カナダ、ブリティッシュコロンビア州における就学 前ASD児の発達支援 : 日英バイリンガルASD児の発 達支援を中心に
著者名(日) 権藤 桂子, 門松 朋子
雑誌名 共立女子大学家政学部紀要
巻 59
ページ 83‑91
発行年 2013‑01
URL http://id.nii.ac.jp/1087/00002864/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
共立女子大学家政学部紀要 第59号 (2013)
カナダ、ブリティッシュコロンビア州における 就学前 ASD 児の発達支援
一日英バイリンガル
ASD
児の発達支援を中心にーE a r l y i n t e r v e n t i o n f o r c h i l d r e n w i t h ASD i n B r i t i s h C o l o m b i a
,C a n a d a : A r e p o r t f o c u s i n g o n E n g l i s h ‑ j a p a n e s e b i l i n g u a l c h i l d r e n w i t h ASD
権藤桂子$・門松朋子"
K e i k o GONDO a n d Tomoko KADO MA: τ
'Su
1 .はじめに
日本は、現在でも基本的に日本語のモノリン ガル社会を構成している。しかし、国際化が進 む現在、日本も文化や言語の多様化とは無縁で はない。保育・教育の現場においても多文化多 言語環境で生まれ育つ児童数が増加している が、その背景として、企業の海外進出の結果と して海外帰国児童が毎年約
1 0
,0 0 0
人に上るこ と、外国人労働者の増加にともなって日本語を 母語としない児童が増加していること、また国 際結婚によるパイリンガル家庭の児童が増加し ていること等の要因があると考えられる。近年、保育・教育の場では、発達障害のある 児童の支援の必要性が大きく取り上げられてい るが、国際化の影響は、発達障害の児童の数に も反映されており、多文化多言語環境で育つ発 達障害児の数は増加していると推測されるυ。 多言語多文化環境で育つ児童の発達支援に取り 組むことは、今後は避けて通ることのできない 課題の一つであるといえる幻3)九拙論では、発 達障害の中でも、中心的な障害である、自閉症 ス ペ ク ト ラ ム 障 害
(ASD: A u t i s m S p e c t r u m D i s o r d e r s .
以後ASD
とする)に焦点をあてるo念家政学部児童学科
"プリティッシュコロンピア州公認言語聴覚士
ASD
児の発症率については、これまで日本で はおおよそ1 0 0 0
人に1
人の割合と言われてき たが、2 0 0 8
年の米国の調査によれば、毎年増 加傾向にあり、全米1 4
ヵ所の調査で8
歳児の 1.1% ( 8 8
人に1
人)という結果も出されてい る九このような結果の大きなばらつきは、自 閉症診断基準が時代により変化したことや、ASD
についての一般的な認知が高まったこと による診断率の上昇などの要因も影響している と考えられるが、まだ原因は明らかではない。しかし、一定の割合で発症するということから、
パイリンカ・ル人口の増加とともにパイリンガル 環境で育つ
ASD
児も増加傾向にあると推測さ れる。パイリンガルという環境がASD
児の発 達に与える影響についての研究の促進や彼らへ の発達支援の充実の必要性が次第に高まってき ているω
にここ数年、パイリンガル環境で育 つASD
児を対象とした研究がいくつか見られ 始めているものの、まだ研究は途に就いたばかりである11)¥1)川11)則。
以上のような問題意識のもと、拙論では多文 化主義政策を打ち出し、パイリンガル教育を積 極的に推し進めているカナダの
ASD
児に対す る支援体制について調査することで、国際化がJ~立女子大学家政学部紀要 第59号 (2013)
進む日本の発達支援への示唆を得たいと考え る。特に、カナダの中でも日系人や日本人が多 く居住するプリティッシュコロンピア州(以後、
BC
州)の就学前ASD
児に対する支援体制に ついて調査すること、さらに、日英パイリンガ ル環境のASD
児が実際にどのような支援を受 けているのかについて調査を行うことで、パイ リンガル児の発達支援への知見を得ることが期 待できる。調査方法は、文献研究と現地調査である。現 地調査は、
