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奈良県におけるスモン患者の 20 年間の変遷

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Academic year: 2021

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A. 研究目的

スモン患者は、 発症から現在まで 40 年以上にわた り長期の療養生活を過ごし、 進行する併発症と高齢化 に直面している。 全国調査でも、 年々患者の高齢化と 患者数の減少は明らかである。 一方で、 低い検診参加 率も課題である。 奈良県においても毎年スモン検診を 行っているが、 今回、 県内のスモン患者の現状評価に 加え、 この 20 年間の患者の身体状況の変化と検診の 変遷について調査した。

B. 研究方法

奈良県在住のスモン患者 22 名 (男性 8 名、 女性 14 名) に対し、 郵送で検診参加の希望を調査した。 検診 では、 「スモン現状調査個人票」 に基づき個別に調査 した。 一方、 検診不参加でアンケート調査希望者には、

調査個人票の簡易版を作成して送付した。 さらに、 検 診・アンケートともに不参加だが電話調査希望の患者 には、 電話で療養状況について回答を得た。

ま た 、 平 成 9 年 (1997 年 )〜 平 成 28 年 (2016 年 ) に実施した計 20 回の奈良県スモン検診において、 こ の 20 年間での検診参加人数や検診率の推移、 個々の

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奈良県におけるスモン患者の 20 年間の変遷

上野 聡 (奈良県立医科大学 神経内科) 杉江 和馬 (奈良県立医科大学 神経内科) 塩田 智 (奈良県立医科大学 神経内科)

研究要旨

スモン患者は、 半世紀近くにわたる長期療養の中、 高齢化とともに進行する併発症など様々 な課題に直面している。 一方で、 毎年実施されているスモン検診の参加率の低さも課題の一 つであり、 検診非参加者の実態については未解明な部分が多い。 今年度も奈良県在住のスモ ン患者を対象に、 個別検診以外の方法も用いて療養状況の調査を行い、 現状の課題を明らか にすることを目指した。 さらに、 この 20 年間に実施してきた奈良県でのスモン検診の変遷 についても調査した。 スモン患者 22 名 (平成 28 年 10 月現在) に対して、 郵送で検診参加の 希望を調査した。 検診不参加でアンケート調査希望の患者には、 「スモン現状調査個人票」

の簡易版を送付、 さらに、 検診・アンケートともに不参加だが電話調査希望の患者には、 電 話で療養状況について回答を得た。 結果として、 検診参加は 7 名で、 アンケート調査 10 名、

電話調査 1 名と併せて、 計 18 名 (82%) の療養実態を明らかにすることが出来た。 検診参 加者と比べて、 検診不参加の患者はより高齢で日常生活動作の低下が高度で顕著な相違がみ られた。 また、 奈良県スモン検診の 20 年間の変遷では、 患者個々の身体的障害度は年々進 行していることが明らかであった。 一方で、 検診参加者全体の日常生活動作の変化は横這い の推移であったが、 毎年の検診が主に来院検診可能な患者を対象とした調査になっているた めと考えられる。 実際に、 5 年前からのアンケート調査参加者と 1 年前からの電話調査参加 者の身体障害度は、 明らかに検診参加者よりも高度であった。 ただ、 アンケート調査や電話 調査を実施することで、 より多くの患者の実態を明らかにできた。 今後、 さらに詳細な実態 把握に向けて、 検診参加への方策や検診方法の検討が必要である。

(2)

患者の身体障害度の変遷について調査した。

(倫理面への配慮)

本研究では、 患者データに関しては検診時にデータ 解析および発表について口頭または署名にて同意を得 た。 またアンケートへの回答は任意としている。 研究 結果は個人が特定されない形で処理を行い、 個人情報 の保護に配慮した。 本研究は、 奈良県立医科大学の医 の倫理委員会の審査において承認を得ている。

C. 研究結果 (図 1〜5)

スモン患者 22 名のうち、 20 名 (91%) から回答を 得た。 この 1 年で 1 名が亡くなられた。 回答の内訳は、

検診 7 名、 アンケート調査 10 名、 電話調査 1 名で、 2 名は調査を希望されなかった (図 1)。 検診参加 7 名 ( 男 性 2 名 、 女 性 5 名 ) は 、 平 均 年 齢 83.7 ± 9.9 歳 (68〜97 歳 ) で あ っ た 。 Barthel index (BI) は 平 均

80.0±21.2 点 (45〜100 点) で、 3 名 (43%) が独歩可 能だった (図 2)。 Mini-Mental State Examination は 26.6± 5.2、 長 谷 川 式 簡 易 知 能 評 価 ス ケ ー ル は 26.6±

