Nickの語るGatsby, Nickの語るDaisyについて
著者 松村 延昭
雑誌名 主流
号 52
ページ 131‑147
発行年 1991‑03‑20
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015088
Nick の五音る G a t s b y , Nick の語る Daisy について
松 村 延 昭
I
読者は,読書中に遭遇する様々な登場人物や出来事に対して,実生活同様 に一つの局面での評価なり判断を下していく.それらは決定的なものではな し読書の進行により刻々と変化していくかもしれない.物語が新たな展開 を示すことにより,以前のものは否定され,修正を強いられることが多々あ るからだ.ところが,果てしなく変遷を繰り返すように思える実生活の諸相 とは異なり,読書はある一定の限られた時間内に完結する.また,その判断 を下す基準となる人物の言動や事件に関する基礎知識は,あくまでテキスト の中でしか得られず,読者は実生活のように自ら選択して情報を集めること はできない.その点で読者の得る情報は,実生活よりはるかに制限されたも のだといえる. しかし当然のことながら,読者が読書の終了時に到達する地 点は,ただ一つに限定されることはない.読者は自分の生きている社会での システムや自分の立場を参照しながら読み進んでいくであろうし,個人の知 識・経験の差により,テキストに対する反応は違ってくる.テキストが許容 する範囲内での自由が存在するといえるだろう.
The Great Gatsbyでは, Nickという語り手が設定されており,彼は物語に 深く関わると共に,一人称、で、物語を語っていく.すべての情報は彼のフィル ターを通して伝わることとなり,彼の見解は読者の判断に大きな影響を与え ることになる.1皮は, e • Im inclined to reserve all judgments. とか,
I am one of the few hon巴stpeople that I have ever known. とあらかじ
め述べ,自分は慎重で誠実な人間であり,かなりの程度まで客観的な判断が 下せるのだと告げる.1 また彼は, Iwas rather literary in colleg巴
(p. 3)と自分には物語を表現する能力も備わっているのだと示唆し,白らの 語り手としての資質を誇る.そのNickにとってG乱tsbyは,「心からの軽蔑 の念を抱くありとあらゆるものを象徴した男」から,「他の者には見たこと もないし,これからも二度と見出せないであろう,ロマンティックな心情
J
の持ち主へと変貌を遂げる.Nickがそのょっに見解を180度変え, Gatsby の人間としての価値を積極的に認めるようになった過程が,物語を通して描 かれていく.その結果,読者の多くは, Nickの抱く G呂tsbyやDaisyたち に対する感情を共有することになるだろう. しかし,いかに信頼度の高い語 り手とはいえ, Nickの結論をそのまま受け入れる必要はないし,物語に巻 き込まれるNickの立場に偏りがないわけでもない.視点人物である Nick の意見にとらわれず,彼の語る物語を綿密に検証することにより, Gatsby やDaisyの姿がより鮮明に見えてくるのではないだろうか.本論では,
Nickがいかに GatsbyとDaisyを描いてい〈かを分析すると共に,テキス トが許容する範囲内での自由を行使し, Nickとは異なる Gatsby観, Daisy 観の可能性を探ってみたいと思う.
I I
まずDaisyの魅力は, Nickによりどのように描かれ,彼女はいかにして Gatsbyの生涯の夢の対象となっていくのかをみてみよう.DaisyはFitz・ g巳raidの最初の小説である ThisSzゐofParadiseのRosalindや,短編の Winter Dreams,,に登場する JudyJonesなどと,フラァパーという共通 項で括ることができる女性である.彼女たちは自分の美貌を鼻にかける自信 家であり,当時の性的モラルの枠を徹底的に打ち破っていく.2 が,それ 以上に彼女たちを特徴づける要素は,被女たちの次の言葉の中に現れている といえよう.Rosalindは主人公のAmoryとの結婚に対する決断を迫られ,
I cant shut away from the trees and flowers, cooped up in a little flat, waiting for you.と答える.3 Judyも主人公のDexterに,悲しいことがあっ たのだと次のように打ち明ける.
There was a man I cared about,品ndthis aft巴moonhe told me out of a clear sky that he was poor as a church‑mouse. Hed never even hinted it b巴fore.4
このように経済的不安と,それに伴うであろう単調で退屈な生活を忌み嫌う のは,美しいシャツの山を見て涙するDaisyも共有している考え方だとい える.彼女たちにとって,愛情は必ず金銭と結び付いていなければならない のであって,物質的豊かさが精神的なものより常に優先するのである.
