近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№333 2022
19.4 電流回復法1)
この方法は、最初、高電圧(高電流密度)にして短時間品物に電流を流して厚い皮膜を生成さ せますが、溶液温度や品物の温度が高くなり、陽極酸化皮膜の溶解や焼けの生じる前に電圧を下 げて低電流密度で陽極酸化を行うことにより、浴温度も下がり、浴温度による影響を少なくして 厚い皮膜を生成させる一方法です。最初、品物に高電圧を印加すると、当然、電流もその電圧に 応じた高電流が流れます。次に低電圧に切り替えると、瞬間的に電流値はほぼゼロを示しますが、
徐々に電流が流れはじめ、加えられている低電圧に相当する電流値に回復して陽極酸化が進みます。
特徴として、
1) 20℃~ 25℃の浴温度でも硬質皮膜を生じる。
2) 皮膜厚さにバラツキが少ない。
などがあります。
図42に電流回復法により印加する電圧及び電流値の一例を示しました。図 42(a)は、短時 間(T1)品物に高電圧(E1)を印加しますが、次に電圧を E2 に下げて一定時間(T2)低い電流 値で陽極酸化します。高電圧にして高電流密度で陽極酸化を行いますとジュール熱を発生し溶液
温度は上昇しますが、直ぐに低電圧(低電流密度)にすることにより、また、電解液が攪拌され ていること等により溶液温度は下がり、一定の温度に保つことが出来ます。高電圧の時間を短く、
低電圧の時間を少し長くするなど、高電圧と低電圧の加える時間を変えて交互に繰り返して陽極 酸化を行うことにより、高速で陽極酸化皮膜を生成させることが出来ます。
また、この時の電流値の変化を図 42(b)に示しました。最初、電圧を下げたとき瞬間的に電 流値はほぼゼロを示しますが、直ぐに、E2の電圧に相当する電流値(I2)に戻ります。即ち、電 流は回復します。以上のように電流が回復する電解法を用いる為、電流回復法と呼ばれています。
電圧を下げずに、一定の高電圧で陽極酸化を行いますと、高電流が続くため、ジュール熱の発生 により、品物や浴温度が上昇して陽極酸化皮膜の溶解や焼けなど皮膜の生成に悪影響を及ぼしま す。
電圧を一時下げることにより、電流値も下がり、その結果、溶液や品物の温度の上昇を防止す ることが出来ます。
19.5 電流反転法1)
前項の電流回復法は、電圧を正電圧側(プラス側)で、高電圧と低電圧を交互に変換させてい ますが、本項の電流反転法では、低電圧側を負電圧にして、負成分を電解電圧に加え、負電圧(マ イナス側)と正電圧(プラス側)を交互に反転して電解処理を施します。
この場合は、 前項の電流回復法でも言えることですが、高電圧で電解することにより発生する ジュール熱の影響を防ぐため、陽極酸化反応を一時遮断することにより、つまり負電圧を挿入す ることによって、均一な皮膜を、高速で得ることが出来ます。電流反転法での電流変化の一例を 図43に示しました。
出させ、着色する方法、アルミニウム合金を用いて皮膜中に不溶性の合金成分を析出させて着色 する方法、その他種々の方法があります。
電解により陽極酸化皮膜を着色する方法は、品物を陽極酸化した後に、金属塩を溶解した中性 溶液から弱酸性溶液中(pH を一定に保つために緩衝剤注)などを添加した溶液を使用、ニッケル の場合は弱酸性溶液)で直流又は交流電解を行い、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微結晶を析 出させて着色する方法です。以下にニッケル塩を加えた浴を用いた場合(ブロンズ~黒色系に着 色)の着色方法について例示します。また、染料溶液で陽極酸化皮膜を染色する場合も、染色条 件として一定の pH 範囲に調整する必要があり、緩衝剤及び緩衝溶液が使用されています。この ように緩衝溶液がアルミニウムの表面処理関係で使用されていますので、末尾の 注釈覧 で説明 致します。
19.6.1 直流電解法(住化法)3) 電解浴組成
硫酸ニッケル 50g/L ほう酸 30g/L 浴のpH 4 ± 0.4 電解方法
陰極 陽極酸化皮膜を施した品物 陽極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 1分
以上の条件で直流電流を流すと、陰極になっている陽極酸化皮膜の微細孔の底で溶液中のニッ ケルイオン(Ni2+)が還元されて微細な金属の結晶となって沈着し、着色されます。
19.6.2 交流電解法(浅田法)3) 電解浴組成
硫酸ニッケル 25g/L ほう酸 30g/L 硫酸アンモニウム 15g/L 浴のpH 4 ~ 5
3.弱酸・強酸及び弱塩基・強塩基 1)弱酸・強酸
弱酸には上述のように、代表的なものとして酢酸があります。酢酸は、電離して酢酸 イオンと水素イオンを生じます。一方強酸には、塩酸や硫酸があります。塩酸を例に とりますと、その水溶液は、水素イオンと塩化物イオンとに電離しています。これら の 0.1mol水溶液について、その電離度を比較しますと、
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・1.34%2)
HCl ➝ H+ + Cl― ・・・・・・・・92%2)
のように大きく異なります。それぞれの酸性を示す水素イオン濃度は、同じ 0.1mol の 溶液であっても大きく異なります。このように、強酸はその殆どが電離して多量の水 素イオンを生じるのに比較して、弱酸は僅かしか水素イオンを生じません。
更に、弱塩基と強塩基とでも同じことが言えます。例えば、弱塩基のアンモニア水 と強塩基の水酸化ナトリウム水溶液とでは、次のように異なります。
NH4OH ⇌ NH4+ + OH― ・・・・・1.34%2)
NaOH ➝ Na+ + OH― ・・・・・・92%2)
【 ⇌ の符号は平衡を意味します。(電離・弱酸・弱塩基・強酸・強塩基の詳細については、 本誌 №314, p6 を参照ください)】