2 0 1 2
年6
月にBC
州グレーターバ ンクーパー(パンクーパー市とその周辺の地域 を含むBC
州の中心地域)を訪問し実施した。現地では、
( 1 )
就学前ASD
児の支援に関する 資料収集、( 2 )
日系ASD
児の親グループに対 する聞き取り調査、 (3) 日英パイリンガルASD
児3
名を対象とした家庭訪問と母親面接などの調査活動を実施した。
次項では、まず
BC
州の多言語環境の現状に ついて文献研究をもとに論ずる。次に、BC
州 の就学前のASD
児を対象とした支援体制につ いて報告する。さらに、日英パイリンガルASD
児が実際にどのような支援を受けているのかについて概観したい。
2 . BC
州における多言語環境 植民地支配時代から続く長い移民の歴史をも っカナダは、その民族と文化の多様性を背景と して、1 9 7 1
年には多文化主義政策( m u l t i c u l
知子a 1 i s m )
を打ち出した。この政策の下、現在でも 毎年2 0
万人以上の移民を受けいれており、文 化や言語の多様性は更に広がる傾向をみせてい る印。英語と仏語の 2言語を公用語とし、文 化や言語の多様性を社会にとっての負の要素で はなく、むしろ図を豊かにする文化的人的資源 としてとらえ、実践面や制度面で多様性を尊重 し積極的に支援する体制づくりに力を注いでい る国であるといえよう。本研究の調査を実施したカナダ
BC
州は、カ ナダ西海岸に位置する人口約4 4 0
万人の州であり、カナダ全人口の約
1 3 %
が居住する人口第3
番目の州である。前述のとおり、カナダ全体 では、公用語として英語と仏語が使用されてい るが、2 0 0 6
年のカナダ統計局の調査によるとBC
州全体の使用言語状況は、英語のみを母語 とする人口が7 0 . 6 %
、仏語のみを母語とする人 口が1.3 %
、英語仏語以外の言語のみを母語と する人口が2 6 . 8 %
であり、仏語母語話者はあま り多くない。仏語を母語とする人口は、主にケ ベック州などの地域に多く、BC
州は英語を母語 とする人口が最も多い地域であるヘ公用語で ある英語仏語以外の言語を母語とする人(All o ‑ p h o n e
と呼ばれる)の数は、多文化主義政策施 行後、1 9 8 0
年代半ばから増加しておりへ2 0 0 6
年の調査では、上述のとおり、全人口の
1/4
以上を占めている。次に、
BC
州における日本語の状況について述 べる。BC
州の中心は、パンクーパー市を含むグ レーターバンクーパーと呼ばれる地域である。日本人のカナダ移民の歴史は古く、明治の中頃 に遡る。
1 9 0 6
年には、パンクーパー市の東側に 日本人街が発展し、現在も続くパンクーパ一日 本語学校ωという日系人の子どものための日 本語の継承諾教育の学校が設立されたほど、日 本人移民が根付いた地域である。第二次世界大 戦を経て、すでに日本人街はなくなってしまっ ているが、戦後は日本経済の復興とともに日系 人の中で再ぴ日本文化や日本語に対する関心が 高まり、今なお日本文化や言語の継承に力が注 がれている。また、このような日本語の継承諾 教育のための学校はグレーターバンクーパー地 域に他にもおか所あるとのことであるtMO近年は、カナダ人との国際結婚でカナダに永 住あるいは長期滞在する日本人も増加してい る。また、カナダは比較的ワーキングピザ取得 が容易と言われている。
2 0 0 8
年には受け入れ 人数が5 0 0 0
人から1 0 0 0 0
人に増加したワーキ ングホリデー制度m
を利用し、その後、職を 得て長期滞在する日本人も増加しているようで あるo現在は、日本経済の低迷により1 9 8 0
年‑84
カナダ、プリティッシュコロンピア州における就学前
ASD
児の発達支援代に比べ数はやや少なくなっているものの、日 本企業の短期中則駐在の日本人家族も少なくな
し
、。
2 0 0 6
年の調査では、グレーターバンクーパ ーの地域だけでも日系人の人口は3 0
,2 3 0
人で あり、カナダの中でも日系人が多い地域となっ ている刷。日系人のグループは、BC
州のエス ニックグループとしてはあまり大きいとはいえ ないが、日系移民の子孫であるいわゆるオール ドカマーの人々や近年移り住んだニューカマー の人々が形成するこのような環境がパイリンガ ル教育、継承諾教育への抵抗を感じにくくして いると言えよう。3 . BC