そのDaisyはGatsbyにとって,円卓の騎士が求めた「聖杯」にも匹敵す る,文字通り命を賭けて守るべき貴重な存在となる.Nick自身も,何年振 りかに再会したDaisyに,瞬く聞に魅了されてしまう.ところが, D昌isyの 個人としての魅力がどこにあったのかを, Nickはあまり具体的に語らない.
Daisyは「白いドレスを身につけ」,「情熱的な口元をしていたJ,などと彼 女の容姿が若干述べられるが, Nickはそのような外見的描写よりはるかに 有効なストラテジーでもって, Daisyを浮き彫りにしていってくれる.つま り,彼はテキストを読む者の頭の中に,彼女のイメージを巧みに形成してい くのである.
ここでのイメージを, ドイツの批評家であるWolfg拍 gIserの次の言葉に より定義しておこう.
Th巴imagisticvision of the im呂ginationis therefore not the impr巴s‑ s10n objects make upon 'sens且tioぜう noris it optical vision, in the true sensεof the term; it is, in fact, the在ttemptto ideate that which one can n巴versee as such. (下線付加) 5
イメージを造るということは,対象が感覚になんらかの印象を残すことでも,
視覚作用でもなく,「観念化する」行為だというわけで、ある.さらに彼は「観 念化」(ideation)を,「知覚」(perception)と対照させることにより解説し ていく.即ち,対象が存在して始めて成り立つのが「知覚する」という行為 なら,「観念化する」ためには対象が不在でなければならない.実際にはテ キストの中で明確に述べられていないために,読者はその部分を識圏下で生 み出されるイメージにより埋めていこうとする.テキストの言語が暗示して いるが,直接指示はしていないものを思い浮かべることが大切だ、というので ある.6 Daisyに関してもJ特に彼女がGatsbyにとってどのような意味を もっ存在であったかは,彼女をイメージとして捉えることにより,如実に伝 わってくるのではないだ、ろうか.
Daisyのイメ}ジを喚起する有力な手立てとして, Nickは彼女の声に関 する言及を頻繁におこなう.Nickが始めて彼女の家を訪ねた時,彼女は友 人のJordanと寝椅子に横たわったままでNickを迎える.彼は風が吹き込 み,周囲のものがはためく部屋の情景を,巧みに描き出していく.
The only completely stationary object in the room was an enormous couch on which two young women were buoyed up as though upon an anchored balloon. . Then there was a boom as Tom Buchanan shut the rear windows and the caught wind died out about the room, and the curtains and the rugs and th巳twoyoung women ballooned slowly to the floor. (p 6)
風が止み一瞬の静寂が場面を覆った後に,その静寂はDaisyの「とってつ けたような可愛らしい笑い芦」により破られる.その後, Nickは彼女の声 に引き寄せられ,半ば催眠状態へと陥っていく.Nickは彼女の声のもつ不 思議な魅力について次のように語る.
It was the kind of voicεthat the ear follows up and down, as if each speech is an arr丘ngement of notes that will nev巴r be played again. there was an excitement in h巳rvoice that men who had cared for her found difficult to forget: a singing compulsion, a whis‑ pered List巴n,"a promise that she had done gay, exciting things just a while since and th丘tthere were gay、巳xcitingthings hov巳ringin the next hour. (pp. 6 7)
自らの育った中西部を theragged edge of the universe(p. 2)と表現し,
都会に憧れてやって来たNickにとって, Daisyの生活は彼の経験したこと のない,不思議な魅力に溢れたもののよっに感じられる.食事が終わり Daisyの言葉が途切れた瞬間に, Nickはようやく彼女の話を振り返り,次 のように思う. Th邑instanther voice broke off, c白 singto compel my attention, my belief, I felt the b出icinsincerity of what she had said(p. 12).彼女の話の内容は, Nickにとって副次的なものでしかなかったのであ る.たとえ内容に乏ししいかに真実性を欠いた話であっても,それを語る 彼女の low,thrilling voice(p. 6)は,それ自体がNickにとって至極魅惑 的な音声だったのである.