5.5 であった。 一方、 アンケート参加 10 名 (男性 4 名、

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図 1 平成 28 年度奈良県スモン検診の方法

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図 3 奈良県スモン検診参加者数の 20 年間の変遷

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Barthel index

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図 2 平成 28 年度のスモン検診参加者とアンケート、

電話調査参加者の比較

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

20 21 22 23 24 25 26 27 28 䋨䋦䋩

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図 4 奈良県スモン検診の検診率の推移

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

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図 5 奈良県スモン患者の Barthel index の 20 年間の推移

(3)

女性 6 名) は、 平均年齢 84.3±10.2 歳 (65〜101 歳) で、 BI 平均 57.5±30.7 点 (5〜100 点) で、 2 名 (20

%) が独歩可能だった。 電話調査参加 1 名 (女性) は、

年齢 91 歳で、 BI 15.0 点で臥床状態だった。 検診参 加者と比べて、 アンケート・電話調査参加者の方が、

明 ら か に 日 常 生 活 動 作 (ADL) は 低 下 し て い た 。 今 年度の検診参加者すべてが毎年検診に参加していた。

一方、 検診不参加の理由として、 外出困難や遠方、 他 疾患治療中・入院中、 かかりつけあり、 が挙げられた。

平 成 9 年 (1997 年 )〜 平 成 28 年 (2016 年 ) に 実 施 した計 20 回の奈良県スモン検診において、 この 20 年 間で年々参加者は減少し (図 3)、 アンケート調査や 電話調査を用いて検診率向上に努めた (図 4)。 検診 参加者個々の BI の推移は、 年々低下を示し、 明らか に ADL は増悪傾向で、 身体状況の増悪は顕著であっ た。 特に歩行時間が延長し、 歩行能力の低下が示され た。 一方、 年度ごとの検診参加者全体の平均 BI はほ ぼ横這いで、 明らかな低下は認めなかった。 ただ、 検 診参加者に比べて、 アンケート調査や電話調査参加者 の BI はより低い傾向を示した (図 5)。

D. 考察

ス モ ン 患 者 は 、 40 年 以 上 に わ た り 長 期 の 療 養 生 活 を過ごし、 脳血管障害や骨折など様々な併発症の出現 や加齢に伴う身体能力の低下に直面している1-7)。 また、

患者の ADL の低下に伴い、 家族の介護負担も増大し ている8)。 これまで私たちは、 併発症の解明として、

スモン患者におけるメタボリックシンドローム9) 10)や 嗅 覚 異 常11)、 歩 行 能 力12)、 パ ー キ ン ソ ニ ズ ム13)に つ い て調査してきた。 現在、 全国的に患者数の減少ととも に、 検診への参加者数も減少してきている14)。 また、

ス モ ン 検 診 の 受 診 率 は こ れ ま で 平 均 約 30% で 横 這 い であり、 奈良県においても同様の傾向が示されている。

このため、 検診参加者の検査結果がすべてのスモン患 者の実態を反映しているわけではないことから、 これ までも検診方法について様々な議論がなされてきた。

奈良県では、 今年度も昨年度と同様に、 スモン検診 の不参加の患者に対して、 郵送によるアンケート調査 を実施した。 加えて、 より多くの患者の療養実態の把 握を目指して、 検診・アンケートともに不参加の患者

には、 電話での療養実態調査を行った。 今回、 アンケー ト 調 査 お よ び 電 話 調 査 参 加 者 と 併 せ て 、 全 体 の 82%

の患者の療養実態を明らかにすることが出来た。 アン ケート・電話調査参加者においては、 検診参加者と比 べて、 明らかに平均年齢が高く、 Barthel index も低 い患者が多く、 視力や感覚症状についても、 身体的障 害度が高度であった。 内訳を解析すると、 検診に参加 していない患者には、 特に移動に介助が必要で、 車椅 子移動主体の患者や臥床状態の患者が多数含まれてい た。 従来の検診での調査では、 重症患者が含まれてい ないことから、 スモン患者の実態を反映していない可 能性が示唆される。 アンケート調査や電話調査を導入 することで、 検診率の向上と、 患者の実態調査の解明 に寄与できる可能性がある。

また、 奈良県スモン検診の 20 年間の変遷では、 長 期にわたり患者個々の身体的障害度は年々進行してい ることが明らかであった。 一方で、 検診参加者全体の ADL の変化は横這いの推移であったが、 毎年の検診 が主に来院検診可能な患者を対象とした調査になって いるためと考えられる。 実際に、 5 年前からのアンケー ト調査参加者と 1 年前からの電話調査参加者の身体障 害度は、 明らかに検診参加者よりも高度であった。 今 後、 日常生活の質を改善および維持していくためには、

年々進行する併発症のみならず、 加齢による身体状況 の変化への対応も重要である。 但し、 今後も、 検診参 加者の減少や患者の ADL 低下が十分予想されること から、 訪問検診を含めた検診方法の在り方についても 検討が必要と考えられた。

