→ 図利用可能なエネルギー→白熱力学の展開→図非平衡現象→固熱力学から統計物理学へ
熱力学第
2法則
学習目標
・熱機関とは何かを理解する.
・カルノ}・サイクルを説明できるようになる.
‑クラウジウスの原理とトムソンの原理の意味を理解する.
.熱力学第2法則とは何かを説明できるようになる.
・カルノー機関の効率は作業物質によらないことを理解する.
.熱力学的絶対温度とは何かを理解する.
熱力学第2法則を議論する前に ます熱機関のはたらきを考えてみよう.熱 機関とは高温の熱源*と低温の熱源の聞で作動しこの温度差を使って有用な仕 事を循環過程(サイクル)で取り出そうとする機関である 火力発電所は典型的 な熱機関であり,原子力発電所でも初めのエネルギー源はウランなどの原子核 に宿るエネルギーではあるが,最終段階の発電の直前は熱機関である また,昔 なつかしい蒸気機関車は熱機関そのものである さらに,日常的に使っている 冷蔵庫やエアコンは,熱機関に外から仕事を加えてそれを逆向きに運転し,周囲 との温度差をつけている
このように,熱機関は産業的な面だけでなく,私たちの日常生活にとっても重 要な役割を果している したがって,熱機関が原理的にどのようにできていて,
その効率にはどんな制限があるかは科学的な興昧だけでなく,社会的にも重大 な意味がある。本章ではこの問題を前章で詳しく考察した熱力学第1法則(エ ネルギ一保存則)を基礎にして議論する.このことから熱現象の本質が見えて くるので、あって,それをまとめたのが熱力学第2法則である また,そこから工 ントロビーという概念が自然に導入されることになる
* 熱i原とは熱浴ともいい。考える系に比べて非常に大きく。温度が一定で.それとの接 触によって系へ熱の11¥入りがあっても温度が変化しないような物体をいう
『物理学講義熱力学~ (松下 貢 著/裳華房)
カルノー・サイクル
水力発電で、は滝のように落ちる水の落差の位置エネルギーを運動エネル ギーに,さらにそれをタービンの回転に変えて,それに連動した発電機から 電力として有用な仕事を取り出している.ところが 温度差がある二つの物 体を単にくっ付けると,熱エネルギーが熱流として単純に高温側から低温側 に流れるだけである.これは熱エネルギーの散逸とよばれ,温度差があって 熱流が生じるような熱平衡にない状況(非平衡状態という)ではいつでも熱 エネルギーの散逸が起こる このような場合には折角の温度差も有用な仕事
として外に取り出すことができない.
なぜ熱流の場合は水流と同じように簡単に仕事が取り出せないのかと疑問 に思うかもしれない.実は,そこに熱の本性が潜んで、いるのである.水の場 合にはそれが全体として一方向に流れるので¥タービンや水車を回して容易 に仕事を取り出すことができる.ところが,熱流では流れといっても実際に ものが流れているわけではないので,熱流そのもので直接タービンや水車を 回すことができない 温度差から有用な仕事を引き出すにはそれなりの工夫 が必要なのである
熱機関とは高温熱源と低温熱源を結び付け,その間の温度差という熱エネ ルギーの落差を熱力学的な循環過程を通して有用な仕事に換え,それを外に 取り出そうとする装置である 水力発電の場合には水を流すだけでよかった が,熱機関では温度差に従って単に熱を流すだけでは熱エネルギーの散逸が 起きてしまう.この無駄な散逸を押さえつつ.1サイクルののちには元の状 態に戻るような装置の工夫が必要である.このような問題を解決しようとし て,これまでワットの蒸気機関とかデイーゼルエンジンなどの熱機関が考案 されてきたそして,それらのすべてに共通する原理を詳しく考察したのが カルノー (1824年)であり その努力によって熱の本性が明らかとなってき たのである
熱機関にとって致命的に無駄な熱エネルギーの散逸は,接触している物体 の聞の温度差によって起こる.それならば,熱機関をその作動サイクルの途 中で祖度差を限りなく小さくして,準静的過程で運転すればいいのではない か.準静的に運転すると運転時聞が非常に長くなるが,ここではまず熱エネ ルギーの散逸を限りなく小さくした理想的な熱機関を考え,その効率を考察 してみよう.このような熱機関は熱エネルギーの散逸という無駄がないの でに最大の効率をもっと考えられる しかもこの熱機関は準静的過程で運転
されるので,逆向き運転も可能な可逆機関でもある
前章の例題5では理想気体は断熱過程で自身の温度を下げることによっ て,また,例題6では等温過程で外から熱を吸収することによって,外に仕 事をすることができることを示した 特に等温過程の結果は,温度差がなく ても理想気体の体積を変えることによって熱を移動させることが可能である
ことを意味している.しかし 別に理想気体でなくても.断熱過程や等温過 程で物質の体積を変えることができる したがって,熱機関の作業物質を理 想気体に限定する必要はない.前章の終りで理想気体を例に取り上げたの は,計算が簡単だからにすぎない.実際,冷蔵庫の作業物質に理想気体が使 わ れ て い る わ け で は な
し、
カルノーの基本的なア イデアは熱機関の作業物 質を熱力学的な系と見な し,医13.10に示したよ うな等温過程と断熱過程 を区14.1のように4段階 の循環過程(サイクル.