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p102(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
2)高木順一,基礎理論 分析化学,p20(1968),株式会社廣川書店
− 初級者対象講座 −
なければならない場合があります。しかし、反応させる溶液が酸性である場合や塩基性(ア ルカリ性)である場合があり、これらを混合して反応させると、反応条件の pH 範囲から ずれて反応が完全に進まなくなります。しかし、反応させている溶液に、少量の酸やア ルカリが入っても pH を一定に保ち続けることができれば反応を完全に進めることが出来 ます。
他から少量の酸やアルカリが入ってもその影響を無くすために加える薬品を緩衝剤と 言い、その溶液を緩衝溶液と言います。その理由を説明します。
緩衝溶液としては、一般に、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を、それぞれ組み 合わせて混合溶解した溶液が用いられます。弱酸(酢酸)とその塩(酢酸ナトリウム) を例にとり説明します。
1.酸が入った場合
酢酸ナトリウム及び酢酸は、水溶液中で次の①式及び②式のように電離(イオンに分 かれること)しています。但し、酢酸ナトリウムのような塩は、溶液中でその殆どが電 離してそれぞれのイオンになっていますが、酢酸は、その多くが電離せずに分子の状態 で存在し、少しだけ電離しています。
CH3COONa ➝ CH3COO- + Na+ ・・・・・・・・①式 酢酸ナトリウム 酢酸イオン ナトリウムイオン
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式 酢酸 酢酸イオン 水素イオン
②式で示した酢酸(弱酸や弱塩基)の電離は、一定の濃度、温度、圧力下では常に一 定の割合で電離しています。従って、他から水素イオンが入ってきた場合、元の水素イ オンの濃度になるために左向きの反応が進み、水素イオンの濃度が常に一定に保たれま す。酢酸イオンは①式の電離により生じた酢酸イオンから供給されます。酢酸ナトリウ ムは全部が電離していますので酢酸イオンの電離反応には影響がありません。
2.塩基が入った場合 野口 駿雄 ※)
物理学の初歩(Ⅶ)
- 初級者対象講座 -
╋ E1 E1 E1
電 圧
E 2 E 2
(V)
T1 T2 T1 T2 T1
時 間 (t)
0
-19-
19.4 電流回復法1)
この方法は、最初、高電圧(高電流密度)にして短時間品物に電流を流して厚い皮膜を生成さ せますが、溶液温度や品物の温度が高くなり、陽極酸化皮膜の溶解や焼けの生じる前に電圧を下 げて低電流密度で陽極酸化を行うことにより、浴温度も下がり、浴温度による影響を少なくして 厚い皮膜を生成させる一方法です。最初、品物に高電圧を印加すると、当然、電流もその電圧に 応じた高電流が流れます。次に低電圧に切り替えると、瞬間的に電流値はほぼゼロを示しますが、
徐々に電流が流れはじめ、加えられている低電圧に相当する電流値に回復して陽極酸化が進みます。
特徴として、
1) 20℃~ 25℃の浴温度でも硬質皮膜を生じる。
2) 皮膜厚さにバラツキが少ない。
などがあります。
図42に電流回復法により印加する電圧及び電流値の一例を示しました。図 42(a)は、短時 間(T1)品物に高電圧(E1)を印加しますが、次に電圧を E2 に下げて一定時間(T2)低い電流 値で陽極酸化します。高電圧にして高電流密度で陽極酸化を行いますとジュール熱を発生し溶液
(a) 電圧と時間の関係
(b) 電流と時間の関係
図42 電流回復法での電圧及び電流と時間の関係
温度は上昇しますが、直ぐに低電圧(低電流密度)にすることにより、また、電解液が攪拌され ていること等により溶液温度は下がり、一定の温度に保つことが出来ます。高電圧の時間を短く、
低電圧の時間を少し長くするなど、高電圧と低電圧の加える時間を変えて交互に繰り返して陽極 酸化を行うことにより、高速で陽極酸化皮膜を生成させることが出来ます。
また、この時の電流値の変化を図 42(b)に示しました。最初、電圧を下げたとき瞬間的に電 流値はほぼゼロを示しますが、直ぐに、E2の電圧に相当する電流値(I2)に戻ります。即ち、電 流は回復します。以上のように電流が回復する電解法を用いる為、電流回復法と呼ばれています。
電圧を下げずに、一定の高電圧で陽極酸化を行いますと、高電流が続くため、ジュール熱の発生 により、品物や浴温度が上昇して陽極酸化皮膜の溶解や焼けなど皮膜の生成に悪影響を及ぼしま す。
電圧を一時下げることにより、電流値も下がり、その結果、溶液や品物の温度の上昇を防止す ることが出来ます。
19.5 電流反転法1)
前項の電流回復法は、電圧を正電圧側(プラス側)で、高電圧と低電圧を交互に変換させてい ますが、本項の電流反転法では、低電圧側を負電圧にして、負成分を電解電圧に加え、負電圧(マ イナス側)と正電圧(プラス側)を交互に反転して電解処理を施します。
この場合は、 前項の電流回復法でも言えることですが、高電圧で電解することにより発生する ジュール熱の影響を防ぐため、陽極酸化反応を一時遮断することにより、つまり負電圧を挿入す ることによって、均一な皮膜を、高速で得ることが出来ます。電流反転法での電流変化の一例を 図43に示しました。
図43 電流反転法における電流と極性変換時間の関係
この場合は負(―)成分を含むため、還元反応が関与します。電解浴に硫酸を用いて陽極酸化 を行った場合、硫黄化合物の臭気を感じることが有ります。硫酸を電解浴に用いて電流反転法に より陽極酸化皮膜を生成させる際、皮膜中に硫黄化合物が含まれるため、陽極酸化後に金属塩溶 液に浸漬すると、金属の硫黄化合物を生じて、種々の色に着色することが可能とされています1)。