5年振りのDaisyとの再会を前にし,極度の緊張感を漂わせたGatsbyと 一緒に,霧雨の中彼女を待っているNickの陰替な気分を晴らしてくれるの
も彼女の芦である.Nickは次のように語る.
The exhilarating ripple of her voice was a wild tonic in the rain. I had to follow the sourid of it for a moment, up and down, with my ear alone, before any words came through. (p. 56)
この wildtonicは, G昌tsbyにはより一層の効果を有したに違いない.そ の日の別れ際に,自分の行為に対する疑念からか, Gatsbyの顔には一瞬困
惑の表情が浮かぶ.その表情はDaisyが彼の耳元で何かを暖くことにより 消え去り,彼には感動の色がよみがえる.Nickはその場を次のように解説 する. Ithink that voice held him most, with its fluctuating, feverish warmth, because it couldnt be ov巴r‑dreamed‑ that voice was a deathless song(p. 64).貧しい農夫の息子として生まれたGatsbyは,眠る前に必ず 空想、の絵模様を織り成す少年であった.その空想の世界は,彼にとって我慢 のならなかった「現実jの,「非現実性」を暗示した.Gatsbyの少年時代の エピソードとして書かれたが,後にTheGreat Gaおりとは別に短編として出 版された Absolution からも伺えるように,子供の頃のGatsbyは,日々 の生活では抑制される願望を,空想、の世界の中で自由に満たしていたのであ ろう.Daisyの声には彼が夢見続けた,巨額の富のみが可能とする,豪華な 世俗の美の世界を呼び起こすものがあったのだ\物語の終盤でNickは, Daisyが自分から離れていくと察したGatsbyの心情を,
only the dead dream fought on as the afternoon slipped away, trying to touch what was no longer tangible, struggling unhappily, un‑ despairingly, toward that lost voice across the room. (p. 90)
と代弁し,遠退く彼女の声により Gatsbyの夢の死滅を暗示するのであるが,
まさしくその声に象徴される彼女の魅力は, Gatsbyの追い求めた夢と永遠 に結び付いていたのである.
この他にも, Nickが直接・間接的に伝えてくれるDaisyの声に関する言 及は,彼女のイメージをより一層鮮明なものにしてくれる.Jordan は Daisyの過去を語る時, Daisyの不貞の可能性を, PerhapsDaisy ne刊 r went in for amour at all ‑ and yet ther巴5something in th且tvoice of hers .. (p. 51),と示唆する.さらに Gatsbyは彼女の声の本質五 Her voice was full of money ... '(p. 80),と端的に表現する.GatsbyのDaisy に対するこの理解に, Nickも以下のように全面的に同意する.
Nickの語るGatsby, Nickの語るDaisyについて 137 That was it I'd n巴V巳runderstood before. It was full of money ‑ that was the inexhaustible charm th丘trose and fell in it, the jingle of it, the cymb呂ls'song of it High in丘 whitepalace the kingうs daughter, the golden girl. .・(p,80)
これら彼女の声に関するいくつかの表現に促された読者は,イメージを描い ていくだろう.もちろん個々の読者間の差は,イメージの差となって現れて くるだろう.一つの星座が「鋤き」(plough)に見える人もいれば,「柄杓」
(dipper)に見える人もいるわけである.7 しかし,読書時のイメージは テキストの暗示により生み出されるものである.Iser iえ Theζstars ina literary text ar巴fixed;the lin自 由 討jointhem are variable. と語る.8 ー
つの星座が「鋤き」や「柄杓」に見えたとしても,同じ星座が「冠
J
に見え ることはないのであって,個人の主観による恋意性には限りがある。 Daisy のイメージも,彼女の声に関する言及によりかなり限定されていき,彼女の 物語の中での意味はしだいに明らかになっていく.同じ内容を詳細な表現で 具体的に述べても,同様の効果は得られないだろう.「Daisyは裕福な家に 生まれた,美しく魅力的な女性であったが,恋愛に関しては放縦であり,物 質的価値を何よりも優先してLまう皮相的なものの考え方しかできなかっ たJ
