19.種々電流波形によるアルミニウムの陽極酸化例 19.1 直流電解法
アルミニウムの陽極酸化と言えば、一般には、硫酸電解溶液を用い、アルミニウムを陽極、鉛 板などを陰極として、直流電流を流して行われる方法が知られています。
直流電圧を印加して電流を流しますと、アルミニウムには陽成分〔(+)成分〕の電流のみが流 れるため、前号で述べましたように、アルミニウム陽極表面では酸化反応のみが起こります。従 って、直流電流は、陽極酸化皮膜を、アルミニウム表面に効率よく生成させることが出来ます。
JIS H 8601 に示されています陽極酸化電解条件の例1) を次に示します。
硫酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離硫酸 150 ± 20 g/L 溶存アルミニウム 25 g/L
塩素イオン 0.2 g/L以下〔NaCl(塩化ナトリウム)として〕
電解条件
溶液温度 20 ± 2℃
電流密度 直流 130 A/m2
なお、陽極表面で起こる反応は、前号で述べましたように、
① 硫酸イオンの酸化反応、実質は、水酸化物イオンの酸化反応がおこり酸素イオンが生じ、酸 素ガスになって放出されます。
② 一方でアルミニウム(陽極)が溶解し、アルミニウムイオン(Al3+)を生じます。
③ これらの生成により、アルミニウム表面で酸化アルミニウム(Al2O3)を生成します。
この反応を、化学式で表しますと次のようになります。
陽極反応
水酸化物イオンの酸化反応 OH― + O2― + H+ 2OH― ➝ H2O + O2―
O2― ➝ 1/2O2 + 2e― アルミニウムの反応 Al ➝ Al3+ + 3e―
全反応 : 2Al3+ + 3O2― ➝ Al2O3
上記、JIS による電解条件では、電解溶液の温度(以下浴温度と略します)及び電流密度が示 されていますが、これらは生成する陽極酸化皮膜の厚さに大きく影響します。
浴温度及び電流密度と皮膜厚さの関係は、次のようになります。
1)浴温度の影響(浴温度が高い場合)
(1) 浴温度が高くなると皮膜は溶解され、厚い皮膜が生成し難くなります。
(2) 皮膜を構成しているセルの孔壁が薄くなり、硬さが低下します。
(3) 電流密度が一定の場合は、電圧が低下します。
なお、浴温度が低い場合は逆になります。
参考) 10 ~ 20%の硫酸浴を用い、浴温度 0±2℃、電流密度 2 ~ 4.5 A/dm(23 ~ 120V)2 、 で 60min 陽極酸化すると約 34μm の耐摩耗性に優れた硬質陽極酸化皮膜を生成 します2)。
2) 電流密度の影響(高い場合)
(1) 電流密度が高くなると皮膜の生成が速くなり、厚い皮膜を生じます。
(2) 浴温度の上昇が速くなります。
(3) 浴温度が一定に保たれていない場合は、皮膜が溶解して膜厚が減少します。
従って、アルミニウムの陽極酸化では浴温度を一定に保つために、冷却装置を備え、常 に液が循環している状態で行われています。電流密度が低くなると皮膜の生成速度は減少し、
浴温度の上昇速度も緩やかになります。
上記 JIS H 8601 で示されている電解条件でアルミニウムの陽極酸化を行った場合、電解を
続けると、電解液の温度は上昇します。これは、アルミニウム陽極表面に酸化アルミニウム の皮膜が生成して抵抗を生じる為です。例えば、電流を導体に流した時、電気抵抗のため生 じる熱のことをジュール熱注)と言います。従って、このジュール熱の発生により、浴温度 が上昇して陽極酸化皮膜が溶解されますので、電解液及び陽極のアルミニウム(品物)の温 度を一定に保つため、電解液の攪拌と冷却装置が必要になります。
注)ジュール熱
一定の太さの銅線やアルミ二ウム線に電流を流した時、電線が発熱する場合と、発熱 しない場合があります。細い電線に非常に高い電圧で、沢山の電流を流しますと電線 は熱くなり、火災の原因にもなります。しかし、低い電圧で少しの電流が流れたとき は発熱しません。
電気は、電子の移動により起こります。細い電線に多くの電流を流した時、多くの電 子が細い電線中を移動することになります。その為に、電線中の原子や電子と衝突す る確率が増加し、電気が流れ難くなります。この衝突(電気抵抗)によるエネルギー が熱に変換されて発熱します。このことを発見したジュールの名前をつけてジュール 熱と呼ばれています。
19.2 交流電解法
交流電解では、次のような特徴を挙げることが出来ます。
(1) 両極にアルミニウム材料を取り付けて電解を行うことが出来ます。炭素などの対極が不 要になります。
(2) 両極で酸化アルミニウムを生成しますので、片方の電極に炭素などの不溶性電極を取り
(3) 正(+)成分が少ないため、単位時間当たりの皮膜厚さは直流の半分以下になります。 (4) 負(―)の成分を含むため、塩化物イオン(Cl−)など(濃度にもよりますが)による 孔食の発生を直流の場合よりも軽減することが出来ます。両極が瞬間的に陽極と陰極に 変換されるためです。
(5) 交流電解により生成した皮膜は、直流電解の場合とは異なり、生じた皮膜のセル構造は、 不均質で乱れた状態になっているため、硬度や耐摩耗性が直流により生成した皮膜より も軟質であり、柔軟性に富んでいると言われています3)。
(6) 陽極酸化後、少しの折曲げを必要とする製品には交流電解法を適用すると、クラックが 入り難いなどの利点があります。
(7) 電解液として、硫酸溶液やしゅう酸溶液を用いて陽極酸化皮膜を生成させることが出来 ます。
硫酸溶液を用いる場合は、上記のような皮膜の柔軟性などを必要とする場合など、特別な場合 を除き、電流効率の良い直流法が一般的に行われています。また、しゅう酸溶液では、黄褐色系 に着色した皮膜を生じますが、次項で述べます交直重畳電解法の方がより明瞭な彩度の良い黄金 色を得ることが出来ます。
19.3 交直重畳電解法
しゅう酸電解液を用いてアルミニウムの陽極酸化を行う場合、交直重畳電解法(こうちょくち ょうじょうでんかいほう)が用いられます。それは交流電解法に比較して、交流と直流の重畳比 を種々変えることにより、皮膜の色調 ( 黄金色 ) や輝度を調整することが出来るからです。次に JIS H 8601 に示されているしゅう酸法の電解浴組成及び電解条件の例1)を示します。
しゅう酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離しゅう酸 30 ± 1 g/L 溶存アルミニウム 20 g/L 以下
塩素イオン 0.1 g/L 以下(NaClとして) 電解条件
溶液温度 28 ± 2 ℃
電流密度 交直重畳法 交流 100 A/m2〔実効値(本誌前号 p7 参照)〕 直流 100 A/m2