州の自閉症児支援ここでは、
BC
州のASD
児支援の概要を述 べる。はじめに、ASD
児への公的経済支援に ついてまとめる。次に、診断から支援体制づくりまでの一連の過程についてまとめる。
3 ‑ 1 ASD
児の支援プログラムのための公的 経済支援BC
州政府は、2 0 0 2
年からt h eM i n i s t r y o f Ch 1 i d r e n and Fam i 1 y Development
(子ども家族 省:筆者訳。以後、MCFD
とする)を通して、ASD
と診断された子どもの保護者に、子ども の療育のための公的資金による経済的支援を行 っている。このプログラムはAutismFunding Program
(自閉症支援基金プログラム:筆者訳。以後、自閉症支援基金とする)と呼ばれ、
6
歳 未満児のための支援基金と6
蹴から1 8
歳児ま での支援基金の2
種類がある。6
歳未満児に対しては、ASD
児1
人当たり1
年間に2 2
,0 0 0
ドルの補助金が支給される。この補助金は、子どもの発達支援に必要なセラ ピーなどの資金として、就学するまで継続的に 支給される。
6
歳未満児の補助金については、コミュニケーションスキル、社会情緒・而のスキ
ル、学校教育のための準備スキル
( p r e ‑ a c a d e m i c s k i l l s )
、生活スキルの4
つの領域のセラピーの 費川としてのみ使うことができると決められて いる。6
歳から1 8
成 ま で の 補 助 金 は 、 一 年 間 に6 , 0 0 0
ドルと6
歳未満児比べて額は少なくなる が、補助金の別途は、6
歳未満児より規制が少 なく適用範囲が広くなっている。そのため、 6 歳未満の時には補助金を使えなかった極類のセラピーなどの費用として使うこともできる。ま た
ASD
児1
名につき年間1 5 , 0 0 0
ドルが学校へ 補助金として納められ、学校での支援費用とし て使われるとのことである伐にこれら補助金に関する情報は、
MCFD
のA P a r e n t ' s Handbook: Your guide t o Autism Programs"
にまとめられており、オンライン でも入手することができる則。3‑2
診断から支援までASD
の診断を受けたり、あるいはその可能 性を伝えられたりした場合、多くの親は混乱や 不安を感じ、さらに詳細な助言や援助を必要と するだろう。その時、すぐに支援を提供してく れる専門家や専門機関に関する情報が得られれ ば、親の不安な気持ちは軽減され、現実的な対 処法を提案してくれる第三者に相談するという 道が閲かれよう。ASD
児の家族支援では、診 断を受けて問もない頃の支援の有無が、その後 の親の取り組みへの意欲や家族関係に影響を与 えると考えられるため、診断直後からの適切な 支援体制は特に重要だと言えよう。BC
州ではこれから診断を受けようとする不 安の強い時期の保護者までを視野に入れた支援 体制を整えようとしている。BC
州におけるASD
児の診断から支援までの過程を図1
に示した。
共立女子大学家政学部紀要 第59号 (2013)
'
¥ 4
図・
1BC
州におけるASD
児の診断から支援までの過 程まず、はじめに診断だが、自分の子どもが
ASD
ではないかと感じた保護者は、図1に示
したように、まず小児科の受診をする場合が多 い。小児科医は、子どものASDを疑った場合、
専 門 的 な 診 断 が 受 け ら れ る よ う
B r i t i s h Columbia Autism Assessment Network (BC
州自閉症診断ネットワーク:筆者訳。以後、
BCAANとする)という自閉症診断のための公
的専門機関を紹介する。ここでの診断を受ける ことでASD
の自閉症支援基金への申請が可能 となる。そこで、保護者はできる限り速やかにBCAAN
での診断を受けて今後の対策を立てた いと願うわけだが、実際には、この過程で一つ 大きな問題がある。公的機関であるBCAAN
で は無料で診断アセスメントを受けることがで き、多くの家族が受診を希望するため、子ども のASD
が疑われる場合でも、すぐには受診す ることができないという点であるo渡辺倒は、カナダの特別支援教育の現状を調査し、就学後 の
ASD