19.6 電解着色
陽極酸化皮膜を着色する方法には、染料を用いて陽極酸化皮膜の微細孔中に吸着させて染色す る方法、金属塩を溶解した溶液中で電解し、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属イオンを還元して析
出させ、着色する方法、アルミニウム合金を用いて皮膜中に不溶性の合金成分を析出させて着色 する方法、その他種々の方法があります。
電解により陽極酸化皮膜を着色する方法は、品物を陽極酸化した後に、金属塩を溶解した中性 溶液から弱酸性溶液中(pH を一定に保つために緩衝剤注)などを添加した溶液を使用、ニッケル の場合は弱酸性溶液)で直流又は交流電解を行い、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微結晶を析 出させて着色する方法です。以下にニッケル塩を加えた浴を用いた場合(ブロンズ~黒色系に着 色)の着色方法について例示します。また、染料溶液で陽極酸化皮膜を染色する場合も、染色条 件として一定の pH 範囲に調整する必要があり、緩衝剤及び緩衝溶液が使用されています。この ように緩衝溶液がアルミニウムの表面処理関係で使用されていますので、末尾の 注釈覧 で説明 致します。
19.6.1 直流電解法(住化法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 50g/L ほう酸 30g/L 浴のpH 4 ± 0.4 電解方法
陰極 陽極酸化皮膜を施した品物 陽極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 1分
以上の条件で直流電流を流すと、陰極になっている陽極酸化皮膜の微細孔の底で溶液中のニッ ケルイオン(Ni2+)が還元されて微細な金属の結晶となって沈着し、着色されます。
19.6.2 交流電解法(浅田法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 25g/L ほう酸 30g/L 硫酸アンモニウム 15g/L 浴のpH 4 ~ 5 電解方法
一方の極 陽極酸化皮膜を施した品物 対極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 5 分 ~ 15 分
交流電解では、負成分のとき金属イオンが還元され、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微細結 晶が析出します。
注)緩衝剤とは、例えば、化学物質ABを含む溶液と化学物質CDを含む溶液を混合して化学 反応を行わせる場合、その反応を完全に行わせるために、溶液を一定の pH 範囲に設定し
3.弱酸・強酸及び弱塩基・強塩基 1)弱酸・強酸
弱酸には上述のように、代表的なものとして酢酸があります。酢酸は、電離して酢酸 イオンと水素イオンを生じます。一方強酸には、塩酸や硫酸があります。塩酸を例に とりますと、その水溶液は、水素イオンと塩化物イオンとに電離しています。これら の 0.1mol水溶液について、その電離度を比較しますと、
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・1.34%2)
HCl ➝ H+ + Cl― ・・・・・・・・92%2)
のように大きく異なります。それぞれの酸性を示す水素イオン濃度は、同じ 0.1mol の 溶液であっても大きく異なります。このように、強酸はその殆どが電離して多量の水 素イオンを生じるのに比較して、弱酸は僅かしか水素イオンを生じません。
更に、弱塩基と強塩基とでも同じことが言えます。例えば、弱塩基のアンモニア水 と強塩基の水酸化ナトリウム水溶液とでは、次のように異なります。
NH4OH ⇌ NH4+ + OH― ・・・・・1.34%2)
NaOH ➝ Na+ + OH― ・・・・・・92%2)
【 ⇌ の符号は平衡を意味します。(電離・弱酸・弱塩基・強酸・強塩基の詳細については、 本誌 №314, p6 を参照ください)】
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p102(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
2)高木順一,基礎理論 分析化学,p20(1968),株式会社廣川書店
3)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p121(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p103(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
参考文献
1)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p498(1980)
− 初級者対象講座 −
なければならない場合があります。しかし、反応させる溶液が酸性である場合や塩基性(ア ルカリ性)である場合があり、これらを混合して反応させると、反応条件の pH 範囲から ずれて反応が完全に進まなくなります。しかし、反応させている溶液に、少量の酸やア ルカリが入っても pH を一定に保ち続けることができれば反応を完全に進めることが出来 ます。
他から少量の酸やアルカリが入ってもその影響を無くすために加える薬品を緩衝剤と 言い、その溶液を緩衝溶液と言います。その理由を説明します。
緩衝溶液としては、一般に、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を、それぞれ組み 合わせて混合溶解した溶液が用いられます。弱酸(酢酸)とその塩(酢酸ナトリウム) を例にとり説明します。
