マイクロチップを用いた 生体高分子の分離分析法の確立 2014 左少 理恵
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(2) 目次. 第1章. 序論………………………………………………………………1. 1-1. マイクロ化学分析システム(μ-TAS)………………………………………….1. 1-2. 臨床現場即時検査(POCT)…………………………………………………….3. 1-3. 研究の目的……………………………………………………………………..5. 1-4. 参考文献………………………………………………………………………..6. 第2章. マイクロチップ電気泳動装置を用いた 制限酵素断片長多形マルチ解析法の確立………9. 2-1. 緒言…………………………………………………………………………….9. 2-2. 結果……………………………………………………………..…………….14. 2-2-1. 12 チャネル型マイクロチップ用いた マイクロチップ電気泳動法の再現性……………...14. 2-2-2. 12 チャネル型マイクロチップにおける DNA 解析の有用性……....16. 2-2-3. 12 チャネル型マイクロチップを用いた ABO 式血液型の RFLP 解析……....19. 2-3. 考察……………………………………………………………………………25. 2-4. 実験……………………………………………………………………………27. 2-4-1. 試薬・装置……………………………………………………………….27. 2-4-2. マイクロチップ電気泳動……………………………………………….27. 2-4-3. ヒト毛髪からのゲノム DNA の抽出…………………………………...28. 2-4-4. RFLP 解析に用いる DNA 断片の増幅…………………………………28. 2-4-5. アガロースゲル電気泳動法(従来法)による RFLP 解析……………...29. 2-4-6. マイクロチップ電気泳動法による RFLP 解析………………………..30. 2-5. 参考文献………………………………………………………………………31.
(3) 第3章. マイクロチップを用いた 血中バイオマーカー測定法の確立…….33. 3-1. 緒言……………………………………………………………………………33. 3-2. 結果……………………………………………………………………………36. 3-2-1. マイクロチャネル内での抗原抗体反応による PICP の検出およびその再現性………36. 3-2-2. マイクロチップ法の定量性…………………………………………….38. 3-2-3. マイクロチップ法によるヒト血清中 PICP の測定…………………...39. 3-3. 考察……………………………………………………………………………42. 3-4. 実験……………………………………………………………………………44. 3-4-1. 試薬・装置……………………………………………………………….44. 3-4-2. パルスインジェクターを用いた マイクロチャネル底面への一次抗体の吐出・固定化……..44. 3-4-3. マイクロチャネル内の抗原抗体反応を利用した PICP の検出……...45. 3-4-4. ヒト全血からの血清分離……………………………………………….45. 3-4-5. ELISA キットを用いた従来法での PICP の検出…………………….45. 3-5. 参考文献………………………………………………………………………47. 第4章. 総括……………………………………………………………..49. 参考文献…………………………………………………………………….....52.
(4) 本稿で用いた省略形. BR; buffer reservoir BW; buffer waste reservoir EBM; evidence based medicine ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay HRP; horseradish peroxidase PCR; polymerase chain reaction RFLP; restriction fragment length polymorphism PBS; phosphate buffered saline PICP; carboxyterminal propeptide of type I procollagen or procollagen type I C-peptide POCT; point of care testing QOL; quality of life SNP; single nucleotide polymorphism SR; sample reservoir SW; sample waste reservoir TE; tris-EDTA(ethylene diamine-tetraacetic acid) TMBZ; 3, 3', 5, 5'-tetramethylbenzidine μ-TAS; micro-total analysis systems.
(5) 第1章 1-1. 序論. マイクロ化学分析システム(μ-TAS). マイクロ化学分析システム(Micro-Total Analysis Systems; μ-TAS)は半導体集積 回路の製造に用いられる微細加工技術を応用し、従来試験管などを用いて行わ れてきた化学反応や生化学分析を、ガラスやプラスチック基板上に作成された 微小な流路や空間で行う超小型の分析システムである。この μ-TAS という概念 は、1990 年に Manz らによって提唱された[1]。μ-TAS を構成する主な要素は、 マイクロポンプ[2-4]、バルブ[4-6]、ミキサー[7-9]、リアクター[10-12]、流路[11-13] などがあり、マイクロ流体デバイスと総称されている。マイクロ流体デバイス の特長は、当然ながらそのサイズであり、微小な空間つまりマイクロ空間にお いて操作をおこなうことで、その比表面積(体積あたりの表面積の割合)の大きさ や分子の拡散距離の減少による効果で反応を迅速化できたり[13]、マイクロ空間 を並列化することでその操作を高効率化できることがあげられる。もちろん、 反応場の縮小に伴って省サンプル・省試薬化も可能であり、さらにはその装置 を小型化し自動化することでどこでも簡易に分析が可能であるシステムの構築 が可能になる。つまり、これらマイクロ流体デバイスを集積化し μ-TAS を実現 することができれば、迅速、省試料、高感度、易操作性といった多くの利点が もたらされる[14]。 なお、マイクロ流体デバイスの素材としては、単結晶シリコン、ガラス、プ ラスチックがあげられる[14, 15]。単結晶シリコンは、多様な微細加工法を駆使 して最も精度の高い微細加工が可能である点が優れるが、加工設備が高額であ るためにコストが高いこと、紫外光・可視光領域において不透明であることか ら分析に光学的手法が使えないといったデメリットがある。ガラスは、化学的、 熱的に安定な材料であるために表面処理なく多様な化学反応を行える点、光の 透過性に優れているので分析に光学的手法が使える点で優れた材料であるが、 その加工は精密性には欠けているため、精度の高い微細加工に向かない点がデ メリットとしてあげられる。プラスチックは、実験室レベルの研究開発に要求 される短時間での試作には非常に有利な材料であり、また、加工方法として低 コストで大量生産に向く射出成型法もある材料である。さらに、多様な表面加 1.
(6) 工技術によって表面を高機能化できる点や廃棄にコストがかからずディスポー ザブルで使用しやすい点についても有利な材料でもある。しかし、プラスチッ クは化学的、熱的安定性や光学的な特性ではガラスには及ばない点がデメリッ トとしてあげられる。このようにそれぞれ一長一短がある材料を、目的に応じ て選択・微細加工しマイクロ流体デバイスの開発を行っていくことも μ-TAS の 実現には不可欠である。 μ-TAS は従来、化学分析や化学工学の分野において盛んに研究されてきたが、 近年ライフサイエンスや医療・福祉の現場への応用が期待されており、DNA の 高速分離や高速シーケンス[11, 12, 14]、抗原抗体反応[16-19]、セルソータ[20-22] などの研究が盛んに行われてきた。中でもキャピラリー電気泳動法に基づく DNA シーケンサー[23, 24]により、ヒトゲノム計画がスタートした 1990 年頃に はヒトゲノムの全解読に 100 年かかると思われていたところ、わずか 13 年で解 読が終了したことは記憶に新しい。この際明らかにされたヒトの全遺伝情報を 利用してさらなる研究を行うポスト・ゲノムシーケンス時代に突入した現在で は、研究の対象は、DNA はもちろんのこと、RNA、タンパク質、糖鎖などの生 体内代謝物、さらには細胞にまで大きく広がってきている。現在ではこれら各 種研究対象に対して μ-TAS を実現すべく多くの研究が日夜行われている。. 2.
(7) 1-2. 臨床現場即時検査(POCT). 現代医療においては根拠に基づいた(evidence based medicine; EBM)、生活の質 (quality of life; QOL)の向上を目指した治療が望まれている。そのため、各種疾患 や病態の把握、治療効果の確認や予後の判定を行うための臨床検査が不可欠で ある。近年、これらの臨床検査について臨床現場即時検査(point of care testing: POCT)という考え方[25]にも注目が集まっている。POCT の概念や呼称はイギリ スやアメリカに端を発しており、測定機器の発展に伴い 1990 年代後半から急速 に普及してきた[26]。わが国でも POCT への関心は強かったが、POCT が急速に 普及していった諸外国との医療環境における相違から、POCT とは何かといった 議論から始まり、2004 年にようやく日本臨床検査自動化学会より POCT ガイド ライン[27]が発行され、定義づけが行われた。その定義は「POCT とは、被検者 の傍らで医療従事者が行う検査であり、検査時間の短縮および被検者が検査を 身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療・看護・疾患の予防、 健康増進等に寄与し、ひいては医療の質を、被験者の QOL に資する検査である」 というものであり、さらに補足の部分に「POCT は、小型で容易に持ち運べる機 器・試薬をいうのではなく、あくまでも上記の役割を果たす、いわゆるシステ ム(仕組み)である」と記載されている。このように迅速性、小型化が要求される POCT デバイスはまさに医療の分野において μ-TAS の概念を踏襲しているもの といえる。 POCT は従来の臨床検査よりも迅速な結果を必要とする際に用いられる [28-31]が、現状の臨床検査では検査当日に結果が得られることはまだまだ少な い。これは、各測定項目の測定に時間を要することもあるが、測定に高価な試 薬や大型の分析装置が必要であったり、人件費の問題など経営的な問題もあり、 外部の臨床検査会社に検査を外注していることがあげられる。これは μ-TAS を 利用した POCT デバイスにより、測定の迅速化、装置の小型化・簡易化、そし てさらに省試薬による低コスト化が可能となれば、解決するものと期待される。 また、インフルエンザなどの感染症や心筋梗塞といった緊急性を要する疾患 [29,30]や血糖値[31]などの一部の項目については POCT が実現されつつあるが、 多くはイムノクロマト法に基づくために多項目は同時に測定できないこと、定 性的検査であること、誤判定が起こりうること、といった問題があげられる。 遺伝子検査などの POCT が実現していない項目についての POCT デバイスの開 3.