支援においても認定病院が不足し、特 別支援教育のためのアセスメントが円滑に行わ れていない現状を報告している。同様の問題が 就学前の子どもの診断においても生じていると いうことであろう。BCAAN
では、受診まで1
年ないし2
年待たなければならないという現 状があるため、すぐにでも診断を受けたいと希 望する家族は、BCAAN
以外の民間の診断機関 で3 0 0 0ドルから 5 0 0 0ドルの費用を支払って、
診断アセスメントを受ける制。民間機関での 診断の場合も、医師、心理士、言語療法士が
BCAAN
の基準による診断アセスメントを実施 することが求められ、自閉症支援基金の補助金 を支給するための診断基準が厳しく守られてい るようである。補助金の申請が通り、資金面の支援が確定す ると、図
1に示した通り、保護者は今後の子
どもの療育や教育等についての具体的かっ内容 的に豊富な情報を与えられる。これらの情報提 供は、AutismCommunity T r a i n i n g
(自閉症地 域トレーニング:筆者訳。以後、ACT
とする)という組織によって行われているo
ACT
は、ASD
児のための自助グループから出発した非 営利組織で、2 0 0 3
年にはBC
州全域のASD
児 者のための支援要請に応えるための組織として 活動を始めた。2 0 0 4
年にはMCFDから BC
州 全域のASD
児の親や専門家に対してASD
に関 する情報発信、トレーニングや支援サービスな どを提供するよう委託を受け、ホームページや 印刷物を通して積極的に親に対する情報発信を 行っている。また、ASD
児者の親、専門家や 支援者のためのワークショップや研修の機会なども提供している
z
九ACT
が保護者に提供する資料の一つで、子 どもがASD
の診断を受けて閲もない時期に役 に立つ情報として、AManual f o r P a r e n t s &
Community P r o f e s s i o n a l s "
(親と地域の専門家 のためのマニュアル:筆者訳)却がある。この マニュアルは、全部で1 1
章からなり、第1
章のC h a p t e r 1 : Th e D i a g n o s t i c P r o c e s s i n B r i t i s h Colombia" (BC
における診断過程:筆者訳)から、将来の学校、職業に関する事項が書かれて いる各章に続き、最後の第
1 1
章のChapter
1 1 : E s t a t e Planning f o r Fam i 1 i es Who Have
C h i l d r e n w i t h S p e c i a l Needs i n B . C . " (BC
州に おける特別なニーズのある子どもを持つ家族の ための資産計画:筆者訳)までを含む資科であ るo保護者がこのマニュアルを読むことで、子 どもが診断を受けてから社会人となるまでのラカナダ、プリティッシュコロンピア州における就学前
ASD
児の発述支援イフコースの各段階で直面する課題や課題への 取り組み方について知ることができ、子どもの これからの成長について見通しを持てるように なるための資料として有効である。
もう一つ、診断直後に家族に手渡される資料 として、上述のマニュアルの他に
R e g i s t r yo f Autism S e r v i c e P r o v i d e r s (自閉症支援登録者一
覧:筆者訳。以後、RASPとする)がある。
RASP
は、自閉症支援基金の認定を受けた言語 療法士、理学療法士、作業療法士、Behavior C o n s u l t a n t (以後、コンサルタントとする)と
いった専門家の名前と連絡先が一覧となったフ ァイルである。この中から保護者が子どもにと って必要と考える支援サービスを探し、個人的 にセラピストあるいはコンサルタントとして契 約することができる。補助金適用対象のセラピ ストまたはコンサルタントとしてRASP
に登録 されるためには、BC
州が決めた一定の条件を 満たし則、審査に通る必要がある。審査は 1年 に一度行われるため、RASP
のセラピスト名簿 は毎年更新されることになっている。BC
州のASD
児支援の特徴として、MCFD
の規定により、応用行動分析( A p p l i e dB e h a v i o r
Ana l y s i s : ABA)