A→B → C →D →A のような1周過程)に組
p
V
図4.1 p‑V!g;!でのカルノー・サイクル
み合せて,循環的に系(作業物質)の体積を変えることにある.こうして,
高温熱源の需品を作業物質を介して低温熱源に準静的にゆっくりと移動させる とともに,外に仕事を取り出すのである.このような循環過程を,考案者の 名にちなんでカルノー (Carnot)・サイクルという.
前章では系が外にする仕事を w'として 外からされる仕事と区別した しかしそうすると今後の議論がかえって煩雑になるので,今後は系が1サ イクルの聞に外にする仕事を W と記すことにしよう目すると.wは (3.7) より
w=
f :
pdV (4.1)と表される ここでぷは指定された経路を l周だけくるりと積分する記号で あり,ここでは図4.1のカルノー・サイクルを,例えば点Aから出発して A→B →C → D →Aのようにl周積分することを表す.
以下に,カルノーの熱機関(以後,カルノー機 関と書く)の1サイクルを4段階に分けて見てみ よう 図4.2のような,ピストン付きのシリン ダーがあり,その中に適当な作業物質が閉じ込め られているとする.前に記したように,この作業 物質は理想、気体である必要はない.この装置のピ ストン壁に対向するシリンダー壁だけは熱をよく 通す透熱壁でできており,ピストンやシリンダー の他の部分の壁はすべて熱を通さない断熱壁でで
きているものとする.
ピストン
熱断 壁
図 4.2 シリンダーとピス トンから成る熱機関
(1) 第1段階:高温熱源との接触による等温膨張
図4.3のように,シリンダーの透熱壁を温度 Tjの高温熱源に接触させ,
シリンダー内の作業物質を温度 Tjのままでゆっくりと準静的に等温膨張さ せる.このとき,作業物質は高温熱源から熱量Qjを吸収し,外部に仕事w;
低調肌熱源乃
断然体
円相高温熱源れ
第l段階 図 4.3
この第l段階で状態 A 図4.1に示した作業物質のP‑VI豆│では,
をする.
(温度 T" 体積 VA• 圧力 PA) から状態 B (温度 T" 体積 VB• 圧力 PB) に移
V
J u
p f
山l
眠
W1は このとき,
行する
(4.2)
と表される.上式の右辺は,図4.1で状態Aから状態Bまで、等温曲線に沿っ
w;はAからBまでの等温曲娘と したカ古って,
て積分することを意味する
これは (4.1)で 横ililh(V軸)の聞の VAから VBまでで固まれた面積である.
表される仕事の第I段階の部分である
この第1段階で作業物質 作業物質がn[molJの理想気体の場合に,
問 題 E
このとき,作業物質が高温熱源から受け取る また,
が外にする仕事 W1を求めよ 熱量Qlを求めよ.