(8) 発はもちろんのこと、これらの問題を解決しうる POCT デバイスの開発も望ま れているのが現状である。. 4.
(9) 1-3. 研究の目的. すべての化学的・生物学的操作を数 cm 角の基板上に集積した μ-TAS の実現に 向け、多岐にわたる分野で研究開発が行われている。また、医療の分野におけ る μ-TAS である POCT は実現しつつあるものの、測定項目が限られていること、 同時に複数の解析はできないこと、定性はできても定量がかなわないといった 問題点がある。そこで本研究では、μ-TAS を構成するマイクロ流体デバイスの一 つである、微細な流路であるマイクロチャネルを基板上に形成したマイクロチ ップを利用し、生体高分子である DNA とタンパク質における新規の分離分析法 の確立を試みた。この際のマイクロチップの素材は、POCT へ応用も鑑みて、使 い捨てが容易であり、大量生産に向いたプラスチックを選択した。 はじめにマイクロチャネルを利用したマイクロチップ電気泳動は、迅速かつ 省サンプルに泳動分析が可能であり、既にその装置が市販されているが、主に 核酸の鎖長・濃度分析に用いられるなど、適用範囲がきわめて限られている。 過去に私が所属した研究室において、その適応拡大をめざした研究[32-38]を行 い、マイクロチップ電気泳動装置の生化学的解析への応用性の高さを示してい る。そこで、マイクロチップ電気泳動装置のさらなる適応拡大をめざし、マイ クロチャネルが並列化され複数試料を同時に解析できるマイクロチップを用い ることで、遺伝子多型の判定に用いられる制限酵素断片長多形解析を迅速、省 サンプル、高効率にマイクロチップ電気泳動装置にて行う方法を検討した(第 2 章)。 また近年、マイクロ流体デバイスを利用して、極少量の血液・体液を用いて 各種病態・治療効果などの判定を行うバイオチップの研究開発[39-41]が盛んに 行われている。特に血液中においては、多くの生体機能や病気の状態を示すタ ンパク質が含まれており、臨床でも血中バイオマーカーとして測定が行われて いる。これらバイオマーカーの測定には抗原抗体反応を利用した Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)が頻用されている。そこで、マイクロチャネルの底 面に極少量の液体の操作が可能であるインクジェット技術を用いることで一次 抗体を吐出・固定化したマイクロチップを用い、ELISA の原理を利用した迅速、 省サンプルな血中バイオマーカー検出系の確立を試みた(第 3 章)。 5.
(10) 1-4. 参考文献. [1] A. Manz, H.M. Widmer, Sensors Actuators B, 1, 244-248(1990) [2] Y.N. Wang, C.H. Tsai, L.M. Fu, L.K. Lin Liou, Biomicrofluidics, 7, 44118(2013) [3] P.S. Chee, R. Arsat, T. Adam, U. Hashim, R.A. Rahim,P.L. Leow, Sensors (Basel), 12, 12572-12587 (2012) [4] L. Jingmin, L, Chong, X. Zheng, Z. Kaiping, K. Xue, W. Liding, PLoS One, 7, e50320(2012) [5] J. Quist, S.J. Trietsch, P. Vulto, T. Hankemeier, Lab Chip, 13, 4810-4815(2013) [6] E.C. Jensen, A.M. Stockton, T.N. Chiesl, J. Kim, A. Bera, R.A. Mathies, Lab Chip, 13, 288-296(2013) [7] Y. Li, F. Xu, C. Liu, Y. Xu, X. Feng, B.F. Liu, Analyst., 138, 4475-4482(2013) [8] T. Matsunaga, H.J. Lee, K. Nishino, Lab Chip, 13, 1515-1521(2013) [9] Y. Li, D. Zhang, X. Feng, Y. Xu, B.F. Liu, Talanta, 88:175-180(2012) [10] X. Ma, W.Y Tseng, M. Eddings, P.Y. Keng, R.M. van Dam, Lab Chip, 14, 280-285(2014) [11] L. Zhang, F. Dang, Y. Baba, J. Pharm. Biomed. Anal. 30, 1645–1654 (2003) [12] N. Kaji, Y. Tezuka, Y. Takamura, M. Ueda, T. Nishimoto, H. Nakanishi, Y. Horiike, Y. Baba, Anal. Chem., 76, 15-22 (2004) [13] K.Sato, A. Hibara, M. Tokeshi, H. Hisamoto, T. Kitamori, Adv. Drug. Deliv. Rev., 55, 379-391 (2003) [14] K. Huikko, R. Kostiainen,T. Kotiaho, Eur. J. Pharm. Sci., 20, 149-171 (2003) [15] 馬場嘉信, ナノテクノロジー時代のバイオ分離・計測技術, CMC 出版 (2011) [16] K. Sato, K. Mawatari, T. Kitamori, Lab Chip, 8, 1992–1998 (2009) [17] T. Yasukawa, M. Suzuki, T. Sekiya, H. Shiku, T. Matsue, Biosens Bioelectron, 22, 2730–2736 (2007) [18] K. Sato, M. Yamanaka, T. Hagino, M. Tokeshi, H. Kimura, et al., Lab Chip, 4, 570–575 (2004) [19] K. Sato, M. Yamanaka, H. Takahashi, M. Tokeshi, Kimura H, et al., Electrophoresis, 23, 734–739 (2002) 6.
(11) [20] Y. Shirasaki, J. Tanaka, H. Makazu, K. Tashiro, S. Shoji, S. Tsukita, T. Funatsu, Anal. Chem., 78, 695-701 (2006) [21] C.C. Lin, A. Chen, C.H. Lin, Biomed. Microdevices, 10, 55-63 (2008) [22] J. Sun, Y. Gao, R.J. Isaacs, K.C. Boelte, P.C. Lin, E.M. Boczko, D. Li, Anal. Chem., 84, 2017-2024 (2012) [23] S. Behr, M. Mätzig, A. Levin, H. Eickhoff, C. Heller, Electrophoresis, 20, 1492-1507(1999) [24] K. Shibata, M. Itoh, K. Aizawa, S. Nagaoka, N. Sasaki, et al., Genome Res., 10, 1757-1771 (2000) [25]. P. St-Louis, Clin. Biochem., 33, 427–440 (2000) [26] M. Hughes, Point of Care, 1, 84-94 (2002) [27] 日本臨床検査自動化学会編 POCT ガイドライン, 臨床検査自動化学会会誌, 29 (2004). [28] C. Briggs, D. Guthrie, K. Hyde, I. Mackie, N. Parker, et al., Br. J. Haematol., 142, 904–915 (2008) [29] F. Di Serio, R. Lovero, M. Leone, R. De Sario, V. Ruggieri, et al., Clin. Chem. Lab Med., 44, 768–773 (2006). [30] P. von Lode, Clin. Biochem., 38, 591–606 (2005) [31] M. Wehmeier, B.T. Arndt, G. Schumann, W.R. Kulpmann, Clin. Chem. Lab Med., 44, 888–893 (2006) [32] M. Kataoka, Y. Fukura, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 26, 3025-3031 (2005) [33] E. Maeda, M. Kataoka, M. Hino, K. Kajimoto, N. Kaji, M. Tokeshi, J. Kido, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 28, 2927-2933 (2007) [34] E. Maeda, M. Kataoka, S. Yatsushiro, K. Kajimoto, M. Hino, N. Kaji, M. Tokeshi, M. Bando, J. Kido, M. Ishikawa, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 29, 1902-1909 (2008) [35] Y. Umemoto, M. Kataoka, S. Yatsushiro, M. Watanabe, J. Kido, R. Kakuhata, T. Yamamoto, Y. Shinohara, Y. Baba, Anal. Biochem., 388, 161-163 (2009) [36] Y. Umemoto, M. Kataoka, S. Yatsushiro, S. Yamamura, T. Ooie, J. Kido, T. Yamamoto, Y. Shinohara, Y. Baba, J. Pharm. Biomed. Anal., 52, 323-328 (2010). 7.