交直重畳電解法により得られるしゅう酸皮膜は、硫酸皮膜に比較して耐食性や耐摩耗性に優れ ています。また、皮膜の色調は交流成分を多くすることにより黄色味が強くなり、耐食性は向上 します。次に簡単な交直重畳電解装置の回路図を図384)に示し、交直重畳電圧波形と比較し易い ために交流及び直流の電圧波形を図39に示しました。また、主な交直重畳電圧波形を図405) に示しました。
図 38 では、電極は常に負電圧を示し、品物は交流電圧により、正負の電圧を交互に繰り返す ことになります。但し、交流電圧(電流)の負側の最大電圧が、
1) 0 Vよりも正側にある場合
電解中の品物は、0 V よりも正電圧(又は正電流)側で、正弦波を描くため、実質上
図38 交直重畳電源回路の略図
2) 0 Vになっている場合
電解中の品物は、電圧の負側最大値が0 Vに達するためで、この場合も実質上負電圧 にはなりません。図 40(b)
3) 0 Vよりも負側になっている場合
電解中の品物は、交流波形が0 Vよりも負側になっていることから、実質上負電圧に なる瞬間があります。図 40(c)
以上、三種の電解波形(電圧波形)が考えられます。
(a) 直流電圧の波形 (b)単相交流電圧の波形 図39 直流及び交流電圧の波形
(a) 交流電圧の負側電圧が実質 0 電圧より正側にある場合
(b) 交流電圧の負側電圧が 0 電圧の場合
(c)交流波形が一部負電圧になっている場合
図 40(a)および(b)では、極性の変換は実質上起こらないが、正(+)側のみで脈流を繰り
返すため負成分は含まれませんが、孔食の抑止、皮膜の耐食性の向上などに効果があり、直流電 解の場合よりやや濃く着色すると言われています5)。
一方、図 40(c)の波形では、極性変換が起こり負(―)成分が含まれるため、しゅう酸溶液 中で強く金色に発色します。また、交直重畳電解で、正電流を 1A/dm2 一定にして、負電流を 0 A にした場合は、薄く黄色がかった銀白色の皮膜を生じますが、負成分を 0.2 ~ 1A/dm2 迄変化 させた場合、黄金色が強くなります6)。
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p94(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 2)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p127(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 3)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p162(1980)
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p113(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 5)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p160(1980)
6)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p114(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 参考文献
1)若山芳三郎,鈴木清,やさしいカラー版 電気と電子の理論,(1981),啓学出版株式会社便覧 ), 野口 駿雄 ※)
物理学の初歩(Ⅵ)
- 初級者対象講座 -
面では熱伝導率の優れた高純度アルミ二ウムや
A6063
材、純アルミニウムダイカスト材(三菱製
DM
シリーズ)やST
シリーズ材(昭和電工)等もあり、ADC12
やA4000
系と 共に陽極酸化処理も確認され、実用化されてきた。更に銅等の高熱放散材との組み合わせ で様々な形状のデザインと共に高機能化に対処している。本報告では遠赤外線アルマイトの加熱分野を主体にしたが、遠赤外線放射アルマイトに 関する資料は少しでも記録し、加熱分野でも、ヒートシンク分野でも今後の参考にして行 きたい。
参考文献
1)
アルミ表面処理ノート第7版p.137
一社‣
軽金属製品協会試験研究センター2)
陽極酸化皮膜の遠赤外線放射特性についてー研究発表会―
遠赤外線の基礎と応用:都立産 業技術研究センター・中島敏治晴、遠赤外線と陽極酸化皮膜・前嶋正受、陽極酸化皮膜 の遠赤外線放射特性・遠藤 哲、遠赤外線を利用した用途例及び期待される用途開発・土屋正一;軽金属製品試験研究センター、平成
24
年1
月26
日、アープセンタービル会 議室3)
放熱部材の現状と新用途展開,アルミニウム第18
巻 第80
号(2011) p.15 4)
エレクトロヒート,No.84
,1995 p.2
5)
笹森宣文:東京都立工業技術センター研究報告書、第16
号(1987)
、p.55~p.57 6)
笹森宣文;東京都立工業技術センター研究報告書、第18
号(1988)
、p.32~p.36 7)
笹森宣文、中神優子;東京都立工業センター研究報告書、第20
号(1991),p.25~p.28 8)
笹森宣文・東京都立工業技術センター:アルトピア、1989
年6
月号(カロス出版)9)
平山良夫;
アルミニウム表面機能化便覧、アルコン編、カロス出版(2008) p.162~p.169 10
)前嶋正受、猿渡光一;アルトピア,Vol.36.No.5
,MAY
.2006
p.20~p.28
(カロス出版)
11)
前嶋正受、猿渡光一、平田昌範、小山内 裕、石禾和夫、西山貞義、松本秀一;フジク ラ技報、第82
号、1992
年、p.63~p.69
12)
荻野清二、山田紀久夫、石田慎一;近畿アルミニウム表面処理研究会誌、No.147(1991)
、p.9~p.12
13)
鈴木義和、村松俊樹、松尾 守、岡田健三、前嶋正受、猿渡光一;
軽金属 第50
巻第11
号、(2000)
、p.598~p.602
14)Blog.Livedoor
。jp
/uesaka14 15)
理研アルマイト工業㈱商品カタログ16)
㈱ミヤキ商品カタログ 「MD
処理」17)
㈱アート1商品カタログ「EMCO
」®
18)
東栄電化工業㈱カタログ 「TAF
シリーズ」近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№332 2021
-10-
19.種々電流波形によるアルミニウムの陽極酸化例 19.1 直流電解法
アルミニウムの陽極酸化と言えば、一般には、硫酸電解溶液を用い、アルミニウムを陽極、鉛 板などを陰極として、直流電流を流して行われる方法が知られています。
直流電圧を印加して電流を流しますと、アルミニウムには陽成分〔(+)成分〕の電流のみが流 れるため、前号で述べましたように、アルミニウム陽極表面では酸化反応のみが起こります。従 って、直流電流は、陽極酸化皮膜を、アルミニウム表面に効率よく生成させることが出来ます。