に基づいた早期集中行動療法( E a r l y I n t e n s i v e B e h a v i o r a l I n t e r v e n ‑ t i o n : EIB
I) が、ASD
児支援の中心に位置付けられている ということが挙げられよう。早期集中行動療法 がASD
児支援の中心的役割jを果たすようにな った背妓については藤坂24)に詳しいが、BC
州 でもカナダの他のほとんどの州と同様、1 9 9 0
年代から頻繁に起こってきたセラピー費用の公 的負担をめぐる裁判の結果、早期集中行動療法 がASD
児に効果のあるセラピーとして認めら れ、公的負担の対象となったという経緯がある。そのため、
ASD
児のセラビープログラム全体 を統括するのは早期集中行動療法のBehavior C o n s u l t a n t
(コンサルタント)である。保護者は、まず
RASP
に掲載されているコンサルタントの 中から、面接などを通して自分の子どもや家庭 に相応しいと考える 1人を選択しなければならない(図
1
iコンサルタントの選択J )
。 コンサルタントが決まると、次の「支援方針 の決定とセラピストの選択J
の過程に移る。前 述のとおり自閉症支援基金の補助金は、RASP
に掲載されている専門家、あるいはコンサルタ ントが推薦する早期集中行動療法セラピスト
( B e h a v i o r I n t e r v e n t i o n i s t s : B
I)に適用されてい るため、それ以外のセラピーを希望する場合に は、自費によることになる。セラピストに支払 う費用は、セラピーの種煩やセラピストの経験 年数などにより異なる。聞き取り調査によると、言語療法士、作業療法士、理学療法士などのセ ラピーは
1I
時間およそ80ドルから 1 2 0ドルの
費用がかかる。早期集中行動療法の場合は、 1 時間1 0ドルから 35ドル、コンサルタントは 1
か月で1 0 0 0ドル程度の費用がかかるというこ
とであった。保護者は補助金の年間予算を考慮 にいれながら、コンサルタントとの相談の上、
子どもに必要なセラピーの種類、時間数、費用 対効果を考慮して子どもがどのような支援を受 けるかを決定しなければならない川。
コンサルタントは、子どもの補助金が下りた 時点から
4か月以内に、 ABA
に基づくBeha‑
v i o r P l a n o f I n t e r v e n t i o n (支援行動計画:筆者
訳。BP
I)を作成し、保護者とMCFD
に提出 しなければならない。この計両者の作成にも保 護者は積極的に参加し、セラピーの目的や方法 などについても意見を述べたり意思決定したり することを求められる。支援プログラムが決定されると、実際の支援 を開始する。聞き取り調査からわかった具体的 な支援プログラムの内容について例をあげる と、
1
人のASD
児のプログラムは、1固に 2 . 5
時間の早期集中行動療法を週4
日と1
回1.5
時間の言語療法を週 3回受けていた。また、もう
1
人の例では、1
岡2
時間の早期集中行 動療法を週5
日と言語療法1
時間を週1
日受 けているといった内容であった"にこのように、
BC
州のASD
児支援の特徴と しては、行政からの公的支援を受けるといってJ t
立女子大学家政学部紀要 第5 9
号( 2 0 1 3 )
も、どの ASD児も行政が用意した一律の療育プログラムに通うという考え方ではなく、 ASD 児それぞれ個別の支援プログラムを受ける事が
分もあるという
n
。.)r4. 日英バイリンガル ASD児への発達支援 可能であるということであろう。 多言語環境で育っている子どもが ASDと診
上記の例のように、 1人の子どもが複数の種 断された場合、医療関係者や教育関係者の中に 類のセラピーを受けることが多いため、定期的. は、多言語環境で育てることは ASD児にとっ にセラピスト全員が子どもの自宅に集まってカ ては認知的な負担となり言語発達に負の影響が ンファレンスを行う。その際には、コンサルタ
ントがカンファレンスを招集し調整役を担って いる。カンファレンスには保護者も参加し、積 極的に自分の子どもの支援プログラムについて の意見や希望についての発言を求められるo カ
ンファレンスの結果、支援方針とセラピストの 選択が見直されるという過程が就学まで続けら れる。
この支援プログラムのもう一つの特筆すべき 特徴としてすべてのセラピーやカンファレンス が、当該児の自宅で実施されることであろう。