第2段階:断熱体との接触による断熱膨張
( 2 )
図4.4のようにシリンダー内の作業物質はすっかり断熱体に囲 したがって,
まれているので,作業物質への熱の出入りはない (dQ= 0). このとき,
低温熱源む 高温熱源れ
第2段階
図 4.4
その内部エネル 作業物質が膨張してピストンを介して外に仕事をする限り,
ギーが失われ,温度が下がる.そこで,作業物質の温度が高温熱源の温度T1
ゆっくりと準静的に断熱膨脹させる.
から低混熱源の温度 T2になるまで,
図4.1ではこの段階で この段階で作業物質が外になした仕事を W2とする.
このとき ,W2は 状態Bから状態c(温度 T2,体積Vc,圧力Pc)に移行する.
院 =
l c ̲
PdV (4.3)と表され,右辺は図4.1で状態Bから状態Cまで、断熱曲線に沿って積分す ることを意味するしたがって , W2 は B から C までの断熱曲線と横~ítll(V ~llJ) で表される仕 これは (4.1)
の聞の V日から Vcまでで固まれた面積である 事の第2段階の部分である.
この 作業物質がn[moJ]の理想気体(定結熱容量 :Gv)のときに,
問 題 2
第2段階で外にする仕事,wを求めよ.
作業物質が理想気体のとき,この第2段階の初めの体積 VBと終り の 体 積 九 が れ=(T,!T2)
仕
T凡を満たすことを示せ.問 題 3
第3段階:低温熱源との接触による等温圧縮 ( 3 )
シリンダーの透熱壁を温度 T2の低温熱源に接触して作 図4.5のように,
業物質の温度を T2(< T1)に保ち,ゆっくりと準静的にピストンを押して等 そ温度一定の作業物質が外から仕事をされるので,
このとき,
温圧縮する.
この第3段階は状 医14.1では,
れは過剰な熱量 Q2を低温熱源に放出する
圧力Po)に移行する.ただ,系がlサ 態Cから状態D(温度 T2• 体積 Vo•
イクルの聞に外にする仕事を (4.1)のように表したので,この段階でも系が 外にする仕事として W,とおく.
ハ叫低調伽熱源乃
高 断熱体 温 熱 源 引
第3段階
図4.5
夙 = ム
pdVすると W3は
(4.4) この右辺は図 4.1で状態 Cから状態Dまで、等温曲線に沿って積 と表され,
これは (4.1)で表される仕事の第 3段階の部分であ 分することを意味する
こ~"tは
W, < 0である.
る 上式では Vの積分が負の向きになされるので,
その絶対値IW31は の問の Vo;から Vとまでで
また, されることを表す.
図 4.1の D から C までの等温曲線と横車111(V ~jIH) 系が仕事をするのではなくて,
固まれた面積である.
この第3段階で外にする仕 作業物質がn[molJの理想気体のとき,
問 題4
作業物質が低温熱源に このとき,
それが負であることを確かめよ 事w;を求め,
出す熱量Q2を求めよ.
第4段階:断熱体との接触による断熱圧縮 (4 )
ピストンを押し シリンダーの透熱壁を断熱体と接触し
図4.6のように,
このとき,作業物質は周囲が断熱壁で固まれており,
て作業物質を圧縮する.
外からの圧縮でなされた仕事は熱として外に逃げることはできないので温度 が上がることになる.そこで作業物質の温度が高温熱源の温度 T1になるま
この段階は状態Dから 図4.1では,
ゆっくりと準静的に断熱圧縮する.
で
この場合も第3段階と同様に,形式的に系が外に仕事 状態Aに移行する.
W4をしたと見なそう
(4.5)
m=jLApdV
すると w;は
低 温 熱 源 九
断熱体
高 温 熱 源 引
第4段 階 図4.6
と表され,右辺は医14.1で状態Dから状態Aまで、断熱曲線に沿って積分す ることを意味する.これは (4.1)で表される仕事の第 4段階の部分である.
やはり上式で V による積分が負の向きになされるので • W4<0である. こ れは系が仕事をするのではなくて,されることを意味する.また,その絶対 値lW,dは図4.1のAから Dまでの断熱曲線と横軸 (V軸)の聞の VAから
VDまでで囲まれた面積である
問 題 5 作業物質がJZ[moJ]の理想気体(定積熱容量GII) のとき,この第4 段階で作業物質が外にする仕事 W,を求め,それが負であることを確かめよ.
