サクソフォンの管材と塗装による音色の違い
Difference of Timbre by Materials and Painting of Saxophone
1W143154-2 吉原智紀 指導教員 菅野由弘 教授 YOSHIHARA Tomoki Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 本研究は、楽器が様々な要因によって音色の音楽的価値は変わってくる要素が加わるが、基本的には 素材と構造に帰結することに注目し、サックスの管材や表面の仕上げの違いによって音色がどのように影響を 与えるのか検討する。音の解析方法としてはMatlabを用いて周波数スペクトルやスペクトログラムとして表 し可視化する方法を用いた。音の印象評価に関してはプロ奏者に真鍮、漆、銀の素材それぞれの音源を何の素 材の音かは伝えずに回答を求め印象の違いを比較した。結果、サックスの音色に関して7000~8000Hz付近の 音圧レベルの違いが「明るさ」「鋭さ」といった印象に影響を及ぼすことが示唆された。また、真鍮に比べて 銀は金属的な印象、漆は穏やかな印象を与えることがわかった。
キーワード:サックス、音色、素材、構造
Keywords: Sax, Timbre, Raw materials, Construction
1. は じ め に
楽器の音色を決めるのは基本、素材と構造で あるサックス本体の仕上げによって音色や吹奏 感に違いがあることは多くの奏者の口から言わ れているが、本体の管材や塗装だけでなく、マ ウスピースやネックなど多くの要因が重なるこ とによって音色が変わる[1]ことから、仕上げに よる音色の違いを定量的に挙げることは難しく、
サックスの管材の違いと音色の関係に関する文 献は少ない。
サックスの管材や表面仕上げの違いが音色に 及ぼす影響を明らかにできれば、楽器選びの際 の基準になり、楽器開発への一助ともなり、演 奏者にとって意義があるうえ、鑑賞者にとって も音楽を聴くうえでの参考に繋がると考えられ る。
本研究では、サックスの管材や表面の仕上げ の違いによって音色がどのように影響を与える のか検討する。具体的にはソプラノサックス、
アルトサックス、テナーサックス、バリトンサ ックスの 4種類の楽器の、各音域を録音した音
源データからそれぞれの周波数特性に着目し、
真鍮、漆、銀の素材や表面仕上げによる音色の 相違を比較した。
2. 実 験 方 法
本研究では2つの実験を行う。1つ目の実験 は真鍮、銀、漆の3つの異なる素材を用いたサ ックスをプロ奏者に各音それぞれ約 10 秒吹い てもらい録音する。楽器はソプラノサックス、
アルトサックス、テナーサックス、バリトンサ ックスの4つ、それぞれ真鍮、銀、漆の素材の 3種類のもので実験を行った。そして録音した
データを Matlab を用いることで周波数スペク
トルと周波数スペクトログラムとしてそれぞれ グラフ化する手法で相違点を見る。
2つ目はプロのサックス奏者 4名とサックス メーカー従事者2 名に対し、真鍮、銀、漆の素 材がどれかを伝えずにランダムに音を聞かせ、
印象評価を問う実験を行った。ソプラノサック スはA3, Bb4, A5、アルトサックスはA3, Eb4, F5、テナーサックスはBb2, Bb3, C4、バリトン
サックスはEb2, A3, F4の単音5〜10秒の音を 制約のない自由回答形式で行った。そして被験 者 6名の回答結果で言い表される単語の回数を 調査し、真鍮や漆、銀の音色の印象の違いを比 較した。
3. テ ナ ー の 周 波 数 ス ペ ク ト ル
Matlabを用いた周波数スペクトルでのff(本 実験での最大音量)を比較してみると、真鍮や 漆に比べて銀の7000Hzから8000Hz付近にお ける倍音の大きさが違った結果になった。
F3を例に7000Hzから8000Hz付近に注目す ると、真鍮や漆で音圧レベルが-160dB程度まで 落ち込むのに対し、銀では-140dB程度がほとん どを占め、幅広い範囲で強い倍音が現れる結果 になった。
図 1 F3 真 鍮 の 周 波 数 ス ペ ク ト ル
図 2 F3 漆 の 周 波 数 ス ペ ク ト ル
図 3 F3 銀 の 周 波 数 ス ペ ク ト ル
4. 印 象 評 価 実 験
録音したソプラノサックスのA3, Bb4, A5、
アルトサックスのA3, Eb4, F5、テナーサック スのBb2, Bb3, C4、バリトンサックスのEb2,
A3, F4の形で行った主観評価を品詞別に表した
テキスト分析を行った。
真鍮は「落ち着く」「明るい」が多く現れた結 果になった。
漆におけるテキスト分析の結果は「落ち着く」
「重い」「暗い」という言葉の出現回数が高い結 果になった。
銀の結果は「明るい」「エッジ」「飛ぶ」「響く」
などの言葉が多く現れた。品詞以外においても、
「高次倍音が強い印象を与える、高い方の倍音 が目立つ」といった表現で、高次倍音の音色へ の影響を示す被験者が多く見られた。
5. 結 論
サックスの音色に関して、7000~8000Hz 付 近の音圧レベルの違いが「明るさ」「鋭さ」とい った印象に影響を及ぼすことが示唆された。ま た、真鍮に比べて銀は金属的な印象、漆は穏や かな印象を与えることが分かった
参考文献
[1] 安藤由典 (1996),”新版 楽器の音響学”, 音楽之 友社,46−51.