E. 結論

今年度の奈良県スモン検診参加は、 22 名中 7 名 (32

%) で、 アンケート調査 10 名 (45%)、 電話調査 1 名 (5%) と合わせて、 計 18 名 (82%) の療養実態を明 ら か に し た 。 特 に 検 診 不 参 加 の 患 者 は よ り 高 齢 で ADL の低下が高度で、 検診参加者と顕著な相違がみ られた。

ま た 今 回 の 検 討 で 、 20 年 に わ た り 検 診 参 加 者 の ADL の変化は横這いであったが、 アンケートおよび 電話調査参加者に限ると身体的障害度は高く、 患者個々 においても年々増悪していた。 ただ、 アンケート調査

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(4)

や電話調査を実施することで、 より多くの患者の実態 を明らかにできた。 今後、 日常生活の質を改善および 維持していくためには、 年々進行する併発症のみなら ず、 加齢による身体状況の変化への対応も重要である。

また、 詳細な実態把握に向けて、 検診参加への方策や 検診方法のあり方を改めて検討する必要がある。

G. 研究発表 なし

H. 知的財産権の出願・登録状況 なし

I. 文献

1 ) Konagaya M, Matsumoto A, Takase S, et al.

Clinical analysis of longstanding subacute myelo- optico-neuropathy: sequelae of clioquinol at 32 years after its ban. J Neurol Sci. 218: 85-90, 2004.

2 ) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県におけるスモン患者 の 12 年間の変遷. 厚生労働科学研究費補助金 (難 治性疾患克服研究事業) スモンに関する調査研究班・

平成 21 年度総括・分担研究報告書 70-72, 2010.

3 ) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県におけるスモン患者 の検診とアンケートによる実態調査 (平成 24 年度).

厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服研究事 業) スモンに関する調査研究班・平成 24 年度総括・

分担研究報告書 83-85, 2013.

4 ) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県におけるスモン患者 の検診とアンケートによる実態調査 (平成 25 年度).

厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服研究事 業) スモンに関する調査研究班・平成 25 年度総括・

分担研究報告書 87-90, 2014.

5 ) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県におけるスモン患者 の検診とアンケートによる実態調査 (平成 26 年度).

厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服研究事 業) スモンに関する調査研究班・平成 26 年度総括・

分担研究報告書 92-95, 2015.

6 ) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県におけるスモン患者 の検診とアンケートによる実態調査 (平成 27 年度).

厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服研究事

業) スモンに関する調査研究班・平成 27 年度総括・

分担研究報告書 99-102, 2016.

7 ) Kamei T, Hashimoto S, Kawado M, et al. Change in activities of daily living, functional capacity, and life satisfaction in Japanese patients with subacute myelo-optico-neuropathy. J Epidemiol. 20: 433-438, 2010.

8 ) 杉江和馬, 上野 聡ら:スモン患者における介護 負担に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 (難 治性疾患克服研究事業) スモンに関する調査研究班・

平成 17 年度総括・分担研究報告書 159-161, 2006.

9 ) 杉江和馬, 上野 聡ら:スモン患者におけるメタ ボリックシンドロームに関する研究. 厚生労働科学 研究費補助金 (難治性疾患克服研究事業) スモンに 関する調査研究班・平成 18 年度総括・分担研究報 告書 79-81, 2007.

10) 杉江和馬, 上野 聡:スモン患者におけるメタボ リックシンドロームに関する研究 (第 2 報). 厚生 労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服研究事業) スモンに関する調査研究班・平成 19 年度総括・分 担研究報告書 62-65, 2008.

11) 杉江和馬, 上野 聡ら:スモン患者における嗅覚 機能に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 (難 治性疾患克服研究事業) スモンに関する調査研究班・

平成 20 年度総括・分担研究報告書 100-102, 2009.

12) 杉江和馬, 上野 聡:奈良県における平成 22 年 度スモン患者検診の現状. 厚生労働科学研究費補助 金 (難治性疾患克服研究事業) スモンに関する調査 研究班・平成 22 年度総括・分担研究報告書 65-67, 2011.

13) 杉江和馬, 澤 信宏, 桐山敬生, 形岡博史, 島田 啓司, 藤井智美, 小西 登, 上野 聡:パーキンソ ニズムを合併した発症後経過 44 年の SMON の一剖 検例. 厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患克服 研究事業) スモンに関する調査研究班・平成 23 年 度総括・分担研究報告書 159-161, 2012.

14) 小長谷正明, 久留聡, 小長谷陽子:大腿骨頸部骨 折に関連する神経症状の検討―29 年間の SMON 検 診における縦断的研究―. 日本老年医学会雑誌 47:

445-451, 2010.

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参照

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