1.酸が入った場合
酢酸ナトリウム及び酢酸は、水溶液中で次の①式及び②式のように電離(イオンに分 かれること)しています。但し、酢酸ナトリウムのような塩は、溶液中でその殆どが電 離してそれぞれのイオンになっていますが、酢酸は、その多くが電離せずに分子の状態 で存在し、少しだけ電離しています。
CH3COONa ➝ CH3COO- + Na+ ・・・・・・・・①式 酢酸ナトリウム 酢酸イオン ナトリウムイオン
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式 酢酸 酢酸イオン 水素イオン
②式で示した酢酸(弱酸や弱塩基)の電離は、一定の濃度、温度、圧力下では常に一 定の割合で電離しています。従って、他から水素イオンが入ってきた場合、元の水素イ オンの濃度になるために左向きの反応が進み、水素イオンの濃度が常に一定に保たれま す。酢酸イオンは①式の電離により生じた酢酸イオンから供給されます。酢酸ナトリウ ムは全部が電離していますので酢酸イオンの電離反応には影響がありません。
2.塩基が入った場合
酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液に少量の塩基(OH― :水酸化物イオン)が入った場 合は、 ②式の水素イオンと反応して中和され、水を生じます(③式)。
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式
OH― + H+ ➝ H2O ・・・・・・・・・・・・③式
一方で、消費された水素イオンは、酢酸の右向きの反応により水素イオンを生じ、元の 濃度になり、その結果、pHは一定に保たれます。
I 1 I 1
╋ 電
時 間 ( t)
流 T1 T2 T1 T2 T1
━
(A) I 2 I 2 I 2
0
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№333 2022
19.4 電流回復法1)
この方法は、最初、高電圧(高電流密度)にして短時間品物に電流を流して厚い皮膜を生成さ せますが、溶液温度や品物の温度が高くなり、陽極酸化皮膜の溶解や焼けの生じる前に電圧を下 げて低電流密度で陽極酸化を行うことにより、浴温度も下がり、浴温度による影響を少なくして 厚い皮膜を生成させる一方法です。最初、品物に高電圧を印加すると、当然、電流もその電圧に 応じた高電流が流れます。次に低電圧に切り替えると、瞬間的に電流値はほぼゼロを示しますが、
徐々に電流が流れはじめ、加えられている低電圧に相当する電流値に回復して陽極酸化が進みます。
特徴として、
1) 20℃~ 25℃の浴温度でも硬質皮膜を生じる。
2) 皮膜厚さにバラツキが少ない。
などがあります。
図42に電流回復法により印加する電圧及び電流値の一例を示しました。図 42(a)は、短時 間(T1)品物に高電圧(E1)を印加しますが、次に電圧を E2 に下げて一定時間(T2)低い電流 値で陽極酸化します。高電圧にして高電流密度で陽極酸化を行いますとジュール熱を発生し溶液
温度は上昇しますが、直ぐに低電圧(低電流密度)にすることにより、また、電解液が攪拌され ていること等により溶液温度は下がり、一定の温度に保つことが出来ます。高電圧の時間を短く、
低電圧の時間を少し長くするなど、高電圧と低電圧の加える時間を変えて交互に繰り返して陽極 酸化を行うことにより、高速で陽極酸化皮膜を生成させることが出来ます。
また、この時の電流値の変化を図 42(b)に示しました。最初、電圧を下げたとき瞬間的に電 流値はほぼゼロを示しますが、直ぐに、E2 の電圧に相当する電流値(I2)に戻ります。即ち、電 流は回復します。以上のように電流が回復する電解法を用いる為、電流回復法と呼ばれています。
電圧を下げずに、一定の高電圧で陽極酸化を行いますと、高電流が続くため、ジュール熱の発生 により、品物や浴温度が上昇して陽極酸化皮膜の溶解や焼けなど皮膜の生成に悪影響を及ぼしま す。
電圧を一時下げることにより、電流値も下がり、その結果、溶液や品物の温度の上昇を防止す ることが出来ます。
19.5 電流反転法1)
前項の電流回復法は、電圧を正電圧側(プラス側)で、高電圧と低電圧を交互に変換させてい ますが、本項の電流反転法では、低電圧側を負電圧にして、負成分を電解電圧に加え、負電圧(マ イナス側)と正電圧(プラス側)を交互に反転して電解処理を施します。
この場合は、 前項の電流回復法でも言えることですが、高電圧で電解することにより発生する ジュール熱の影響を防ぐため、陽極酸化反応を一時遮断することにより、つまり負電圧を挿入す ることによって、均一な皮膜を、高速で得ることが出来ます。電流反転法での電流変化の一例を 図43に示しました。
出させ、着色する方法、アルミニウム合金を用いて皮膜中に不溶性の合金成分を析出させて着色 する方法、その他種々の方法があります。
電解により陽極酸化皮膜を着色する方法は、品物を陽極酸化した後に、金属塩を溶解した中性 溶液から弱酸性溶液中(pH を一定に保つために緩衝剤注)などを添加した溶液を使用、ニッケル の場合は弱酸性溶液)で直流又は交流電解を行い、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微結晶を析 出させて着色する方法です。以下にニッケル塩を加えた浴を用いた場合(ブロンズ~黒色系に着 色)の着色方法について例示します。また、染料溶液で陽極酸化皮膜を染色する場合も、染色条 件として一定の pH 範囲に調整する必要があり、緩衝剤及び緩衝溶液が使用されています。この ように緩衝溶液がアルミニウムの表面処理関係で使用されていますので、末尾の 注釈覧 で説明 致します。
19.6.1 直流電解法(住化法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 50g/L ほう酸 30g/L 浴のpH 4 ± 0.4 電解方法