JIS H 8601 に示されています陽極酸化電解条件の例1) を次に示します。
硫酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離硫酸 150 ± 20 g/L 溶存アルミニウム 25 g/L
塩素イオン 0.2 g/L以下〔NaCl(塩化ナトリウム)として〕
電解条件
溶液温度 20 ± 2℃
電流密度 直流 130 A/m2
なお、陽極表面で起こる反応は、前号で述べましたように、
① 硫酸イオンの酸化反応、実質は、水酸化物イオンの酸化反応がおこり酸素イオンが生じ、酸 素ガスになって放出されます。
② 一方でアルミニウム(陽極)が溶解し、アルミニウムイオン(Al3+)を生じます。
③ これらの生成により、アルミニウム表面で酸化アルミニウム(Al2O3)を生成します。
この反応を、化学式で表しますと次のようになります。
陽極反応
水酸化物イオンの酸化反応 OH― + O2― + H+ 2OH― ➝ H2O + O2―
O2― ➝ 1/2O2 + 2e― アルミニウムの反応 Al ➝ Al3+ + 3e―
全反応 : 2Al3+ + 3O2― ➝ Al2O3
上記、JIS による電解条件では、電解溶液の温度(以下浴温度と略します)及び電流密度が示 されていますが、これらは生成する陽極酸化皮膜の厚さに大きく影響します。
浴温度及び電流密度と皮膜厚さの関係は、次のようになります。
1)浴温度の影響(浴温度が高い場合)
(1) 浴温度が高くなると皮膜は溶解され、厚い皮膜が生成し難くなります。
(2) 皮膜を構成しているセルの孔壁が薄くなり、硬さが低下します。
(3) 電流密度が一定の場合は、電圧が低下します。
なお、浴温度が低い場合は逆になります。
参考) 10 ~ 20%の硫酸浴を用い、浴温度 0±2℃、電流密度 2 ~ 4.5 A/dm(23 ~ 120V)2 、 で 60min 陽極酸化すると約 34μm の耐摩耗性に優れた硬質陽極酸化皮膜を生成 します2)。
2) 電流密度の影響(高い場合)
(1) 電流密度が高くなると皮膜の生成が速くなり、厚い皮膜を生じます。
(2) 浴温度の上昇が速くなります。
(3) 浴温度が一定に保たれていない場合は、皮膜が溶解して膜厚が減少します。
従って、アルミニウムの陽極酸化では浴温度を一定に保つために、冷却装置を備え、常 に液が循環している状態で行われています。電流密度が低くなると皮膜の生成速度は減少し、
浴温度の上昇速度も緩やかになります。
上記 JIS H 8601 で示されている電解条件でアルミニウムの陽極酸化を行った場合、電解を
続けると、電解液の温度は上昇します。これは、アルミニウム陽極表面に酸化アルミニウム の皮膜が生成して抵抗を生じる為です。例えば、電流を導体に流した時、電気抵抗のため生 じる熱のことをジュール熱注)と言います。従って、このジュール熱の発生により、浴温度 が上昇して陽極酸化皮膜が溶解されますので、電解液及び陽極のアルミニウム(品物)の温 度を一定に保つため、電解液の攪拌と冷却装置が必要になります。
注)ジュール熱
一定の太さの銅線やアルミ二ウム線に電流を流した時、電線が発熱する場合と、発熱 しない場合があります。細い電線に非常に高い電圧で、沢山の電流を流しますと電線 は熱くなり、火災の原因にもなります。しかし、低い電圧で少しの電流が流れたとき は発熱しません。
電気は、電子の移動により起こります。細い電線に多くの電流を流した時、多くの電 子が細い電線中を移動することになります。その為に、電線中の原子や電子と衝突す る確率が増加し、電気が流れ難くなります。この衝突(電気抵抗)によるエネルギー が熱に変換されて発熱します。このことを発見したジュールの名前をつけてジュール 熱と呼ばれています。
19.2 交流電解法
交流電解では、次のような特徴を挙げることが出来ます。
(1) 両極にアルミニウム材料を取り付けて電解を行うことが出来ます。炭素などの対極が不 要になります。
(2) 両極で酸化アルミニウムを生成しますので、片方の電極に炭素などの不溶性電極を取り 付けた場合とは異なり、抵抗が増加して電圧が高くなります。
(3) 正(+)成分が少ないため、単位時間当たりの皮膜厚さは直流の半分以下になります。
(4) 負(―)の成分を含むため、塩化物イオン(Cl−)など(濃度にもよりますが)による 孔食の発生を直流の場合よりも軽減することが出来ます。両極が瞬間的に陽極と陰極に 変換されるためです。
(5) 交流電解により生成した皮膜は、直流電解の場合とは異なり、生じた皮膜のセル構造は、
不均質で乱れた状態になっているため、硬度や耐摩耗性が直流により生成した皮膜より も軟質であり、柔軟性に富んでいると言われています3)。
(6) 陽極酸化後、少しの折曲げを必要とする製品には交流電解法を適用すると、クラックが 入り難いなどの利点があります。
(7) 電解液として、硫酸溶液やしゅう酸溶液を用いて陽極酸化皮膜を生成させることが出来 ます。
硫酸溶液を用いる場合は、上記のような皮膜の柔軟性などを必要とする場合など、特別な場合 を除き、電流効率の良い直流法が一般的に行われています。また、しゅう酸溶液では、黄褐色系 に着色した皮膜を生じますが、次項で述べます交直重畳電解法の方がより明瞭な彩度の良い黄金 色を得ることが出来ます。
19.3 交直重畳電解法
しゅう酸電解液を用いてアルミニウムの陽極酸化を行う場合、交直重畳電解法(こうちょくち ょうじょうでんかいほう)が用いられます。それは交流電解法に比較して、交流と直流の重畳比 を種々変えることにより、皮膜の色調 ( 黄金色 ) や輝度を調整することが出来るからです。次に JIS H 8601 に示されているしゅう酸法の電解浴組成及び電解条件の例1)を示します。
しゅう酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離しゅう酸 30 ± 1 g/L 溶存アルミニウム 20 g/L 以下
塩素イオン 0.1 g/L 以下(NaClとして)
電解条件
溶液温度 28 ± 2 ℃
電流密度 交直重畳法 交流 100 A/m2〔実効値(本誌前号 p7 参照)〕 直流 100 A/m2
交直重畳電解法により得られるしゅう酸皮膜は、硫酸皮膜に比較して耐食性や耐摩耗性に優れ ています。また、皮膜の色調は交流成分を多くすることにより黄色味が強くなり、耐食性は向上 します。次に簡単な交直重畳電解装置の回路図を図384)に示し、交直重畳電圧波形と比較し易い ために交流及び直流の電圧波形を図39に示しました。また、主な交直重畳電圧波形を図405)
に示しました。
図 38 では、電極は常に負電圧を示し、品物は交流電圧により、正負の電圧を交互に繰り返す ことになります。但し、交流電圧(電流)の負側の最大電圧が、