,などと直裁に述べる以上のものをイメージは伝えてくれる.それは Gatsbyの夢の対象として,彼女がいかにふさわしかったかということであ る.それは逆説的な意味で述べているのではない.確かにDaisyは,一人の 勤勉で才能豊かな男性が生涯を賭けて求める女性としては,否定的要素を余 りにも多くもつ.Nickの語りは,彼女の軽薄で不誠実な言動を十分に伝え ている.最終的には,彼女の「不注意」で「無責任」な行為が, Gatsbyを 死へと導くことになる.しかし, DexterがJudyの妻としての紛れもない欠 点を数え上げた上に,やはり彼女を愛していると断言するのと同様に, a
universe of ineffable gaudiness(p. 65)を夜毎想い憧れていた Gatsbyに とって,Daisyは最も望ましい女性だ、ったのである.彼女はGatsbyにとって,
物質的成功の象徴としての役割を果たすB 彼が求めたのは,聡明で誠実で、思 いやりのある女性ではなく,むしろ gay;exciting things,,に満ちた彼の将 来を,確約してくれるように思える女性だ、ったのである.Nickは次のよう
なことも教えてくれる. Itexcited him, too, that many men had already loved Daisy it increased her value in his (Gatsbys) eyes(p. 99). Gats‑ byにとって,当時の流行の最先端を行く人気娘Daisyを獲得することは,
華やかな世界へ足を踏み入れたことのこれ以上ない証となる.周囲の注目を 一身に集め,ゆるぎない経済力を背景に奔放に生きるDaisyこそが, G旦ts‑ byが欲した女性だったといえるのである.
Daisyの声が現実となり得ない空虚な約束を Gatsbyに与え,それにより 彼は幻影を拡大していくのであるが,その今一つの理由として, Gatsbyの 彼女の住む世界に対する理解の欠如を挙げることができる.NickがDaisy の魅力を暗示的に述べ,あえて詳細な叙述を省いたことにより,読者の頭の 中にイメージが形成されると述べたが,それはGatsbyがDaisyに過大な魅 力を感じる説明ともなるのではなかろうか.Fitzgeraldの短編である The Rich Boy の中で,その語り手は次のように断ってから,金持ちの青年で あるAnsonについて語り始める.
Let me tell you about the very rich. They are different from you and me. They possess and enjoy early, and it does something to them, makes them soft wher巴weare hard, and cynical where we are trustful, in a way that, unless you were born ,rich, it is very difficult to under‑ stand.'
つまり,この語り手は, Ansonのように経済的に並外れて恵まれた境遇に 生まれ育った者の根本的な考え方には,終生理解が及ばないと宣言するわけ
Nickの言苦るGatsby, Nickの言苦るDaisyについて 139 である.同じ状況が, Daisyの住む世界を前にしたGatsbyにも当てはまる のではないだろうか. He(Gatsby) knew that Daisy was巳xtraordinary,but he didnt realize just how extraordinary ぜnice'girlcould be(p、99),とい
うNickの言葉通り,まさしく GatsbyにとってDaisyに代表される世界は,
最後まで、謎だ、ったのである.それ故,彼の想像力は現実のDaisyを上回る ものを活発に織り成していったといえるだろう.彼女の low,thrilling voice が彼の耳元で響く度に,彼女に魅了されたGatsbyは,自分の生み 出した空想の世界のパターンをより複雑に,より大きくしていったのである.
E
前章でみてきたように, NickはDaisyの魅力を感知し, Daisyを追い求 める Gatsbyの姿を鮮やかに述べていく.一部にそれは,彼がGatsbyと共 通する感情を少なからずもつからである.〈二重の視点〉として有名なFitz‑ geraldのアンピパレントなものの見方を, GatsbyとNickに分割し,客観 性を保ったNickの視点で物語を進行したことにより, Fitzgeraldは以前の 小説には欠いていた抑制と統ーを TheGreat GatslJyに与えることができた,
という指摘は数多くなされてきた.10 しかし, Nick個人にも,自分の欲望 を束縛から解放しようという気持ちがある.