(12) [37] Y. Yamaguchi, S. Yatsushiro, S. Yamamura, H. Abe, K. Abe, M. Watanabe, K. Kajimoto, Y. Shinohara, Y. Baba, M. Kataoka, Analyst, 136, 2247-2251(2011) [38] M. Kataoka, S. Inoue, K. Kajimoto, Y. Shinohara, Y. Baba, Eur. J. Biochem., 271, 2241–2247(2004) [39] Y. Yamaguchi, T. Moriki, A. Igari, Y. Matsubara, T. Ohnishi, K. Hosokawa, M. Murata, Thromb. Res., 132, 263-270 (2013) [40] M. Avila, A. Floris, S. Staal, A. Ríos, J. Eijkel, A. van den Berg A, Electrophoresis, in press (2013) [41] E. Lim, A. Tay, J. Von Der Thusen, M.B. Freidin, V. Anikin, A.G. Nicholson, J. Thorac. Cardiovasc. Surg., in press (2013). 8.
(13) 第2章. マイクロチップ電気泳動装置を用いた 制限酵素断片長多形マルチ解析法の確立. 2-1. 緒言. 2003 年にヒトゲノム計画が完遂し、約 30 億塩基対にも及ぶヒトゲノムの全遺 伝子配列が公表された[1-3]。ポスト・ゲノムシーケンス時代に突入した現在で は各種疾患の遺伝的背景、個人による薬剤の有効性の違いなどといった研究が 盛んに行われており、このようなヒト個人による差異は一塩基多形(single nucleotide polymorphism: SNP)に由来するものがあることが多く報告されている [4-6]。ヒトの遺伝子配列を個人で比較すると、約 300 万個程度の置換・欠失な どによる一塩基の多様性があるといわれている。これらの多様性の中で SNP は ある特定の集団において 1%以上の高頻度でみられる一塩基の変異であり、その 確認方法の一つとして古くから制限酵素断片長多形(restriction fragment length polymorphism: RFLP)解析が行われてきた[7]。RFLP 解析は SNP の有無で遺伝子 配列中に制限酵素認識部位が出現したり消失したりする場合に利用できる手法 である。この手法は次の流れにより行う。まず、SNP の存在する領域を含めて ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction : PCR)でゲノム DNA を鋳型とし て増幅した DNA 断片を得る。続いて、この DNA 断片を制限酵素処理する。次 いで、制限酵素処理前後の DNA 断片についてアガロースゲル電気泳動およびエ チジウムブロマイド染色などで電気泳動分析する。最後に、この電気泳動の結 果得られた DNA 断片の鎖長の違いを移動度から確認する。なおこの際、正確な DNA 鎖長を算出するには、同時に電気泳動を行った DNA サイズマーカーの移 動度を横軸に、DNA 鎖長の対数値を縦軸にグラフを作成し、得られた直線によ り目的の DNA 断片の移動度から算出することが可能である[8]。これら一連の操 作により制限酵素認識部位の存在の有無、つまり SNP の存在を判定できるが、 PCR 後の制限酵素処理および泳動分析にそれぞれ 1 時間ずつの計 2 時間と時間 を要し操作も煩雑であること、試料である DNA 断片についても μg 単位で必要. 9.
(14) であるといった欠点がある。 RFLP 解析にて解析可能な SNP による個人差でよく知られているものに ABO 式血液型があり、医学や法医学などの分野で利用されている[9-14]。ABO 式血液 型については、その表現型が赤血球の表面に存在する糖鎖に由来すること、ま たその糖鎖が合成される際の転移酵素の構造遺伝子配列は古くから報告されて いる[15-17]。ABO 式血液型の表現型は、A、B、O、AB 型が存在するが、これ は A 抗原、B 抗原、H 抗原と呼ばれる各糖鎖の赤血球表面の存在様式により決 定される。A 抗原および B 抗原は,それぞれ A 転移酵素および B 転移酵素によ り合成されるが,H 抗原は塩基欠失型の SNP により遺伝子のフレームシフトが 起こり完全な転移酵素が作られないために A 抗原および B 抗原の前駆物質の状 態で赤血球表面に存在している。A 転移酵素の遺伝子である A 対立遺伝子の遺 伝子配列を基準とした場合,B 転移酵素の遺伝子である B 対立遺伝子には 7 つ の塩基置換型の SNP(297、526、657、703、796、803、930 番目の塩基)があるこ とが知られている。また H 抗原の存在に関与する,完全な転移酵素を作れない 遺伝子である O 対立遺伝子では A 対立遺伝子の配列を基準としたとき 261 番目 の塩基が欠失していることが知られている。図 2-1A に示したように、これら SNP のうち 261 番目と 526 番目の塩基に存在する 2 つの SNP により制限酵素認識部 位の有無が生じる。このことを利用して①A 対立遺伝子および B 対立遺伝子と O 対立遺伝子の鑑別に 261 番目の SNP により制限酵素 Kpn I の認識部位が O 対 立遺伝子に出現すること[15,17]、②A 型遺伝子および O 型遺伝子と B 型遺伝子 の鑑別に 526 番目の SNP により制限酵素 Ban I の認識部位が B 型遺伝子に出現 すること[9]、この①と②を利用した 2 つの RFLP 解析結果を組み合わせること で、ABO 式血液型に 6 種類存在する遺伝子型(A 型には AA と AO、B 型には BB と BO、O 型には OO、AB 型には AB)の判定が可能である(表 2-1)。なお,図 2-1 で示しているが 285 bp の断片には ABO 型遺伝子全てに Ban I の認識部位が初め から 1 つ存在していることに注意が必要である。. 10.
(15) 図 2-1. ABO 式血液型の RFLP 解析. (A)各対立遺伝子における SNP による制限酵素認識部位の有無を示した。実線は制限 酵素認識部位を、破線は SNP により消失する制限酵素認識部位を示す。また⊿G は G の欠失を表す。 (B)本研究で用いた RFLP 解析の実験系で利用した O 対立遺伝子の Kpn I による A 対 立遺伝子および B 対立遺伝子との鑑別(①)と、B 対立遺伝子の Ban I による A 対立遺 伝子および O 対立遺伝子との鑑別(②)における DNA 断片の鎖長を示す。. 表 2-1. SNP により存在の有無が変わる制限酵素認識部位での 切断パターンによる ABO 式血液型の遺伝子型決定. 表中の+は該当する制限酵素により切断されることを、-は切断されないことを示す。 つまり、-/-はどちらの対立遺伝子由来の DNA 断片も切断されない(まったく切断され ない)ことを、+/-は片方の対立遺伝子由来の DNA 断片が切断されるがもう片方の対立 遺伝子由来の DNA 断片は切断されずに残ることを、+/+はどちらの対立遺伝子由来の DNA 断片も切断される(完全に切断される)ことを示す。. 表現型. 遺伝子型. Kpn I. Ban I. AA. –/–. –/–. AO. –/–. BB. +/– –/–. +/+. BO. +/–. +/–. O. OO. +/+. –/–. AB. AB. –/–. +/–. A B. 11.
(16) 現在,迅速・省試料・簡便に核酸等の分離を行うマイクロチップ電気泳動装 置がすでに市販されている。マイクロチップ電気泳動は、プラスチックやガラ ス製のマイクロチップ基板上に形成した μm 単位の微小な流路であるマイクロ チャネルを利用して電気泳動を行うことで、省試料、迅速、高感度に核酸等の 分離解析が可能となる[18]。マイクロチップ電気泳動の原理を図 2-2A から C に 示す。マイクロチップ電気泳動で用いられるチップは、図 2-2A のように基本的 に 2 つのマイクロチャネルがチップ上で交差する形状をもつ。試料の導入量が pl オーダーとごく微量であるマイクロチップ電気泳動においては、再現性の良 い試料導入法が必要とされる。この条件を満たす形状として考案されたものが この交差型マイクロチャネルである。 しかし、迅速・省サンプル・簡便でありながらもマイクロチップ電気泳動装 置は主に DNA 鎖長解析・濃度測定や RNA の性状確認に用いられるのみである。 そこで,私の所属した研究室では市販のマイクロチップ電気泳動装置を様々な 生物学的解析へ応用することを検討し[19-25]、既にマイクロチップ上の試料ウ ェル内にてオンチップで制限酵素処理を行い経時的に電気泳動分析を行うこと ができることを報告している[25]。この結果を踏まえ、本研究では市販のマイク ロチップ電気泳動装置のひとつである日立 SV1210 形 (以下 SV1210)および 12 チャネル型マイクロチップ(図 2-2D)を用いることで一枚のマイクロチップにて 迅速、省試料に複数人を同時解析できる RFLP マルチ解析を行う実験系の確立を 試みた。. 12.