1) 0 Vよりも正側にある場合
電解中の品物は、0 V よりも正電圧(又は正電流)側で、正弦波を描くため、実質上 負電圧にはなりません。図 40(a)
図38 交直重畳電源回路の略図
2) 0 Vになっている場合
電解中の品物は、電圧の負側最大値が0 Vに達するためで、この場合も実質上負電圧 にはなりません。図 40(b)
3) 0 Vよりも負側になっている場合
電解中の品物は、交流波形が0 Vよりも負側になっていることから、実質上負電圧に なる瞬間があります。図 40(c)
以上、三種の電解波形(電圧波形)が考えられます。
(a) 直流電圧の波形 (b)単相交流電圧の波形 図39 直流及び交流電圧の波形
(a) 交流電圧の負側電圧が実質 0 電圧より正側にある場合
(b) 交流電圧の負側電圧が 0 電圧の場合
(c)交流波形が一部負電圧になっている場合 図40 種々の交直重畳電圧波形
図 40(a)および(b)では、極性の変換は実質上起こらないが、正(+)側のみで脈流を繰り
返すため負成分は含まれませんが、孔食の抑止、皮膜の耐食性の向上などに効果があり、直流電 解の場合よりやや濃く着色すると言われています5)。
一方、図 40(c)の波形では、極性変換が起こり負(―)成分が含まれるため、しゅう酸溶液 中で強く金色に発色します。また、交直重畳電解で、正電流を 1A/dm2 一定にして、負電流を 0 A にした場合は、薄く黄色がかった銀白色の皮膜を生じますが、負成分を 0.2 ~ 1A/dm2 迄変化 させた場合、黄金色が強くなります6)。
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p94(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 2)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p127(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 3)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p162(1980)
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p113(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 5)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p160(1980)
6)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p114(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 参考文献
1)若山芳三郎,鈴木清,やさしいカラー版 電気と電子の理論,(1981),啓学出版株式会社便覧 ),
− 初級者対象講座 −
19.種々電流波形によるアルミニウムの陽極酸化例 19.1 直流電解法
アルミニウムの陽極酸化と言えば、一般には、硫酸電解溶液を用い、アルミニウムを陽極、鉛 板などを陰極として、直流電流を流して行われる方法が知られています。
直流電圧を印加して電流を流しますと、アルミニウムには陽成分〔(+)成分〕の電流のみが流 れるため、前号で述べましたように、アルミニウム陽極表面では酸化反応のみが起こります。従 って、直流電流は、陽極酸化皮膜を、アルミニウム表面に効率よく生成させることが出来ます。
JIS H 8601 に示されています陽極酸化電解条件の例1) を次に示します。
硫酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離硫酸 150 ± 20 g/L 溶存アルミニウム 25 g/L
塩素イオン 0.2 g/L以下〔NaCl(塩化ナトリウム)として〕
電解条件
溶液温度 20 ± 2℃
電流密度 直流 130 A/m2
なお、陽極表面で起こる反応は、前号で述べましたように、
① 硫酸イオンの酸化反応、実質は、水酸化物イオンの酸化反応がおこり酸素イオンが生じ、酸 素ガスになって放出されます。
② 一方でアルミニウム(陽極)が溶解し、アルミニウムイオン(Al3+)を生じます。
③ これらの生成により、アルミニウム表面で酸化アルミニウム(Al2O3)を生成します。
この反応を、化学式で表しますと次のようになります。
陽極反応
水酸化物イオンの酸化反応 OH― + O2― + H+ 2OH― ➝ H2O + O2―
O2― ➝ 1/2O2 + 2e― アルミニウムの反応 Al ➝ Al3+ + 3e―
全反応 : 2Al3+ + 3O2― ➝ Al2O3
上記、JIS による電解条件では、電解溶液の温度(以下浴温度と略します)及び電流密度が示 されていますが、これらは生成する陽極酸化皮膜の厚さに大きく影響します。
浴温度及び電流密度と皮膜厚さの関係は、次のようになります。
1)浴温度の影響(浴温度が高い場合)
(1) 浴温度が高くなると皮膜は溶解され、厚い皮膜が生成し難くなります。
(2) 皮膜を構成しているセルの孔壁が薄くなり、硬さが低下します。
(3) 電流密度が一定の場合は、電圧が低下します。
なお、浴温度が低い場合は逆になります。
参考) 10 ~ 20%の硫酸浴を用い、浴温度 0±2℃、電流密度 2 ~ 4.5 A/dm2(23 ~ 120V)、 で 60min 陽極酸化すると約 34μm の耐摩耗性に優れた硬質陽極酸化皮膜を生成 します2)。
2) 電流密度の影響(高い場合)
(1) 電流密度が高くなると皮膜の生成が速くなり、厚い皮膜を生じます。
(2) 浴温度の上昇が速くなります。
(3) 浴温度が一定に保たれていない場合は、皮膜が溶解して膜厚が減少します。
従って、アルミニウムの陽極酸化では浴温度を一定に保つために、冷却装置を備え、常 に液が循環している状態で行われています。電流密度が低くなると皮膜の生成速度は減少し、
浴温度の上昇速度も緩やかになります。
上記 JIS H 8601 で示されている電解条件でアルミニウムの陽極酸化を行った場合、電解を
続けると、電解液の温度は上昇します。これは、アルミニウム陽極表面に酸化アルミニウム の皮膜が生成して抵抗を生じる為です。例えば、電流を導体に流した時、電気抵抗のため生 じる熱のことをジュール熱注)と言います。従って、このジュール熱の発生により、浴温度 が上昇して陽極酸化皮膜が溶解されますので、電解液及び陽極のアルミニウム(品物)の温 度を一定に保つため、電解液の攪拌と冷却装置が必要になります。
注)ジュール熱