陰極 陽極酸化皮膜を施した品物 陽極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 1分
以上の条件で直流電流を流すと、陰極になっている陽極酸化皮膜の微細孔の底で溶液中のニッ ケルイオン(Ni2+)が還元されて微細な金属の結晶となって沈着し、着色されます。
19.6.2 交流電解法(浅田法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 25g/L ほう酸 30g/L 硫酸アンモニウム 15g/L 浴のpH 4 ~ 5
3.弱酸・強酸及び弱塩基・強塩基 1)弱酸・強酸
弱酸には上述のように、代表的なものとして酢酸があります。酢酸は、電離して酢酸 イオンと水素イオンを生じます。一方強酸には、塩酸や硫酸があります。塩酸を例に とりますと、その水溶液は、水素イオンと塩化物イオンとに電離しています。これら の 0.1mol水溶液について、その電離度を比較しますと、
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・1.34%2)
HCl ➝ H+ + Cl― ・・・・・・・・92%2)
のように大きく異なります。それぞれの酸性を示す水素イオン濃度は、同じ 0.1mol の 溶液であっても大きく異なります。このように、強酸はその殆どが電離して多量の水 素イオンを生じるのに比較して、弱酸は僅かしか水素イオンを生じません。
更に、弱塩基と強塩基とでも同じことが言えます。例えば、弱塩基のアンモニア水 と強塩基の水酸化ナトリウム水溶液とでは、次のように異なります。
NH4OH ⇌ NH4+ + OH― ・・・・・1.34%2)
NaOH ➝ Na+ + OH― ・・・・・・92%2)
【 ⇌ の符号は平衡を意味します。(電離・弱酸・弱塩基・強酸・強塩基の詳細については、 本誌 №314, p6 を参照ください)】
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p102(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
2)高木順一,基礎理論 分析化学,p20(1968),株式会社廣川書店
− 初級者対象講座 −
なければならない場合があります。しかし、反応させる溶液が酸性である場合や塩基性(ア ルカリ性)である場合があり、これらを混合して反応させると、反応条件の pH 範囲から ずれて反応が完全に進まなくなります。しかし、反応させている溶液に、少量の酸やア ルカリが入っても pH を一定に保ち続けることができれば反応を完全に進めることが出来 ます。
他から少量の酸やアルカリが入ってもその影響を無くすために加える薬品を緩衝剤と 言い、その溶液を緩衝溶液と言います。その理由を説明します。
緩衝溶液としては、一般に、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を、それぞれ組み 合わせて混合溶解した溶液が用いられます。弱酸(酢酸)とその塩(酢酸ナトリウム)
を例にとり説明します。 1.酸が入った場合
酢酸ナトリウム及び酢酸は、水溶液中で次の①式及び②式のように電離(イオンに分 かれること)しています。但し、酢酸ナトリウムのような塩は、溶液中でその殆どが電 離してそれぞれのイオンになっていますが、酢酸は、その多くが電離せずに分子の状態 で存在し、少しだけ電離しています。
CH3COONa ➝ CH3COO- + Na+ ・・・・・・・・①式 酢酸ナトリウム 酢酸イオン ナトリウムイオン
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式 酢酸 酢酸イオン 水素イオン
②式で示した酢酸(弱酸や弱塩基)の電離は、一定の濃度、温度、圧力下では常に一 定の割合で電離しています。従って、他から水素イオンが入ってきた場合、元の水素イ オンの濃度になるために左向きの反応が進み、水素イオンの濃度が常に一定に保たれま す。酢酸イオンは①式の電離により生じた酢酸イオンから供給されます。酢酸ナトリウ ムは全部が電離していますので酢酸イオンの電離反応には影響がありません。
2.塩基が入った場合
-21-
19.4 電流回復法1)
この方法は、最初、高電圧(高電流密度)にして短時間品物に電流を流して厚い皮膜を生成さ せますが、溶液温度や品物の温度が高くなり、陽極酸化皮膜の溶解や焼けの生じる前に電圧を下 げて低電流密度で陽極酸化を行うことにより、浴温度も下がり、浴温度による影響を少なくして 厚い皮膜を生成させる一方法です。最初、品物に高電圧を印加すると、当然、電流もその電圧に 応じた高電流が流れます。次に低電圧に切り替えると、瞬間的に電流値はほぼゼロを示しますが、
徐々に電流が流れはじめ、加えられている低電圧に相当する電流値に回復して陽極酸化が進みます。
特徴として、
1) 20℃~ 25℃の浴温度でも硬質皮膜を生じる。
2) 皮膜厚さにバラツキが少ない。
などがあります。
図42に電流回復法により印加する電圧及び電流値の一例を示しました。図 42(a)は、短時 間(T1)品物に高電圧(E1)を印加しますが、次に電圧を E2 に下げて一定時間(T2)低い電流 値で陽極酸化します。高電圧にして高電流密度で陽極酸化を行いますとジュール熱を発生し溶液
(a) 電圧と時間の関係
(b) 電流と時間の関係
図42 電流回復法での電圧及び電流と時間の関係
温度は上昇しますが、直ぐに低電圧(低電流密度)にすることにより、また、電解液が攪拌され ていること等により溶液温度は下がり、一定の温度に保つことが出来ます。高電圧の時間を短く、