(17) 図 2-2. マイクロチップ電気泳動の原理と 12 チャネル型マイクロチップ. (A)試料導入および分離に利用される 2 つのマイクロチャネルが交差した形状を持ち、 それぞれの末端にウェルが形成されている。4 つのウェルはそれぞれ、試料導入 (Sample reservoir; SR)、試料廃液(Sample waste reservoir; SW)、分離用緩衝液の導入 (Buffer reservoir; BR)、分離後の廃液 (Buffer waste reservoir; BW)に用いる。このマイク ロチャネル内に分離用の泳動ゲルをみたし、SR に試料を添付する。 (B)SR と SW に電圧をかけると、分離用のマイクロチャネルとの交点をへて、SR か ら SW にむかって試料が泳動する。このとき、導入用のマイクロチャネル内でも成分 の分離はおこるが、継続的に SR より試料が導入されるので、一定時間を経ると平衡 化され交点の部分の試料が元の試料と同じ成分構成となる。なお、この電気泳動は導 入泳動と呼ばれる。 (C)交点の部分が元の試料と同じ成分構成になったのち、電圧を切り替え BR と BW に 電圧をかけると交点に存在する一定量の試料が分離用マイクロチャネルに導入され、 成分の分離が行われる。この電気泳動は分離泳動と呼ばれる。この際、分離用マイク ロチャネルへの過剰な試料の導入を防ぐため、SR および SW についても電圧をかけ る。検出は目的とする試料により、蛍光検出法、UV 可視吸収検出法、熱レンズ検出 法などがあげられるが、生体高分子の検出には一般的に感度・選択性に優れる蛍光検 出法が用いられる。 (D)今回の実験に使用した 12 チャネル型マイクロチップ(i-チップ 12)。このマイクロ チップにおいては S1-12 が SR、g1-12 が SW、G1 が BW、G2-3 が BR である。 13.
(18) 2-2. 結果. 2-2-1. 12 チャネル型マイクロチップ用いたマイクロチップ電気泳動法の再現性. 12 チャネル型マイクロチップはポリメチルメタクリレート製で、12 本の並列 化されたマイクロチャネルを用いて一度に 12 試料を同時に電気泳動分析できる チップである(図 2-2D)。このマイクロチップでは、図 2-1A に示した SR および SW のウェル(それぞれ図 2-2D 中の S1-12 および g1-12)はマイクロチャネルご とに独立しているが、BR および BW のウェル(それぞれ図 2-2D 中の G2-3 およ び G1)が集約されることで、12 試料を一度に同時に泳動分析することを可能と している。本研究では ABO 式血液型の RFLP 解析の実験系を考慮し 10-500 bp の DNA の分離に適している i-SDNA12 キットに添付している蛍光色素、泳動ゲ ルを用いることとした。. 図 2-3. SV1210 によるマイクロチップ電気泳動後に得られる解析データ例. (A) i-SDNA12 キットに添付の 10 bp と 500. bp の DNA 断片を含んだ内部標準溶液と. TE 緩衝液 を 9:1 で混合した溶液 10 μl を試料として、12 チャネル型マイクロチップ と SV1210 を用いて電気泳動分析した際に得られるエレクトロフェログラムの 1 例を 示した。このエレクトロフェログラムは電気泳動分析の終了と同時に SV1210 ソフト ウェアに表示される。 (B)エレクトロフェログラムと同時に SV1210 ソフトウェアにより解析された各種デ ータも自動で表示される。ピーク No.は泳動時間が早い順にナンバリングされる。. 14.
(19) なお、SV1210 における電気泳動分析の結果は各チャネルについて図 2-3A に 示すようなエレクトロフェログラムの形で表示されるほか、ここでは示さない がゲルイメージの表示も可能である。また、エレクトロフェログラムと同時に 図 2-3B に示したような解析結果が表示される。図 2-3 については、内部標準の みの電気泳動分析であるが、試料 DNA 断片を電気泳動した場合は、その鎖長お よび濃度も同時に表示される。2-1 に述べたが、従来はグラフを作成し行ってい た鎖長計算を電気泳動と同時に終了できる。なお、この際表示される DNA の濃 度は内部標準のうち 500 bp の DNA 断片のピーク面積をもとに計算される。10 bp の DNA 断片については、極短鎖の DNA ではピーク面積に再現性がないため、 実際には 40 ng/μl が電気泳動分析に供されているが解析ソフトの仕様上その濃 度は 0 ng/ml と表示される。 はじめに、i-SDNA12 キット添付の 10 bp および 500 bp の内部標準用 DNA 断 片を用いて、5 枚の 12 チャネル型マイクロチップ、つまり合計 60 チャネル間で のマイクロチップ電気泳動による解析の再現性を検討した。すべてのチャネル において、電気泳動開始から 92-96 秒後に 10 bp、204-214 秒後に 500 bp の 2 本の明確なシグナルピークが検出された。この時の 10 bp および 500 bp の DNA 断片の泳動時間の相対標準偏差はそれぞれ 0.98%と 1.11%であり、60 の異なる チャネル間での再現性は十分であった。 つづいて、2-1 で述べたようにマイクロチップ電気泳動法では、実際に電気泳 動分析に供される試料の容量が数十 pl とごく微量である。したがって、一度の 電気泳動分析を完了したマイクロチップの SR には解析試料の大部分が存在す るため、同一のマイクロチップにより連続して繰返しの泳動分析が可能である と考えられる。このことを踏まえて、同一のチャネルで複数回泳動分析を行っ た場合の繰返し性について検討を行った。1 度の泳動分析が終了したのちに、引 き続いて泳動分析をスタートすることで 3 回の泳動分析を行った場合の 10 bp、 500 bp の DNA 断片の泳動時間を表 2-2 に示す。この結果、同一のチャネルで 3 回の泳動分析を行った場合でも、10 bp および 500 bp の DNA 断片の泳動時間の 相対標準偏差は 2.2%および 1.5%であり、同一のチャネルで複数回の電気泳動 分析を行ってもその繰返し性は十分であるといえる。. 15.
(20) 表 2-2. 同一チャネルで複数回泳動分析を行った場合の 10 bp および 500 bp の DNA 断片の泳動時間. i-SDNA12 キットに添付の内部標準溶液と TE 緩衝液 を 9:1 で混合した溶液 10 μl を試 料として同一の 12 チャネル型マイクロチップにて泳動分析完了後引き続いてのマイ クロチップ電気泳動を 3 回行った時の 10 bp および 500 bp の DNA 断片の泳動時間を 示す。. 泳動時間 (秒). 2-2-2. 泳動分析回数. 10 bp. 500 bp. 1 2 3 平均 相対標準偏差(%). 96.0 97.6 100.2 97.9 2.2. 214.0 217.2 220.4 217.2 1.5. 12 チャネル型マイクロチップにおける DNA 解析の有用性. 2-2-1 の実験より、12 チャネル型マイクロチップを用いたマイクロチップ電気 泳動により内部標準 DNA を再現性よく泳動分析できることが示された。そこで 次に、本装置を用いた場合の DNA 断片の鎖長解析の正確性および定量性につい て検討を行った。 はじめに、DNA 断片の鎖長解析の正確性について検討を行った。市販されて いる、50, 150, 300, 500, 766 bp の DNA 断片を含んだ PCR Marker に、別途市販の 10 bp の DNA 断片(NoLimit DNA Ladder 10 bp)を加えた溶液を試料として解析を 行った。その結果、10-766 bp の DNA 断片に相当する 6 本のシグナルピークが 明確に検出された(図 2-4)。図 2-4B に DNA 断片の鎖長と泳動時間の関係を示す が、50-300 bp において直線性がみられ、図 2-1B に示した今回の RFLP 解析で 扱う 52-285 bp の DNA 断片の解析に申し分ない結果が得られた。また、長鎖 DNA 断片において泳動時間との関係に直線性が失われたことは、泳動ゲルの中 に DNA 結合性の蛍光色素が含まれていることに起因すると思われる[26]。さら に、25-766 bp の DNA 断片を含む市販 DNA サイズマーカーLow molecular weight DNA Laddar を用いて同様の解析を行ったが、50-300 bp の領域で DNA 断片の 鎖長と泳動時間の関係に直線性が見られることなどほぼ同等の結果が得られた (結果は示さない)。 16.
(21) 図 2-4. マイクロチップ電気泳動における DNA 断片の泳動時間と その鎖長の関係. (A)300 ng/μl PCR Marker 1 μl、100 ng/μl 10 bp DNA 断片 1 μl、TE 緩衝液 8 μl を試料 ウェルに加え、12 チャネル型マイクロチップを用いて SV1210 にて泳動分析を行い、 得られたエレクトロフェログラム。12 チャネルすべてについて同様の実験を行った が、1 チャネルにおける典型的な結果を示した。 (B)A における泳動時間(秒)を横軸、DNA 鎖長(bp)を縦軸として作成したグラフを示す。 破線(---)は、各点間をつないだ曲線である。点線(…)の直線により泳動時間と DNA 鎖 長の関係に 50-300 bp の領域において直線性が得られていることがわかる。. つづいて、内部標準を利用しての DNA 断片の鎖長解析の正確性及び定量性に ついて検討を行った。本解析では、10 bp と 500 bp の DNA 断片を含む i-SDNA12 キット添付の内部標準溶液と混合した状態で最終濃度が 0, 0.2, 0.4, 1, 2, 4, 6 及び 8 ng/μl となるように調製した、2-2-3 の RFLP 解析に使用する 237 bp の DNA 断 片を試料として用いた。これら各濃度の試料 10 μl を 12 チャネル型マイクロチ ップの 8 つのチャネルを使用して SV1210 にて電気泳動分析を行った結果を図 2-5 に示す。この結果、図 2-5B に示すように 237 bp の DNA 断片の泳動時間は 濃度に依存せずほぼ同一であったことから、泳動時間と DNA 鎖長の関係に直線 性が得られることが分かっている 50-300 bp の領域では、試料 DNA 濃度に依存 せず DNA の鎖長解析が可能であるといえる。この DNA 濃度に依存せず鎖長解 析が可能であるという結果は過去の報告とも一致する[25]。また、実際の DNA 濃度と解析 DNA 濃度の関係を示した図 2-5C より、< 2 ng/μl の領域で解析 DNA 濃度は正確な DNA 濃度を示していることがわかる。さらに、2-2-3 で RFLP 解. 17.
