Cu ࢆྵࢇ࡛࠾ࡾ㸪⤖ᬗᛶ࡛࠶ࡿࡇ
ࡀ᫂ࡽ࡞ࡗࡓࠋᡃࠎࡢูࡢ◊✲࡛ࡣ㸪࣎ࢻෆࡢ⢏Ꮚࡣ CuAl ྜ㔠࡛࠶ࡾ㸪ᇶᯈࡢ✺㉳ୖࡢ
୕㔜Ⅼ⃰⦰ࡉࢀࡓCuࡀ㸪ᑠࡉ࡞⤯⦕◚ቯࡼࡿ㓟⣲࢞ࢫⓎ⏕࡛⏕ࡌࡓ࣎ࢻෆCuAlྜ㔠⢏
Ꮚࡋ࡚ෆໟࡉࢀ㸪⭷୰⛣ືࡋ࡚࠸ࡿࡇࡀࢃࡗࡓࠋࡇࡢࡼ࠺࡞⌫≧ࡢ࣎ࢻࡸෆໟࡉࢀࡓ
⤖ᬗᛶ⢏Ꮚࡣ㸪๓㡯࡛㏙ࡓࡼ࠺㸪ࣜࣥ㓟୰࡛ᙧᡂࡉࢀࡓ⭷ࡶᏑᅾࡍࡿ[76]ࠋ
7.2. ᵝࠎ࡞⣽Ꮝᵓ㐀ࡢศ㢮
ᡃࠎࡣᵝࠎ࡞㠀ᐃᆺ⣽Ꮝᵓ㐀ࢆ♧ࡍᶍᘧᅗࢆᅗ 16 ࡲࡵࡓࠋ㸦a㸧ୖ㠃ࡢᑠࡉ࡞ึᮇ⣽Ꮝ㸪 㸦b㸧ᯞศࢀࡋࡓ⣽Ꮝ㸪㸦c㸧⣽⬊ቨࢆᶓษࡿ┤⥺≧ࡢഃᏍࢺࣜࣉࣝࢭࣝ᥋ྜ㒊ࡢ CuAl ྜ
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№335 2022
-13-
本原稿は令和 3 年 12 月 17 日(金)に開催しました冬季講演会でご講演頂きました北海道大学の 上田幹人先生のご講演要旨と講演レジメを掲載させて頂きました。
20.静電気
冬、空気が乾燥している時期に、車のドアの取手やホテルのドアノブに触れるとき、指先とノ ブの間で放電がおこり火花が出たことや、パチッと音のするのを経験された方が多数おられると 思います。これは着衣どうしなどの摩擦により静電気を生じた為で、この静電気が人体を通して 放電したからです。
自然界においては雲に発生しますが、最も大きな場合その電圧は 10 億ボルトにも達し、流れる 電流は 4 万アンペアになると言われています1)。
では、どのようにして静電気が蓄えられたのでしょうか。衣服には発電するようなものは、当 然ながら存在していません。次に、これを説明するために、過去に述べた原子構造の内容と一部 重複するところがありますが、静電気を説明するのに必要なため、敢えて次項で記述いたします2)。 20.1 自由電子
全ての物質は原子の集合体です。この原子の構造を、アルミニウム原子を例にとり、図44に 示しました。中心に、電子の数と同じ数の陽子〔正(+)の電気を帯びた微粒子、アルミニウム の場合は 13〕と中性子を含む原子核があり、その周囲を一定数の電子〔負(-)の電気を帯び た微粒子〕が入る一定の幅を持った軌道があり、内側よりK殻、L殻、M殻、N殻・・と名付け られています。また、内側の殻から電子が満たされますが、それぞれの殻には電子の入る数が決 まっていて、K殻には 2 個、L殻には 8 個、M殻には 18 個、N殻には 32 個の電子が入ることが 出来ます。最も内側にある K 殻に存在している電子は、陽子(原子核)と最も強く、電気的な 力で引き合っていますが、外の軌道に移るにしたがって陽子との距離が遠くなるため陽子と引き 合う力が弱くなり、各原子の最も外側の電子軌道にある電子は最も弱くなります。通常、各電子 軌道の電子はこれらの軌道から外に出ることが出来ません。しかし最外殻の電子は、原子核から 最も遠くにあるため、外部からの化学的又は物理的なエネルギーが加えられることにより電子軌 道から離れ、他の原子の電子軌道に入ったり、原子間を自由に移動することが出来るようになり ます。即ち、金属などでは、電子軌道から飛び出して原子核に束縛されず自由に金属格子内を移
図44 アルミニウム原子の電子配置
動できる電子があります。このような電子を自由電子と言います。図 44 に示しましたアルミニ ウム原子の場合、最外殻(M 殻)の電子は 3 個あります。これらの電子は原子核に引き寄せら れる力が弱いため、少しの外部エネルギーにより軌道から外れて自由に移動することが可能です。
金、銀、銅など電気を良く通す物質は自由電子が多く存在している為、電気が良く流れるので導 体(電気良導体)と言います。しかし、塩化ビニル、ゴム、ガラス、陶器などは電気を通さない ため不導体と言います。これ等は、構成している原子の最外殻の電子が強く原子核に引き寄せら れ、自由電子が無いためです。
各電子殻には、電子の入る数が決まっていますが、最外殻の電子殻の場合、電子で満たされて いない場合、即ち、1 個又は数個の場合、原子核との引き合う力が弱いため、外部からの僅かな エネルギーでも電子は軌道から外れ自由電子になります。
20.2 摩擦電気
異なった物質を擦り合わせると摩擦電気を生じます。では、この摩擦電気はどこから生じるの でしょうか。既に述べましたように、物質は原子の集合体です。それぞれの原子は、原子核と電 子からなっています。原子核には、正(+)の電荷を持った陽子があり、その周囲を負(-)の 電荷を持った電子が一定の軌道を持って運動しています。陽子の数と電子の数が同じで中和され た状態になっています。
プラスチック製の下敷きを、綿と擦り合わせて物理的なエネルギーを与えると、綿には正電気