低電圧の時間を少し長くするなど、高電圧と低電圧の加える時間を変えて交互に繰り返して陽極 酸化を行うことにより、高速で陽極酸化皮膜を生成させることが出来ます。
また、この時の電流値の変化を図 42(b)に示しました。最初、電圧を下げたとき瞬間的に電 流値はほぼゼロを示しますが、直ぐに、E2 の電圧に相当する電流値(I2)に戻ります。即ち、電 流は回復します。以上のように電流が回復する電解法を用いる為、電流回復法と呼ばれています。
電圧を下げずに、一定の高電圧で陽極酸化を行いますと、高電流が続くため、ジュール熱の発生 により、品物や浴温度が上昇して陽極酸化皮膜の溶解や焼けなど皮膜の生成に悪影響を及ぼしま す。
電圧を一時下げることにより、電流値も下がり、その結果、溶液や品物の温度の上昇を防止す ることが出来ます。
19.5 電流反転法1)
前項の電流回復法は、電圧を正電圧側(プラス側)で、高電圧と低電圧を交互に変換させてい ますが、本項の電流反転法では、低電圧側を負電圧にして、負成分を電解電圧に加え、負電圧(マ イナス側)と正電圧(プラス側)を交互に反転して電解処理を施します。
この場合は、 前項の電流回復法でも言えることですが、高電圧で電解することにより発生する ジュール熱の影響を防ぐため、陽極酸化反応を一時遮断することにより、つまり負電圧を挿入す ることによって、均一な皮膜を、高速で得ることが出来ます。電流反転法での電流変化の一例を 図43に示しました。
図43 電流反転法における電流と極性変換時間の関係
この場合は負(―)成分を含むため、還元反応が関与します。電解浴に硫酸を用いて陽極酸化 を行った場合、硫黄化合物の臭気を感じることが有ります。硫酸を電解浴に用いて電流反転法に より陽極酸化皮膜を生成させる際、皮膜中に硫黄化合物が含まれるため、陽極酸化後に金属塩溶 液に浸漬すると、金属の硫黄化合物を生じて、種々の色に着色することが可能とされています1)。
19.6 電解着色
陽極酸化皮膜を着色する方法には、染料を用いて陽極酸化皮膜の微細孔中に吸着させて染色す る方法、金属塩を溶解した溶液中で電解し、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属イオンを還元して析
出させ、着色する方法、アルミニウム合金を用いて皮膜中に不溶性の合金成分を析出させて着色 する方法、その他種々の方法があります。
電解により陽極酸化皮膜を着色する方法は、品物を陽極酸化した後に、金属塩を溶解した中性 溶液から弱酸性溶液中(pH を一定に保つために緩衝剤注)などを添加した溶液を使用、ニッケル の場合は弱酸性溶液)で直流又は交流電解を行い、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微結晶を析 出させて着色する方法です。以下にニッケル塩を加えた浴を用いた場合(ブロンズ~黒色系に着 色)の着色方法について例示します。また、染料溶液で陽極酸化皮膜を染色する場合も、染色条 件として一定の pH 範囲に調整する必要があり、緩衝剤及び緩衝溶液が使用されています。この ように緩衝溶液がアルミニウムの表面処理関係で使用されていますので、末尾の 注釈覧 で説明 致します。
19.6.1 直流電解法(住化法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 50g/L ほう酸 30g/L 浴のpH 4 ± 0.4 電解方法
陰極 陽極酸化皮膜を施した品物 陽極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 1分
以上の条件で直流電流を流すと、陰極になっている陽極酸化皮膜の微細孔の底で溶液中のニッ ケルイオン(Ni2+)が還元されて微細な金属の結晶となって沈着し、着色されます。
19.6.2 交流電解法(浅田法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 25g/L ほう酸 30g/L 硫酸アンモニウム 15g/L 浴のpH 4 ~ 5 電解方法
一方の極 陽極酸化皮膜を施した品物 対極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 5 分 ~ 15 分
交流電解では、負成分のとき金属イオンが還元され、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微細結 晶が析出します。
注)緩衝剤とは、例えば、化学物質ABを含む溶液と化学物質CDを含む溶液を混合して化学 反応を行わせる場合、その反応を完全に行わせるために、溶液を一定の pH 範囲に設定し
3.弱酸・強酸及び弱塩基・強塩基 1)弱酸・強酸
弱酸には上述のように、代表的なものとして酢酸があります。酢酸は、電離して酢酸 イオンと水素イオンを生じます。一方強酸には、塩酸や硫酸があります。塩酸を例に とりますと、その水溶液は、水素イオンと塩化物イオンとに電離しています。これら の 0.1mol水溶液について、その電離度を比較しますと、
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・1.34%2)
HCl ➝ H+ + Cl― ・・・・・・・・92%2)
のように大きく異なります。それぞれの酸性を示す水素イオン濃度は、同じ 0.1mol の 溶液であっても大きく異なります。このように、強酸はその殆どが電離して多量の水 素イオンを生じるのに比較して、弱酸は僅かしか水素イオンを生じません。
更に、弱塩基と強塩基とでも同じことが言えます。例えば、弱塩基のアンモニア水 と強塩基の水酸化ナトリウム水溶液とでは、次のように異なります。
NH4OH ⇌ NH4+ + OH― ・・・・・1.34%2)
NaOH ➝ Na+ + OH― ・・・・・・92%2)
【 ⇌ の符号は平衡を意味します。(電離・弱酸・弱塩基・強酸・強塩基の詳細については、