(22) 析に用いるもう一種の 285 bp の DNA 断片についても同様の解析を行ったところ 同等の結果が得られた(結果は示さない)。これらの結果より、12 チャネル型マイ クロチップを用いて電気泳動分析を行うことで、DNA 断片の鎖長解析や濃度決 定を行うことが可能であることが示された。. 図 2-5. 12 チャネル型マイクロチップによる電気泳動分析における 泳動時間および解析 DNA 濃度への影響. (A) 0、2、4、10、20、40、60 および 80 ng/μl の 237 bp. DNA 断片 1 μl に内部標準溶. 液 9 μl を加えた解析試料を 12 チャネル型マイクロチップの 8 つのチャネルに添加し 泳動分析を行った結果得られたエレクトロフェログラムを示す(試料の解析に使用し なかった 3 つのチャネルの SR には TE 緩衝液を 10 μl 添付した)。なお SR 中の DNA 最終濃度はそれぞれ、0、0.2、0.4、1、2、4、6 および 8 ng/μl である。 (B)泳動時間(秒)を横軸、DNA 鎖長(bp)を縦軸として A の結果から作成したグラフを 示す。 (C)実際の DNA 濃度を横軸、SV1210 による電気泳動分析で解析された DNA 濃度を縦 軸として A の結果から作成したグラフを示す。. 18.
(23) 2-2-3. 12 チャネル型マイクロチップを用いた ABO 式血液型の RFLP 解析. ここまでの検討により、12 チャネル型マイクロチップを用いたマイクロチッ プ電気泳動法により、再現性良く DNA の鎖長解析、定量を行うことが可能であ ることが示された。そこで、本装置を用いて ABO 式血液型の RFLP 解析を行う ことが可能であるか検討をおこなった。 はじめに、今回の解析対象である ABO 式血液型について従来法であるアガロ ースゲル電気泳動法にて遺伝子型決定を行った。ABO 式血液型の表現型が判明 しているヒトの毛髪の毛根鞘細胞から抽出したゲノム DNA を鋳型として PCR 法にて増幅した 236/237 bp および 285 bp の 2 種類の DNA 断片について、それ ぞれ 100 ng 分を 1.5 ml チューブ内で 37 ℃、1 時間の制限酵素処理を行い、その 後 4%アガロースゲルを用いて電気泳動分析後エチジウムブロマイド染色を行 った。その結果を図 2-6 に示したが、いずれの試料においても制限酵素処理を行 った結果を組み合わせることで表 2-1 に示したように遺伝子型の判定が可能で あり、それは表現型とも矛盾していなかった。試料 No.1(A 型)においては、Kpn I 及び Ban I どちらの制限酵素処理によっても SNP に由来する制限酵素認識部位 での DNA 断片の切断が見られないことから、その遺伝子型は AA と判定される。 試料 No.2(A 型)においては、236/237 bp の DNA 断片について Kpn I によって切 断される断片と切断されない断片があり、285 bp の DNA 断片について Ban I に よって SNP に由来する制限酵素認識部位での切断が見られないことから、その 遺伝子型は AO と判定される。試料 No.3(B 型)においては 236/237 bp の DNA 断 片は Kpn I により切断されず、285 bp の DNA 断片についてすべて Ban I により SNP に由来する制限酵素認識部位で切断されることから、その遺伝子型は BB と判定される。試料 No.4(B 型)においては、236/237 bp の DNA 断片について Kpn I によって切断される断片と切断されない断片があり、285 bp の DNA 断片につ いて Ban I によって SNP に由来する制限酵素認識部位で切断される断片と切断 されない断片が存在することから、その遺伝子型は BO と判定される。試料 No.5(O 型)においては、236/237 bp の DNA 断片についてすべて Kpn I によって切 断され、285 bp の DNA 断片について Ban I によって SNP に由来する制限酵素認 識部位で切断される断片と切断されない断片が存在することから、その遺伝子 型は OO と判定される。試料 No.6(AB 型)においては 236/237 bp の DNA 断片は Kpn I により切断されず、285 bp の DNA 断片について Ban I により SNP に由来. 19.
(24) する制限酵素認識部位で切断される断片と切断されない断片が存在することか ら、その遺伝子型は AB と判定される。 つづいて、これら試料 No.1-6 を用い 12 チャネル型マイクロチップを用いて、 アガロースゲル電気泳動法を用いた従来法と同等の結果が得られるかどうか検 討を行った。2-1 で述べたが Kataoka らにより、今回検討をおこなった SV1210 とは異なるが、ほぼ同じ仕組みのマイクロチップ電気泳動装置日立 SV1100 形に おいてマイクロチップの SR 中でオンチップにて DNA 制限酵素処理を行い、同 一のチャネルで複数回電気泳動分析を行うことで経時的な解析が可能であると 報告されている[25]。この報告を踏まえ、RFLP 解析の制限酵素処理前後の電気 泳動分析を同一のマイクロチップを利用して行うこととした。なお、2-2-2 の結 果より SR 中の DNA 最終濃度が 2 ng/μl 未満の領域で DNA 断片の定量性が保持 されていることから、使用する DNA 断片の量は SR 中の最終濃度が 2 ng/μl とな るように 20 ng/チャネルとした。各チャネルに制限酵素を添付する前に一度電気 泳動分析を行い、電気泳動分析終了後速やかに各 SR に制限酵素を添付し、25℃ に保たれた SV1210 内で 20 分間インキュベーション後再度電気泳動分析を行っ た結果得られたエレクトロフェログラムを図 2-7 に示す。この結果、すべての試 料において、内部標準である 10 bp および 500 bp の DNA 断片のシグナルピーク に加え、従来法のアガロースゲル電気泳動で確認できた DNA 断片に対応するシ グナルピークが明確に検出された。表 2-3、2-4 に制限酵素処理前後の鎖長解析 結果を示したが、いずれの DNA 断片についても図 2-1B に示した理論値から数 bp の誤差で結果を得ることができた。したがって、12 チャネル型マイクロチッ プを用いたマイクロチップ電気泳動法による RFLP 解析により、従来のアガロー スゲル電気泳動法と同等に ABO 式血液型の遺伝子型の判定が可能であるといえ る。なお、マイクロチップ電気泳動法を用いて同様の RFLP 解析を 3 回行い各 DNA 断片における泳動時間の相対標準偏差を求めたが、0.88-1.89%の範囲であ り再現性も得られた(データは示さない)。. 20.
(25) 図 2-6. アガロースゲル電気泳動を用いた従来法による RFLP 解析. 20 ng/μl に調製した 236/237 bp および 285 bp の DNA 断片 5 μl、70 mM MgCl2 2 μl、 GIBCO DW 4 μl、Kpn I および Ban I 1μl を 1.5 ml チューブに加え、37 ℃で 1 時間イン キュベートした。これら制限酵素処理後の DNA 断片を 4%アガロースゲル電気泳動 (100V、30 分)にて分離泳動したのち、エチジウムブロマイド染色を行った結果を示す。 この際同時に Low molecular weight DNA Laddar を DNA サイズマーカー、20 ng/μl に 調製した 236/237 bp および 285 bp の DNA 断片 5 μl、GIBCO DW 15 μl を混合した試 料を制限酵素処理前の DNA 断片として電気泳動分析を行った。なお、A は試料 No.1、 B は試料 No.2、C は試料 No.3、D は試料 No.4、E は試料 No.5、F は試料 No.6 の結果 である。図中には各バンドの DNA 鎖長を合わせて記した。. 21.
(26) 図 2-7. マイクロチップ電気泳動法を用いた RFLP 解析. 10 ng/μl に調製した 236/237 bp または 285 bp の DNA 断片 2.0 μl、70 mM MgCl2 1 μl、 GIBCO DW 4 μl、20 ng/μl 10 bp DNA 断片 1 μl、10 ng/μl 500 bp DNA 断片 1 μl を試料 とし、制限酵素処理前に泳動分析を行い得られたエレクトロフェログラムと、制限酵 素処理前の電気泳動分析終了後、Kpn I または Ban I 1 μl を SR に添付し SV1210 内で 25℃、20 分インキュベーションしたのち、直ちに電気泳動分析を行い得たエレクト ロフェログラムを試料ごとに示した。なお、A は試料 No.1、B は試料 No.2、C は試 料 No.3、D は試料 No.4、E は試料 No.5、F は試料 No.6 の結果である。図中には内部 標準由来のシグナルピークのみ鎖長を記載した。. 22.
