Gawainの"family loyalty" : Le morte Darthurに おける血縁の絆と復讐の構図
著者 新居 明子
雑誌名 主流
号 64
ページ 1‑13
発行年 2003‑03‑15
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015187
Gawain の FamilyL o y a l t y "
一 一LeMorteDαrthurにおける血縁の鮮と復讐の構図一一*
新 居 明 子
Thomas MaloryのLeMorte Dαrthurl は,それまでイギリスやフランス に散在していたアーサー王にまつわる挿話の数々を一貫性のあるひとつの物 語にまとめていることから,中世アーサー王文学の集大成として評されてい る. しかしながら,他の多くの中世文学作品と同様, そのプロットの大半 はMalory独自のものではない.2Maloryは多様なアーサー王物語群を材料 として採用しながら,それらに少しずつ手を加えることで,後世の文学作品 にも多大な影響を与えるアーサ}王世界を作り上げたのである
ところが,Le Morte Dαrthurがこうした物語群の寄せ集めであるがゆえ に,作品の筋や構成にはところどころ矛盾する箇所,一貫性を欠く箇所があ ると指摘されているブさらにこうした原本の影響ゆえの非一貫性は,登場人 物たちの性格描写にまで及んでいるようである.特に本稿で取り上げる Gawainについては,複数ある原本のGawain像に左右される極端に矛盾し た性格の持ち主として, J. L. Weston, R. S. Loomis, B. K. Ray等多くの 学者の批判の対象となってきた例えば第2巻のGawainは直接の典拠であ る頭韻詩MortArthureの影響を受け, Arthurのローマ遠征においては Gawayne, the good knyght" (238.1)として何度も称賛されている一方,
第6巻では原本である古仏通俗サイクルQuestedel Saint Graalの歪んだ、
Gawain 像ゆえに,聖杯探求に失敗する agrete murtherar" (948.19)と して,第2巻で活躍する Gawainとは似ても似つかない騎士として描かれ
2 Gawainのゴデ訂n江yLoyalty"
ているのである.
それではMaloryは,相反する性格を示す原本のGawain
i
象をただ機械的 に採用しただけであり,その性格描写の一貫性については何も意図していな かったのであろうか.もちろん原本による影響は否めないものの, Malory のGawainには少なくともある一点において統一性,一貫性があるように 思われる.それは第1巻から最終巻にいたるまで決して揺らぐことのない,家族や親族に対する Gawainの強い愛情,あるいは忠誠心である.特に第 8巻に見られる彼の兄弟愛については,作品最終部の展開において重要な役 目を担うものとして,これまでにもしばしば指摘されてきた.というのも,
末弟ガレスへの強い愛情がGawainのLancelotへの復讐心へとつながり,
それによって円卓崩壊という悲劇がもたらされることになるからである これまであまり注目されてこなかったものの,実はこのGawainのfamily loyaltyは,第8巻のみならずそれ以前の巻にもしばしば言及されているも のなのである.
本稿では, Maloryにおける Gawainの性格を,第8巻以前の巻に見られ る彼のfamilyloyaltyに焦点を当てて検討してみたい。その際,血縁関係と いうものが中世社会では実際にどのようにとらえられていたのか,また Gawainと比較して,他の登場人物たちのfamilyloyaltyがどのように描か れているのかということにも注目してみる.
E
第4巻最後にある Maloryの叙述が,彼の Gawain像を端的に示してい る.
For evir aftir sir Gareth had aspyed sir Gawaynes conducions
,
he wythdrewe hymself fro his brother sir Gawaynes felyshyp, for he was evir vengeable, and where he hated he wolde be avenged with mu子G丘wamの"FamilyLoyalty" 3
ther. . " (360. 32‑36)
つまり Gawainの末弟Garethはヲ相手を殺してまで恨みを晴らすという兄 の執念深さを厭い9 次第に彼を避けるようになヮたということである.
Gawainに対ーする執念深い復讐者というイメージは, Maloryの作品の至る ところに示唆されているが9 おそらくこのイメージは彼が円卓の優れた騎士 Lamorakを復讐のために殺害したことによるところが大きいであろう.