本誌 №314, p6 を参照ください)】
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p102(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
2)高木順一,基礎理論 分析化学,p20(1968),株式会社廣川書店
3)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p121(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p103(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
参考文献
1)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p498(1980)
− 初級者対象講座 −
なければならない場合があります。しかし、反応させる溶液が酸性である場合や塩基性(ア ルカリ性)である場合があり、これらを混合して反応させると、反応条件の pH 範囲から ずれて反応が完全に進まなくなります。しかし、反応させている溶液に、少量の酸やア ルカリが入っても pH を一定に保ち続けることができれば反応を完全に進めることが出来 ます。
他から少量の酸やアルカリが入ってもその影響を無くすために加える薬品を緩衝剤と 言い、その溶液を緩衝溶液と言います。その理由を説明します。
緩衝溶液としては、一般に、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を、それぞれ組み 合わせて混合溶解した溶液が用いられます。弱酸(酢酸)とその塩(酢酸ナトリウム)
を例にとり説明します。
1.酸が入った場合
酢酸ナトリウム及び酢酸は、水溶液中で次の①式及び②式のように電離(イオンに分 かれること)しています。但し、酢酸ナトリウムのような塩は、溶液中でその殆どが電 離してそれぞれのイオンになっていますが、酢酸は、その多くが電離せずに分子の状態 で存在し、少しだけ電離しています。
CH3COONa ➝ CH3COO- + Na+ ・・・・・・・・①式 酢酸ナトリウム 酢酸イオン ナトリウムイオン
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式 酢酸 酢酸イオン 水素イオン
②式で示した酢酸(弱酸や弱塩基)の電離は、一定の濃度、温度、圧力下では常に一 定の割合で電離しています。従って、他から水素イオンが入ってきた場合、元の水素イ オンの濃度になるために左向きの反応が進み、水素イオンの濃度が常に一定に保たれま す。酢酸イオンは①式の電離により生じた酢酸イオンから供給されます。酢酸ナトリウ ムは全部が電離していますので酢酸イオンの電離反応には影響がありません。
2.塩基が入った場合
酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液に少量の塩基(OH― :水酸化物イオン)が入った場 合は、 ②式の水素イオンと反応して中和され、水を生じます(③式)。
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式
OH― + H+ ➝ H2O ・・・・・・・・・・・・③式
一方で、消費された水素イオンは、酢酸の右向きの反応により水素イオンを生じ、元の 濃度になり、その結果、pHは一定に保たれます。
19.4 電流回復法1)
この方法は、最初、高電圧(高電流密度)にして短時間品物に電流を流して厚い皮膜を生成さ せますが、溶液温度や品物の温度が高くなり、陽極酸化皮膜の溶解や焼けの生じる前に電圧を下 げて低電流密度で陽極酸化を行うことにより、浴温度も下がり、浴温度による影響を少なくして 厚い皮膜を生成させる一方法です。最初、品物に高電圧を印加すると、当然、電流もその電圧に 応じた高電流が流れます。次に低電圧に切り替えると、瞬間的に電流値はほぼゼロを示しますが、
徐々に電流が流れはじめ、加えられている低電圧に相当する電流値に回復して陽極酸化が進みます。
特徴として、
1) 20℃~ 25℃の浴温度でも硬質皮膜を生じる。
2) 皮膜厚さにバラツキが少ない。
などがあります。
図42に電流回復法により印加する電圧及び電流値の一例を示しました。図 42(a)は、短時 間(T1)品物に高電圧(E1)を印加しますが、次に電圧を E2 に下げて一定時間(T2)低い電流 値で陽極酸化します。高電圧にして高電流密度で陽極酸化を行いますとジュール熱を発生し溶液
温度は上昇しますが、直ぐに低電圧(低電流密度)にすることにより、また、電解液が攪拌され ていること等により溶液温度は下がり、一定の温度に保つことが出来ます。高電圧の時間を短く、
低電圧の時間を少し長くするなど、高電圧と低電圧の加える時間を変えて交互に繰り返して陽極 酸化を行うことにより、高速で陽極酸化皮膜を生成させることが出来ます。
また、この時の電流値の変化を図 42(b)に示しました。最初、電圧を下げたとき瞬間的に電 流値はほぼゼロを示しますが、直ぐに、E2 の電圧に相当する電流値(I2)に戻ります。即ち、電 流は回復します。以上のように電流が回復する電解法を用いる為、電流回復法と呼ばれています。
電圧を下げずに、一定の高電圧で陽極酸化を行いますと、高電流が続くため、ジュール熱の発生 により、品物や浴温度が上昇して陽極酸化皮膜の溶解や焼けなど皮膜の生成に悪影響を及ぼしま す。
電圧を一時下げることにより、電流値も下がり、その結果、溶液や品物の温度の上昇を防止す ることが出来ます。
19.5 電流反転法1)
前項の電流回復法は、電圧を正電圧側(プラス側)で、高電圧と低電圧を交互に変換させてい ますが、本項の電流反転法では、低電圧側を負電圧にして、負成分を電解電圧に加え、負電圧(マ イナス側)と正電圧(プラス側)を交互に反転して電解処理を施します。