(27) 表 2-3. マイクロチップ電気泳動による 236/237 bp の DNA 断片の Kpn I 処理前後の泳動時間および解析された DNA 断片の鎖長. 23.
(28) 表 2-4. マイクロチップ電気泳動における 285 bp の DNA 断片の Ban I 処理前後の泳動時間および解析された DNA 断片の鎖長. 24.
(29) 2-3. 考察. 本研究により、市販のマイクロチップ電気泳動装置を用いて、12 試料を同時 に RFLP 解析する方法(以下本法)を確立することができた。本法および従来法に おいては、電気泳動分析に要する DNA 断片の量は 20 ng および 200 ng(制限酵素 処理前後の泳動分析にそれぞれ 100 ng 用いる)であり、制限酵素処理条件は 25℃・20 分および 37 ℃・1 時間、泳動分析に要する時間は 7 分および 1 時間(電 気泳動 30 分+エチジウムブロマイド染色 30 分)であった。つまり、従来法と比 較して本法においては、使用する試料量は 1/5、制限酵素処理時間は 1/5、電気 泳動分析に要する時間は 1/8 と、迅速かつ省サンプルに RFLP 解析を行うことが できた。また、12 試料を同時に電気泳動分析するマイクロチップを用いること で、1 枚のマイクロチップにてすべての遺伝子型判定が可能であり、高効率に結 果を得ることができた。 今回は、塩濃度が低い条件で制限酵素処理が可能である制限酵素 Kpn I および Ban I を使用した RFLP 解析系についてマイクロチップ電気泳動法を用いること を検討した。これは、DNA 鎖のシグナルピークが高い塩濃度下で低下すること [25,27]を考慮したためである。将来、さまざま遺伝子多型解析に本法を用いるた めには、使用できる制限酵素の種類が制限されないように高い塩濃度下におい ても電気泳動分析が可能であるマイクロチップ電気泳動の条件を検討しなけれ ばならないと考えられる。 また、マイクロチップ電気泳動法を用いた RFLP 解析は既にいくつか報告がな されている[28-32]。中でも Xie ら[32]は、本法と同じく一枚のマイクロチップ上 で制限酵素処理及び DNA の電気泳動分析を行うことを報告している。しかしな がら、このマイクロチップはガラスとプラスチックの一種であるポリジメチル シロキサンという素材からなるもので、温度制御可能なヒーターを備えた反応 場、流量管理のできるポンプそしてマイクロチップ電気泳動を行う部分という 複雑な構造であり、制限酵素処理に要する時間も本法より長い 45 分を要してい る。本法は、市販のマイクロチップ電気泳動装置を用いることで、複雑な構造 を持ったマイクロチップは使用せず、泳動ゲルの充填、試料の添付を行った後 スイッチ一つで電気泳動分析を行うことができる易操作性という点で先の報告 より優れていると考えられる。制限酵素処理においても、短時間はもちろんの 25.
(30) こと、加温せず常温で処理可能であることも操作をより容易にしている。 RFLP を含む遺伝子の多様性は各種疾患における遺伝的要因となりえること から、遺伝子診断は臨床の現場で利用されるようになってきている[33-35]。迅 速、省サンプルに、多検体を同時解析可能である本法は、遺伝子診断について POCT を実現する可能性を示していると考える。. 26.
(31) 2-4. 実験方法. 2-4-1. 試薬・装置. 日立 SV1210 形マイクロチップ電気泳動装置および SV1210 ソフトウェア Ver.1.6.1 (Hitachi Chemcal Co., Tokyo, Japan) i-チップ 12(Hitachi Chemcal Co., Tokyo, Japan) i-SDNA12 キット(Hitachi Chemcal Co., Tokyo, Japan) PCR Marker (NEB, USA) Low molecular weight DNA Laddar (NEB, USA) NoLimit DNA Ladder 10bp & 500bp (Fermentas, Ontario, Canada) スマイテスト EX-R&D(Nippon Genetics Co.Ltd, Tokyo, Japan) KOD-plus- ver.2 (TOYOBO, Tokyo, Japan) プライマー(Sigma-Aldrich, Tokyo, Japan) QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN, Tokyo, Japan) Kpn I (TOYOBO, Tokyo, Japan) Ban I (TOYOBO, Tokyo, Japan) GIBCO DW (Invitrogen, USA) GTG Nusieve アガロース (TaKaRa, Kyoto, Japan) NoLimit DNA Ladder 10bp & 500bp (Fermentas, Ontario, Canada) その他試薬は市販特級品を用いた。. 2-4-2. マイクロチップ電気泳動. マイクロチップ電気泳動は、市販の日立 SV1210 形マイクロチップ電気泳動装 置、12 チャネル型マイクロチップである i-チップ 12(図 2-1D)及び 10-500 bp の DNA の分離に適した i-SDNA12 キットを用いた。SV1210 はチップリーダーであ る SV1210 本体と接続されたパソコンからなる。装置に添付されている SV1210 ソフトウェアには、マイクロチップ電気泳動条件の設定、データ解析、データ 表示の機能がある。データはゲルイメージ図とエレクトロフェログラムの形で 表示可能である。また、SV1210 における DNA 検出は蛍光色素を用いており、 赤色半導体レーザを光源とし蛍光を冷却 CCD により検出する(蛍光色素の励起 波長は 630 nm であり、測定している蛍光波長は 650 nm である)。 27.
(32) i-SDNA12 キットには蛍光色素、泳動ゲル、10 bp と 500 bp の DNA 断片を含 んだ DNA サイズ校正用の内部標準溶液が含まれる。実際の操作の流れは次のよ うである。蛍光色素を混合した泳動ゲル 20 μl をウェル G1 にピペットを用いて 添加する。続いてこの泳動ゲルを、シリンジを使用しマイクロチャネル内に充 填する。そして、ウェル G2-3 及び g1-12 はピペットを使用して蛍光色素を混 合した泳動ゲルを 20 μl 及び 10 μl 添加し、ウェル G1 にはピペットを使用して蛍 光色素を混合した泳動ゲルを追加で 5 μl 添加する。最後に SR である S1-12 に、 試料溶液 10μl を添加したのち、SV1210 にこの i-チップ 12 をセットしマイクロ チップ電気泳動を行う。泳動条件は DNA(short)モード(25 ℃、導入泳動; 導入電 圧 350 V で 120 秒、分離泳動; 分離電圧 1100 V および戻し電圧 350 V で 270 秒) で行い、スタートから 7 分で SV1210 ソフトウェアに解析結果が表示される。な お、試料溶液はキット添付の内部標準溶液 9 μl と試料 1 μl を混合し調製するこ とが一般であるが、目的によって組成を変更することも出来る。. 2-4-3. ヒト毛髪からのゲノム DNA の抽出. 1 検体あたり、毛根鞘細胞のついた約 1.5cm の毛髪を 5 本用いた。本実験では、 過去の血液検査等で ABO 式血液型が既知の No.1-6 の 6 人の毛髪よりゲノム DNA を得た。まず、毛髪を PBS buffer で洗浄した。乾燥後、1.5 ml チューブに 移し、核酸抽出キット(スマイテスト EX-R&D)を用いてゲノム DNA を抽出した。 操作法はキットの使用説明書に従ったが、過去の報告に基づいて第一段階の酵 素処理の反応時間を 6 時間、第 2 段階のタンパク溶解液による処理時間を 1 時 間とした[10]。なお、血液型は No.1、2 が A 型、No.3、4 が B 型、No.5 が O 型、 No.6 が AB 型である。また、ヒト由来の毛髪の提供にあたっては主たる実験操 作を行った、独立行政法人. 産業技術総合研究所におけるヒト由来試料実験倫. 理委員会の審査・承認を受け、提供者から書面でインフォームドコンセントを 得た。. 2-4-4. RFLP 解析に用いる DNA 断片の増幅. RFLP 解析に用いた DNA 断片は、毛髪より得たゲノム DNA を鋳型にした PCR により得た。PCR には TaKaRa PCR Thermal Cycler を用いた。O 対立遺伝子と A 対立遺伝子および B 対立遺伝子の存在を判別するため、codon 87 を含む領域を. 28.