I liked to walk up Fifth Avenue and pick out romantic women from the crowd and imagine that in a few minutes I was going to enter into their lives, and no one would ever know or disapprove. (p. 38) と告白する Nickにとって, Daisyの声はGatsbyに対してと同様に,魅惑 的な音声として響く.ところが, Nickにはその行動を規制しようとする,
強い interiorrules" (p. 39)が存在する.Nick は, Tomが愛人のMyrtle のためにニューヨークで借りている部屋で,そこの隣人たちを集めて関かれ たパーティーに参加する.その折りにも彼は, theinexhaustible variety of
life" (p. 24)に魅せられるのと同時に, j酉が飲まれ世俗的会話の乱れ飛ぶ雰 囲気から,即座に逃げ出したいという裏腹な気持ちを抱く.NickはGatsby と同様,中西部での単調な生活に嫌気がさし,都会へと出てきたのであるが,
彼の行動には故郷で身に付けた価値観により足初日がはめられている.
この欲望にブレーキをかける interiorrules,,は,同じ中西部出身の Gatsbyには作用しないのであろうか.前述の Absolution の主人公 Rudolphは,想像力の豊かな子供であって,自分の想像の世界の中で Blatchford Sarnemingtonなる架空の英雄的人物を創造し,その人物と自分 を同一視する密かな楽しみをもっている.Rudolphの父親は貧しいが敬漫 なカトリック教徒で,彼にも神を敬い慎ましく生きることを教えている.そ の現実の生活に常に不満をもち,華やかな世界に漠然とした憧れを抱いてい るRudolphは,ある日告解の場で嘘をいってしまう.その後z彼は自分の 犯した罪に,神が与えるであろう罰の恐ろしさにおののくのであるが,その 折りにも架空の英雄的人物を思い描くことにより,彼は恐怖から解放される.
彼にとってその人物は,そうありたいと願う自分の姿なのだ'.. Rudolphは, そこでは神の罰というのは取るに足らない抽象観念でしかなく,結局この世 には,Therewas som巴thingineffably gorgeous somewh巴 陀 thathad nothing to do with God. という確信に至る.11 Absolution がTheGreat Gatsby のプロローグなら, GatsbyはRudolphのその確信をそのまま引き継ぎ,善 悪の観念を超越して自分の夢を追い求めることのできる,便宜的状況を自ら 作り出したこととなる.事実,何度も彼に掛かる不審な長距離電話, Tom による暴露など, G且tsbyが犯罪に関わる仕事により莫大な富を得たのだと いうヒントは,物語の随所に存在する.ところが, Nickに平然と Wolf‑ sheimを紹介したり, 丘ratherconfidential sort of thing(p. 54)をやって みないかと勧めたりすることからも明らかなように, Gatsbyにそのことに 対する罪の意識はほとんどない.Daisyを再び自分のものとしようとする計 り知れない情熱に比する時,その達成の手段が違法であっても,それは彼に
の語る の語る について とっては些細なことでしかないのである.
ところが,この rnteriorrules が働いていることを差しヲ
i
いて考えたと しても, Nickの女性に対する扱いは,ひたすらDaisyを求める Gatsbyと はあまりにも対照的である.前述の雑踏の中の女性に対するロマンティック な憧れも, Nickはそれを空想の中で楽しむだけである.彼は会社の同僚の 妹と交際しでも,その同僚が仕事中に不快な視線を向けるようになったため,あっさりとその恋愛に終止符を打ってしまう.さらに,郷里で自分との結婚 の噂が広まったガールフレンドに,週に一度手紙を書くが,今では彼女の容 姿を思い出すことすらできない.物語の節々で登場するJordanに対しでも,
"a sort of tender curiosity(p. 38)を抱くが,それ以上,二人の関係を積 極的に発展さしていこうとはしない.結局, Myrtleの事故死を目前にし,
彼女が冷淡な反応を示したため, NickはJordanとも別れてしまう。このよ うにみてくると, Nickの女性に対する愛情自体にも疑問がわく.Jordanは 胸の薄いほっそりとした女性で, Nickは彼女の筋肉の動きに注目したり,
彼女に若い士宮候補生の姿を重ね合わせたりする.果たせるかな, Myrtle の部屋のパーティーの場面で,同じアパートの住人であるMcK田氏と共に 部屋を出た後の短いエピソードは, Nickのパイセクシュアルな性向を示唆 する.12 そのNickにとって,一人の女性にそれ程まで固執するGatsbyは, 現実離れのした愚かしい存在であるのだが,同時に,自分の有しない強烈な
ロマンティシズムを備えた驚異的人物とも写るのである.