この場合は、 前項の電流回復法でも言えることですが、高電圧で電解することにより発生する ジュール熱の影響を防ぐため、陽極酸化反応を一時遮断することにより、つまり負電圧を挿入す ることによって、均一な皮膜を、高速で得ることが出来ます。電流反転法での電流変化の一例を 図43に示しました。
出させ、着色する方法、アルミニウム合金を用いて皮膜中に不溶性の合金成分を析出させて着色 する方法、その他種々の方法があります。
電解により陽極酸化皮膜を着色する方法は、品物を陽極酸化した後に、金属塩を溶解した中性 溶液から弱酸性溶液中(pH を一定に保つために緩衝剤注)などを添加した溶液を使用、ニッケル の場合は弱酸性溶液)で直流又は交流電解を行い、陽極酸化皮膜の微細孔中に金属の微結晶を析 出させて着色する方法です。以下にニッケル塩を加えた浴を用いた場合(ブロンズ~黒色系に着 色)の着色方法について例示します。また、染料溶液で陽極酸化皮膜を染色する場合も、染色条 件として一定の pH 範囲に調整する必要があり、緩衝剤及び緩衝溶液が使用されています。この ように緩衝溶液がアルミニウムの表面処理関係で使用されていますので、末尾の 注釈覧 で説明 致します。
19.6.1 直流電解法(住化法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 50g/L ほう酸 30g/L 浴のpH 4 ± 0.4 電解方法
陰極 陽極酸化皮膜を施した品物 陽極 炭素またはニッケル板 電圧 15V
通電時間 1分
以上の条件で直流電流を流すと、陰極になっている陽極酸化皮膜の微細孔の底で溶液中のニッ ケルイオン(Ni2+)が還元されて微細な金属の結晶となって沈着し、着色されます。
19.6.2 交流電解法(浅田法)3)
電解浴組成
硫酸ニッケル 25g/L ほう酸 30g/L 硫酸アンモニウム 15g/L 浴のpH 4 ~ 5
3.弱酸・強酸及び弱塩基・強塩基 1)弱酸・強酸
弱酸には上述のように、代表的なものとして酢酸があります。酢酸は、電離して酢酸 イオンと水素イオンを生じます。一方強酸には、塩酸や硫酸があります。塩酸を例に とりますと、その水溶液は、水素イオンと塩化物イオンとに電離しています。これら の 0.1mol水溶液について、その電離度を比較しますと、
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・1.34%2)
HCl ➝ H+ + Cl― ・・・・・・・・92%2)
のように大きく異なります。それぞれの酸性を示す水素イオン濃度は、同じ 0.1mol の 溶液であっても大きく異なります。このように、強酸はその殆どが電離して多量の水 素イオンを生じるのに比較して、弱酸は僅かしか水素イオンを生じません。
更に、弱塩基と強塩基とでも同じことが言えます。例えば、弱塩基のアンモニア水 と強塩基の水酸化ナトリウム水溶液とでは、次のように異なります。
NH4OH ⇌ NH4+ + OH― ・・・・・1.34%2)
NaOH ➝ Na+ + OH― ・・・・・・92%2)
【 ⇌ の符号は平衡を意味します。(電離・弱酸・弱塩基・強酸・強塩基の詳細については、
本誌 №314, p6 を参照ください)】
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第五版),p102(2013) 一般社団法人軽金属製品協会試 験センター
2)高木順一,基礎理論 分析化学,p20(1968),株式会社廣川書店
− 初級者対象講座 −
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№333 2022
なければならない場合があります。しかし、反応させる溶液が酸性である場合や塩基性(ア ルカリ性)である場合があり、これらを混合して反応させると、反応条件の pH 範囲から ずれて反応が完全に進まなくなります。しかし、反応させている溶液に、少量の酸やア ルカリが入っても pH を一定に保ち続けることができれば反応を完全に進めることが出来 ます。
他から少量の酸やアルカリが入ってもその影響を無くすために加える薬品を緩衝剤と 言い、その溶液を緩衝溶液と言います。その理由を説明します。
緩衝溶液としては、一般に、弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を、それぞれ組み 合わせて混合溶解した溶液が用いられます。弱酸(酢酸)とその塩(酢酸ナトリウム)
を例にとり説明します。
1.酸が入った場合
酢酸ナトリウム及び酢酸は、水溶液中で次の①式及び②式のように電離(イオンに分 かれること)しています。但し、酢酸ナトリウムのような塩は、溶液中でその殆どが電 離してそれぞれのイオンになっていますが、酢酸は、その多くが電離せずに分子の状態 で存在し、少しだけ電離しています。
CH3COONa ➝ CH3COO- + Na+ ・・・・・・・・①式 酢酸ナトリウム 酢酸イオン ナトリウムイオン
CH3COOH ⇌ CH3COO- + H+ ・・・・・・・・②式 酢酸 酢酸イオン 水素イオン
②式で示した酢酸(弱酸や弱塩基)の電離は、一定の濃度、温度、圧力下では常に一 定の割合で電離しています。従って、他から水素イオンが入ってきた場合、元の水素イ オンの濃度になるために左向きの反応が進み、水素イオンの濃度が常に一定に保たれま す。酢酸イオンは①式の電離により生じた酢酸イオンから供給されます。酢酸ナトリウ ムは全部が電離していますので酢酸イオンの電離反応には影響がありません。
2.塩基が入った場合
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