(33) KM066(5’-プライマー)および KM067(3’-プライマー)をプライマーとして 236/237 bp の DNA 断片を PCR により得た。また B 対立遺伝子と A 対立遺伝子および O 対立遺伝子の存在を判別するため、codon 176 を含む領域を KM080(5’-プライマ ー)および KM081(3’-プライマー)をプライマーとして 285 bp の DNA 断片を PCR により得た。プライマーの配列は表 2-5 に示す。反応溶液はゲノム DNA 抽出液 2 μl、10 × Buffer for KOD –Plus- Ver.2 2.5 μl、2 mM dNTPs 2.5 μl、25 mM MgSO4 1.5 μl、プライマー(それぞれ 5 μM) 1.5 μl、KOD –Plus- Ver.2 (1 U/μl) 0.5 μl を用い、 GIBCO DW にて全量 25 μl とした。PCR 反応条件は、94 ℃で 2 min 加熱し DNA 鎖を解離したのち、94 ℃ 15 sec(熱変性)、65 ℃ 30 sec (アニーリング)、 68 ℃ 1 min(相補鎖の合成)を 1 サイクルとし、30 サイクル行った。それぞれの DNA 断 片は PCR 後の反応溶液を 4%アガロースゲル電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kit を用いてゲル精製した。精製後の DNA 断片の濃度は分光光度計 NanoDrop ND-1000(NanoDrop products, Wilmington, USA)で定量を行った。 表 2-5. PCR に用いたプライマーの配列. プライマー名. 配列. 領域. KM066. 5’-ATGTGGGTGGCACCCTGCCA-3’. 44-63. KM067. 5’-ACTCGCCACTGCCTGGGTCTC-3’. 280-261. KM080. 5’-GTGGCTTTCCTGAAGCTGTTC-3’. 1290-1310. KM081. 5’-GCCCACGTGGTCGCGGAACTC-3’. 1574-1554. 2-4-5. アガロースゲル電気泳動法(従来法)による RFLP 解析. 2-4-4 で得られた 20 ng/μl に調製した 236/237 bp および 285 bp の DNA 断片 5 μl、 70 mM MgCl2 2 μl、GIBCO DW 4 μl、Kpn I および Ban I 1μl を 1.5 ml チューブに 加え、37 ℃で 1 時間インキュベートした。この際、それぞれの制限酵素に添付 される緩衝液の代わりに 70 mM MgCl2 を用いたのは、制限酵素による DNA の切 断に Mg2+イオンが必要である[36]が、塩濃度が高いとマイクロチップ電気泳動 のシグナルピークが低下すること[25,27]を考慮し、NaCl 非存在下で処理を行う ためである。これら制限酵素処理後の DNA 断片を 4%アガロースゲル電気泳動 (100 V、30 分)にて分離泳動したのち、エチジウムブロマイド染色を行った。こ の際同時に Low molecular weight DNA Laddar を DNA サイズマーカー、20 ng/μl. 29.
(34) に調製した 236/237 bp および 285 bp の DNA 断片 5 μl、GIBCO DW 15 μl を混合 した試料を制限酵素処理前の DNA 断片として泳動分析を行った。この結果得ら れた泳動パターンより各 DNA 断片の鎖長を推定し、表 2-1 に当てはめて遺伝子 型の判定を行った。. 2-4-6. マイクロチップ電気泳動法による RFLP 解析. RFLP 解析におけるマイクロチップ電気泳動法による泳動分析は 2-4-2 の方法 に準じて行った。泳動ゲル及び蛍光色素は i-SDNA12 キットに付属したものを用 いた。RFLP 解析を行った際の試料溶液の組成は、制限酵素処理前の泳動分析時 は 10 ng/μl に調製した 236/237 bp または 285 bp の DNA 断片 2.0 μl、70 mM MgCl2 1 μl、GIBCO DW 4 μl、20 ng/μl 10 bp DNA 断片 1 μl、10 ng/μl 500 bp DNA 断片 1 μl の合計 9 μl とした。制限酵素処理前の泳動分析が完了したのち、SV1210 から 12 チャネル型マイクロチップを取り出し各 SR に制限酵素 Kpn I または Ban I 1 μl を加えピペットでおだやかに混和し試料溶液を計 10 μl とした。その後、このマ イクロチップを再度 SV1210 にセットし、SV1210 内にて 25℃で 20 分インキュ ベーション後、直ちに制限酵素処理後の泳動分析をスタートさせた。遺伝子型 の判定については解析された DNA 鎖長から、表 2-1 に当てはめて行った。. 30.
(35) 2-5. 参考文献. [1] E.S. Lander, L.M. Linton, B. Birren, C. Nusbaum, et al., Nature, 409, 861-921 (2001) [2] J.C. Venter, M.D. Adams, E.W. Myers, P.W. Li, et al., Science, 291, 1304-1351 (2001) [3] P. Bork, R. Copley, Nature, 409, 818-820 (2001) [4] C. Gridelli, F. De Marinis, M. Di Maio, D. Cortinovis, F. Cappuzzo F, T. Mok, Lung Cancer, 71, 249-257 (2011) [5] C. Zhang, W. Bao,Y. Rong, H. Yang, K. Bowers, E. Yeung, M. Kiely, Hum. Reprod. Update, 19, 376-390 (2013) [6] S.J. Lee, Front Genet., fgene.2012.00318 (2013) [7] J.S. Beckmann, M. Soller, Theor. Appl. Genet., 67, 35-43 (1983) [8] J. Sambrook, D.W. Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, third ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001) [9] J.C. Lee, J.G. Chang, J. Forensic Sci., 37, 1269–1275 (1992) [10] E. Hosoi, Jpn. J. Clin. Pathol., 43, 391–396, (1995) [11] D.F. Stroncek, R. Konz, M.E. Clay, J.P. Houchins, J. McCullough, Transfusion, 35, 231–240 (1995) [12] C. Ladd, M.T. Bourke, C.A. Scherczinger, E.M. Pagliaro, R.E. Gaensslen, H.C. Lee, J. Forensic Sci., 41, 134–137 (1996) [13] Z. Tun, K. Honda, M. Nakatome, M.N. Islam, H. Bai, Y. Ogura, H. Kuroki, M. Yamazaki, M. Terada, C.Wakasugi, J. Forensic Sci., 41, 1027–1030 (1996) [14] A. Villa, F. Drago, R. Misto, F. Molelati, F. Poli, G. Sirchia, Haematologica, 81, 492–496 (1996) [15] F. Yamamoto, H. Clausen, T. White, J. Marken, S. Hakomori, Nature, 345, 229– 233 (1990) [16] F. Yamamoto, J.Marken, T. Tsuji, T. White, H. Clausen, S. Hakomori, J. Biol. Chem., 265, 1146–1151 (1990) [17] F. Yamamoto, S. Hakomori, J. Biol. Chem., 265, 19257–19262 (1990) [18] L. Zhang, F. Dang, Y. Baba, J. Pharm. Biomed. Anal., 30, 1645–1654 (2003) [19] M. Kataoka, Y. Fukura, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 26, 3025-3031 31.
(36) (2005) [20] E. Maeda, M. Kataoka, M. Hino, K. Kajimoto, N. Kaji, M. Tokeshi, J. Kido, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 28, 2927-2933 (2007) [21] E. Maeda, M. Kataoka, S. Yatsushiro, K. Kajimoto, M. Hino, N. Kaji, M. Tokeshi, M. Bando, J. Kido, M. Ishikawa, Y. Shinohara, Y. Baba, Electrophoresis, 29, 1902-1909 (2008) [22] Y. Umemoto, M. Kataoka, S. Yatsushiro, M. Watanabe, J. Kido, R. Kakuhata, T. Yamamoto, Y. Shinohara, Y. Baba, Anal. Biochem., 388, 161-163 (2009) [23] Y. Umemoto, M. Kataoka, S. Yatsushiro, S. Yamamura, T. Ooie, J. Kido, T. Yamamoto, Y. Shinohara, Y. Baba, J. Pharm. Biomed. Anal., 52, 323-328 (2010) [24] Y. Yamaguchi, S. Yatsushiro, S. Yamamura, H. Abe, K. Abe, M. Watanabe, K. Kajimoto, Y. Shinohara, Y. Baba, M. Kataoka, Analyst, 136, 2247-2251(2011) [25] M. Kataoka, S. Inoue, K. Kajimoto, Y. Shinohara, Y. Baba, Eur. J. Biochem., 271, 2241–2247(2004) [26] J. Sigmon, L.L. Larcom, Electrophoresis, 17, 1524–1527 (1996) [27] O. Mueller, K. Hahnenberger, M. Dittmann, H. Yee, R. Dubrow, R. Nagle, D. Ilsley, Electrophoresis, 21, 128–134 (2000) [28] I. Nachamkin, N.J. Panaro, M. Li, H. Ung, P.K. Yuen, L.J. Kricka, P. Wilding, J. Clin,. Microbiol., 39, 754–757 (2001). [29] J. Qin, Z. Liu, D. Wu, N. Zhu, X. Zhou, Y. Fung, B. Lin, Electrophoresis, 26, 219– 224 (2005) [30] A. Minucci, E. Delibato, M. Castagnola, P. Concolino, F. Ameglio, C. Zuppi, B. Giardina, E. Capoluongo, J. Sep. Sci., 31, 2694–2700 (2008) [31] K.Watanabe, J. Pestic. Sci., 33, 249–260 (2008) [32] H. Xie, B. Li, R. Zhong, J. Qin, Y. Zhu, B. Lin, Electrophoresis, 29, 4956–4963 (2008) [33] D.N. Cooper, J. Schmidtke, Hum. Genet., 73, 1–11 (1986) [34] D.N. Cooper, J. Schmidtke, Hum. Genet., 92, 211–236 (1993) [35] R. Todd, R.B. Donoff, Y. Kim, D.T. Wong, J. Oral, Maxillofac. Surg., 59, 660–667 (2001) [36] K. Yoshikawa, Y. Shinohara, H. Terada, S. Kato, Biophys. Chem., 27, 251–254 (1987). 32.
