東京都 23 区におけるひったくりの発生と居住地区の特性との関係
牟田浩二・酒井嘉昭
The Relationship between Snatching and Geodemographics of Neighbourhoods in Tokyo Wards Koji MUTA and Yoshiaki SAKAI
Abstract: This study considers the relationship between snatching and Geodemographics of neighbourhoods in Tokyo Wards. The CAMEO Japan by GMAP Consulting, UK are used as Geodemographics of neighbourhoods. Snatching occurs highly in wealthy neighbourhoods.
Keywords:ひったくり(snatching),ジオデモグラフィックス(Geodemographics),
発生指数(occurrence index),居住地区(neighbourhoods)
1. 研究の目的
犯罪が発生する要因しては,従来,犯罪者自身の 心理的・精神的な要因(性格など)と劣悪な環境な どがあげられ,それらが犯罪に走る原因とする「犯 罪原因論」が主流であった(小宮,2006).しかし,
同じような環境にある人が誰しも犯罪に走るわけで はない.そこで,犯罪の機会を与えないことによっ て,犯罪を未然に防止することを考える「犯罪機会 論」が注目されるようになった.犯罪機会の中でも 近年,「場所」が犯罪と関係しているのではないかと いう視点が高まってきており,「場所」が非常に大き な要因となっているのではないかとの意見もでてき ている.
犯罪と場所との関係を分析した研究では,駅,道 路などの交通ネットワーク(大川,2005),スーパ ーマーケット,コンビニエンスストア,金融機関な どの都市施設,住宅地,工業地域,農地,公園など
牟田:〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 日本大学文理学部地理学科 関根研究室
E-mail:[email protected]
の土地利用などを場所として取り上げている(市 村・岡部,2005)
しかし,駅やスーパーにおいても発生する場所と しない場所があり,この違いは交通ネットワーク,
都市施設,土地利用などの場所以外に,場所に居住 する,すなわち居住地区の住民の属性によっても影 響していると考えられる.そこで本研究では,住民 の属性から分類した居住地区(ジオデモグラフィッ クス)と犯罪との関係を明らかにする.
犯罪には,さまざまな種類が存在するが,本研究 では,窃盗罪にあたる「ひったくり」を選定した.
ひったくりは,特に20〜22 時ごろに多発し,被害 者は,男性が5.1%に対し,女性が94.9%と圧倒的 に女性の被害者が多い(警視庁,2004a).このこと からも,通勤・通学の外出先ではなく,帰宅時や買 い物時などの居住地区に近いところで発生している と考えられる.そのため,居住地区と犯罪の発生と の関係をみるにはひったくりが有効であると考えた.
2. 研究の方法 2.1 研究地域の選定
ひったくりがどのような居住地区で発生しやすい のかを明らかにするためには,地域を絞って研究す ると,様々なタイプの居住地区が含まれず地域内に 変化がなく犯罪の発生要因を得ることができない.
そのため,広い範囲の地域で研究する必要があると 考えた.
そこで,多くの人々が居住しており,交通機関に 沿って様々なタイプの居住地区が存在し,都心部か ら放射状に交通機関が発達している東京都 23 区を 研究地域として選定した.
2.2 使用データ
本研究では,東京都 23 区の町丁目を居住地区と した.東京都23区における町丁目の総数は,3,138 町丁目である.これらの町丁目をいくつかのタイプ に分類するために,英国GMAP コンサルティング 社のジオデモグラフィックスCAMEO Japan(以下,
CAMEO)を用いた.CAMEOでは,大字・町丁目
単位で日本全国をライフスタイル,ライフステージ から地域分類し,コード化(CAMEOコード)して
いる.
CAMEOコードを作るためのデータとしては,国
勢調査(2000年)と,家計調査(2004年)を用い ている.これらより全国の大字・町丁目を1〜10の 10グループに分け,さらに各グループをA〜Hの2
〜8のコードに分類して,計 48 コードに分類して いる.
ひったくりのデータとしては,ホームページ上で 公開されていた平成 16 年度警視庁犯罪発生マップ
(警視庁,2004b)を用いた.図1は,東京都23区 におけるひったくりの発生地点を示している.
2.3 分析方法
本研究では,CAMEOの48コードの中でどのコ ードが最もひったくりの発生頻度が高いかを分析す るため,コードごとに人口比を考慮した発生指数を 算出した.