GawainのLamorakに対ーする復讐心の根は深く.第1巻の冒頭部分,つ まりArthurの王国建国期にまでさかの(まることになる。当時の戦いにおい てGawainの父LotはLamorakの父Pellinoreに殺されたため, Gawain とその弟たちは父の仇として後に Pellinoreに復讐を果たす.さらに Gawainの強い復讐心は。 Pellinore本人のみならずその仇の息子Lamorak にまで拡大されることになる,
GawainのPellinoreやLamorakに対する復讐心Jふ 実 はMalory独自 のものではない,(也の多くのエピソードにも典拠となる原本があるように,
この場合Maloryは散文Tristαnを原典として採用しているようである (c.f. Bennett 25). しかしMaloryが彼独自の観点から Gawainの Lamorak殺害を原典以上に強調していることは明白である.というのも,
Gawain兄弟のLamorakに対する復讐行為がいかに卑劣で民騎士道的なも のであったか, Lamorakの 死 後 様 々 な 登 場 人 物 た ち が slewehym felounsly,"slew by treson," "with treson slayne" (688. 9‑10, 1048. 26, 1149, 33)と繰り返し強調し.Gawainの復讐者としてのイメ」ジを読者に 強く印象付けているからである.
ここで注意すべきことは, GawainのLamorak殺害が父の仇討ちに,つ まり彼の血諒にまつわる復讐心に基づいていたということである。こうした 仇本人のみならずその血縁者にまで及ぶ Gawainの執念深い復讐心は,
我々現代の読者には常軌を逸しているように思われるe それでは当時の
4 GawainのF釘凶lyLoyalty"
Maloryの読者は,こうした復讐行為をどのようにとらえていたのであろう か.
J acques HeersやMauriceKeenをはじめとする多くの歴史家治f指摘して いるように,中世初期の西ヨーロッパでは,家族あるいは血縁関係は非常に 重要な意味を持っており,名の知れた一族は皆その強い団結力で知られてい たようである 7個々の場合で状況は異なるものの,概して言えば,当時の 人々が一族の団結に執心した主な理由は,自分たちの土地や財産を他者から 守ることにあった.そのため必然的に,自分の血縁者を守り彼らのために戦 うことが義務化されたようである.中世ヨーロッパにおいては,このような 血縁者聞の強いfamilyloyaltyゆえに,血縁にまつわる復讐行為が一般化さ れていったのである.コルシカ島のある一族について書かれた以下の文献に は,こうした当時の状況が具体的に述べられている.
. are not willing to pardon nor even to discuss any arrangement, until they are avenged. And not only do they make war on him who has done the injury, but also, in general, on all his kinsfolk, as far as the third degree of relationship. 80 that
,
if one has offended another,
it is necessary for all his kinsfolk to be on their guard. .(Flandrin 15)
ここでは, thirddegree of relationship"までが復讐の対象範囲とされてい るようである.
しかしながら,財産を守るために強まった一族の団結は,やがてその財産 をめぐる一族聞の争いが原因で次第に崩れていくことになるしたがって Maloryの時代である中世後期ともなると, family loyaltyという概念は形 骸化されてしまい,実社会からかけ離れた文学の世界にその理想とするとこ ろが引き継がれていった.なかでも頭韻詩MorfeArthureなどに代表され る叙事詩的作品では,このfamilyloyaltyはしばしば騎士たちの行動を動機
GawainのF氾nilyLoyalty" 5 付けるものとして重要な役割を担っている.
Malory はこの頭韻詩MorteArthureを原典のひとつに採用しており,作 品iこはその影響が強く見受けられる.そのためMaloryの作品においても,
叙事詩的な要素として騎士たちの血縁関係の重要性がかなり強認されている ようである診そこでGawainについての具体的な議論に移る前に,まず Maloryの作品に登場する他の騎士たちのfamilyloyaltyについて確認して みたい,
E
Le Morte Dαrthurには数多くの血縁関係が見られる6 それらの中には,
剤えば第1巻に登場する DamasとOutlakeのように9 前述のような当時 の世相を反映してか領土問題が原因で不仲となってしまった兄弟もいる (138. 27 却にしかしながらこうした例は非常に稀で,大半の登場人物たち は血縁間の砕を重要視し, family loyaltyをお互いの守るべき第一の義務と しているようである第5巻のHermans王のエピソードには, Malory自 身いかにその重要性を認識しているかが示唆されている。 Hermansは血の つながらない二人の騎士に殺害されるのであるが, Malory ii,had he [Hermans] cheryshed his owne bloode, he had bene a lyvis kynge. .
(712.1‑2)とコメントし, Hermansの悲劇の原因を王が自らの血筋を重用 しなかったためとしている。また同じく第5巻において, Bleoberis は弟で あるBlanorに向けて, 。.• remembir of what kynne we be com of. . . . And thεre was never none of oure kynne that ever was shamed in batayle. .." (408. 23‑27)と語るのであるが,この言葉にも騎士が自分の血 筋や血縁を強く意識していることが示されているといえる.