日本では支援金が公的機関に支給され、障害の ある子どもが療育やセラピーを受けに支援機関 に赴くという方法が一般的である。これに対し て、
BC
州では、当該児にとって最もストレス の小さい家庭でセラピーを受けることができ る。いわゆるHom e ‑ B a s e dp r o g r a m
を実施して いる。また、子どもが診断を受けた直後から、保護 者は ASD児支援の全過程において支援プログ ラムへの積極的な関与と自己決定を迫られると いう点も特徴的である。
BC
州以外にも自閉症 支援プログラムを実施している州がいくつかあ るものの、おそらく他に比べて、BC
州は子ど もの支援プログラムについて、最も保護者に責 任をもって行動することを要求する州である制。支援制度が整いセラピーの可能性が広がる一 方、保護者は、一つ一つの事項を専門家と話し 合いながら吟味し、決定しなければいけないと いうこと均九時にはストレスになることもある。
特に、教育や福祉サービスの場での自己決定と いうことに慣れていない日系のニューカマーの 人々の場合には、保護者の心理的負担となる部
あるという理由で、一つの言語で育てるように という助言をすることが多い制。このような傾 向はパンクーパーのような多文化多言語環境の 社会においても例外ではなく、聞き取り調査に 協力した家族のうち 1家族は、やはり ASDの 診断を受けた後、 1言語で育てるようにと言う 助言を医者から受けたと述べているimo
しかし、夫婦やきょうだい閲で多言語が使用 されている家庭環境において、
1
言語に限定す るという方法は現実的ではない上に、家族成員 の誰かが母語ではない言語を使用する事が求め られ、家族内の人間関係にも負の影響を及ぼし かねない。特に、それが母親であった場合には、子どもとのコミュニケーションに情緒性や適切 性が欠けてしまう可能性があり、かえって子ど もの言語発達にとって良くない影響を招く恐れ がある
mo
また、どのような環境要因や個人要因がパイ リンガル ASD児の 2言語発達を支えるのか、
あるいは、阻害する可能性があるのかについて、
今後、実証的研究を重ねる必要はあるものの、
現時点では、 ASD児であるという理由だけで 1言語に限定したほうがよいという根拠は得ら れていなしE。むしろ、パイリンガル環境で育っ ている
ASD
児、特に商機能のASD
の子どもは、2
言語の語恭については定型発達児と差はない という研究結果が、過去数年の閥にいくつか見 られるようになっているお)。パンクーパーの日英パイリンガル児は日本人 の妻とカナダ人の夫という国際結婚の組み合わ せが多く、母親の母語が日本語の場合が多い。
聞き取り調査でも、保護者はできれば子どもに 英語だけでなく日本語も習得してほしいと願っ
カナダ、プリティッシュコロンピア州における就学前
ASD
児の発述支援ており、パイリンガル環境を作るための努力を しているという結果であった。子育ての中心的 役割を担う母親が、子どもとコミュニケーショ
ンをする際、母語でかかわりたい、あるいは子 どもにも日本人の祖父母や親戚とコミュニケー ションできるようになってほしいと希望するの は自然な気持ちであろう。前述したとおり、日 本語の継承語教育に対して前向きな地域でもあ り、筆者も聞き取り調査を進める中で、 ASD 児に英語と日本語の雨言語でのセラピーや教育 を受けさせることに対して保護者の中に抵抗感 が少ないことに篤いたほどであるoパイリンガ ル環境が言語発述に負の影響を与えるのではな いかといった心配をする保護者は少なく、むし ろ積極的にパイリンガルに育てようとする姿勢 がみられた持制。
それでは、パンクーパーの日英パイリンガル 家庭に生まれ育ったASD児やその保護者はど のような支援を受けているのだろうか。地本的 には、 BC州ではパイリンガルASD児の家庭 に向けての特別な支援があるわけではなく、一 般のASD児と同じ公的支援を受けている。
まず、診断の過程では特に日本語での而接や 日本語の発達検査等はなく、一般的なカナダ人 と同様のアセスメントを受けることになる。し たがって、言語発述検査の結果や言語課題を合 む知能検査は英訴で実施されるため、マイノリ ティー言語である日本語でのアセスメントを受 けられるわけではない。
次の情報提供の段階においても、特に日本語 の支援はなく英語のみの情報である。エスニッ