問 題 6 作業物質が理想気体のとき,この第4段階の初めの体積VDと終り の体積 VAがVo= (T,!T2)
三 丁
VAを満たすことを示せ.以上で作業物質の状態は出発点の状態Aに戻り,熱機関としてはlサイ
クルが終了したことになるーもちろん,第 4段階において作業物質の断熱圧 縮で状態Dからちょうど元の状態Aに至るには 状態Dの位置の調整が必 要である. しかしこれは単なる技術的な問題である.重要なことは,この
カルノー・サイクルの中の等温過程で、は温度差をつけないし,断熱過程では 温度差の原因である熱源との接触を断っているので 系と熱源との聞に直接 温度差がつくようなことはどの段階でも全くないことである.その上• 1サ イクルのすべての過程で系としての作業物質の状態変化が準静的になされて いるので,系内での非平衡状態による無駄な熱の発生もない.
結局,カルノー・サイクルでは高温熱源から受け取った熱の無駄使いが一 切ない.この意味で,以上のカルノー機関は効率が最大の理想的な熱機関と 見なされる.それでは,カルノー機関の効率は100%であろうか目それが次 節からの問題である.
カルノー・サイクルの考察
カルノー機関のlサイクルを熱力学第l法則によって考察してみよう.い ま,ある系が外から受け取る熱エネルギーを LlQ. 外からなされる仕事ーを LlWとすると,エネルギーの保存を主張する熱力学第l法則により,系の内 部エネルギーの増加LlE は
LlE = LlQ十LlW (4.6) と表される.
ところが,カルノー・サイクルでは系としての作業物質の状態はlサイク ルの後に正確に元の状態に戻っていて,内部エネルギーの変化はなく,
LlE = 0 (4.7) である.また,前節で詳しく議論し図4.1にも示しであるように,作業物質 は第l段階の等温膨張過程で、高温熱源から熱量QIを受け取り,第3段階の 等温圧縮過程で低温熱源に熱量Q2を出している.残る第2と第4の段階は 断熱過程なので熱の出入りはない. したがって,系としての作業物質がlサ イクルの問に外から得る熱量LlQは
LlQ = QI ‑ Q2 (4.8)
と表される
他方.1サイクルの聞に系が外にする仕事は(4.1)より Wとしたので,系 が外からされる仕事LlWは
LlW= ‑ W (4.9)
である.さらに.(4.1)の右辺の積分は各段階の積分の和
jpdV= λ1
一
‑ sPdV + l‑cp dV + l‑c 一 ‑ . 一>‑A
で表され,上式の右辺のそれぞれの積分が (4.2)~ (4.5)より r,y;(i = 1 ~4) なので,系がlサイクルの聞に外にする仕事Wは
W=防T1+ W2十 P九十 防ぐl (4.10)
である.
問 題 7 作業物質がn[moJ]の理想気体のとき, Vs/九 =VclVoが成り立つ ことを示せ.
問 題 8 作業物質がn[moJ]の理想気体のとき, (4.10)のWを求めよ 問 題 9 作業物質が1サイクルの問に外にする仕事 W は図4.1における lサイクルA→B→C →D →Aの曲線が囲む面積に等しいことを示せ.
以上により, (4. 7) ~(4.9) を (4.6) に代入すると,系としての作業物質 がlサイクルの聞に外にする仕事Wは
w= Ql ‑Q2 (4.11) と表される.これは, 1サイクルの終了時には系の状態がすっかり元の状態 に戻っているので,その作業物質が1サイクルの聞に熱源から得た実質的な 熱エネルギー(Ql‑ Q2)の分だけ外に仕事をすることを表している
今後の議論のために,カルノー機関 のlサイクルを医14.7のような簡111告図 で示すことにする ここで上部の Tl
は温度 Tlの高温熱源を,カルノーの 頭文字をとったCは作業物質を含ん だシリンダーとピストンの部分を,下 部の T2は温度T2の低温熱源を表す.