(+)を、プラスチックには負電気(-)を生じます。これは、綿とプラスチックとを擦り合わ せるという物理的なエネルギーを外部より加えたことにより、綿を構成している原子の負の電気 を持った自由電子の運動が活発になり、原子核の束縛から逃れ、摩擦中に綿からプラスチックへ 移動したためです。
綿は、もともと各原子の陽子の数と電子の数が同じで中和されていて、正の電気(+)も負の 電気(-)も帯びていませんが、摩擦により、負の電気を持った電子が綿から呼び出してプラス チックに移動した為に、電子と陽子の数の均衡が破れ、綿には正の電気を生じ、プラスチックに は負の電気を持った電子が移動したので負の電気を持つようになったのです。このように、不導 体同士が擦れ合って発生する電気を摩擦電気と言います。
ではどのような物質を擦り合わせると静電気を生じるのでしょうか。次の図453)に示したよ うな物質が静電気を生じる順序になります。
図45 静電気発生の序列
20.3 摩擦電気の性質
以上のように摩擦することにより、摩擦した一方の物質には正の電荷が、他方の物質には負の 電荷(物質が正又は負の電気を帯びたとき、その物質に電荷があると言い、単に電荷と言う言葉 で表します)を生じます。正の電荷を持った物質同士を近付けますと、磁石の S 極同士又は N 極同士のように反発します。然し、正の電荷を持った物質と負の電荷を持った物質を近付けます と、磁石のS極とN極を近付けた場合のように、お互いに引き合います。
21.静電塗装4)
21.1 原理及び装置
この静電塗装方法は、上記で、静電気の性質である、正の電荷を帯びた微粒子と負の電荷を帯 びた微粒子が引き付け合うことを述べましたが、この原理を利用した方法です。正(+)の電荷 を帯びた品物(アルマイト製品)に負(-)の電荷を帯びた塗料の微粒子を、静電気的に品物に 引き寄せて塗装する方法です。即ち、品物(アルマイト処理した製品など)を陽極(+)とし、
塗料の微粒子を噴霧するノズルを負極(-)として、両極間に 5 万ボルト~ 6 万ボルトの直流高 電圧を加え、ノズルから噴出した塗料の微粒子を品物に静電気的に引き寄せ、付着させる方法で す。負極のノズルから出た塗料は、負の電気を帯びた微粒子となって飛散し、被塗物との間に発 生した静電気力線注)に沿って、正電気(+)を帯びた被塗物(品物)に静電気的に引き寄せられ、
塗料の微粒子が被塗物に付着します。
この方法の特徴は、スプレー塗装などに比較して、塗料の被塗物への付着効率が非常に良く、
塗料の損失が少ないことです。装置の模式図を図465)に示します。
図46 静電塗装法の模式図(一例)
注)静電気力線は、磁石のS、N間で生じる磁力線と同じように、正極と負極の最短距離では 直線になりますが、外側ではふくらみ、半円を描くようになります。
21.2 塗料6)
静電塗装用の塗料は、通常のスプレー用塗料とは、本質的に大差はありません。ただ、噴霧に より微粒子になった時に負に帯電しやすくするように、溶剤の配合割合を調節して使用します。
また塗料の性質は、
① 絶縁抵抗の少ないもの。
② 適度に揮発性のあるもの。
が好ましいとされています。
静電塗装による長所は、
① 通常のスプレー式に比較して、静電気的に品物に塗料が引き付けられて付着するため、塗 料の損失が少ない。
② 特殊な形状は除き、均一な塗膜が得られる。
などで、欠点は、
① 設備費が高価である。
② 薄い塗膜が出来にくい。
等が挙げられます。
以上
引用文献
1) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p48 (1993) 株式会社西東社 2) 野口駿雄 , 本誌 №322, p1(2020)
3) 高田陽 , 電気・電子のことがわかる事典 , p46 (1993) 株式会社西東社
4) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p149 ,p150(2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
5) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p148 (2013) 一般社団法人軽金属製品協会 試験センター
6) アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版), p147,p150 (2013) 一般社団法人軽金属製 品協会試験センター
参考文献
1) 若山芳三郎 , 鈴木清 , やさしいカラー版 電気と電子の理論(1981) 啓学出版株式会社 2) 図祥ガッケン・エリア教科事典 12 物理(1977 年)株式会社学習研究社
− 初級者対象講座 −