クグループの中で最も人口の多いのは中国系の 人々であり、続いてタガログ語のフィリピン人 グループである。これら、人口の多いエスニッ クグループに対しては、
MCFD
の資料が中位l
語やタガログ諸に翻訳され提供されるといった 配 慮 は な さ れ て い る が 、 日 本 語 に 関 し て は
3 0 . 0 0 0
人以上の人口があるとはいえ、他のエス ニックグループに比べて少ない上に、困際結婚 が多く英語が使える人が多いためか、特別な配慮はなされていない。
コンサルタントやセラピストの選択の過程で は、日本語のサービスを受けられる可能性がや や広がる。パンクーパーには、現在、 RASPに 登録された日本語話者の言語療法士が2人お
り、日本語でセラピーを提供している。日本語 でセラピーを受けさせたいという希望のある保 護者は、日本語話者の言語療法士か、早期集中 行動療法ができる日本語論者を選択する事が可 能である。その他、公的経済支援の対象ではな いが、 BC州公認の言語療法士などを、主に日 系コミュニティーの情報網を利用して探し依頼 する場合もある。聞き取り調査に協力した 3 家族はすべて、日本語i活者のセラピストと英語 話者のセラピスト両方から支援を受けていた。
多文化多言語社会である BC州でも、公用語 は英語と仏語であるため、日本語までを網羅し た支援は行っていないのが現状であったが、日 本語話者のセラピストがいる場合には、日本語 によるセラピーを受けることに対する制限はな い。したがって、基本的に日本語で支援を受け たいという家族の希望と、そのニーズに応えら れる日本語話者のセラピストがいるかどうかと いった状況によって、 ASD児が日本語と英語 のパイリンガルでの支援を受けられるかどうか が決まっている。
日英のパイリンガルに育てたいという希望を 持つ家族は、日本語話者によるセラピー以外に も、日本人の子どものプレイグループを組織し たり、 ASD児についての日本人の勉強会を定 期的に開催したりといった努力を重ねている。
また、前述した日本語の継承語教育のための日 本語学校とは別に、この地域には
1 0
か所以上 あるという放課後の日本語塾などを利用する子 どもがいることも聞き取り調査からわかった。パンクーパーに住む日英パイリンガルASD 児の保護者は、州政府からの補助や支援を基本 に、主体的にあらゆる日本語教育資源を活用し 子どものASD支援だけでなくパイリンガル教 育にも力を注いでいるという現状が明らかにな
共立女子大学家政学部紀要 第59号 (2013)
った。
5 .
まとめ多文化多言語政策を打ち出している
BC
州に おける就学前のASD
児の発達支援の現状、特 に、パイリンガルASD
児の発達支援に焦点を あ て て 、 文 献 研 究 お よ び 日 英 パ イ リ ン ガ ルASD
児の家族を対象とした現地調査を行った。BC
州における就学前ASD
児の発達支援の特 筆すべき点として、( 1 )
就学前のASD
児が家 庭での個別療法を受けるための公的経済支援体 制が整っていること、( 2 )ASD
児の発達支援 では保護者が主体的な役割を果たしているこ と、 (3) 多文化多言語政策により社会全体にパ イリンガル教育への抵抗感がなく、ASD
など 発達障害の有無によって使用言語を制限するこ とが少ないため、ASD
児に対しても保護者は 積極的にパイリンガルの支援、教育を求めていることなど治f明らかとなった。
謝 辞
本研究のために、カナダ
BC
州のASD
児の ご家族の皆様にご助言、ご協力をいただきまし た。こころより感謝申し上げます。また、本研究は科学研究費基盤研究 (B)i多 言語多文化児童の認知特性に関する基礎研究一 個性を生かす教育を目指して
J
(研究代表者:松井智子、課題番号
2 4 4 0 2 0 4 3 )
の助成を受けた。参考・引用文献
1 )権藤桂子:多文化共生社会における発途 支援、日本発途心理学会第
1 5
聞大会発 表論文集、3 2 2 . ( 2 0 0 4 )
2
)中島和子:iマルチリンガル教育への招 待‑言語資源としての外国人・日本人年 少者‑ J
、ひつじ書房、2 0 1 0
3 )角山富雄、上野直子:iパイリンガルと 言語障害
J
、日本聴能言語士協会、2 0 0 3 4
)権藤桂子:多文化共生社会における保育者の役割、春原由紀(編著)i精神保健
J
樹村房、
2 0 0 5
,3 7
‑43 .