図 の 矢 印 は 熱 や 仕 事 の 形 で の エ ネ ル ギーの収支を示しているので, この図 から熱力学第l法則(エネルギー保存 則)を表す (4.11) は明らかであろう
Tl
T2 図4.7 カルノー機関
前にも記したように,カルノー機関は可逆機関なので,これまでとは逆向 きに運転することもできる.図4.1での逆運転は,これまでのA→B→C
→D →Aの代りに,例えばD→C →B →A→Dと運転してlサイクルと
なる.すると Iサイクルの聞のすべての段階で熱と仕事のやり取りが逆転す るので,作業物質は外からの仕事Wによって低温熱源から熱量Q2を汲み取
り,高温熱源に熱量Q]を出す.このとき,エネルギー保存則から
w= Q] ‑ Q2 (4.12) が成り立つ.熱と仕事のやり取りが逆になっただけなので.(4.11)と全く同
じ式が成り立つのは当然であろう また,カルノー機関の逆運転のlサ イクルを図示すると図4.8となる.こ のとき,カルノー機関は外からの仕事 Wを使って低温熱源から熱量Q2を汲 み上げ,高温熱源に熱量Q]を吐き出 しているので, これは熱(ヒート)ポ ンプと見なされる.本来,熱は高温物 体 か ら 低 温 物 体 に 流 れ る の で あ る か ら,このようなポンプを運転するには,
この機関に外から仕事をしなければな
Tj
W=Q]‑Q2
T2
図4.8 カルノー機関の逆運転
らない回日常的に使っている冷蔵庫やエアコンは熱ポンプであって,例えば 冷蔵庫では,電力(外からの仕事に相当)を消費することによって,庫内か ら外に熱エネルギーをはき出して庫内の低温状態を維持しているのである.
問 題 10エアコンの場合の熱と仕事のやり取りはどうか 夏の冷房と冬の暖 房に分けて考えてみよ
カルノー機関の効率(1)
熱機関の効率は,その熱機関が外から取り入れた熱Qを使って有効な仕 事 W を外に取り出すときの変換率
η w
Q (4.13) として定義される すると,カルノー機関ではQ =Qlであり, (4.11)より
w= Ql ‑Q2なので,カルノー機関の効率ηcは
ηc = 1ーま
と表される.
このとき,もし図4.9のように{民j且 熱源に紫LをJ舎でなけオ1..!i',Q2 = 0で あり, ηc= 1となる.これは吸収した 熱がすべて仕事として利用できること を意味する.実際,理想、気体の等温過 程では内部エネルギーの変化がなくて /:::"E=Oであり,(3.50)より Q =W
: Q2=0
主
(4.14)
T1
T2
である.これは吸収した熱がすべて仕 図4.9効率100%の熱機関は不可能 事になることを意味 し こ の 過 程 だ け
の効率は 100%である.しかしこれは図4.1でいうと,状態AからBへの 変化だけに相当し,図4.3で言えば,ピストンが上がるだけである 熱機関 として引き続き仕事を取り出すためには,ピストンを下げる工夫をしなけれ ばならない.ところが等温過程だけでは 前に得た仕事Wを全部使っても との状態Aに戻らなければならない.これでは何もしたことにならない.
別の言い方をすると,水流があればそれを使って回転し仕事をするタービン または水車を作ることは簡単である.しかし温度が一定のままで熱流が あっても,それで一方向に回転し続けるタービンまたは 熱車"なるものは 作ることができないのである.
以上のように,等温過程だけでは決して熱機関としてのサイクルは作れず,
有効な仕事を取り出すことはできない.カルノー機関ではこれを克服するた
めに,高温で、の等i1ut膨張過程で、は作業物質が外から大きな熱を吸収して大き な 仕 事 を し 低 温 で の 等j血圧縮過程で外から小さな仕事をされて小さな熱を 吐き出すことで仕事量の差を作る.そして これら両過程を断熱過程で熱の 出入りを断って作業物質の温度を上げ下げしてつなぎ, 全体として循環過程 (サイクル)にしているのである.
ともかく,経験的な事実と して,どのような熱機関でも低温熱源に熱を捨 てることは避けられないのである.すなわち ,Q2手Oなのでηc< 1であり,
無駄使いである熱の散逸を一切なくしたカルノー機関でもその効率は 100%
にはなり得ない また,水力発電の場合と違って 熱機関ではなぜ循環過程 (サイクル)にしなければならないかもわかってきたであろう.