Nickは恋愛に関してのみならず,その他のすべての点でも消極性を示す.
20代に別れを告げようとする彼にとって30代は, adecade of loneliness, a thinning list of single men to know, a thinning brief case of enthusiasm, thinning hair" (p. 91)を約束する.物語の最後に中西部へと帰って行く Nickだが,それは中西部が新たな可能性を彼に提供してくれるからではな い.自分の適応できなかった東部の社会に代わる,ノスタルジーに満ちた地 としての中西部へと帰って行くのである.13 彼が父の教えから得たという
「断定的評価を差し控える傾向」は,彼の慎重で思慮深い性格より,むしろ 彼の決断を下し行動していく能力の欠如を多く示すようにすら思える.
NickはGatsbyの中に自分には無い要素を見出す.Gatsbyが最初にNick に与える,莫大な金を浪費し平気で嘘をいう野卑な成り上がり者, トリマル キオとしての印象はすぐに姿を消す.鮮やかな空想の世界を生み出しそれを 彩っていく豊かな想像力,不可能にも思える目標に一意専心に挑戦していく 勇気と努力, Nickは自分の有しないGatsbyのそれらの要素を高く評価す
る.さらに彼はDaisyやTomのように,恵まれた境遇を有益に活かせない 者たちの生活を対照的に述べることにより, Gatsbyの人間としての価値を より一層際立たせていく.最終的に, NickにとってGatsbyは称賛・憧僚 の対象となる.NickはGatsbyの夢の完壁な共感者となり,客観的語り手
としての彼の立場は揺らいだものとなってしまうのである.
Nickは, lifeis much mor旦successfullylooked at from a single window, after all(p. 3),と自分の観察の妥当性を誇るのであるが,彼以外 の窓から眺めれば,また違ったGatsbyとDaisyの物語が見えてくる可能性 もあるわけである.14 Nick はDaisyの家への最初の訪問, Tomと行く ニューヨークの模様, Gatsbyの邸宅での盛大なパーティー,以上3つのシー
ンを語り終えた段階で次のように断る.
Reading over what I have written so far, I see I have given the im‑ pression that the色ventsof three nights several weeks apart were all that absorbed me. On the contrary, th巳ywere merely casual events in a crowded summer, and, until much later, they absorbed me infinitely less than my personal affairs. (p. 37)
Nick自らが告白するように,彼の与えてくれる情報は選択されたものであ り
, Gatsbyに共感するNickは,偏った立場から情報を提供することとなる.
詐欺師Wolfsheimとの関係などで, Gatsbyが犯罪に関連していたことはか
の語る の語る について
なりのイ言想性をもっ事実である.それにもかかわらず,その過程にあったで あろう Gatsbyの違法,もしくは不道徳な行為を, Nickは暗示するだけで 語らないし,あえて知ろうともしない.Nickはそれらを, whatfoul dust floated in the wake of his dreams" (p. 2)であって,その夢自体は慶にまみ れることなく,先へと進んでいると考える.Gatsbyのような境遇にあった 者が, Tomに匹敵する経済力を短期間で身に付けようとすれば,それはい たしかたのない行為であり,彼の夢は incorruptibledreams(p. 103)であっ た,と Nickは解釈するわけである.
それとは逆に,Nickの与えてくれる情報はDaisyに対しては批判的となっ ていく.一例を挙げるなら,彼女が誤ってMyrtleをひき殺してしまった夜 の描写である.GatsbyはTomの暴力から Daisyを守るために,彼女の家 の外で寝ずの番をしている.その時Nickは,テーブルを挟んでTomと向 かい合って座っているDaisyを窓越しに眺め,その印象を次のように語っ ている. Therewas .an unmistakable air of natural intimacy about the pie‑ ture, and anybody would have said that th句 W巴reconspiring together" (p. 97).この文章からは, Nickが最初に語っていた, Gatsbyにはとうてい入会 することのできない,排他的な arather distinguished secret society" (p. 12)に属するDaisyが,自らの重大な過失を回避するために, τomとなん らかの悪巧みを企てている姿が感じ取れる.NickはGatsbyとDaisyが再 会を呆たした物語半ばで 二人の関係を次のように語っている.