一定の太さの銅線やアルミ二ウム線に電流を流した時、電線が発熱する場合と、発熱 しない場合があります。細い電線に非常に高い電圧で、沢山の電流を流しますと電線 は熱くなり、火災の原因にもなります。しかし、低い電圧で少しの電流が流れたとき は発熱しません。
電気は、電子の移動により起こります。細い電線に多くの電流を流した時、多くの電 子が細い電線中を移動することになります。その為に、電線中の原子や電子と衝突す る確率が増加し、電気が流れ難くなります。この衝突(電気抵抗)によるエネルギー が熱に変換されて発熱します。このことを発見したジュールの名前をつけてジュール 熱と呼ばれています。
19.2 交流電解法
交流電解では、次のような特徴を挙げることが出来ます。
(1) 両極にアルミニウム材料を取り付けて電解を行うことが出来ます。炭素などの対極が不 要になります。
(2) 両極で酸化アルミニウムを生成しますので、片方の電極に炭素などの不溶性電極を取り
(3) 正(+)成分が少ないため、単位時間当たりの皮膜厚さは直流の半分以下になります。
(4) 負(―)の成分を含むため、塩化物イオン(Cl−)など(濃度にもよりますが)による 孔食の発生を直流の場合よりも軽減することが出来ます。両極が瞬間的に陽極と陰極に 変換されるためです。
(5) 交流電解により生成した皮膜は、直流電解の場合とは異なり、生じた皮膜のセル構造は、
不均質で乱れた状態になっているため、硬度や耐摩耗性が直流により生成した皮膜より も軟質であり、柔軟性に富んでいると言われています3)。
(6) 陽極酸化後、少しの折曲げを必要とする製品には交流電解法を適用すると、クラックが 入り難いなどの利点があります。
(7) 電解液として、硫酸溶液やしゅう酸溶液を用いて陽極酸化皮膜を生成させることが出来 ます。
硫酸溶液を用いる場合は、上記のような皮膜の柔軟性などを必要とする場合など、特別な場合 を除き、電流効率の良い直流法が一般的に行われています。また、しゅう酸溶液では、黄褐色系 に着色した皮膜を生じますが、次項で述べます交直重畳電解法の方がより明瞭な彩度の良い黄金 色を得ることが出来ます。
19.3 交直重畳電解法
しゅう酸電解液を用いてアルミニウムの陽極酸化を行う場合、交直重畳電解法(こうちょくち ょうじょうでんかいほう)が用いられます。それは交流電解法に比較して、交流と直流の重畳比 を種々変えることにより、皮膜の色調 ( 黄金色 ) や輝度を調整することが出来るからです。次に JIS H 8601 に示されているしゅう酸法の電解浴組成及び電解条件の例1)を示します。
しゅう酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離しゅう酸 30 ± 1 g/L 溶存アルミニウム 20 g/L 以下
塩素イオン 0.1 g/L 以下(NaClとして)
電解条件
溶液温度 28 ± 2 ℃
電流密度 交直重畳法 交流 100 A/m2〔実効値(本誌前号 p7 参照)〕 直流 100 A/m2
交直重畳電解法により得られるしゅう酸皮膜は、硫酸皮膜に比較して耐食性や耐摩耗性に優れ ています。また、皮膜の色調は交流成分を多くすることにより黄色味が強くなり、耐食性は向上 します。次に簡単な交直重畳電解装置の回路図を図384)に示し、交直重畳電圧波形と比較し易い ために交流及び直流の電圧波形を図39に示しました。また、主な交直重畳電圧波形を図405)
に示しました。
図 38 では、電極は常に負電圧を示し、品物は交流電圧により、正負の電圧を交互に繰り返す ことになります。但し、交流電圧(電流)の負側の最大電圧が、
1) 0 Vよりも正側にある場合
電解中の品物は、0 V よりも正電圧(又は正電流)側で、正弦波を描くため、実質上
図38 交直重畳電源回路の略図
2) 0 Vになっている場合
電解中の品物は、電圧の負側最大値が0 Vに達するためで、この場合も実質上負電圧 にはなりません。図 40(b)
3) 0 Vよりも負側になっている場合
電解中の品物は、交流波形が0 Vよりも負側になっていることから、実質上負電圧に なる瞬間があります。図 40(c)
以上、三種の電解波形(電圧波形)が考えられます。
(a) 直流電圧の波形 (b)単相交流電圧の波形 図39 直流及び交流電圧の波形
(a) 交流電圧の負側電圧が実質 0 電圧より正側にある場合
(b) 交流電圧の負側電圧が 0 電圧の場合
(c)交流波形が一部負電圧になっている場合
図 40(a)および(b)では、極性の変換は実質上起こらないが、正(+)側のみで脈流を繰り
返すため負成分は含まれませんが、孔食の抑止、皮膜の耐食性の向上などに効果があり、直流電 解の場合よりやや濃く着色すると言われています5)。
一方、図 40(c)の波形では、極性変換が起こり負(―)成分が含まれるため、しゅう酸溶液 中で強く金色に発色します。また、交直重畳電解で、正電流を 1A/dm2 一定にして、負電流を 0 A にした場合は、薄く黄色がかった銀白色の皮膜を生じますが、負成分を 0.2 ~ 1A/dm2 迄変化 させた場合、黄金色が強くなります6)。
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p94(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 2)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p127(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 3)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p162(1980)
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p113(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 5)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p160(1980)
6)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p114(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 参考文献
1)若山芳三郎,鈴木清,やさしいカラー版 電気と電子の理論,(1981),啓学出版株式会社便覧 ),
近畿アルミニウム表面処理研究会会誌№332 2021
-12-
19.種々電流波形によるアルミニウムの陽極酸化例 19.1 直流電解法
アルミニウムの陽極酸化と言えば、一般には、硫酸電解溶液を用い、アルミニウムを陽極、鉛 板などを陰極として、直流電流を流して行われる方法が知られています。