まず最初に,東京都 23 区の総人口に対する各コ ードの人口比を求めた.次に,各コードの人口比に,
東京都 23 区内で発生したひったくりの総件数を掛
け算し,ひったくり発生件数の推定値とした.さら に,実際に発生したひったくり件数と推定値との比 である発生指数を求めるために,各コードで実際に 発生したひったくりの件数を,人口比を考慮したひ ったくり件数の推定値で割った.
この発生指数は,実際のひったくり発生件数が推 定値に近いほど1.0に近い値となり,逆に実際のひ ったくり発生件数が推定値を上回ると1.0より大き い値となる.すなわち,発生指数が1.0以上の高い 値になるほどひったくり発生件数が多いことを意味 する.
3. 分析結果
表1は,1A〜10Eまでの48コードのうち15コ ードに対する,ひったくり発生件数,コードの人口,
東京都 23 区におけるコードの人口比,ひったくり 発生件数の推定値,ひったくり発生指数を示してい る.15コードであるのは,コード内の人口が10万 人以下のコードを除外したためであり,使用した15 コードの人口の合計は,790万8,442人,ひったく り発生件数は3,175件であり,東京都23区の総計 に占める割合は,それぞれ97.2%と96.9%となって いるので除外した影響はないと思われる.
表1において発生指数の最高値は,4C の 1.81 であり,4Cのコードでは,実際にひったくりが発
生した件数が推定値より 1.81 倍多く発生していた ことを表している.発生指数の最低値は,3Bの0.36 であり,3Bのコードでは,実際にひったくりが発 生した件数が推定値より 0.36 倍と発生数が少ない ことを示している.また,実際にひったくりが発生 した件数と推定値とが極めて近い3Aは発生指数が 1.01 であり,15 コードの中では人口を考慮した場 合,標準的に発生していることを表している.
図2は,東京都 23 区における町丁目において,
CAMEO コードごとに発生指数を求めた結果を地
図に示したものがである.ひったくり発生指数が,
1.00 を上回る数値のコードを暖色系にして大きな 値を示すほど濃く,1.00を下回る数値のコードを寒 色系にして小さな値を示すほど濃くなるように色分 けを行った.
図2では,JR 山手線の線路沿いを囲むようにし てひったくり発生指数が1.23と1.22である2Aと 1Bの町丁目が分布していることがわかる.特に,
JR 山手線の内側よりも外側に広く分布している.
CAMEOでは,2Aは大きな家を所有する裕福な高
齢者中心世帯の地域,1Bは都市部のマンション居 住の裕福な専門職世帯が多い地域となっており,裕 福層をねらったひったくりが発生していると考えら れる.
続いて特徴的なのが,荒川沿いと多摩川の河口周
辺に6E(発生指数=1.12)と5E(1.06)が分布し ているのに対し,JR 山手線の内側や西側の広い範 囲に1A(0.91)と4D(0.89)が分布していること である.
ひったくり発生指数が0.36と最も低い3Bは,江 東区をはじめとする東京湾沿岸部,あるいは,荒川 沿いにも点在している.CAMEOでは,3Bは就学 児童をもつファミリーが多い地域となっている.加 えて3Bは団地やマンションが密集しており,住民 以外の人が容易に立ち入れないためにひったくりが 少ないと考えられる.
また,3Bの対極にある最もひったくり発生指数 の高い4C(小規模なマンションに住む、夫婦・単 身者世帯地域)の分布をみると,いずれも鉄道沿線 にあることがわかる.これは,4Cに限らずほかの ひったくり発生指数の高いコードが鉄道沿線にみら れることから,居住地区の属性のほかに,鉄道駅,
または線路沿いという場所が,ひったくりの大きな 要因になっているとも考えられる.
参考文献
市村 信・岡部篤彦(2005)ひったくりの空間分布 と都市の諸要因との関連性についての時空間分析,
地理情報システム学会講演論文集,14,85-88.
大川晃史(2005)GISを用いた犯罪分布の分析−東 京都板橋区を事例として−,平成 17 年度日本大 学文理学部地理学科卒業論文.
警視庁(2004a)「平成 16 年上半期の犯罪情勢」, http://www.npa.go.jp/toukei/keiji18/160806hanz aijousei.pdf.
警 視 庁 (2004b)「 警 視 庁 犯 罪 発 生 マ ッ プ 」,
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/yok ushi/yokushi.htm.
小宮信夫(2006)「地域安全マップ」は,安心して 暮らせる街づくりの出発点,GIS NEXT,15,
12-15.