強い紳や愛情セ結ばれている兄弟の具体例にはこと欠くことがない.例え ば,第1巻に登場するBalinとBalanの関係などは, Maloryの描く兄弟愛 の典型である (64.9‑10). またこうした紳は兄弟聞にのみ限ったことではな
6 GawainのFarr吐lyLoyalty"
く,他の血縁関係にも共通しているようである.第6巻の最後にBorsが Arthur王宮廷に帰還するのだが,その際の従兄弟を迎えるLancelotの言葉 には,彼らの間の愛情が兄弟聞のそれに勝るとも劣らない強いものであるこ とが示されている.
Cousyn
,
ye ar ryght wellcom to me! For [all that ever 1 may do for you and for yours,
ye shall fynde my poure body redy atte al1 tymes whyle the spyryte is in hit, and that 1 promyse you feythfully, and never to fayle. And wete ye well, gentyl cousyn sir Bors,l ye and 1 shall never deparle in sundir whylis oure lybys may laste. (1037.1‑6) ここで注目すべきは,このLancelotのセリフがMalory独自のものである 可能性が強いということである.というのもこの第6巻の原本と目される通 俗ザイクルQuestedel Sαint Graαlには, Borsの帰還の場面にLancelotは 一切登場しないからである.おそらく Maloryは,二人の血縁の鮮を強調す るという目的で,この場面にLancelotを登場させ彼のセリフを挿入したの ではないだろうか.肉親への愛情や血縁関の紳が強ければ強いほど,愛する者への侮辱やその 死に対する恨みや復讐心も大きくなる.Maloryの作品中には, thekynne of thys knyght woll chase you thorow the worlde tyl1e they have slayne you" (71. 14‑15),wyte thou well there is nother [th]ou nothir no knyght that beryth the lyff that sleyth ony of oure bloode but he shall dye for hit"
(687. 26‑28),あるいは tellnat my brother, sir Launcelot, how that ye slew me, for than wol1 he be youre mortall enemy" (816. 19酬20)など,
様々な登場人物たちの言葉を通して血縁者のための復讐という概念が明言さ れている.
その他にも familyloyaltyゆえの復讐というエピソードは非常にたくさん ある.例を挙げると, (1) Balinは母を殺された恨みから湖の貴婦人に復讐
GawainのFam日yLoya!ty" 7 する (65.31); (2) Nero王は兄である Ryence王を打ち負かしたBalinと Balanに復讐しようと大軍で攻める (75.18・19) ; (3) PelIam王は弟の Garlonを殺したBalinへの復讐を試みる (84.25‑26) ; (4) South Marchis の領主は, Gawainに息子を殺された恨みから円卓の騎士の敵となる (173. 34) ; (5) Lamorakは殺された従兄弟のNanowneのためにNabonに復讐を 誓う (441.18・19); (6) Bellyasは弟Frollを殺したLamorakに復讐を試み る (450.12) ; (7) Berluseは父を殺した Mark王を恨み復讐を誓う (582. 21) ; (8) Alexanderも同じく父を殺したMark王に復讐を誓う (637.9‑ 10) ; (9) Goodwyneは弟のGawhelyneを殺したAgglovaleに復讐を試みる
(812. 3‑4) ;側Pynelは従兄弟のLamOI叫Eを殺したGawain殺害を試みる 0049. 2‑3) ;叫Madorは従兄弟のPatryseが殺されたことで王妃を恨み告 訴する (1049.25‑27) .このように, Maloryの作品には多くの復讐の構図が 存在しており,実際こうした復讐に根ざす争いが物語の大部分を形成してい るのではないかと思われるほどである.
N
以上のことから, Maloryの作品においては肉親の死や不名誉に対する復 讐が極めて当然のこととして描かれていることが明らかになったが,本稿の 冒頭部分でも言及しているように,その傾向は特に Gawainの性格描写に 著しいようである.Gawainの血縁関係に注意を向けるにあたって,まず確 認しておかなければならないのは,彼が自分の属する血縁集団を率いる立場 にあるということである.長兄である Gawainは,父Lotの死後必然的に the knights of Orkeney"と呼ばれる血縁集団を率いることになり,そのリ ーダーとしての絶対的な地位を確立する.そのため弟であれ息子であれ,彼 の血縁者が登場する際には,たとえその場にGawain本人がいなくとも,
リーダーである彼の名前が必ずと言ってよいほど言及されている.例えば,
Gawainの末弟Garethの場合は, .. • he is brother to sir Gawayne, and
8 GawainのFamilyLoyalty"
his name is sir Gareth of Orkenay" (329. 28‑29)であり,彼らの母 Morgauseは, .. . for quene Morgause of Orkeney, Modir unto sir Gawayne" (486. 14司15)となる.また彼ら自身が自ら名乗る際にも, My name is Gareth, and brothir unto sir Gawyne of fadir syde and modir syde" (229. 27‑28)というように,やはり自分がGawainの血縁者であると いうことを言明しなければならないようである.