5) Bai
'O,J . E d s . : Prevalence
'Of Autism Spectrum Dis
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,P .
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,S .
,Hambly
,C .
,Fombonne
,E .
,Szatmari
,P .
,Bryson
,S .
,Roberts
,W.
,Smith
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,T .
,Volden
,].,Waddell
,C.
,Zwaigenbaum
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,S .
,Duku
,E .
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,R e s e a r c h i n A u t i s m S p e c t r u m D i s o r d e r s , 6
,2
,8 9
0‑8 9 7 . ( 2 0 1 2 ) .
1 3 )
外務省h t t p : / / w w w . m o f a . g o . j p / m o f a j / p r e s s / p r / w a k a r u / t o p i c s / v o I 3 8 / i n d e x . h
佃1 1
1 4 ) S t a t i s t i c s C a n a d a : h t t p : / / w w w I 2 . s t a t c a n . g c . c a / c e n s u s ‑ r e c e n s e m e n t / 2 0 1 1 / ( 2 0 1 1 ) 1 5 ) S t a t i s t i c s C a n a d a : h t t p : / / w w w I 2 . s t a t c a n .
g c . c a / c e n s u s ‑ r e c e n s e m e n t / 2 0 0 6 / ( 2 0 0 6 ) 1 6 )
パ ン ク ー パ 一 日 本 語 学 校 / 日 系 会 館h
仕p : // w w w . v j l s ‑ j h . c o m / e n / ( 2 0 1 2 ) 1 7 )
前掲1 3 )
1 8 )
前掲1 4 )
1 9 ) A Paren
t' sHandbook : Your guide t o A u t i s m P r o g r a m s :
h t t p : / / w w w . m c f . g o v . b c . c a / a u t i s m / p d f / a u t i s m
一,handbook̲ w e b . p d f ( 2 0 1 2 ) 2 0 )
渡辺かなえ:カナダの自閉症児への特別支援教育事情と検討課題、信州大学教育 学 部 附 属 教 育 実 践 総 合 セ ン タ ー 紀 要 : 教育実践研究
9
、1 6 5 ‑ 1 7 2
、( 2 0 0 8 ) .
2 1 ) Autism Community T r a i n i n g : h t t p : / / w w w . a c t c o m m u n i t y . n e t / ( 2 0 1 2 )
2 2 ) Puh , D . : L i v i n g
&Working w i t h C h i l d r e n with Autism Spectrum Disorder i n B r i t i s h Columbia
,Autism Community T r a i n i n g
,α 0 0 9 )
2 3 ) B r i t i s h Colombia
,M i n i s t r y o f C h i l d and F a m i l y Developmen t :
h t t p : / / w w w . m c f . g o v . b c . c a / a u t i s m / p d
f/c f ̲ 0 9 0
1.p d f
2 4 )
藤坂龍司:自閉症児の早期集中療育と平 等保護‑カナダ・プリティッシュコロン ピア州の違憲判決をめぐって‑、神戸文 化短期大学研究紀要、2 8 , 1 1 1 ‑ 1 3 1
、( 2 0 0 4 ) 2 5 ) Autism Community T r a i n i n g : C h a p t e r 5
MCFD‑funded S e r v i c e s f o r C h i l d r e n
withASD
,( 2 0 1 2 )
2 6 )
前掲7 ) 2 7 )
前掲7)
2 8 )
前掲8) 9) 1 0 ) 1 1 ) 1 2 )
注住
1
) パ ン ク ー パ 一 日 本 語 学 校 関 係 者 に よ る。注
2)
日系ASD
児の親グループでの聞き取 り調査による。注 3) 母親面接による。
注
4)
母親而接による。注
5
)母親面接による。注 6) 母親面接による。
注
7)
母親而援による。住