出力 1kWのディーゼル ・エンジンがある.燃料の重油の燃焼による 発熱量は42X 103 kJ/kgであるとしよう.このエンジンを 1時間運転 したところ,重油の消費量は0.25kgであった.このエンジンの効率は いくらか
回
出力 1kWのエンジンの1時間の仕事量WはW= 1 x W [Wh] = 1 x 103 [J/S] x 3.6 x 103 [s] = 3.6 x 106 [J] = 3.6 X 103 [kJJ.エンジンを1時間 運転したときの重油の消費量が0.25kgなので,その燃焼熱QはQ= 42 X 103[kJ/kg] x 0.25 [kg] = 10.5 X 103 [k]] よって, このエンジンの効率ηは W 3.6
η ....e!.... ~ 0.34 Q 10.5 となる
熱力学第2法則
前節の議論で最も重要なのは,低温熱源に捨てる熱量Q2をゼロにできな いことである し か し 仏=0としても熱力学第l法則と矛盾するわけで
はない.ここに,熱がからむ現象と力学的 電磁気的現象との本質的な違い がある.力学や電磁気学では一つの現象が可能なら,その逆向きの現象も可 能である.ところが,熱は高温物体から低温物体に流れるが,その逆は自然 には起きない このことが効いているのである 言い換えると,熱現象の世 界ではエネルギー保存則である熱力学第l法則の他に,熱に固有な別の独立 な原理があるはずで、,それがこれから議論する熱力学第2法則である.
クラウジウスは熱の流れの不可逆性あるいは一方向性が熱的現象の本質で あるとして次のようにまとめた (1850年):
「他に何の変化を残すこともなく,熱を低温の物体から高温 の物体に移すことはできない.J
これを熱力学第2法則,あるいはクラウジウス (Clausius)の原理という.
これは図 4.8を見れば明らかであろう 熱を低温熱源から汲み出して高温熱 源に移すためには,どうしてもカルノー機関に仕事を与えて逆運転しなけれ ばならない.そのためにはエアコンや冷蔵庫のように電力などのエネルギー を供給せざるを得ず,他に何らかの変化を必ず残すことになる.それに対し て,高温物体から低温物体への熱の流れは,金属などの熱伝導体をつなげば ごく自然に起こる.クラウジウスの原理は,熱が高温から低温へ移る現象は 不可逆であるという私たちの日常経験を原理として認めたことを意味する.
これに対して, トムソン(後のケルビン出111)はこの熱の移動の不可逆性を 力学的に導こうとして果たせず,やはり熱の不可逆性を原理として認め,次 のように表現した (1851年):
「一つだけの熱源を利用して,その熱源から熱を取り入れ,
それを全部仕事に変えるような熱機関はあり得ない.J
これを 卜ムソン (Thomson)の原理という.このとき,もう一つの熱源がな いので,ちょうど図4.9の場合に相当する.すなわち, トムソンの原理はカ ルノー機関でQ2= 0にはできないと宣言している ちょっと前にも注意し たように,理想、気体の等温膨張を使えば,吸収した熱をすべて仕事にできる
しかしこれだけではサイクルにできず,元に戻るためには前に得た仕事を 全部そのまま使わなければならない.
トムソンの原理を破るような熱機関を考えてみよう この機関を船に積み 込めば,一つだけの熱源である海からほとんど無限の熱をくみ取って運転で きるし飛行機に利用すれば,やはり一つの熱源としての大気からほとんど 無尽蔵の熱を吸収して飛行できることになる このような熱機関を第2種永 久機関という.これはエネルギ一保存則を破るようなとんでもない第1種永 久機関と違って,熱現象の不可逆性に関わる機関である. トムソンの原理は こんな都合のよい第2種永久機関は不可能であることを宣言している.
クラウジウスの原理とトムソンの原理は, ともに熱の流れの不可逆性を表 現している目したがって,両者は密接に関係しているはずである.実際,両 者は等価であることが示される.これは重要なことではあるが,これからの 議論にはあまり関係しないので,興味ある読者のためにその証明を付録A に与えておくことにする.