(37) 第3章. マイクロチップを用いた 血中バイオマーカー測定法の確立. 3-1. 緒言. 生体内に存在する液体である体液の中で、体内をめぐる血液は生体を構成す る細胞が生きていくために重要な媒質である。この血液中には体内の各種組織 より分泌された代謝産物が多く含まれており、採血を行ってこれらの測定を行 うことで体内の状態をうかがい知ることができる。特に生体の生理的・病理的 状態を示すタンパク質などはバイオマーカーとよばれ、バイオマーカーの測定 を行うことで健康状態の把握や疾患の診断治療に役立てることが可能である [1-3]。バイオマーカーとなるタンパク質の測定時には免疫学的手法がよく用い られるが、なかでも 2 つの抗体を利用し分析対象となるタンパク質を測定する サンドイッチ ELISA 法は、その特異性の高さおよび感度のよさから頻用されて いる[4, 5]。バイオマーカー測定時は使い捨て可能なプラスチック製の 96 穴のマ イクロタイタープレート(以下単に 96 穴プレートという)を用いて行うことが多 いが、その流れを図 3-1 に示した。検出時の標識としては、西洋ワサビペルオキ シダーゼ(horseradish peroxidase; HRP)、ビオチン、蛍光標識などがよく用いられ る。サンドイッチ ELISA 法の一連の操作において、一般に捕獲抗体(以下本稿で は一次抗体と呼ぶ)、試料、標識抗体(以下本稿では二次抗体と呼ぶ)はいずれも 容量として 50 μl 程度使用する[6]。また、一次抗体、二次抗体を利用した抗原抗 体反応にそれぞれ 2 時間以上必要であることが多い。このため、サンドイッチ ELISA 法は高い特異性と感度を持ち合わせているが、結果を得るまでに時間が かかり測定に急を要する場合に適応が難しいという欠点が存在する。 POCT が注目されていることは 1-2 で触れたが、マイクロチップを利用するこ とで POCT に応用できる迅速な化学的、生物学的測定法[7-10]だけでなく、免疫 学的測定法もいくつか報告されている[11-19]。これらの測定法はマイクロチッ プを利用することで、迅速、省サンプル、高感度、簡易といった特徴を持つ。. 33.
(38) 図 3-1. サンドイッチ ELISA 法の原理. (A) 検出対象のタンパク質を認識する捕獲抗体を 96 穴プレート表面に吸着させ固定化 する。この際プレートの表面には疎水性を高めたり、親水性を高めたりする処理がな されているものを利用することが多い。 (B)試料を加え捕獲抗体と検出対象のタンパク質間の抗原抗体反応を行う。 (C)対象のタンパク質を認識する標識抗体を作用させ、捕獲抗体によりプレートに固定 化された検出対象のタンパク質との抗原抗体反応を行う。 (D)標識抗体の存在量を測定することで、抗原の存在量を知る。. また、既に報告されているマイクロチップを用いた免疫学的測定法のなかには サンドイッチ ELISA 法の原理を利用しているものも存在するが、一次抗体をマ イクロビーズに固定化したうえで、ダムのような構造を持ったマイクロチャネ ルを利用してマイクロビーズの動きを制御して行う手法である[14, 16-19]。この 場合、マイクロチャネルの構造が複雑になる欠点がある。近年、日常生活では プリンターに多用されるインクジェット技術を用いて、ナイロンメンブラン上 に抗体を吐出・固定化し、免疫学的測定を行った報告がなされている[20]。また、 電力で変形するピエゾ素子を用いて、抗体を含んだ微量な溶液を 150 μm 程度の 大きさで正確に配置できるインクジェット技術も報告されている[21]。そこでイ ンクジェット技術を用いてマイクロチャネルの特定部位に直接一次抗体溶液を 吐出・固定化することで、複雑な構造を持たないマイクロチャネル内でもサン ドイッチ ELISA 法の原理に基づいた免疫学的測定が可能になるのではないかと 考え、本研究に取り組んだ。 本研究では、次のような実験系を用いた。①サンドイッチ ELISA 法における 測定対象として、I 型プロコラーゲン C 末端ペプチド(carboxyterminal propeptide of type I procollagen または procollagen type I C-peptide: PICP)を選択した。PICP は 体内の I 型コラーゲンの合成時に生成するペプチドで、PICP の血中濃度は骨形 34.
(39) 成に関連することが知られている[22]ことから、骨粗鬆症や前立腺癌の骨転移の バイオマーカーとして臨床でも使用されている。また、既に PICP の 96 穴プレ ートを用いたサンドイッチ ELISA 法による測定系は確立、市販されている。今 回はタカラバイオ社の Procollagen type I C-peptide (PIP) EIA Kit を使用した。なお、 このサンドイッチ ELISA キットでは、一次抗体はあらかじめ 96 穴プレートの底 面に固定化された状態でキット化されており、抗原抗体反応時には図 3-1 に示し たように抗原と二次抗体は別々に作用させるのではなく同時に 96 穴プレートに 加え 37 ℃、3 時間反応を行う。マイクロチャネル内での抗原抗体反応について は、このキットと同じ一次抗体、二次抗体、抗原を利用した。②ピエゾ素子を 利用したピエゾ方式のインジェット装置としては、クラスターテクノロジー社 より販売されているパルスインジェクターを用いた。パルスインジェクターで は、ピエゾ素子にかける駆動波形、駆動電圧、繰り返し周波数を操作すること で安定した量の溶液を液滴として吐出することができる。本研究では、駆動電 圧 14 V、駆動波形 C、繰返し周波数 20 Hz、を用いて 1 滴あたり 65 pl の液滴を 吐出している。③用いたマイクロチップは、住友ベークライト社製ポリマー表 面処理済み環状ポリオレフィン製を用いた。タンパク質のアミノ基に結合する p-ニトロフェノールエステルを含んだポリマーを処理した、ポリマー表面処理後 のマイクロチップ表面には、なにも処理を行っていないマイクロチップ表面よ り効率的に抗体を固定化できる。. 35.
(40) 3-2. 結果. 3-2-1. マイクロチャネル内での抗原抗体反応による PICP の検出およびその再現性. 私の所属した研究室の過去の実験にて、住友ベークライト社のポリマー表面 処理を行ったマイクロチャネルのチャネル壁面全面に一次抗体を固定化し抗原 抗体反応を行った場合、抗原である PICP と二次抗体を混合した溶液を作用させ る時間に比例し得られる化学発光のシグナルが大きくなること、そしてその反 応時間を 30 分に短縮してもその検量線に直線性が見られることが示されている (結果は示さない)。よって、パルスインジェクターを用いて、マイクロチャネル の底面の特定位置に一次抗体溶液を吐出・固定化してマイクロチャネル内にお ける抗原抗体反応を行う場合も反応時間を 30 分として PICP の検出を行うこと とした。なお、パルスインジェクターにより一次抗体を吐出する際は、マイク ロチャネルは閉鎖した流路の形状ではなく、幅 300 μm、深さ 100 μm の開放され た溝の状態である。この溝の底面にパルスインジェクターにより一次抗体を吐 出し、アクリルシートをはり溝にふたをしてから実験操作を行う(図 3-2)。この 際、吐出する液滴数は、図 3-2 中に示すようにほぼマイクロチャネル幅の液滴と なるように 100 滴とした。 同一のマイクロチャネル内の特定の 3 か所に、100 滴ずつ一次抗体溶液を吐 出・固定化し、0、150、300、600 ng/ml の PICP を抗原として抗原抗体反応を行 った。この結果、マイクロチャネル底面の特定位置に一次抗体を吐出・固定化 した場合についても、抗原抗体反応時間を 30 分として PICP の検出が可能であ った(図 3-3A)。このときの各液滴における化学発光強度を数値化し、結果を表 3-1 に示したが、同一のマイクロチャネル内における独立した 3 点の化学発光強 度の相対標準偏差は、0、150、300、600 ng/ml の PICP についてそれぞれ 4.2、 6.0、8.1、7.5%であり、各濃度において同一のマイクロチャネル内で複数点の検 出を行うことが可能であることが示された。続いて、3 つの異なるマイクロチャ ネル間での再現性について、同様に検討を行った結果、化学発光強度の相対標 準偏差は、0、150、300、600 ng/ml の PICP についてそれぞれ 4.0、5.7、8.1、8.8% であった(表 3-2)。これより、異なるマイクロチャネル間における化学発光強度 36.
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