次に,一族を率いる立場にある Gawainが血のつながりをどのようにと らえているのか,彼の行動や言葉を通して具体的に検討してみたい.まず第 1巻においてGawainは,彼の最初の官険としてArthurに命じられて白い 鹿を追うのであるが,その途中で戦いの最中にある二人の兄弟に遭遇する.
Gawainは,へ.. for uncouth men ye sholde debate withall, and no bI悦hirwith brothir" (104.13‑14)と言って,兄弟同士で争うことの愚を説
き二人を諌める.実はこのエピソードはGawainの白鹿探索という物語展 開には全く関係なく,いきなり官頭部分に挿入されているというものである.
おそらくこの戦う兄弟のエピソードには, Gawainの最初の冒険にあたり no brothir with brothiピ'という彼の兄弟愛,あるいはfamilyloyaltyを示 すという意図が込められているように思われる.
同じく第1巻にある Gawainの従兄弟Uwayneについてのエピソードも 注目に値する.Uwayneの母である Morganle Fayは,常々 Arthurを陥 れようと狙っており,ここでも Arthurを殺害する目的で王に特別なマント を贈る.Morganの悪巧みに気づいたArthurは,怒りと疑いの目を彼女の 息子Uwayneにも向け,彼を宮廷から追放してしまう.血のつながった従 兄弟に対する愛情から, Gawainは forwhoso banyshyth my cosyn jarmayne shall banyshe me" (158. 15‑16)と自ら進んでUwayneと共に宮 廷を立ち去ってしまうのである.ちなみに原典であるSuitede Merlinにお いては, GawainはUwayneの求めに応じて宮廷を去ることになっている.
こうした原典との違いから, Maloryが原典以上に Gawainのfamily
GawainのFar凶lyLoyalty"
loyaltyを強調していることがわかる.
9
第4巻はGawainの末弟Garethの物語であるが,ここでも Gawainの family loyaltyが明確に示されているといえる.自らの素性を隠し何一つ持 たずに宮廷に現れたGarethに対し, Gawainは常に親身になって援助の手 を差し伸べる。興味深いことに, Garethに対する Gawainの行動は,
Maloryが最も称賛する騎士であるLancelotのそれと非常に類似しており,
また明らかにMaloryはそれを意図的に強調しているようである.
And than sir Launcelot aftir mete bade hym [Gareth] com to his chambir, and there he sholde have mete and drynke inowe, and so ded sir Gawayne. . . . But as towchyng sir Gawayne, he had reson to proffer hym lodgyng, mete, and drynke, for that proffer come of his bloode
,
for he was nere kyn to hym than he wyste off; but hat sir Launcelot ded was of his grete jantylnesse and curtesy. . . . And ever sir Launcelot wolde部rffhym golde to spende印 dc1othis, and so ded sir Gawayne. (295. 29‑296. 5)つまり, LancelotがGarethに食べ物や衣服を与えたと述べた後で,必ず Maloryは andso ded sir Gawayne"というフレーズを続けるのである.ま た上記の引用文からも明らかなように,彼ら三人のGarethに対する親切な 行動は, Lancelotの場合彼自身の寛大さや親切心に動機付けられているの に対し, Gawainは comeof his bloode,"血のつながりゆえであると,再び、
彼のおmilyloyaltyが強調されている.
興味深いことに, Gawainのおmilyloyaltyは彼の血縁者のみならず血の つながらない者たちにまで,その対象範囲を広げているようである.例えば,
Gawainの護衛兵である Chastelayneという若者が,第2巻の戦いにおい てGawainの目前で殺されてしまうが,その死に対しGawainは過大な反 応を示す.彼はまずChastelayneのために涙を流して悲しみ9 次に怒りに
10 Gawainの'Fm凶1yLρyalty"
燃えて一気に60人以上の敵を倒す.そして殺した相手の騎士を見つけるな り,素早く首をはねてしまうのである .O.E.D.によれば,当時 family"と いう単語には,血のつながらない"Theservants of a house"という意味を も含んでいたということである(I.1. a) .おそらく Gawainは,護衛兵のひ とりである Chastelayneを自分の家族の一員とみなしており,その死には family loyaltyの証である復讐行為で報いたのであろうと思われる.