直流電圧を印加して電流を流しますと、アルミニウムには陽成分〔(+)成分〕の電流のみが流 れるため、前号で述べましたように、アルミニウム陽極表面では酸化反応のみが起こります。従 って、直流電流は、陽極酸化皮膜を、アルミニウム表面に効率よく生成させることが出来ます。
JIS H 8601 に示されています陽極酸化電解条件の例1) を次に示します。
硫酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離硫酸 150 ± 20 g/L 溶存アルミニウム 25 g/L
塩素イオン 0.2 g/L以下〔NaCl(塩化ナトリウム)として〕
電解条件
溶液温度 20 ± 2℃
電流密度 直流 130 A/m2
なお、陽極表面で起こる反応は、前号で述べましたように、
① 硫酸イオンの酸化反応、実質は、水酸化物イオンの酸化反応がおこり酸素イオンが生じ、酸 素ガスになって放出されます。
② 一方でアルミニウム(陽極)が溶解し、アルミニウムイオン(Al3+)を生じます。
③ これらの生成により、アルミニウム表面で酸化アルミニウム(Al2O3)を生成します。
この反応を、化学式で表しますと次のようになります。
陽極反応
水酸化物イオンの酸化反応 OH― + O2― + H+ 2OH― ➝ H2O + O2―
O2― ➝ 1/2O2 + 2e― アルミニウムの反応 Al ➝ Al3+ + 3e―
全反応 : 2Al3+ + 3O2― ➝ Al2O3
上記、JIS による電解条件では、電解溶液の温度(以下浴温度と略します)及び電流密度が示 されていますが、これらは生成する陽極酸化皮膜の厚さに大きく影響します。
浴温度及び電流密度と皮膜厚さの関係は、次のようになります。
1)浴温度の影響(浴温度が高い場合)
(1) 浴温度が高くなると皮膜は溶解され、厚い皮膜が生成し難くなります。
(2) 皮膜を構成しているセルの孔壁が薄くなり、硬さが低下します。
(3) 電流密度が一定の場合は、電圧が低下します。
なお、浴温度が低い場合は逆になります。
参考) 10 ~ 20%の硫酸浴を用い、浴温度 0±2℃、電流密度 2 ~ 4.5 A/dm2(23 ~ 120V)、 で 60min 陽極酸化すると約 34μm の耐摩耗性に優れた硬質陽極酸化皮膜を生成 します2)。
2) 電流密度の影響(高い場合)
(1) 電流密度が高くなると皮膜の生成が速くなり、厚い皮膜を生じます。
(2) 浴温度の上昇が速くなります。
(3) 浴温度が一定に保たれていない場合は、皮膜が溶解して膜厚が減少します。
従って、アルミニウムの陽極酸化では浴温度を一定に保つために、冷却装置を備え、常 に液が循環している状態で行われています。電流密度が低くなると皮膜の生成速度は減少し、
浴温度の上昇速度も緩やかになります。
上記 JIS H 8601 で示されている電解条件でアルミニウムの陽極酸化を行った場合、電解を
続けると、電解液の温度は上昇します。これは、アルミニウム陽極表面に酸化アルミニウム の皮膜が生成して抵抗を生じる為です。例えば、電流を導体に流した時、電気抵抗のため生 じる熱のことをジュール熱注)と言います。従って、このジュール熱の発生により、浴温度 が上昇して陽極酸化皮膜が溶解されますので、電解液及び陽極のアルミニウム(品物)の温 度を一定に保つため、電解液の攪拌と冷却装置が必要になります。
注)ジュール熱
一定の太さの銅線やアルミ二ウム線に電流を流した時、電線が発熱する場合と、発熱 しない場合があります。細い電線に非常に高い電圧で、沢山の電流を流しますと電線 は熱くなり、火災の原因にもなります。しかし、低い電圧で少しの電流が流れたとき は発熱しません。
電気は、電子の移動により起こります。細い電線に多くの電流を流した時、多くの電 子が細い電線中を移動することになります。その為に、電線中の原子や電子と衝突す る確率が増加し、電気が流れ難くなります。この衝突(電気抵抗)によるエネルギー が熱に変換されて発熱します。このことを発見したジュールの名前をつけてジュール 熱と呼ばれています。
19.2 交流電解法
交流電解では、次のような特徴を挙げることが出来ます。
(1) 両極にアルミニウム材料を取り付けて電解を行うことが出来ます。炭素などの対極が不 要になります。
(2) 両極で酸化アルミニウムを生成しますので、片方の電極に炭素などの不溶性電極を取り 付けた場合とは異なり、抵抗が増加して電圧が高くなります。
(3) 正(+)成分が少ないため、単位時間当たりの皮膜厚さは直流の半分以下になります。
(4) 負(―)の成分を含むため、塩化物イオン(Cl−)など(濃度にもよりますが)による 孔食の発生を直流の場合よりも軽減することが出来ます。両極が瞬間的に陽極と陰極に 変換されるためです。
(5) 交流電解により生成した皮膜は、直流電解の場合とは異なり、生じた皮膜のセル構造は、
不均質で乱れた状態になっているため、硬度や耐摩耗性が直流により生成した皮膜より も軟質であり、柔軟性に富んでいると言われています3)。
(6) 陽極酸化後、少しの折曲げを必要とする製品には交流電解法を適用すると、クラックが 入り難いなどの利点があります。
(7) 電解液として、硫酸溶液やしゅう酸溶液を用いて陽極酸化皮膜を生成させることが出来 ます。
硫酸溶液を用いる場合は、上記のような皮膜の柔軟性などを必要とする場合など、特別な場合 を除き、電流効率の良い直流法が一般的に行われています。また、しゅう酸溶液では、黄褐色系 に着色した皮膜を生じますが、次項で述べます交直重畳電解法の方がより明瞭な彩度の良い黄金 色を得ることが出来ます。
19.3 交直重畳電解法
しゅう酸電解液を用いてアルミニウムの陽極酸化を行う場合、交直重畳電解法(こうちょくち ょうじょうでんかいほう)が用いられます。それは交流電解法に比較して、交流と直流の重畳比 を種々変えることにより、皮膜の色調 ( 黄金色 ) や輝度を調整することが出来るからです。次に JIS H 8601 に示されているしゅう酸法の電解浴組成及び電解条件の例1)を示します。
しゅう酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離しゅう酸 30 ± 1 g/L 溶存アルミニウム 20 g/L 以下
塩素イオン 0.1 g/L 以下(NaClとして)
電解条件
溶液温度 28 ± 2 ℃
電流密度 交直重畳法 交流 100 A/m2〔実効値(本誌前号 p7 参照)〕 直流 100 A/m2
交直重畳電解法により得られるしゅう酸皮膜は、硫酸皮膜に比較して耐食性や耐摩耗性に優れ ています。また、皮膜の色調は交流成分を多くすることにより黄色味が強くなり、耐食性は向上 します。次に簡単な交直重畳電解装置の回路図を図384)に示し、交直重畳電圧波形と比較し易い ために交流及び直流の電圧波形を図39に示しました。また、主な交直重畳電圧波形を図405)