カルノーの第
1定理
4.3節まででカルノー機関の効率は 1(100%)より小さいことを示した目 それでは図4.2‑4.6に示したシリンダーとピストンの中に閉じ込める作業 物質として,何を使うのが最適で、あろうか.実は
「与えられた温度をもっ高温熱源と低温熱源の間ではたらく どのようなカルノー機関でも,その効率はすべて等しく,作業 物質の種類によらない」
ことが示される.これをカルノーの第1定理といい,これからの議論に重要 なので詳しく説明しよう
いま,図4.10のように,作業物質の異なる二つのカルノー機関C.c'を, 熱
i
原を共有して結合する.このとき,機関Cから得られる仕事 w=Q, ‑Q2を利用して,機関Cを逆運転する.C' もカルノー機関なので,逆運転しでも
w= QI' ‑Q2'で あ る す な わ ち , この結合機関C +C'のlサイクルの 運転の結果は熱力学第1法則(エネル ギー保存則)より
Q/ ‑QI = Q{ ‑ Q2
(4.15) 図4.10
T1
T2
であり,この他には何の変化もなく,完全に元の状態に戻る. しかし,これ だけでは上式がゼロとなるかどうかはわからない.そこで次のような議論を してみる.
( i ) まず.QI' ‑Ql = Q2' ‑ Q2 > 0であると仮定する.このとき図 4.10より,結合機関 C十C'は低温熱源から熱Q{‑ Q2 (>0)を汲み出し,
高温熱源に Q/‑QI (>0)を放出することになり,他に何の変化も残さな い.これは明らかにクラウジウスの原理に反しているので,
QI' ‑QI = Q{ ‑ Q2 ~五 O
でなければならない.
( u ) 次に.QI' ‑QI = Q{ ‑ Q2
<0と仮定しよう.このとき,結合機
関C+C'を図 4.11のように運転す る.これは図4.10とはちょうど逆運 転である.この場合も lサイクルの運 転の結果,低温熱源から高温熱源に一 方的にQI‑QI' = Q2 ‑Q2' (>0)だ けの熱カ汗庇hることになり,クラウジ ウスの原理に反する
T1
T2 図 4.11
以上によって,結局
Q/ ‑Ql = Q' ‑z Q2 = 0 でしかあり得ない こうして図 4.10,4.11で
Ql = Q/, Q2 = Q z' が成り立つことが示された
ところで,カルノー機関C,c'の効率ηc,ηcはそれぞれ W 唱 Q2 W 司 Q'z
η 一一一C= Q;"= l ‑I一一一Q;"' ηC' = Q/ = 11 ‑一 一 ‑Ql'
なので, (4.16) より
ηc‑ηC'
(4.16)
(4.17) となる これは同じ熱源問で作動するカルノー機関は作業物質によらず同じ 効率をもつことを意味している.ところが熱源は温度だけで指定されるの で,このことはまた,カルノー機関の効率は高温熱源の温度T1と低温熱源 の温度れだけで決まることを意味する・
ηC‑ηc(T1, T2) (4.18) これはカルノーの第l定理の数式による表現である.
カルノー機関の効率 (2)
ここでは特に,作業物質として理想気体を使った場合のカルノー機関の効 率を考えてみよう.このとき,機関がlサイクルの聞に外にする仕事 Wは 問題8より
w= nR(T1 ‑T:
山与
VA
であり,高温熱源から受け取る熱量Qlは問題Iより
Ql=眠 =nRT1ln
与
VA
(4.19)
(4.20)
である. したがって,その効率ηcは. (4.13)より
η畑想、気休)= 1
一 塁
(4.21)で与えられる.これは維かに温度だけの関数であり,作業物質として理想気 体を使った場合の (4.18) の具体的な表現である
ところで,前節のカルノーの第l定理によれば,カルノー機関の効率は作 業物質として何を使うかによらず 熱源の温度だ、けで、決まる.つまり,かつ て冷蔵庫のコンプレッサの中で使われていたフロンを作業物質としてカル ノー機関を運転しでも,熱源が同じであれば理想気体の場合と同じ効率 (4.21)をもっ こうして,カルノー機関の効率は作業物質に無関係に
ηc = 1
一 芸