Gawainの復讐は自分の飼い犬の死にまで拡大する.第1巻における白鹿 探索の冒険において,彼は罪のない婦人を殺してしまう.この騎士道にある まじき行動は後々まで非難されることになるのだが,実はこれにはGawain の飼い犬の死が関係しているのである.Gawainに殺された婦人は彼が追っ ていた白鹿の持ち主Blamoureの恋人であった.Blamoureは鹿を追ってき たGawainの犬2匹を, Gawainの目前で殺し,これに激怒した Gawain は, Blamoureに復讐しようと剣を振り上げ誤って彼の恋人を殺してしまう のである.飼い犬の死に対してまでも復讐で報いようとする Gawainの行 為は,現代の読者には理解しがたいものがあるが,彼の激しく強いfamily loyaltyの傾向を考慮すると,この殺人行為も彼がfamilyの一員とみなす飼 い犬にまでその適用範囲を拡大した結果なのだと推測できる.
V
こうしたエピソードにみられる Gawainの言動から明らかになるのは,
血のつながりの有無にかかわらず,自ら家族の一員と認めている相手に対し て, Gawainは常に愛情深くそして徹底的に忠実であるということである.
本稿の冒頭部分で触れたように, Maloryにおける Gawainの性格描写は,
原本の影響ゆえに善と悪が混在する矛盾したものになっていると指摘されて きた.なかでもフランス流布本の影響から, GawainがMaloryの作品にお いて繰り返す殺人行為は,民騎士道的人物としてのGawainの悪名を高め る結果となっている,しかしこれまで検討したGawainのfamilyloyalty
Gawai日の 11 を考慮すると,それらの殺人行為が原本の影響のみで理由なくなされた訳で はないことがわかってくる.
一族のリーダーとしての Gawainの立場,しばしば復讐というかたちを とる披の強いfamilyloyalty,そして実はこうした復讐の構図がMaloryの 他 の 登 場 人 物 た ち に も 共 通 し て い る こ と な ど を 考 え る と , 例 え ば 彼 の Lamorak殺害についての説明も可能となるのである。もちろんLamorak は父の仇本人で、はないが, Gawainのfamilyloyaltyの観点からすると,前 述のコルシカ島の一族のように当然仇のみならずその息子にも復讐する必要 があったのである。
本稿で検討してきたように。 Maloryにおける Gawainの性格は,フラン スやイギ、リスの原本に見られる Gawain像を単に寄せ集めたものではない.
Maloryは第8巻 に お け る 円 卓 崩 壊 を 前 に 劇 的 に 爆 発 す る こ と に な る Gawainのfamilyloyaltyを.自らの壮大な悲劇を完成させるうえで欠かせ ない重要なものととらえ,第8巻以前の巻においても Gawainの性格を特 捜づけるものとして常に一貫して強調しているのである。
i主
*本稿iま,国際アーサー王学会日本支部2001年度総会(慶応義塾大学, 12月22日) における口頭発表の原稿に,修正加筆を施したものである.
1本稿におけるLeMorte Darthlげからの引用は全てSirThomas Malory, The Works of 8ir Thomαs 1'V[aloryヲ巴d.Eu酔neVinav巴r,rev. P. J C. Field, 3rd ed., 3 vols. (Oxford: Clarendon, 1990) に従うものとし,括弧内に頁,行番号を示す.
2 中t止の作家たちの作品には彼ら独自の創作によるものが少なく,むしろ他の作品 を書き直したものが一般的であった.Geidler 17参照.
3 MoormanはLeMorte Darthur全8巻の直接の典拠作品について詳しく検討し,
少なくとも 9ワの作品が挙げられるとしている (Prologue,xvII‑氾x).
4 Maloryの作品中に見られる非一貫性については.Vinaver等多くの学者が指摘 している (Vinaver,intro. xli‑lil.
5 Malol'YのGawainは atissue of inconsistency" IWeston lOI,serious flaw"
12 Gawainの 乍amilyLoya1ty"
(Loomis 171),そして .• • is marked by serious inconsistencies and shows traits which can hardly co‑exist in a single person" (Ray 11)などとして批判されてい
る.
6 Rayは円卓崩壊の原因は究極的にはGawainにあるとしている(10).
7規模の大きな一族ほど強い団結力で知られ,またこうした血縁集団はやがて独自 の軍隊を整備し,自分たちが属する社会に多大な影響力を及ぼすようになった.
(Heers 69‑70, 169; Keen 62)
8 その他に血縁関の鮮を弱めた原因としては,一族が保有する軍隊が王権の確立や 封建体制j強化への障害とみなされたことや,教会勢力が一族の間の私的な戦いに反 対し始めたことなどが挙げられる.Flandrin 16参照.
9 ArchibaldはMaloryにおける島縁関係の重要性について指摘している.(316)
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