There must have been moments even that afternoon when Daisy tum‑ bled short of his dreams ‑ not through her own fault, but because of the colossal vitality of his illusion. It had gone beyond her, beyond everything. (p. 63)
このようにNickは, G且tsbyの夢が幻影であることも, Daisyが軽薄で不誠 実な女性であることも等しく教えてくれる.そのような鋭敏な観察を下して
いるにもかかわらず, NickはGatsbyの死後Daisyを,「品物でも人間でも すべて粉々に砕いてしまう」 TheDark D巳stroyer であったと言明してし
まうのだ.15
Daisyは今までに, shallow, foolish, unworthy, vulgar, criminallv amoral,,などの限定詞でもって批評されてきたのであるが,そ のようなDaisyの見方に対する反論も存在する.16 Sarah Fryerは, 1920 年代のアメリカの女性には経済的基盤がなく,女性の自立などまだまだ不可 能な時代であったとし,次のようにDaisyに同情を示す.
But she wasnt free. She was a young Southern belle, dependent on her good family and consequently protected and restricted by its established code of behavior.17
自由奔放に行動しているように思える彼女も,実は自分を守ってくれる者を 常に頼りとする,受動的な生き方しかできないのである.最初に愛情を寄せ たGatsbyが,彼女の求める安定を与えてくれないニとに対する不安が頂点 を極めた時,彼女は少なくとも経済的安定は確約してくれるTomの許へと 行く.Tomの不貞により裏切られたDaisyは, 5年振りに日の前に現れた Gatsbyとの関係を取り戻しそうになる. しかし, Gatsbyの富のいかがわし さに対する不安,自分の引き起こした事故の恐怖が,再度彼女をTomの保 護の許へと走らせる.本質的に,彼女は自己防衛を何よりも優先させ安定を 求める,「無力」な女性なのである.そう考えると, LelandS. Person, Jr.の, Daisy, in fact, is more victim than victimizer: she is victim first of Tom Buchanans cruel pow巴r,but then of G昌tsbyS increasingly de‑ personalized vision of her.
という,従来からいわれている GatsbyとDaisyの位置関係を逆転する意見 も,あながち否定はできない.18
の言苦る の言苦る について
Daisyが誉められた女性でないことは明白な事実であるが,彼女がGats‑ byを死へと導く危険な魅力を湛えた女性, femmefatale であったと,一 方的に非難の矛先を彼女に向けることにも問題がある.前章で述べた通り,
Gatsbyは不幸にも Daisyと偶然出会ったのではなく,彼の抱いた願望は必 然的にD呂isyと結び付くものだったわけである.海峡を挟んで対岸にある,
Daisyの家の緑の灯りを眺めた時のGatsbyの思いは, Nickにより新大陸の 叢林を目の前にして,オランダの船乗りたちが感じたであろう,美的膜想を 伴うわ
t
惚にも聡えられる.しかし,船乗りたちの歴史的偉業に結び、付いた夢 とは違い, Gatsbyの日に写る灯りは現実に基づくものではなく,彼の some heighten巴dsensitivity to the promises of life(p. 1)が生み出した,実体をもたないものだったのである.そうすると, Gatsbysc旦rcelyappr巴hended or lov巳dth号 realD呂isy. ともいえるのではなかろうか.19 また, D呂isy の愛は自己本位の要素が多分にはいったものであったにせよ, G旦tsbyその
ものを愛したという点では 彼の愛より純粋であったとさえいえるのではな いだろうか.Gatsbyの悲劇は?彼が幻影を現実の世界と混同することにより,
自ら生み出したものである.GatsbyがDaisyと再会する場面で, Gatsbyは まるで子供のような純朴さを見せ,図らずも Nicklこ, You'reacting like a little boy . (p. 58)といわしめる.彼の少年のような純朴さは同時に,
分別を兼ね備えた成人となり得ない,精神的成長の不全にも繋がっていくの である.