に示しました。
図 38 では、電極は常に負電圧を示し、品物は交流電圧により、正負の電圧を交互に繰り返す ことになります。但し、交流電圧(電流)の負側の最大電圧が、
1) 0 Vよりも正側にある場合
電解中の品物は、0 V よりも正電圧(又は正電流)側で、正弦波を描くため、実質上 負電圧にはなりません。図 40(a)
図38 交直重畳電源回路の略図
2) 0 Vになっている場合
電解中の品物は、電圧の負側最大値が0 Vに達するためで、この場合も実質上負電圧 にはなりません。図 40(b)
3) 0 Vよりも負側になっている場合
電解中の品物は、交流波形が0 Vよりも負側になっていることから、実質上負電圧に なる瞬間があります。図 40(c)
以上、三種の電解波形(電圧波形)が考えられます。
(a) 直流電圧の波形 (b)単相交流電圧の波形 図39 直流及び交流電圧の波形
(a) 交流電圧の負側電圧が実質 0 電圧より正側にある場合
(b) 交流電圧の負側電圧が 0 電圧の場合
(c)交流波形が一部負電圧になっている場合 図40 種々の交直重畳電圧波形
図 40(a)および(b)では、極性の変換は実質上起こらないが、正(+)側のみで脈流を繰り
返すため負成分は含まれませんが、孔食の抑止、皮膜の耐食性の向上などに効果があり、直流電 解の場合よりやや濃く着色すると言われています5)。
一方、図 40(c)の波形では、極性変換が起こり負(―)成分が含まれるため、しゅう酸溶液 中で強く金色に発色します。また、交直重畳電解で、正電流を 1A/dm2 一定にして、負電流を 0 A にした場合は、薄く黄色がかった銀白色の皮膜を生じますが、負成分を 0.2 ~ 1A/dm2 迄変化 させた場合、黄金色が強くなります6)。
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p94(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 2)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p127(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 3)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p162(1980)
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p113(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 5)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p160(1980)
6)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p114(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 参考文献
1)若山芳三郎,鈴木清,やさしいカラー版 電気と電子の理論,(1981),啓学出版株式会社便覧 ),
− 初級者対象講座 −
電 電 電
極 極 極
品 品 物 物 直流回路
交流回路
電 圧
10 V (V)
時 間 ➝ 0 V
電 圧 (V)
0 V
+10 V
ー10 V 電圧は実効値
時間 ➝
( +)
( ー) 0 V
( +)
( ー) 0 V
( +)
( ー) 0 V
19.種々電流波形によるアルミニウムの陽極酸化例 19.1 直流電解法
アルミニウムの陽極酸化と言えば、一般には、硫酸電解溶液を用い、アルミニウムを陽極、鉛 板などを陰極として、直流電流を流して行われる方法が知られています。
直流電圧を印加して電流を流しますと、アルミニウムには陽成分〔(+)成分〕の電流のみが流 れるため、前号で述べましたように、アルミニウム陽極表面では酸化反応のみが起こります。従 って、直流電流は、陽極酸化皮膜を、アルミニウム表面に効率よく生成させることが出来ます。
JIS H 8601 に示されています陽極酸化電解条件の例1) を次に示します。
硫酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離硫酸 150 ± 20 g/L 溶存アルミニウム 25 g/L
塩素イオン 0.2 g/L以下〔NaCl(塩化ナトリウム)として〕
電解条件
溶液温度 20 ± 2℃
電流密度 直流 130 A/m2
なお、陽極表面で起こる反応は、前号で述べましたように、
① 硫酸イオンの酸化反応、実質は、水酸化物イオンの酸化反応がおこり酸素イオンが生じ、酸 素ガスになって放出されます。
② 一方でアルミニウム(陽極)が溶解し、アルミニウムイオン(Al3+)を生じます。
③ これらの生成により、アルミニウム表面で酸化アルミニウム(Al2O3)を生成します。
この反応を、化学式で表しますと次のようになります。
陽極反応
水酸化物イオンの酸化反応 OH― + O2― + H+ 2OH― ➝ H2O + O2―
O2― ➝ 1/2O2 + 2e― アルミニウムの反応 Al ➝ Al3+ + 3e―
全反応 : 2Al3+ + 3O2― ➝ Al2O3
上記、JIS による電解条件では、電解溶液の温度(以下浴温度と略します)及び電流密度が示 されていますが、これらは生成する陽極酸化皮膜の厚さに大きく影響します。
浴温度及び電流密度と皮膜厚さの関係は、次のようになります。
1)浴温度の影響(浴温度が高い場合)
(1) 浴温度が高くなると皮膜は溶解され、厚い皮膜が生成し難くなります。
(2) 皮膜を構成しているセルの孔壁が薄くなり、硬さが低下します。
(3) 電流密度が一定の場合は、電圧が低下します。
なお、浴温度が低い場合は逆になります。
参考) 10 ~ 20%の硫酸浴を用い、浴温度 0±2℃、電流密度 2 ~ 4.5 A/dm2(23 ~ 120V)、 で 60min 陽極酸化すると約 34μm の耐摩耗性に優れた硬質陽極酸化皮膜を生成 します2)。
2) 電流密度の影響(高い場合)
(1) 電流密度が高くなると皮膜の生成が速くなり、厚い皮膜を生じます。
(2) 浴温度の上昇が速くなります。
(3) 浴温度が一定に保たれていない場合は、皮膜が溶解して膜厚が減少します。
従って、アルミニウムの陽極酸化では浴温度を一定に保つために、冷却装置を備え、常 に液が循環している状態で行われています。電流密度が低くなると皮膜の生成速度は減少し、
浴温度の上昇速度も緩やかになります。
上記 JIS H 8601 で示されている電解条件でアルミニウムの陽極酸化を行った場合、電解を