(4目22)で与えられる. (4.2 1)での温度 T1• T2は理想気体の温度として計算された のであるが,実際には,それぞれ高温熱源,低温熱源に接触した理想気体の 温度であり,その意味で,理想、気体の温度というより熱源の温度なのである
問 題 11 lOOoCで沸騰している水を高温熱源に,200Cの水を低i1iit熱源、とするカ ルノー機関の効率を求めよ
ある燃料1kg当りの燃焼による発熱量をq[kJ/kg]とする この燃 料の燃焼によって高温熱源の温度を T1に保ち,低jRt熱j原の温度を T2と するカルノー機関を運転する このとき• M [kg]の燃料から得られる 仕事 W [kj]と低温熱源に放出する熱量Q2[kj]を求めよ
回
燃料M[kg]の燃焼によって得られる発熱量的[kJ]が高温熱源の加支を 保つのに使われるので,これが高温熱源が出す熱量 Ql[kJ]であるQl =Mq
熱機関の効率の定義 (4.13) とカルノー機関の効率 (4.22) より,
W W T, T " ,( T,¥
一
Ql一
= 一 一
Mq =1 ーへT1' ・. W =1¥i1 ーニTム1J) Mq 低j血熱源、に出す熱量Q2は (4.11)よりれMn Q, = Ql ‑W = ~ 'i
プ
ちなみに,石炭と灯油の発熱量qはそれぞれ.(20‑35) X 103 [kJ/kgJ. (44‑47)
X 103 [kJ/kgJである.
問題ロ灯油を燃やして高温熱源の温度を3000Cに保ち,低温熱源の温度を 200Cとするカルノー機関がある.この機関の効率を求めよ.また,灯油を10kg燃 やしたときに高j鼠熱源が出す熱量Ql. 得られる仕事 W と低温熱源に出す熱量 Q,
を求めよただし,灯油の1kg当りの燃焼による発熱量を45X 103 [kJ/kgJとする.
問 題 13低jRL熱iJJllのj毘度がOoCで,効率15%のカルノー機関の高温熱源のj毘 度を求めよーまた,効率を2倍にするためには高j昆熱源のj鼠度をいくらにすればよ いか.
熱力学的絶対温度
カルノーの第1定理によれば,カルノー機関の効率は作業物質によらず,
熱源の温度だけで、決まるということであった これは言い換えると,作業物 質に無関係な,普遍的な温度スケールがカルノー機関によって決められると いうことでもある カルノー機関の効率によって決定される,このような温 度を熱力学的絶対温度という
それでは,この熱力学的絶対温度を具体的にはどのように決めたらよいで あろうか.ここでもカルノーの第l定理をよりどころにして,理想気体をす べての作業物質の代表に使えばよい.なにしろ,理想、気体はその熱力学的な 性質が古くからよく知られており,すべての物質の基準となるような物質な の だ か ら 理 想 気 体 の 温 度 はl気圧の下でフkと氷が共存する温度(摂氏温度 のOOC)と,同じく l気圧の下でフkが沸騰する温度 (摂氏温度lOOOC)の聞を
摂氏温度と同じく 100等分する目盛りをもち,状態、方程式pV=nRTを満 たすように決められる.このとき • T = 0と な る 温 度 は 摂 氏 目 盛 り で
‑273.15 Ocであることが知られている.
こうして熱力学的絶対温度 Tとして,理想気体の温度 Tを 採 用 し 単 位 としてK(ケルビン)とおく. したがって,摂氏温度Oocと1000Cは絶対温度 ではそれぞれ273.15K.373.15Kに当り,絶対温度 T[K]と摂氏温度t[oC]
の聞には
T = t + 273.15 (4.23) という関係が成り立つ.
まとめとポイントチェック
本章ではカルノー・サイクルを詳しく考察し それを使った熱機関として のカルノー機関の性質や特徴を調べた.結果として,カルノー機関の効率は 作業物質として何を使うかによらないことがわかった点が重要である
また,熱力学第2法則としてのクラウジウスの原理やトムソンの原理は日 常的な経験事実としての熱の振舞いを熱力学の基礎に据えたものであること
を学んだ.
ポイントチェック
ロ
カルノー・サイクルの各過程での熱と仕事の出入りがわかった.ロ
カルノー機関は図4.7で表されることが理解できた.白 熱機関は循環過程(サイクル)にしなければならないことがわかった.