N
物語自体やその登場人物に対しての考え方は複数で存在し個々の読者は
,自らの視点をとり読み進んで、いくだろう.ところが, TheGreat Gatsbyでは,
語り手のNickが, Gatsbyturned out all right呂tthe end (p. 2)と最 初に断言し, G乱tsbyを本質的にイノセントな人物であり,その純真さゆえ に身を滅ぼしてしまうと結論する.そして イノセントであるということが
生み出すかもしれない悪には目を閉じてしまう.しかしながら,テキストか ら得られる意味は複数であり,それらは相互に影響を及ほしながら存在する としたならば,美しい夢を創造し,それを実現せんとひたむきに情熱を傾け たGatsbyの背後に,社会の規制を破り,現実に転化し得ない夢を終生追い 求めた,未成熟なG旦tsbyも見逃してはいけないだろう.また,そこには「不 誠実
J
で「無責任」なDaisyの陰に, Gatsbyの過大な期待に翻弄される,無力な女性としてのDaisyも描かれているわけである.それらの顕在化し 得る意味を, Nickの語る GatsbyとDaisyの物語の中に合わせて見出すこ
とも肝要なのではないだろうか.
7王
牢本稿は1989年10月21日に岡山大学にて開催された,第28回日本アメリカ文学会全国 大会における研究発表をもとに,加筆・修正したものである.
1 F. Scott Fitzgerald, The Great Gatsby (New York: Ch旦rles Scribners Sonsう 1925), p. 1. p. 39.以下TheGreat Gatsbyへの言及は,上記のテキストを使用し,引 用の後に丸括弧を添え,中にページ数を記入することとする.
2 フラッパーと呼ばれた当時の若い娘たちが,いかに従来の道徳律を無視したかは,
Only Yesterday (Frederick Lewis Allen [New York: Harper and Row, 1964])のV 章に詳しく述べられている.
3 F. Scott Fitzgerald, Thi.1 Side of Paradise (New York: Charles Scribners Sons, 1920), p. 195.
4 F. Scott Fitzgerald,Winter Dreams," The Fitzgerald Reader, ed. Arthur Mizener (New York: Charles Scribners Sons, 1963), p. 64
5 Wolfgang Iser, The Act of Reading (Baltimore: The Johns Hopkins Univ. Press, 1978), p. 137.同ページの脚注には, Iuse the word 'ideat巴 asthe nearest En‑
glish equivalent to the German z orstellen,which means to evoke the presence of s9mething which is not given.とある.
6 Cf. The Act of Reading, pp. 135‑151
7 Wolfgang Iser, The In:ψlied Reader (Baltimore: The Johns Hopkins Umv Press, 197 4), p. 282
8 Ibid
9 The Rich Boy,' The Fitzgerald Read』r,p. 239
10 Elizabeth Kasp且rAldrich, 山TheMost Poetic Topic in the World': Women in
Nickの5苦るGatsby, NickのE昔るDaisyについて 147 the Novels of F. Scott Fitzgerald, Scott Fitzgerald: The Promises of Life, ed. A Robert Lee (London: Vision Press, 1989), p. 151
11 Absolution,The Fitzgerald Reader, p. 90.
12 二人の乗ったエレベーターの中でMcK田氏は, Cometo lu日chsome day, ー一(p.25)とNickを誘い, Nickは同意する.その直後にNickは,下着姿でベッ ドのシーツの上に座っているMcKee氏の傍らに立っている.この場面がNickの 夢なのか現実なのか,また小説全体にどのような効果を与えているのかは定かでは ない.この部分の検討は,近い将来に回したいと思う.Cf. A. Robert Lee,'A Quality of Distortion': Imagining The Great GaおわtARobert Lee, pp. 51 52 13 Cf. Richard Leh且n,The Great Gatsby: The LimiおofWonde1一(Boston:Twayne
Publishers, 1990), p. 107
14 Cf. Gary ]. Scrimgeour, 'Against The Great Gaお旬'," Twentieth Century Into/勿・eta tions of The Great Gatslyラed.Ernest Lockridge (Engl日woodCliffs: Prentice H且11, 1968), p. 79
15 Leslie A. Fiedler は, Daisvのことをこの他に WhiteWitch などとも呼んで いる(LeslieA. Fiedler, Loもgand Death in the American Novel [New York: Stein and Day, 1966], p. 313).
16 Leland S. Person Jr.,'Herstory and Daisy Buchanan," American Literature 50, No. 2 (M呂y,1978), p. 250; Sarah Beebe Fryer. Fitzgeralds New Women~ Har‑ bingtrs of Changeー(AnnArbor: University Microfilms Inc., 1988), p. 43
17 Fryer, p. 50. 18 Person Jr., p. 250. 19 Ibid、p.254.