続けると、電解液の温度は上昇します。これは、アルミニウム陽極表面に酸化アルミニウム の皮膜が生成して抵抗を生じる為です。例えば、電流を導体に流した時、電気抵抗のため生 じる熱のことをジュール熱注)と言います。従って、このジュール熱の発生により、浴温度 が上昇して陽極酸化皮膜が溶解されますので、電解液及び陽極のアルミニウム(品物)の温 度を一定に保つため、電解液の攪拌と冷却装置が必要になります。
注)ジュール熱
一定の太さの銅線やアルミ二ウム線に電流を流した時、電線が発熱する場合と、発熱 しない場合があります。細い電線に非常に高い電圧で、沢山の電流を流しますと電線 は熱くなり、火災の原因にもなります。しかし、低い電圧で少しの電流が流れたとき は発熱しません。
電気は、電子の移動により起こります。細い電線に多くの電流を流した時、多くの電 子が細い電線中を移動することになります。その為に、電線中の原子や電子と衝突す る確率が増加し、電気が流れ難くなります。この衝突(電気抵抗)によるエネルギー が熱に変換されて発熱します。このことを発見したジュールの名前をつけてジュール 熱と呼ばれています。
19.2 交流電解法
交流電解では、次のような特徴を挙げることが出来ます。
(1) 両極にアルミニウム材料を取り付けて電解を行うことが出来ます。炭素などの対極が不 要になります。
(2) 両極で酸化アルミニウムを生成しますので、片方の電極に炭素などの不溶性電極を取り
(3) 正(+)成分が少ないため、単位時間当たりの皮膜厚さは直流の半分以下になります。
(4) 負(―)の成分を含むため、塩化物イオン(Cl−)など(濃度にもよりますが)による 孔食の発生を直流の場合よりも軽減することが出来ます。両極が瞬間的に陽極と陰極に 変換されるためです。
(5) 交流電解により生成した皮膜は、直流電解の場合とは異なり、生じた皮膜のセル構造は、
不均質で乱れた状態になっているため、硬度や耐摩耗性が直流により生成した皮膜より も軟質であり、柔軟性に富んでいると言われています3)。
(6) 陽極酸化後、少しの折曲げを必要とする製品には交流電解法を適用すると、クラックが 入り難いなどの利点があります。
(7) 電解液として、硫酸溶液やしゅう酸溶液を用いて陽極酸化皮膜を生成させることが出来 ます。
硫酸溶液を用いる場合は、上記のような皮膜の柔軟性などを必要とする場合など、特別な場合 を除き、電流効率の良い直流法が一般的に行われています。また、しゅう酸溶液では、黄褐色系 に着色した皮膜を生じますが、次項で述べます交直重畳電解法の方がより明瞭な彩度の良い黄金 色を得ることが出来ます。
19.3 交直重畳電解法
しゅう酸電解液を用いてアルミニウムの陽極酸化を行う場合、交直重畳電解法(こうちょくち ょうじょうでんかいほう)が用いられます。それは交流電解法に比較して、交流と直流の重畳比 を種々変えることにより、皮膜の色調 ( 黄金色 ) や輝度を調整することが出来るからです。次に JIS H 8601 に示されているしゅう酸法の電解浴組成及び電解条件の例1)を示します。
しゅう酸電解液を用いた場合の例 電解溶液の組成
遊離しゅう酸 30 ± 1 g/L 溶存アルミニウム 20 g/L 以下
塩素イオン 0.1 g/L 以下(NaClとして)
電解条件
溶液温度 28 ± 2 ℃
電流密度 交直重畳法 交流 100 A/m2〔実効値(本誌前号 p7 参照)〕 直流 100 A/m2
交直重畳電解法により得られるしゅう酸皮膜は、硫酸皮膜に比較して耐食性や耐摩耗性に優れ ています。また、皮膜の色調は交流成分を多くすることにより黄色味が強くなり、耐食性は向上 します。次に簡単な交直重畳電解装置の回路図を図384)に示し、交直重畳電圧波形と比較し易い ために交流及び直流の電圧波形を図39に示しました。また、主な交直重畳電圧波形を図405)
に示しました。
図 38 では、電極は常に負電圧を示し、品物は交流電圧により、正負の電圧を交互に繰り返す ことになります。但し、交流電圧(電流)の負側の最大電圧が、
1) 0 Vよりも正側にある場合
電解中の品物は、0 V よりも正電圧(又は正電流)側で、正弦波を描くため、実質上
図38 交直重畳電源回路の略図
2) 0 Vになっている場合
電解中の品物は、電圧の負側最大値が0 Vに達するためで、この場合も実質上負電圧 にはなりません。図 40(b)
3) 0 Vよりも負側になっている場合
電解中の品物は、交流波形が0 Vよりも負側になっていることから、実質上負電圧に なる瞬間があります。図 40(c)
以上、三種の電解波形(電圧波形)が考えられます。
(a) 直流電圧の波形 (b)単相交流電圧の波形 図39 直流及び交流電圧の波形
(a) 交流電圧の負側電圧が実質 0 電圧より正側にある場合
(b) 交流電圧の負側電圧が 0 電圧の場合
(c)交流波形が一部負電圧になっている場合
図 40(a)および(b)では、極性の変換は実質上起こらないが、正(+)側のみで脈流を繰り
返すため負成分は含まれませんが、孔食の抑止、皮膜の耐食性の向上などに効果があり、直流電 解の場合よりやや濃く着色すると言われています5)。
一方、図 40(c)の波形では、極性変換が起こり負(―)成分が含まれるため、しゅう酸溶液 中で強く金色に発色します。また、交直重畳電解で、正電流を 1A/dm2 一定にして、負電流を 0 Aにした場合は、薄く黄色がかった銀白色の皮膜を生じますが、負成分を 0.2 ~ 1A/dm2 迄変化 させた場合、黄金色が強くなります6)。
( 続く )
引用文献
1)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p94(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 2)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p127(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 3)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p162(1980)
4)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p113(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 5)アルミニウム表面技術便覧編集委員会編,アルミニウム表面技術便覧,p160(1980)
6)アルミニウム表面処理の理論と実務(第四版),p114(2007) 中間法人軽金属製品協会試験センター 参考文献
1)若山芳三郎,鈴木清,やさしいカラー版 電気と電子の理論,(1981),啓学出版株式会社便覧 ),